Fate/EXTRA SSF   作:にんにく大明神

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第五話 『はじめての決戦準備』

 

 

 はてさて、不本意そうではあったが遠坂嬢のおかげで目的は定まったわけだ。

 出来るだけアリーナで鍛錬をして、図書館で情報を調べる。

 うん、何ともすっきりしていて結構ではないか。

 記憶が戻らないので確かなことは分からないが、周りの人たちの反応を見るに自分はどうやらあまりおつむがよろしくないらしい。けれどもそんな岸波白野が今やるべきこと、なんとたった二つだ。さすがにここまで整理されてしまえば文句なしに実行できる気がする。

 ここに来てようやく死んだショックから立ち直ることが出来た。

 何、確かに自分は死んだかもしれないが、今はこうして呼吸をしている。それだけで十分ではないか。

 うん。自信も出てきた。他に生き返った人がいるのか定かではないが、自分はなかなか立ち直るのが早いんじゃなかろうか。まったく藤村様様という奴である。

 

 ――それじゃあ俺は二階の図書室に行ってきますけど、先生はどうしますか?

 

「んー、図書室はあんまり好きじゃないのよねー。……でも岸波君ほっとくと危なそうだし、ついて行くわ」

 

 正直それはこちらのセリフではあるのだが、まあ言っても詮無きことだろう。

 無機質な青空から目を切り、先生と連れだって屋上を後にする。まずは情報収集だ。

 

 

 

 

 

 

 

 特に迷子になるということも無く、自分達は二階の図書室を発見した。途中自分達を見たNPCがわらわらと逃げ出すのを見て多少げんなりしたが、それを除けば順調な滑り出しだ。………というか屋上から二階に移動しただけで順調とか無いわ、ブハハ。

 

「何をブツブツ言ってるの岸波君。ちょっと気持ち悪いわよ」

 

 ――なんだと!?

 

 と、図書室の扉を開こうとしたところで隣から幻滅したような言葉が溜め息と共に吐き出されたのを耳にした。ばっとそちらに顔を向けると、先程別れたばかりの遠坂凛がそこにいた。

 

「ハロー岸波君。早速助言を実行してみてくれてるみたいで嬉しいんだけど――」

 

 何となく言葉尻を濁す遠坂凛。少々気まずそうに見える。

 ちなみに先生は逃げ出すNPC達を見て、『こらー、なんだその反応はー』とか言いながら彼らを追いかけ始めたためここにはいない。

 

「たぶん敵の情報、図書館(そこ)にないわ」

 

 ――……なんで遠坂がそんなことを?

 

「……うぅ、実はさっきそこでアナタの対戦者、慎二と会ったんだけど。あああの、わざとじゃないんだけど……」

 

 もじもじと指先を合わせて目を泳がせる遠坂凛。なんだ、どうした、可愛いぞ。

 

「そこで向こうから絡まれたから、ちょろーっとからかってやったんだけどね」

 

 ――ふむふむ。

 

「あ、アイツがいけないのよ!? 聞いてもいないのにベラベラ情報を漏らして……、うっかり私も真名が分かっちゃったからそれを言ったら――」

 

 顔を赤くして叫んだかと思えば声のトーンを落として目を伏せたり、まったく見ていて飽きない女の子である。

 

「さすがに慎二もまずいと思ったらしいわ。図書室に入ったかと思えば何冊か本を持ってアリーナの方に行っちゃったの」

 

 ――つまり迷宮に情報を隠された、ということか。

 

 そうなの、と目を伏せて申し訳なさそうにする遠坂凛。後から思えばこの子がこんな顔をするのはなかなかに珍しいことであったが、その時の自分といえば、なるほどそういう手もあるのか、とむしろ慎二の方に感心してしまっていた。

 ふと、一つ疑問が浮かんできて遠坂凛に尋ねる。

 

 ――その情報は捨てられたりするのか?

 

 遠坂凛はこちらの質問に顔をあげ、

 

「いいえ。ムーンセルの記録を消去する、ということは不可能よ。高次の生命体なら――まあそんなものがいるとしたらだけど、出来るかも。でも、少なくとも聖杯戦争(ムーンセル)の参加者(ゲスト)である私達には、うん。そんなことは不可能ね」

 

 否定した。

 なんだ、それなら全然大丈夫ではないか。

 つまりは慎二は知られたらまずいモノだけわざわざ隔離してくれて、

 

 ――その隠された情報は自分達にも入手できるんだろう?

 

「おそらくね……。アリーナは共通だし、迷宮の構造の書き換えなんてアイツにはまず無理。携帯してたら自分の処理速度が重くなるし……、うん。まず間違いなくどこかに隠してるだけ。隠ぺい工作はされてるかもだケド……」

 

 最後に小さく付け足して遠坂凛は言葉を切った。

 なるほど、何となく分かってきた気がする。

 この戦いは良くも悪くも平等だ。与えられた条件に我々は究極的には干渉できず、聖杯戦争の基本ルールだけは誰もが遵守させられる。知識量、技量など、個人が変革できる要素は最大限保障されており、それらを踏まえた上での強さを自分達は求められているのだ。

 独りでうんうんと頷いていると、前の少女が難しい顔をしていることに気が付いた。

 

「あの…………はぁ、うん。そうね、いつまでもこうしてもいられないし――」

 

 何やらモゴモゴと呟き始めた遠坂凛。一つの境地に至って満足感を得ていた自分は、特に何を言うでもなくその様子を眺める。

 しばらくして遠坂凛は先程までの煮え切らない様子をバッサリと切り捨ててこちらに向き直ってきた。

 

「岸波君、ごめんなさい」

 

 ――…………はい?

 

「うん、どちらにせよ私がアナタの不利に働いてしまったのは確かだものね。もう一度言うわ、ごめんなさい」

 

 ――いや、あの……

 

「……私こういう関係ってすっきりさせておかないと気が済まないのよ。そう、だから今後一度だけ、損得抜きでアナタの手助けをしてあげる」

 

 ――えー、と。そんなの別にいいんだけ……あ、いやなんでもないです。お願いします。

 

 うわーやったーうれしーなー。

 自分から申し出てきたのに、拒否しようとしたら睨みつけるとは何事か。

 おっかなびっくり全身で喜びを表してみると、遠坂凛は鼻を鳴らして廊下の向こうに去って行った。

 

 あー怖かった。自分が許してもらう立場のような錯覚をしてしまったぞ今。

 

 

 さて、気を取り直して。

 先生を連れてアリーナに行こう。鍛錬と情報収集一遍に出来るなんて、一石二鳥ではないか。二兎を追うモノうんたらかんたらということわざはこの際考えなくていいだろう。……わりとありえそうで恐ろしいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

▼

 

 

 

 

 

 

 

 二の月想海。

 ここに来るのは何時ぶりだろう。

 決闘場は別として、確か四日目の昼だっただろうか。周囲に広がる景色にひとしきりはしゃいで、虎の天才的嗅覚で以て三分でトリガー発見アンド帰投をしたような記憶がある。

 まったく、いろいろなことを知った今となって思い返すと、自分達はなかなかのダメなコンビだったのではなかろうか。……うん、遠坂凛に聞かれたら卒倒しそうだ。

 改めて周囲の風景を見渡す。

 簡単に言えば、ここは海底だ。

 無機質に半透明な通路の向こうに広がる濃紺は深海のそれ。はるか上空、いや上方では海面から光が薄らいながらも降り注いできている。その幻想的な揺らめきに照らし出されているのは色とりどりの海草、岩礁、そして沈没船。その間にはこれまた鮮やかな熱帯魚が気まぐれに泳ぎ回っている。

 なんというか、こう海賊と聞くとカリブとか思ってしまうあたり、元の自分はなかなか世俗的な人間だったのかもしれない。いや、残念なことにそれを確かめることは出来ないのだが。

 そして。

 遥か下方の砂海。見覚えのありすぎる岩に冷や汗を流す。

 ああ、あそこは自分が命を散らした決闘場(コロシアム)だ。あと数日したら自分はまたあそこに赴かなければならない。あの死と背中合わせ、それどころか一緒にフォークダンスでも踊っているような超危険デンジャーゾーンに。

 考えただけで胃がひっくり返りそうな嘔吐感が湧いてくる。目の前の岩が炸裂して、飛び散る破片に吹き飛ばされたときの光景。視線しか動かせなくなった自分が徐々に体温を失っていく感覚がフラッシュバックする。

 …………。

 いや、この悩みは不要のものだ。

 ここで足を止めることは、すなわち再びその感覚を味わうことにつながるのだから。

 死にたくない、それが記憶の無い今の自分のただ一つの行動原理である。

 

 

 アリーナに入って数歩。臭うぞ、とか言い出した先生は別として、自分でも気が付いた。

 ――――いる。

 慎二が、とかそういうことではない。サーヴァントの圧迫感。

 自分の従者からは何故か毛ほども感じ取れないソレに、反射的に膝から力が抜ける。

 …………おかしいな。もう気にするのは止めようと決めたのに。そうしなければまた命を落とすと分かっているのに。どうしてこの足は動くのを拒否しようとしているのだ。

 いや、動こうとはしているんだ。動こうとはしている!!

 なのに動かない。

 笑ってしまうくらいふざけた話だ。何も記憶に無い自分が生き残るために定めなければならなかった目標。いや、生存だけ、それそのものが目標であると分かっているのに、この気配に膝が笑ってしまって最低限の前進すらままならないなんて。

 数瞬前までの決意は嘘のように消え去ろうとしている。

 ……別に良いではないか。このまま部屋に帰って安穏と日々を過ごせば。たとえ七日目に終わりを迎えたとしても、先生の宝具がある。いつまでもこの七日間を繰り返せば――。

 そんな声が脳裏で囁く。

 ただ、それだけは受け入れられないと体が拒否をする。岸波白野という人間は、何があっても道を進まなければならない。放棄してはならないと。

 まったく。だったら動いてくれよという話なのだが、どうやらそれでも怖いものは怖いという主張が聞こえてくる気がした。

 そう、自分には決定的に勇気というモノが足りない。この押しつぶされそうになる気配を振り払う、踏み出すための勇気が足り――

 

「こら、いつまでもぼんやりと突っ立ってんの岸波君。うだうだしてたら置いて行くわよ!!」

 

 後ろからバシっと背中を叩かれた。

 そのあまりの勢いに思わずよろよろと歩きだす。

 なんだ、動くではないか。

 

「ホラ、ちょっと! 聞いてるの!?

 先生お腹空いちゃったから、さっさと用事を済ませて帰りましょう」

 

 感慨にふけろうというところでもう一発背中に衝撃が奔る。

 今度も足は前へと進んだ。

 

 ――今日は、……早く帰れませんよ。言われたでしょう? 鍛錬して、情報も集めないといけない。

 

「分かってるわ岸波君! バッチしよ! 全部まとめて三十分以内に終わらせて見せようではないか、グハハハ」

 

 ――無理ですね。五時間くらいは鍛錬しようかと思ってるんで。

 

「ホワット!?」

 

 ――こちとら命かかってるんで、そこらへんは妥協しない方向で行こうかと。

 

「バカな…………。あの温厚そうだった岸波社長が一夜にしてブラック企業の首領(ドン)に――」

 

 ――基本給って自給100円でしたっけ?

 

「世紀末!!?」

 

 

 声は震えていたかもしれない。

 だけど先生は何も言わずにこのコントのようなやり取りに付き合ってくれた。気付けば足の震えは収まり、周囲の光景も目に入るようになってきている。

 敵サーヴァントのプレッシャーは未だ顕在。だがそれに気後れすることはもう無い。

 騒ぐ先生をあしらいつつ、自分はようやく二度目のアリーナ探索に乗り出すことが出来た。

 

 

 

 先生は危なげなくエネミーを葬って行った。

 この人は本当に意外と頼りになる。意外と。だけどそれで気を緩めるということは出来ない。

 弟子一号ちゃんにも言われたが、この人は信頼してはいけない。自分も微妙に戦い慣れしてきたせいか、少しは戦局や動きが見えるようになってきたのだが、どうやら自分は予想以上に危ない橋を渡っているらしい。

 確かに先生は傷を負うような危険を感じさせない、圧倒的な戦いを繰り広げてはいるのだ。だがその回避行動や突貫攻撃には、背後に守るべき――そう思っているかは甚だ疑問だが――主(マスター)がいることをまるで考慮している気配がない。つまるところ、結局自分の身は自分で守らないといけないのだ。

 勘弁してくれ。

 

 さて、記憶にあるトリガーの場所まで迷わずやってきたのだが、そこには先客がいた。言うまでも無く慎二とライダーのコンビである。

 

「ひぇっ、岸波!?」

 

 ――やぁ、慎二。

 

「ようワカメ! オラてめぇをぶっ飛ばしたくてうずうずしてたゾ!」

 

 例のごとく怯える慎二に挨拶をする。ついでに脇にいるライダーにも。

 彼らがこの場所にいることは、歩を進めるごとに濃くなるサーヴァントの気配で分かっていた。さっきまですくみ上っていた恐怖の源に自分から近づこうとしたのには理由がある。

 

「おいライダー! なんでコイツが近づいて来るのを僕に言わなかったんだ!」

 

「そいつは無理な話だよシンジ。あの坊やのサーヴァントはサーヴァントとしての気配が弱すぎる」

 

「はぁ? サーヴァントなんてどこに……、てかなんで藤村いんの?」

 

 ――ああ、それいいから。もう前のターンでやったから。

 

「ひっ、ご、ごめんなさい」

 

 うんざりした声色で返すと、慌てて謝罪の言葉を口にする慎二。

 そう、これが良く分からない。

 記憶にある慎二はいつも尊大で、間違っても自分のような凡夫にそんな言葉を言うようなことは無かった。それなのにこの態度。

 思えば、前回もいきなり怯えられ始めた。特に慎二を脅かすようなことをしていないし、本当に分からない。この慎二の態度の理由の解明のため、自分は慎二を目標に歩いて来たのだ。

 

 先程の遠坂凛の話を鑑みるに、この間桐慎二という男は自分のことを話さなければ気が済まないらしい。よくよく思い出してみれば、予選での学校生活においても、その自己顕示欲の塊のような在り方の片りんに自分は触れられていた。

 つまり、彼との接触は多ければ多いほど情報は手に入ったのだ。情報のことなど毛ほども考えていなかった以前の自分でも。その情報さえあれば結果はもう少し違っていたかもしれないし、もしかしたらそれをそのまま敗因としてあてはめられるかもしれない。

 その考えに至った自分は、機会があれば今の関係を修復しようと思ったのだ。

 既に重要な情報は出そろっているが、情報は多いに越したことは無い。ついでに隠そうとしている敵サーヴァントの情報も奪ってしまえばいい。

 

 ――慎二。

 

「な、何だよ。話すことなんてあるのかよ……、も、もしかして僕が隠そうとしている情報を――」

 

「………はぁ、シンジ。アンタってやつは……」

 

「えーー? ワカメ情報隠そうとしてたの!?」

 

「……あ、クソ! 図ったな!?」

 

 この子は頭が弱いんだろうか?

 

「でも遅かったな! もうあらかた隠し終わったよ! お前らじゃ到底見つけられそうにもないところにな!!」

 

 頭を押さえるライダーに同情する。そして同時に自分の考えが間違ってなかったことを確認した。

 コイツとはいつでも話せる状況にしておくべきだ。

 

 ――なあ、慎二。

 

「なんだよ!」

 

 ――なんで逃げ回るんだ?

 

「は、はぁ? 別に逃げ回ってないだろ。なあ、ライダー?」

 

「逃げ回ってるが、それがどうしたのかい?」

 

「おい!」

 

 つくづく仲が良いんだか悪いんだか分からない主従である。

 だが彼らの漫才に付き合っていてはいつまでも状況は進展しない。ある程度は妥協が必要なんだろう。

 

 ――別に理由は言わなくていいから、自分とは今までどおり接してくれないだろうか?

 

「何? よ、よく言うよ! あんな事してたくせに!」

 

 ――あんな事?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――interlude――

 

 

 自分の輝かしい未来、栄光と称賛を勝ち取る妄想に酔いしれていた間桐慎二。彼はその時、とんでもない光景を見たのだった。

 

 彼は物心ついたころから自身の持つ非凡な才に気が付いていた。特に努力をせずに勝ち得たその能力に、しかし彼は疑問を持つことは無かった。いや、その必要が無かったのだ。

 その力は大人も認めるところであり、周囲から持て囃されることも多かった彼は、自然と周りを見下すようになっていった。

 通常の家庭ならば躾の一環として矯正されるであろうその性格も、彼の特殊な家庭環境ではむしろ歪に育ちあがってしまった。しかし彼本人はそのことに気付く由も無い。

 結果として、自らが基本的に肯定される小さな世界で彼に備わった常識は、一般社会からは外れたものになった。即ち、間桐慎二が行うことは正しいのであって、異を唱える阿呆はすべからく間違いなのである。

 そして、世間一般は無条件に彼を認め、愛しているべきなのである、と。

 当然、周囲に妄想癖があるんじゃないかと疑われていたことは知らなかった。

 

 しかし、予想外のことが起きる。

 それは彼が参加した戦い、聖杯戦争の第一回戦。猶予期間の二日目に起こった。

 

 予選では友人だった者と戦わねばならない運命。

 まるで悲劇の主人公ではないか、と自らに酔っていた彼は、現実を見てしまった。

 朝食を摂ろうと一階の廊下から地下の食堂に向かおうとしていた時である。

 彼は下駄箱の前にいる二柱の女神を目にした。彼女達の名はフジムラタイガ。まるで闇夜に浮かぶ満月のように、南国の晴天に燦然と輝く太陽のように、彼女達は顕現していた。

 生まれて初めて目にする美の化身達。彼は一目で心を奪われた。…………初恋である。

 自身の初心な恋心に戸惑いながらも声をかけようと思ってしまったのは当然だろう。しかし、これまで恋などしたことが無かった彼には勇気が湧かない。

 

「ハァ、あの美女たちにお近づきになるにはどうすればいいんだろう……」

 

 その時、彼の視界はある人物を捉えた。

 下駄箱に両手をつく自身の友人。いつも通り凡人面を下げて地味な出で立ち、永遠に引き立て役の彼の名は岸波白野。

 岸波白野を見て彼はある名案を思い付く。そうだ、一人で不安なら二人で行けばいいじゃないか。

 

「そうと決まれば、善は急げだ! 

 おーい、岸波ー」

 

 ルンルンスキップをしながら岸波白野に近付こうとする間桐慎二。

 その友人の肩に手を乗せようとしたときだった。

 バシーン!

 間桐慎二は腰を抜かした。目の前の友人がいきなり下駄箱に頭突きを始めたのだ。

 人の頭はそんなに丈夫でないことを彼は知っている。しかし、そんな彼の知識では明らかにまずいことを目の前の友人は行ったのだ。

 思わず伸ばした手を引っ込めてしまう間桐慎二。

 呆然とその場に立ち尽くしていると、彼の友人は再び下駄箱に頭を打ち付けた。

 

「ひ、ひえー。あんびりーばぼー」

 

 その奇行は数回繰り返された。

 結局声をかけることが出来なかった間桐慎二は、その友人が頭から血を流しながら去った後にさらに驚くことになる。

 なんと友人が頭を打ち付けていたのは自身の下駄箱だったのだ! 

 鉄製の扉には大きな凹凸と、赤黒い血がこびりついていた。

 もしかしなくても、これは怨恨による犯行だ。しかも対象が目の前にいることに気が付かないほど熱中していた。恨みは相当深いに違いない。

 

「ぼ、僕が何かしたか!?」

 

 彼には人から恨まれていることを自覚したことなど初めてだった。

 

「恐ろしい。……きっと顔を合わせれば殺されてしまうだろう」

 

 こうして彼はかつての友人からみっともなく逃げ回るようになった。

 

 

 

 で、いんたーるーどあうと…………と、いう訳ね」

 

 

「なげーよ!!」

 

 やりきったという表情の先生に慎二が両手を振って叫ぶ。

 しかし急に解説を始めた先生には面食らったが、なるほどそういうことだったのか。

 多分にフィクションを交えていた気もするが、自身のヘッドバッドが慎二の下駄箱を粉砕したことが原因だという点は正しい気がする。

 

「しかも適当なこと言うなよ! なんだよ美の女神って!? 鏡見たことあんのか!?」

 

「しっつれーい! そりゃあ、確かに高校卒業したあたりから見てない気もするけど……」

 

「おかしいだろ!? 家に鏡も無いのかよ!」

 

 いやー、それにしても。

 なんというか、なんだ。慎二と先生仲が良すぎるだろう。

 

「良くねえよ!」

 

 こいつ……、モノローグにまで突っ込んできやがった――――!!

 

「ま、大方は合ってたし良いじゃあないかシンジ」

 

「ぐはっ!」

 

 なだめるように慎二の背中を思い切り叩くライダー。そのあまりの勢いに慎二は咳き込む。

 

 なんにせよ、誤解の理由は分かった。さっさとそれを解いて、慎二と良好な関係を築こうではないか。

 

 ――慎二、下駄箱についてはすまなかったよ。別に慎二が憎くてヘッドバッドしたわけじゃあないんだ。

 

「ほ、本当か?」

 

 ――ああ、あの時は無性にイライラしてて、何にでもいいから八つ当たりしたんだ。

 

 そこまで言い切ると、慎二の目が輝きを取り戻しつつあることに気が付いた。

 

「な、なんだ………。

 まったく、余計なコトするなよな岸波。いや、まあ僕は全然気にしてなかったけどな!」

 

 そうして慎二はいつもの慎二に戻った。

 どこかほっとしたような表情を浮かべたかと思えば、慎二はいつもの様な不遜な態度で鼻を鳴らし、からかうライダーを引き連れてこの場を去った。

 

 数分後、ライダーの気配も消える。

 それを感じてから、ようやく自分達は動き出した。

 

 ――さて、先生。鍛錬と慎二が隠した情報を取りに行きましょう。

 

「いやー、それにしてもワカメはうかつねー。情報の事ゲロっッちゃったことなんてすっかり忘れてたわねー」

 

 頭が心配だわ、と付け加えた先生を怪訝そうな顔で見る。

 もしかしてこの人は慎二にそのことから気を逸らすために、あんなめんどくさい話を長々と続けていたのだろうか……?

 …………まさかな。

 

 

 果たして情報は全て見つけだすことが出来た。

 例によって先生の犬顔負けの嗅覚が寸分違わず隠し場所を探し当てたのだ。いや、ここは虎というべきだろうか?

 まあ、虎の嗅覚がすごいかどうかは置いておいて、そのあとの鍛錬も自分達は頑張った、と思う。

 飽きた、疲れた、腹が減った、と一歩進むごとに口からもらす先生をなんとか煽て、挑発し、ご褒美を与えながらアリーナを回った。その心持はさながら動物園の飼育係。

 先生の姿がだんだん餌を求めて跳ね回るアザラシに見えてきたところで、ようやく自分達はアリーナを後にした。

 

 ……これをあと四日ほど続けなければならないのか………。

 生き残るというのはなんとも辛いことらしい。

 

 

 

 

 

 

▼

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻ると、先生はすぐさま風呂入ってくる―、とか言って竹刀を放り出しつつ部屋の外へ駈け出して行った。風呂なんてものがあるとは知らなかったな。

 

 さて、慎二が必死に隠そうとした本達、計五冊を無事回収したわけだが……。

 朝橙子さんに言われたことを思い出す。確か、まず情報を要素として並べる、だったか?

 

 ・真名、てめろっそえるどらご?

 これはたぶん俗称だろう。本でちゃんとした名前を探そう。

 ・雇われ海賊

 ・二丁拳銃

 ・宝具、ガレオン船

 ・マスター、慎二

 

 こんなところか。

 それじゃあとりあえずこの『海賊キャプテン・ドレーク イギリスを救った海の英雄』ってのから読んでみよう。

 

 

 

 

 

 

▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 決戦前夜。

 さまざまな資料に目を通して、自分が出した結論は――

 

 

 

 灯油とガソリンだった。

 

 

 

 

 

 

 




話グダりすぎワロリッシュ。
次回でようやく糞長かった一回戦終了かと。

今さらながら慎二の話入れる必要なかったなと後悔中。
一応一回目に情報探らずに負けた本当の原因てことで一つ。
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