タナトス   作:てっかまき

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終演

 

 

 「何で……何でだよ……誰も……誰も居ねぇのか!」

 

 タナトスはヴィクトリアとアエテルニタスの後方へと向かって叫ぶ……だがそれに答えるものはなく、代わりにアエテルニタスが冷たく言い、刀を構える。

 

 「全員殺した。あんな雑魚どもで足止めが出来るとでも思ったのか」

 

 「アエテルニタス!……”七つの大罪”は?君が倒したのか」

 

 「…………いや、私に赤い奴らをけしかけた後に逃げ出した。その後にこいつらが邪魔をしてきた」

 

 「……そ……そうか」

 

 「……!」

 

 アエテルニタスの刀が振られ、ガキンという音が響く。鎌を弾かれ、タナトスは仰け反る。だが彼女の攻撃はそれで終わらず、更に幾度とない斬撃が加えられ、その度に金属音と鎌鼬のような衝撃波が舞う。

 

 黒色の衝撃波によって傷付きながら、タナトスは依然として無傷のアエテルニタスに鎌を振るう。

 

 「アエテルニタス……」

 

 「こっちっすよ」

 

 ヴィクトリアが振り返るよりも速く、アエテルニタスの刃がケールの爪を打ち落とす。

 

 「ふざけるな」

 

 タナトスが回り込んでも、同時に攻撃を加えたとしても、アエテルニタスは確実に対処し、ヴィクトリアに掠り傷すらなく斬撃を押し返し、衝撃波と応酬によって反撃を加える。

 

 「雑魚が……」

 

 一際、大きな黒色の衝撃波によって二人に更なる裂傷を加え、弾き飛ばす。

 

 タナトスがよろけながら着地するが、ケールは思い切り身体を岩床に打ち付け血を吐く。

 

 「くそ……ったれ……ケール、大丈夫か!」

 

 「なん……とか……………ゲホッ」

 

 ボロボロに成りながら立ち上がるケールを見て、アエテルニタスは言った。

 

 「雑魚が……何でお前が押されてた……ヴィクトリア」

 

 「アエテルニタス、止めるんだ……君達も……もう、止めてくれ」

 

 ヴィクトリアがアエテルニタスを抑え言った。だが、彼女は愚かな者を見るように、微かに眉を歪める。

 

 「こいつらは敵だ。ヴィクトリア……こいつらが何をやろうとしていたのか分かってんだろ、お前を殺そうとした。何故、情を掛ける……こいつらは自分達ならどうにか出来ると思っている思い上がったどうしようのない馬鹿だ……てめぇらが幾ら居たって敵わねぇよ。てめぇらがどんな手を使ったって、ヴィクトリアからは”力”は奪えない、奪わせない」

 

 「……ふざけて……そんなん……自分の力じゃ無いくせに……」

 

 肺から噴き出す血を吐きながら、ケールは身体を立て直し、ぜーぜーとした息を吐きながら呟くように言う。

 

 「そんなの……自分の力じゃない……ゲホッ……お前は……お前は強くない……”力”に……”力”がなければ……ゲホッ……何も出来ない癖に……勇者に依存して……勇者がいないと……何も。何も出来ない癖に!!」

 

 「……うるせぇよ。雑魚が……てめぇらだって同じだろ、何も出来ないのに志だけは高い……」

 

 アエテルニタスは低い声で言う。

 

 「同じ?……違う……私は、意思がある……お前には……無い!……ゲホッ……勇者に……従うしか能の無い……能無しの癖に……私の出来ないは、ゲホッ、力が無いからっすよ。だけど、お前はどうなんすか、意思なんて無い、ゲホッ、只の、命令に従う奴隷じゃないっすか!……そんな風に無駄に使われる”力”なんて誰かに渡した方が良いと思うっすよね」

 

 ケールは自らの血で赤くなった顔で笑う。それは次第にケラケラと不適なものに変わる。

 

 「私やタナトス先輩、モーモスさんも、力なんてなくても災厄を打ち倒そうと動いたんすよ……ゲホッ……それに比べてどうっすか?アエテルニタス……あんた”力”が無かったら動かないっすよね?……クスッ、当たり前っすよね見た感じで根暗って感じしますもん……ゲホッ、ヴィクトリア……様?で良いっすかね?お偉いこと言ってるっすけど、あんた何にもしてないじゃないっすか、只々、”勇者”だったから担ぎ上げられただけで……どうせ根は只の御人好しの馬鹿じゃないっすか、私らみたいな不良も切り捨てられない……ゲホッ……感情だけで動く、指導者向かないっすよ。偽善者めが!」

 

 「……これ以上……ヴィクトリアを馬鹿にするなよ」

 

 咳き込みながら顔全体で嘲笑するケールに対し、アエテルニタスの顔はその無表情では隠せないほどに歪み、彼女を睨み付ける。

 

 「クスッ、怒ったっすか?そりゃそうっすよね、ゲホッ、どんな生き物でも盲信している御主人様を馬鹿にされたら怒こるっすよね!その飼い主が、どんなに無能だとしても!!」

 

 「アエテルニタス!」

 

 ヴィクトリアの声が届く前に、アエテルニタスはケールへと肉薄する。そして至近距離から、全力の一太刀を振るう。

 

 「殺す!!」

 

 ズガンとおおよそ刀から出る筈のない音と衝撃が爆発のように広がった。直ぐ様アエテルニタスは刀を再び振り、目の前の死神を完全に消滅させようとする……が、刀は動かない。彼女は剣身を見て絶句した。

 

 「馬鹿な……」

 

 そこにいたのはケールではなくタナトスだった。鎌の柄と左腕を盾にし、攻撃を受け止め、右腕でしっかりと刀を掴んでいた。刃は左腕の半ばまで食い込み、ほぼ切断されていた。そして衝撃波をもろに受け、至る所にパックリと開く傷口が見える。だが、タナトスは痛みを感じさせぬ声で叫んだ。

 

 「ケール!」

 

 アエテルニタスはハッとして振り向く、そこには腕を引き絞るケール。満面の笑みのまま叫んだ。

 

 「やっぱり、馬鹿じゃないっすか!」

 

 ザンッ、その音と共に切り払われるのは……ケールだった。

 

 「え…………なん……で?」

 

 肩から斜めに斬られ、上半身のみとなった彼女はアエテルニタスによって渾身の力で蹴り飛ばされ、岩壁に激突する。

 

 「は……」

 

 タナトスは無理矢理に刃を引き抜き……完全に体から離れた左腕が地面へと落ちるが……アエテルニタスから離れる。一瞬にして再び近付くアエテルニタスに何とかほぼ半分の長さとなった鎌でその二刀を弾く。だが、そこからが続かない、振りすぎた鎌はタナトスの手から滑り落ちた。

 

 「……!……」

 

 アエテルニタスの二撃目をもろに受け、彼女の背中から二つの刃が突き出る

 

 「ガァ……」

 

 そのままアエテルニタスは乱暴に刀を振る。ブチリと体内器官が引き裂かれるのを感じながら彼女は吹き飛び、砂煙を立てながら転がった。 

 

 「てめぇら……楽に死ねると思うなよ」

 

 アエテルニタスは片手に持つ刀を鞘に納めながら言うが、そこでピリッとした痛みを感じ、頬を拭う。そこには辛うじて届いたケールの斬撃により、裂傷が出来ていた。手に付いた血を見て、彼女は小さく舌打ちをする。 

 

 「アエテルニタス……その刀を使ったのか」

 

 「一本じゃ足りなかった……まさかこんな奴等のために”不適の刃”を両方抜く事に成るとなは……だがこれで終わりだ」

 

 「いや、もう彼等は戦えない……最後に、話をしたい」

 

 ヴィクトリアが言うのを片目に、タナトスは岩壁に背を預けながら身体を引き上げた。ズルズルと重い身体を動かしながら呟く。

 

 「く……そ……ゲホッ……二刀流……ふざけやがって……お……い、生きてるか、ケール」

 

 「どう……して……生きてると……思ったんすか……」

 

 彼女が呼び掛けるのに弱々しい息を吐きながら何とか答える。

 

 「……悪かった。ここまでお前を……連れてきたのは私だ……別に……恨んでくれても構わねえぞ……」

 

 「クス、いつもは……そんなこと……言わないっすのに……どうしたっすか?……急に気弱に成って……らしく……無いっすよ」

 

 タナトスは、顔を傾けケールの方を見る。彼女はいつものように笑い、だが、目の端を潤ませながら言う。

 

 「…………別に……でも……感謝……してるっすよ……あの地獄から……救った……のは……その恩人に……何かするのは当然すよ……むしろ……私……返せてないっすよ」

 

 「……そうか……ケール……悪いが、最後に……最後の賭けだ……頼まれてくれないか」

 

 それを聞き、ケールは小さく、嬉しそうに笑った。

 

 「わかるっすよ……先輩……に……託すっすよ……」

 

 彼等は小声で囁く、タナトスは気配を感じ、ゆっくりと顔を上げた。

 

 「もう、君には動く力は残っていないだろう…………何故、そこまで……自らの身を顧みずに……アエテルニタスから聞いた。君達の配下の者は命を惜しまず勇敢に戦ったらしい」

 

 ヴィクトリアは言うのにタナトスは、舌打ちをしながら馬鹿にするように言う。

 

 「自分の……譲れない物の……為に……理想の為に、命を掛けるのが……そこまで不思議か?……滑稽か?」

 

 「君は……」

 

 「全員が……全員、貴様のような……人徳者……だと思うなよ……私らは……災厄を……”力”という概念自体……恨んでる……アエテルニタスがどうとか……ディザスターがどうとか……って言う話じゃねぇんだよ…………貴様が敵にしてんのは……ディザスターだ……私らは”災厄”だ……解り会えると思ってんのか?」

 

 彼女はヴィクトリアを暗い目で睨み付ける。だが、ヴィクトリアは何か……言葉を探すように視線を動かす。

 

 「……無理なんだよ……ふざけやがって………………いい加減にしやがれ!!」

 

 彼女はサッと残った右腕を持ち上げる。だがそれは溶けるように影のような黒色へと変わっていて、それは伝染するように瞬く間にタナトスの全身へと広がる。そしてそれらは弾けるようにヴィクトリアへと向った。

 

 「それはてめぇらだ!!」

 

 その影がヴィクトリアに届く前に、アエテルニタスが辛うじて残っていた生身のタナトスの体に対して、横一文字を刻む……それは黒色の影と共にヴィクトリアから引き剥がされ、四散する。影の中には蠢くものもあったが、次第に動きを止め、溶けるように消えていった。

 

 「アエテルニタス……」

 

 「ヴィクトリア……分からなかったか?こいつは最後の最後に魂だけの存在となって、お前を乗っ取ろうとしたんだよ」

 

 「しかし、どうしてだ。彼女にそんな力は……残ってなかったはず」

 

 アエテルニタスは、溜め息をつきながら息絶えたもう一つの身体を見る。

 

 「あいつだ。二人分の力を使って、最後に魂だけになろうとした。だが、完全に魂だけになる前に仕留められた筈だ……ヴィクトリア?」

 

 「…………」

 

 呆然と立ち尽くすヴィクトリアにアエテルニタスは問いかける。しかし、彼女はそのまま膝を付くと、唇を噛み締めた。

 

 「どうしてだ。くそ!……私は彼らを止めることが出来なかった。」

 

 「……言っても仕方がないだろ。それにこいつらはは自分から裏切ったんだ。お前のせいじゃねぇよ。こいつらが悪いんだ」

 

 アエテルニタスは言い放つと刀を下ろし、鞘に納める。ヴィクトリアは俯きながら身を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 魂だけとなったタナトスは自らがまだ存在していることに疑問を感じる。確かに、完全に魂になる前に体をアエテルニタスによって引き裂かれ、絶命した。そうなればすぐ回収されなければ記憶を失い、人格を保つのも難しい筈だ。

 

 ヴィクトリアが魂を回収したのだろうか、だが、身体が生きている内に魂となるなど、かなり無茶なことをした。しかも途中で妨害されたとなれば魂は引き裂かれ、完全な状態で回収することなど出来ない。少なくとも何かを失った感覚はなかった。

 

 (何だ……ここは……)

 

 彼女は周りを見渡す。そこは白黒の四角形が連なる空間で、周囲全てがその無機質な色彩に覆われていた。少なくともモーモスではない、彼はこんな趣味の悪い空間を作らない。

 

 「……タナトスさん、ご機嫌はいかがでしょうか」

 

 彼女の前に突然現れるのはイルシュアーノだった。彼は恭しく頭を下げ、シルクハットを被り直す。

 

 (どう言うことだ。何で貴様が、何処だここは……)

 

 タナトスは声を出すことなく疑問を表す。だがイルシュアーノはそれを聞こえるようで、俯きながら首を振る。

 

 「申し訳ありません。何処かと言うのは伝えることができません。ですが、御伝えしなくてはならない事があります……非常にお伝えしにくいことですが……”HTB”は壊滅しました」

 

 (は?何を……何を言ってやがる)

 

 途端にイルシュアーノの前に四角いスクリーンのようなものが浮かぶ。そこに写されているのは、再び、死骸と血に覆われたあの研究所であった。

 

 「あなた方が本拠地としていた研究所は”七つの大罪”の手の者達により襲撃を受けました。暴食と色欲ですが……彼らによってその殆どが殺害されました」

 

 (嘘だろ……ふざけやがって…………モーモスは……どうしたんだ)

 

 「えぇ、彼は勇敢に戦いました。なるべく多くの者達を逃がそうとしました。ですが、力及ばす……」

 

 次々と切り替わる画面のなか、彼女は見たことのある鎌を見付ける。

 

 (……………………何だよ……何で……)

 

 タナトスの視界が揺れる。最早涙は出ない筈だが、彼女は視界が歪み、焦点が会わなくなる。

 

 「……おっと、申し訳無いですが、貴方をこの空間に留め置くことは出来ないのですよ。ですのでそろそろ戻させていただきます……もう会うこともないかも知れませんが……それでは」

 

 (……おい……おい!待てよ!!)

 

 タナトスが言う前に彼女の視界は暗転し、何処かへと送られる。

 

 (何が……どうして……何が起きた?……答えろ……答えろよイルシュアーノ!!……くそ!……モーモス、ケール……くそっ、何で何で何で何で)

 

 彼女は思い、問い掛ける。だがそれに答えるものはおらず、只々、深い沈黙のみが残った。

 

 

 

 

 

  

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 「申し訳ありませんが、”HTB”は不都合であったのです」

 

 イルシュアーノはタナトスを送った後、残念そうに言った。

 

 「先代の災厄”ナイトメア”によってゼロニクスの力が大きく回復しました。ですので今回は勇者”ヴィクトリア”によってラストエンデルスの力を回復させなければ、彼らの力の均衡が崩れてしまうことになるのです。来る直接対決の際に両者の力が均等しなくてはいけないのです」

 

 彼はタナトスがいた空間を眺めながら続ける。

 

 「その場合、死神全員を動員し対災厄に望もうとする”HTB”は、不都合であるのです。勇者は災厄勢力に対して単独で戦って頂かなくては、ラストエンデルスを回復させることができませんから……あなた方は大変興味深い方々でありましたが……仕方がありません……御容赦いただけると幸いです」

 

 彼は振り返るとその空間から消えた。

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