ゼェゼェゼェゼェ…………スゥゥゥッ!?…ゲホゲホ
突然で申し訳ありません、白銀武です。
なんでも体力作りとかで、日に日に装備が重たくなって来ていまして、今日は唐突にとんで、全身鎧(フルプレートアーマー)を来て、フルマラソンより長い50km走り終わるまであらゆる休息がおあずけ状態です。
今やっと、10km終わったと言われました。
もう、ゴールしても良いよね?
ドサッ!!っと前のめりに倒れ、地につく前に武は意識を無くしていた。
「……重度の脱水症状と酸欠、鎧のせいで体温調節が上手く出来ずに熱射病とか諸々……阿呑、こいつは人間。そこを注意しろ」
最近、医者のようなポジションを追加で持ち始めた防人が淡々と病状を告げ、対処(そせい)を行い、阿呑にそう言う。
「ぬ……ぬう………」
まるで、そんなに厳しくしていないとでも言いたげな阿呑。
「私は、流石に全身鎧はやりすぎだって言ったのよ?」
朱麗がそう言う。
そのままの意味だろうが、彼らのことを知らないと……いじめが見つかった時に、俺は止めろって言ったんだと言うのと同じように聞こえただろう……いや、おなじか?
止めなかった点では同じだろう。
こうして、武は一日の休日を得た。
まあ、布団の中での休みだが……
夢の中で再び、彼岸花の綺麗な場所へ………
運良く、今回も船頭さんが寝ていたため蘇生が問題なく行われた。
そして次の日……
武が逃げたがる己をなんとか押さえて中庭に向かった。
逃げれば、より一層酷い目に遭うと彼の勘やら本能が告げているのだ。
そして向かった先では……多くの兵士(?)が、異種格闘戦、超常的な大乱闘が行われていた。明らかに宙に浮きながら戦う者、拳で正面から斧と戦う者、弓が銃と打ち合っている者も居れば、遠くで吹っ飛ぶ大量の人……中央には巨漢、剣や斧その他で確り攻撃されているにもかかわらず、血を流していないどころか、ダメージが見えないのは何故だろうか……
「おい、たしか、白銀だったか?」
其処に格闘家のリオ、武を迎えに行った片割れが話しかける。
しかしそれは偶然見かけたからなどと言うものではなく、目的があって話しかけたのであった。
「あ、はい。そうです、先日はありがとう御座いました」
誰だお前と言いたくなるくらい、丁寧な態度で返事をする武。
「気にすんな、仕事だ、仕事。
そして今からも仕事だ。阿呑さんがやり過ぎるからって理由で監督が俺に代わった。お前にある程度の強度(レベル)ができるまではよろしく頼むぞ」
何だか、文法的におかしな点があった気がする。
レベルができる?
「とは言っても基本的なメニューは阿呑さんが作ったヤツだから一日中動きっぱなしだ。さあ、今すぐ始めるぞ」
さらに、まだ基礎作りの段階みたいだからな、先は長いぞ。と言われ……
どうやら俺は地獄の入り口にすら入っていなかった様だと空を仰ぐ白銀少年が居た。
――実際は辿り着いてすら居ない。
「あー…最初はこれか、一時間耐久ランニング。城のトレーニング部屋使うみたいだな。ほら、行くぞ」
リオはそんな武を無視するかのように予定表を見て歩き出す。
ああ、確かに常識は持ち合わせているんだろうけど、やっぱりドライだ。
出来ればあのおねーさんがよかった。
「オイ、テメエ今ゼッテーシャルのほうがよかったとか思ってんだろ、残念だったな、俺のほうが鍛え方を知っているから選ばれたんだ、ただこのメニューどおりならお前は明日にはまた死にかけるだろうよ」
相変らず常識から外れたメニューだなぁ、おい。
悪魔で百年くらい戦士やっているなら兎も角、まともに鍛えた事のないやつがこんなの出来る訳ねえだろ。
と、呟きながらも早く来いと促してくる。
そんなに酷いメニューなのか?
と思ったが聞く必要も無さそうだ。その表情を見れば凄くよく分かる。
ああ、この人結構苦労してるんだな……
「おい、今同情しただろ。ふざけんじゃねえぞ、テメエの方が明らかに哀れな状況なんだからな。精々死なねえことを祈っておいてやるよ」
ちょっと待って、俺ってそんなに酷い立ち位置に居るの?
ねえ教えてよ!!
「そんなことよりさっさと動け、時間は確り指定してあるんだ。もしノルマ終わらないと今後の密度が上がるぞ」
直ぐにトレーニング室に向かった武を待っていたのは……
傾斜角20度長さ20m幅10mのランニングマスィーン
それを見て絶句している武にリオは平然と告げる
「よくわかったな、それで一時間走り込みだそうだ。なあに、軽いランニングと変わらんペースを乱さなければなんとかなる。ほらさっさと乗れ………えーっと?35~40km/hか……で、障害物は無しっと。よし始めるぞ!!」
待ってほしい。そのペースだとフルマラソンが一時間半掛からない。
それ以前に、百メートル十秒、時速36kmの時点でオリンピック選手のレベルですよ!?
しかも傾斜付いてるじゃないですか!!
何度かは知らないけど100mで15m下がるくらいで標識には急勾配速度落とせみたいな標識立つんですよ!?
これ、明らかに心臓やぶりの坂とか越えていそうな角度ですよね!?
―白銀少年心の叫び。
「おっと、すまん角度直すの忘れていた」
そうですよね、できれば速度も間違えで!!
「10度だったな」
角度が半分くらいになった。つまりあれは20度?
しかし、傾斜角十度と言うのも十分にふざけている。
しかし、それを設定した彼は平然としているところを見るに、この設定はおかしくないらしい。
こんな常識間違っているよ!!
そして、やはりと言うか……一時間と持たず気を失い、回復アイテムで強制回復→再び走る→倒れる→回復→筋トレ→倒れる→回復→……のループを十時間続けて終了。
確か超回復とかで実際に筋肉がつくのは一月近く後の筈なのに、十時間で無駄な贅肉が落ちて引き締まった身体に……
白銀武はこの日、どんな薬を飲まされたのか不安になり、夜も眠れなかった……
時間は戻り、武と別れたリオはその手に持つビンを見ながら呟いた。
「しかし凄いな、防人・灰根・阿呑三名合同制作、『神酒(ソーマ)ベースの栄養ドリンク』は……瀕死だった人間を全快どころか超回復まで促すなんてな……なるほど、だから《ぶっ倒れるまで飲ませるな》か。確かに使い方間違えるとやべえな、これは」
健康な物に飲ませれば、悪魔なら栄養過多でハイになって人間なら昇天しかねないだろう。
故に、武が眠れないのはただ不安だからではない。
「だけどこれなら確かに早いところアイツを目標の強度(レベル)まで持っていけそうだな。今日だけで一割に満たないとは言え、目標の数%まで行ったんだから、あと……早くて十日遅くて二週間って所かな……あーでもこれ、足りるか?」
リオは、不安になり、ここに入っていると教えられた冷蔵庫を見に行った。
様々な冷蔵庫が所狭しと置いてある冷蔵室。その一角に明らかに他と違う物が置いてあった。
その扉の一つ、指定された番号の扉を開ける。
その中にはゲシュタルト崩壊を起こしそうなまでの栄養ドリンクが……少なくとも、五千を超えそうに見える。
つまりは、あの人達は、あの少年がそれだけの回数ぶっ倒れると判断しているのか!?
………良し、じゃあこれを使い切る心算で鍛えるとしよう。
幹部専用調合室
「そー言えば阿呑、アレどれだけ量産したんだ?」
「うむ、ざっと6666本だついつい創りすぎてしまった。
神酒(ソーマ)ベースの超回復を目的とした回復アイテムを作るといわれたら筋肉のためにも作らざるを得ないではないか!!」
「おいおい、白銀少年の為のだぞ?そんなに作って如何するんだ」
「ぬ……また誰かが流れてきた時に使えば良いのでは?」
「はぁ……それまで持つのかねぇ……」
うっかりと信頼が合わさった結果、武は地獄が約束された……