成人らしく行動してたら、取材班と思われたのは私です。
-RYOURINIMIIRARETE-
めぐみんお手製肉じゃがを食べるためにめぐみんが泊まっている宿へと俺はやってきた。
彼女の家で食べる料理ってシチュエーションは今までなかった。
まだ付き合えてないけど、こんな日が来ようとは。
「ちょっと、待っててくださいね?部屋片付けて来ますから」
「玄関で扉の方向いてるのじゃダメか?ここだと誰かに会う可能性があるし」
「確かにその通りです。絶対振り返ったらダメですからね!」
めちゃくちゃ必死だ。
絶対隠したい何かがある。
探りたい所ではあるが、変に詮索して警戒されたくないし、やめておこう。
「ああ。てかそんなに散らかってるのか?」
「違いますよ!人を上げるなら部屋を片付けるのは最低限のマナーです」
最低限のマナーか。
そういうことにしておこう。
「お待たせしました」
待つこと数分で呼ばれた。
本当に片付けをしていたのだろうかと思うほどに、余りゴトゴト音がしていなかった。
何かを動かしてる音は確かにしてたけど、散らかってる感じではなかった。
やはり、何か見られたくないものを簡単に隠してみたとかだろうか。
「何ボォーっとしてるんですか?見回しても変なものとか散らかってた痕跡とかはありませんよ。そもそも散らかってなどなかったのですから」
「それはこの速さから分かるけど、女の子の宿に入るの初めてだし、それも好きな子の家だし、緊張してんだよ」
めぐみんの部屋には屋敷と里の方で何度も入ってるのに、凄く新鮮でドキドキする。
「カズマも緊張するのですね」
「お前は俺をなんだと思ってんだ」
少なくとも直ぐに耐性ついちゃうめぐみんよりは、緊張する人間だと思う。
「突然プロポーズして、壁ドンしてくる人です」
「それはそれ、これはこれだ」
あの時は色々吹っ切れてたからなあ。
やけくそな所もあったし、仕方ない。
まあ、あの時の快感が忘れなくて、積極的に責めるのも悪くないって気付いたっていうか、無意識下でめぐみんに迫るようになっちゃってるんだけども。
「はぁ、今から作るので、そこに座って待っててください」
「いや、食材切るのとかは手伝うぞ?」
「今日は私がカズマにデートを提供するのですよ。だから待っててください」
と言われると何も出来なくなり、料理を作るめぐみんの後ろ姿を見て待つことにした。
これがとても心地いい。
エプロン姿のめぐみんは屋敷で何度も見てるけど、小さい部屋に二人きりでってのがいい。
同棲してるカップルみたい。
「もう少しでできますよ。味見しますか?」
「いや、出来てからのお楽しみで待っとく」
「ではもう少しお待ちを」
めぐみんの作る肉じゃがか。
いつぶりだろうか。
魔王討伐後はその他の和食やら洋食やら中華やらを教えていたから食べてなかったな。
「出来ましたよ。あの、そんなに見られると恥ずかしいのですが」
「エプロン姿のめぐみんが可愛いからつい」
「なな、何言ってるんですか!」
照れみんは可愛いな。
もっと見てたい。
「思った事だけども」
「もういいです!早く食べましょう!」
「へいへい」
何故だ。
何故めぐみんはこうも直ぐに吹っ切れるんだ?
俺は中々慣れなかったのに。
「「いただきます」」
ああ、めぐみんの作る肉じゃがの味だ。
久しぶりだ。
みんなで食べてたのを思い出す。
こっちでも早く屋敷を手に入れたいな。
「どうですか?」
「・・・めぐみん」
「はい」
ここに来るまでの間に手料理を家族以外に振る舞うのは初めてだと言ってたし、緊張してるらしい。
「毎日食べたい味だ」
「そ、そうですか。私の料理くらいなら何時でも作ってあげますよ?」
「じゃあ、毎日食べたい」
現状は毎日なんて無理だろうし、俺とめぐみんが隠れて会ってるのが見られると色々厄介だし、不都合の生じる可能性がある以上やるべきじゃない。
とは言え、聞かれたことには素直に答えた。
「あの、流石に毎日は難しいと思いますよ?毎日私の宿に来ていたら怪しまれますし」
「それは一緒に住めば問題解決だ」
また屋敷を手に入れれば、周りの目など気にせずにめぐみんの手料理を食べられる。
でも、前回みたいに簡単に屋敷が手に入るのだろうか?
過去に戻ったわけじゃないし、もしかしたらこの世界のアクセルは共同墓地もしっかり管理されてるかもしれない。
「なな何言ってるんですか!?私はまだ付き合うとかプロポーズ受けるとか言ってませんよ!」
「そりゃあめぐみんと二人で暮らす家ってのも憧れるけど、うちのパーティー全員で暮らせる家が先だな。それなら俺らの関係怪しまれないだろ?」
「えっと、四人で暮らせる家となると相当な額ですよ?」
やっぱり結構な額になるよな。
屋敷買い取った時は手続き全部ダクネスに丸投げしてたし、よく分からない。
あの屋敷は四人で暮らすにはデカ過ぎるけど。
「まあ、普通ならそうなんだが、俺らパーティーの第一目標が拠点の入手ってのはいいと思わないか?」
「良いですねそれ!アジトはカッコイイ秘密基地風にしましょう!」
「断固拒否する」
紅魔族の感性に任せて家なんて作ったらやばい事になる。
でも、これまでに行った紅魔族の家って何処も日本家屋と変わらない普通の家だったよな?
「何故ですか!」
「あのなあ。お前のこの部屋だってリラックスしやすいようにしてるだろ?」
恐らくこれだろう。
何だかんだ言って実用性が取られるはずだ。
「ええ」
「戦い疲れて帰ってきた拠点が秘密基地風の無機質だったり、荒廃した感じのする場所だったら嫌だろうが」
「全然問題ないですよ?」
そうだ。
こいつはロマンの為にネタ魔法と呼ばれる爆裂魔法を極める茨の道を選ぶやつだった。
多分ぶっころりーとかなら普通にリラックスできる環境を選ぶはずだ。
・・・そうだよな?
「ともかく普通の家な。多数決取ったら俺の勝ちは確定だろうからな」
「ズルいですよ!数の暴力は反対です!」
「世の中の理不尽を味わえフハハハハ」
バニルの真似をして高笑いしてみた。
悪感情がどうとか分からないけど、心地良い。
「何だかカズマが悪魔みたいに見えます。と言うかそれが好きな人に対する態度なんですか?」
「こう言う軽口も叩ける気の置けない仲の方が、一緒に居て楽しいだろ?」
「またらしくない粋なことを」
自分でもらしくないとは思うけど、実際に言われると腹立たしい。
「うっせえ」
「ふふっ、確かにこの方が楽しいですね」
「お前なあ」
この感じだよ。
いつも通りの会話ができて、なんてことのないことで笑い合うことができる幸せ。
「カズマ、おかわりはいりますか?」
「まだあるのか。もちろんおかわりだ!」
「まだありますから満足するまで食べてください」
「ありがとう。今度、ウチの味の肉じゃが作ってやるよ」
俺にしか分からないお袋の味ってやつを作る。
こっち来る前は全員から大好評だったから今回も行けると思う。
「カズマの料理ですか。楽しみです。明日の夕食にお願いします!」
「え?明日は不味くないか?」
「みんなを呼べば問題ないですよ」
考えは悪くないけど、なんの脈絡も無さすぎやしないだろうか。
俺が料理する話にどうやって辿り着く?
「でも急過ぎないか?俺と料理の話する機会なんてないだろ普通」
「私とカズマの料理バトルなんてのはどうです?肉じゃがの作り方は家庭によって変わりますから何かしら火種くらい探せばありますよ」
「じゃあ、人参の切り方が違ったからそれでいこう」
実際にこれで初めて肉じゃがを振る舞う時にアクアと揉めたからな。
アレはめぐみんとダクネスが止めてくれなかったら夕飯が無くなるところだったよな。
「人参ですか。ではそういうことにしましょう」
「俺はめぐみんの肉じゃが明日も食べられて嬉しい」
「そんなに気に入ってくれましたか?」
気に入ったというより、そもそもお気に入りだった。
めぐみんの家庭的な一面を初めて見た時は随分驚かされたものだ。
てっきりこやつは料理出来ないと思ってたからな。
完全に偏見だが。
「美味いものは毎日食べたいだろ?」
「カズマ、私決めました」
「何を?」
突然立ち上がるめぐみんに俺は疑問を投げかける。
何を決めたんだ?
このタイミングで何を?
「拠点を一日も早く手に入れましょう!」
「お、おう?」
決意した内容は分かったけど、決意した理由が何の脈絡も無さすぎやしないだろうか。
めぐみんってこんなに思い付きで行動する子だったか?
爆裂関係は抜きにさせてもらうけど。
「察しが悪いですね。カズマに毎日料理を作るためですよ」
「えっと、そんなことのために決意したのか?いや、俺としては嬉しいんだけども」
「みんなと夕食を食べない日はずっと一人で食べてたので、ただ食事するだけでしたが、やはり、ご飯は誰かと食べるのが一番です!それに料理も食べてもらう相手がいる方が楽しいですから」
「なるほど、じゃあ、拠点獲得目指して頑張るか!」
俺と料理食べるのが楽しいからとかならもっと嬉しかったけど、欲を言っても仕方ないか。
「ええ!」
「その為には明日俺たちは喧嘩してないとだな」
「昨日の商店街で再開してから続いてると言うので、会っても話さないとかでいいんじゃないですか?嘘でも喧嘩はしたくないですよ」
俺だってやりたくは無い。
でもこれも明日の夕飯のためだ。
俺はめぐみんの肉じゃがのためならゼル帝をチキンにすることだってできる男だ。
・・・やっぱり、後でアクアが面倒だからそこまではやらないか。
「それだと話が肉じゃが対決に行かないだろ?明日が現場の方が良いって」
「なるほど。では朝食を二人で食べましょう。人参の入ってるメニューです」
「それで、その人参が火種になるんだな」
何度も言ってるが、この機転の良さをクエスト中にも発揮して貰いたい。
正直な話、めぐみんの洞察力なら俺と変わらない指揮能力あるはずなんだよな。
実際にゆんゆんとかアイリスを従えて盗賊団やってたみたいだし。
「はい。後は言い合いからの本題です」
「よし、作戦は決まった。今日はもう寝るか」
「ですね。この部屋シャワールーム付きなので、そこで汗とか流しといてください。・・・他意はないですからね?」
ここで確認するってことは、やっぱりめぐみんはむっつりだな。
ゆんゆんにむっつりとか言いながら自分も大概だと言うことに気付くべきだ。
「分かってるってと言いたい所なんだが、俺の着替えどうすんの?」
「そんなことだろうと思ってカズマのパジャマ買っておきました」
「それいくらだ?今渡すから」
この世界の服の中でも上等な服だ。
結構なお値段だと思う。
まあ、普通の冒険者でも難なく買える額ではあるんだが、めぐみんのお財布事情を勘案すると非常に厳しいと思う。
「いりませんよ!プレゼントなんですから受け取ってください」
「悪い。プレゼントなら受け取らないとだな。ありがとう」
「この前の高級料理と比べたら大したことじゃないですよ」
と言われると何も言い返せない。
「前にも言いましたが、対等な関係じゃなきゃいやです」
「でも俺は何もプレゼントしてないぞ?」
「ちょむすけのこととか、仕送りの増額とか色々してもらってます」
「それは俺が勝手に」
「なら、私がカズマにプレゼントするのも私の勝手でしょう?」
やっぱ、めぐみんには敵わないな。
「分かった。じゃあシャワー浴びてくる」
「ゆっくりどうぞ」
翌日、何か手に感触があるなと思うと俺はめぐみんの手を握っていた。
・・・あれ?
別々のベッドで寝たはずなのに?
不思議に思って目を開けると何と時計が昼を告げ、めぐみんが椅子に座ってこちらに手を向けながら寝ているではありませんか。
・・・これどういう状況?
考えられるのは、俺を起こそうとしためぐみんの手を俺が握ってしまって、そのままめぐみんが動かずに椅子に座って寝た。
でもそんなことめぐみんがするだろうか?
「ん、カズマ?起きましたか?」
「おはよう。悪いな」
「別に構いませんよ。それによく考えたら私たちが朝食の時にいるのは不自然でしたので、昼寝をと思ってましたから」
確かに、夜の最終便と始発の時間から考えるとこの場にいるのはおかしい。
昨日は浮かれ過ぎてそこまで頭回ってなかったからな。
「そうか。でも手は俺が勝手にだろ?」
「ええ、急に何かと思いましたが、私の名前を呼んでいたのと、離そうとすると悲しそうな表情してたので、このままにしてました」
心地良い夢を見てた気がしてたけど、めぐみんが手を繋いでくれてたからか。
もっと長く寝れば良かったのか、もっと早く起きれば良かったのか判断に悩む。
「ありがとう。そろそろ行くか?」
「それなんですけど」
「どうした?」
起き上がろうとする俺を引き止めて、ベッドへと戻された。
この展開はベッドイン?
なんてことはないだろうけど、ちょっと緊張する。
「隣町に行くのは二日かかるものなのですよ」
ほら、こんなもん。
でもそうか。
俺らがもう帰ってるのはおかしいのか。
仮にテレポートで行ったのなら、昨日の夜に帰ったと言ってないとおかしい。
「つまり俺らはどうすればいいんだ?」
「少なくとも今日はこの部屋で大人しくしないとですね」
三日間の缶詰を想定してたけど、何とかなりそうだ。
確かに帰りに奮発したとかなら何とかなるだろう。
「帰りはテレポートってことにできるのか」
「ええ、なので今日はゲームして遊びましょう」
斯くして、俺とめぐみんの仁義なき戦いが始まるのであった。
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