アサルトリリィ ーAce―   作:オエージ

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とにかくやりたいことを詰め込んだ最終決戦、ご覧ください。


第11話 バラ ―attaining the impossible [ウルトラマンの資格]

 エレンスゲの序列2位、正樹京子は膝を抱えて座り込んでいた。

 涙が枯れるくらい泣き終えた彼女はその後何をするわけでもなくエーストロンが貫いていった天井の穴を無言で見上げている。

 

 投げ捨てた携帯電話から聞こえてくるのは耳障りな声。

 

 その携帯からかかってくるアドレスはいつも同じ相手、エレンスゲの教導官。

 彼女は今起きている大異変に焦っているようだ。

 

 教導官曰く、世界中の主要都市に怪獣達が同時に出現、各地のリリィが必死に進行を食い止めているとのこと。

 東京も例外ではなく突如現れた怪獣がミサイルや炎やらを吹いて大暴れ、バシャンドレを始めとする各レギオン、それに加え百合ヶ丘から外征に来た一柳隊なるレギオンが協力して戦っているらしい。

 

 「どうなっているの!? 怪獣達の出現はお前が今いる研究所から異変が起きたと同時に始まっている、これは偶然なんかじゃないわよね」

 

 「…………」

 

 「そっちで何が起きてるの!? なんで我々が秘密裏に開発していた人造巨人が本物のウルトラマンと戦っているのよ!?」

 

 京子が一切口を開こうとしないにも関わらず教導官は矢継ぎ早に質問攻めしてくる。

 相手の心境を意に介す余裕は今の彼女にはないようだ。

 

 「捕まえた巨人は万全な体勢で管理してるって言ったてわよね、主任はそう言ったはずよね!? まさかエーストロンが暴走してるってバカな話じゃないわよね!?」

 

 「…………」

 

 「いつまで黙っているクエレブレ! なぜかゲヘナと連絡が取れない今、正確な情報をこっちへ運べるのはお前しかいないんだよ!」

 

 いい加減うるさく感じてきた京子は携帯を拾い上げる。喚き声はより一層頭に響いてきた。

 

 「お前にはまだまだやってもらわなきゃならないことがたくさんある!

 まずは今戦っている二人の巨人を駆除してきなさい! エレンスゲの関与を示す証拠を徹底的に潰すのよ!」

 

 「…………」

 

 「お願いだからなんか返事をしてちょうだい!

 こっちもこっちで大変なのよ、保管していたはずの長射程高出力砲が何者かに全部破壊されてしまったせいでエレンスゲから攻撃できないの!

 犯人探しでわが校はいっぱいいっぱいなのよ!」

 

 彼女はゲヘナシンパの教導官だった。

 思想はゲヘナ一色に染まり切り冷酷無比。リリィもマディックもチェスの駒のようにしか思っていない彼女の命令は常に人命を軽んじているものだった。

 あまりの過激さに生徒どころか同僚からも疎まれていた彼女であったが京子は取り入った。

 ゲヘナとの太いパイプを持つ彼女なら強化実験に推薦してくれると期待し嫌悪感を押し殺してまで媚びへつらってきた。

 実験が終わった後も京子と主任との橋渡し役として何度も彼女の理不尽さに付き合わされることになった。

 全ては序列1位に登りつめるために我慢してきたこと。

 

 だがそれも今日で終わりだ。

 

 「うっせぇババア」

 

 積年の恨みを短く伝え、返事が来るよりも先に携帯を叩きつけて連絡を絶つ。

 

 これで教導官との腐れ縁から解放される。

 しかし京子の曇った目が晴れることはない。

 依然京子は空を眺めたまま。

 霧崎アリエは今も彼女の側に居た。

 

 「高出力砲を壊したのってあんた?」

 

 「はい。あんなもの学園にあるべきではありませんから」

 

 「そう」

 

 学園への裏切りを堂々告白されても京子は何の興味も持たずうずくまったまま。

 二人だけの静寂な空間に三つの影が入り込んでくる。

 

 「クエレブレ!」

 

 「隊長、ご無事でしたか」

 

 「あ、101位様も来てたんスね」

 

 序列11位、21位、131位、研究所から追い出したはずの部下達が戻ってきた。

 地上の騒ぎを見て自分達が何をすればいいか指示を仰ぎに来たようだ。

 

 「どうしますか、我々はどっちの巨人を攻撃すればよろしいのですか。といってももう暇を出された身ですけど……

 一応今期まではクエレブレですよね……来期が来るまではあなたのレギオンにいていいんですよね?」

 

 「いいえ違う、あなた達は既にクエレブレではないわ序列11位。

 いや………愛染(あいぜん) 尊(みこと)」

 

 「え………今、なんて………?」

 

 序列11位は自分の耳を疑った。

 今、京子の口から出た愛染尊とは他でもない11位の本名である。

 クエレブレに入ってからというもの一度も呼ばれなかった本名がこのタイミングで出てきて尊は反応に困った。

 

 11位に続けて、京子はアリエ、21位、131位の本名を呼び始める。

 

 「序列101位、霧崎アリエ。

 序列21位、馬場(ばば) 瑠美(るみ)

 序列131位、ザラ・ブライアン……

 で合ってるわよね?」

 

 「はい」

 

 「っ!? 私の、名前を……」

 

 「覚えてくれていたんだ」

 

 どういう心境の変化か、アリエはともかく他の三人は動揺した。

 本名を呼び出したのもそうだがなによりも、染みついた野心をきれいさっぱり洗い流したかのような毒気の抜けた表情に戸惑いを隠せない。

 

 「”今すぐこの崩落地から立ち去り学園に戻ること”

 これを最後の命令にしてクエレブレは解散とする。

 ここから出ればもうあなた達は私の部下なんかじゃない、私の命令に聞く必要はないし、助ける義務もない。だから安全な所へ早く逃げなさい。

 ……今まで、雑に扱ってきて悪かったわね」

 

 今までとは全く違う、部下の生存を第一優先にした命令をされて驚いた尊、瑠美、ザラ。

 毒気が抜けたどころかこれではまるで干からびた花。水を与えられることなく砂漠の真ん中で朽ち果てた花のようだと、今の覇気のない意気消沈した隊長の顔を見て3人はそう思った。

 

 何があったのか心配ではあるが、今まで盾のように雑に扱われてきたことに何も思うところがないわけでもない。一人を除いては。

 暴君から解放されることに一抹の安堵を感じたの事実である。一人を除いては。

 

 「ど、どうするっスか?」

 

 「………隊長の命令は、絶対」

 

 考え込んだ末、最初に瑠美が踵を返す。ザラもついていってクエレブレから二人抜けた。

 残りはアリエと尊、しかし二人は中々抜ける気配がない。

 

 「別に試しているとかそんなんじゃないから、去っても何も恨まないわよ。

 早く行きなさいよ」

 

 「私達が去った後、クエレブレはどうするおつもりですか?」

 

 話したら去ってくれるのかと思って、京子は淡々とした口調で尊の問いに答えた。

 

 「事態の責任を取る。機械の方の巨人を破壊する。絶対に壊す、刺し違えても」

 

 「「……!」」

 

 部下が来るまでぼんやりと座り込んでいたとは思えないほどの即答。

 だが二人は気付いた。なんで京子がすぐに向かわなかった理由に。

 

 「今回の事件、元はと言えば私の功名心が招いた事態。

 1位になることに執着して手段を間違い続けた末路があの巨人なら、私はそれを壊して全部終わらせる。

 終わらせたいのよ……悲しいことに耐えて、酷いことに手を染めて、それでも夢が叶わないリリィ人生、こんなの続けてたって辛いだけよ……」

 

 京子はレギオンを巻き込ませないためにずっと彼女らが揃う時を待っていたのだ。万が一戦う自分を見て、加勢に来ることがないように。

 このエーストロン事件を引き起こした側のリリィとして、その責任をたった一人で抱え込もうとしていた。

 例えその重みに耐え切れず押し潰れても構わない、命を持って償えるのなら本望とすら思っている。

 自分の人生を狂わせる原因を作ったエレンスゲとゲヘナ、その両者に関わる何か一つと心中できるならそれでいい、京子はもう夢どころか生きることすら諦めている、燃え尽きてしまっているのだ。

 

 虚無感に囚われている京子を見て、アリエは少し前までの自分と重ね合わせる。 

 悲しみを理解し、そこから来る自暴自棄な行動に至る心理を共感する。

 

 そしてアリエは気付く、リリィになった意味を確かめに来た少女は自分と同じく”道を間違えてしまったリリィ”を見たことによりやるべきことを理解した。

 

 「私もご一緒していいですか」

 

 「ダメに決まってるでしょ。

 私は命令したのよ、クエレブレは解散するって。

 部下を見捨ててきた私を見捨てることがあんた達の最後の任務なのよ」

 

 「でも、私は既にクエレブレを裏切りました。今はどこの部隊にも属さない一介のリリィです。

 だからあなたの命令を聞く必要なんてないのですよ」

 

 こいつこんな屁理屈言うような奴だったのかと呆気に取られている京子を尻目に走り出すアリエ。

 向かう先は、一葉に弾かれた京子のチャーム(ティルフィング)が落ちている方向。

 丸腰の京子にはリリィの走力を抜けないことを分かった上で先んじて彼女の無謀に釘を刺していく。

 

 「あ、ちょっと!?」

 

 「放っておいたら死ぬ気みたいなので先手を打たせてもらいました。

 命を投げ捨てるような戦いはしない、必ず五体満足で戦闘を終える、この二つを約束できるのならチャームを返してあげてもいいですよ」

 

 反応に遅れた京子にはもうアリエを追うことができない。

 しかし京子に焦りはなく、自殺したいという意思すら思い通りにならない人生のもどかしさに自嘲するだけ。つくづく自分は不幸の星に生まれてきたようだ。

 思い通りにならない者といえばアリエの他にもう一人いた。そいつは未だに後ろに突っ立っている。

 愛染尊だ。副隊長の任を解かれてもなお、彼女は京子の側から離れようとしていない。

 

 「あんたはどういうつもりでここに残っているのよ。

 私の事を誰よりも恨んでいるのはあんたでしょ」

 

 「私は……」

 

 「ずっとあんたをこき使ってきた。ずっとあんたに我慢させてきた。

 私が貰ってきたものは数えきれない程あるけど、私が与えたものは数える程もない。

 ”京子さえいなければもっと楽に生きてこれたのに”、そんな風に思ったこと一度くらいはあるでしょ尊?」

 

 「そんなことはない。一度もあなたを恨んだことはありません。一度たりともあなたにいなくなって欲しいと思ったことはありません。

 副隊長を務めてきたのは地位が欲しかったからじゃない、あなたが隊長だったからです」

 

 「どうして……そんな風に言えるのよ?」

 

 「それは……私は……あなたの…………あなたの……」

 

 尊の口から次の句が出なくて沈黙が過ぎる。

 やっぱり彼女は恨んでいたんだなと、京子は尊にしてきた仕打ちを顧みる一方で、ほんの少しだけ寂しい気持ちになった。

 

 寂しいと思う気持ちが僅かに体温を下げる錯覚を感じた瞬間、下がった温度を上回る暖かさに包まれた。

 

 これは錯覚なんかじゃない、体中で感じているのは確かに現実のものだ。

 実在している人間の体温だ。

 

 人を憎むようになってから久しく感じぬ人肌を、その温もりを与えてくれているのは他でもない尊その人。

 意を決して彼女は告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 「だって私は、あなたの……お姉ちゃんだから……」

 

 姉が一つ年下の妹を抱きしめる。

 かつて京子より先にリリィに選ばれた従姉、それこそが愛染尊だったのだ。

 尊が京子のレギオンにしがみついていた理由、それは京子が同じ家で育った姉妹同然の少女であったからに他ならない。メンバー同士が知り合うことを許されないクエレブレ唯一の『例外』が京子と尊である。

 どんなに性格が歪んでしまっても、妹に向ける姉の愛は変わらなかった。

 

 「お従姉(ねえ)ちゃん……」

 

 「ごめんね、今まで何も力になってあげられなくて……

 マディックになった時も、ゲヘナに手術された時も、見ていることしかできなかった、周りに逆らうのが怖くて何もできなかったの……」

 

 不当な扱いに苦しむ中、一緒に暮らしてきたはずの姉が助けてくれないことが妹に取ってどんなに不安で悲しいことだったか分からない尊ではない。

 彼女もまた京子を狂わせた一因、それすら飛び越えて元凶と言っていいまでもある。少なくとも尊はそう思い詰めている。

 

 尊は責任を感じていた。だからクエレブレの副隊長にしてもらうよう懇願したのだ。

 どんなに人望が薄くなっても京子が一人ぼっちにならないために尊は従順な副隊長であり続けた。

 

 「でも結局あなたのためにできたことなんて一つもなかった……

 やっぱり私は臆病で、あなたを正すことよりも従うことを選び続けて……

 最後にはあなたに捨てられた、妹を一人にしてしまった……!」

 

 「ずっと、私の事を想ってくれたの?

 助けてくれない酷い姉だと思い込んで恨んでいた私の事を、ずっと妹だと思ってくれていたの……」

 

 「だって私達、家族じゃない。だから分かるのよ。

 繋がりの輪がとても狭くても、外にいる人達を酷く恨んでいても、輪の中にいる人達への思いやりは決して失くさない、仲間思いの優しい子だって知ってたから……私はその輪を広げてあげたかった」

 

 京子の瞳に枯れたと思っていた涙がまた零れる。

 

 とうの昔に捨てたと思っていた繋がりをお姉ちゃんの方はずっと掴んでくれていた。

 頼まれもしないのに、思えば彼女はずっとそうだった。

 臆病で引っ込み思案で自己主張の薄い、それでも妹にはとっても優しかったお姉ちゃん。

 優しい家族に囲まれていたからこそ、自分と同じ輪にいる人達を想い守りたいと思い始めたのがリリィになりたいと願った原点であったはずだ。

 色々なものを捨てて歪に変わり果てた妹を最後の最後で振り返らせたのは、出会ったときからずっと変わらずにいてくれたお姉ちゃんの献身であった。

 

 自分が捨ててきたものをお姉ちゃんが拾い集めてくれたから、まだ全てを失っていない。自分はまだ独りじゃなかった。

 

 私にはまだ希望がある、虚ろな瞳に光が灯ると同時にアリエがティルフィングを抱えて戻ってくる。

 生気を取り戻した瞳をする京子を見て、アリエは取りに行っている間に彼女が立ち直りつつあることを察した。

 

 「………」

 

 アリエは多くを語らず、ただチャームを差し出してくる。

 しかし目は物を言う、先ほどと変わらぬ自暴自棄で戦いに臨むなら渡さないと強い視線で覚悟を問いかけてくる。

 

 「誰も守ることをしなかった私はリリィ失格だ、マディックでいる資格すらない……

 でもこんな私でも最後に成し遂げたいことがある」

 

 「それは?」

 

 「私が成し遂げたいこと……それは――」

 

 返答を聞き満足したアリエは笑みを浮かべチャームを握る手を緩める。

 落ちたティルフィングを握りしめ、そして正樹京子は――――

 

 ◆◆◆

 

 ウルトラマンエースとエーストロンの戦いは熾烈を極めた。

 同じ姿同じ能力を持った者同士激しくぶつかり合う。

 

 「バーチカルギロチン!」

 

 「バーチカルギロチン!」

 

 二つの三日月型の光刃が衝突し、互いが互いを切り裂いた。

 つまり相打ち、同じ威力の技を同じタイミングで放ったがための当然の帰結。

 

 「パンチレーザースペシャル!」

 

 「パンチレーザースペシャル!」

 

 「真似すんじゃねぇ! アロー光線!」

 

 「貴様こそ! アロー光線!」

 

 その場に最も適した光線を選んでいるがために笑いそうになるくらい光線が被る。

 相殺されたらすぐさま次の光線、荒廃した崩落地に極彩色の光が飛び交う。

 その幻想的かつ危険な光景に目を奪われながらもリリィは光線の嵐に巻き込まれないようによけ続けていた。

 されど戦意は衰えず、最高のタイミングで援護をする機会をじっと堪えて伺っている。

 やがてその瞬間が訪れる。

 

 「今度こそ倒れろ! メタリウム光線!」

 

 「甘いわ! メタリウム光線!」

 

 威力の高い光線同士が2人の中心点にて激突。

 すぐには相殺されず力の弱い方が押し込まれる鍔迫り合いが始まった。

 中々決着が付かずビームの境界線から漏れ出したエネルギーが周りに飛び散り出す。

 周囲の建物を吹き飛ばしていく様は鍔迫り合いの凄まじさを演出してるかの如く。

 同等の力で撃った光線なら互角?

 違う、同じ戦闘力でもヤプールにはないものが始にはある。

 それは仲間。

 

 「今です! 一斉攻撃!」

 

 ここぞとばかりに一気呵成に攻め立てるヘルヴォル。光線の構えを崩せないヤプールにはそれが防げない。

 狙うのはエーストロンの脛一点。

 巨人の姿勢を崩さんと装甲に何度も刃が叩きつけられる。

 

 「ぐっ、ちょこざいな……」

 

 リリィを煩わしく思った瞬間、鍔迫り合いの均衡が崩れる。

 ほんの少しだけ一葉達に意識が向いた事で光線への集中力が途切れたのだ。

 厄介な敵はウルトラマンだけ、リリィなど恐れるに足りず。

 そんなヤプールの驕りを的確に突いた渾身のサポートが局面をエースの有利に傾けていく。

 

 (このまま一気に押し切る!)

 

 ヤプールの隙に乗じて始は光線の威力を大幅に上げた。

 体勢がずれたエーストロンは対処が間に合わずじりじりと押し負けていく。

 エーストロンにメタリウム光線が当たるまであと僅か、このままいけば押し切れると確信を持って始は腕に込める力を強めていく。

 

 だがヤプールはしぶとい。

 始に仲間がいるように、ヤプールにも彼にはないものを持っている。

 突如胸部の装甲が開閉し、偽造されたカラータイマーが引っ込められると代わりに現れたのはウルトラマンの青い水晶とは違うギャラクトロンの赤い水晶体、即ち光線の発射口。

 

 「ギャラクトロンスパーク!」

 

 ギャラクトロンスパークを上乗せされたことによってエーストロンの押し戻す力が倍増、あと一歩のところでエースのメタリウム光線が届かない。

 

 「同じ能力ならばギャラクトロンの力を持つエーストロンが負けるはずなどない!」

 

 光線の鍔迫り合いはギャラクトロンスパークが加わったことによりエーストロンの完勝、押し負けたエースは遥か後方へと弾き飛ばされてしまう。

 

 「始君っ!」

 

 「よそ見をしている場合かぁ!」

 

 空高く蹴り上げた際の風圧がエーストロンの足元にいたリリィ達を吹っ飛ばす。

 銃の反動で飛ばされる勢いを殺しつつも一同は歯噛みする。

 

 やはりエーストロンの戦闘力は絶大だ。

 エースと同等の力にギャラクトロンの武装が足されている上にそれを操るのはヤプール。

 長い間死闘を繰り広げてきたヤプールにはエースの手の内が全てお見通し、エーストロンを一番効率よく動かせるのはヤプール以外の他にいない。

 いうなればエースとヤプールとギャラクトロンの三身融合(ウルトラフュージョン)、楽して勝てる相手では断じてない。

 

 正攻法では勝ち目はない、そう感じているのはヘルヴォルだけでなく始も同じ。

 

 圧倒的実力差に震えながらも立ち上がろうとするエースの喉元寸前にギャラクトロンブレードが差し向けられる。

 さっさと刺せばいいものを、もう勝った気でいるヤプールはさらに欲張った。

 ヤプールの狙いは巨人と融合した少年を魔道に落とし、ウルトラマンに心も体も敗北感を与えること。

 

 「負けを認め命乞いをしろ、エースの姿でそうすれば見逃してやってもよいぞ」

 

 「誰がお前なんかに!」

 

 強い意思を持って始は降伏勧告とブレードを跳ね除ける。

 不良時代さながらの喧嘩殺法で殴りかかるもヤプールはそれを軽々といなし挑発するのを止めない。

 

 「お前が屈すれば私は超獣軍団を引かせ一時の猶予を与えてやるというのだぞ、この星が救われるにはそれ以外の方法などない。

 私という脅威がこの星には必要なのだ」

 

 「どういう意味だ!?」

 

 「怪獣大量発生の黒幕たる私が討たれればエースがこの星に長居する必要はなくなる。すぐさま自分の次元に帰っていくだろう。

 その時奴は空間の歪に結界を張っていくはずだ、二度と私のような闇の存在が現れないよう強固な結界をな。

 強すぎる結界はウルトラマンすらも弾くだろう」

 

 『『!?』』

 

 ヤプールが語る衝撃の事実に一同の目が見開く。

 悪意の権化の話を鵜呑みにするのは不用心だが、充分現実味のある内容であった。

 

 ずっと考えてきたことだった。

 いつかはその日が来ると覚悟してきたことだった。

 心のどこかではそうならないで欲しいと思う気持ちが少しだけあった。

 

 怪獣を全て倒し終えた後のウルトラマンがどうするのか、そんな疑問が各々の胸の内に秘められていた。

 その疑問が今、明確な形で答えられた。

 二度と怪獣も巨人もやってこない世界にするという、最も衝撃的かつ最も納得できるアンサーで。

 

 「本当に良いのか、ウルトラマンがいなくなって?

 ヒュージとやらに蝕まれる地球を救うには、ウルトラマンが必要ではないのか?」

 

 永遠の別離がはっきりと明かされて、一瞬だけ心が揺さぶられる。

 生じた迷いを見逃さずに悪魔はさらなる揺さぶりをかける。

 

 「私が死ななければウルトラマンがずっとこの星に居続けてくれるのだぞ。

 その方がお前達には都合が――」

 

 「エースブレード!」

 

 悪魔の口車を銀の刃が物理的に塞ぐ。

 エーストロンの口元が裂かれ中の機械が露出する。

 自慢のご高説が邪魔されてよほど不快だったのか、ヤプールは黙りこくってエースを睨みつける。

 

 「べらべら喋りやがって。無駄口叩かないと息できねえのかテメェはよぉ」

 

 ヤプールがいる限りウルトラマンとも一緒にいられる。

 そんな誘惑をいの一番に跳ね除けたのは、巨人の恩恵を最も受けているはずの始だった。

 

 「ヒュージはあくまでこの星の脅威、違う星の人の力をあてにするのは間違ってる……

 そうだったよな、恋花、瑶!」

 

 「……! ああ、その通りよ!」

 

 「言い出しっぺが覆すわけにはいかないよね」

 

 信念は人から人へと伝わり、時として自分の元に返ってくることもある。

 かつて諭した言葉に奮い立ち、ヘルヴォルは迷いを振り切った。

 途切れていた弾幕が張りなおされて戦闘が再開する。

 

 「ならば後悔するがいい!

 ちっぽけな正義感によってこの星が滅ぶことを!」

 

 交渉の余地がないと見なし、容赦を捨てたヤプールの攻撃はより一層激しさを増す。

 その迫真の斬撃によってエースブレードもたまらず切っ先が欠ける。

 

 「まだだ!」

 

 剣は折れても戦意は折れず。

 エースブレードが折れてもなお、始は剣を振るい続けた。

 しかし勇気があっても、それだけではヤプールにダメージを与えられない。

 

 「無駄だ無駄だ、学習能力のない奴めが!」

 

 怒涛の連撃を受ける度に剣は壊れていった。

 先端からみるみるうちに削れていき、遂には柄だけになってしまっても始は構わず握りしめる。

 

 (今のままじゃだめだ、もっと鋭く、もっと固く、そうじゃなきゃ攻撃を防ぎきれない!)

 

 エースブレードがもっと固くなれば、そう思わずにはいられない。

 エースブレードよもっと強くなれと、念じずにはいられない。

 その思いが通じたのか、柄が僅かに固くなってエーストロンの腕を受けて止めた。

 

 急に頑丈になった柄にヤプールは不可思議に感じるが始は即座に理由に気付く。

 

 (そうか、これが星司さんから借りた力か!)

 

 柄が固くなったのは星司から託されたウルトラ念力が土壇場で発動したからであった。

 

 最初は偶然に起きたまぐれでも、感覚を覚えたのならものにできるはず。

 インナースペースの始は目を閉じて精神統一、折れたエースブレードを作り替えようと試みる。

 より使いやすい形に、より便利な能力を付け足して。

 自分自身が抱く強さの象徴をストレートに思い浮かべる。

 

 頭のイメージがはっきりと形になった瞬間、奇跡は起きた。

 

 「今度こそ砕け散れい!」

 

 ヒビだらけになった柄にとどめを一撃を振り落とすヤプール。

 腕が落ちてくるまでの刹那にエースブレードが眩しい光に包まれ進化する!

 

 「砕けるものならやってみやがれ!

 この世界を守ってきた正義の象徴を!」

 

 新しい姿になったエースブレードがエーストロンの攻撃を防ぐ。

 今度は折れずに受け止めきった。

 

 「なんだと!?」

 

 ヤプールは驚愕する。

 今まで揺るがなかった優勢が剣の形が変わっただけでひっくり帰ったことに。

 

 ヘルヴォルもまた仰天していた。

 彼女達が驚いたのは何よりも変化したエースブレードの形状である。

 

 色は青、半月のような分かりやすいシルエット、面積の半分を占める太く大きな刃、柄の近くには丸いクリスタルが光沢を放っている。

 

 その形は紛れもなく、一葉の持つブルトガングそのもの。

 

 「ウルトラマンが、チャームを……!?」

 

 「すっごーい、らんあれ欲しいー」

 

 始の意思に答えてエースブレードが変化したのは巨人用サイズにまで拡大したチャーム。

 

 名付けるなら、『ブルトガング・ウルティマ』

 

 自分が最も心が強いと思う者達と同じ形の武器を握り始の勇気が奮い立つ。

 

 「バカなっ!? こんなことはありえん!

 ウルトラマンがチャームを、巨人がリリィになるなど……

 ハリボテだそんなもの! 見てくれだけのエースブレードなど相手になるかぁっ!」

 

 「だったら試してみるか」

 

 動揺から荒くなるものヤプールの攻撃はいつにも増して激しくなる。

 さっきまでならまた砕け散るはずなのだが、ブルトガング・ウルティマになった途端に刃こぼれ一つもしなくなる。

 それどこかギャラクトロンブレードを弾いて反撃をし始める。

 無敵なはずのエーストロンの装甲に刃が通る、何度も斬りつけられたまらずヤプールは距離を取るべく飛び跳ねた。

 

 「ぐぬぉぉぉ、強度だけでなく動きも素早くなっているだと!?

 そんなバカな、ウルトラマンがチャームを使うなど不可能なはずなのに……」

 

 「知らないのか、不可能を可能にするのがウルトラマン、らしいぜ。

 だからこんなことだってできるんだ!」

 

 叫ぶや否や、ブルトガングの刃が引っ込み代わりに銃口が剥き出しとなる。

 ウルティマは見た目だけじゃなく変形機能まで再現していたのだ。

 チャームのトリガーを引くと銃弾の代わりに光線がヤプール目掛けて飛んでいく。

 

 「くらえ! これがチャームから撃ったメタリウム光線だ!」

 

 「腕で出すのと何が違うというのだ! 返り討ちにしてやる!」

 

 エーストロンは先ほどと同じくメタリウム光線とギャラクトロンスパークを同時発射。

 光線の押し合いはまたしてもエーストロンの勝ちと思われた。

 

 だがヤプールは見落としている。

 腕で撃つのと銃で撃つのとでは大きな違いがあることに。

 

 それは腕、銃を使うことで光線を撃つのに片腕だけで済み、もう片方の腕が空く。

 その腕で別の攻撃をすることも、可能。

 

 「ウルトラスラッシュ!」

 

 「!?」

 

 空いた片腕で光輪を発射、光線に両腕で使っているヤプールにはこれを対処できない。

 丸のこ状の光輪が深々とエーストロンの右肩に突き刺さる。それだけじゃなく回転を続けて肩をガリガリ削っていく。

 内部に秘められた稼働装置が異常をきたしメタリウム光線が停止しギャラクトロンスパークも勢いが衰え今度はエーストロンが押し負ける番、直撃した光線にギャラクトロンスパーク発射口を潰され機械の体が地面へ落ちた。

 

 「このぉ、リリィもどきがぁ!」

 

 ヤプール苛立ちを表すかのようにおびただしい数のマルチギロチンが飛んでくる。

 だが始は焦らない。ウルトラ念力を駆使してウルティマチャームをフォームチェンジ、ブルトガングからヴルンツヴィークへと持ち替える。

 

 「チャームを変えられないとは言ってないだろ!」

 

 頑強なブルトガング・ウルティマから軽快なヴルンツヴィーク・ウルティマに代わったことにより剣捌きがより素早いものとなる。チャームを握っていない方の手でスラッシュ光線を撃ち続けることで弾幕への対応力も目に見えて変わる

 弾幕を難なく交わす内に余裕が生まれ、その隙に変形したヴルンツヴィークのスター光線がエーストロンへダメージを与えていく。

 

 正に圧倒的、ウルティマチャームを手にしたことによりエーストロンとの戦いを有利に運んでいるようにも見える。

 だがヘルヴォルはそうではないと見抜いていた。根拠となったのは、チャームを動かす力の源。

 

 「ねえ一葉、あれってもしかして」

 

 「はい、皆様の思っている通りでしょう。

 あのチャームはマギで動いていない、あれを動かしているのは恐らくウルトラマンの内なる光エネルギー」

 

 ウルティマチャームのトリックは実にシンプルなものだった。

 本来チャームを動かすマギをウルトラマンに内在する光の力で代用して無理やり動かしているのだ。実に始らしい破天荒極まりない仕組みである。

 普段は体内に眠っているエネルギーを効率よく運用することで始のエースは高い戦闘力を引き出していた。

 だがその代償はかなり大きい。

 雑巾のように力を限界まで搾り取るような戦い方をすれば瞬く間にガス欠を起こしてしまう。

 エースに変身して1分も経っていないが、時期にカラータイマーが鳴り出すだろう。

 

 「始は気付いているのかな?」

 

 「恐らくは、そうなるように考えたのも始さん自身ですから」

 

 始は賭けているのだ、生半可に力を抑えていてもエーストロンとヤプールのタッグは倒せない。

 敵に比べて経験の浅い自分が打ち勝つ方法は全身全霊あるのみだと彼は踏んだようだ。

 

 「始さんが短期決着に賭けているのなら私達も応じましょう。

 ノインヴェルト戦術です!」

 

 どの道エーストロンの装甲を抜くにはマギスフィアしかない。ノインヴェルト戦術こそがこの戦いに貢献できるただ一つの手段であるとみな認識していた。

 エースの優勢が続いている今こそノインヴェルト最大のチャンス、一葉の判断は間違っていなかった。

 

 しかし一葉は、ノインヴェルト戦術を行使するための大前提を忘れてしまっていた。

 

 「簡単に言うけどさあんた、特殊弾は持ってるの……?」

 

 「え……しまったぁー!?」

 

 一葉は頭を抱えて叫んだ。

 マギスフィアを作り出すための特殊弾にはギガント級以上のヒュージの体組織が使われていて一発数千万円はくだらないほどの貴重品。

 故に大量に持てる物ではなく、所持するには厳正な手続きを通さなければならない。アールヴヘイムのような最強クラスのレギオンでもない限りいち部隊が持てる数は一つが限度。

 その一発も先週のギャラクロン戦で使ってしまった。

 学園に申請し直せば新しい弾を用意してもらえれるのだが果たしてそんな余裕が一葉にはあっただろうか?

 ギャラクロン戦直後に保健室に運ばれて目覚めた時にはゼットン戦、その直後に始を連れ去られ一週間救出計画を練っていた一葉は特殊弾を申請することを完全に忘れていた。

 相澤一葉15歳、並外れて優秀だがどこか抜けている少女。そのおっちょこちょいな一面が致命的なタイミングで発揮されてしまった。

 

 「うん……色々大変だったからね……」

 

 「ごめんなさい、私が一言でも一葉ちゃんに聞いていれば……」

 

 「そ、そんな深刻な顔をしないでください。隊長の義務を怠った私の落ち度ですから……」

 

 反省会などしている場合ではない。

 そうこうしている内にもカラータイマーが点滅しだしエースの動きも荒くまってきた。

 今すぐにでも助太刀しなくてはならないのに肝心の方法が見当たらない。

 

 (あれ……もしかして……これって詰んでる!?)

 

 最悪の展開が頭に過ぎり汗が流れる。

 どうにかしなければと思っても名案は浮かばない。

 どうあがいても今のヘルヴォルにはノインヴェルト戦術以上の援護をする手段は存在しないのだ。

 

 今のヘルヴォルには……

 

 ヘルヴォルだ(・)け(・)では……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「諦めるな!!」

 

 突然遥か遠方から放たれた砲撃がエーストロンの胸を叩く。その砲撃には見覚えがある、ティルフィングのバスターキャノンだ。エレンスゲにおけるティルフィング使いといえば……

 来るとは思わなかった援護射撃に驚いているヘルヴォルの元へ援軍が駆け寄ってくる。

 

 来たのは研究所突入からずっと同行していた霧崎アリエ、彼女の所属するクエレブレの副隊長愛染尊。

 そしてその二人の真ん中に堂々と立つのは序列2位、正樹京子。

 ヘルヴォル最大の危機を救ったのは、ヘルヴォルを最も嫌っているはずのクエレブレだった。

 

 「特殊弾ならクエレブレだって持っているわよ、これを使いなさい」

 

 そう言ってクエレブレにあてがわれた特殊弾を投げ渡す京子。豪邸も買えるほどの貴重品を何のためらいもなく託す京子の気前の良さに一葉達は疑わざるを得ない。

 京子は手柄のためなら手段を選ばない危険なリリィ、ゲヘナと手を組んでいることも相まってそのあくどさはエレンスゲ随一である。

 この期に及んでまで良からぬことを企んでいるとは思えないが今までの悪行の数々が目に浮かんでつい身構えてしまう。

 他人に対する信頼を貯金で表すなら京子の信頼残高はとっくの昔にゼロを振り切っていた。

 

 自分に向けられる怪訝な視線が、今までの犯してきた過ちの結果だと受け止め京子は変わりつつある本心を語り出す。

 

 「もう懲りたのよ。薬漬けにされてまで強くなってもトップになれないのなら手柄にこだわる必要なんてない。

 序列1位への執着はさっき捨てたわ、だからもうあんた達の敵にはならないわよ」

 

 「それでも、罪は消えないわよ京子。

 あんたは人を傷つけ過ぎた、傷つけられた人全てがあんたを許すとは限らない……」

 

 「分かっている、これまでの清算をし終えたらすぐにでもリリィから退くつもりよ。

 そのためにも、心の奥に染みついた未練を断ち斬らないとね……」

 

 「未練、ですか?」

 

 京子の未練、それは先ほどアリエにも語った成し遂げたいこと。

 マディックの頃から続く自身に漂う呪いへの挑戦。

 

 「マディックの命は軽かった……戦う度に誰かが死ぬ、何かが壊れる……

 ずっと犠牲を無駄にするなと言い聞かせて戦ってきた、何人もの仲間を切り捨てなければならなかった」

 

 思えば自分の人生は喪失の連続だったと京子は振り返る。

 マディックの仲間を犠牲に戦果を勝ち取り、健康な体を犠牲にリリィになり、部下を切り捨てながら序列2位に上り詰めた。

 まるで呪いだ、何かを捨てなければ何かを得られないよう意地悪な神様が自分にそう運命づけているかのようだ。

 

 「仮に序列1位になったとしてもそれは変わらないと思う。

 それまでのやり方で夢を勝ち取ったとしても、失ったものの多さばかりに目がいって何一つ喜べなかったと思う……」

 

 リリィを辞めてもこの呪いが続く限り、京子の人生は満たされないだろう。

 満たされなければ不満となり、欠けた穴を埋めようと余裕を失くし、必死になっていく内にまた同じ過ちを繰り返し続けるのが目に見えていた。

 だからこの呪いに打ち勝つ必要があった。

 自分のためだけじゃなく、周りにいる全ての人達を傷つけないため。

 忌々しいジンクスを振り切るために、京子は新たな決意と共に戦いに臨む。

 

 「夢のために何かを失い続けるなんてたくさんだ、そんな呪いはぶっ壊す。

 もう誰も傷つけさせない、誰も見捨てない、諦めない!

 私は変わるんだこの戦いで、何の犠牲も強いずにあの化け物をぶっ倒す!

 リリィ人生最後の戦いは! 誰一人欠けることのない初めての戦いで終わらせて見せる!!」

 

 長い間犠牲が出るのを是としてきた元マディックの少女は、『犠牲を増やさない』ことを高らかに誓う。

 それは京子は本当の意味で人の命を守るリリィになれた瞬間でもあった。

 

 リリィを辞める覚悟を決めた戦いでリリィとしてのスタートラインに立てたのは皮肉か?

 そんな風に考えるものは少なくともこの場に誰一人ともいなかった。

 

 「クエレブレの方々はフィニッシュショットの経験はおありですか?」

 

 「えっ、何よ急に、ノインヴェルトは訓練でしかやったことがないわよ?」

 

 負傷による入れ替わりの激しいクエレブレは高度な連携を必要とするノインヴェルト戦術を実戦に用いない。

 そのためクエレブレの戦い方は単騎戦闘力の高い京子を前面に他の4人でサポートする変則型デュエル戦術という少々時代に逆行したものであった。

 

 「そうですか、パス回しなら問題ないと思っていいですね」

 

 「いや、何の話よ……?」

 

 ヘルヴォルの援護に回ろうとしていた京子は困惑していた。

 てっきり5人でパス回しするものだと思っていたが一葉は違うようだ。

 

 「ノインヴェルト戦術は貯める人数が多いほど重くなっていく。その分扱いにくくなりますが決まった時に威力は5人の時のそれを遥かに凌駕します。

 ギガント級でさえ束になっても敵わないかもしれないほどの強敵、それに一矢報いるためにも少しでも多くのパスを繋いでいきたいのです」

 

 「それってもしかして……」

 

 一葉が構想するのはただ一つ、二つのレギオンによる混合ノインヴェルト戦術。

 

 「力を貸してくれますか、アリエ様、京子様、尊様」

 

 あまりにも型破りな作戦に一同はざわつく。

 今まで一度も連携したことのない者同士のノインヴェルトは1流のリリィにとっても至難の業。相手の癖や能力を見誤れば途端にパスが途切れて全てが台無し、負けてはいけない局面でやるにはあまりにも大博打過ぎる。

 それに懸念すべき点は他にもある。ノインヴェルト戦術が成功するための最大の秘訣はマギスフィアを託す相手へを信頼する気持ち、長い間対立関係にあった両レギオンに果たしてそれがあるかどうか……

 

 「私のパスを受け取れるの?

 これまでずっとあんたを憎んできた、蹴落とそうとしてきた、ついさっきまで斬ろうとまでしてきたこの私のどこに信じられる理由あるというの……?」

 

 「リリィがリリィを信じることに理由なんていりますか?」

 

 そして一葉は右手を差し出した。

 一葉が京子に求めているのは至ってシンプル。

 太古の昔から続いてきた、どんな国でも共通する信頼と友情の証、即ち『握手』である。

 

 「あなたの決心を信じます」

 

 相手に向ける真っすぐな瞳が、今の言葉に嘘偽りがないことを証明する。

 相澤一葉は正樹京子を信じている。

 

 (まさかこんなに落ちぶれた私を信頼してくれる人がいるなんて……)

 

 部下を道具みたいに扱ってきたから、上層部と打算で付き合ってきたから、こんな風に純然たる信頼を向けられるのは新鮮であった。

 

 京子の脳裏にこれまでの一葉への思いが浮かび上がる。

 憎悪、嫉妬、激怒、今まで狂わせてきた負の感情、それとも今日でお別れだ。

 これから自分を変えるための戦いにそんなものはもういらない。

 今までの自分と決別するためにも、自分の過ち証明するような生き方をしてきた最も憎い少女と手を結んだ。

 

 「最初で最後の序列1位と2位の共闘よ、私より先に倒れたら承知しないからねヘルヴォル!

 いや……エレンスゲ女学園序列1位相澤一葉!!」

 

 「望むところです正樹京子様!

 単騎では最も強いと謳われる序列2位の実力、しかと拝見させていただきます!」

 

 互いの利き手を掴み合って信頼を目に見える形とする。

 学園最大の危機にエレンスゲ最も強く最も仲の悪い二人が握手したことでヘルヴォルとクエレブレの同盟が成立。

 それと同時、ノインヴェルト戦術の打ち合わせが始まる。

 

 「誰が誰にパスを回すか順番は重要ですね」

 

「なんたって5人一組が基本のエレンスゲのレギオンではめったに起こらない9人で繋ぐ正真正銘のノインヴェルト戦術だからね!」

 

 「らんは最後の方がいいな、その方が長く戦えるし」

 

 「私は2,3番目あたりにする、重くなった魔法球を支えるのは大変だから」

 

 ”neunwelt(ノインヴェルト)”とはドイツ語で”9つの世界”を意味する。

 リリィのマギを世界に見立て一つ一つ通っていくことでマギスフィアを育てていくという意味が込められている。

 ゆえにエレンスゲのレギオンが撃つのはフンフヴェルトと呼ばれる簡易版、二つのレギオンが重なることでやっと成立する本当のノインヴェルト戦術にヘルヴォルは興奮を隠せない。

 しかし京子は首を傾げていた、今始めるノインヴェルトも厳密には完全版ではないのではないかと頭がモヤモヤして突っ込まずにはいられない。

 

 「ちょっと待って、人数ちゃんと数えた? 私の勘違いかもしれないから一応確認しとくわね。

 私、お姉ちゃん、アリエ、一葉、恋花、瑶、千香瑠、藍……やっぱり8人じゃないの!」

 

 「わざわざこの場で指摘しなくても……」

 

 「まぁ、妹は数字に細かい子ですから……」

 

 8人で行うからこの場合は8つ(アハト)ヴェルトであるべきだ主張する京子であるが、なぜかヘルヴォルはノインだと言い張る。

 

 「いやあんたこそちゃんと数えてんの? 9人でしょ

 藍もそう思うよね~」

 

 「ね~」

 

 「確かに9人ですよ京子さん」

 

 「??????」

 

 「京子大丈夫? 宇宙を感じた猫みたいな顔してるよ?」

 

 ヘルヴォルとクエレブレとの間に認識のズレがあると感じた一葉ははっきりと真意を伝える。

 

 「ノインヴェルトを成立させる9人目。

 私達8人のマギが通った魔法球を最後に託す9人目は……

 あそこにいます!!」

 

 定規のような直線状の指が示す先に京子はひっくり返るほど驚く。

 

 

 指が指したのは何を隠そうウルトラマンエースだったからだ。

 

 「う、ウルトラマンとノインヴェルト戦術!?」

 

 「はい! 私達の全てのマギをウルトラマンに集中させ一気にエーストロンを叩きます!

 ヘルヴォルとクエレブレとウルトラマンの共同戦術、名付けてウルトラノインヴェルト戦術です!!」

 

 ツッコミどころが多すぎて逆にツッコミ切れない。

 あまりにも荒唐無稽な戦術だが、だからこそこの非常事態を終わらせる最後の手段に相応しいとクエレブレは感じ取った。

 

 「ちゃんとウルトラマンがマギを受け取れる確証はあるのでしょうね!?

 とりあえず信じてあげるから早く伝えてきなさい!」

 

 普通なら絶対に思いつかない、思いついてもやるわけないようなことを大真面目に実行して大一番で勝ちを掴む、一葉の勝負強さに京子は賭けることにして動き始める。

 

 「クエレブレ進撃! 魔法球作成までの時間を稼ぐわよ!」

 

 「「了解!」」

 

 京子の号令と共に散り散りとなって動き出すクエレブレ。

 デュエル戦術のエキスパートたる彼女達がエーストロンと肉薄している間に一葉はウルトラマンに向かって叫ぶ。

 

 「始さん、ウルトラノインヴェルト戦術を開始します!」

 

 「ウルトラノインヴェルト戦術ってなんだよ!? 初めて聞いたぞ!?」

 

 「ウルトラホールの使い方は前に教えましたよね!」

 

 「!!」

 

 ウルトラホール、それはエースの特徴的なトサカにある大きな穴のこと。

 この穴には光エネルギーを吸収する力があり、それを利用することで仲間のウルトラマンからエネルギーを受け取って自分の力に変えることができる。

 スペースQも本来はQuintet(5兄弟)の力を重ねたことで生まれた最強技である。

 その伝説が今、形を変えて再現されようとしていた。

 

 かつてウルトラ兄弟の技と武器を盗んだ異次元超人エースキラーとの戦いの末にスペースQを編み出したように、自身の光線をコピーしたエーストロンとの戦いにおいて、またしても新たな力を会得しようとしていた。

 

 コピーした後に編み出した技はエーストロンには扱えない。

 全く同じ能力を持つ相手を倒すなら、それまでよりも成長した力で臨むのが道理。

 そのためのノインヴェルト戦術、仲間のエネルギーを一つに集約することに長けたリリィとエネルギーを満遍なく受け取れるウルトラマンエースとの共闘にこれほど適した戦術は他にない!

 

 「任せろ! リリィが集めた希望、必ず受け止める!

 皆で繋いだ魔法で、あの絶望(ヤプール)をぶち破ってみせるぜ!!」

 

 「その意気です! フィニッシュショット託しまたよ!!」

 

 始とも意思疎通が終わり、いよいよ始まる。

 

 人間と巨人、リリィとウルトラマン、少女と少年。

 

 決して交わることの無い、別々に存在していたはずの真逆な者達が織りなす前代未聞のノインヴェルト戦術、『アサルトリリィの地球』に『ウルトラマン』が降り立ったことで始まったこの戦いを締めくくるのに最も相応しい共同作戦が始まった!

 

 「ウルトラノインヴェルト戦術開始! 恋花様、お願いします!!」

 

 「オッケイ! 初っ端から飛ばしていくよー、ついてきな!!」

 

 始点はやはり飯島恋花、軽快な掛け声がノインヴェルトの緊張を和らげ皆を最高のポテンシャルへと引き上げる。

 だが簡単にパスを回させてくれるほどヤプールは甘くはない。

 

 「何か悪足掻きを始めるようだな、そうはさせんぞ!」

 

 ゲヘナの主任に憑りついていたことでヤプールもこの世界の情報を隅々まで把握していた。

 リリィが集まって作り上げるマギスフィアによる一撃が状況やコンディション次第ではウルトラマンの光線をも上回る可能性があることを警戒していたヤプールはそれを妨害せんと奥の手を出してくる。

 

 「現れよ! 超獣達よ!」

 

 ヤプールが手をかざすとこの空間が異次元と直結しその影響で空に2つの穴が空く。

 穴から這い出てきたのはヤプールの秘密兵器。

 万が一の時乗り移るための予備の体として異次元に置いてきた隠し玉。

 ウルトラマンにとっては今まで戦ったことのない未知なる強敵。

 

 「カブト・ザ・キラー! バキシマム!

 小娘共を捻り潰せぇ!!」

 

 異次元超人カブト・ザ・キラー

 一角紅蓮超獣バキシマム

 

 既存の個体を改造強化することで誕生した最新最強の超獣コンビがノインヴェルト戦術を阻まんと迫りくる。

 

 「怪獣にモテても嬉しくないんですけど!」

 

 恋花の冗談も意に介さずカブト・ザ・キラーは歴代エースキラーがコピーしてきた光線技を駆使してマギスフィアを狙ってくる。

 

 恋花を守ろうと走る7人のリリィを遮るのはバキシマム、彼女達が牽制するように腕のバーナーで辺り一面を火の海へ変え、瞬く間に超人と恋花を囲む炎のデスリングを形成する。。

 

 「熱っ!? この温度レギオン服でも耐え切れませんよ!」

 

 「この超獣確実に私達を足止めしにきている……!」

 

 偶然間近で炎を感じた尊は即座に強行突破を試みる仲間達を制止する。

 尊の判断が遅かったら危うく全員火だるまになっていたところだろう。

 初手からいきなり初見殺しを仕掛けてくる超獣の悪辣さにヤプールの性根が垣間見える。

 火に当たらないよう距離を取って銃撃するもあまり効果はない。

 

 ウルトラマンもエーストロンの猛攻を防ぐのに精一杯、恋花は孤立無援の状況に追い込まれてしまった。

 

 「――――」

 

 戦闘機械であるカブト・ザ・キラーは作業的に光線を撃ち続ける。

 エメリウム光線、スペシウム光線、メビュームシュート、悪を倒すためのウルトラマンの光線が守るべき人間(れんか)に向けられるのは何とも背徳的で光の戦士の信念を冒涜しているかのよう。巨人が人間をいたぶる異常な光景を見て、ゲヘナにも同じようなことをするところだったと始は密かに内省していた。

 

 40mの巨人が殺意を持って攻撃してくる。

 紙一重で躱していく恋花であったがそれも長くは続くまい。

 並の人間なら委縮して助けを乞うであろう恐怖を全身で感じながらも恋花は怯えない、怯まない、泣かない。

 むしろ逆に戦意が上がってヴルンツヴィークを敵に向かって撃ち続けた。

 

 世界を騒がせる怪獣騒動、その黒幕を前にして恋花の怒りは爆発寸前。

 

 「他所の星に勝手に入って、勝手に荒らして……復讐だの文明自滅ゲームだの……

 ふざけんな! あんたらなんてお呼びじゃないっての!!」

 

 怪獣の大きい足は色んなものを踏み潰す。

 サラリーマンが必死に稼いで建てた家とか子供達で賑わう公園とか可愛い服がたくさん飾ってあった洋服屋さんとか、街に溢れる幸せや思い出を無自覚に壊していく怪獣が恋花は大嫌いだった。

 そもそも一葉だって最初の戦いで死んでいたかもしれなかった、おちゃらけていてそんな素振りを一度も見せなかったが、一番怪獣騒ぎを重く受け止めていたのは他でもない恋花だった。

 だから恋花の心が奮い立つ、怪獣を呼び寄せた元凶を前に、その走狗に銃弾を叩きつけながら恋花は叫ぶ。

 

 「ヤプール! 悪の魔王でも気取ってるようだけどあんたは別にラスボスでもなんでもない!

 勝手に部屋に入ってきたお邪魔虫、うざったいから新聞紙で叩かれるハエかカトンボ、リリィの世界にとって”異物”のあんたに居場所なんてないのよ!!」

 

 プライドに水を差す罵倒にキレたヤプールはもっと光線の連射速度を上げろとカブト・ザ・キラーに命令する。

 視界を覆い尽くすほどの光線を目の当たりにしても恋花は反復横跳びでそれを避け口を塞がない。

 

 「あたし達には夢がある! エレンスゲを変えるという大きな夢が! 皆それぞれの夢を抱えてリリィ達は戦っている!

 夢は必ず叶えて見せる! そのためにもヒュージに何の関係もないこんな寄り道みたいな戦いは終わらせてやる!!」

 

 「何をしているカブト・ザ・キラー! そんなちっぽけな人間お前の敵ではないはずだ!」

 

 ヤプールに急かされカブト・ザ・キラーが恋花に目掛けて左腕を振り落とす。

 シオマネキを彷彿とさせる巨大な鋏が恋花を真っ二つにせんと迫りくる。

 

 『クロースライサー』

 あらゆるものを切り裂く鋭利な刃が恋花を挟み、そのまま引き裂こうとして。

 岩にハサミで挟んだときのように刃がそれ以上恋花の体に入らない。

 

 「ちっぽけな人間に案外すごい力があったりするものよ。

 ”フェイズトランセンデンス”!」

 

 レアスキルにより硬化したマギの障壁が超人の鋏を防いだのだ。

 フェイズトランセンデンスを発動したリリィは無敵、無限大のマギを今度は筋力へと転化、鋏を掴んで勢いよく引っ張った。

 

 「乙女は根性ーーーーー!!」

 

 4万トンをも超える大質量を恋花は気合と根性とレアスキルで持ち上げる。

 フェイズトランセンデンス中とはいえ人が怪獣を投げるという大胆過ぎるアクションに皆度肝を抜かれた。

 

 「れんかすごーい! 今度らんにも教えてー」

 

 「藍さん、あれレアスキルだから教えられるようなものではないと思いますが……」

 

 カブト・ザ・キラーを炎のリングへと叩きつけ一本先取、決まり手、背負い投げ。

 

 「――!」

 

 バキシマムの強すぎる業火は同じ超獣の体に通用するようで炎に包まれたカブト・ザ・キラーは大慌てで鎮火に勤しむ。バキシマムも仲間を燃やさないために急いで周りの炎を吸い上げる。

 周りを覆っていた火炎が消えたのを見計らって恋花は千香瑠へとパス、それと同時にフェイズトランセンデンスも終了した。

 

 「受け取りました恋花さん!」

 

 「あとは任せたわよ、ふにゃあ……」

 

 怪獣を投げ飛ばすという規格外はフェイズトランセンデンスでもキャパオーバーだったようで恋花は立つことすらできずに仰向けに倒れ込んだ。コンクリートの床に思いきり倒れる姿は周りをヒヤヒヤさせる。

 だが駆け付けた瑶が抱えてくれたので後頭部を強打することはなかった。

 

 「いきなりレアスキルを使うなんて大分冒険したね」

 

 「言ったでしょ、初っ端から飛ばしていくって。

 先手で大きい一発決めた方が何かと有利に働くものよ」

 

 「そうだね、恋花のおかげでいい流れができている。

 ありがとう、後は私達がつなげるからゆっくり休んでね」

 

 恋花を安全なところへと隠して瑶は戦場へと戻る。

 これ以上戦闘に貢献はできないだろうが不安な気持ちは恋花には無い。

 魔法球を託した千香瑠は必ず次の瑶へと繋いでくれるだろう、なんたって彼女は強いから、ただ力があるだけじゃなく本当の強さを知っているから、恋花は安心して寝そべり回復を待った。万が一に備えて動けるようになるために。

 

 炎を吸収し終えたバキシマムが再び火を放つ。

 今度は無差別に振りまくのではなく圧縮した火炎弾で的確にリリィを一人ずつ焼き尽くそうと狙っていく。

 最初のターゲットはもちろん、現在のマギスフィア保持者千香瑠。

 

 対し千香瑠はヘリオスフィアを発動、防御せんと身構える。

 しかし火炎弾の熱量は絶大で結界すらも燃やしてしまう。

 

 「くぅ……」

 

 「フハハハ! そんなバリアなど超獣の前では紙同然よ!」

 

 段々とバリアが焦げていきついに限界に達してヘリオスフィアが崩壊、無防備となった千香瑠の眼前まで火球が迫る。直撃まであと一秒。

 

 「やらせません!」

 

 千香瑠の危機に真っ先に動いたのは尊だった。

 彼女は高速移動系のサブスキル、インビジブルワン用いて一瞬の間に千香瑠の元へと駆け付け、彼女を射程圏外まで逃がした。

 

 「ありがとうございます尊様」

 

 「いえいえお構いなく、クエレブレではこういうのが私の役目でしたから」

 

 魔法球は今も千香瑠が保持している。

 既にマギを注ぎ後は瑶へと投げるだけなのだが距離が遠すぎる。

 

 パスを送るべき相手の間にバキシマムと立ち直ったカブト・ザ・キラーが挟まってうまく投げられない。

 ヘリオスフィアが通用しない今、暴れ狂う超獣達を潜り抜けていくのは至難の業であった。

 

 「どうしますか、順番はズレますが一度私にパスしますか?」

 

 どうやって運ぼうか悩む千香瑠に尊が現実的な妥協案を示す。

 急な路線変更は混乱の元だが、インビジブルワンを持った尊の方が安全にマギスフィアを運べるのも事実。

 3年生として数多くの困難を踏破してきた経験から、作戦成功には時としてアドリブも必要だと千香瑠に説いた。

 

 理解はする千香瑠だが、やはり魔法球を譲るつもりはない様子。

 

 「それでも順番通りに回したいです。

 あなたのスキル、もう少しだけ皆さんのために使ってくれませんか?」

 

 「それは、構いませんけど……

 運ぶ算段はあるのですか?」

 

 「私に考えがあります」

 

 よほど自信があるのか絶対に瑶のところまで届けるという意思を感じる瞳を信じて尊は陽動を買って出た。

 彼女の得物『トリグラフ』は分離合体機能を持った高性能チャーム、双刃の剣を二つに分け二丁拳銃にすることもできる。高速で駆け回りながら四方八方を撃ちまくる姿はさながらアクション映画のスーパースター。

 尊が超獣を引き付けている一方千香瑠はというとエーストロンと格闘中の始に声をかけていた。

 

 「一発でもいい、私のいる方向に光線を撃って!」

 

 意図は分からないが意味は必ずあると信じ、始はストップリングでエーストロンの動きを数秒間だけ止め、その僅かな時間を千香瑠の頼みを聞くために使った。

 せっかくのチャンスを逃がしてあらぬ方向にパンチレーザーを放つ始にヤプールは嘲笑するばかり。

 

 始に撃たせて何をするかと思えば千香瑠は空高く飛び上がり宙を進む光線に向けて落下していく。

 そのまま落ちれば光線に当たって黒焦げになるだろう、だが千香瑠はそんなことのためにレーザーを撃たせたのではない。

 

 「”ヘリオスフィア”!」

 

 二度目のヘリオスフィアを足元に向けて集中展開することで足が燃えるのを防ぐ。

 それだけではない、防御結界が常に下にある光線を防ぎ続けている結果、光線に弾かれては落ちまた弾かれてとそれが短いスパンで繰り返される奇妙な現象が引き起こされる。

 つまり千香瑠がどうなっているかというと……

 

 「バカな!? こんなことが!?」

 

 「光(・)線(・)に(・)乗(・)っ(・)て(・)る(・)……!?」

 

 ヘリオスフィアをサーフボードに、粒子の波でサーフィンするという奇天烈極まりない方法で千香瑠は瑶の方へと向かっていった。

 ウルトラマンの腕や肩に乗った人間は多くいても、光線に乗った人間となれば千香瑠が初めてだろう。

 

 「てやぁぁぁぁぁぁ!」

 

 仰天するヤプールを尻目に光線のロードを滑走する千香瑠。

 レーザーの速度が移動速度、バキシマムが遮る間もなくマギスフィアは瑶の元へと届けられるだろう。

 

 「ヘリオスフィアを『盾』ではなく『板』に使うとは驚きだわ

 84位にあんなバトルセンスがあったなんて……」

 

 「いいえ違いますよ、千香瑠様のあれはバトルセンスじゃない。

 そんな狭い範囲でしか活用できないものではありません!」

 

 一葉は見抜く、窮地での思いつきにも見える奇抜な行動が千香瑠にとってはごく普通の、これまでの経験から来る閃きであると一葉は知っていた。

 

 パンチレーザーの間に佇む敵に銃弾を浴びせながら千香瑠は語り出した。

 

 「戦いとお料理は少し似ている。

 全く同じ食材でも調理法を変えれば味が変わるように、レアスキルも使い方次第では別の顔を見せたりします」

 

 すっぱいレモンから甘いレモネードが作られるように、ビーフシチューの調味料を変えた結果肉じゃがが生まれたように、工夫を凝らせばどんなものでも作り出せるのが料理というものだ。それは戦闘にも通ずる。

 大切なのは理解すること、それがどういうものでどんな結果をもたらすのか把握すること、そうすれば想像通りの味に調えられる、ヘリオスフィアを防御以外の方法で活用できる。

 相手を思いやり好みに合わせレシピを試行錯誤する日々が、千香瑠の計算力を高め戦闘技術を培わせていた。

 

 「力も料理も誰かを笑顔にするためにあるもの!

 どんなに力が強くても、何かを壊す以外の使い方を知らないあなたに私達は負けません!!」

 

 「ぐぬぬぅ、おのれぇ……!」

 

 どんなに悔しがってもヤプールの攻撃は届かない、狙いを定める前にウルティマチャームの銃斬撃がエーストロンを吹っ飛ばす。

 

 跳ね上がって光線から降りた千香瑠は無事にマギスフィアを瑶へと届けた。

 

 「瑶さん!」

 

 「任せて……!」

 

 千香瑠のマギと覚悟を受け取り、今度は瑶の番。

 マギを溜め込むチャンスを伺いながらもクリューサーオールを振り上げ果敢に接敵する。

 対しカブト・ザ・キラーは先代機ビクトリーキラーから受け継いだ奥の手を発動して襲い掛かる。

 

 「キラートランス、エレキングテイル!」

 

 怪獣の尻尾へと変貌した右腕が周囲の建物を薙ぎ払う。

 長大な尻尾に宙を舞うビルの残骸、どちらもリリィにとって命に関わる大質量の攻撃であった。

 

 「あの尻尾には強力な電流が流れています!

 回避に徹してください、無理に近づかず距離を取って!」

 

 一葉の言葉を聞いてリリィ達は飛び散る破片を足場に蹴り飛びながらテイルの範囲外まで逃げていく。

 的確な指示により電撃の餌食にされずに済んだものの今度はバキシマムが炎を纏い突進してきた。

 巨体を遮る建物がなくなった今バキシマムは全速力で走り出す。

 

 (建物を壊したのはこういう意味だったのね)

 

 銃撃も諸共せずに向かってくる66mは威圧的。辛うじて回避したもののすぐさま振り返ってまた突進してくる。

 

 今の自分の攻撃力ではこの暴れ牛を止められない、どうにかしなければ押し潰されてしまう。

 焦る瑶の選択肢に”エンレイジ”が浮かび上がる。

 負担はかかるがエンレンジの爆発的な攻撃力ならこの危機を突破できるのではと思わずにはいられない。

 

 エンレンジしかないのかと、悩み。

 この場を乗り切れるのはエンレイジだけだと、焦り。

 これしかないと、自身の向けてブレイブを放つ直前。

 

 視界の端に入ったエーストロンを見て、瑶は思いとどまった。

 

 力だけを求め続けた結果があのように足元をすくわれる末路にあるのなら同じ轍は踏むまい。自分のためにも、仲間のためにも無理を重ねることがよくないことなのは自分が一番分かっていたはずだった。

 怪獣との激戦続きで麻痺しかかっていた瑶の危機感が咄嗟の出来事で蘇る。

 

 (鍛錬を続ければエンレイジだって使いこなせるかもしれない……

 でも、それは私の戦い方じゃない!)

 

 エンレイジへの迷いを捨て瑶は自分らしい戦い方を取り戻す。

 決して目立たずとも、前へと進んでいく仲間達の背中を支える攻めよりも守りの姿勢、それが瑶の戦いである。

 

 「アリエ様! ”テスタメント”をお願いします!」

 

 待っていましたとばかりの反応速度でアリエはレアスキルを瑶へと付与する。

 

 テスタメントは対象のレアスキルの範囲を広げる希少スキル。

 天の秤目はより遠くを見えるようになり、フェイズトランセンデンスと重ねれば無限大のマギを第3者へと供給できる。

 そしてブレイブの場合は、効果範囲と付与限界人数の増加、通常では一人にしか付与できなくてもテスタメントで強化すれば目の前にいる全てのリリィに分け与えられることが可能!

 

 「この感じ、いつものようのブレイブだ!」

 

 「これがブレイブ、ルナティックトランサーと最高の相性を誇るレアスキルか。

 力が漲ってくる、いつもよりチャームが軽い!」

 

 「瑶様のブレイブが全員に、これなら!」

 

 一人ではできない、無理がかかることも仲間となら。

 強化された5人のリリィが奏でる銃弾の五重奏がバキシマムに膝をつかせ前のめりに転ばせる。返す刀でカブト・ザ・キラーにも斬りかかっていく。

 猛攻撃の前に敵が仰け反っている間に瑶は自分のチャームをアリエのチャームに合わせてマギスフィアを委譲した。

 

 「窮地に追い込まれてもなお、レアスキルを自分のためじゃなく仲間のために使うその勇気(ブレイブ)、しかと受け取りました」

 

 (そうか、私にもちゃんと勇気はあったんだ……)

 

 マディックを救えなかったあの時の自分から気付かぬ内に成長してきたことを実感しつつ、瑶は前線から一歩下がった。

 

 ヘルヴォル2年生陣が回し終え、クエレブレのアリエにマギスフィアが預けられる。3人分のマギはずっしりと重く、ブランクの長いアリエは落とさないように必死に抱えた。

 その姿をわき目で見ていたヤプールはチャンスを感じる、この中で一番練度が低いリリィが魔法球を持っている内に彼女ごと叩き潰せばこちらの勝ちだと邪悪な頭脳が勝算を撃ち出した。

 そうと決まれば選手交代、エースの相手を手下に任せ自らリリィの前に現れる。

 

 ストレート光線やムーン光線など、速射性の高い光線技でリリィ達を寄せ付けない。

 鬼気迫る機械巨人の爆走に一葉も京子も弾かれてしまう。

 ビルの壁へと吹っ飛ぶ二人を見てアリエは思わずマギを貯める手を止めて安否を問う。

 

 「だっ、大丈夫ですかー!?」

 

 「ご心配なく……レギオン服が守ってくれました」

 

 「こっちの心配よりもノインヴェルトに集中しなさい、敵がそっちに来てるわよ!」

 

 藍と尊の攻撃もネオバリヤーに阻まれエーストロンを止められない。

 アリエの手にマギスフィアがある限り、突き出したギャラクトロンブレードを降ろすつもりはヤプールには無かった。

 

 「そいつを渡せぇぇぇぇ!」

 

 「……そんなに欲しいのなら、あげますよ

 ほら、取りに行きなさい!」

 

 びっくりするくらいあっさりにアリエは要求を受け入れた。

 アリエのチャームから青白い光が誰もいない向きへと撃ち出され、主任に憑りついていた時に得た情報からあの光がマギスフィアで間違いないと判断したヤプールはアリエそっちのけで走っていく。

 あのまま光がヤプールの手に渡れば敗北は必然。

 

 「ちょっとあんた、どういうつもり!?」

 

 「まあまあそう焦らずに」

 

 必死に繋いできた魔法球を簡単に受け渡してしまったアリエに京子は食って掛かろうとするもなぜか千香瑠と瑶に宥められる。

 自分が回した分が無駄になるかもしれないのになんで平気でいられるか不可解だったが、耳まで寄ってきた瑶の囁きを聞いて納得した。

 

 「あはははは!、そうだったのね」

 

 「京子、笑うのもほどほどにね気付かれるかもしれないから」

 

 タネを聞いた京子に焦りや不安はなく、ただただ笑った。

 タネが分かれば笑わずにはいられなかった。

 

 ヤプールの追撃を反らしノーマークになったアリエはエースが戦っている方へと走り出す。

 目の前にはEXレッドキングナックルを直に暗い膝をついているエース、その肩に飛び乗り巨人の視線と同じ向きへチャームを構える。

 

 「信じていいんだよな!」

 

 「あなたが信じてくれるなら!」

 

 「背中は任せた!」

 

 リリィを肩に乗せウルトラマンは2大超獣に立ち向かう。

 

 エースがカブト・ザ・キラーと斬り結べばアリエは背後のバキシマムを牽制して寄せ付けない。

 バキシマムと撃ち合っている時にカブト・ザ・キラーが近づいてくれば、それを知らせて奇襲を封じる。

 

 さながら戦車に取り付けられた機銃、大きすぎて小回りの利きにくい巨人の隙を小さきリリィが縫う。大きさや威力の差を逆手に取って両者は弱点を補い、対等に支え合っていた。

 

 「少し目をつむっていてください!」

 

 「巨人の目でどうやって……うわっ!?」

 

 アリエが注意喚起したかと思えば突然真横で眩い閃光が迸る。

 目をそらしていた始は少し驚いただけだが、光を直視してしまった2体は思わず硬直、一瞬だけ相手を見失ってしまった。

 チャンスを作ってくれたのだと受け取った始はすぐさまゲイボルグ・ウルティマで一閃、超獣達を斬り飛ばす。

 

 急に光った原因が気になって目を肩に寄せるとアリエのチャームが変形していることに気付いた。

 肥大なブレードモードの刀身がバナナの皮を剥くように展開され中の無骨な銃口が剥き出しとなっていて、砲身から何らかのカートリッジが排出された。

 

 「エレンスゲに居座るための逃避のつもりでしたが戦うアーセナルというのも悪くないですね。

 自分でチャームを作れるということは想定した状況にのみ特化した変則機も用意できるということですから」

 

 どうやら先ほどの光は事前に用意したチャームの機能らしい。

 アリエは自作武器について解説を続ける。

 

 「救出作戦が主目的でしたから、あまり手荒なことはしたくない。

 だからこのチャームはなるべく相手を傷つけないように作ってあるのです」

 

 アリエのチャームには今しがた使用したスタングレネードに飽き足らず、テーザー銃、煙幕、捕獲網などといった”こけおどし”が複数備わっている。

 それは世にも珍しい、普通に戦うリリィにはまず必要のない『特殊工作戦仕様』のチャームなのであった。

 

 「そして少し前に撃ったアレもこけおどしの一つなのですよ……」

 

 アリエはニヤリと口角を上げる。

 何かを企んでそうないたずらっぽい目つきで先ほど撃ち上げた光を掴まんとしているエーストロンを見つめていた。

 

 「やっと手に入れたぞ!

 これで貴様らの勝ちの目は……」

 

 右腕のアームで光をつまみ勝ち誇ろうとするヤプールであったが、ここでようやく違和感に気付く。

 今掴んでいる光にはエネルギーが一切感じられない、よく見たらマギスフィアっぽく光っているだけの物体、それがヤプールが必死に追いかけてきたものだった。

 

 「残念でしたね、それはただの照明弾です!」

 

 リリィとしての最大火力であるノインヴェルトをちらつかせることで警備兵や研究者達を混乱させることを目的としていたマギスフィア風照明弾を咄嗟に撃ち出すことでアリエはヤプールに『フェイント』をしかけていたのだ。

 相手の罠に気付いた時にはもうマギスフィアはアリエから尊へとパスされていた。

 

 見下していた相手に一杯食わされたヤプールは烈火のごとく怒り狂う。

 しかしアリエは動じない。相手の気迫に物怖じすることなく毅然とした態度で睨み変えす。

 その姿にはクエレブレ在籍時代のおどおどしていた雰囲気はなく、彼女の成長が感じられた。

 

 「どういう気持ちですか、騙されたって感覚は?」

 

 人を欺きその心を弄ぶ悪魔が、かつて騙された結果心に深い後悔を抱いていた少女に謀られるのはある種の因果応報であった。

 

 「辛いですよね、悔しいですよね。

 それがあなたがこの世界に与えた痛み、少しは理解できましたか!」

 

 「私をたばかってただですむと思うなよ!」

 

 騙されてもなお悪は己を顧みず、もう狙う理由がないにも関わらず私怨でアリエを攻撃する。

 

 撃ち出されるギャラクトロンの右腕、高速で直進する鉄塊に当たればリリィといえでもただではすまないだろう。ただでさえ防御力が弱まりがちなテスタメント使いであるならなおさらだ。

 

 だがアリエは焦らない。

 なぜなら今彼女が立っているウルトラマンの肩こそ、この場において最大の安全地帯なのだから。

 

 「忘れてないか、お前の相手は俺なんだぜ!」

 

 飛んでくる右腕を迎え撃つべく、エースはゲイボルグを全力で投擲。

 エースファイヤーがエンチャントされたゲイボルグは炎の矢と化してエーストロンの右腕を貫いてそのまま溶かしきった。

 

 「助かりました。あなたにとっては少々複雑かもしれませんけど」

 

 「助けたいから助けた、それだけだ」

 

 少々不愛想な返しだが、ゆっくり安全なところへ降ろす手の動きから、相手への細かい気遣いがあることをアリエは見逃さなかった。

 

 「お気をつけて、根拠がありませんが、あなたはきっと勝てます」

 

 「……ありがとよ」

 

 それだけを言うと始はアリエを守るようにエーストロンを迎え撃つ。

 決して仲良くはなれずとも互いを思いやれる奇妙な信頼関係が始とアリエの間に芽生えつつあった。

 

 エースとエーストロンの対決が再開され、超獣達も標的をリリィへと戻す。

 

 今マギスフィアを持っているのは尊、ノインヴェルトも後半に入った今、敵の攻撃はより一層激しいものとなっていく。

 味方が減ってサポートに頼れない現状苦戦は必至かと思われたが尊は敵の猛攻を難なく躱していく。

 サブスキルなしでも尊の身のこなしは一級品であった。

 

 「これでも3年間ずっと上位をキープしてきたんですよ! 序列11位は伊達じゃない!」

 

 隊長クラスには届かなかったものの司令塔向きレジスタに加え高速で移動できるインビシブルワンを備えた尊の対応力や守備力は学園指折りで『チームの弱みを補う副官タイプ』のリリィとして堅実な評価をされていた。

 歴戦の猛者たる教導官からも一目置かれている彼女であるが、その人生が全て順風満帆であったかというとそうでもない。

 

 体に宿るマギを挿入しつつ、心に根付く京子との過去に思いをはせる。

 

 愛染尊は幼い頃にヒュージによって両親と故郷を奪われた。

 行き場のない彼女を引き取ったのは、親戚である正樹家だった。

 新しい家族として暖かく迎え入れてくれた正樹家であったが尊は複雑な気持ちがあった。

 

 いくら優しくしてくれても彼らは本当の両親ではない、自分もまた彼らの本当の子供ではない。

 あくまで血縁関係があるだけの居候なのだと戒め、正樹家の人間に遠慮するようになっていった。

 特に京子には、正樹家の本当の娘には何よりも気を遣っていた。

 

 わがままを許し、欲しいものをあげ、京子を傷つけず腹立たせず、彼女にとっての『優しい姉』であろうとした。

 

 (そうやってあの子の機嫌を損ねることだけを気にしてる内に、いつしか私は人の顔色ばかり窺うようになっていった……)

 

 その癖はエレンスゲに入学するとより悪い方向へ向かっていった。

 異議があっても反感を買うのを恐れて主張しない、なるべく多数の意見と同調するように努める。無害で人の良い人格を装っている内に、いてもいなくても変わらないどうでもいい人間に成り果ててしまった。

 だから京子が回りから嘲笑されていても彼女を庇うことができなかった。あちらを立てればこちらが立たず、大多数の敵にも京子の敵にもなりたくない一心で尊はどちらの味方にもならなかった。

 

 (でもそれは間違いだった、相手を傷つけることになったとしても自分の意見をあの子にぶつけるべきだったんだ!)

 

 姉である自分が日和見した結果、京子は人体実験に手を出した。

 もしゲヘナの車に乗る妹の手を掴んでいたら、京子が心を歪めることはなかったのだろうか? そんな疑問が尊の脳に焼き付いて離れない。

 京子はいやいや連れていかれたのではなく自分の意思で実験を受けた。無理に止めようとすれば怒るかもしれない、関係が修復できないほど嫌われるかもしれない。だけど……

 疑問に対する答えを京子は数分前に見つけていた。

 

 (やっぱりあの時止めるべきだった。嫌われても、憎まれても、あの子に未来のためにも叱る勇気を出すことが必要だったんだ!)

 

 決して怒らないことが優しさだとは限らないことを尊は知った。

 間違ったことをしたなら何が悪いかをちゃんと指摘する、道を誤りそうならばふんじばってでも止める。

 京子の幸せを本気で望むなら、優しさだけでなく『厳しさ』も与えなければならなかった。

 

 京子を変えたのが彼女を肯定ばかりしてきた尊ではなく、堂々と本人の目の前で否定した一葉だったように。

 『あなたは間違っている』と隣で歪みを正せる相手が京子には必要だったのだ。

 

 「今更かもしれないけど、そんな資格はなくなってるかもしれないけど!

 もう一度お姉ちゃんをやり直したい! 本気で叱って本心でぶつかり合って、妹が幸せなる未来へ導ていける……本当の意味での”優しい家族”になりたいんだ!」

 

 二丁拳銃から二刀流へ変形、挟撃する超獣の間を三角飛びで斬りつけ回る。

 後悔を抱えながらも姉は妹のために果敢にトリグラフを振るう。

 その姿は偶然にも妹に歩むべき道を示していた。

 

 自分の間違いを認め、されども罪の重さに潰されることなくそれを教訓としよりよい自分へ変わっていこうとする姉の姿が、自らの愚かさに気付き始めた妹には輝いて見えた。

 

 「けいこのお姉ちゃん、かっこいいね」

 

 「ええ、本当にすごいよ……あんなすごい人に重荷ばかり背負わせてきた自分が悔しい……」

 

 「らんにも4人のおねーちゃんがいるよ。

 そのおねーちゃんが言ってた、悪いことをしたらごめんなさいだって」

 

 「そうね。

 詫びるためにも、家族になるためにもこの戦いは終わらせなくちゃ!」

 

 京子は奮い立った。

 何としてもノインヴェルトを成功させてヤプールを撃ち滅ぼさねばと。

 尊と家族でいられる世界を守るためにも、彼女を襲うあの超獣達は自分の手で撃ち滅ぼす。

 

 それは京子にとって初めての経験。

 敵を倒すためではなく、仲間を守るために自身のレアスキルを解放する。

 

 「”ルナティックトランサァァァァァァァァーー”!!」

 

 最近使えずじまいだった序列2位の切り札(レアスキル)、本邦初公開。

 

 トランス状態に身を落として戦闘力を倍増、自分が制御しきれるギリギリのラインで力を高めて京子は大地を蹴る。

 

 砲弾のように飛び出した彼女が向かう先はカブト・ザ・キラーの左腕、尊の背後に迫る死の大鋏。

 その鋏を蹴りを入れつつ踏み台にして超人の顔を斬りつけた。

 

 「京子!」

 

 「この蟹男は私が引き付ける! お姉ちゃんは早くマギスフィアを!」

 

 「分かった! あまり無理しないでね……」

 

 そう言いつつも尊にはあまり不安はなかった。

 誰よりも長い間京子を見てきたから、彼女の強さは尊が一番よく知っている。

 尊の期待通り、京子はルナティックトランサーとティルフィングを駆使した得意のデュエル戦術でカブト・ザ・キラーと互角に渡り合っている、この場は京子に任せてもよさそうだ。

 妹を信頼するのも姉の務め、キープしていたマギスフィアをノインヴェルトの6番手、藍へと明け渡す。

 

 「かなり重くなってきてます、ご注意を」

 

 「大丈夫だよ、皆の思いが入った重みなららんへっちゃらだもん!」

 

 ギシギシと不穏な音を立てるモンドラゴンに嫌な予感は覚えるものの、事前にレジスタでかけた『魔法球の保護』が役立ってくれると信じて尊は藍に後を託す。

 動ける仲間が減ってきた現状、ここで超獣を倒しておかないと最後の送球が困難になる。

 幸いにも京子によって2体が分断された今こそ敵戦力を削るチャンス。

 

 「かずは! あの怪獣を一緒に倒そう!」

 

 藍と一葉の連携攻撃がバキシマムの皮膚を裂く。

 この調子で押し切ろうと斧を握りしめる藍であったが、一葉は不審に感じていた。

 

 立て続けに攻撃されてもなお反撃する様子がない、さっきまで焼け野原にせんばかりに炎を振りまいていたのに今では電池が切れたおもちゃのように全く動かなくなっていた。

 

 相手が急に停止したことに藍も疑問を感じ出した時、バキシマムが少しだけ動く。

 

 動いたのは首、向きは左下、それは奇しくも藍一人だけに目を向けているよう。

 

 「貴様が超獣を倒そうとは滑稽だな佐々木藍」

 

 「っ!」

 

 バキシマムを通してヤプールが口を開き、一葉に汗が流れる。

 どう考えてもヤプールは藍に話しかけている。

 何が目的で個人相手に話しかけるのか、よりによってその相手がこの場で一番幼い藍であることに一葉は悪い予感がしてならない。エースの記憶の中でヤプール幼い子供を利用してきたことは一度や二度ではなかった。

 

 「ゲヘナの幹部に憑りついていたおかげで私はこの世界のことをお前達よりも知っている。

 強化リリィ、特型ヒュージ、違法改造型チャーム……ゲヘナが陰でしてきたことは全て私の知識に入っているのだ

 当然、お前の事も知っているぞ佐々木藍。ゲヘナの研究者が、お前の家族がお前に対してしてきたこともな!!」

 

 背筋が凍り付く。誰か一人というわけではなくこの場にいる全員がヤプールの言葉によって冷や汗を流す。

 ヘルヴォルはもちろんのこと、彼女達から直接話を聞いていた始も、主任から噂を聞いていたクエレブレも、藍に隠された真実を知っていた。

 一度世間に知れ渡れば藍が普通に生きていけなくなるほどの重大な秘密が最悪の相手に掴まれていることに悪寒が走る。

 

 「や……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 ヤプールが藍にしようとしていること。

 例えるならそれは、コウノトリが赤ちゃんを運んでくると聞かされた幼児に強姦の全容を見せつけるような下種で最低な行為。

 幼さ故に自分の境遇に気付けない少女にヤプールは彼女のおぞましい真実を告げる。

 

 「妙だと思わなかったか?

 今までヒュージと戦ってきて傷一つつかなかったことに、時折他のリリィとは隔絶した力を発揮できたことに疑問を抱いたことはないのか?

 それは全て自分自身の強さで為された偉業とでも思っていたか」

 

 「はっきり言おう、お前は胎児の時にヒュージ細胞を入れられた生まれながらの強化リリィだ。

 だから今まで傷を負うことがなかった、体にあるヒュージ細胞がお前をヒュージから守ってきた。

 仲間だと思ったからヒュージは攻撃してこなかったわけだ、同族と殺し合うなんて野蛮なことをするのは人間くらいだからな」

 

 「このことを知って私は親近感を覚えたぞ。

 人間が人間を改造し、人格を歪めて都合の良い道具にする。ククク、私と同じだな。

 私もウルトラマンと戦わせる超獣には余計な感情が芽生えないよう徹底的に改造しているからゲヘナの考えていることは手に取るようにわかる」

 

 「佐々木藍!

 お前は私の造る超獣となんら変わらないのだ!」

 

 心ある人間を心を持たぬ超獣と同一視する。

 藍の尊厳を踏みにじる最低最悪の侮辱に親しき者はみな激怒した。

 今までしたことのないような荒ぶった表情でありったけの銃弾を撃ちまくる一葉。

 ノインヴェルトを終えた恋花達でさえも僅かなマギをヤプールへと叩きつける。

 下手なラージ級なら秒でミンチに変わるほどの猛攻、その熾烈さは4人が藍を愛していることの証、その藍を最悪な表現でこき下ろしたヤプールに対する憤怒の証左であった。

 

 それほどまでの怒りを身に受けても尚、ヤプールは口を止めず涼しい顔。

 

 「私の言ってることがそんなにおかしいか?

 お前達は大事にしていても研究者共はこいつを道具としか思っていないようだぞ?

 『戦うための生物兵器』というコンセプトで造られたことに超獣との共通点を見出して何が悪い」

 

 「いい加減黙らないとぶっ飛ばすよ!」

 

 「どうやってぶっ飛ばすつもりだ、力尽きた身で?

 そのガキに『黙らせろ』とでも命令するつもりか?」

 

 一葉達は藍を『人間』として見て、ヤプールは藍を『怪獣』としてしか見ていない。

 大前提が違うので両者の口論はひたすらに平行線、言葉での勝負なら性格の悪い方が勝つ。

 根本に優しさがある一葉達はいくら怒っていても口に出す言葉にブレーキがかかるが、性根から腐っているヤプールにはそれがない。

 ヘルヴォルが唱える正論も暴論に捻じ曲げられヤプールの口を塞げない。

 

 『お前は人間じゃない』『人間は人でないものを受け入れない』『都合の良い道具でなければ人間はお前の存在を認めない』

 ヤプールの語る人間像は歪んでいるようで部分的には的を射ている。

 人を騙すコツは真実を少しだけ隠すこと、差別や戦争といった人間の負の一面だけを見せることで藍が『人間は愚か』だと思い込むよう誘導する。

 

 「らんが……超獣……?」

 

 藍は混乱して呆然と立ち尽くすだけ、その無防備な耳に悪魔なの囁きが入り込んでいく。純粋な心が悪意で汚染されていく。

 それ止めようとするのはヘルヴォルだけじゃない。

 油断していたヤプールを虹色の光が直撃する。

 エーストロンの脇腹を貫いたのはエースのタイマーショットだった。

 

 「お前の相手は俺だってつってんだろ!」

 

 始もヘルヴォルと同様にヤプールの言葉に怒りを感じていた。

 藍の秘密を聞かされた時は驚いたものの、受け入れるのには時間はかからなかった。

 始もヘルヴォルと同じく藍を人間として見ている者の一人である。

 ヤプールの口を塞ぐべくクリューサーオール・ウルティマを振り上げ唐竹割りを放とうとする。

 体全体を振るった縦一文字、それが決まればエーストロンの装甲といえども大きい傷を与えるだろう。

 しかし怒りのままに威力の高い攻撃を選んだ結果、大きな隙を見せてしまう。歴戦の悪魔はそれを決して見逃さない。

 

 「未熟者めが!」

 

 「ガッ!?」

 

 ノーガードとなった腹にギャラクトロンブレードが突き刺さる。

 貫かれた体から血液の代わりに光が漏れ出し、早くなったタイマーの点滅が受けたダメージの深さを物語っていた。

 

 「はっはっは、腹筋を貫かれては動けまい」

 

 「ぐう……くそっ……」

 

 エースは腹を刺されて動けない、マギ不足のリリィの攻撃など痛くも痒くもない。

 邪魔者が消えた隙にヤプールは藍との会話を続行する。

 

 「この私と共に来い、人が造りし超獣よ

 私ならお前を人間達よちもうまく使ってやれる、お前の好きにさせてやる、今よりも遥かに強い戦闘力を与えてやろう。

 そうすればもっと楽しい戦いができるはずだ。こんな小さな世界では味わえないほどの極上の戦闘がな、戦うことが好きなんだろう?」

 

 「楽しい、戦い……?」

 

 「ダメよ藍! 惑わされないで!」

 

 瑶達は必死で引き留めようとするものの、藍は返事をしてこない。

 『楽しい戦い』というワードに釣られて誘惑に飲まれかかっているように見えた。

 

 「そうだ楽しい戦いだ。

 何者にも縛られることなく、何も守る義務もなく、壊したいものを壊し、命尽き果てるまで自分の力を全力で振り回し続ける怪獣のような戦い

 私の誘いに乗るだけで永遠の快楽が得られるのだぞ、何を迷う必要がある」

 

 ヤプールは確信していた。

 資料によれば藍は幼き頃から研究所で管理されていた。

 その研究所の中で彼女は常に『戦いは楽しいもの』だという価値観を刷り込まれ続けてきた。

 研究者達の都合のいいように刻まれた戦いを好む精神性は絶対に変わらない。どんなに善良に取り繕っても戦闘か仲間かの二択を迫れば戦闘を選ぶはず。

 生まれた時から他所の次元を襲う侵略者として生きてきたヤプールには生まれ持った価値観は絶対という思想がある。

 そういう思考回路があるために藍の体に宿すヒュージとしての側面が最後は人間を裏切ると確信してやまなかった。

 

 「……ちょっと聞いてもいいかな?」

 

 ほら来た、思い通りの反応が来てヤプールの心が弾む。

 やはりこの少女は筋金入りの戦闘狂、戦いに関する誘惑なら必ず乗るだろうと信じていた。

 佐々木藍が寝返ればレギオンの連携は崩壊、ノインヴェルトを潰せる上にウルトラマンへの人質も手に入る一石二鳥。

 あと少しの辛抱だ、策謀の実りを目前としてヤプールは藍に質問する権利を与える。

 どうせ戦いに関することだろう、それなら答えるのは容易い、そうヤプールは思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「異次元にたい焼きってあるの?」

 

 「…………は?」

 

 異次元人にとっては意味不明過ぎる質問にヤプールは固まった。

 遠くで恋花がお腹を押さえて小刻みに震える、こんな時にもたい焼きのことを考える食いしん坊を見てると吹き出しそうになって頬が膨らむ。

 場の空気にそぐわないと窘める瑶であった彼女も口元もちょっとだけ緩んでいた。

 

 図らずも藍の問いかけはヤプールに困惑を、仲間達には安心を与えていた。

 

 「ふかふかのベッドはあるの? 暖かいおふとんは?

 異次元にかずはたちも連れていける?」

 

 「い、一体何の話をしているのだ貴様は!?

 食事や睡眠程度、肉体改造を受ければそんな煩わしさから解放されるに決まっているだろう!」

 

 「そっか……じゃあやめる

 これでもやもやは晴れた、思う存分プルプルを倒せるね」

 

 「は……えっ……?」

 

 想定外の回答にヤプールは目を丸くするばかり。

 ヤプールには分からない、人間を愚かだと決めつけ、愚者はずっと愚者であり続けると思い込んでいる闇の存在には永遠に分かるまい。

 生まれた時からずっと同じ性格の人間などいないというのに。

 幼稚でも、愚かでも、出会いや経験を通して克服していくのが人間、藍もその一人である。

 

 「戦うのは楽しい、強くなれるのは嬉しい、ずっと戦えたらいいのにって考えたことあるよ」

 

 「でも、一人で戦うのはつまんない。前は平気だったけど、かずは達と会ってからは皆と一緒に戦うとすごく楽しいんだ」

 

 「うまく言葉にできないけど、戦うのが終わると寂しけれど皆が無事だとほくほくする。

 多分このほくほくのおかげで楽しくなるんだと思う」

 

 戦いの先にある結果、仲間も人々も無事でいられたことに対する達成感を藍は嬉しく思っていた。

 藍はただ戦うだけじゃなく、戦う意味も理解し始めているということだ。

 ヒュージと戦い弱き人々の守る楯となる、戦いを通して藍はリリィとしての使命感を自覚し始めていた。

 

 「だからプルプルの誘いには乗らない。いくら強くなっても一人ぼっちじゃ嬉しくないから。

 らんは皆を守るために戦いがしたい。守るのは大変できゅーくつだけど……それはきっとらんにとって大事なことだから! きゅーくつの後に必ずある喜びを皆と一緒に感じたいから!!」

 

 生まれ持った人格や幼い頃より焼き付いた価値観はそうそう覆せないもの。

 だからといって人が成長しないわけではない。

 戦闘狂だった藍は、仲間と出会い命の重さを知ることで守りながら戦うことを覚えた。

 そうして佐々木藍は戦(・)闘(・)狂(・)の(・)ま(・)ま(・)人の痛みを理解できる心優しい少女へと成長していった。

 

 「ヤプール、あなたは知らないようですね。

 確かに藍は戦いが大好きですが、それと同じくらい私達と一緒にいられることを嬉しく思う子なんですよ。

 単なる戦闘狂としての一面だけしか見ていなかったあなたに藍のことを知ったかぶる資格なんてありません!!」

 

 「ぐぬぅ……しかし! いくら人格があるからといってそいつがヒュージと同等の化け物であることには変わりないぞ!」

 

 論破されそうになったヤプールは論点をすり替え、藍に宿るヒュージ性の話へと切り替えようとする。

 しつこくもヤプールは藍を自分の方へと引き入れることを諦めない。

 その諦めの悪さが長きにわたるウルトラマンとの激闘の歴史を刻んでいた。

 そして現在において、その往生際の悪さは大きな隙になった。

 

 「背中がガラ空きだぜ」

 

 「何っ!?」

 

 ヤプールは驚愕した。

 串刺しにしていたエースが気付かぬ間に自分に近づきチャームを突きつけてきた。

 普通刺されたらそれを引っこ抜こうと離れようとするもの、だが始は逆に前に進むことでヤプールの虚を突いた。体に深い傷がつくことを恐れない大胆な接敵に流石のヤプールも物怖じする。しかも始の逆襲はそれだけではなかった。

 エーストロンの体をクリューサーオールが噛みつく、シューティングモードからブレードモードへ変形に巻き込ませる形で相手を挟んだまま銃口を密着させたのだ。ペンチのように閉まるクリューサーオールがエーストロンを掴んで離さない。

 剣を刺されて追い詰められた始にここまでの起死回生をさせたのは紛れもなく、藍を人間だとヤプールに認めさせたい気持ちであった。

 

 「生まれがどうしたってんだ! 人の腹から生まれたなら、人の細胞を持ってるならそいつは人間でいいだろ、グダグダ屁理屈ならべてんじゃねぇ!

 藍のことを『子供っぽい』とは思ったことはあっても『ヒュージっぽい』なんて感じたことは一度もねえ! ちゃんと接してみれば分かることだ、上辺だけで人を化け物扱いすんじゃねえぞゴラァ!!」

 

 人っぽいから人、怪物っぽくないから怪物ではない。

 実に不良らしい単純な論理性の欠片も無い判断。だがそれを始が言うことに意味がある。

 リリィともゲヘナとも無関係な一般人だった始や竜駆が藍を人間と見なしたことは、彼女が人間社会でも受け入れられるかもしれないと証明する良い前例となった。

 

 「ウルトラシャワー!」

 

 ヤプールを黙らせるべくクリューサーオール・ウルティマから放ったのは超獣をも溶かす溶解液。

 鋼でできたエーストロンにとって最も受けたくない技を零距離で流されヤプールは焦る。

 必死にもがいても右腕のギャラクトロンブレードが刺さっているためエースから距離を取ることができない、相手を苦しめるはずの攻撃を逆手に取ることで始はヤプールを追い詰めていく。

 

 「ぐおおおお!? バキシマム、早くこいつを引き離さんか!」

 

 これ以上溶かされたくない一心でヤプールはやけに出た。

 停止させていたバキシマムに再び動くよう指示、その頭部に飾った巨大な角で自らの右腕を断ち斬らせる。

 これで何とかウルトラシャワーから逃れたものの右腕を失ってしまった。左腕もさっき弾かれて今のエーストロンには両腕がない。

 パンチレーザーや電撃キックで応戦するも五体満足のエースに攻めあぐねるばかり、巨人のカラータイマーは早鐘のように鳴って制限時間まであとわずかだが、それが訪れる前にこちらが倒されかねない。

 こんなに追い込まれてしまったのもすべて藍のせい。交渉が無駄だと知っていれば時間を潰すことはなかったのに、一方的な逆恨みを藍に対して抱くヤプール。異次元の悪魔はそうやって常に何かを憎むことで怨念の力を増していった。

 

 「もういい! 貴様などいらん!

 私の誘いを乗らなかったことを地獄で後悔するがいい! やれバキシマム!!」

 

 沈黙を破りバキシマムは攻撃を再開、ヤプールの感情を代弁するかのような爆炎が藍を襲うが、その程度で怯むような彼女ではない。

 炎を飛び越え銃弾を撃ち込み、その斧が狙うは超獣の腹。

 

 「らんには守りたい皆がいる! ヘルヴォルも竜駆もたい焼きも、それだけじゃなく、まだ見たことのない素敵なものをらんは見たい! 守りたい!

 だかららんはリリィなの、超獣なんかじゃないよ!」

 

 リリィとして皆と一緒にいられる世界を守るために藍はモンドラゴンを振り下ろす。巨大な斧がバキシマムの腹に深い傷を負わせるだろう。

 全力を出した藍に限界はない。

 

 

 限界が来たのは、チャームの方だった。

 

 バギャッ!

 

 斬りつけた瞬間、モンドラゴンが激しい音を立てて粉々に砕けた。

 

 「あれ?」

 

 リリィはチャームを持つことで初めてマギを操ることができる。 

 チャームが大破したことにより、藍の力が一気に衰えるのは必然。

 

 「チャームが壊れた!?」

 

 「さっきまでのエーストロンとの戦いで大分刃が摩耗してしまっていましたからね……」

 

 「むしろ今まで長く持ちこたえた方だと思う……」

 

 多少長持ちしても壊れるタイミングが悪すぎる、超獣を目前に力を失った藍は人生史上最大の危機に陥っていた。

 

 「させるかぁー!」

 

 「藍! 私の手を掴んで!」

 

 藍の危機に始と一葉は迅速に動いた。

 始が光線を連射してバキシマムの注意を引きつけ、その間に一葉が藍を抱き抱え安全な所へ着地。藍の命は守らたものの状況は危うかった。

 一葉は優先順位を定めて一つずつ現状の把握に努める。

 

 まずは藍本人の安否。

 一通り触診してみたが問題はない模様。飛び散った破片は奇跡的に藍を避けたようで彼女の身体には少しの傷もついていない。

 

 次はマギスフィア。これも無事みたいだ。

 事前に発動していたレジシタがうまく作用してくれてマギスフィアは露散することなく宙を舞っている。

 地面に落ちる前に拾い上げればノインヴェルトはまだ続行できそうだ。

 

 そして最後、モンドラゴンの破損状態。

 

 「どうですかアリエ様、どうにか直せそうですか?」

 

 「マギクリスタルコアは無傷のようです。だけど他の部分の損傷が激しすぎる。

 パーツを全部取り換えるくらいしないとどうにも……」

 

 「そうですか、やはり……」

 

 チャームの本体たるコアが無事ならばモンドラゴンからコアを外し、他のチャームに憑りつければもう一度戦えなくもないのだが、そう都合よくはいかない。問題はどのチャームと取り換えるかだ。

 

 仲間からチャームを借りたら今度はそのリリィが丸腰になる。

 予備のチャームなんてデッドウェイトになりかねない代物を持ち歩いている者もここにはいない。

 

 ないものはどうしたって手に入らない。

 

 残念ながら藍はここでリタイアするしかないのか?

 

 いや違う。

 

 一葉達は見落としていた。

 この場にはまだ藍が使える分のチャームが一つだけ残されているということに気付いていない。

 なぜならそれは、あまりにも堂々とありすぎて逆に選択肢から除外してしまったものだから。

 

 「藍! これを使え!」

 

 一葉らが見落としていた物、それはウルトラマンエースの持つウルティマチ(・)ャ(・)ー(・)ム(・)。

 

 藍が手に馴染むようモンドラゴン型に変化させたウルティマチャームを少女に目掛けて投げ渡す。

 

 始は強引な運用方法をしているだけで、ウルティマチャーム自体はチャームのスケールアップ版なので仕組みは大体同じ。

 理論上はリリィもウルティマチャームを使うことができる。

 ”理論上は”という枕詞がつくものは大抵ろくでもないのだが……

 

 「いやいやいやいや無理でしょ!? こんなバカデカいの持てるわけないでしょうが!?」

 

 元より人の身長よりも大きいモンドラゴン、それが巨人用にまで拡大されれば40mは優に超える。到底人間が持てる代物ではない。

 

 「やったー、これ欲しかったんだ、ありがとねはじめー」

 

 「今回だけだからな、壊すんじゃねーぞ」

 

 「正気かアンタら!?」

 

 こいつら重さの概念が頭にないのか……?

 恋花の制止も空しく、モンドラゴン・ウルティマに向けてマギクリスタルコアを投げる藍。本来コアがある部分に藍専用のコアが吸い込まれ術式が起動する。

 これでチャームは藍の物になったのだがいくら人より力のある彼女でもあのデカブツを持ち上げられるとは思えない、精々支えるので精いっぱいだろう。

 

 「こうなったら私達のコアも投げよう!」

 

 「瑶まで何言い出すの!?」

 

 突飛なようで瑶がやろうとしていることにも一理はある。

 全容が巨大化しているウルティマチャームはコア挿入部分も当然通常機よりも大きくなっている。容量が大きくなっているのなら入れられるコアも一つじゃないはず。

 だから全員のコアを集めて負担を共用すれば人間にも巨大チャームを扱える可能性が出てくる。

 

 「一人では不可能でもも仲間と一緒なら可能に、それがレギオンですよね。試してみる価値はあると思います!」

 

 「ああもうっ、どうにでもなれー!」

 

 やらないよりはマシだと自分に言い聞かせ恋花も瑶のアイディアに乗る。

 投げ出された3人のコアも予想通りモンドラゴンが取り込み水晶体に新たなルーン文字が刻まれる。これでチャームは4人の物になった。

 

 「私もご一緒させていただきます!」

 

 一葉も加わったことでヘルヴォル全員のコアがモンドラゴンへと集結、一か所に集まった五人の元へ落ちていく。

 

 「うわああああ、思ってたよりもめっちゃ重い~!」

 

 「無理しないで恋花、私の方に寄せていいから」

 

 「なんて質量、まるでビルがのしかかってきてるかのような……」

 

 あまりの重量に足元のコンクリートにおびただしい数の亀裂が走ったものの、モンドラゴン・ウルティマは無事にキャッチされた。

 恋花達が必死に汗を流して支えている中、藍だけは笑顔でいた。

 能天気なわけではなく彼女も押し潰されないよう抱えるのに一生懸命でいたが、その苦労よりも大きい感情が心にあったから藍は笑う。

 

 「あははははは! らん今すっごく楽しい!

 みんな一緒! みんなでチャーム持ってる! みんながいればらんは世界でいっちばん幸せなの!」

 

 辛くても、大変でも、仲間が分かち合うなら耐えられる、もっと大きなことを成し遂げられる。

 一人で戦うだけでは得られない、大好きな仲間と一緒だからこそ叶えられる楽しみが確かにそこにあった。

 

 「ねえかずはかずは! もしかしてらん達は世界で一番大きなチャームを持ってるの!?」

 

 「う~んどうだろう? 少なくとも複数人でやっと持ち上げれるチャームなんて誰も作ったこと無いんじゃないかな」

 

 「ということはさ! 今のらん達が世界で一番強いレギオンってことだよね!!」

 

 「そうかな……? いや、そうかもしれないね。つまり今の私達ならなんだってできる!!」

 

 先頭は藍、神輿のように柄を担ぎ、最大最強のチャーム使いと化したヘルヴォル。

 無敵になった彼女らがするべきことは二つ、宙を舞うマギスフィアの回収とバキシマムの撃破。

 どちらも困難を極めるが今の自分達ならそれが可能だとヘルヴォルの全員は強い確信を抱いていた。

 

 「いっせ~の~で……”レジスタ”!」

 

 「れじすた~」

 

 「いや掛け声みたいに言わないで!?」

 

 一つのチャームを5人で共用してもチャームを手にしてる以上レアスキルを使えるのは当然。

 一葉のレジスタによりレギオンの身体能力が上がり相対的にモンドラゴンが軽くなる。

 

 「前進します、息を合わせてください!」

 

 「ムカデ競争の要領だね」

 

 連携を高めるためにしていたムカデ競争の成果がこんな直接的な形で発揮されるとは思っていなかったが、何はともあれモンドラゴンを抱えたまま一気に駆け出すヘルヴォル。

 バキシマムから見ればそれは、小さなアリが日本刀を支え合いながら向かってくるかのような衝撃の絵面、心があるならば声が裏返るくらい驚いたことだろう。

 超獣は恐怖を知らないが、自分を殺せるものを知らぬわけではない。

 恐れや焦りではなく対処すべき脅威として認識し、寄せ付けまいと火炎弾をまき散らす。

 モンドラゴンの巨体が守ってくれるものの、大荷物を抱えている関係上急な方向転換ができないヘルヴォルは炎を避けられない。

 

 熱さを耐えてつっきるか、負傷の覚悟を迫られたその時、始が動く。

 

 「ウルトラギロチン!」

 

 エースの援護、手のひらから飛び出た八つの光輪の内、七つは超獣の周囲を飛び回って皮膚を裂く。もう一つはというと横向きのまま地面スレスレで一葉達へと向かっていくではないか。

 始の意図を一番早く理解したのは千香瑠だった、なぜならそれは千香瑠が最初に考案したものだったから。

 

 「”ヘリオスフィア”!」

 

 それはパンチレーザーの時の再現、全員の足元を千香瑠の防御結界で覆い、光輪の側面へと飛び乗った。

 

 エースの念力により光輪はリリィを乗せて空高く上昇、マギスフィアへと向かっていく。

 激しい空気抵抗もなんのその。

 

 「たとえマギがからからでも、乙女は根性ー!

 心はいつもフェイズトランセンデンスーーーーー!!」

 

 レアスキルを発動した”つもり”になって恋花は柄を掴む腕に気合を入れる。

 その気概のおかげか、強い風にさらされてもモンドラゴンは安定したまま高く飛び上がり遂にはマギスフィアへと辿り着く。

 

 「今だよ藍、マギを込めて!」

 

 「わかった!」

 

 「私達ももう一度、体に残るマギを全て捧げましょう!」

 

 藍達のマギが注ぎ込まれて魔法球はまた一段と大きくなる。

 これでノインヴェルト戦術再開、次はバキシマムだ。

 この高さから一気に振り落とせばすなわちギロチンの刃、いかに強化された超獣といえでも一太刀の元に命と体は斬り落とされるだろう。

 

 だがそれを知ってやすやすと見逃すバキシマムでもない。

 

 バキシマムが豪快に首を振るうと一本角が頭を離れて飛んでいく。

 これこそバキシマムの切り札『一角紅蓮ミサイル』

 炎を纏った角型ミサイルはブーメランのよう飛び回って漂っていた光輪7つを破砕したのち上空にいるヘルヴォルの元へと突貫していく。

 勝利を目前にして一転、このままでは回転するミサイルを避けきれずに全滅してしまう。

 

 正に絶体絶命、そうその時、瑶がいぶし銀のファインプレーを見せる。

 

 「”ブレイブ”!」

 

 ミサイルが衝突する直前、先頭の藍にブレイブをかけて彼女以外の全員を押して光輪から飛び降りた。

 瑶達がいた場所を素通りしてミサイルは空振り明後日の方向へと飛んでいく。

 危機を脱したものの光輪から離れた4人は地面へとまっさかま、コアをモンドラゴンに預けたままの彼女達では受け身を取れず転落死してしまう。

 しかし恐れはない、4人の感情を満たすのは死への恐怖ではなく藍への信頼。

 

 「大丈夫だから! 藍はチャームに集中して!

 あの超獣はあなたが倒すのよ!!」

 

 「よう……」

 

 「藍ちゃんならできるって信じているわ!

 リリィとして戦う道を選んだ藍ちゃんなら必ず勝てる!!」

 

 「ちかる……」

 

 「もしドジったらおしおきだからね~

 脇腹こちょこちょの刑に処すから覚悟しときなさいよ~」

 

 「………」

 

 「なんであたしだけ呼ばないのよ!? あーもういじわる言って悪かったわね!

 あんたはドジったりなんかしないわ、いつもの感じでぶっ飛ばしてきなさい!!」

 

 「れんか……ちょっといじわるだけど優しい……」

 

 自分なりの声援を藍へと送り、落ちていったリリィ達は無事エースの手のひらに救出される。

 チャームを抱えたままの藍の瞳と大きな手の上に立つ一葉の視線が合わさり合う。

 そして一葉も藍にエールを送った。

 実に一葉らしい、簡潔かつ直球で信頼に満ちた一言の声援を。

 

 「藍! ルナティックトランサー、発動しなさい!!」

 

 「……! 分かったよかずは。らんの一番かっこいいおねーちゃん……」

 

 面倒を見てくれて、叱られることもあるけど褒めてもくれる、そして何より自分の事を大切に思ってくれている、そんな優しいおねーちゃんに藍は恵まれていた。

 血は繋がらなくとも心が強く結びついている。

 百合ヶ丘の疑似姉妹(シュッツエンゲル)にさえ匹敵する強固な信頼関係が藍と4人のヘルヴォルの間には存在していた。

 

 大好きな”姉”に背中を押されて”妹”は覚悟を決める。

 

 「”ルナティックトランサー”!!!」

 

 暴走を促す危険なレアスキルを迷いなく発動。

 先に当てられたブレイブによってルナティックトランサーは精神を安定させたまま高度な戦闘力を自由に解放できる。

 さらには身に宿るヒュージ細胞さえも糧にしてギガント級にさえも致命傷を与えられるであろうほどの攻撃力を一瞬の内に高める。

 リリィもヒュージも関係ない、それが自分自身だと言わんばかりに藍は持てる力を全てウルトラマンがくれたウルティマチャームへと集中させる。

 そのまま力を高めて前のめりに体を下向きへ、チャームの重みに振り回される形でぐるんぐるんと空中で回り出す。

 

 「瑶さん、もしかしてあれって……」

 

 「そうだね、藍はきっと光輪の真似をしているんだと思う」

 

 「ほんと……すごい子だよ藍は」

 

 「ええ、なんたってヘルヴォルの攻撃の要ですからねあの子は!」

 

 上から落ちてくる刃に慄いてももう遅い。

 ブーメランはまだ戻ってこず、空へと撃ちまくった火炎弾もチャームの回転によって弾かれる。

 そうやって機械的に迎撃する姿は、皮肉にも迫りくる死に怯えているようにも見えた。

 

 「そりゃーーーーーーーーーーーー!!」

 

 藍が引き起こしたモンドラゴン・ウルティマの大車輪がバキシマムの脳天をかち割り、そのまま刃を通していく。

 

 名付けて『モンドラゴンギロチン』

 仲間が繋いだ力を必殺の一撃に変え藍は大超獣の体を真っ二つへと斬り裂いた!

 

 「やるじゃねえか、お前やっぱ強えんだな」

 

 「違うよ、らんが強いんじゃないよ。

 ”みんなと一緒にいる”らんが強いんだよ」

 

 「そうだな、確かにお前はヤプールの言うような化け物なんかじゃないさ

 誰かを守りたい時に強くなれるお前は間違いなくリリィだ、胸を張れ」

 

 「えへへ、ありがとね」

 

 ヤプールが呼び寄せし超獣コンビの一角、バキシマムはヘルヴォルの連携によって倒された。

 だがまだやるべきことが藍には残っている。

 それはノインヴェルト、皆が回しマギスフィアを7人目へと繋ぐ役目がまだ残っている。

 

 「けいこ~、いっくよ~」

 

 「やっと私の番ね……ってなにそれデカッ!? 何があったのよ!?」

 

 カブト・ザ・キラーとの戦闘に集中していた京子には突然チャームが巨大化したように見えてびっくりした。

 が、焦らず送られてくるマギスフィアをしっかりとキャッチしパスは成功。

 

 役目を終えたウルティマチャームは光の粒となって消滅、中に入れてたマギクリスタルコアはそれぞれの持ち主の元へと戻っていった。

 

 「よしっ」

 

 コアを入れてブルトガングを再起動。

 フィニッシャーへのパスに備えて所定の位置へと一葉は向かう。

 駆け出す序列1位の視線には、序列2位とカブト・ザ・キラーの死闘が映っていた。

 

 バスターキャノンが唸り、ルナティックトランサーが荒ぶり、ティルフィングの大剣が胸を叩く。デュエル戦術の極致と言える怒涛の連撃をもってしても尚、カブト・ザ・キラーは倒れない。

 元よりエースを完封するために技術の全てをつぎ込んだエースキラー、その最新版ともなれば並みのウルトラ戦士すら凌駕する、相手との間にある絶望的な戦力差を京子は自覚し始める。

 されども彼女は狼狽えない、チャームを持っている限りは挫けないと強く握り締めながら砲弾の嵐を巨大な敵へと撃ち込んでいく。

 自分より遥かに強い相手への絶望感など、ずっと前から経験済みであった。

 

 「マディックになりたての頃を思い出すわね……」

 

 何度も撃ち続けてもマディックの攻撃はラージ級には響かない、それなのに相手のたった一撃を食らっただけでも致命傷を負う現実に当初の京子は逃げ出したくてたまらなかった。

 そのラージ級を3,4発で仕留めたリリィを見て、京子は才能の不公平さを実感せざるを得なかった。

 

 自分にはない強さを持つことへの妬みがあった。

 マディックよりも広い範囲を守れることへの憧れがあった。

 リリィに選ばれた者は幸運だ、世間から尊敬されて何の悩みもないんだろうな、マディックだった時はそんな風に考えながら戦っていた。

 

 「でもそれは違っていた。

 リリィもリリィでそれぞれ色んな重荷を背負いながら必死に生きていた……」

 

 リリィになって初めて分かった。

 その強さに課せられる過酷な任務はマディックのと何ら変わらない苦難に満ちていた。

 勝てば英雄、負ければ戦犯、過度な期待からくる重圧に押し潰された者達を何人も見てきた。

 結局の所、リリィもマディックもそれぞれの戦場で必死に戦い、苦しみ足掻き続けていることに変わりはなかった。

 

 「リリィとマディック、どっちが偉くてどっちが劣っているかなんてそんなの関係ない! 

 この世界を守るためにはどちらも決して欠かせない力だったんだ!」

 

 マディックだけではラージ級は倒せない、されど決して役立たずではなく避難誘導や陽動などの縁の下の力持ちに徹することで数少ないリリィ達の意識を戦闘のみに集中させることができた。

 それぞれが出来る事を命がけでやり遂げ最善を尽くすことが何よりも大事なことだったのだ。

 

 「そんなこと最初から分かっていたはずなのに……

 気付かなかった、いや違う、気付こうとしなかったんだ」

 

 マディックとリリィを経験した自分こそ両者が協力し合う重要性を誰よりも知っておかなければならかったのにマディックの立場ばかりにこだわってリリィの事情を見ないふりし続けてしまっていた。

 

 「私はいつもそうだ、自分の事しか考えられず、嫌いな奴ばかりに目がいって何もかもを不意にする。

 間違ってばかりで何も守れない私が大嫌いだ、嫌になる!」

 

 自身を貶すことばかり口にする京子だが、そこに自虐的な雰囲気はない。

 自分の間違いを認めることでそれを克服する覚悟を京子はこの場にいる全員に見せようとしていた。

 それはプライドの高い彼女なりのケジメの取り方であった。

 

 「でも、過ちだらけの人生でも得られたものはある! 私は強化リリィだ!

 たとえそれが罪の証だとしても構わない!

 この罪を背負い、与えられたこの力で私は未来を切り開く、そのためにも今ここでお前を倒す!!」

 

 カブト・ザ・キラーに堂々と打倒宣言を掲げる京子。

 やれるものならやってみろと言わんばかりに攻撃を激化してくのにも怯まずルナティックトランサーの力を最高潮まで引き上げて打ち合っていく。

 

 鋏と大剣が火花を散らす。

 淡々と攻め立てる超人の無感情な瞳に反して、京子の瞳は真っ赤に燃えていた。

 ルナティックトランサーを高めた者だけが放つ瞳の妖光、されど今の京子のそれは血に飢えた猛獣みたいな野蛮なものでは断じてない、暗闇の中から正しい道を指し示す篝火のように、勇気に満ちた光をしていた。

 

 その光を消し去らんと突き出されたクロースライサーを京子は紙一重で回避、その伸び切った腕に乗って全力疾走、前へと突き進む。

 エメリウム光線もグドンウィップもなんのその、ティルフィングで弾き返しながら二の腕まで駆け抜け、力強く飛びかかった。

 

 「たあああああああああああ!!」

 

 狙いは胸、カラータイマーに似た発光体に渾身の突きを放つ。

 その刺突も胸板の装甲に弾かれ――なかった。

 文字通り歯が立たないほど頑丈なはずの装甲にチャームの剣先が僅かに刺さった。

 

 「―――!?」

 

 「同じ所を何度も狙ってたのに気付かなかったみたいね!」

 

 超獣が持つ『痛みを恐れず動き続ける』特性は一見無敵にも思えるが弱点がないわけではない。

 痛みを感じにくい、すなわち体のどこをどう攻撃されているのか細かく把握できないという欠点を京子は直感で見抜き、密かに攻撃を重ね続けることで鎧を貫いたのだ。

 

 「いいこと? 痛みというのは身の危険を知らせる大事な信号なのよ。

 痛くなくても傷は負う、傷が深まれば死に至る、よく覚えておくことね!」

 

 痛みを知らぬことを皮肉りながら京子は腕に力を籠めた。

 刺し込まれた先からがぐりぐりと中へと押し出されていくティルフィング。

 内部の部品を貫きながら進んでいき遂に巨大な刃の大部分が超人の胸へと深々と潜り込んでいく。

 ここまで傷を穿り回されるとなれば流石の超人も焦り、胸元の敵を払うべく腕を振り回す。

 

 「まあこんなとこかしら」

 

 迫りくる腕を見て引き時を見極めた京子はあっさりと胸から飛び去った。

 敵を倒せる絶好のチャンスを自ら手放すなんて京子らしくない。今までの彼女なら払われる寸前までチャームを押し込んでいただろうに。

 事前に宣言した『誰一人欠けさせない』という誓いを守るために、戦いの後にもう一度尊と姉妹をやり直すために、京子は無理をしなかった。

 

 さらに言うと無理をする必要がなかったから引いた。

 なぜなら既に、刃を刺し込んだ時点で勝敗は決していたのだから。

 

 「私を引き離せて満足? 笑わせないで!

 よく見なさい、まだ胸にチャームが刺さってるわよ!」

 

 一瞬、京子の言ってることがカブト・ザ・キラーには理解できなかった。

 チャームが刺さったままと言いながらちゃんと彼女はチャームを握っている、さっきの言葉はハッタリか何かだと超人に備わったAIがそう判断しようとしていた。

 しかし判断しきる前にもう一度相手を見直して踏み止まる。

 よく見たら敵の武器が短くなっているではないか、さっきまで身長と同じくらいの大剣だったはずなのに。

 

 急に短くなった原因、それはティルフィングが持つ独自の機能。

 高火力のバスターキャノンや巨大な刀身に目を奪われがちだが、だからといってティルフィングが攻撃力のみに偏重した鈍重なチャームというわけではない。このチャームの本質は複数の状況に対応できる万能性である。

 キャノンの他にも二つの銃口が備えられておりどちらも連射力と威力に違いがあるので敵の特性に応じて使い分けることができる。量産機よりも頑丈に作られているので盾のように攻撃を受け止めても簡単には壊れない。

 極めつけはトリグラフと同じく分離機能を兼ね添えていること。

 

 ティルフィングの分離は実に豪快、刀身のほとんどを切り離すことができる。

 京子はそのパージ機能を使い刀身を胸へと残して脱出したのだった。

 だから今のティルフィングは短い。大剣をパージし至近距離での高速戦闘に対応したショートブレードモードになっていたから。

 

 種明かしも済んだところで京子は腕を前へと伸ばす。

 

 そして指を2本、人差し指と中指を立ててカブト・ザ・キラーに見せびらかす。

 唐突に指をVの字に変えた京子の意図を測れず超人は立ち止まる。

 

 「これはピースサインじゃないわよ、お前の真似でもないわ蟹野郎。

 これは実にシンプルなサインよ……分からないかしら?

 ”お前はあと2秒で死ぬ”って言ってんのよ!」

 

 京子が叫んだ瞬間、何かを数えるような電子音が胸に残された刀身から流れてそして光出す。

 刀身から漏れ出す不自然な熱量が最悪の展開をカブト・ザ・キラーに予想させる。

 

 京子はティルフィングに仕込んだもの。

 それは部下である131位、ザラ・ブライアンとの会話の中で着想を得たもの。

 それはバロッサ星人戦での敗北からの反省、あの敵前逃亡は彼女にとっても耐え難いもので二度と同じ失敗は繰り返すまいと対策を講じた結果チャームに付け足したもの。

 万が一チャームを奪われても相手に一矢報いる起死回生のカウンターとして用意した機能が京子の切り札として発動する。

 

 

 

 

 

 「自爆装置、作動ーーーーーーー!!!」

 

 京子の声をスイッチにティルフィングが大爆発。

 カブト・ザ・キラーの内部の機械を吹き飛ばして再起不能にまで追い込んだ。

 

 「―――――………」

 

 糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちたカブト・ザ・キラーは目の光が消えて完全に沈黙。

 これによってヤプールが送り出した隠し玉は全滅した。

 

 「これで邪魔するものはいなくなったわね。

 ほら、受け取りなさい相澤一葉!」

 

 一騎打ちを制した京子は余韻に浸ることなくショートブレードに保っておいたマギスフィアを一葉へと送球する。

 ぶっきらぼうなエールと一緒に。

 

 「あとはあんた次第よ、外さないよう精々気を付けることね。

 …………信じているわ」

 

 「そのご期待に必ず応えて見せますよ、京子様」

 

 「そういうのは聞こえても聞き流すのがお約束……あーもう、あんたと喋ると調子が狂うわね!

 いいからさっさと決めちゃいなさいよ!」

 

 京子が一葉に魔法球を投げたことにより8人のリリィのパス回しが終わった。

 超獣の邪魔がなくなった今一葉は即座に魔法球にマギを全て注ぎ込む。

 8人分のマギではち切れそうなくらいに膨らんだマギスフィアで狙う先は当然、エースのウルトラホール。

 ウルトラノインヴェルト戦術のトリを飾るフィニッシャーへと一直線へと放たれた。

 

 「ここにいる皆の想いが詰まったマギスフィアです。

 受け取ってください! この戦いを終わらせる最後の弾丸(ラストバレット)を!!」

 

 待ちに待ったマギスフィア、仲間達の力の結晶を心して受け止めようと始はマギスフィアの軌道上にそそり立つ。

 マギスフィアをもう一つ作る余力はリリィにはなく、ウルトラマンもまたウルティマチャームの負担によって制限時間は残り数十秒、決して失敗は許されない。

 魔法球の行く末を眺めるリリィ達は思わずつばを飲み込んだ。誇張も虚偽もなく、世界が続くか滅ぶかの瀬戸際がこの瞬間に全て委ねられている。緊張のあまり時間が止まってるようにすら錯覚する者もいた。

 

 (成功しますように成功しますように成功しますように………)

 

 (ちゃんと受け取れるわよね……流石にそれくらいはできるはずよね……!?)

 

 (大丈夫……あなたが信じてくれたように、私もあなたを信じますよ)

 

 ウルトラホール到達まであと数メートル、ここまで近づけは取り損ねる心配はないはずだとみな確信する。

 これで無事マギスフィアがウルトラマンに届くとみな肩を撫で下ろす。

 エースが魔法球を掴むまであと僅か。

 

 

 

 

 「させるかぁぁぁぁぁ!!」

 

 『『っ!?』』

 

 最後の最後でヤプールが妨害せんと動き出す。

 誰もヤプールの存在を忘れていたわけではないが油断していた。

 両腕を失ったエーストロンでは妨害したくてもできないだろうと無意識に楽観視してしまっていた。

 その気のたるみが致命的な失態を招いてしまう。

 

 「あれ? プルプルの腕変わってるよ」

 

 「バキシマムの右腕に、カブト・ザ・キラーの左腕!?」

 

 「っ!? 見て、いつの間にか超獣が燃えている」

 

 「ひどい……仲間の亡骸をもぎ取るなんて……」

 

 「始ー、後ろ後ろ! 避けて―!」

 

 右腕のバーナーで左腕に火を灯し、灼熱と化した鋏でキャッチに夢中になっていたエースの背中を切り刻む。

 想定外の攻撃を受けたエースは受け身を取れずに地面へダウンしてしまった。

 

 「ぐわぁぁっ!?」

 

 「フハハハハ! 愚か者めが!」

 最後に勝つのはこのヤプールだっ!!」

 

 吹っ飛ばした始が立っていた位置を奪い取ってヤプールはマギスフィアを待ち構える。

 ヤプールが乗っ取ったエーストロンはエースの能力をコピーした高性能ロボット。

 因子の情報を元にエースを模倣しているのなら、”それ”は必ずあるはずだ。

 

 

 そう、エーストロンにも”ウルトラホール”が備わっている。

 

 ヤプールの真意を理解しリリィ達は青ざめる。その表情には絶望感すら感じられた。

 

 「マギスフィアが……奪われる!?」

 

 「そうだ、貴様ら人間共が作り出したものは全て、ヤプール人に奪われるために存在しているようなものなのだ!!」

 

 リリィ達の力を結集したマギスフィアを奪い取りそれをぶつけてウルトラマンを殺すことで、巨人と少女の心と体に徹底的な敗北感を刻み込ませる、それがヤプールが企んでいたこの戦いの必勝戦術であったのだ。

 

 「食らうがいい! これぞ積もり積もった怨念が織りなす力の極致!

 お前はこれで死ぬのだウルトラマン、この『ヤプールQ』でなぁ!!」

 

 まんまと罠にはまった者達の呆ける顔を見て、ヤプールの気分は高揚する。

 この日をどれだけ待ち焦がれてきたか、宿敵ウルトラマンエースに最も屈辱的な死を与え、数千年に渡る恨みを晴らすこの瞬間を、そのためだけにこれまでの敗北があったといっても過言ではない。

 ヤプールにとって既にエースの敗北は決定事項、巨人は既に眼中になく悪魔の思考にあるのはこれからどういう風にこの星を滅ぼしていこうかということ一点のみ。つまりヤプールは勝つ前から勝ち誇っていた。

 だがヤプールは致命的なことを見落としていた。

 戦術でも心意気でもない、それより最も深い全ての宇宙に共通する一つの理。

 

 

 

 『勝利を確信した悪』ほど、勝利から遠ざかった存在はいない。

 ヤプールはそれに気付かない、そのために今まで負け続けてきたというのに。

 

 マギスフィアがエーストロンのウルトラホールに入る直前、遥か彼方から飛んできた光弾が機械巨人の顔を大きく仰け反らせる。

 顔が逸れたことでマギスフィアはウルトラホールに入らず素通りしていく。

 

 「ぐぉわぁっ!? な、なんだと!?!?!?!?」

 

 ヤプールの思考が驚愕に支配され何も考えられなくなる。どう転んでも負けるはずがなかったのに予想外の横やりで勝機を奪われれば誰だって思考が止まる。

 

 リリィ達もまた、唐突に状況が一変して戸惑うばかり。

 

 「えっ、今のなに!?」

 

 「学園からの援軍……でしょうか?」

 

 「いやそれはあり得ません、東京を襲う超獣への対応に追われてこちらへ援護する余裕はないはずです」

 

 3位以下の全レギオンは全て一柳隊と共に超獣戦に戦っている、高出力砲は全て破壊済み、東京内の各ガーデンもそれぞれの防衛区域を死守しているだろうだから援軍は出せないはず、遠方からの外征が間に合うはずもない、

 情報を整理すればするほど余計に分からなくなっていく。まさか何もないところから奇跡が起きたとでも言うのか?

 深まる謎に一同が頭を悩ます中、いち早く気付いたリリィが二人、恋花と京子が攻撃の正体に目星をつける。

 

 気付けたきっかけは既視感。

 恋花は光弾の『威力』に身に覚えがあり、京子は光弾そのものに『見覚え』があった。

 

 「あれってまさか”フェイズトランセンデンス”……?」

 

 「瑠美……あなたなの……?」

 

 答え合わせは遥か遠く、崩落地の境目ギリギリにそびえ立ったビルの屋上ではしゃいでいた。

 

 「当たった当たった! 大当たりっスよ! 瑠美様マジパネェっス!

 知覚系スキル無しでどうやってこんな超精密射撃ができるんスか!?」

 

 「ふふっ、昔ゲヘナに改造を施されてね、五感が人の何倍も、敏感なのよ……

 あなたも受けてみる? 服を着るのすら刺激的な毎日が待ってるわよ」

 

 「あはは、遠慮しとくっス……」

 

 馬場瑠美とザラ・ブライアン、京子の命令で去っていったと思われた二人の援護射撃がウルトラマンの窮地を救った。

 改造されたアステリオンの銃口から硝煙が昇る。フェイズトランセンデンスの力を完全に引き出せるよう調整された改造チャームが放つ光弾を最高のタイミングで撃てるよう瑠美はそれまでじっと待ち構えていたのだ。

 

 「……これでいつぞやの借り、返したわ、相澤さん」

 

 強化リリィとして数奇な人生を歩んできた瑠美にとって、打算なき善意は何よりも心に響くもの。その恩を返すチャンスを今まで探し求めていた、そして今日、その瞬間がやってきた。

 だからこれは奇跡ではない、一葉の日頃の行いの良さが生んだ必然的な逆転だったのだ。

 

 「ま、この非常事態に何もしなかったんじゃ序列に響きそうっスからね。

 これでアタイも安心して退避できるってもんス」

 

 レアスキルの反動で動けなくなった瑠美を背中に抱えてザラは崩落地から退避する。

 この戦いにおける彼女達の行動は最小限なものであったが、だからこそ窮地を覆す大逆転の立役者になったのであった。

 

 目では見えぬ二人の活躍はちゃんと現場にも伝わっていた。

 

 「見直したよ京子、やるじゃないあんたのレギオン!」

 

 「まさか、あの二人まで力を貸してくれるなんて……」

 

 ヤプールが受け止め損ねたマギスフィア、重力に引っ張られ地面へと落ちていくそれを拾い上げたのはエース。紆余曲折を得てノインヴェルトは受け取るべき相手へと届けられた。

 

 「今度こそ受け取った!」

 

 手に入れたマギスフィアをすかさずウルトラホールへとかざし、吸収する。

 その時、エースの体にある種の化学反応が起きた。

 ヘルヴォルとクエレブレの力が集約されたマギスフィア、そこに込められたリリィ達の想いが眩い光となって体の隅々まで駆け巡っていく。

 

 ウルトラマンを光を糧とする生命体。

 その光とは物理的なものではなく心理的なものまで作用する。

 

 残酷な世界に抗う一葉の正義。

 身の回りの幸せために戦う恋花の根気。

 決して仲間を孤独にさせない瑶の勇気。

 大切な人を支え続ける千香瑠の優しさ。

 仲間に愛されながら成長していく藍の純粋さ。

 後悔に苦しむ人を助けたいというアリエの思いやり。

 今度こそ妹を守りたいと誓う尊の決意

 どんなに間違えても努力すること自体は諦めなかった京子の不屈。

 そしてエースと融合した始、仲間を信じて闇を打ち破らんとする少年の覚悟。

 

 少年少女の真っすぐな信念がマギスフィアを通して伝わっていき、光となってウルトラマンに力を与える。

 

 体の傷がたちまち治り、カラータイマーの色が赤から青へと戻る。

 マギスフィアを光エネルギーへと転換して何倍にも何十倍にも増幅していく。

 今、ウルトラマンエースはかつてないほどの力が漲っていた。

 

 「負ける気がしない、うぬぼれとか思い上がりじゃなくて心の底からそう思える!

 心を一つに束ねた俺達にできないことなどなにもない!!」

 

 ウルトラホールに集約する光球。

 それは『スペースQ』でも『ノインヴェルト』で作り出したマギスフィアでもない。

 

 

 

 Quintet(五つ)を超えた九つ(ノイン)

 

 世界(ヴェルト)を超えた大宇宙(スペース)

 

 それはウルトラマンだけでもリリィだけでもなしえない。

 二つの力が合わさったからこそ果たされる奇跡の光。

 

 

 

 

 

 「スペース9(ノイン)!!」

 

 九人の想いが集まった究極の一球を握りしめ、始は倒すべき悪へと向けて構える。

 いかなることが起きようともも、今の彼を止められる悪は全宇宙のどこにもいない。

 『仲間と力を合わせたウルトラマン』が強大な悪を打ち破る。光の歴史に、また新しい伝説が刻まれようとしていた。

 

 (また……負けるのか?)

 

 ヤプールの脳裏に敗北の二文字が浮かぶ。

 それは彼らの戦いの歴史で繰り返されてきたこと。

 またしても光の戦士に敗れようとしていた。

 エーストロンが破壊されればそれを依り代としているヤプールも無事では済まない。

 数多き敗北の中でも、今回は一際屈辱的なものであった。

 

 怨念と化したヤプールに永遠なる死は訪れない。

 例え幾度も無く倒されてもいつか蘇り自分を滅ぼした者達へ挑戦をしかけてくるだろう。

 だが今回は違う。リリィ達に限ってはこの場での戦いが最初で最後になるだろう。

 決着がついた瞬間にエースはこの宇宙に結界を張って去っていく。

 そうなれば二度とアサルトリリィの宇宙には侵入できない、リリィ達へ復讐することが叶わない。

 恨みや復讐心を糧に存在を確立している今のヤプール人にとって、その恨みを晴らせないことは何よりも苦痛に感じた。

 

 故にヤプールは最後の手段に出る。

 最後の手段とは勝負を投げ捨てた、されど勝利は譲らない最悪の悪足掻き。

 

 「ウルトラギロチン!!」

 

 八つの光輪が狙うのウルトラマンエース……ではない。

 ヤプールが狙うのは、リリィ達だ。

 

 マギを使い果たしたリリィ達には、高速で飛んでくるギロチンを避ける術がない。

 エースもスペースノインを構えているので即座に対処はできない。 

 どうあがいても八つに分かれて飛んでくるギロチンから8人全員を守り切ることなどできやしない、必ず誰かが引き裂かれるだろう。

 

 「大切な仲間が真っ二つになる光景を目を焼きつけろ小童共!

 その恐怖と後悔を抱えて貴様達は生き続けるのだ! フハハハハハハ! 貴様らの未来を絶望に染めてやるぞ!!」

 

 例え負けてもただでは滅びない、これがヤプールの真骨頂。

 

 相手の勝利に少しでも泥を塗れればそれでいい。

 相手の信念に唾を吐きつけてれればそれでいい。

 完全なる敗北でなければそれでいい。

 自分を倒したものがそれに勝ち誇れなければそでいい。

 もう、どうでもいい。

 

 相手の心が苦しめさえするれば負けても勝ってもどうでもいい。

 生きとし生ける者の心を踏みにじることこそが悪魔にとっての至高の喜び、もはやヤプールは文明自滅ゲームのことすらどうでもよくなっていた。

 

 「終わりだ、死ねいリリィ共!!」

 

 ウルトラギロチン発射準備完了。

 あとは一人一人に照準を定めて放つだけ。

 これで巨人と生き残ったリリィは絶望するだろう、そうなれば実質ヤプールの勝利。

 

 しかし、勝利を目前にしてヤプールはまたしても固まった。

 

 「なんだと……そんなばかな……」

 

 ヤプールの構想。

 戦場にまばらに散らばっているだろうリリィに一人ずつ光輪を投げつければいかにウルトラマンと言えでも全員を守り切れず4、5人は光輪に切り裂かれる算段であった。

 

 しかし現実。

 リリィ達は散らばっておらず一か所に纏まっていた。

 そしてその集合場所は、ウルトラマンの足元。

 

 これでは巨人が邪魔で光輪が当たらないではないか!?

 

 なぜよりによって一番当てにくい場所に全員集まっているのか、心を読んでたかとしか思えない動きにヤプールの思考は大いに乱れた。

 

 「残念でしたね、あなたが考えそうなことなどとっくの昔に予測済みです」

 

 エースの記憶からヤプールの卑劣さを嫌というほど理解した一葉にはヤプールの考えてることなどお見通しであった。

 だから事前に仲間に指示しておいたのだ。

 

 『パスを終えたらなるべく安全なところへ下がること』

 『されどウルトラマンと一定の距離を保てるよう気を付けること』

 『マギスフィアがウルトラマンに渡った瞬間、即座に駆け出し足元へ集合すること』

 

 それはトップレギオンの隊長として最も相応しい能力、速やかな状況判断による的確な指揮が発揮された瞬間であった。

 それだけじゃない、一葉にヤプールの企みを潰す力となったのはもう一つある。

 それは始、『私は彼を守る』『彼は私を守ってくれる』という信頼があったからこそ一葉はこの場に最も適した最善手を打てたのだ。

 

 「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 唯一の勝ちの目が潰されてヤプールはやけくそ気味に光輪を全部エースに向けて投げつける。

 

 だが始には通じない。

 

 マギの光を身に受けて限界以上の力を手に入れたエースの体は自らのギロチン技すら通さない程までに頑丈になっていた。

 

 火炎弾、パンチレーザー、ストップフラッシュ、グリップビーム、ブルーレーザー、ホリゾンタルギロチン、ダイヤ光線、メタリウム光線、クロースライサー……

 こっちに来るなと言わんばかりにぶちまけた幾多の技をも諸共せずに、エースは眼前まで迫ってくる。

 

 「歯を食いしばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 スペースノインを握りしめた始の右手がエーストロンの顔面を貫く!

 過度なエネルギーを流し込まれた巨人の外装が剥がれ内部のフレームが剥き出しとなっていく。

 体中から部品が零れ、火花が飛び散る。エーストロンが爆発するのは誰の目にも明らか。

 当然、そこに乗り移ったヤプールも最期の瞬間を迎えようとしていた。

 

 「これで勝ったと思うなよ……」

 

 この期に及んでも、ヤプールはしつこい。

 負けるにしてもせめて心にしこりを刻んでやろうと、呪いの言葉を投げける。

 

 「勝者は敗者の怨念をゴチャゴチャうるせぇぇぇぇ!!っ!?」

 

 突然始に叫ばれヤプールは思わず口を閉じる。

 呪いの言葉も、大きい声にかき消されてれば届かない。

 ヤプールの呪いよりも始の信念の方がリリィの耳に入るのは必然であった。

 

 「お前が考えているようなことは起こらない! お前の思い通りになって絶対にならない!」

 

 「なぜならこの世界にはリリィがいるから! リリィと共に平和を築こうとする者達がいるから!」

 

 「たとえ誰かが優しさを忘れても、違う誰かに優しさをもらえば思い出すことだってある! 人間は愚かとは限らない!」

 

 「人が! リリィが! 俺達が! 心に光を宿している限り、世界は絶対に終わらないんだ!!」

 

 最後まで呪いがリリィに伝わることなく、エーストロンは大爆発して破片も残らず砕け散った。

 爆発に巻き込まれヤプールは消滅、その命とリンクしていた世界の超獣達も連動して消えていった。

 

 異次元人ヤプール、完全敗北。

 その怨念が再び蘇るのは十年後か、百年後か、少なくとももう二度とこの宇宙に来ることはないだろう。

 

 この星の存亡をかけた最終決戦は、ウルトラマンとリリィ達の完全勝利に終わった。

 

 ◆◆◆

 

 長き戦いも終わり、気付けた空には夕日がかかっていた。

 夕日の光を反射するエースの姿は神秘的なようで人間的な暖かさも感じられると彼と向かうあうリリィ達は何気なく思っていた。

 

 そのエースの体から一筋の光が零れる。

 リリィ達の近くにゆっくりと降りてきた光の中から巨人と融合していたはずの始が姿を見せた。

 

 「なんか久しぶりだな、自分の体に何かが入っているような感覚がしないのは

 ちょっとだけ、寂しいぜ……」

 

 「ということはやはり……」

 

 一葉の問いに始は首を頷く。

 始は既にエースと分離し、普通の人間に戻っていた。

 

 『決して諦めない君達の心の光が、私の傷を癒してくれたのだ。

 ありがとう、君達には感謝してもしきれない』

 

 エースはテレパシーを通して感謝を伝える。ウルトラマンとあまり関わらなかったクエレブレ組が巨人が日本語を話せることに驚愕していたのは内緒である。

 

 「あなたが回復したということはもう……」

 

 『そう、君達との戦いも今日で終わりのようだ。

 私は光の国に帰らなければならない』

 

 「そっかー……寂しくなるけどしかたないよね」

 

 「なにかお土産になるものでも渡せればよかったのですが……」

 

 『その気持ちだけで私は満足だよ』

 

 怪獣との激闘の終焉、しみじみとした感情が沸き上がってヘルヴォル達はウルトラマンとの別れを噛みしめた。

 が、一人だけそうじゃないものもいた。

 

 「やだ! 行かないで」

 

 藍の幼い心にとって巨人との永遠の別離は受け入れがたいものだった。

 

 「エースもらん達の仲間、大切な家族、ヘルヴォルのメンバーなんだよ……

 らんはウルトラマンと別れたくない!」

 

 「藍、無理を言っちゃだめだよ、気持ちは分かるけど……」

 

 「エースさんも故郷に仲間や家族がいるのよ、だから分かってあげて藍ちゃん」

 

 「ま、どうしてもというなら方法はあるんじゃないの。あんたがウルトラマンについていけばいいのよ」

 

 「むう……」

 

 京子のアイディアに一瞬乗りかかった藍だが、一葉達を見てやっぱりやめた。

 ウルトラマンについていけば今度は一葉達に会えなくなる、それはとても辛くて耐えられないことだから。

 

 藍はしゃがみ込んでうんうんと悩んだ。

 一葉達のいる地球とエースのいる宇宙、どちらを選んでも必ず仲間と別れなければならなくて藍には決められない。一葉達にもウルトラマンにも一緒にいて欲しくてそれが叶わない現実に涙が零れていく。その涙を見てヘルヴォルも始も俯かざるを得ない。

 

 そんな彼女達を案じてエースは一つの折衷案を示した。

 

 『南夕子。

  竜五郎。

  山中一郎。

  美川のり子。

  吉村公三。

  今野勉。

  梶洋一』

 

 突然、誰かの名前を読み上げえるエースに皆首を傾げた。

 その意図に真っ先に気付けたのは一葉。 

 エースと記憶を共有していたから、今の名前が何の事を指しているのかすぐに分かった。

 

 『今言ったのは防衛チーム、TAC(タック)の隊員達の名前だ。

 かつて私は彼らと共にヤプールから地球を守っていた。

 彼らと別れて幾千の時が流れたが、皆の顔や声は今でも鮮明に思い出せるよ』

 

 「それって………」

 

 『君達の事は忘れない。誰かが覚えている限り、その人は記憶の中で永遠に生き続ける。

 だから離れていても心はいつも繋がっている』

 

 「……分かった、らんもエースのこと忘れない

 ずっと覚えているからね、エースを一人にしないからね……」

 

 エースの思いやりを受け取って藍は駄々をこねるのを止める。

 でもやはり完全には受け止めきれてないようで隣にいる瑶の胸に飛び込み大声で泣いた。

 瑶は涙で服が濡れるのも気にせず藍を覆うように抱き留めた。

 

 「頑張ったね藍、偉いよ」

 

 「……今日はようと一緒に寝たい」

 

 「そうだね、今日は皆でお休みしようか……」

 

 瑶の温もりに抱かれて涙も収まってきている藍にみな安堵の表情を浮かべた。

 

 「なんとか藍は受け入れてくれたみたいだな」

 

 「そういうあんたはどうなのよ、民間人」

 

 それまで全く面識のなかった京子に急に話を振られて始はちょっとだけ驚いた。

 京子は京子なりに始を連行したことに思うところがあるようで気にかけている様子。

 

 「巨人の力がなくなったらあんたはただの人間に逆戻りよ、あれだけの力を実感しておいて何の未練もないだなんて私には考えられないけどね」

 

 「なんだ、そんなこと気にしてたのか」

 

 「そんなことって……というかあんた本気で手放すつもりなの?」

 

 自分の願いを叶えるために力を求め続けた京子にはあっさりと巨人の別れを受け入れる始の気が知れなかった。

 京子と始、両者の間にある力への執着の差は目指すものの違いから来るのだろう。

 京子の夢を叶えるには力が必要で、始の夢には力が必要でない、ただそれだけの話であった。

 かつて夢を捨てた少年だった始は、怪獣との戦い、そこから来る出会いを通して新しい夢を抱き始めていた。

 

 「人間にはエレンスゲやゲヘナみたいな酷い奴らもいれば、一葉達みたいな良い奴もいる。同じ人間同士なのに何でこんなに違うんだろうって考えていた」

 

 「でもついさっき分かったんだ、残酷なこの世界で必死に生きようとしている内に持ってたはず優しさを忘れちまう人達が多いってことにな」

 

 「だったら俺はそいつらに優しさを思い出させてやりたい。一葉達が俺に優しさを思い出させてくれたように、荒んだ誰かの心を救ってそいつがまた別の奴を助けたいと思うようになれば……きっと世界は今より優しくなれると思うから」

 

 「だからウルトラマンの力はいらない。手に余る力を持っていたら、楽しようとするかもしれないから。力だけじゃ何も解決しないのは、俺が一番よく分かっているはずのことだからな……」

 

 自警団時代、どんなに悪人を殴り飛ばしても悪事が消えることはなかったように始は腕っぷしだけでは解決しない問題があることを理解していた。

 だから始は力に対する執着がなくなっていたのだ。

 

 「だからどんなに辛くても、時間が経っても構わない。

 エレンスゲを変えようってスケールのデカいことする奴がいるんだ、それに比べればこれくらいなんてことないさ」

 

 「そう……自分で決めたことだったら自分で何とかしてみなさい

 でも……これだけは言わせてもらうわ」

 

 赤の他人にここまで言う必要あるのかと思いつつも、京子は夢を追う先輩としてアドバイスを与える。

 

 「やり方はちゃんと選びなさいよ。

 ”目的は手段を正当化させる”なんて言葉は嘘っぱち。汚れた手で大事な物は触れない、汚い口から出る綺麗事なんて誰も聞いちゃくれない。

 正しい事をしたいと思うなら、誰に見せても恥ずかしくない生き方をしてみせなさい」

 

 楽な方法ばかり選んだ結果、醜く歪んでしまった京子は、大層な夢を抱く始に『自分のようにはなるな』と警告する。

 それは京子にとって珍しい、他人に対して見せた優しさであった。

 

 「あんたの言葉、しっかり覚えておいたぜ。

 ありがとな……えっと、あんた名前なんて言うんだ? ドリ子?」

 

 「誰がドリ子よ!? 明らかに髪型見て言ったわよね!?」

 

 ドリルみたいなロール巻きのツインテールが気になってどうしても他の仮名が浮かばなかった。

 その安直かつ直球過ぎるネーミングセンスにクエレブレの二人は思わず噴き出す。

 

 「ブフゥッ!? 今まで思うだけに留めておいたのに実際に口に出ると……フヒヒ……」

 

 「あんたがそんな風に思ってたの初耳なんですけど!? あんた性格ちょっと変わり過ぎじゃないの!?」

 

 「あんまり触れないであげてください恩田さん……この子魔法少女チャーミーリリィの真似っこしてるだけなんですよ……ププッ」

 

 「お姉ちゃん!? それ言わないでって言ったよね!」

 

 まさか序列2位の髪型が世界的人気アニメのキャラクターから来ていたとは、衝撃のイジり要素が発覚して恋花達も黙ってはいられない。

 

 「アニメが好きって意外と可愛い所あったんだね……」

 

 「違うから! 冗談半分で美容師に頼んだらそれしか整えてくれなくなったのよ!」

 

 「まあまあ、ところでドリ子行きつけの美容院って学園から近いあそこ?

 ひょっとして私と同じ? 親近感湧くな~」

 

 「いや私が行ってるのはそれよりもっと高級な……ってしれっとドリ子って呼ぶな!

 定着させようたってそうは行かないわよ!」

 

 「らん最近チャーミーリリィを見てる、どり子も同じなら一緒に見よ。

 らんはどり子と友達になりたいな」

 

 「言ってるそばから定着しちゃったー!?」

 

 因果は応報する。

 人を名前で呼ばなかった京子はなんやかんやで変なあだ名を付けられる。

 ある意味ではこれも京子が周囲にしてきたことへの報い、因果応報とも取れるのだろうか?

 

 後ろでてんやわんや騒いでいる間に一葉はというとエースへ別れの言葉を送っていた。

 

 「ご武運を、これからは別々の宇宙で戦うことになりますが、目指すものは同じ。

 平和のために力を尽くしていきましょう」

 

 『もちろんだ、ウルトラマンのいない世界にも怪物から人々を守る光の戦士がいる。

 そう思うと私達も勇気づけられる』

 

 現在、エース達ウルトラマンが守る次元は様々な危機に瀕していた。

 ベリアルが残した負の遺産デビルスプリンターの拡散、究極生命体と名乗るアブソリュートタルタロスの暗躍、闇の巨人の復活と、次元を跨いで次々と起こる事件に対応するにはM87星雲のウルトラマンだけでは足りないと思っていた。

 そうしてウルトラマン達が大事変の対処にこまねいている内にまた別の次元が悪意によって蝕まれてしまうのではないかと案じる思いがあった。

 

 だがそれも杞憂かもしれないと、この星での戦いを通して理解した。

 

 確かにこの世界は危うい、ヒュージの侵攻によって明日をも知れない状況が長く続いている。

 だがこの世界にはリリィがいる。彼女達が正しき信念を抱き、絆を分かち合って戦っていけばいずれは平和を取り戻せるとエースは彼女達にウルトラマンと同じく光の戦士の素質を感じていた。

 

 平行宇宙は無限に存在する。

 その中には怪獣のいない世界もあれば怪獣とはまた別の脅威に晒されている世界もあるだろう。

 だがそこには必ずその脅威に立ち向かう者達が存在しているようだ。

 

 それはリリィ達のような特別な力を持った人間達かもしれない。

 それはウルトラマンとは少し違った存在かもしれない。

 

 確かに言えることは闇が濃いほど光も強く輝くということ。

 世界を蝕む脅威に対抗するもの、正しき心を抱き弱き人々を闇から守る『光の戦士』がどこの世界にも存在している。

 だから世界はそう簡単には滅びない。

 

 エースの心が静かに高ぶった。

 いつかまたどこかで、彼女達のような光の戦士に会い、共に平和を守っていける未来に夢を見た。

 ウルトラマンが人間を守るのはいつか人間達が心の弱さを克服し、宇宙へと旅立つことを願っているから。

 その未来に少しだけ近づいている世界の人類を見て光の使者としての心が暖かいもので満たされた。

 

 『いつか、君達が持てる技術を正しいことに使い、私の張った結界がなくなっても平和を保っていける未来を信じているよ』

 

 「いつか必ず、例え私達の代では叶えられなくても遺志を継いでくれる者達が結界を突き抜けあなた達ウルトラマンに会いに行きます。

 そして彼らはこう言うでしょう、『私達は未来を掴んだよ』と。その時が来るまでヘルヴォルを始めとする全てのリリィが世界を守る楯となることを誓います」

 

 『その時が来ることを楽しみにしている、何千年、何万年の時がこようとも私は待っている』

 

 壮大なる約束を交わすと同時に胸のカラータイマーが鳴り出した。

 マギスフィアによって巻き戻された制限時間もそろそろ尽きる頃合いのようだ。

 

 『時間が来たようだ、私はこれから結界を張る。

 君達とは、長い別れとなるだろう』

 

 いよいよ本当の別れの時が近づき、後ろで騒いでいたリリィ達もびしっと背筋を伸ばして整列する。

 彼女達はリリィ、世界を守る戦士であると同時に、高い教養を積んだお嬢様でもある。

 そのお嬢様のしきたりに則って、去り行く戦友への見送りの儀を始める。

 

 「ごきげんよう、あなたがこれからも正しき戦士であることを願います」

 

 「ごきげんよう、どうかお体をご自愛くださいませ

 

 「ごぎげんよう、家族を、特に兄弟達を大切になさってください」

 

 「ごきげんよ~、らん達のこと忘れないでね~」

 

 「ごきげんよう、悔いの残らないよう自分らしく生きてください」

 

 「ごきげんよう……今日の奴以下のザコ怪獣に負けるんじゃないわよ」

 

 「ごきげんよう、あなたと共に戦った日々を決して忘れません」

 

 「皆固い固い、ひょっとしたら案外すぐに再会できるかもよ?

 ということでごっき~、今度来たら美味しいラーメン紹介してあげるからね~

 ってことでほら、始も!」

 

 「えっ!? 俺男なんだけどな……まあこういうのはノリか。

 ごっ、ごきげんよう……あーやっぱらしくねえわ! 俺はお嬢様じゃなくて筋金入りの不良だからな!

 押忍っ! この世界はリリィとその他大勢で何とかしていくんでよろしくぅ!!」

 

 ちょいちょいお嬢様らしからぬ者もいたがそれも個性。

 自分とは考えもあり方も違う者もごく自然に受け入れられることこそ平和への第一歩といえよう。

 

 『君達のこれからの活躍を期待しているよ。

 では、さらばだ!』

 

 エースは両腕を挙げ、空高く飛んでいく。

 このまま次元の穴を塞いでもといた星へと帰っていくだろう。

 

 空へと上がっていく軌跡を見上げていると、そこから何かが浮き出てくる。

 

 「何よあれ、文字かしら?」

 

 「あれは光の国の文字、それを通信用に圧縮したウルトラサインですね。

 この文字列から察するに言葉の意味は……

 

 記憶を辿り何を伝えようとしたのか正確に把握しようとする一葉であったが、始に止められる。

 巨人の記憶とは繋がっていないから知識がないはずの始だが、ウルトラサインがなす意味を頭ではなく心で理解したようだ。

 

 「『人が絆の光を繋いでいる限り、世界は希望で満たされる』……だろ?」

 

 「……! そうですね、それで間違いないでしょう」

 

 真っ赤に沈む夕日に向かって9人の少年少女は走り出した。

 それぞれの帰る場所へと戻るために。

 

 

 こうして、一か月に渡る怪獣騒動は静かに終わりを迎える。

 事件の終息に尽力した少年少女の活躍はあまり知られていなかった。




次回は最終話、1話丸々エピローグです

その後の少年少女がどうなったのか
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