戦いは終わった。
エースが次元の歪みを修正し強力な結界を張ったことで世界に怪獣が現れることはなくなった。
だがそれを知っている者は始達だけ。
大半の人間はある日を境に怪獣達が忽然と姿を消したことが不思議で仕方なかった。
世界を滅ぼす一歩手前までいっていたのになぜ?
不可解な謎に人々はそれぞれの憶測を重ねていった。
ウルトラマンが一瞬の内に全部倒してくれたとか、そもそも怪獣など幻に過ぎなかったとか、中にはどこか知らない場所に潜んでいるんだと怯えているものもいた。
今もどこかに巨人と怪獣がいることを信じた研究機関や一部のガーデン、ウルトラマン教らが血眼になって痕跡を探そうとしたが、その内断念するようになっていった。
怪獣は消えてもヒュージは消えず。
この星本来の脅威が再び活動を活発化させ怪獣の事を考えているばかりではいられなくなったのだ。
ウルトラマンエースがこの星から去って一か月、人々は巨人と怪獣のことを忘れつつあった……
◆◆◆
「本当に決心は変わらないの?」
「………うん」
クエレブレの副隊長、愛染尊は同じレギオンの隊長にて妹でもある正樹京子の寮室を訪ねていた。
普段なら高級な家具が部屋中に置かれているのだが今は違う。
そのほとんどが質屋に送られ、僅かに残したものもダンボールに詰め込まれている。
エレンスゲを自主退学しリリィとしての立場を捨てる。
それが今までの過ちに対して京子が定めたケジメの付け方だった。
あの戦いから今日までの一か月間を京子は贖罪に全て費やした。
かつて牛馬のように扱い、使い潰してきた元部下達への謝罪に奔走していた。
まだエレンスゲにいる者も、病院から出られていない者も、心に傷を負ってリリィを辞めた者も一人残らず謝りに行った。
尊大な暴君の面影が消え、誠心誠意、頭を下げて詫びる京子にかつての部下達の反応は様々だった。
許してくれた人もいた、許さない人の方が多かった、顔も見たくないと拒絶したものだっていた。
彼女達の反応全てを自分がしてきたことの報いだと一つ一つ心に刻んでいった。
そして昨日、最後の一人に謝罪を終えたことで一段落がついたと、これから退学届を出しに行く準備をしていた所に尊が現れたというわけだ。
「色々悩んだけどやっぱり辞めることにしたわ。
いくら反省していても、多くのリリィを踏み台にしてきた私がのうのうとリリィを続けているなんて相手からすれば胸糞悪いもの……」
「…………」
「お姉ちゃんは無理についてこなくていいよ。
お姉ちゃんだって元々は故郷を取り戻すためにリリィになったんだよね?
頑張って叶えて見せてよ、その夢。
私は………ここでリタイアかな」
そう言って京子は最後の私物をダンボール箱へ入れた。
あとはガムテープで閉じるだけ、しかしテープへ伸ばす手を尊が掴んで放さない。
「本当にそれでいいの?」
「お姉ちゃん?」
「強化改造を受けてまでやり遂げたいと思ったあなたの夢、そんな簡単に諦めてしまっていいの?」
痛いところを突かれて京子は押し黙った。
マディックの仲間は今でも大切だと思っているし、彼女らの未だ変わらない扱いの悪さには腹が立つ。
本心を言えばリリィを辞めたくない。
せめてマディックの待遇が改善されるまではおちおちエレンスゲを離れていられない。
「でも、周りが許してくれやしない。
こんな傍若無人なリリィに残って欲しい生徒なんているわけないだろうから……」
「本当にいないと思う?
そんなにはっきり言えるなら賭けたって大丈夫よね」
「お姉ちゃん、分かり切っていることに賭けても意味がないよ……」
「そう思うなら扉を開けてごらんなさい」
姉に言われるがままにドアを開けた京子は目を見開いた。
部屋の前で待っていたのは、アリエ、瑠美、ザラ。
クエレブレ最後のメンバーとなった3人だった。
「隊長、やめるって本当っスか……?」
ザラが不安げな顔で尋ねてくる。
退学の事を知っているということはどうやら尊が3人にも明かしたらしい。
理不尽な上司の退学を知って何を言うかと思えば3人揃って頭を下げた。
京子は戸惑った、これはどういうことだ? 彼女達は私に何を求めているのだ?
「お願いしまス! リリィをやめるのはやめて欲しいっス!」
「え、何を言ってるの?」
「この子、外国からの留学生だから、日本語が独特」
「私達は京子さんに退学を思いとどまってもらうためにここに来たのですよ」
「いや分かってるわよそんなこと、聞きたいのはそれじゃない。
お姉ちゃんはともかくなんであんた達まで私に居残って欲しいのかが分からないのよ」
かつて京子は目的のためには被害も犠牲も顧みないリリィだった。
部下はみな道具、あるいは攻撃を避けるために盾。
今のクエレブレメンバーにだって酷いことをいくどとなくしてきた。
その恨みはいくら京子が改心してもそう簡単には晴れないと思うが……?
京子は相手の立場になって考えていた。
だから分からなかった。
『自分がされた場合』の心境で考えていたから、『相手がどう受け取っていた』かまでは分からなかったから。
「弾除けでもなんでもいいからレギオンにいたんス!
序列下位仲間に自慢できて気持ちいいんスよ!」
「ふふっ、あなたに雑に扱われるの、そんなに嫌じゃなかったんですよ。
無茶な命令によってもたらされる苦痛苦難苦しみ……それらを感じることで私は生きていると実感できる。
それこそが至上の喜び……ふふふ」
「う、うん……そうだったのね……」
こいつらこういう性格だったのか……
引退間際に明かされるチームメイトの変な一面を垣間見て京子はたじろいだ。
「あ、あんたはどうなのよアリエ。
ヘルヴォルから勧誘されてたんじゃないの?」
自分がいなくなっても引き入れ先があるものを、なぜクエレブレに拘るのか京子には分からなかった。
「……確かに、あなたよりも一葉さんの方が尊敬できるし隊長としての能力も上です」
「言ってくれるわね、事実だけど……」
ならばなぜ一葉じゃなくて私を選んだのかと京子が問うと『だからこそです』とアリエは堂々と答えた。
「この先何があろうとも一葉さんが道を踏み間違えることはないでしょう、だから私がいなくてもあの人は大丈夫。
私は間違えない人よりも間違えてしまった人の味方でありたい」
アリエは後悔に引きずられることない生き方を模索して過去の意味を変えようとしていた。
かつての自分の傲慢さや過ちを語ることで同じく間違ってしまった者や、これから間違いを犯しそうな者達が立ち直ってくれれば、こんな欠点だらけのリリィ人生にも意味が生まれるはずだとアリエは考えていた。
「弱き人を守るのがリリィなら『心の』弱い人を守ったっていいはずです。
そういう人こそ救わなければ真の平和なんて訪れませんから」
正しい人よりも正しくない人を助けたいリリィなんて初耳だ。
そんな博愛精神を持っているのならなおさら良い人の方を……
「京子!」
思っていることをそのまま口に出そうとした瞬間、さっきまで黙っていた尊に怒鳴られて京子の肩がびくっと震えた。
生まれてこの方、聞いたことのない声色、見たことのないほど憤っている姉の姿をみて、それまで甘やかされて育った京子は思わず委縮した。
「動機はどうあれ、彼女達はあなたを隊長として認め、そのレギオンに入ることをの全でいる。
だからあなたにはクエレブレのリーダーとして私達を纏めていく責任があります」
あの戦いを経て尊は変わった。
不興を買うことを恐れ、周囲に追従してばかりだった気弱な少女はもういない。
そこにいるのは姉、親元を離れ、学園という大人の少ない環境に手時に優しく、時に厳しく妹を導いていくお姉ちゃんの姿が確かにそこにあった。
「責任を感じるのは大切ですがだからといって全部投げ出してしまうのは逃げです。
そんなことお姉ちゃんが許しません。
後悔を抱えて一生過ごすくらいなら、その重荷を少しでも減らせるよう努力してみなさい!」
ひとしきり言うべきことを言ったあと、尊は呆然とする京子の手をゆっくりと握る。
叱ってばかりでも良いお姉ちゃんとは言えない。
今度は優しく諭す番だ。
「マディックの慰霊碑を建てたいというあなたの夢、まだ諦めなくていいのよ」
「諦めなくていい?」
「そう。かつてあなたは一人で夢を叶えようとして負けた。
でも、一人じゃない今なら結果は変わるかもしれないわよ」
京子は改めて自分のチームメイトを見た。
よくもまあこんな変人ばかり揃ったものだ。
次々と部下を入れ替えていく中で最終メンバーとなった4人が誰一人として自分から離れようとしないのに京子はある種の運命を感じた。
”この4人なら理想を分かち合える仲間になってくれるかもしれない”
そう期待させる何かが目の前の4人にはあった。
それを感じて隊長は大いに笑う。
「全く……こんな私のためにレギオンに残りたいだなんてバカねあなた達。
――ま、それに乗せられる私こそ一番のバカだけど」
そう言ってこの後教導官に持っていく予定だった退学届を、びりびりに破いて捨てた。
「やめたやめた、退学なんてやーめた!」
「ということはつまり……!」
「エレンスゲの模範生正樹京子はもういない……これから新しい私が指揮を執る、大いに称えなさい、今日この時が、新生クエレブレのスタートよ!!」
吹っ切れた隊長の歯切れの良さに歓喜に満ちる仲間達。
これから共に戦っていく仲間達へ京子は新生レギオンの掲げる方針と理念を高らかに宣言した。
「当面の目標は変わらず序列1位を目指すこと!
でも旧クエレブレとはやり方が変わるわ!
もう学園の命令なんて聞かない! 教導官に媚びるのなんてまっぴら! ゲヘナとも一切手を切る!
仲間も市民も誰も見捨てず、何も壊さず、正々堂々誇り高く戦って、新たなクエレブレを世界に知らしめるのよ!」
一葉にマディックの事を離せば共感し自分の代わりに夢を叶えてくれるかもしれない。
でもそれでは違うのだ、誰でもない自分が抱いた夢なのだから自分自身の手で叶えるべきだ。
マディックの慰霊碑はかつてその立場にいた者が建ててこそ意義のあるものだと京子は信じている。
変えない夢と変えた信念の元に掲げられた新クエレブレの方針はチームメイトにも高評価であった。
「よく言えました、これなら私も迷いなくあなたについて行けるわ」
「目標は高ければ高いほどいい、それに達するための道筋はより困難を極めるものだから。
苦しみや痛みこそが生きている証、生命の喜び……
ふふふふふふふ、嬉しさで身震いしてきたわ!」
「瑠美様が良く言う、身震いってそういう意味だったんスね……
ま、アタイとしても2位よりも1位のレギオンの方が誇らしいから全力でお手伝いするっスよ!」
「今日得た理想を持ち続けていられるよう、残りの学園生活全てをかけてお支えいたします」
こうして、京子率いる新生クエレブレの活動が幕を開けた。
上を見上げても下を見下さず、上を妬まず。
見定めた上位者を超えられるよう懸命に励み、上の者もまた追い越されぬようさらなる努力を重ねていく。
序列システムが本来想定していた互いを見比べ、切磋琢磨し合える関係。
クエレブレが本当の意味でヘルヴォルのライバルになれた瞬間であった。
◆◆◆
エレンスゲ女学園の校内、ヘルヴォルのミーティングルームへの道すがらで、恋花と千香瑠は歩きながら談笑していた。
「それでね、一葉ってば他のお客さんが言ってるのを聞いてそれがマナーだと勘違いして言っちゃったわけよ、『ヤサイマシマシニンニクアブラカラメ』って」
「ま、まあ初めは何言ってるか分かりませんよね……」
「説明したら大慌てで取り消してくれたんだけどね。
――それにしても、不思議なものよね」
「何がですか?」
「いやさ、ゲヘナの施設に乗り込んだ時は覚悟を決めてたけど、結局皆お咎めなしで肩透かししちゃってさ」
恋花の言う通り研究所への強行突入という禁忌を侵したにも関わらずヘルヴォルとアリエは今もリリィを続けられている。
反乱なんてなかったかのように扱う学園の姿勢に彼女らは大人の事情を察した。
ヤプールによるエーストロン強奪事件は、ゲヘナやエレンスゲにとって黒歴史と言うべき大惨事であった。
黒幕に気付けずいいように利用され、莫大な費用をかけて製造した最強兵器は奪われ、自分達は何もできず、あまつさえ駒と見下していたリリィ達によって命拾いした。
両者のメンツは丸潰れ、上層部は気が気でならないだろう。
一度世間に知れ渡ればそれまで積み上げてきた権威が瓦解するだろう大事件。
大人達はそれを隠蔽しようと必死になった。
研究所の主任一人にスケープゴートし、戦犯として彼を投獄した。
自業自得とはいえ、責任を全て押し付けられた上に一生檻の中なんてあまりにも哀れだ。
首謀者の主任が逮捕されたことで、彼が取り進めていた計画は全て凍結、順位変動の件も白紙となって依然1位は一葉のまま。
だからヘルヴォルは罪を問われなかった。
真実を知る者達には黙っていて欲しいと『口止め料』を渡された。ヘルヴォルとアリエにとってのそれが無罪放免だったという話である。
責任から逃れようとする姑息な政治的配慮には少々複雑な感情があるが、おかげで首の皮一枚繋がったのでとやかく言わないことにするというのがあの日の9人が決めたことであった。
自分達の戦いが巨大な組織の予測を上回り無視できなくした、そういう風に思えばゲヘナの反応に納得できなくもない。
「これを機に、組織も懲りてくれるといいのですが……」
「それはどうだろうねえ」
恋花が楽観視しないのも無理はない。
人間はそう簡単に変われない。
一回騙されたくらいではゲヘナが数十年かけて培ってきた冷酷さは覆らないだろう。
しかし、反省はするんじゃないだろうか。
ヤプールにより目に見えぬ敵の存在が示唆されたことにより危機感を得てくれるかもしれない。
また誰かに利用されるかもという恐怖心が危険な研究を思い留まらせるようになってくれたのなら、世界を救った甲斐があるというものだ。
「ま、あたし達のやるべきことは変わりないけどね。
これからもヒュージと戦い、命を守り、学園を変える。
そうやって挫けず進んでいけば必ず手に入るから、キラメク未来って奴がさ……」
「その通りだと思います」
痛い秘密を握っている自分達を学園に残しておくくらいには、上層部もヘルヴォルの事を認め始めている証拠。
ほんの少し、僅か一歩ではあるが、エレンスゲは良い方向に向かっているということだ。
学園を変えるヘルヴォルの戦いはまだまだ続く、次に戦いへ備えるためにも二人はミーティングルームの扉を開けた。
「おはよう、恋花、千香瑠。
来たばっかりで悪いけどちょっとの間静かにしてもらえるかな? 藍がまだおねむみたいなの」
先に来ていた瑶の膝に藍が座っていて気持ちよさそうに眠っている。
それ自体はヘルヴォルの日常的な光景なのだが、今日は少し違う。
今日の藍はぬいぐるみを抱えていた。
くまやうさぎではない、店では売っていないような風変りなものを抱いていた。
「これってウルトラマンのぬいぐるみですか?」
「わ、本当だ。可愛くデフォルメされてる。
瑶が作ってあげたの?」
「いや、私は手伝っただけ。
作りたいって言いだしたのは藍だよ」
「へぇー、この子がねえ……」
ぬいぐるみをよく見てみると所々毛糸がはみ出ていて四苦八苦の痕跡が感じられる。
この一か月間、瑶に教えてもらいながら一生懸命縫い付けたのだろう。その姿に思いを馳せると微笑ましく感じてついつい撫でたくなってしまう。
「これも、藍ちゃんなりの折り合いの付け方なのかしら」
「そうみたい、ウルトラマンだけじゃなく怪獣のぬいぐるみまで作っていたからね」
いつの間にかずらりと並んでいたぬいぐるみ達に恋花も千香瑠も思わずたまげる。
そこにあったのは全て、あの一か月間でエースと共に戦った怪獣達のぬいぐるみであった。
うろ覚えであやふやな部分もあるがおおよその特徴は掴めていて、どのぬいぐるみがどの怪獣をデフォルメしているのかはすぐに分かった。
「戦っていた時は憎たらしい奴らだと思っていたけど、こうしてじっくり見ると結構愛嬌あるじゃないの。
特にこのシルバゴンなんて光線の真似してきたりとおかしな奴だったよね」
「恋花もそう思う? 私もガラモンみたいなかわいい怪獣もいるんだなって思ってたよ」
「マガジャッパは……ある意味強敵でしたね……」
こうやって人形に手をとればあの日の思い出が鮮明に蘇る。
この人形達がある限りヘルヴォルはウルトラマンと怪獣を忘れることはないだろう。
藍は巨人との別れを受け入れ、彼と交わした約束をいつまでも守っていこうと固く心に誓っていた。
「むにゃむにゃ……たいやきうむこうせ~ん~……」
「あはは、この子ってばウルトラマンになった夢を見てる~
ふぉっふぉっふぉ~、たいやきうむ返し~」
寝言があまりにも可愛くてついついちょっかいかけたくなる。
不意に頬をつつかれ、少女は夢見心地のまま目を覚ました。
「むうぅ……あれ? レンカー星人はどこ」
「レンカー星人って何!? なんであたしがあんたの夢の中で怪獣になってんのよ!?」
「レンカー星人はね、パンダを盗もうとする悪い宇宙人なんだよ」
「いやいやいや、パンダを盗むって何よ?
悪事がピンポイントすぎるでしょ」
「でも、気持ちは分からなくもないかな、パンダ可愛いし」
「ふふ、藍ちゃんならレンカー星人さんともお友達になれるわ」
「だめだよ~レンカー星人、可愛いからってパンダ一人占めしちゃ」
「あたし別にレンカー星人じゃなくて……
というかなんで一葉だけいないのよ、また遅刻したんじゃないでしょうね」
このままだと恋花=レンカー星人が定着して面倒なことになりそうなので慌てて話題を切り替えた。
「あれ、恋花忘れちゃったの?
手紙を送りに行くから少し遅れるって昨日言ってたよ」
「ああ~、そうだったわね、あたしってばうっかり!
今じゃ手紙が唯一の連絡手段なものね」
「はじめ、向こうでも元気かな?」
「大丈夫よ、それが彼が選んだことだもの、元気いっぱい自分の夢に向かって頑張っているはずよ」
ヘルヴォルやクエレブレが口止め料を与えられたように始にもまた、学園からの謝罪があった。
事件において最大の被害者である始は特に丁重に扱われ学園専属の医療機関にて薬の後遺症がなくなるよう徹底した治療を受けた後、口止め料として一つだけ要求を通せる権利が与えられた。
それを行使して始が求めたこととは……
◆◆◆
◆◆◆
相変わらず硬い奴だなと、今朝届いた手紙を読んだ始は学校の制服に袖を通す。
始がいるのは新潟にある平凡な一般校。
ヒュージから解放されて間もないこの土地で、始達竜駆は復興活動を手伝いつつ学業に励んでいた。
全ては一人でも多くの人に忘れていた優しさを思い出してもらうため。
自分のような孤児が道を踏み外すことないよう見守れる立場に就きたいと始はその夢の第一歩を踏み入れていた。
「兄貴ー、まだすかー」
「遅刻しちまうでヤンスよー」
「ああ、今行くー」
部屋の前で待っている竜駆の子分改め、高校のクラスメイトと共に始は学校へと歩き出していく。
「兄貴兄貴、今日も勉強会しませんか。
どうも日本史が苦手で……」
「暗記すりゃいいじゃねえかよ、しょうがねえな。
テストに出そうな所だけ教えといてやるよ」
「マジすか、あざーす!
というか兄貴って暗記系得意だったんすね……」
「今まで頭使ってなかったから、容量に余裕があるだけじゃないでヤンスか……」
「言ったなこの野郎。
今日は教科書に書いてある文字一つ残らず暗記するくらいみっちり鍛えてやるから覚悟しとけよ~」
「「ひえ~鬼教師~」」
てんやわんやで学校生活を楽しみつつも、始は一葉への手紙の返信を考えていた。
出だしは何にしようか。
この季節の挨拶にはどんなものがあっただろうか……
色々悩んだ末に閃いた。
(そうだな、これが一番良さそうだな……)
恩田始から相澤一葉への手紙の書き出し、それはこれにしよう。
『拝啓 リリィ様』と!
5年ぶりの連載二次小説、執筆機能に色んな変化があって慣れるのには大変でしたけど楽しかったです。
それではまたいつか、短編か次の連載でお会いしましょう。それでは!