アサルトリリィ ーAce―   作:オエージ

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リリィの持つ指輪と位置がかぶるので一葉のウルトラリングは本来の位置と変えています。


第3話 トリカブト ―chivalry、Knight-errantry [全力少女の全力特訓]

 ここはどこだ? 

 

 始が意識を取り戻した場所は、青色一色の謎の空間としか言いようがなかった。

 凹凸がなく床も壁も天井も全て同じ色。

 どこまでも走れそうなほど広く感じる一方、すぐに壁に当たりそうなくらい狭くも感じる。こんな摩訶不思議な空間が現実に存在するのか?

 

 一体なんでこんな所に自分がいるのか記憶を遡る。

 

 確か、巨大な怪物に踏み潰されたような……ということは自分は死んだのか。

 ならばここは天国だというのか。

 

 「いや、俺がそんな上等な場所に行けるわけないか

 

 死に際の善行一つで天国に行けるなら今頃天国は人で溢れている。

 天国に行けないのならここは地獄ということになるのだろうか。

 

 だとしたら随分ぬるい地獄だ。

 

 針の山の血の池もない、何もない無の空間、これが地獄というものか。

 ならば今、こちらを見下ろしている銀色の巨人は自分に罰を与えに来た地獄の鬼なのか? 随分優しそうな面構えをした鬼がいたものだ。

 

 「地獄ではない。

 ここはインナースペース、簡単に言えば君の精神が作り出した君だけの宇宙だ」

 

 「あんたは誰だ? なんで俺の心を読める?

 

 「私はウルトラマンエース。私は君と融合した。

 今の私達は心と体を共有している」

 

 ウルトラマン? 融合? 急にそんなことを言われても理解できず首をかしげるしかない。

 

 「ならば結論から入ろう。

 今、君達の地球が未曾有の危機に陥ろうとしている」

 

 巨人が手をかざしたと思えば、青一色のインナースペースが広大な宇宙に塗り替えられる。そこに見えるのは銀色の巨人と金色の超獣の死闘。

 先ほどウルトラマンとやらは心と体を共有していると言った。それは相手に考えている事を読まれるだけではなく、自分も相手が伝えようとしているものを直接知ることができるというわけか。初めて聞く単語も多かったが心が一つになっていると認識した途端自然と理解できるようになってきた。

 

 曰く、空間の歪みの先にヤプールの気配を察知したエースはそれを追いかけ激戦の末に超獣を撃破した。だがその時のダメージが激しすぎて肉体を維持できず光の粒子となって軌道上を彷徨っていたという。

 

 「それにヤプールは最後の悪足掻きに出た。倒される直前、空間の歪みを操作してこの地球と怪獣墓場の空間を繋がりやすいように変えてしまったのだ」

 

 怪獣墓場。

 宇宙の平和を乱す悪魔達が眠る無限の牢獄。光の戦士に倒され永遠の眠りについたはずの怪獣が、星人が、ロボット怪獣が、円盤生物がこの地球にあふれ出ようとしているのだ。

 ヤプールは別の次元から地球へ侵略してきた異次元人、そんな彼らにとって違う空間同士を繋げる技術など初歩中の初歩、お茶の子さいさいである。

 冗談じゃない、ただでさえ人類はヒュージという敵との戦いでいっぱいっぱいなのだ。急に現れたよそ者たちの相手をしている余裕なんてない。未曾有の危機という巨人の言葉は決して誇張ではなかった。

 

 「本当なら私が戦って守らなければならないのだが、本来の姿では3分間しか地球にいられない上にこの星で過ごすための仮の姿を維持するエネルギーも残されていないのだ……」

 

 巨人の心から申し訳なさと無念の気持ちが伝わってくる。自分とは関係ない星のことにここまで真摯なれるとはすごく善良な宇宙人のようだ。

 

 「だから俺の体と融合したのか?

 

 「そうだ、あの瞬間、命の危機に瀕していた君達を救うにはこれしか方法がなかった。人間と融合することでウルトラマンは自身の傷を癒すことができる。

 勝手な願いだが頼まれてくれないか? 私が本来の力を取り戻すまでの間、君達がウルトラマンとなってこの星を守ってくれ」

 

 力の行使権を全て人間に委譲して、回復に専念すれば完全に癒えるまでそう長くはかからない、傷さえ治れば次元の歪を修正して二度と怪獣が現れないようにできるらしい。

 悪くないギブアンドテイクだ、地球最大の危機だというのに始は興奮を隠せなかった。

 彼が今までチンピラとばかり喧嘩してきたのは、それが自分に勝てるレベルの悪だったから、勝てさえすればヒュージだって戦うつもりだった。

 巨人の力が手に入ればできることが今よりも増える。不謹慎な期待と高揚で胸が弾け飛びそうだ。

 

 「分かった、やるよ。怪獣どもは俺が倒す

 

 「そうか、助かる。もう一人の少女、相澤一葉くんにも今話したことを伝えておいてくれ。彼女とはうまく融合できていないんだ」

 

 「おうよ! 任せときな……えっ!?

 

 今、こいつなんて言った?

 なんで急にあのリリィの名前が出てくる?

 

 「君の指に銀色の指輪がはめ込まれているだろう? これはウルトラリングといって私に変身するために必要不可欠なアイテムだ。一葉くんの指にもはめられている。

 リングが光る時、君と一葉くんの心が一つになって初めて君達はウルトラマンに変身できるのだ。そのことをくれぐれも忘れないように」

 

 「嘘だろ……

 

 バケツ一杯の冷や水をかけられたように先ほどまでの興奮が解けダラダラと汗が流れる。

 百歩譲って誰かと変身しなければならないのはいい、だが何でよりによってあいつなんだ。

 どんなに突き離そうとしてもついてくる、善意の暴走機関車みたいなあいつと心を一つにするなんてできっこない、多分ストレスで死ぬ。

 

 片方変えてくれ俺の方でもいいから、慌てて懇願しようにも巨人のシルエットが段々薄くなっていく。

 

 「そろそろ時間が来たようだ。回復のため私は深い眠りにつく。君達に干渉することはできないがいつでも君達を見守っているよ」

 

 「おいちょっと待て! 話はまだ……

 

 「力の使い方には気を付けて、特に君は光よりも闇の巨人の気質がある。

 だが私は信じている、光の戦士が闇に堕ちることもあるように闇もまた光になることができると。

 あの瞬間、自分よりも幼い少女の命を優先した優しさを、君の心の奥底に封じ込めた優しさを思い出すことができたのなら、きっと君は……」

 

 言い終わることなくインナースペースが眩しい光に包まれ始の意識は薄らいでいく。

 

 気が付けば視界は青一色の天井から見慣れた天井へと変わっていた。

 ここはヒュージに壊されたままうち捨てられた崩落地の廃墟、始達竜駆の秘密基地。

 

 「はぁはぁ……夢……?

 

 そうだきっと夢だ。

 怪獣に踏まれたのも巨人と融合したのも一葉と一緒に戦わなければならないのもきっと夢の中の絵空事だ、絵空事に決まってる、絵空事であって欲しい。

 

 嫌な気分を切り替えるため窓に手をかけ景色を眺める。昨日に続き晴天だ。

 

 顔を上げれば、青い空、白い雲、真っ赤な太陽。

 顔を下すと、草花、緑樹、一葉、土、なんかの瓦礫、朝起きたらいつも見る光景だ。

 

 ん?

 今、一つだけ妙なものが混ざってたような……

 

おはようございます! やっと目を覚ましてくれたんですね! かれこれ3日は眠り続けていましたよ!

 

うわあああああああああ!?

 

なんか一葉がいた。こちらに気づくや否やすかさず窓に飛び込んでくる。

 

 「おおおおお前! どうしてここに!?

 

 「リリィならこれくらいの高さ楽々で飛び越えられますよ

 

 「飛んできた理由じゃねーよ!?

 

 「あの後あなたを探しに来た竜駆の皆さんに教えてもらったんですよ

 

 「ここを知ってる理由でもねーよ!? いや、ちょっと聞き捨てならないけど今はどうでもいい! 何のつもりで俺の前に現れたって聞いてんだよ!?

 

 そんなの決まってるじゃないですか、一葉は左手をかざす。

 その指には銀色の指輪がはめられていた。リリィはチャームを操るために特殊なリングを身につけるらしいが、一葉が見せたそれは聞いた話とはデザインが違う。というか夢で巨人が話したウルトラリングではないか。

 まさかそんなこと、あれは夢じゃなかったのか、始は慌てて両腕に目を向けた。

 

 あった、思いっきり右手に一葉と同じリングがはめられていた。

 

 「ウルトラマンに選ばれた者同士。お互いのこともっと知っておいた方がいいじゃありませんか

 

 「おのギンピカ野郎……起きたら覚えてろよ……

 

 だがこれだけでは終わらない、始にとっての受難は今ので本の序の口、氷山の一角でしかない。

 

 始が目を覚ましたことに気付いた子分の1人が部屋のドアを開けて挨拶しにきた。

 

 「おはようございやす! 兄貴! (あね)さん!」

 

 自分の事を慕ってるはずの子分がさも同格のように一葉を呼ぶ。

 一葉も特に指摘することなく子分と会話しだす始末。

 

 「姉さんに言われた通り町のゴミ拾いを終わらせてきやしたぜ。残ってる区画は地図でいうとこの辺とその辺でやす」

 

 「お疲れ様です。昨日より作業ペースが上がっていますね、その調子です

 

 「いやいや、姉さんのご指導の賜物ですよ」

 

 「お、おい……なんで普通に会話してんだよ?

 

 「あれ? あっ。兄貴はずっと寝てたからここ三日間のことを知らなかったやしたね」

 

 「あなたが眠っている間に、竜駆の皆さんと色々お話させてもらいました。いい人達ですね、外部の私達の提案を快く受け入れてくれましたよ

 

 背筋が凍る思いをした。自分の知らないうちに子分ら懐柔されてしまったようだ。

 現実を認めたくない始は突然走り出し竜駆の集会所へ向かう。

 そこで彼は信じられない光景を目にすることとなる。

 

 

 「だからさぁ~、あんたらのユニフォームも今風に新調したらいいと思うのよ。はいこれ、昨日書いたイメージ図

 

 「いや、これはちょっと変わりすぎっていうか……大分冒険してません?……」

 

 「分かってないな~、元々ファッションは冒険なのよ、色々試して新しい自分を作り出していくものなのよ

 

 「まあ、姉御がそういうのなら……」

 

 竜駆の一張羅がラフでカジュアルな感じに変えられようとしていた。

 

 「皆さ~ん、ちゃんと人数分作ってありますのでキチンと列を守ってくださいね~

 

 「う、うめぇ……! こんなうまい飯食べたの何年振りだ」

 

 「うまい飯作れる上に美人で優しいなんてあんたは天使か?」

 

 「いや神だ! 女神だ! 慈愛を司る女神様だこのお方は!」

 

 「「「女神様~」」」

 

 「あの……私、ただご飯を作っただけなのですが……

 

 ガッチリと胃袋を鷲掴みにされていた。

 

 「ら、藍ちゃん! 昨日道端で財布を拾ったけどワイ、一円も手を付けずに交番に届けたでヤンス!」

 

 「わぁ、偉い偉~い、よしよ~し

 

 「い、いいなー山中のやつ、今日も藍ちゃんになでてもらって……」

 

 「俺は昨日も一昨日もなでてもらったぜ」

 

 「甘い甘い、俺は素手の時になでてもらったんだぜ」

 

 「……皆のアイドルになった藍……かわいい……!

 

 屈強な不良達がヤバいカルトにはまっていた。

 

 「ナニコレ? えっ、なにこれ……?

 

 「彼女達はヘルヴォル、私の大切な仲間達です!!

 

 竜駆のリーダー、恩田始がウルトラマンエースとなって三日、竜駆は、『一葉の姉さんについていきたい派』 『恋花の姉御とラーメン屋巡りしたい派』 『千香瑠神を崇めよ派』 『藍ちゃんに甘やかされたい派』 (瑶さんの良さを一番理解ってるのは俺だから……!派) の5つに分かれ、混沌を極めていた!!

 

 ◆◆◆

 

 始の気も落ち着いた午前10時、始が座るテーブルに遅めの朝食が出される。

 

 「どうぞ、好みを聞いていなかったのでお口に合うか分かりませんが

 

 「いらない、リリィが作った飯なんか食えるか

 

 言った直後にいい訳のしようもないほど大きな腹の虫が鳴り出して恋花は思わず吹き出した。

 

 「ぷぷっ、うっそでしょあんた、そんなベタなことってある?

 

 「なっ、違っ……

 

 「はじめ~、食べないの? 食べないなら藍にちょーだいっ

 

 「いいんじゃないの~、このお兄さんはリリィのご飯は食べられないらしいからさ~

 

 「恋花……ここぞとばかりに……

 

 正直に言うと三日間も何も食べてないのでかなりきついのだが、『ナメられたら終わり』だと意地を通して皿を藍に渡す。

 

 「ほ、ほらよ……食いたきゃ勝手にしろ

 

 「やった~、ありがとはじめ~。いただきまーす

 

 遠慮なくスプーンでカレーをすくう藍。フーフーと息を吹いて冷ますとすかさず口に入れて満面の笑み。そしてまたスプーンで、繰り返すペースも段々上がっていく。

 その様は、見てるだけでそれがうまいものだと分かるほど良い食いっぷりで、始の腹の虫もビートを刻みだした。

 

 「ちかるのカレー、辛くないから好き~。おかわり~

 

 「ほらほら見てるだけでいいの~? あんたの分無くなっちゃうかもよ

 

 「……ガキの胃袋なんてたかがしれてるだろ……

 

 「藍は、結構食べるよ……

 

 「えっ、ど、どれくらい食うんだ?

 

 「あの鍋の中身を全部食べても、腹八分目くらいだと思う

 

 話している内に2皿目を平らげ3皿目、4皿目と皿を積み重ねていく。それでもスプーンが止まる気配がない。

 

 「おかわり!

 

 「ら、藍ちゃん、もう一杯分しか残ってないのよ。これを食べたら始君の分がなくなってしまうわ

 

 「え~、でもはじめはいらないって言ったよね? そうだよね?

 

 藍に悪意はない。始がくれると言ったのでそうしてるだけだ。男の意地とかヤンキーのメンツとか、幼い藍にはそれが分からない。このままでは本当に最後の一皿を平らげてしまう。

 意地を張ってる場合か、ここ逃したら当分はまとめな飯にありつけないぞ、腹の虫が過去最大級にアラームを鳴らす。

 逡巡の末、ようやく始は折れた。

 

 「ま、まぁ、リリィのことは嫌いだけどよ。敵がどんなもん食ってるかは知っておいた方がいいというか……その、俺にも一皿……

 

 「ごちそうさま~♪

 

 「嘘だろ!?

 

 「始、よく聞いて、今のは恋花がふざけて言っただけだから

 

 「あはは! お腹が減りすぎると耳まで悪くなるんだね!

 

 「こ、こいつぅ……

 

 「こいつじゃないよ、飯島恋花っていうんだよ、よろしくね~

 

 なにはともあれ、カレーにありつけた。

 特に感想を口にすることはなかったが、うまかったかどうかは鍋の底を必死に突っついてる姿を見れば一目瞭然だった。

 

 ◆◆◆

 

 空腹を補った所で一葉はここ三日間で世界中に起きた異変を始に伝える。

 

 「これを見てください。どうやら私達が戦った巨大生物は他の所にも複数現れていたようです

 

 首に大きなエリマキをつけた恐竜、巨大化したナメクジ、全身目玉の化け物。世界中のあらゆる場所に奇妙な巨大生物が現れたとその新聞には書いてあった。それは『怪獣』と総称されヒュージに匹敵する新たな脅威として各ガーデンが対応に追われているという。全部あの巨人が言った通りだった。

 

 「奇妙なことなのですが、私はこれらの怪獣たちの事を知っている

 

 曰く、三日前の戦いの後一葉の脳裏に身に覚えのない知識が生えてきたという。巨人の住む星、自分達とは少し違う地球、怪獣、異次元、マルチバース……融合したあの巨人の記憶が流れ込んできたと一葉は解釈した。

 

 「あなたにも同じことが起きましたか?

 

 「いや、俺の場合は巨人が直接語り掛けてきた

 

 「一葉ちゃんは巨人の記憶と、始君は巨人の意思と繋がったということなのかしら……?

 

 「半々で融合してるからリングを合わせただけじゃ変身できなかったんだ

 

 試したのか……寝てる間に一体何をされたのか不安になってきた。

 

 「安心して、それ以外は何もしていないから。ウルトラマンの事もここにいる皆しか知らないよ。ガーデンにバレたら色々面倒そうだからねー

 

 「そ、そうか。それであいつが語り掛けてきたことなんだけどさ

 

 始は隠す意味もないので巨人から聞いた話をそのまま伝えた。

 

 「責任重大ですね。巨人が目覚めるまでの間、私達が代わり戦わなければならない。そのためには巨人の戦い方に慣れるよう鍛錬に励まなければ……

 

 「お前、本気でやるつもりなのか?

 

 「もちろんです。罪なき人々の命が脅かされるのならそれを守るのがリリィの使命です

 

 リリィを志した瞬間から超常の怪物と戦う覚悟はできている。だから怪獣が現れたとしても、ウルトラマンに選ばれたとしても信念は揺るがない。

 それがリリィ、それが相澤一葉。

 

 「力を貸してくれますか。あなたは少々暴力的ですが、無作為に振るっていたわけではないことは皆さんから聞いています。自分自身の正義を貫こうと思っていたんですよね?

 周りから何と言われようとも決して曲げないその強さを、本当に正しい方向に向けて使う気はありませんか

 

 一葉から手が差し出される。彼女は握手を求めていた。これから手を取り合って戦う意思を表明した。

 始がどうリアクションを取るのか、ヘルヴォルと竜駆の面々は黙して様子を見守った。

 

 「断る、俺はお前らとは戦いたくない

 

 えぇ……この流れで断るの……、とヘルヴォルは困惑した。

 

 あーやっぱり……、と竜駆は頭を抱えた。

 

 ずっとリリィを恨んで生きてきた。エレンスゲは人の命を何とも思わない連中だと一緒くたにして憎んできた。その反骨精神が今日までの自分を作ってきた、そう簡単に忘れられるものではない。忘れたくても忘れられない。

 

 「だが条件が――

 

 「そうですか、残念です

 

 「え、ちょっ、待……

 

 言い終わる前に帰る用意を始めるヘルヴォル。始を見つめる瞳には侮蔑も軽蔑もなく『仕方ないよね』という気持ちが見えた。

 

 「ウルトラマンの力を得たといえでもあなたは一般人ですから、危険を冒す義務はありませんしね

 

 「いや、そうじゃなくて……

 

 ひょっとしてこいつら俺が戦うのを怖がってるって思ってんのか!?

 とんでもない勘違いをされて始はわなわなと震える。

 

 「世界を守るのは本来リリィの役目、ウルトラマンの力に頼ろうとしていたのは甘えだったかもしれません。失礼しました!

 

 一葉は馬鹿正直に内省した。

 

 「らんは強いから怪獣にも負けないよ!

 

 バトルジャンキーの藍は元より巨人をあてにするつもりはない。

 

 「怪獣に対する戦術が確立されれば、被害も抑えられるはずだよ

 

 瑶は始が協力しなくても大丈夫だよとフォローする。

 

 「うっかり踏み潰されたらかなわないもんねー

 

 恋花は戦術的観点から巨人との共闘の難しさを語る。

 

 「あれ、始君さっき何か言うとしてませんでした?

 

 千香瑠は始が言おうとしたことを聞き逃していなかったようだ。だがもう遅い。

 

 「お前らー! 俺をなめてんじゃねーぞごらぁ!!

 

 うわぁめんどくせー、とギャルの恋花は始の言動が理解できなさ過ぎて困惑した。

 

 まあ兄貴そういうとこあるから、とヤンキーの竜駆は始の言動を理解し過ぎて困惑した。

 

 ”ナメられたら終わり”はいつの時代もヤンキーにとって不動の心理であった。それが思い込みから来る勘違いであってもメンツ維持の為に必死になる、不良とは難儀な生き物なのだ。

 

 「分かったよやってるよ! 俺がびびってねえ証明してやらぁ!

 

 「えっと、よく分かりませんが手を貸してくれるってことですか?

 

 「一回だけな! 次に怪獣が出た時だけ戦ってやるよ!

 

 「そうですか、ありがとうございます! では次の戦いに勝てるようみっちり特訓をしないとですね!

 

 「おうよ!

 

 「やりましょう、血反吐吐くまで!

 

 「血反吐吐くまで!

 

 なんでコイツのノリに順応できてるのよ一葉……、恋花は困惑は留まることを知らない。

 学園への、学園が作った基本方針への反骨精神という意味では、ひょっとしたら一葉も始と近い部類の人種なのかもしれない。

 

 ◆◆◆

 

 始の意思を確認した所で特訓が始まる。

 

 記憶にある怪獣への対策、それに有効な光線技の把握、やるべき事はたくさんあるが何よりも重要なことは一つ。

 

 二人の息を合わせること。

 

 二人で一人のウルトラマンと融合しているという特殊な状況の為、各々が勝手に動くとどっちの動きも阻害され結果身動き一つできなくなってしまう。エースの意思があればある程度は調整してくれるかもしれないが彼が眠っている以上助けは期待できない。

 先の戦いはビギナーズラックだった。超獣が弱っていなかったら、ウルトラマンの意識が辛うじて残っていなかったら、光線の一つも撃てずに一葉達は負けていた。

 だから何よりも息を合わせられるようにすることを優先しなければならない。同じタイミングで、誤差のない速さで、一切ズレない動きを二人で合わせなければ戦う事すらできない。

 

 その為に必要な特訓を一葉は三日間かけて考案し、苦心の果てに導き出した最善最良最高率のトレーニングを今実行に移す。

 

 「……なんでよりよって二人三脚?

 

 「コンビネーションを鍛えるのにうってつけだからです!

 

 確かに姿勢や歩幅を合わせなければならない二人三脚は今自分達に必要な訓練かもしれない。一葉の考えは間違っていない。間違ってないからこそ、この奇抜な特訓方法に文句を言いにくいのが厄介な所である。

 

 「私達の連携を確かめる基準として瑶様と恋花様にも二人三脚をしてもらいます。この崩落地全体をコースにお二人と競争します

 

 「悪いけど本気で行かせてもらうよ~

 

 「負けたらお弁当抜きだからね

 

 さらっととんでもない負けペナルティが明かされて、適当合わせるフリしときゃいいかと油断していた始は真っ青になりならが走った。尚勝敗は90分遅れで始一葉ペアの完敗の模様。

 

 「はぁはぁ、よく考えたらずるいだろ、チームメイトのペアなら勝てて当然じゃねえか……

 

 「だからこそ高いハードルになってくれるんですよ。はいどうぞ、お弁当を食べて次に備えてください

 

 「負けた方は飯抜きだったんじゃ

 

 「()()()負けたらの場合だよ

 

 「これぐらいのペナルティがないと緊張感がないからね

 

 ハメやがったなこいつらと怒りながらも弁当をかきこみ、次の訓練に備えた。

 何気に『リリィが作った飯なんか食えるか』とかなんとか言っていたのを忘れてるような食べっぷりだったが、突っ込まない優しさが周りにはあった。

 

 ―第二訓練 怪獣の基礎知識

 

 「じゃあ第三問、この絵の怪獣の名前なにか分かるかなー

 

 「グリーンキング?

 

 「ぶっぶー、正解はレッドキングでした。あんたこの問題苦手だねー

 

 「いやおかしいだろ!? どう見ても赤くねえだろそいつ!?

 

 「しょうがないでしょそういう名前なんだから。じゃあ次の問題、この怪獣の名前は?

 

 「全身真っ黒だが騙されねえぞ、ピンクキングだな!

 

 「正解はブラックキングでーす

 

 「なんでこいつは見たまんまなんだよ!?

 

 ―第三訓練 光線技のレクチャー

 

 「この構えはバーチカルギロチン。相手を真っ二つに斬る技です

 

 「おう

 

 「ホリゾンタルギロチンの構えはこう。この技は首を切断します

 

 「うん

 

 「次はちょっと複雑ですよ。えいっ、とおっ。今のがサーキュラーギロチン。相手を十字に切り裂きます

 

 「切断する技多くないか?

 

 ―第四訓練 意思疎通訓練(30回連続あいこになるまで無限ジャンケン)

 

 「あーっ、お前! なんでチョキ出したんだよ!?

 

 「えっ、だってあなたがチョキ出しそうな気がしましたから……

 

 「お前はグーを三回連続した後は必ずパー出してたんだよ! チクショー最初からやり直しじゃねえか折角25回まで言ったのに!

 

 「す、すみません……しかし私自身が気付かなかった癖を見抜くとは少しづつですが心が通じ合ってきている気がしますね!

 

 「3時間もぶっ通しでジャンケンし続けたら嫌でも通じるだろ……

 

 

 それから2時間後、ようやく目標の30回に到達した。

 

 「ぜぇぜぇ……指の感覚がもうねえ……

 

 「そろそろ、時間ですね。今日の所は帰ります。明日も訓練よろしくお願いしますね

 

 「そうか、二度とくんな

 

 やっぱこいつらとはやっていけない、このまま続けたら多分ハゲる。

 とりあえず引っ越しの準備をしておくため荷物の整理に向かう途中、視界の端に見慣れぬタッパーの山と鍋を見つけた。

 

 「千香瑠ねえさんが三日分の作り置きを用意してくれたんでヤンス。マジで生きた女神でヤンスよあの方は」

 

 

 「…………

 

 適当なタッパーを手に取って一口つまみ食い。

 

 「………うまい……

 

 ……引っ越すのは三日後からでも遅くないか。

 

 ◆◆◆

 

 リリィの仕事はヒュージと戦うことだけではない。

 急に出現するヒュージにも対応できるよう巡回を続けるのもまたリリィの重要な仕事だ。

 始達のいる崩落地とそう遠くない所でリリィが二人、世間話をしながら見回りをしていた。

 

 「ねえ聞いた? 百合ヶ丘が怪獣を一体倒したらしいわよ」

 

 「流石はトップガーデンの一角ね。どのレギオンが倒したの、アールヴヘイム?」

 

 「いちやなぎたい? とかいう聞いたことのないレギオンだったわ。最近結成されたばかりみたいね」

 

 「いいよね百合ヶ丘は自由にレギオン組めて。どうせ序列下位の私達はいつまでたっても序列上位のいいなりですよ」

 

 「また始まった~、みっちゃんの序列コンプレックス~」

 

 「私はまだマシな方よストレス発散だし。序列一桁でこじらせてる人はやばいわよ、うちらの隊長みたいに」

 

 リリィ同士を競い合わせるためにエレンスゲでは序列制が採用されいる。より上位を目指して努力するものもいれば周りよりも低かったり目標の順位にたどり着けなかったりで思い悩む者も少なくない。自分にあてがわれた数字の受け取り方は人それぞれ、彼女達はあまり気にしていないタイプのようだ。

 

 「言えてる。ま、あまり高望みし過ぎない方がメンタル的には楽かもね」

 

 「かもね~」

 

 他愛のない話で笑い合う姿は彼女らリリィが15・6の少女だということを再認識させられる。されど路地裏から大きな物音が聞こえた途端、笑みを潜めて一瞬の内にチャームを起動させる。平凡な女子高生の時間は終わりここからは戦士の時間が始まる。

 

 「……様子を見てくるわね」

 

 並んでいた二人の内、音がした方向に近かったリリィが斥候を請け負い路地裏に足を踏み入れる。

 

 

 

 踏み入れた瞬間、後ろから放たれた弾丸に彼女の足が撃ち抜かれた。

 

 「…………え?」

 

 地面に傾いていく視界の中で、自分を撃ったのはさっきまで会話していた相方だということに気付く。

 

 「どう、して…私達、友達じゃ……」

 

 薄れゆく意識に逆らい問いかけるも撃った少女の顔は全くの無表情、目を向けることすらしてこない。だらりと肩を下げ、微動だにしない様は吊るされた人形のように不気味だった。

 

 

 『いい武器を持っているな、下等生物』

 

 鉄面皮のまま口を開く少女。

 彼女はこんなに棒読みな喋り方だったか、言ってることも何かおかしい。

 まるで違う誰かが彼女の口で話しているかのような違和感。

 

 『お前達には過ぎた道具だ。だから我々がもらいうける』

 

 それだけ言うと少女は糸が切れたように崩れ落ち、既に意識を失っている少女に覆いかぶさるように倒れた。

 倒れた少女に目もくれず二人の手から離れたチャームを拾い上げると、そいつは忍者怪獣サータンのマントを脱いで正体を現し、歓喜の声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 『バーロバロバロバロバロバロバロ……』




少女がゴツい『武器』で戦うアサルトリリィとのクロスオーバーなら『アイツ』を出さない理由はないなって
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