アサルトリリィ ーAce―   作:オエージ

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補足話
オーブ → ゼロ → セブン → エースという流れで情報が伝わってきたので一度も戦ったことのないエースもギャラクトロンのことを知っているという設定です

ゼロが接着剤として便利すぎる……!


第6話 ゼラニウム ―unexpected meeting [予期せぬ相手]

 「この惑星のヒュージ以外の全生命に通告する、この星の支配権をヒュージに委譲し今すぐ絶滅せよ」

 

 周囲の情報端末をジャックしてギャラクトロンは持論を垂れ流す。

 

 近くにいた一葉と千香瑠も、彼女達の元に向かう途中の恋花達も、避難所へ移動している市民も、その中にいる始も、この白いロボットが紡ぎ出す言葉に絶句する。

 

 「食物連鎖とは、他者の命を奪い生き永らえようとする間違った自然の摂理である」

 

 「これを模倣した生物が利己的、排他的、暴力的、残酷極まりない習性を持っているのはあらゆる文明にて証明された覆しようのない事実である」

 

 「耳が痛いか? 私の言っていることを否定したいか?

 ならばなぜ君達は生命維持のために他の生物を捕食する? 森と山を崩し生息地を無理やり広げるのはなぜだ?

 生きたいという生存本能が他の生命体にも備わっていることを見て見ぬふりをしているのではないのか?」

 

 「光、熱、空気、マギ、この星だけでも生命を動かすエネルギーは有り余っているというのにそれらを活用できないのは君達が進化の根本から間違えた愚かな生命であるからだ」

 

 「しかしヒュージは違う。マギのみを糧として生きるヒュージには同族間の争いがなく、決して綻ぶことのない調和を維持し続けられている」

 

 「ヒュージこそ生命のあるべき姿、この星で唯一生きる価値を持った生命体。

 よって本機はこれよりこの惑星を正しい形に作り替えるためヒュージ以外の全生物を根絶(リセット)する」

 

 「最初にリセットするのはリリィ、ヒュージの命を脅かす障害は速やかに排除する」

 

 これ以上ふざけた戯言を聞いていられるかとチャームから弾を放つ一葉。

 狙いは逃げるミドル級。

 

 しかしそれを庇うようにギャラクトロンが立ちはだかる。

 

 銃弾は装甲に弾かれ、ブレードで斬りかかろうにもビームの牽制が近づくことを許さない。

 

 ギャラクトロンにこまねいている内にもヒュージがチャームの射程距離から遠ざかっていく。

 

 道路を荒らし、車を蹴り飛ばし、誰かが落とした人形を踏み潰してヒュージは走る。

 

 ネストに戻り傷を癒すために、今日の失敗を活かしより強くなるために、人類を滅亡へと近づけるために。

 どうしてそこまでして人間を襲うのか怪物は何も語らない。

 

 「ギャラクトロン、確かにあなたの言う通り生きるためにものを食べる人間よりも何も食べずに生きていけるヒュージの方が生き物として優れているのかもしれません……」

 

 「自らの愚かさを悔いるか、ならば今すぐにでも命を絶……」

 

 「ですが!

 だったらなぜヒュージは人間を殺すのですか!!」

 

 「………………」

 

 「生きるために他の命を奪う事を残酷というのなら、何の理由もなく殺戮を繰り返すヒュージこそこの星で最も残酷な命ではないのですか!!」

 

 ギャラクトロンの口が塞ぐ。

 一葉の問いを即答せず、ただただ機械の駆動音を鳴らして凝り固まる。

 考え込んでるような素振りを見せてから10秒後――

 

 

 

 言葉での返答の代わりにビームを放った。

 

 ”被告人は静粛に”とでもいうかのように。

 

 罪人に一方的に判決を下す裁判官のように。

 

 シビルジャッジメンターは一葉との会話を遮断した。

 

 「一葉!」

 

 「まったく、また無茶しちゃって……」

 

 「…………」

 

 光線の余波で飛ばされる一葉を到着したばかりの恋花達が受け止める。

 

 偶然、防衛軍の部隊と出会い彼らの車両に乗ってエレンスゲと戦場を往復してきたのだ。

 

 だがそれでも、一葉の表情に安堵はない。

 

 ギャラクトロンは一つのレギオンだけで手に負える相手ではない。

 やはりここはウルトラマンになるしかないのか、しかし肝心の彼がいない。

 そんな一葉の心を読んだかのごとく、彼女の携帯電話が鳴る。相手はもちろん恩田始。

 

 「一葉! あれは間違いなく怪獣だよな、だったらウルトラマンの出番だよな!?

 今どこに……うおっ、危ねっ!? ビルからガラスが……」

 

 「怪獣が出てきてこの速さ、あいつ絶対避難所に向かってなかったでしょ……」

 

 「お説教は後にして今は始を迎えに行こう。ガラスが降って来たって言ってたから場所は多分……」

 

 電話の内容から目星をつけて向かうとビンゴ、ガラスの雨を避けながら走っている少年の姿を見つけた。

 

 「一葉!」

 

 「始さん!」

 

 互いの姿を見るや全力で駆ける二人。

 すれ違う瞬間、少年は右手を、少女は左手を上げ素早いタッチ。

 

 「「ウルトラタッチ!!」」

 

 リングが輝き、ウルトラマンエース出現。

 

 「よしっ、先手必勝。メタリウム……」

 

 「待ってください!」

 

 「うわっ!?」

 

 事情を知らずに光線を撃とうとする始は一葉に止められて躓く。

 

 「あの怪獣の中に人がいるんです、光線技は撃たないでください!」

 

 「マジかよ、だったら素手で引っこ抜いてやる」

 

 攻撃系の光線を自ら封じ、エースは駆けだす。

 人質を助けるべく胸の赤い水晶体へと手を伸ばす。

 しかしそれに対して何もしないギャラクトロンではなく、右腕の巨爪でエースの腕を叩き落す。

 諦めずにもう一度腕を上げるも爪からのビームを食らい強引に引き離されてしまう。

 

 ウルトラマンエースの身長は40m、体重は4万5000t。

 対しギャラクトロンは61mと6万1000tの巨体を誇る。

 光線技を使わない取っ組み合いではまず勝てない。 

 

 まずは相手の動きを止めなければ、二人の意思が合わさり相手を傷つけずに停止させる光線が放たれる。

 

 「「ストップフラッシュ」」

 

 特殊な光線を受け身動きが封じられるギャラクトロン。

 今度こそアリエを助けられる、そう思ったのも束の間、拘束を破りギャラクトンが動き出す。

 

 「なんで動けるんだよ!?」

 

 「相手の力が強すぎて止められなかったようです……」 

 

 度重なる妨害により敵とみなしたギャラクトロンは標的をリリィから巨人へと変えた。

 

 左腕を回転させ巨大な剣『ギャラクトロンブレード』を展開、エースへと突き出す。

 エースもまたエースブレードを召喚し応じようとする。

 

 巨竜の剣と巨人の刀が触れ合う刹那、ブレードが熱を帯び始める。

 刀身の延長線上に固まるよう集中させた熱気はエースブレードを易々と砕き、そのまま巨人の肩へと向かう。

 刃が伸びるという予想外に驚くも、上半身を無理やりねじってそれを躱す。

 しかし完全には避けきれず肩の端が僅かに焦げているのを見て二人の心は戦慄した。

 

 0.1秒でも反応が遅れていたら串刺しになっていた。

 当たり所が悪かったら一撃で瀕死に追い込まれてもおかしくなかった。

 

 「防御に集中しましょう! あの光剣を一発でも食らったおしまいです!」

 

 「ど、同感だ!」

 

 サークルバリヤーを展開。

 即発性のある小型バリヤーで光剣を受け流す。

 しかし強度は決して高くなく、一突きの度にバリヤーは破れ、張りなおしてはまた破られる。

 

 フェンシングの苛烈な攻めをハンカチだけ凌いでいるかのようだ、無謀な守勢に恋花は見ていられなかった。

 人質に気遣って動けずにいたが手をこまねいている場合ではない。

 このままだと一葉と始の命も危うい。

 

 「足を狙って! 絶対に人質がいなそうなところならどこでもいいから撃ちまくって怪獣の攻めを崩すよ!」

 

 参謀役の的確な指示によりヘルヴォルが沈黙を破る。

 狙いを左足の膝裏に定め一斉攻撃、いわゆる膝カックンの形となって巨竜の膝が地面に落ちる。

 想定外の事態にギャラクトロンは思わず剣を杖代わりに突きたてた。

 転ばずには済んだものの代償に大きな隙が生じる。

 

 「今だ!」

 

 始は口角を上げる。

 厄介なブレードが使えない今こそ好機、始はそう思っていた。

 

 

 一葉は違った。

 ギャラクトロンの脅威が剣だけでないことを彼女は知っていた。

 

 「右腕から目を離さないで!」

 

 せっかくのチャンスなのに「どうして」と疑問に思った。

 だが「一葉が言うのだから」と迷わず視線を右腕に寄せる。

 

 そして見えた。

 

 本体から飛び出した右腕がこちらへ向かってくるのを。

 

 「!?」

 

 顔を掴もうと飛んでくる右腕を居合のような手刀で防ぐ。

 

 一葉が注意を促さなかったら反応が遅れていた。

 

 一葉に感謝する一方、一葉(リリィ)の言葉をごく自然に信じられている自分自身にも驚く。

 

 思っていた以上に彼女達の存在が自分の中で大きなものになっているようだ。

 

 短い感謝だけでも言葉にしようと口を開き――

 喉に強い圧迫感を感じて思考が止められる。

 

 

 『ギャラクトロンシャフト』

 尻尾を模したサブアームがエースの喉を掴んで持ち上げる。

 

 「ぐっ……がっ……」

 

 「息が……」

 

 巨人のダメージが中の始達にも伝わっていく。

 

 喉が潰されそうで痛い、肺に酸素が入らず苦しい、足が地面につかず踏ん張れない。

 ジタバタともがく巨人にギャラクトロンは淡々と剣を向ける。

 ただ機械的に、効率的に、生物を殺すのに最も合理的な戦法を割り出し一部の狂いなく実行に移す。

 ギャラクトロンという機械にとってこれはプログラムに設定された基礎行動(ルーティーン)。他の機体でも多用される必勝戦術であった。

 

 「エースを離せ!」

 

 巨人の窮地を救うべく、恋花のヴルンツヴィークがギャラクトロンシャフトを叩く。

 

 巨体の視点からはリリィは豆粒ほどにしか見えないということを活かした大胆な奇襲。

 

 しかし何十倍もの大きさのあるアームを一太刀で切り裂くことは叶わずただ甲高い音が鳴り響くだけ。

 巨竜に攻撃できたのは、相手が奇襲を見抜けなかったわけではなく、”気にする必要がなかった”という侮りだったということに恋花は歯ぎしりを抑えられない。

 ギャラクトロンから見てリリィなど、吹けば飛ぶような塵芥でしかないのだろうか。

 

 「てやぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 しかし塵も積もれば山となる。

 続けて飛び込んだ千香瑠のゲイボルグがヴルンツヴィーク目掛けて振り下ろす。

 トンカチで釘を刺すようにチャーム同士の衝撃がサブアームに振動を与えた。

 しかし未だヒビすら入らない。

 

 「恋花、千香瑠、そのままじっとしてて……」

 

 今度は瑶の出番。

 レアスキル:ブレイブを先に振り下ろした二人にかけてパワーを増幅、自身もクリューサーオールを二人のチャームに押し込む。

 僅かに、ほんの数ミリ、ヴルンツヴィークが装甲に食い込んだ。

 

 「あんたも来るのよ、藍!」

 

 あともう少し、ほんの一発でも加えられれば……

 そう希望を感じ恋花は最後の一人に声をかける。

 自分の身長以上のチャームを悠々と振り回す藍の腕力ならば必ず装甲を破れるはず。

 

 

 

 

 

 しかし藍は答えない。

 

 いつもなら戦闘の高揚感で舞い上がっているはずなのに、少女は何も言わずただ座り込んでいる。

 

 その顔は下に向けられ、瞼は今にも閉じそうだ。

 

 「噓でしょまさかこのタイミングでおねむ!?

 起きろ起きてよ起きなさいお願いだからーーー!?」

 

 藍が大好きな戦闘中に眠りこけるなどありえないと思いながらもまさかの事態に動揺を隠せない恋花。

 とにかく声を出しまくって気を引こうとする恋花に対し、瑶は簡潔に一言だけ叫ぶ。

 

 「藍!! おいで!!」

 

 「…………!」

 

 狂気の渦へと飛び込むルナティックトランサーと精神を安定させるブレイブはとても相性が良い。

 レアスキルの関係で藍と瑶はヘルヴォルの中でも連携する機会も多い。

 今瑶が叫んだのは事前に教え込んでいた合図。

 レアスキルで暴走しても、高揚し過ぎて周りが見えなくなっても一声かければ瑶の元へ来れるように練習しておいた合言葉を耳にして藍の意識が覚醒する。

 

 「ごめん、みんな……

 かわりにらんが……いっぱい戦う!!」

 

 何かを振り払うようにルナティックトランサーを発動。

 狂化した藍は恐れることなくギャラクトロンへ突っ込んでいく。

 足から膝、膝から腹へと昇っていき瞬く間に頭部までたどり着いた藍はその勢いでモンドラゴンの強烈な一撃を叩き込む。

 

 四つの鋼が重なり合い、その衝撃を持ってギャラクトロンシャフトを一刀両断!

 

 「これが乙女の底力って奴よ! ヘルヴォルをなめたこと後悔するのね!」

 

 サブアームが壊れたことでエースが解放、すぐさま首を絞められた間の分の空気をいっぱい吸って呼吸を整える。

 

 呼吸する間はあった、しかし安息する間は与えられない。

 

 ギャラクトロンの胸が光り、あの音色が再び奏でられる。

 

 出現直後ビル群を消し飛ばした『ギャラクトロンスパーク』が放たれようとしていた。

 

 メタリウム光線で応戦? 駄目だ。

 万が一押し勝ったら中のアリエに当たってしまう。威力を抑えても今度は押し負けてしまう。

 

 空に飛んで避ける? 駄目だ。

 避けた光線が街に当たり犠牲者が出てしまう。

 

 バリヤーで防ぐ? 駄目だ。

 敵の最大火力を防ぎきれる保証がない。

 

 撃ち出される前に阻止する? 駄目だ。

 もう光線は発射されている!

 

 この間僅か0.01秒、一瞬で決断を迫られる危機的状況。

 それが逆に最適解の行動を取らせる。

 

 「「ウルトラネオバリヤー!!」」

 

 光線に備えて光の壁を作り出す。

 一か八かバリヤーで防ぐ作戦に出たのか? 違う。

 博打であることに変わりはないが少しは可能性のある方法に二人は賭けた。

 

 光線が当たる瞬間、エースはバリヤーの底を蹴り上げる。

 長年の鍛錬により手で持って動かせるようになったバリヤーを蹴ることによって角度を調整、ギャラクトロンスパークを何もない斜め上の上空へと反らす。

 

 「く、重い……」

 

 「踏ん張れ! それしか言えないがとにかく耐えろ!」

 

 バリヤーの角度を保つために必死で支えるエース。

 角度を少しずつ変えて相手に跳ね返す算段であったがあまりの威力に耐えることが精いっぱい。

 濁流の方向を畳一つで反らすかのような無謀をド根性で堪えぬく。

 敵が光線を撃ち終えた頃にはバリヤーは無数の破片となって砕け散った。

 

 これでしばらくはネオバリヤーを使えない。

 次にギャラクトロンスパークが撃たれたら今度こそ終わる。

 

 なのに2発目のチャージを既に始めているギャラクトロンに「ふざけんなこのブリキ野郎」と始は漏らさずにはいられない。

 

 インナースペース内の始は無意識に隣に目を向ける。

 不良に的確な作戦を立てる能力などない。自分は”動く担当”だと始は自覚している。

 対し一葉は”考える担当”彼女の判断力と巨人の記憶には何度も助けられてきた。

 

 ”一葉が巨人の脳になってくれているから俺は全力で筋肉に徹することができる”

 決して口には言わない信頼があった。

 

 一葉ならこの状況でも最善の一手を見つけてくれるはず、そういう期待があった。

 

 「まだ方法が一つだけ残されています」

 

 期待通り一葉は打開策を見つけてくれた。

 後は自分がそれに添えるように動くだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「エースバリヤーを使います!」

 

 その時、少年は初めて少女の判断に従えなかった。

 

 

 エースバリヤーとは数あるエースの超能力でも1,2を争うほど強力な大技。

 自分ではなく相手の周りにバリヤーを張ることで相手を封印するという能力。

 

 どんなに強い相手でも、複数体来たとしても、エースバリヤーさえ使えば無力化できる。

 極論だが、初っ端からエースバリヤーを撃てば何の被害を出すことなく戦闘を終わらせられる。

 

 効果は24時間。それまでに対策なり準備なりして待ち構えていればウルトラマンエースは絶対に負けない。

 

 なのになぜ今まで一度も使わなかったのか、答えは簡単。

 

 使用直後に強制変身解除されるレベルで負担が激しいのだ。

 かつては兄達の許可がなければ撃つことすら許されないほど消耗が大きかったウルトラギロチンを克服した今でもエースバリヤーは決死の大技の域から脱していない。

 タイラント、ビクトリーキラー、ヤプールの怨念が憑依したバラバ、地球を去った後でも様々な相手に苦戦を強いられることがあったが、彼らに対して一度たりともバリヤーを使おうとしなかったのがその技の危険性を物語っている。

 

 我が身を燃やし、寿命を縮めるほどの大爆発で敵諸共吹き飛ぶウルトラマンタロウのウルトラダイナマイト。

 心臓に等しいカラータイマーを投げ仲間の傷を一つ残らず癒すウルトラの父の蘇生能力。

 

 それらに並ぶほどの禁じ手を一葉は使おうとしているのだ。

 

 そしてエースバリヤーの一番危険なところは、その負担が片方の変身者のみ偏るという点。

 分散されることなく、死に直結しかねない反動を一人が引き受けてしまう。

 

 始と一葉で変身したエースがエースバリヤーを使うのがこれが初めて。

 どっちに負担がかかるかは分からない。

 

 だが前の変身者、北斗と夕子の前例に則るなら答えは自ずと見えてくる。

 

 「お前……死ぬ気か!?」

 

 エースバリヤーを使って負担がかかるのは、恐らく相澤一葉。

 

 「もう、これしか手がありません」

 

 「だからってこんな極端な方法を取らなくても、もう少し考えれば……」

 

 「変身してからの時間を数えてないのですか!? 後1分しか残されていないんですよ!」

 

 ピコンピコンとアラームのような音が胸から鳴る。

 残り時間が一分を切ったことをカラータイマーが色を変えて二人に伝える。

 どんなに知恵を絞っても60秒以下で名案など浮かばない、できたとしてもそれを実行する余裕はウルトラマンには残されていない。

 

 選ぶ道は二つ。

 何もできないまま時間切れとなって怪獣を野放しにするか。

 エースバリヤーを張って猶予を得るか。

 

 始は選択を迫られる。

 残り50秒……

 

 「大丈夫です。死の危険なんてリリィにとっては日常茶飯事。

 ずっと昔から覚悟してきたこと、それだけです」

 

 始を少しでも安堵させようと笑顔を向ける一葉。

 いつだって一葉はそうだった。

 誰かが傷つくのが嫌なのに、誰も死なせないことを信念としているのに、自分が傷つくことを厭わない、死なせないためなら自分が死にに行くような無茶も躊躇わない。

 

 特に今のような極限の状況に置いて、自身の生存を優先順位から極端に下げる傾向がある。

 

 窮地に追い込まれても諦めないことが一葉の長所だとしたら短所はそれの裏返し。

 どんな危険な状況でも逃げることをしない、自分を犠牲にすることを迷わない人間というのは生存本能が全く機能していないある種のイレギュラー、縁の深い者からすれば心配で仕方がない。

 

 そして始はその縁の深い者になろうとしている最中。

 そんな中で一葉に根付く自己犠牲精神の危うさを垣間見ると同時、そんな状況でも平然と笑顔を作れる彼女に背筋が凍る。

 

 残り45秒……

 

 「エースバリヤーの反動で命を落としたとしても私は後悔しません。信念に従ったことですから。

 何があっても絶対にあなたを責めたりしません、だから気負うことは……」

 

 「分かったそれ以上言うな! 撃てばいいんだろ撃てば!」

 

 残り40秒。

 恩田始、エースバリヤーの使用を決意。

 

 一葉はエースの超能力で仲間達にエースバリヤーの使用とその後やるべき作戦を伝える。

 始は頭に渦巻く不安をかき消そうと深呼吸。

 

 カラータイマーの点滅が早くなってきた残り30秒、エースの体が回転する。

 回転速度を上げながらギャラクトロンの周りを駆け回っていく。

 

 「「エース……バリヤー」」

 

 ギャラクトロンを強力なバリヤーが包み込む。

 まるで赤子みたいにバリヤーのゆりかごに膝を抱えるギャラクトロンを確認すると、エースの姿が蜃気楼のように消えた。

 

 「…………」

 

 変身解除して地面に降りる始。

 無傷の彼の目の前には、一葉が倒れ込んでいた。

 

 「はぁ、はぁ…はぁ……っ」

 

 外傷はない、だが真っ青な顔をして荒い息をしながら胸を上下させる状態のことを無事とは言わない。

 

 「……………ちくしょう」

 

 あまりにも強すぎる怪獣、満足に力を発揮できなかった状況、エースバリヤーを断行してしまった一葉、そして何より何もできなかった無力な自分。

 始の呟きを、壁に拳を打ち付ける音が消し去った。

 

 ◆◆◆

 

 「あのう……本当にこれでよろしいのでしょうか……?」

 

 「………………」

 

 エースバリヤーでギャラクトロンを封じたのと同時刻、市民の避難誘導を任されていたマディック部隊の隊長は目前のリリィに指示を伺う。

 

 そのリリィとは序列2位。

 彼女は今、マディック達に襲い掛かってきたミドル級を倒しその亡骸にチャームを突き刺していた。そのミドル級が先ほどギャラクトロンが逃がした個体だったことは彼女は知らないし興味もない。

 

 「学園からの指示によると”避難誘導を止め、怪獣と巨人の戦闘に介入せよ”とのことだったのですが……やめてよかったんですか?」

 

 「………………」

 

 おっかなびっくりなマディックの質問に序列2位は答える気配がない。

 ザクザクとヒュージの亡骸を突き刺しては掻き回し、最早原型が残ってないにもかかわらずティルフィングを動かす手を止めようとしない。

 後ろから見たそれは無邪気な子供が羽虫の手足をもぎ取っているようで不気味。

 正面からそれを見ていた131位は「隊長やべー顔してるッス……」と小さな体を小刻みに揺らす。

 

 「マディックは現場のリリィの命令に逆らうな、と教えられてはいますが……

 こうも学園の意に反する命令を出されるとちょっと……どうしていいか分かりませんね」

 

 ぴくり、と2位の肩が動く。

 亡骸を弄る手を止めるとヒュージを蹴り飛ばしながら後ろを振り向く。

 

 2位に直視されマディックの少女達は思わず一歩下がる、元同僚とはいえ地位は雲泥の差、昔とは違う雰囲気の彼女に僅かな恐れを抱いた。

 今まで黙っていた2位の口が開く。

 

 「行ってどうなるっていうの?」

 

 「へ?」

 

 「ミドル級ヒュージにすら手こずるあなた達マディックが怪獣の前に立った所で何ができるというの?」

 

 「……しかし、私達には街を守るという大事な使命が……」

 

 「だから怪獣と戦うと、無駄死によそんなもの。無駄よ無駄。

 どの道捨てる命だとしても、もっと有意義な場所で使うべきよ」

 

 後ろから会話だけを聞いている21位は「マディック相手でも毒吐くんだ…」と2位が持つ加虐性の強さを再認識する。

 正面から顔を見ていたマディック達は「変わってないなこの人」と安堵の表情を浮かべる。

 

 「今は私に従いなさい。あなた達の命は私が預かっておく。

 返せる保証はないけれど、無駄にはしない。あなた達の犠牲をちゃんと意味のあるものにしてみせるわ」

 

 マディックの命は軽い。

 市民を守るための盾にされたり、リリィが撤退するための殿を押し付けられたり、ゲヘナの新兵器の実験台にされることすらあるほど、マディックには常に死が纏わりついている。

 

 それを覚悟して戦いを続けているマディックにとって、死はそこまで怖いことじゃない。

 

 怖いのは、自分の死が何の意味を持たないこと。

 

 だから序列2位の「犠牲に意味を持たせてみせる」という言葉はマディックにとって最高の救いになった。

 「犠牲を増やさない」を根底にあるリリィには伝わりにくい、「犠牲を無駄にしない」マディック同士の友情がそこにはあった。

 

 「ありがとうございます、”隊長”……!」

 

 「何を言ってるのよ、今はあなたが隊長じゃない」

 

 かつて副隊長だったマディックが仲間を連れて撤退するのを満足そうに見届ける。

 

 「エレンスゲめ……マディックを出せば嫌でも怪獣と戦うと思っていたのか、なめられたものだ……」

 

 「何か言いましたかクエレブレ?」

 

 「あなたがそれを知る意味はないわ、序列11位」

 

 バロッサ星人戦での敵前逃亡が思ってた以上に響いていたようだ。

 あんな不可避な不意打ちのせいで昇進のチャンスを逃したらたまらない。

 一刻も早く成果を出して一葉より優秀だということを知らしめねば。

 

 功名心に駆られて出てきたはいいが肝心の怪獣が謎の結界によって閉じ込められてしまっている。

 これでは攻撃のしようがない。

 

 「マディックを引かせてしまったし、先行した101位とも連絡がつかないし……いかがしましょうか」

 

 「そんなのこっちが聞きたいわよ。とりあえずあの球体を転がして研究所にでもはこ……あれは……!?」

 

 視界の端に何かを見つけた2位は思わず走り出す。

 駆けだした先で見つけたのは、品性の無さそうな不良とその肩に支えられているのは憎っくき相澤一葉ではないか。

 

 「どういうつもりよヘルヴォル! 出撃命令を受けたないあなたが何で出しゃばって――」

 

 「そこのリリィ、一葉を頼んでいいか!」

 

 「は?」

 

 「怪我はしてないが死にそうなんだ! とにかく落ち着ける場所に連れてってやってくれ!

 なあ頼むよリリィ同士だろ!?」

 

 この民間人は何を言ってるんだ?

 なんで一葉を支えているんだ? 

 一葉とはどんな関係なんだ?

 そもそもこいつは誰だ?

 

 序列2位には何もわからない。

 

 「ちょうどよかった……クエレブレ、彼の保護をお願いします……」

 

 「一葉!? 何バカなこと言ってんだよ、重症なのはお前の方だろ」

 

 「私にはまだあそこでやるべきことがあります……ノインヴェルトをしなければ……」

 

 「まだ戦うってのかよ! 無茶だもう休め! お前は十分戦った!」

 

 「あなた達、一体の何の話をして……」

 

 「「あんた(あなた)は黙ってろ(黙っててください)!!」」

 

 「え……うん……」

 

 内容が全く読めない二人の会話にただただ困惑する序列2位。

 口論の決着がついたのか、一葉は止めようとする民間人を突き飛ばし元来た方向へ飛んでいく。

 

 「この通りマギにはまだ余裕があるんです! だから私の心配はしないで自分の身を案じてください!」

 

 「ちくしょう、あのバカ自分の事を棚に上げやがって……!」

 

 「ちょっと、どこへ行く気、民間人のあんたが戦場(ここ)で何をするっていうのよ!?」

 

 「うるせーこのドリル頭!」

 

 「ドリル!? まさか私の髪のことを言ってるんじゃ……ってだからどこ行くのよー!?」

 

 手を振りほどいて一葉を追う民間人を見て序列2位は思った。

 

 付き合ってらんねー、もうしーらない、と。

 

 ◆◆◆

 

 エースバリヤーの内側、動きを止めたギャラクトロンを見据えるのは恋花と瑶。

 

 バリヤーの完成直前に中へ滑り込み、大人しくなったギャラクトロンから人質を救出する。

 それが一葉が伝えた作戦における二人の役割だった。

 

 「いくよ、恋花」

 

 「一年生の一葉が命張ったんだ、これで失敗しようものなら二年生の名が廃るっての」

 

 緊張を軽口でほぐそうとしている恋花の心理を見抜いた瑶はただ無言で肩に手を当てる。

 口下手な瑶には気の利いた助言を与える話術はないが、だからこそ何気ない行動一つ一つに彼女の真心が込められている。

 

 気にかけてくれる無口な親友に感謝しつつ、恋花はレアスキルを発動。

 

 「”フェイズトランセンデンス”!」

 

 無限大のマギを刃先に集中、そしてギャラクトロンの胸部へと突撃する。

 フェイズトランセンデンスに瑶のブレイブを上乗せしたことで通常の数十倍の切れ味を獲得、比較的装甲の薄い部分を貫いて巨竜の体内へと侵入する。

 

 二十階建てのビルに相当する体内を二人のリリィが突き進む。

 事前にエースのウルトラ眼光で目星をつけた場所へ向かうと予想通りコードに絡めとられている人質を発見した。

 表情は見えないが顔を一切上げないところを見るに失神しているようだ。

 

 「はぁっ!」

 

 瑶の素早い斬撃がコードを切り裂く。

 支えを失って倒れ込むのをすかさず抱え、外傷がないか体を一通り調べる。

 その時、人質にされたアリエの顔を見て二人は驚いた。

 

 「この人は……!?」

 

 「どうしてここに……」

 

 気になることが山ほど生えてきたが、今はそれどころではない。

 

 フェイズトランセンデンスの時間切れまであと3秒、残り時間を全て使ってビームを放つ。

 狙いなど定めない、目の前の光景全てが敵なのだからとにかく撃ちまくる。

 

 「一寸法師ならぬ一寸リリィってね!」

 

 外が堅いなら内側から。

 分厚い装甲で守っていた電子回路を壊し尽くしたのち、アリエを抱えて二人はギャラクトロンの中から脱出した。

 

 

 「そろそろ時間ね、用意はいい藍ちゃん」

 

 バリヤーの外側、千香瑠と藍が自身のチャームを射撃可能な状態へ変形させる。

 バリヤーの完成と同時に中の恋花がフェイズトランセンデンスを発動、効果が切れた直後に千香瑠と藍がバリヤーを割って三人を解放するというのが一葉の立てた救出作戦の概要だった。

 

 エースバリヤーは内側の封印に集中している分外側が脆い。

 それこそ戦闘機の火力で割れてしまうのだから、チャームでも一点に集中すれば破壊は可能。

 ギャラクトロンから解放したはいいがバリヤが堅くて外に出られないという本末転倒はこれで防ぐことができる。

 後は恋花達が無事脱出していれば作戦は成功。バリヤで遮断されているため通信ができないが必ず成功すると千香瑠は信じていた。

 

 仲間を信じているから、仲間が信じてくれるから、千香瑠の心は安定しその瞳には強い意志が宿る。

 

 だが、藍の心は依然不安定、この戦闘が始まってからというもの彼女の目には迷いがある。

 

 「ちかる、あの怪獣言ってたよね……」

 

 急を要する場面だが、様子のおかしい藍を案じて千香瑠は話を聞くことにした。

 

 「他の生き物を食べることは残酷だって。残酷って言葉はよくわからないけど、酷いことなのはなんとなくわかる……」

 

 「らんは皆よりいっぱいご飯を食べてる。食べることが好きだから、ご飯がおいしいから、食べることを止めなさいって言われたららんはすごく困る……」

 

 「らんが大好きなたい焼きにだって、『卵』とか『小豆』とか色んな命がいっぱい使われてるって聞いたよ……らん、何も考えず食べてた……」

 

 「ねえちかる、らんって、ざ(・)ん(・)こ(・)く(・)なのかな……?」

 

 千香瑠は前に一葉が口にした藍の評価を思い出した。

 

 ”幼いけど決して愚か者ではない”

 

 子供っぽい言動ばかり目立つ彼女だが、同時に子供が持つ素直さも備わっている。

 

 間違ったことをしたなら謝れる。

 相手の話を聞いて自分なりに理解しようとする。

 優しさに対する感謝の気持ちを決して忘れない。

 

 ちゃんと彼女と接していけば、純粋な心の持ち主だということに気付くのはそう長くはかからない。

 善意を教えればそれを覚え、善意で返すことができるのが佐々木藍という少女なのだ。

 

 そんな藍の心に、ギャラクトロンの言葉は刺激的すぎた。

 拒絶の概念が薄い藍の心はギャラクトロンの唱える暴論でさえも、一葉達の言葉と同じものとして聞き入れてしまった。

 

 だから藍は悩んでいた。

 ギャラクトロンの言葉を受け入れなきゃという純粋な心と、受け入れることで生じる矛盾に苦しみ、脳がフリーズした結果が今の藍であった。

 

 「藍ちゃん……」

 

 そんな藍を千香瑠は優しく抱き寄せる。

 

 複雑な気持ちがあった。

 どんな言葉でも一生懸命解釈して理解しようとする藍に、心の成長を感じ取った。

 と同時、どんな影響も受けやすい純粋な心に、危うさも感じてしまう。

 

 もしも目の前の少女が、ヘルヴォルと出会わなかったら、今のような優しさを持てただろうか?

 ゲヘナの科学者が持つ冷酷な心を見続けていたら、どんなリリィになっていただろうか?

 

 藍がこの先どんな人間になれるのか、一番近くにいるヘルヴォルにかかっている。

 いつの間にか掴んでいた少女の未来を決める権利の重さに手が震える。

 

 だからこそ手放してはいけないのだと千香瑠はそれを掴みなおす。

 藍の未来を少しでも良いものにしたいと願いながら言葉を紡ぐ。

 

 「藍ちゃんはご飯を食べる時、『いただきます』って言ってるかしら?」

 

 「言ってるよ? 『ごちそうさま』も忘れてない」

 

 「偉いわ。ではどうして言わなけれならないのかは知っているかな?」

 

 「えっと……食べ物に感謝しなさいって一葉は言っていた」

 

 「正解よ。だから大丈夫、藍ちゃんは残酷なんかじゃないわ」

 

 どうして残酷じゃないの? と問いかける藍に千香瑠は答える。

 決して難しいことじゃなく、決して特別なものでもなく、この世界に根付くありふれた考え。

 だからこそ、藍に知って欲しい。普通の人の考えを普通じゃない生まれ方をした藍に伝えることに意味がある。

 

 「どうしたって生き物は何も食べずに生きてはいけない。必ずどこかで他の生き物を犠牲にしてしまうわ。」

 

 「やっぱり、らんは”りっせと”された方がいいの?」

 

 「違うわ、その逆よ。藍ちゃんは生きてかなきゃならないの。

 もし藍ちゃんが今ここでリセットされたら、今まで藍ちゃんの犠牲になってきた生き物はどうなるの?

 寿命の半分も生きなかった藍ちゃんのために犠牲になったのならそれこそ残酷というものじゃない」

 

 ある意味では、食物連鎖はリリィの話にも置き換えることができる。

 

 リリィはヒュージと戦う。その戦いで大勢のリリィが犠牲になってきた。

 全ては世界を救うため、人類を守るため。

 

 強引な解釈ではあるが、世界のために犠牲になるリリィという構図は、生き物が生きるために他の生物を食べる構図に似ている。

 世界を上位に、リリィを下位に、特異かつ間接的な食物連鎖が両者の間に作られているとも言えなくもない。

 

 そういう風に仮定して、もし世界の誰かが『リリィを犠牲にして生きながらえるのはやめよう』と言ったらどうなる?

 何も犠牲にしない優しい世界が生まれるだろう、だがそれをどうやって存続させる? 誰がヒュージと戦う?

 世界はたちまち滅亡(うえじに)するだろう。そうなればそれまでに犠牲になったリリィはみな無駄死にだ。

 勝手に滅びた愚者の寿命を1日だけ伸ばしたことに何の意味がある。

 

 リリィにとっては残酷だが、その犠牲に報いるためにも世界は滅んではならない。

 世界が滅ばない限り、リリィの犠牲は無駄ではない、やがて来る平和のために今日と明日を繋いだ勇者として永遠に尊ばれるだろう。

 

 そしてその話は食物連鎖へと帰結する。

 

 「だから私達は『いただきます』って言うの。生きるために犠牲になった命に感謝し、それを決して忘れない。

 あとは藍ちゃん次第よ、あなたは生きて何をしたい?」

 

 「……らんは、かずはと一緒にいたい。皆と一緒にいたい。

 皆を……守りたい!」

 

 「そのために必要なことは?」

 

 「戦う! 寝る! 食べる! 生きる!!」

 

 藍から迷いが消えるを感じて千香瑠の顔は綻ぶ。

 

 (一葉ちゃんみたいにうまく教えられる自信がなかったけど、伝わってくれたようでよかったわ)

 

 「ちかる、構えて! バニラーを壊すよ!」

 

 「ご、ごめんなさいのんびりしちゃってたわね。あとバニラーじゃなくてバリヤーよ」

 

 既に射撃体勢を取っていた藍に急かされ千香瑠も慌てて照準を向ける。

 

 飲み込みが早すぎて置いていかれそうだと、悪くない不安を密かに隠してゲイボルグのトリガーを引く。

 

 一か所に集中した弾幕は弾が当たる度にバリヤーに亀裂を作り、亀裂が全体に広がった瞬間、床に思いきり叩きつけたガラス玉のように粉々に砕け散った。

 

 割れたバリヤーの中から恋花と瑶、二人が背負うアリエ、そしてギャラクトロンが地面に降り立つ。

 

 「ちょっと遅かったんじゃないの? 藍、またおねむしてたでしょ」

 

 「おねむじゃないもん、千香瑠とお勉強してたもん」

 

 「ほっぺを膨らませる藍、可愛い……!」

 

 「藍ちゃんの言ってることは本当ですよ、また一つ賢くなったんですから。

 ね、藍ちゃん」

 

 藍の調子が戻ったことでヘルヴォルもいつもの活気を取り戻す。

 だがまだ終わりではない。

 

 体に穴を開けられても、内部の機械を滅茶苦茶に破壊されてもなお、ギャラクトロンは健在。

 食物連鎖を認めない傲慢な機械竜は自分が悪とみなしたものすべてを破壊するまで止まらない。

 

 人質を救った今、ギャラクトロンに手心を加える必要はない。

 されどどうやってこのデカブツを倒そうか。

 新たな作戦を試案に講じる恋花の耳に聞き覚えのある声が響く。

 

 「正面から7時の方向、受け取ってください!」

 

 言葉通りの方向にチャームを構えると飛んできた何かを受け止めた。

 

 それが一葉のマギが込められたマギスフィアであることに気付くと同時に恋花は呆れた。

 

 「あんたの無茶は今に始まったことじゃないけど、ここまでくると最早病気ね……」

 

 「とりあえず今日の無茶は今ので終わりです!

 あとは頑張ってパスを繋いでください!」

 

 さらっと今日の無茶というパワーワードが飛び出たことは置いといて今はノインヴェルトを優先だ。

 フェイズトランセンデンスを使ったばかりだか、僅かに回復した分を残らず込めれば魔法球は何とか成立するだろう。

 問題はパス回しの順番だ。

 

 「いつもは一葉がフィニッシュショットを撃っていたけど今回は始点だし。

 一葉、あたし、次は千香瑠に回すとしてトリは……」

 

 瑶と藍、どちらにするべきか。

 迷う恋花の前に瑶が立つ。

 

 「私にやらせて」

 

 理由は語らない、されど強い意志を秘めた瞳を信じて恋花は決意した。

 

 「千香瑠、藍、瑶の順番で回すよ!

 瑶、信じているからね!」

 

 「まかせて」

 

 「らんもやりたかったのにー」

 

 「フィニッシャーに繋げるのも大事な役目よ」

 

 マギスフィアをはるか上空へと放ち、ノインヴェルト戦術再開。

 

 突如現れた光の球を不思議に思い腕を伸ばすギャラクトロン。

 その隙を突いてクリューサーオールの銃弾が胸を撃つ。狙うのは先ほど開けた穴。

 

 即座にガードするギャラクトロン、それも計算の内。

 怪獣の警戒心を瑶に向けている間に千香瑠は空から落下する魔法球を拾う。

 

 「藍ちゃん、怪獣の後ろに回って!」

 

 藍に理想の位置取りを伝え千香瑠は疾走。

 横転したトラックを踏み台に信号機へ、次はビルの看板と駆けあがっていきギャラクトロンの頭を飛び越える。

 飛び越えた先には期待通り藍がいた。

 

 藍へパスをするとすかさず腰をひねって方向転換、ギャラクトロンの赤い目を撃って気を引き付ける。

 

 視覚機能を狙われたギャラクトロンは千香瑠の脅威度を上方修正。即座に排除すべくブレードを振り上げる。

 ヘリオスフィアの防御結界といえでも怪獣の質量で攻撃されたら一発ももたない。

 だが千香瑠が恐れることは何もない。

 なぜなら千香瑠は一人で戦っていないから、レギオンとは皆で戦うものだから。

 

 「そりゃーーーーーー!!」

 

 背面の藍が二度目のルナティックトランサーを発動。

 チャームと人刃一体となった体当たりでギャラクトロンの足を揺らす。

 

 「足元には気を付けてくださいね、お姉さんとの約束です」

 

 構えがブレたことでブレードは千香瑠を外して明後日の方向へと落ちる。

 立て直す間に藍は瑶の元へ駆け寄りマギスフィアを直接受け渡した。

 

 「ありがとう藍、危ないから下がっててね」

 

 「分かった。よう、あいつをやっつけて!」

 

 これで全員分のパスが回り、マギスフィアは完成した。

 後は敵に目掛けて放つだけ。

 シューティングモードにしたクリューサーオールを構えて瑶は撃つべき相手を目を向けた。

 

 穴の開いた胸から配線がはみ出して火花を散らしている。右目は点滅し二度も攻撃を受けた左足はほとんど動かない。内部の回路を破壊された影響かときおり上空に向けてビームを放つなど不可解な行動まで取り始める始末。

 

 痛いだろうに、戦える状態ではないだろうに、ギャラクトロンは止まらない。

 自身を造りし上位存在が入力したプログラムを完了するまでギャラクトロンに安息はない。

 

 「心がないんだね……」

 

 心がないから痛みを感じない。

 心がないから死を恐れない

 だからこそ、死にたくないという生き物の気持ちを情報ではなく心で理解しない。

 

 瑶の脳裏に人影が映る。

 

 旧ヘルヴォルの仲間達。

 撤退の殿にされたマディック。

 両親。

 たった一人の妹。

 

 皆もうこの世にはいない人達だ。

 生きてて欲しかった、救えなかった、失った時の悲しみや後悔はずっと胸に残り続けている。

 

 だから戦うのだ。

 もう誰も死なせないために、喪失の悲しみを誰かに背負って欲しくないために。

 

 辛いことや悲しいこと、リリィは誰しも何かを抱えている。

 それでも過去を乗り越えてリリィ達が繋いできたこの世界を、目の前のギャラクトロンは全否定した。

 

 食物連鎖という一点だけを見て、人間は愚かだと判別した。

 

 0か1か判別する機械のように、人間は滅ぶべきだと公言した。

 

 その無慈悲なジャッジこそ、ギャラクトロンが心を持たないことの証左に他ならない。

 

 「心を持たないあなたに……私達を裁く資格は無い!!」

 

 心を持たずにリセットを繰り返す暴走する正義に対し、心あるものを代表して瑶が叫ぶ。

 

 撃ち出されたマギスフィアは胸の穴を通り中で大爆発。

 体中から火花をスパークさせ、ギャラクトロンが崩壊する。

 

 ズシン! と倒れる音が大地を揺らす。

 

 巨竜、遂に沈黙。

 エレンスゲが初めて怪獣を倒した瞬間であった。

 

 ◆◆◆

 

 ギャラクトロンはノインヴェルト戦術によって倒された。

 

 残った残骸の処理は防衛軍に任せるとして当面の問題はアリエ。

 ギャラクトロンを直結させられた彼女は無事なのだろうか、奇跡的に無事だったベンチに寝かせて安否を伺う。

 

 「ん……うぅ……」

 

 目を覚まして上半身を起こすアリエを見て一葉は安堵する。

 

 怪獣を倒し人質も救えたしこれにて一件落着! と一葉は思っていた。

 

 千香瑠も思っていた。

 

 藍も思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恋花と瑶の二人だけは、ちょっと不安だった。

 

 そしてその不安は、最悪の形で的中する。

 

 

 「どういうことだよ!」

 

 遅れて来た始が突然怒鳴り声をあげる。

 物凄い形相で睨んできている。

 まるで出会ったばかりの頃に戻ったかのようだ。

 

 急に怒り出した始に千香瑠と藍は戸惑っている。

 

 恋花と瑶はどう説明しようか迷っている。

 

 一葉は怒る理由が自分にあると勘違いした。

 

 「無理を重ねてしまったことは謝ります。

 ですがあの時はそれしか方法が――」

 

 「そんなことはどうでもいい!」

 

 「……え?」

 

 「今はそんなこと重要じゃない。

 今俺が知りたいのはないで”そいつ”がお前らとつるんでるのかって聞いてんだよ!」

 

 そう言って指をさす先には、アリエがいた。

 

 「…………まさか、そんな……あなた……あの時の…………!?」

 

 始がアリエを見て情緒が狂ったように、アリエも始を見て取り乱す。

 

 始にとってのアリエも、アリエにとっての始も、こんな所で会うとは思わなかった”予期せぬ相手”

 

 もう誰も話についていけてない。

 

 「一体何なのですか? あなた達は一体どういう関係なのですか!?」

 

 「決まってんだろ……忘れもしない……そいつは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の母さんを見殺しにしたリリィだっ!!」

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