アサルトリリィ ーAce―   作:オエージ

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怪獣の設定には『本編で実際に見せたもの』と『児童誌や総集編ビデオで説明されたもの』が混在してどこまで取り入れたらいいか大変だと今回の話を作ってて思いました。


第8話 コルチカム ―My best days are past [はなればなれ]

 市街地での長射程高出力砲解禁という暴挙に立ち上がったのは一葉だけではない。

 当然仲間達も一葉ならいの一番に止めに行くだろうと考え、彼女の後を追うように駆け付ける。

 

 そのヘルヴォル達の頭の上をウルトラマンが通り過ぎていく。

 

 「あっ、ウルトラマンだ!

 

 「ということは二人は合流できたんだね

 

 「私達も遅れないように急ぎましょう!

 

 ヘルヴォルは始がウルトラリングをぶんどったことをまだ知らない。

 当然、頭上のウルトラマンの中に始と一葉がいることを疑わない。

 

 だから巨人の後を追うように走ってきた一葉に驚愕を隠せない。

 

 「えぇっ!? あんたどうしてここに、まさか分身の術を

 

 「私は忍者じゃありません! なんと説明すればいいか……

 

 一葉はついさっき起きた出来事、始がリリィの敵を全て倒すために一人でウルトラマンに変身したことを包み隠さず話した。

 

 「まったく、リリィを嫌ってたと思えば過保護になったりして、極端にもほどがあるでしょ!」

 

 「最初の頃より優しくなってたけどここまで振り切れてしまうなんて……

 

 「はじめずるい! 一人だけで戦うなんて! らんも一緒に戦いたい!

 

 「どうする一葉、始を止めに行く?

 

 「できればそうしたい所ですが……

 

 一葉の心境は複雑だった。

 無理を通し過ぎたせいで彼を心配させてしまった、ヘルヴォルを結成したての頃、無理を無理を重ねた結果瑶に重症を負わせあわやヘルヴォル解散の危機になった記憶と重なってしまう。

 今でこそ皆順応して支えてくれているから忘れていたが、理想を追求するあまりつい周りが見えなくなり、その結果破綻しかける悪い癖があることを始との一件で一葉は思い出す。

 私が至らなかったばっかりに、責任を感じている一葉は始にどう説得すればいいか言葉が浮かばない。

 そんな迷いの沼にはまりそうな一葉の意識を恋花のちょっかいが引き上げる。

 

 「ほれ、隙ありっ♪

 

 「ひゃあっ!?

 

 予想外のタイミングで脇腹を突っつかれ思わず声を上げた一葉は、顔を真っ赤にして突っかかる。

 

 「そういうのは時と場合を選んでください!

 

 「ごめんごめん、でもこういう時にもおちゃらけているのがあたしらしさって奴じゃないかな

 

 「それは、確かに恋花様らしいと言えばその通りですけど……

 

 「そうそう。でさ、あんたのあんたらしさってどんなのだっけ?

 ヒーローの救いの手を待ち続けるお姫様ってガラって感じではないわよね

 

 恋花の指摘を受け、一葉ははっとする。

 

 そうだ、守られるだけのヒロインなんて望んでない。

 マディックのお姉さんの勇姿を見たあの時から、誰かを守れる人であろうと誓った。

 それが自分の夢、ゲヘナの非道に気付いても、怪獣が迫ろうとも、ウルトラマンになろうとも、決して変わることのない心に根付いた信念。

 ウルトラマンとしてリリィの敵全てを倒すという信念を始が押し通そうとするのなら、自分も信念を掲げてぶつかるだけ、そう思えるようになってきた。

 

 「あんたはどうしたいの?

 何と戦う? 何を守る?

 

 「責任とか負い目とか、そういうものに振り回せるくらいなら、自分の心のままに動いた方がいいよ

 

 「どんな判断でも従うわ、だって私達は一葉ちゃんをリーダーと認めたもの

 

 「らんはできれば怪獣と戦いたいな、そっちの方が楽しいし!

 

 「皆さん……ありがとうございます

 

 迷いから俯いていた一葉仲間のおかげで前を向き、今やるべきことを自覚する。

 

 「まずは高出力砲阻止のため怪獣を倒します! そのためには始さんと協力しますが、事が終わり次第速やかに彼と話し合いましょう。

 

 リリィが犠牲にならない世界を創るという始の理想は間違ってないかもしれない。

 だがそれは決して簡単なことではないことを一葉は知っている。

 途方のない時間を積み上げて作るべきものだと一葉は思っている。

 始が今考えている方法では絶対に創れないと一葉は危惧している。

 

 なぜそう思うのか? だって一葉も同じだから。

 『平和のために誰かが傷つく世界』を変えることが一葉の理想だから。

 同じ理想を持つ者同士、必ず手を取り合えると信じている。

 

 だから今は止めるのだ、決定的な過ちを犯さない内に。

 

 「リリィとしての誇りを胸に、ヘルヴォル出撃!

 オペレーションくまさん、開始です!

 

 「了解!

 

 「わかった!

 

 「行こう……!

 

 「相変わらずのネーミングセンスだけど、それも一葉らしさだよね。

 了解!!

 

 誰かが間違えた時、それを全力で止め正しい方向へと導き示す。

 それもまた、仲間の存在意義である。

 

 ◆◆◆

 

 怪獣の生態は摩訶不思議で、そこから得た能力もまた、人間の常識から逸脱してる。

 

 腹に口を持つ者、鳴き声で相手を眠らせる者、姿を変幻自在に変える者、実に多種多様。

 

 そんな怪獣達の中でもゼットンの能力は群を抜いて強力。

 それも全て巨人を封殺することに特化した天敵の中の天敵。

 

 「うおおおおおーフラッシュハンド!

 

 胸板を貫かんばかりの灼熱の拳がゼットンに迫る。

 だが怪獣はそれを周囲に展開した光波バリアで余裕気に防ぐ。

 

 「まだだ、タイマーボルト!

 

 前で駄目なら上からなら、バリアが頭上まで張られていないことに気付いたエースは雷を落とそうとする。

 だが放つ前にゼットンの姿が消えた。

 

 超スピードで走ったとか、空を飛んだとかそういうレベルではない。

 ”最初からそこにいた”かのようにゼットンの立ち位置がエースの正面から背後に変わる。

 

 テレポーテーション能力。

 ウルトラマンでさえ寿命を縮ませる覚悟で行う大技を、この怪獣はいともたやすく連発できる。

 

 背中を襲う鋭い手刀にエースは弾き飛ばされ、いくつもの高層ビルを薙ぎ倒しながら都心の十字路の上に倒れ込んだ。

 衝撃でひっくり返った自動車の防犯アラームを煩わしく思いながらも立ち上がる始は、ゼットンの誇る怪力に戦慄する。

 腕の一振りだけでこの威力、まともに殴り合ったら勝ち目はない。

 

 (距離を取って光線を……ダメだ、ゼットンにエネルギーをぶつけるのはまずい……

 

 僅かな逡巡、テレポートを使えるゼットンに距離感の概念がないことを思い出したのも束の間、巨人の視界を無機質な顔が覆い尽くす。

 

 肩を掴んだゼットンは先ほどの火球を撃たんとして顔を光らせる。

 はるかかなたから撃った一撃でさえシルバーブルーメを焼き尽くした、それを至近距離で何発も撃たれたらウルトラマンといえどもひとたまりもない。

 

 避けなければ、飛び上がろうとするも、肩をガッチリと拘束され振りほどくことができない。

 

 火球連射まであとわずか。

 何としても逃れなければ焦る始は悪手と分かりながらも光線技を使わずにはいられなかった。

 

 「っ! パンチレーザー!

 

 額のランプから放つ細いレーザー。

 予想外の攻撃にゼットンは思わず手を放し、火球のチャージも中断する。

 しかしダメージは入らない。チャージを止め次第すぐに両腕を胸に、パンチレーザーを吸収し始める。

 

 これがゼットン最大の能力。

 相手の光線を吸収し自分の力を上乗せして放つ”ゼットンファイナルビーム”

 エースの兄、初代ウルトラマンも敗れた恐るべき必殺技。

 そのことを一葉から聞いて警戒した始はレーザーを撃ち止めて即座に防御態勢を取る。

 土壇場での危機感が動作を最適化させ、過去最高強度のバリヤーを作り出させた。

 

 にも関わらず、容易く砕け散るバリヤーに相手との戦力差を実感せずにはいられない。

 

 威力を抑えたパンチレーザーでさえもここまで増幅されて返される、下手な弱光線を撃つくらいな一か八かメタリウムで一気に倒すか、しかしそれも吸収され切ったら……

 

 今後の攻勢に悩み出す始であったが、先ほどの失敗を思い出し、テレポートで距離を詰められないよう走りながらスラッシュ光線を連射する。

 

 吸収力の高い胸や顔を避け足元を狙う試みはある程度功を為したが、決定打にはならない事実に始は歯を食いしばる。

 

 3分間しか戦えないウルトラマンに、無駄に時間を使う余裕はない。

 

 いつもなら自分が戦っている間に一葉が名案を出してくれるのに……

 ゼットンに苦戦する今になって、切り離した相手の重さに実感していく。

 

 (いや違う、そんなこと最初から分かってたはずなんだ

 

 やっぱり頭を使いながら戦うことなんてできない、と始は思うようになって。

 あいつがいてくれたら、と弱気になって。

 

 ふらつく体を抑えながら戦場についた一葉を見て、弱気になった心を一喝する。

 

 苦戦してるくらいで何を弱腰になっているんだ、あんなにボロボロの少女がこれ以上無理しなように一人でウルトラマンになったのではないのか、と始は意固地になって帰らせようとする。

 

 「そんなへとへとの体で何をしようってんだよ!?

 いいから帰れよ、こんな怪獣なんてことねぇ!

 こんなとこにいたら高出力砲に巻き込まれるぞ!

 

 「…………

 

 もうこれ以上一葉に傷ついて欲しくないから虚勢を張ってでも戦場から追い出そうと吠える始。

 純粋に無理を続ける彼女への心配もあるし、ヘルヴォルという理由だけで的外れな怒りをぶつけてしまったことへの罪悪感もある。あるいは芽生え始めた友情か。

 絡み合った複雑な思いが始を意地にしている。

 どう答えれば落ち着かせられるかと仲間達が悩む中、先んじて声を上げたのは、始が最も心配していた一葉本人。

 

 「こういう物言いは得意ではありませんが、あなたに一番伝わるのはこれしかないでしょう……

 

 「なんなんだよ、文句なら後で聞くから今は逃げ……

 

 「私達(リリィ)をなめんじゃねぇ!!

 

 「っ!?

 

 優等生らしからぬ、どちらかと言えば不良の方が言いそうなセリフを大声で叫ぶ一葉に、始もヘルヴォルも思わず口を閉じる。

 かつて、始の気持ちを知るために不良の心理や喋り方を覚えた経験が今ここで役に立つ。

 周りの奇異の目にもくれず、ムカデ競争や社交ダンスといった独特な方法でチームワークを鍛えた時のように、何事にも真っすぐに向き合う一葉だからこそできた説得であった。

 

 自分がされたら嫌ななめる行為を無自覚にしてしまった罪悪感に始は口をつむぎ、無防備になった始の耳に一葉の言葉が入っていく。

 

 「あなたの目には私達が守らなくてはならないほどか弱い存在に見えましたか?

 そんな私達と一緒に戦って、足手まといだなって今まで思ってたのですか!?

 

 違う、ヘルヴォルの一人でも頼りないと思ったことは一度たりともない。

 

 一葉が有効な攻撃方法を教えてくれたおかげで楽に勝つことができた。

 

 藍の相手を恐れない戦いっぷりに鼓舞されることもあった。

 

 瑶は自己主張に乏しいが、エースにできた隙をさりげなく縫ってくれていたことを知っている。

 

 恋花にはよくからかわれたが、そのおかげで肩の力が抜けた気がする。

 

 千香瑠にはアリエとの和解に一役買ってくれたことを感謝してもしきれない。

 

 皆、自分なんかよりはるかに強い人間だと、始は認識していた。

 リリィとかウルトラマンとか、戦闘力などといった単純なものではなくもっと大きな部分で、心で負けているという確信が始の中にあった。

 

 平穏に生きる道から遠ざかり人々のために命を懸けて戦う。それは並大抵の覚悟がなければできないだろう。

 リリィの事を嫌っている人間にも気にかけ手を差し伸べることを止めない。それは自分のためだけじゃない本当の優しさを持っていることへの証左に他ならない。

 

 眩しすぎて直視できないほどの心が輝いて見えていて、だからこそそんな彼女達を傷つけるヒュージやゲヘナが許せなくて。

 

 リリィを何としてでも守りたい。

 リリィの敵をなにがなんでもぶっ潰したい。

 保護と憎悪、混在する二つの気持ちが始を極端な行動に取らせた。

 

 だが今、一葉の言葉によってリリィがウルトラマンがいなくとも戦える強き者であると再認識したことで保護の感情が薄れていく。

 リリィの敵への憎悪は依然健在であるが、ひとまずは共通する敵を倒すために手を結ぶ。

 

 「ゲヘナに怒る気持ちは分かりますが、早まったことをしてはいけない。

 胸に燃える激情をどうすればいいのか、この戦いが終わったらゆっくり話し合いましょう

 

 「そのためにも絶対にくたばるんじゃねえぞ!

 

 不穏な要素を抱えつつも巨人とリリィの共闘戦線が再び構築された。

 されどゼットンは手強い、話が終わった途端に瞬間移動でエースの背後に回り込む。

 

 「危ない!

 

 一葉はすかさずトリガーを引くが、ゼットンの堅皮に銃弾が通らない。

 

 「そりゃー!

 

 今度は藍が突撃するも、光波バリアに阻まれる。

 負けじと一心不乱に斬撃の連打を繰り出すもバリアは破れず、お返しとばかりに腕を藍に振り下ろす。

 

 「藍! 深追いしないで!

 

 ルナティックトランサーによって周囲が見えなくなっていた藍に瑶はブレイブを発動。

 目を覚ませたはいいが巨腕が目前まで迫ってきている、このままでは避けきれない。

 

 「始、トス!

 

 「トスってお前バレーボールじゃあるまいし、加減ができないぞ

 

 「安心して、多少力んでも私がフォローするわ!

 

 ヘリオスフィアの結界を緩衝材にエースのトスで打ち上がる恋花と千香瑠。

 バリアの柵を飛び越した二人が作る弾幕が怪獣の顔を爆炎で包む。

 顔を傷つけられた怒りで腕を地面スレスレで止め恋花達の方へ狙いを定める。

 

 恋花の作戦に突破口を垣間見た一葉は地上の藍と瑶を連れてエースの元へと駆け寄る。

 この方法ならバリアを無視できる、そう思ったのも束の間発射台を破壊すべく火球の嵐がエースに襲い掛かる。

 

 「ぐわあああああああ!

 

 「大丈夫ですか!? 今助け――

 

 『助け』と言った時には既に火球を放つゼットンが消え、『ます』と言おうとしていたタイミングに突然現れた太陽を遮る大きな影にルナチクス戦がフラッシュバックする。

 この影は人間を踏み潰さんとする怪獣の足、ルナチクスの時と違うのは明確な殺意で足を降ろしてきてること、速度もあの時の比ではない。

 

 「た、退避ーーーーーー!!

 

 全速力で走り怪獣の足から逃れたが3人の顔は優れない。

 特に一葉はルナチクスの時と同じく保護対象がいる状況だったら間違いなく誰も間に合わなかったと鳥肌が収まらない。

 

 「わっ!? また怪獣いなくなった

 

 「恋花達の後ろにゼットンが、二人とも逃げて!

 

 エースの気転で助かったものの、反応が遅れていたら間違いなく二人は握りつぶされていた。

 一瞬で死角に入り込まれることへの恐怖に汗が止まらない、

 下手に固まると全滅しかねない、それほどまでにゼットンの瞬間移動は脅威であった。

 

 「全員散らばってください! 止まらず走り続けて!

 

 隊長に合図にヘルヴォルは一目散に分かれて動き出す。

 

 ある者は大通りを疾走し、またある者はビルの合間を飛び回る。

 散ったおかげで全滅のリスクは下がったが、こうもバラバラだと意思疎通をしようにも叶わない。

 

 これでは一人で戦ってるのと変わりない。

 チームワークで戦うレギオンの強みを能力一つで殺されてしまったことに恋花は歯を食いしばる。

 

 彼女は今、怪獣に壊されたビルの穴を通って廊下を駆け抜けている。

 ビルの端から端までたどり着くまでの数秒間、僅かな猶予の中で恋花は策を必死に練る。

 

 (考えろ、頭を使え飯島恋花!

 こういう時こそ一葉があたしを頼りにしているのでしょうが!

 

 戦術眼に優れていると評価してくれた一葉の期待に応えるためにも、まずは情報を整理する。

 

 ノインヴェルト戦術はまず使えないだろう。

 テレポートで狙いを定めにくい上に、万が一当たってもゼットンファイナルビームで跳ね返されかねない。

 至近戦を挑もうにもバリアが堅くてチャームが刺さらない。

 ならば先ほどの方法でバリアを超えるか、だめだ、あれはエースに大きな隙を作らせる失敗策だった。

 

 怪力、火球、テレポート、バリア、光線吸収、どれか一つだけでも苦戦を強いられるだろう能力を全部兼ね備えた反則級。

 間違いなく過去最強の怪獣を前に怖気そうな気持ちを振り払う。

 

 (何か……何か弱点でも一つあれば!

 

 生物である以上どこかに必ずあるはずの弱点を探るべく、恋花は今までの戦いから何か不審点はないか洗いだしていた。

 

 

 ビル内を駆けながら思案する道中、突然真横の壁から何かが突き破ってくる。

 真っ黒い巨大な物体、それは怪獣の拳。

 無作為な破壊行動ではなく、明確な狙いをつけて恋花を押し潰さんと突き出してきた。

 

 「なんで居場所が分かんのよ!?

 

 考えている余裕はない。質量を持って迫りくる死をなんとしても避けなければ。

 

 (フェイズトランセンデンスで防ぐか、でもその後どうする!?

 6人がかりでさえもキツいのに一人減ったら……

 

 迷いから判断が遅れてしまう。

 拳が目と鼻の先まで迫り少女に最悪の結末を与えようとしたその時、突如拳が消える。

 視界が覆っていた黒がなくなり、あっけにとられる恋花。

 

 殺せる直前までいっていたのに何故、ゼットンの思考が読み取れない恋花だったが、彼女を心配して駆け寄ってきた仲間達から説明を受ける。

 

 「恋花! 怪我はない!?

 

 「う、うん、大丈夫。それよりなにがあったの?

 

 「うんとね、はじめが”ぎゅー”ってしたら”びりびりー”になって怪獣が嫌がって”ぴょんぴょん”跳ねてるの

 

 「あーうん……なに言ってるか分かんないけど何となくは伝わったわ

 

 藍の言葉を翻訳すると状況はこう説明される。

 

 恋花一人に狙いを絞った隙を突いてエースがゼットンにしがみつきボディスパークを発動。

 全身に強力な電気を纏い触れて来た相手を怯ませるこの技で逆に相手に密着し続けることで注意を恋花から反らしたのだ。

 その後ゼットンは振りほどこうとテレポートを行い今に至る。

 

 超能力者がテレポートする際、身に着けている服や持ち物も一緒に飛んでいく要領で、ゼットンと密着しているエースも体の一部と誤認されているようで中々振り落とせない様子。

 

 何としても拘束を剥したいゼットンはエース諸共街の至る所に現れては消えるを繰り返している。

 怪獣の意識が巨人に向いている内にヘルヴォルは集まって作戦会議。

 議題は当然ゼットンの攻略であるが、それよりも恋花が明らかにしたかったのは『怪獣がどうやって自分の位置を割り出していたか』である。

 

 「テレポートする直前まで恋花の方に顔を向けてなかったよ。

 それまでは千香瑠を狙っていた

 

 「後ろから狙撃しようとしてたのですが突然振り向いてきて、まるで背中にも目がついてるかのような察しの良さでした

 

 レジスタの俯瞰視野で見ていた一葉によると、千香瑠と恋花の距離はかなり離れていたらしい。

 にも関わらずゼットンは突然遠くに位置する相手に標的を変え、ピンポイントに腕を伸ばしてきた。

 怪獣の人間離れした知覚能力に益々謎が深まっていく。

 

 「目といえばあの怪獣どうやって見えてるの? お目々もお鼻もないのに。

 口もないからご飯食べるの大変そうだよね

 

 「藍……今は大事な所だからそういうのはあとにしようね

 

 この場に関係のない、怪獣の生活について気になりだす藍をたしなめる一葉。

 しかし恋花にとっては、その何気ない疑問が気付きを与えた。

 

 恋花も千香瑠も、狙う相手の居場所を正確に把握していた。

 後ろも建物の内部も、目には映らない場所なのに。

 そもそもゼットンには瞳がない、鼻や耳に当たる部位も見当たらない。

 

 かつて人間が猿から進化した時、尻尾がなくなったように、あの怪獣も進化の過程で視覚や嗅覚を捨てたのではないのだろうかと恋花は推測する。

 

 「ひょっとしてあの怪獣、匂いとか音じゃない別の何かを察知する機能を持っているんじゃないかな?

 

 「……! 

 恋花様の推測、当たってるかもしれません。

 ゼットンは特定の惑星ではなく宇宙全体に生息する宇宙恐竜。無音無臭の暗闇の中で生きるために我々とは違う知覚機能を身に着けている可能性があります

 

 「それって昆虫の触角みたいなもの? それさえ破壊できれば私達にも勝機があるかも!

 

 「問題はそれをどうやって見つけるかですが……

 

 「大丈夫大丈夫、目星はすでにつけてあるって

 

 こんな時こそ参謀役の見せ場、戦術眼に優れた恋花の本領が意気揚々と発揮される。

 ヒントとなったのは襲われた二人、恋花と千香瑠には共通点がある。

 

 「あの怪獣って結構賢いと思うのよ。

 瞬間移動の精度に二つある防御能力の使い分け、何というか自分の力を効率的に引き出せている感じ

 

 「確かにそういう雰囲気はしますが、生物としての本能という見方もとれるような……

 

 「だったらなおさら、いきなり急所を当ててきた相手は怖いんじゃないの

 

 恋花の鋭い見解に仲間は刮目する。

 恋花と千香瑠の共通点。それはこの中で唯一とある部位を撃ったこと。

 

 バリアを飛び越え二人が狙った部位、それは頭部。

 

 初手から弱点を狙われて、ゼットンは恋花と千香瑠に警戒心を強め、だから二人は執拗に狙われていた。

 まだ確定ではないが、今までの行動から得た情報を元に探ればこれがもっとも合点のいく説である。

 

 ゼットンの弱点は頭部にある何か。

 それがどこにあるか探り当てようと怪獣を見上げる五人の瞳は一点に向けられる。

 

 瑶がさりげなく言っていた、触角という言葉につられて、五人は目を向けたのはゼットンの角。

 恐竜よりも虫っぽいフォルムもまた、連想を引き立てた。

 

 「らんあの角を折ってくる!

 

 「ちょっと、あれがほんとに触角かどうかは分からないのよ!?

 

 「ですがこの際賭けてみましょう。

 元より無謀も同然の戦い、できることは全部するべきです!

 

 不確定要素は大きいが、鶴の一声によって満場一致。

 ヘルヴォルはレーダーと思われる角の破壊に行動を移す。

 

 ちょうどいいタイミングでエースも振り落とされて自由になった。

 立ち上がろうとする巨人の肩に乗って作戦を伝える。

 

 「テレポートの出現場所を絞り込みましょう!

 私達で大きな円陣を描くのです!

 協力してくれますか!

 

 「何か閃いたんだな、任せておけ!

 

 足場の広い道路を中心に6人はまばらに散る。

 直立するエースの目線に合う建物の頂上に位置取りしつつ互いに背中を向け合う。

 

 6人の背中が向ける中心点、無防備な彼らを一掃せんとゼットンはそこへ瞬間移動する。

 土砂を巻き上げ降臨し、全員に向けて火球を放たんとする宇宙恐竜。

 

 

 絶体絶命? 

 

 

 

 違う、全て一葉の読み通り。

 

 「今だぁー!!

 

 戦いながら気付いたこと、ゼットンは相手の真後ろにテレポートしがち。

 相手の死角を狙うのは瞬間移動で最も有効な活用法、だが最適解故に読みやすい。

 

 全員の死角を一か所に集めれば、どこへ移動するかなんて考えるまでもない。

 

 どこから来る分かっているなら対処は容易い。

 

 効率を求めるが故に罠にはまったゼットンに、万全の準備を喫した最大威力の迎撃が降りかかる!

 

 「”レジスタ”!

 

 「”フェイズトランセンデンス”!

 

 「”ヘリオスフィア”!

 

 「”ルナティックトランサー!”

 

 「”エンレイジ”!

 

 一葉のレジスタが自身を含める全員の戦闘力を引き上げる。

 恋花は最強の切り札を最高のタイミングで切る。

 千香瑠はレアスキルで守りを固めることで結果的に全神経を攻撃に集中させる。

 藍はいつも通り笑いながらありったけの銃弾をお見舞いする。

 瑶は自滅覚悟でエンレイジを行い攻撃力を爆発的に増大させる。

 

 テレポート直後を狙っての一斉攻撃。

 バリアを展開をする間も与えない、四方八方から飛び交う鉛の竜巻がゼットンを動揺させる。

 

 窮鼠に噛まれた猫のように悶えるゼットンにウルトラマンがダメ押しの一手を決める。

 光線エネルギーを纏った左足をゼットンの角に目掛けて叩き込む!

 

 「電撃キック!!

 

 エースの貴重な格闘技がクリーンヒットしゼットンを吹っ飛ばす。

 右の角が粉々に蹴り砕かれ、落下の衝撃で左の角も真っ二つに割れる。

 

 「……!?

 

 角の先端が宙を舞い、地面へと突き刺さるのを見届けた一葉は思わずガッツポーズ。

 

 後は読み通り角が感覚器官であってくれれば……

 

 

 

 成功だ。

 動きのキレを失い、当てずっぽうに火球を振りまくゼットンに角があった頃のスマートさは欠片もない。

 角を失った途端にこの狼狽えよう、間違いなく今ゼットンは何も感じれなくて混乱している。

 

 今こそトドメを刺す時、念のため光線技以外で仕留めるためにエースは大地を蹴る。

 

 「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!

 

 レアスキルの反動で地面に寝ころびながらも最後まで戦う気迫を持ってエールを送る恋花。

 彼女に限らず誰もが巨人の勝利を確信していた。

 

 事実、レーダーを失い見明の闇に囚われたゼットンにはもう勝ちの目は無い。

 

 勝負は決まっていた。

 

 

 決まっていたはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ゼットンが最後の手段に出るまでは。

 

 

 突然、周囲の温度が上がりだした。

 見えない炎に焼かれているかのように草木が焦げ、鉄が歪み、アスファルトが溶けだしていく。

 マギと特殊繊維の制服で守られていなければ一瞬で干からびるほどの熱量、守られていても耐えきれるものではなくリリィ達は次々と膝をつく。

 

 「はぁはぁ……あつい……アイス食べたい……

 

 「藍ちゃん!? しっかり……うぅ、目まいが……

 

 「何で急に気温が上がって……

 

 「しかもこの暑さ尋常じゃないよ……まるで、太陽が目の前にあるみたい……

 

 「まさか……火球を最大範囲で放とうとしている……!?

 

 顔を上げるとそこには二つ目の太陽が現れていた。

 それがゼットンの作り出した特大の火球であることをはっきりと視認できたのはエースだけ。

 

 テレポートやバリアばかりに目がいってしまうが、何食わぬ顔で連発する火球もまた常軌を逸した威力を秘めている。

 

 その温度、メタリウム光線35万度の約2857倍……

 

 すなわち

 

 

 

 

 

1000000000000000(一兆)00000度

 

 太陽の中心温度1600万度も軽々超える温度をゼットンは作り出そうとしてるのだ。

 普段なら狙った相手のみを焼き尽くすよう緻密な制御によって圧縮されているのだが、今それを止めた。

 圧縮しない正真正銘の一兆度の火の玉で周囲一帯ごとウルトラマンを消し飛ばそうしている。

 

 相手が見えず攻撃を当てられないのなら、当てようとしなければいい。

 点の攻撃ではなく面の攻撃なら狙いを付けずとも押し潰すことができる。

 あまりにもスケールの差が違い過ぎて一葉達は圧倒される。

 

 「火球を止めなければ……このままだと一兆度の火球が地球に落ちる……!

 

 「ふぇぇ……一兆度ってどれくらい……できたてのたい焼き何個分くらいの熱さ?

 

 「地球すら余裕で溶ける熱量ってことよ、高出力砲で騒いでいたのがバカバカしくなってくるわね……

 

 「というかそんな温度放つ本人自身も耐え切れないんじゃ……

 

 「耐えるつもりないんじゃないかな……多分、道連れにしてでもウルトラマンを倒す気なんだと思う

 

 ゼットンは出身地は宇宙とされる。

 特定の惑星ではないざっくりとした分布なのはそれほどゼットンが宇宙にとってはありふれた存在なのだろう。

 

 やたら強い上に見つけるのも容易い、よその惑星の侵略を目論む宇宙人にとってゼットンは最良の駒であった。

 

 ゼットン星人やバット星人など、地球を狙った侵略者の中にもゼットンを操っていた者は少なくない。

 

 このゼットンもまた、どこかの宇宙人の手によって戦わされ散っていった個体と推定される。

 

 ”光の巨人を倒し、地球を滅ぼせ”

 星人が刻んだ洗脳が死してなお解けず、命を捨ててまで実行しようとする執念。

 

 ずっと昔、過去に起きた何かに縛られ戦い続けるゼットンが、リリィを恨み喧嘩に明け暮れていた頃の自分と重なって見えた。

 何も生まず、ただただ暴力の限りを尽くす暴れん坊、だから怪獣は嫌われる、だからかつての始は嫌われていた。

 この時、始は巨人の中では稀有な、ゼットンに対して憐れみを抱いたウルトラマンとなった。

 

 「終わらせてやるよ……もう二度起きないように、もう二度と誰も傷つけることのないようにな!!

 

 両腕を大きく反らして始は高らかに叫ぶ。

 過去への決別を込めて、必ず殺す技の名前と共に。

 

 「メタリウム光線!!」 

 

 七色の光線がゼットンの胸を刺す。

 光線を当てられたことで集中を解かれ火球は一気に露散。

 熱気から解放されリリィ達も立ち上がる。

 

 だが状況は芳しくない。

 今度は光線を吸収し始めているゼットン。

 このままでは光線は跳ね返され、初代ウルトラマンの再現となってしまう。

 

 「もういいって! これ以上撃ち続けたら後がひどいわよ!

 

 「早く回避行動に……だめ、聞こえてないみたい

 

 もう一度肩に乗って話しかければ、走り出そうとする一葉の肩を誰かが掴む。

 振り向くとそこには藍がいて、その表情はいつになく真剣であった。

 

 「かずは、ノインヴェルト戦術をやろう!

 

 「藍、何を言ってるの!?

 

 メタリウムに加えマギスフィアまで吸収されたらそれこそ一巻の終わり、藍はそのことを理解しているのだろうか。

 

 理解はしてなくとも、無策で言ったわけではない。

 藍は幼くとも愚か者ではなく、日々の出来事から少しずつ物事を覚えてきている。

 その経験を活かして一葉に助言したのだ。

 

 「らんこの前おやつの食べ過ぎでおなか壊したの。

 パンパンに膨れてとっても苦しかった。

 ”食べ切れない分まで食べちゃダメだよ”って保健室の先生に怒られた

 

 「藍、あなた……

 

 「分からんちんなことを……って感じでもないか

 

 おなかを壊したことで”一度に食べれる限界”を知った藍は、怪獣にもそういう限界があるんじゃないかと本能的に察知した。

 

 ゼットンファイナルビームは光線を無条件に反射するのではなく、一度光線を吸収するプロセスを挟む。

 吸収するというのなら必ずどこかに限界があるはず。

 光線とマギスフィア、二つのエネルギーを同時に与えれば吸いきれずに破裂するのでは、藍が言いたいのはそういうこと。

 

 この土壇場で解決策を、まさか藍が立案してくるとは思わなかった一同の目は丸くなる。

 と同時に、今日までの積み重ねが少女を成長させていると実感して嬉しい気持ちになっていく。

 

 「藍ちゃんの立てた作戦、私はやってみたいです

 

 「我らがちびっ子も知らない内に賢くなっちゃってさ、明日は雪かな~

 

 「その内参謀交代の時が来るかもね恋花

 

 「そうだね藍、怪獣のお腹をパンパンにしてあげようね

 

 「うん! ありがと皆!

 

 藍が初めて立てた作戦に賭けてみたいと、四人の意見が重なる。

 

 「即席オペレーションふぐさん、発動!

 マギスフィアを撃ち込み、怪獣のお腹を壊します!

 

 パス回しに理想的な位置へ向かうため颯爽と駆け出していく。

 

 「今回は邪魔してくる敵はいません、パス回しは速さを優先させましょう!

 恋花様! レアスキルの直後で辛いでしょうが始点をお願いします!

 

 「オッケー、回復した分のマギ全部詰め込んでおくよ!

 瑶、受け取って!

 

 ヴルンツヴィークに特殊弾を装填、即座に相棒の元へと撃ち出した。

 

 「大丈夫だよ恋花、足りない分は皆で補うから!

 藍、千香瑠に回して!

 

 瑶から藍、藍から千香瑠、そしてフィニッシャーへ。

 とんとん拍子でマギスフィアは運ばれ、最速記録を更新して一葉の元へと送られる。

 

 空高く突き上がるブルトガング、その銃口が狙うは当然、今も吸収し続けるゼットンの胸部。

 

 「これで……倒れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

 裂帛と共に撃ち出されたマギスフィアは狙いと寸分狂いなく胸元へと飛んでいく。

 

 メタリウム光線の吸収にのみ集中していたゼットンは、新たな攻撃に対応しきれない。

 僅かな綻びにゼットンの調子が狂う。

 吸収に失敗したエネルギーが少しずつ体から漏れて、硬皮にひびが走って裂けていく。

 その様子を見たエース、ここぞとばかりに光線の出力を最大限まで拡大。

 

 「うおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 光線の熱量が黒い体を更に黒く焦がしていく。

 

 焦げて脆くなった体にひびが瞬く間に広がって全身に達した瞬間、

 

 

 

 

 大爆発が起きる。

 

 周囲を染め上げるほどの黒煙が巻き上がり、その中心のゼットンの姿を見えなくする。

 これは紛れもなく、吸収しきれなかったエネルギーが引き起こした大爆破であった。

 

 飛んでくる煙を吸い込まないよう、顔を防ぎながらヘルヴォルは作戦の成否を神妙に見守る。

 

 「やったか!?

 

 「この爆発なら流石に怪獣も……

 

 「というかこれでダメだったらもう打つ手ないわよ

 

 魔法球に全てのマギを注ぎ込んだリリィにもう戦う力は残されていない。今の彼女らは一般人と何ら変わりなくこの戦闘においてこれ以上怪獣を攻撃することは不可能。

 ウルトラマンもまた、メタリウム光線にエネルギーを使い過ぎて、カラータイマーを鳴らしながら膝をついている。あと1分もしない内に変身を解かなければウルトラマンは二度と立ち上がる力を失ってしまう。

 高出力砲のタイムミリットも恐らく秒読みが始まっている。

 

 誰もが全力を出し切った後、これで倒れてなければこれまでの努力は水の泡。

 

 ここにいる誰もが、早く煙が晴れることを願った。

 

 煙の先にあるはずのゼットンの亡骸を確認して、安心を勝ち取りたかった。

 

 仕留め損なた場合なんて考える余裕もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ピポポポポポポ…………

 

 耳に入ってきた電子的な鳴き声に、思わず思考が止まる。

 その次に汗が湧きだす、体が震えて視界がブレる、誰かが掠れた声で「うそでしょ」と弱音を吐いた。

 声の主が煙を掻き分け、姿を見せる。

 

 「ゼットォ、ォォン………

 

 そこにいたのは、角が折れ、全身が焼けただれ、胸元の発光体が潰れた宇宙恐竜。

 

 誰が見ても満身創痍の姿でも、動くだけの死体となんら変わりない状態であっても。

 

 最強(ゼットン)は倒れない。

 リリィとウルトラマンが死力を出し尽くしてもなお、ゼットンは彼らに絶望を与え続けた。

 

 「まだ……生きてるなんて……

 

 「ご、ごめん……らんがノインヴェルトしようって言ったばっかりに……

 

 「藍は悪くない、あれは間違いなく最善の一手だった、だけど……

 

 「こんなの予想できるわけないよ

 

 吸収量のキャパが崩れる直前、ゼットンはそれまで吸い込んだエネルギーをファイナルビームとして放つことでメタリウムを相殺、本来体内で弾けるはずだったエネルギーを手前で爆発させることでゼットンは生き延びた。

 されど無傷で済んだわけではない。

 吸収が終える前に無理やり跳ね返すというイレギュラーはゼットンにとっても命がけの博打だった。

 事実ビームが暴発し、体内の吸収と反射を司る内蔵が完全に焼き切れた。もうこのゼットンに光線を撃ち返す術はない。

 

 ゲームで例えるなら、今のゼットンはHPが1の状態。

 どんな緩い攻撃でも当たりさえすれば確実に倒せる。厄介なテレポートも吸収能力も失った現在、もう敗北のしようがないほど有利な状況にまで追い込んでいる。

 

 なのにそこからチェックメイトへの一手を踏み出せない。

 相手のHPが1ならば、こっちはMPが0、後一発で倒せるのにその一発が撃てない本末転倒。

 

 (ちくしょう……くそったれが……

 

 始は心で何度も舌打ちした。

 一葉達がマギスフィアを撃った以上、トドメの一撃はエースが放たなければならないのに体が言う事を聞かない。

 背中に体重の十倍の重しがのしかかったかのように膝が上に持ち上がらない。

 焦っても焦っても体は動かずカラータイマーの点滅が早くなるばかり。

 

 (早くしねえと高出力砲が飛んでくるっていうのに……

 何で立てねえんだよくそったれ!

 

 もう動けない、ここまでなのか、もうだめだ……

 

 諦めかけたその時、少女の声が聞こえて来た。

 

 「立ってください! ここで終わるつもりですか!

 

 顔を下げると足元に一葉がいて、こちらを見上げて叫んでいた。

 マギが尽きても尚、街を守ることをを諦めない彼女の瞳は、ゼットンが放とうとしていた一兆度の火球よりも熱く眩しく燃えているように見えた。

 

 「言いましたよねあなたは! リリィの敵をぶっ飛ばすって!

 今こそその時です! なのに何で立たないんですか!

 さっき語った覚悟は全部嘘だったんですか!!

 

 (好き勝手言いやがって……なめてんじゃねえぞこらぁ……

 

 でも始には分かっている。これは心からの言葉ではないと。

 始が奮い立ちそうな言葉を必死になって叫び、結果罵倒みたいになっていることを少年は気付いている。

 

 思ってもない言葉をぶつける後ろめたさに、少女の頬を一筋の雫が伝う。

 

 この雫に何としても報いたい、少女の激励を単なる無茶ぶりで終わらせたくない。

 少女のために巨人となった少年の手足に力が籠る。

 

 だけどまだ足りない、あともう一押しなのに、立ち上がれない。

 

 ギリギリまで踏ん張り続けても、ピンチの連続が止まないそんな時。

 人々は巨人(ヒーロー)の救いを欲するという。

 

 ならばその逆は?

 

 巨人でさえどうにもこうにもならないそんな時。

 巨人は何を欲するのだろうか……

 

 そんなこと、考えるまでもない。

 

 「はじめー! 頑張れー!!

 

 「ちびっ子の声援には答えるものよヒーローさん!

 

 「私達がついてる、だから大丈夫……!

 

 「挫けそうな時は思い出して、自分が何のために戦うのかを!

 

 巨人が求めるもの、それは仲間。

 共に戦い、助け合う絆と巡り合うためにウルトラマンは宇宙を守るのだから。

 

 「何があっても私達は諦めません。人々の命も、自分の信念も、あなたの事も!

 だからリリィは戦う、だからウルトラマン(あなた)も…………

 

 

 

 

 

 

 立て! 撃て!! 斬れ!!!

 

 それは、かつて若い頃のエースが超獣に追い詰められた時、遥か彼方の兄弟達が送ってきた言葉。

 エースが最も奮い立った声援を無意識に一葉はエースの中の始に投げかけた。

 

 大切なものの為に立ち上がれ。

 

 宇宙の平和を乱す邪悪を撃て。

 

 己の光を信じて闇を斬り裂け。

 

 簡潔ながらも巨人の為すべき全てが込められている。

 

 その激励に魂が震え、体を動かす最後の一押しとなった。

 戦う人間達の応援に巨人の体が反応して僅かにエネルギーを回復させる。

 

 「ありがとよ、一葉、藍、恋花、瑶、千香瑠……

 

 立ち上がった巨人は仲間に向けてサムズアップ。

 感謝を伝えるとすぐに前を向く。

 

 ”立て、撃て、斬れ”の『立て』は済んだ。ならばやることはあと二つ。

 

 「ウルトラギロチン!

 

 ゼットンに目掛けて八つの光輪を『撃つ』

 

 鋭い刃を備えた光輪はゼットンの命を確実に断ち切るだろう。

 

 だがそれに対し何もしないほどゼットンは甘くない。

 

 なぜならゼットンにはまだ光波バリアが残っているから。

 

 本能的に危機を察知したゼットンは光波バリアを展開、光輪は怪獣を切り裂く前にバリアによって砕け散る。

 

 「まだだ! バーチカルギロチン!

 

 強固なバリアを前にしても始の闘争心は衰えない。

 バリアを破らんと三日月形の光刃を放つ。

 だがバリアには傷一つつかない。

 

 「ホリゾンタルギロチン!

 

 今度は横向きの切断技。

 バリアはほんの少し揺れるだけ。

 

 「サーキュラーギロチン!

 

 十字に切り裂くギロチン攻撃。

 バリアに僅かな亀裂が入る

 

 「マルチギロチン!

 

 絶え間なく飛び交う光の短剣。

 一つ一つは弱くとも同じところを狙い続ければ雨垂れ石を穿つ。

 

 「ギロチンショット!

 

 スペースQの応用した究極のギロチンが満を持して発射される。

 これまでのギロチンが作ってきた亀裂に刺さり、遂にバリアを破壊した!

 

 これでもうゼットンを守るものは何もない。

 今度こそトドメの瞬間だ。

 

 「八つ裂き光輪(ウルトラスラッシュ)!!

 

 最もポピュラーな切断技を放たんとエースは腕を振り下ろす。

 

 

 

 しかし何も起こらない。

 

 「嘘だろこんな時に……!

 

 エネルギー切れ。

 元々消費の激しいギロチン技をこうも連発すれば回復した分などすぐに尽きる。

 

 防御手段を失ったゼットンは迷わず火球のチャージを再開。

 再び巨大火球が膨れ上がる。

 

 「まだだ! 俺達はまだ諦めねえぞ!!

 

 相手が最後の手段に出るならと始もまた最後の手段に出る。

 光線エネルギーも残り時間ももう幾ばくも無いエースの残された一手、すなわち突撃。

 

 一兆度の熱気を浴びようも足を止めずに敵を見据える。

 

 相手につられたやけっぱち、ではない。

 

 始の頭に浮かぶのは、特訓初日のできごと。

 光線の構えを覚える際にふと漏らした小さな感想。

 

 切断する技多くないか?

 

 始の思った通りエースには光線の名手の他に切断技の使い手という称号を持つ。

 

 超獣は痛みを知らない。

 いくら攻撃されても怯まない超獣に対してエースが編み出した対処方は二つ。

 

 ”光線を撃ちまくり相手に休む間を与えないこと”

 

 そしてもう一つ。

 

 ”動きようのないほど切り刻む”

 

 いくら痛覚がない超獣でも、首を斬られれば、真っ二つに裂かれればその瞬間に活動が止まる。

 

 だからエースは光線と同じくらい切断技の開発に努めていたのだ。

 

 そこまで超獣の対策を練りに練ったエースだからこそ、ウルトラ兄弟随一の技のレパートリーを持っている。

 あらゆる状況を想定して作り上げた技の数々の中には当然あるはずだ。

 

 ()()()()()()()()()()使()()()()()()()が。

 

 始はそれを思い出したのだ。

 

 それはエース本人も滅多に使わない。

 相手にギリギリまで接近しなければならないから、よほどのことがない限りギロチンで充分だから。

 使うべき場面に恵まれない地味な技であった。

 

 故に今の状況に突き刺さる。

 エネルギー切れでギロチンが撃てず、火球に集中して動かない今だからこそこの技の真価が試される時。

 

 振るうは右腕、狙うは首。

 長く続いたこの戦いを断ち『斬る』技が繰り出される!!

 

 「ウルトラナイフ!!

 

 ゼットンに終焉を刻むのは、刃物の如き鋭いチョップ。

 

 すれ違いざまに放たれた手刀がゼットンの首を斬る。

 

 一瞬の静寂。

 

 怪獣の大きな頭が斬られた先からずり落ちて、残された体も遅れて大地に沈んだ。

 

 怪獣が生前作ろうとしていた火球がそのまま下に落ちて亡骸を焼き払う。

 まるで火葬のようにに一片残らず体が燃え尽きて、その中にあった魂も怪獣墓場へ戻っていった。

 

 残り時間30秒、ウルトラマンエースは辛くもゼットンに勝利した。

 

 巨人の勝利に共に戦ったヘルヴォルも思わず飛び上がって歓喜を表す。

 

 皆で力を合わせて強敵に打ち勝った。おかげで街も無事守られた。

 

 でもやるべきことはまだ一つ残っている。

 

 「始さん、約束通りこれからについてお話しましょう

 

 始の説得が残っている。

 リリィを案じるばかりにヒュージどころか人間(ゲヘナ)まで倒そうとする彼に、自分達の思いを伝え、踏み止まってもらわなければ。

 

 始も話し合いに応じるつもりのようでヘルヴォルの元へ歩み寄り変身解除の構えを取る。

 

 「始、怒りを収めてくれるかな?

 

 「大丈夫ですよ、あれだけ憎んでいたアリエ様を許せたのならきっと分かり合う道があるはずです

 

 「仲直りしたら皆でちかるのご飯を食べようよ!

 

 「それいいわね。今日はかなり疲れたし、竜駆の皆も誘って盛大にパーティーするわよー!

 

 怪獣を倒してもまだ問題は残っていたが、ヘルヴォルに不安はなかった。

 

 少年の精神的な変化に直接関わってきた彼女達だからこそ、これから話す一件も成長の中で起きる起伏の一つだと受け取り、真っ向から向き合おうと考えた。

 

 ヘルヴォルの視線はエースに集中し、誰も怪獣の焼け跡を見ていない。

 

 次は始との会話に意識を向ける番だと皆考えている。彼女達にとって、怪獣はもう既に去った脅威と認識されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ、突然飛んできた極太のレーザーに肩を撃たれるエースに反応が遅れた。

 

 「「「「「」」」」」

 

 一瞬何が起きたのか訳が分からなかった。

 だが冷静になって情報を整理し、巨人を襲った攻撃の正体に気付く。

 

 

 「まさか……高出力砲!?

 

 学園は長射程高出力砲のチャージを終え、全門一斉発射に乗り出したのだ。

 

 「なんで!? らん達怪獣倒したのに!?

 

 「情報が遅れて怪獣が死んだことに気付いてないんじゃ……

 

 「いやそれはおかしい、高出力砲もチャームの一種だから撃っているのリリィのはず

 

 「そして恐らく彼女達のレアスキルは”天の秤目”……

 

 天の秤目とは対象の距離をナノレベルで把握する知覚系のレアスキル。

 高出力砲のような長距離射撃を前提としたチャームとは最高の相性を誇る。

 

 そんなレアスキルを持った者達がだ。

 

 狙撃先の状況を全く把握していないなんてあり得ない。

 

 ゼットンが倒されたことを認識した上で高出力砲を撃ってきているのだ。

 

 ふと一葉の脳裏に教導官の言葉が浮かぶ。

 

 ウルトラマンも怪獣の一種だと私は考えている。

 

 あれが教導官個人の見解ではなく学園上層部の認識だとしたら。

 高出力砲発射完了時に生存している『怪獣』を撃て、と砲手達に命令していたとしたら。

 

 全てに合点がいく。

 

 (どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったんだ!

 少し頭を使えば分かるはずのことを!

 

 後悔先に立たず。

 学園の、その背後にいる者達の悪辣さに憤るよりも先に始に伝えなければ。

 一葉は大慌てで叫ぶ。

 

 「逃げてください! 学園は…ゲヘナの狙いは……

 あなたです! ウルトラマンを狙っているのです!! 

 今すぐ逃げてぇぇぇぇぇぇ!!

 

 始の身を案じ、すぐにでも飛んで逃げるよう叫び続ける一葉。

 

 しかし時既に遅く、高出力砲の熱線が弾幕を張って襲い掛かる。

 射線上のビルを粉みじんに吹き飛ばしながら迫りくる熱線に歴戦錬磨のヘルヴォルも死を想起せざるを得ない。

 

 「あたし達も逃げないとまずいよこれ!

 

 「でもどこに? マギが尽きた私達じゃ遠くまで行けないし……

 っ! 藍、危ない!

 

 状況が理解できずぼーっとしている藍の頭上にビルからもげた看板が落ちてくる。

 瑶が突き飛ばさなければ、藍は押し潰されかねなかった。

 

 「わわっ!? よう、ありがとう

 

 空を飛べば高出力砲から逃れられるかもしれない、だが彼女達はどうなる。

 このままでは無防備なヘルヴォル達が瓦礫の雨によって生き埋めになってしまうではないか。

 

 (これしかない……!

 

 一葉達を無傷で帰すため、始は覚悟を決めた。

 

 奇しくもそれは、エースがこの平行宇宙に来たばかりの時と同じ状況であった。

 

 「俺の影に隠れろおおおおおおおおおおおおお!!

 

 エースはヘルヴォルを飛び越え、彼女達の前で立往生、弾幕から守る40mの盾となる。

 

 「始君!? 何をしてるの!? 私達の事はいいから早く逃げて!

 

 千香瑠の呼びかけも無視して始は盾に徹する。

 足を踏ん張り、腹筋に力を入れて、倒れまいと体を強張らせる。

 

 「ぐっ!? がっ! ぎぃ……ぐはっ!?

 

 熱線に指を焦がされようとも倒れない。

 

 肩が貫かれようとも倒れない。

 

 片目が焼かれようとも倒れない。

 

 胸に直撃してカラータイマーが欠けようとも決して逃げない。

 

 全身をボロボロに壊し、ハチの巣になってまで守ることを止めない巨人の背中を、一葉はもう直視できなかった。

 

 「う゛う゛……あ゛っ

 

 巨人に変身してから3分が経過。

 高出力砲の弾幕も止まり、一葉達は無傷、だがその為に始が払った代償は大き過ぎた。

 

 エースは全身穴だらけにされ、前方向に崩れ落ちながら消滅する。

 

 「は……始……さん………?

 

 その凄惨な光景に、一瞬言葉を失う。

 

 視線の先に、倒れた巨人の胸辺りの場所に始らしきものが見える。

 

 そこまで遠いわけじゃないのに始”らしき”と曖昧なのはそこ一帯が真っ赤に染まって見えにくいからだ。

 

 その赤色が何であるか分からないほど藍は幼くない。

 

 「はじめ……起きて……おきてよぉ……

 

 血に染まった服の切れ端が飛んできて、それを掴む瑶の腕はガタガタ揺れている。

 

 「表側まで、血がびっしりと……!?

 

 痙攣すらしない程衰弱している様子を見て恋花は最悪を予想する。

 

 「嘘よね……殺したって死なないくらい元気だったじゃないさっきまでは!

 

 近くに転がる大き目の瓦礫を千切れた四肢と錯覚するくらい千香瑠は混乱していた。

 

 「ひっ、拾わなきゃ……くっつけなきゃ……っ

 

 一葉に至っては始以外何も見えなくなっていた。

 

 「い、今すぐ……びょ、う院に、連れ、て……行かないと!

 

 怪我人を医者に診せなければという冷静さと、あんな状態じゃ助かりようがないのに気づけない焦燥が混ざり合って一葉の足を動かす。

 

 もはや頭で動いていない一葉にまともなランニングフォームを作る余裕はない。

 前のめりな走り方は今にも転びそうだ。

 

 必死に走って、もう少しで始に手が届きそうで、そんな時。

 

 

 

 

 

 

 「そこまでよ、ヘルヴォル」

 

 足元スレスレで飛んできた銃弾が一葉を転ばせた。

 

 銃声に驚き、正気に戻ったヘルヴォル一同は思わず顔を上げる。

 

 気が付けば五人組のリリィが倒れる始の周りを囲んでいた。

 

 

 彼女らはクエレブレ。

 序列2位が率いるレギオン。

 学園と真っ向から逆らう叛逆のヘルヴォルとは対照的の、学園の意向に従う隷属のレギオン。

 

 その隊長、序列2位は始の前に立って一葉を見下ろし、副隊長の序列11位は奇妙な機械で始を探り始める。

 その行為に不快感を覚えながらも、2位が邪魔で止められない。

 

 「マギとは違うエネルギー反応が確認されてますね、恐らくこの方が例の巨人で間違いないでしょう」

 

 「はんっ、いつぞやの民間人がウルトラマンだったなんて。あの時縛り上げていればよかったわ」

 

 「うわー酷いっすねー……これもう死んでるでしょ……」

 

 「むしろそれこそ幸運、こんな状態になってまで死ねなかった時の激痛なんて、考えただけで身震いしてくる……!」

 

 当然のことだが、クエレブレと始に面識はほとんどない。

 だから始が死にそうになっていても、序列131位と21位は他人事のような感想を漏らすだけ。

 

 だが彼女は違う。

 

 「えっ……どうして……どういうことなの?」

 

 霧崎アリエだけは始のことを知っている。

 さっき和解したばかりの少年が、血まみれで倒れている。

 それがアリエの視点においてどれだけ不可解で驚愕に満ちたことか。

 

 「ご、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………

 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 状況が飲み込めず発狂しながら逃げ出すアリエを興味無さそうに見送りながら序列2位は倒れた始の方を見下ろす。

 

 「バカはほっといて仕事するわよ。

 とりあえずこいつを回収すればいいのよね?」

 

 「何をするつもりですか!? 彼から離れてください! これ以上狼藉を重ねるならリリィ同士といえども許しませんよ!!

 

 「ろぉぜきぃ……ぷぷぷ、アハハハハハ!」

 

 何かは分からないがクエレブレは始によからぬことをしようとしている。

 生まれたての小鹿のように不格好ながらも立ち上がって少年を守ろうとする一葉。

 

 そんな序列1位を見て、序列2位は嘲笑う。

 

 「待機任務も守れない不良レギオンがいけしゃあしゃあと、お笑いね。

 こっちはれっきとした任務を受けてここに来た優等生様なのよ」

 

 「任務って、何の任務よ?

 戦闘に巻き込まれた民間人を誘拐することが任務ですって。

 前から酷いと思ってたけど、ここまで落ちぶれてるとは思わなかったわ、学園も、あんたも!

 

 「黙りなさい序列13位。煽る相手は順位を見てからにしなさい、私はあなたより上よ」

 

 「13位じゃない! れんかには飯島恋花っていうお名前があるの!

 ちゃんと名前で呼んで!

 

 「序列47位……強化リリィの癖にろくにブーステッドスキルも扱えない出来損ないが……」

 

 「藍ちゃんへの侮辱は許しません! 今すぐ謝ってください!

 

 「あら序列84位、いたのね。ごめんなさい、私序列50位以下の見分けがつけられなくて」

 

 「……それで、どうしてあなた達は始を狙っているの?

 

 「よく聞いてくれたわね序列14位。クラスメイトのよしみで特別に教えてあげるわ。感謝しなさい」

 

 とは言うものの、2位の声色に親しみはない。

 憎き相手を堂々と見下せる大義名分を得た彼女は、これまで以上に尊大な態度を露出して語り出す。

 

 「高出力砲の発射を決めたと同時に学園は私達クエレブレにある命令を下したのよ。

 高出力砲の発射が終わり次第、怪獣のサンプルを回収しろってね」

 

 この命令は恐らくゲヘナが絡んでいるものだろう。

 技術の発展のためなら禁忌であるヒュージの強化実験をも断行する過激派連中が怪獣という大きな存在を見逃すはずがない。今までずっと捕えるチャンスを伺ってたはずだ。

 今まではウルトラマンが木っ端微塵に吹き飛ばしてたから捕獲できなかったが、ならば高出力砲でウルトラマンごと仕留めればいいと彼らはエレンスゲを操って実行に移させたのだろう。

 

 全部2位の説明からの想像でしかないが、藍の過去やシエルリントのマディック達を利用した実験など、ゲヘナのえげつなさを何度も目にしている一葉達にとってそれは確信に近いものだった。

 

 研究のためなら人命も厭わない、人一人の人生を平気で狂わせる、そんな方法で得た技術を使って彼らは国家に取り入る。

 研究結果による人類救済を建前に、実質的な世界の掌握を目論むゲヘナに取って、突然現れ超常的な力を使いこなす怪獣も巨人も新たな研究対象、有効活用すべき実験動物(モルモット)として認識していた。

 

 「最初に現れたクラゲみたいのは蒸発して肉片が見当たりそうにない、黒い怪獣も全身が燃え尽きた。だからこいつが必要なのよ。

 怪獣の残骸(サンプル)なんて目じゃない”巨人そのもの”を捕獲したとあれば、私の評価はさらに上がる! 今度こそ私がヘルヴォルへ登り詰める! その礎になってもらわなきゃならないのよウルトラマンには!!」

 

 序列2位は目先の利益に囚われてる。出世のチャンスばかりに目が行って、ゲヘナがウルトラマンを手に入れることがどんなに危険でおぞましいことか考えようともしない。

 何としても食い止めなければ、少年のためにも世界のためにも一葉は僅かに残ったマギを振り絞りブルトガングを起動させる。

 その刃先が向かうのは、序列2位。

 

 「彼に触れないでください……すぐにでもこの場から立ち去り、今起きた事をどこの誰にも口外しないでください。それを守らないというのなら……!

 

 「守らないというのなら……なに? 何をするつもりかしら。

 そのチャームで私とやり合う気? 魔法球を撃ち終えたカラカラのマギで万全なこの私とまともに戦えると思っているの?」

 

 「それであなたが止まるなら!

 

 「質問が悪かったわね。ならばこう問いましょう……

 あなた、”リリィ同士で殺し合う”つもり?」

 

 「……っ!

 

 痛いところを突かれてチャームの構えが乱れる。

 チャームを人に向けることはリリィの禁忌、どんな理由があっても許されずその禁を破れば二度とリリィとして戦うことを許されない。

 双方の同意を得た『お手合わせ』ならともかく、一方的に持ち掛けたのならなおさらだ。

 

 これは一葉個人の問題ではない。

 一人でも己の殺意に負けたリリィがいたという事実が広まれば、今生きている世界中のリリィに疑いがかかる。

 

 ”世界の守護者といえでも所詮は16,7の小娘”

 ”自分の感情すらコントロールできない未熟者”

 ”こんな者達が何食わぬ顔でチャームを握ってると思うと寒気がする”

 ”やはりリリィは危険な存在”

 

 こんな批評が蔓延し、やがてリリィであることが罪となる時代が来かねない。

 後ろにいる仲間達や、それまで出会ってきたリリィ、彼女らまで自分の凶行のせいで不当な扱いを受けてしまうかもしれないと思うと、チャームを握る腕が固まり、そこから先へ動けない。

 

 「私達クエレブレには任務でここに来たという正当性がある。対してあなた達は待機を破ってしゃしゃり出たじゃじゃ馬集団。罰せられるのがどっちになるかなんて考えなくても分かるでしょ」

 

 「…………

 

 2位の言葉が決め手となって一葉はチャームを下げる。

 どんなに理不尽でも、今この場において始を助ける正当性も権限も、ヘルヴォルには何もない。

 

 ヘルヴォルは、動けない。

 

 クエレブレが始を縛り上げ、サンプル回収用のカプセルに入れる所を目の前にしても動けない。

 

 序列2位が携帯でゲヘナに任務達成の報告をしていても動けない。

 

 電話が終わり次第即座に降りて来たゲヘナのロゴが刻まれた輸送機を見ても動けない。

 

 輸送機にカプセルが運ばれて行っても動けない。

 

 カプセルを収容し離陸を始めても動けない。

 

 「あなた達が品行方正なリリィで助かったわ。おかで私の任務は無事完了。

 それでは皆さん…………ごきげんよう」

 

 去り際に最大級の嫌味を投げる2位に対しても、ヘルヴォルは動かなかった。

 

 輸送機が飛び去り、誰もいなくなった街で少女の膝が崩れる。

 

 見渡すとビルは穴だらけ地面は瓦礫で埋め尽くされている。

 

 幸い住民の避難は完了して犠牲者はほとんど出てないだろうが、こんな破壊しつくされた街に帰りたいと思う人はどれくらいいるか。

 

 街は再び活気を取り戻すには、途方のない時間がかかるだろう。

 

 怪獣を倒しても、犠牲者を出さなくても、無傷で終わっても。

 

 ヘルヴォルは敗北した。

 

 「なんて下手くそな戦い方だ……」

 

 敗北を噛みしめ呟く。

 誰が言ったかなんて重要じゃない。

 それはヘルヴォル全員が思ってることだから。

 

 「何も守れてないじゃないか……それでもリリィか、ヘルヴォルか……!」

 

 街を守れなかった、始を奪われた、迷いから信念を貫きとせなかった。

 楯の乙女(ヘルヴォル)にとってこれ以上の敗北はない。

 

 

 

 

 「ーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 声にならない悲痛な叫びが五つ。

 壊れた街でこだました。




次回から最終章3部作が始まります。
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