「女の子生活頑張れよー」
「ははっ!任せろー」
俺達は通学路の半ば頃で別れ、それぞれの帰路につくことにした。あれからの帰り道に色々と話したため、直人との話のノリを思い出せたのだ。結果、今朝よりかはかなり打ち解けたようにも思える。性別こそ変わったが「あいつ」は直人なのだ。あまりにも見た目が変わり過ぎていたために少し距離感が掴めていなかったが、もう問題無いだろう。親友としてまた馬鹿やって遊びたい。いつの間にかそう考えるようになっていた。
自宅に着き、自分の部屋へとたどり着く。制服をハンガーにかけてから、着替えを済ませ、ラフな格好になる。そして、ベットに横になってスマホをいじり始めた。日課のSNS巡回をしながら、なにしようかなーと漠然と考えていると、ピコン!と通知が届いた。
《久しぶりに、一緒にゲームでもしない?》
直人からだ。そのメッセージを見て、完全に乗り気になった俺は、すぐに了承の旨を返した。そして、その後に直人からの返信もあり、晴れて今夜は2人で遊ぶこととなった。
夜飯を適当に食べ終えてから、自室に戻り、時間を確認する。ベッドの横にあるデジタル時計が示してるのはPM08: 50だ。約束の時間が近付いているため、俺はワクワクしながら、ゲーム機の電源をつけた。
「よっ!さっきぶり!」
「よう。」
直人からVCの招待が届いていたため、そこに参加する。すると、開幕一番いつもの挨拶でお出迎えだ。そして、これからの流れを考える。ゲーム内のパーティーの参加とか、ホストの設定などで実際にゲームが遊べるまでには空白がある。その間は雑談をしているのが通例だ。まあ、本題のゲーム中でも雑談はしているのだが、例にならって、その雑談から切り込むことにした。
「そういや、なんだよ、《久しぶり》って。別に4日振りくらいのものじゃねーか。」
「そうなんだけどね。」
折角なので、送ってきたメッセージにツッコんでみることにした。それもそうなのだ。「あいつ」とは時間があれば遊んでいる。そして、最後に遊んだのは直人が学校を休む直前だったため、そこまで時間は経っていないはずだ。
「なんか長らく君と会えてなかった気がしてね…」
「お、おう、そうか」
少し憂いを帯びた声色でそう返された。あまり明確な理由はないのだろう。しかし、なんだろう、普通の言葉のはずだが、女の子の声で聞くとなにか心を揺さぶるものがある。
それはさておき、ゲームの準備も整ったため、直人と遊ぶことにした。
「おっし、準備もできたしそろそろ始めるか。」
「おっけー!さあ行こう!」
通常運転な高いテンションの直人とゲームで夜を更かしていった。
若干の疲労感と眠気を覚え、デジタル時計を確認するとAM1:00を示していた。この時間帯である。俗に言う深夜テンションに陥るのだが、特に直人はテンションが最高潮に達するのだ。
「よし!じゃあ声真似縛りでもやろうよ!」
「まあ、いいぜ」
いつも通りのノリでまた変なことを始める。お互いにテンションが高まったときは、こんな感じで○○縛りなどのおふざけが始まるのだ。実は自分もこれをひそかな楽しみにしており、直人とどんな無茶をすることになるのかワクワクしている。前回の英語使えない縛りのときは死ぬほど笑わせて貰った。直人は敵の所在地を伝えようとしただけで4回くらい違反してしまうのだから、腹筋がつるのもしょうがない。
「よーし、じゃあ最近SNSで話題のあのキャラやりまーす」
「お!いいね」
一体どのキャラだろうか。俺達はサブカル好き仲間でもあるため、だいたいは知っているだろうけど、そのチョイスは気になるところだ。しかし、そのキャラは「あいつ」のいつも通りなチョイスである個性的なキャラや男キャラではなかった。
「ざーこ♥️ざーこ♥️」
「…ッ」
思わず息を飲んでしまう。今朝に聞いたあの猫なで声のような甘ったるい声が耳朶をうつ。まるで誘惑でもされているかのようなそれは、俺の理性を容易にぐらつかせる。
「こういうのが好きなんでしょう♥️ねぇオタクくぅん♥️」
「お?おう…」
生返事で返してしまったが、それだけで終わりではない。縛りということで終始その口調で話された俺は、そのマッチ中まともに集中できなかった。
なんとか理性を押し留め、マッチ終了後に謎の疲労感と達成感を覚えていると、不意に声をかけられた。
「どうだった?」
「めちゃくちゃ可愛かった…あっ…?」
あ、思わず言ってしまった。いや、本心ではあるのだが直人は性別が変わったばかりである。親友として、あまり女の子扱いするのもなにか違う気がしていたため、口にしないように心がけていたのだが。
「ふふん♪でしょー」
あれ?あまり気にしてないのだろうか。どちらかというと性転換後の方がイキイキしてるような気もする。
直人は上機嫌な感じを残したままさらに口を開く。
「それじゃあ♪もっと欲しくない?」
「もっと?」
言葉の意味が理解しきれずに鸚鵡返しのように返事をしてしまった。欲しいとはなんのことだろうか。
「ボクのカワイイ、間近で見させてあげるよ♪」
「それはどういう」
お前は声だけでも十分だと言うのに更に上があるというのだろうか。
「にぶいなぁ♪明日君の家にお邪魔するからねー」
「え…」
「それじゃあバイバイ♪楽しみにしててね♪」
「あ、おい!」
そう言って直人は逃げるようにVCを閉じた。唐突に決まってしまった親友の訪問に気が気でない俺であった。