無縁の骸は華咲く丘で   作:なちょす

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題は『めくり、憶う(おもう)』と読みます。

あっ、初めまして⋯⋯なちょす、と言う者です。
東方Projectの小説を書くのは初めてなので初投稿です。

皆様あらすじの注意事項は目を通されましたでしょうか?
あらすじの段階で『おもんなそ⋯』と思われた方々は、多分合っています。自分の感性を信じて下さい。そう思えるのは素敵な事です。
読んで下さる方々は、間違いなく神様です。八百万も居るんですから間違いないです。信仰します。寧ろ結婚しましょう。

稚拙な表現、誤字脱字、キャラ崩壊や独自解釈が多々見られると思いますが、このファッキンご時世に少しでも皆様の楽しみになれるよう努力致します。

ではでは、ごゆるりと──疎符『ソーシャル・ディスタンス』


めくり、憶う

 ふと、思い出す。

 昨日のようでずっと昔の、楽しかった日々を。

 

 ふと、思い出す。

 私を必要としてくれた人達の事を。

 私を愛してくれた人達の事を。

 

 

 身体が沈んでいく。

 温かくて、真っ暗な、意識の奥深くへ。今までそうだったように⋯⋯ゆっくり、ゆっくりと。

 

 

 ──ムクロ。

 

 

 私を呼ぶ誰かが、背中に細い糸を何本も結び付けて、こっちへおいでと言っている。私が眠りについてから、再び私と会えるまで⋯⋯その人は、私を呼び続けている。

 

 何度も。

 何度も。

 

 

 ──骸。

 

 

 沈んで、沈んで、沈みきって⋯⋯土の香りがする闇の底で、止まる。

 何処までも落ちたその先で⋯⋯私を背中から抱きしめてくれる人が居る。ここが、私の眠りの到達点。この深い暗闇の底。私が居るべき世界の果て。

 眼をそっと手で覆われ、耳元では悲しげな声が言葉を紡ぐ。

 

 

 ──耳を澄ませて。

 

 

 言葉に従えば、聴こえてくるのは沢山の言葉。

 

 

 

 痛い。怖い。嫌い。憎い。虚しい。寂しい。

 伝えたい。伝えられたい。聴きたい。呼びたい。

 愛したい。愛されたい。笑いたい。泣きたい。

 触れたい。触れられたい。居たい。在りたい。

 忘れたい。忘れられたくない。謝りたい。生きたい。

 

 どうして。

 どうして私が。僕が。あたしが。俺が。

 どうして、どうして、どうして。

 

 死にたくない。

 一人ぽっちで、死にたくない。

 

 

 

 ──もう⋯⋯⋯⋯おはよう、だね。

 

 

 ⋯⋯うん。おはよう⋯⋯私の⋯⋯私の大切な──。

 

 

 退かれた手の先には、眩い光。

 肌を撫ぜる冷たい風に意識を引き上げられながら、そうして私は目を覚ますんだ。

 

 

 全てを受け入れる、この美しくも残酷な幻想郷(世界)へと。

 

 

 

 

──時の為政者有れば、万象の知識持つ獣顕れ、彼の者へ己が叡智を授けるであろう。獣、名を白沢と言ふ──著.稗田阿弥

 

 

 

 

めくり、憶う

 

 

 

 

「けーね先生、さよなら!」

 

 

 手を振りながら寺子屋を後にする最後の生徒を見送り、教室へと戻る。忘れ物は無いか、用も無く残っている生徒が居ないか見回りをして、窓を閉め、そうして自分の作業場に戻って明日の授業の準備をする。

 作業場と言っても教室の中だが⋯⋯私が幻想郷にやって来てから何も変わらない、大切な生活の流れだ。1つでも忘れれば調子が狂ってしまう程には、あまりにもこれらが当たり前になってしまっている。

 逆を言えば、簡単には死ぬ事の出来ない私にとっても、もうそれ程の時が過ぎてしまったのだと⋯⋯嫌でも時間という概念にそう教えられてしまうのだがな。

 

 妖の力を持つ、半人半獣。

 歴史を記す神獣──『白沢』

 

 その力が宿る私の身体は、人間達と共に過ごすには長生きが過ぎる。どれだけ多くの教え子達が大人になり、家族を作り、私の前から居なくなってしまったか。

 どれだけ多くの知己、或いは友が、私に最後の言葉を残していった事か。

 

 

 輪廻転生を繰り返す御阿礼の子、その九代目阿礼乙女──稗田阿求もまたその1人であった。

 

 

 彼女が私に残していった置き手紙を、机の引き出しから取り出した。もう何度も手にしてきた手紙の封は未だ切られておらず、机の中であっても僅かに日に焼けてしまっていた。

 自分はひ弱な乙女なのだと言い。

 変わりつつある郷を見ながら、幻想郷縁起の必要性を自らに問い続け。

 

 最後の最後まで幻想郷縁起に尽くし、数多の妖怪達との接触にたじろぐ事の無かった少女の面影が蘇り、少しだけ笑ってしまう。

 

 阿礼乙女としての転生の義を間近に控え、彼女とはまともに面会が出来なくなった頃⋯⋯稗田家の使用人が、彼女から最後の言伝だと言って私に届けてくれた。

 

 

 ──幻想郷は生まれ変わる。その時まで、決して開けないで欲しい。

 

 そう言われて。

 

 

「なぁ、阿求⋯⋯お前は⋯⋯お前は一体、何を伝えたかったんだ?」

 

 

 手紙を透かし、1人疑問を投げる。誰も居なくなったこの部屋で、何となく彼女の声が聞こえるかもしれないと思ってしまった。最後に彼女を見た時⋯⋯御阿礼の子として転生を迎えた、あの日⋯⋯阿求は泣いていた。駆け寄った使用人達に囲まれて、あの強気で物怖じなどしなかった阿求が。

 

 死にたくない、と。

 

 阿求だけでは無い。博麗霊夢。霧雨魔理沙。他にも沢山だ。幻想郷に影響を与えていた力を持った人間達は、時間というどうしようもない運命には逆らえなかった。

 どれほど妖怪達に対抗しうる、強い力を持とうとも。

 

 純然たる人である⋯⋯それ故に。

 純然たる人である⋯⋯それだからこそ。

 寂しさと同時に、ほんの少しだけそれが羨ましいとすら感じた事もある。

 

 封を切らずに再び手紙を引き出しにしまおうとした時、日も落ちかけてきた秋の肌寒い風が撫ぜる。いつの間にか開け放たれていた教室の窓際に、女性が座っていた。黄緑色の紋羽織を身に着け、煙管を口に当てながら、彼女はわざとらしくニヤつきながら私に問う。

 

 

「開けないのか?」

「⋯⋯貴方が楽しみたいだけだろう、マミゾウ殿。それにここは禁煙だ」

 

 

 佐渡の二ッ岩──人呼んで二ッ岩マミゾウ。人里では人間に化けては一般人として暮らしているようにも見える⋯⋯が、実の所は化け狸であり、妖怪だ。それもかなり力を持った存在。"外の世界"とも自由に行き来出来ると噂では聞いているが、本当の所は分からない。まぁ⋯⋯悪い人物では無いが、言ってみれば掴みどころの無い煙の様な御仁だ。

 

 

「むっ、それもそうか。すまんかったな⋯⋯して。阿求、だったかのぅ?」

「⋯⋯」

「そんな目で睨む事は無いじゃないか。儂とお主の仲じゃろうに」

 

 

 阿求や小鈴が居なくなってからすぐ、彼女は私の所へやって来た。2人から話を聞いていたようで、やれ小難しい教師だのやれ授業が退屈だの石頭の頭でっかちなどなど⋯⋯正直第一印象は失礼な御仁だと思っていた。蓋を開けてみれば、気に入った者にはとことん世話を焼きたがるお人好し、親分肌といった所だったが。

 

 

「開けてみる、とは⋯⋯」

「勿論言葉通りじゃ。その手紙は、稗田阿求からお主に向けて送られたものなのだろう?いや⋯⋯この場合は、託されたが正しいか」

「託す?」

 

 

 そう問い返せば、マミゾウ殿は僅かばかり口角を上げた後、窓の外を見た。その横顔は何処か寂しげで、黄昏時の秋空が一層憂いを際立たせている。

 

 つられて外を見る。

 

 なんて事も無い、いつも通りの人里だ。子供達が家に帰り、仕事をしている人間達は最後の客を見送り店仕舞い。家族が待っている家からは『おかえりなさい』と夕餉の香り。

 幻想郷が幻想郷である限り、変わることの無い人の営みなのだろう。

 

 

「もう、誰も居ない」

 

 

 消えてしまいそうな声で、彼女はそう言った。

 

 

「稗田阿求。本居小鈴。博麗霊夢。霧雨魔理沙⋯⋯あの時、多くの楽しみをくれた人間達は、もうどこにもな」

「⋯⋯そう、だな」

「60年⋯⋯長くても、80から90年も生きれば、人間は天寿を全うしたと言えるだろう。そうして世代交代を繰り返し、別れを告げた者達は輪廻の法則に基づき、新たな生を授かる。無論、御阿礼の様な例外も居るがな」

 

 

 彼女の言葉に、私は何も言わなかった。

 そんなことは知っている⋯⋯知っているのだ。だからこそ私は⋯⋯。

 

 

「そんなセンチな気分に浸るお前さんには、その手紙はうってつけの解答だと思うのじゃが?」

「すまないが、話が見えない。私の今のこの気持ちと、彼女からの手紙を見ると言う2つが繋がっているようには⋯⋯」

 

 

「──幻想郷は生まれ変わる」

 

 

 反射的に彼女の方へ振り向いた。

 その言葉は、稗田家の者が私に対して言っていた言葉だ。私以外その言葉を聞いた者など居る筈が無い。

 

 

「おかしいとは思わぬか?山は紅く色づき、日があっという間に傾いては、大手を振って夜が降りてくるというのに⋯⋯桜が咲いておる(・・・・・・・)

「何⋯⋯?そんな、馬鹿な」

「向日葵、梅、紅葉に桜。四季折々を一度に楽しめるだなんて、こんな贅沢な話も無いじゃろ?」

「私の目には紅葉しか映らないが⋯⋯」

「それはお主が人里から出ようとしないからじゃよ。怖いのだろう?それを開き、阿求が残した物の全てを知れば、自分の中で折角止めたままの時間が動き出してしまうからな」

 

 

 押し黙る私を他所に彼女は窓から降り、此方へと歩いてくる。その目は決して私から逸らされることは無い。

 

 

「もう一度言うぞ、神獣『白沢』。誰も居ないんじゃ。時間は進むし、月日は流れる。季節は巡り、幻想郷は"楽園"であり続ける。今までそうだったように、これからもな。それは決して変わらん」

「⋯⋯⋯⋯分かっては、いるさ」

「なら前を向くといい。そして、"今"何が起きているのかを自分で知ることじゃ」

 

 

 親指で窓の向こうを指した彼女の動きにつられ、私はもう一度人里へ目をやった。

 ──何も見えない。

 当たりを茜色に染めていた夕焼けの光も、帰路に着く人々の姿もまるで見えない。視界を覆うのは、歩くことさえ困難であろう深い霧だった。

 

 

「これは⋯⋯」

「かっかっかっ、そろそろ起きた頃だろうなぁ」

「誰が?」

「泣き虫が、じゃ」

「マミゾウ殿っ」

「嘘はついておらんて。お前さんが彼奴と出会って何を想うのか⋯⋯楽しみにしておるよ」

 

 

 そう言って、彼女は立ち去ろうとした。

 私は彼女の肩に手を掛ける。

 

 

「何じゃ?」

「⋯⋯帰るなら窓からでは無く、正面口から頼む」

 

 

 カラカラと笑いながら、彼女はすまん、と一言だけ残し、今度こそ立ち去った。

 

 1人残された教室。

 私以外の気配も無く、音も無い。たった1人。慣れていた筈の孤独感は、否応なしに私に降りかかる。

 窓の外では先程よりも濃い霧が充満し、教室の中もまともに見えなくなってきた。

 

 異変。

 

 この幻想郷では、度々そういった事件が起こる。この霧も、幻想郷で今起きている異変なのだとしたら⋯⋯新しい博麗の巫女は、今頃動きだしているのだろうか。

 

 私はどうすればいい、阿求?

 お前は、私にどうして欲しいんだ?

 教えてくれ⋯⋯阿求⋯⋯。

 

 

『──────────』

「⋯⋯何だ?」

 

 

 俯いた私の耳に入ってきたのは、低いようで甲高い、奇妙な雄叫びだった。

 不規則な感覚で、それは繰り返し聴こえてくる。窓の外⋯⋯人里のもっと向こうの、山の方。

 

 

「狼⋯妖怪?遠吠えか⋯⋯⋯いや、これは⋯⋯」

『──────⋯⋯─⋯⋯⋯────⋯⋯』

「⋯⋯泣いている、のか?」

 

 

 繰り返される雄叫びに、心がざわつく。

 背中に嫌な汗がじんわり滲み出るのを感じる。霧に包まれた教室に居るはずなのに、私だけが1人だけ違う世界に行ってしまったのではないか、そう錯覚してしまう。歩みを止めてしまえば、永遠にここに縛り付けられそうな、そんな錯覚が。

 

 開けなければ。

 

 何かに駆られるように、私は手紙の封を切った。

 出てきたのは、色褪せた1枚の写真と3枚の便箋だっただった。

 

 写真は宴会の時に撮られたのだろう…………博麗霊夢に霧雨魔理沙、顔の知った人妖が入り乱れ、皆が笑っている写真だ。

 

「ん⋯⋯?」

 

 写真の真ん中、阿求と霊夢に挟まれている少女が居た。

 人里で度々見る死神と同じ装束を着飾り、困った様に笑った小さな少女。寺子屋に通う子供らと同じくらいか、或いはもう少し幼いであろう少女。手にした大鎌から、彼女が死神である事は見て取れる。

 死神の事はよく分からないが、こんなに小さい子も彼岸で働いているのだろうか⋯⋯。

 

 便箋にも目を向ける。

 短く⋯⋯けれど繊細なそれは、確かに私の知っている阿求の字で書かれていた。

 

 

 ──私が書けなかった真実を

 ──私が残してしまった後悔を

 ──全ては、無縁の者達が眠る花の丘へ

 

 ──願わくは……貴方が私達の言葉を、心優しき彼女の元へと連れて行ってくれることを信じて

 

 ──御阿礼の子の⋯⋯私達の、贖罪と共に

 

 

 ふぅっと、ひと息ついた。全く⋯⋯何故手紙を読むだけでこんなにも気を張らなければならないのか。何故、贖罪などと言う大切な事を私に一任したのか。残りの2枚は私に向けられたものでは無い。ましてや最後の1枚など、阿求の先代である稗田阿弥のものだと言うのに⋯⋯。

 

 

「自分で行かんかっ」

 

 

 乾いた笑いと共に、そう吐き捨てる。

 私の知らない、御阿礼の子の罪。

 私の知らない、歴史。

 

 写真の真ん中に映っている、私の知らない、1人の少女。

 彼女が語る、心優しき少女。

 

 ⋯⋯あぁ、分かった。分かったとも、阿求。必ずこの手紙を、この子に届けよう。そして覚えていろよ?ここまで私の心をかき乱したのだ。その時が来たら、目一杯叱って、頭突きの1つでもかましてやらなければ気が済まない。

 

 

「ふふっ⋯⋯あははは⋯⋯⋯!」

 

 

 最早戻る事は出来ない。逃げる事も、目をそらす事も出来ない。時間は、動き出した。

 

 あぁ⋯⋯遅くなってしまって、本当にすまなかった⋯⋯阿求。

 

 

「せんせー、おかしい?」

 

 

 途端に声がし、体がビクリと反応する。教え子がまだ寺子屋のどこかに残っていたのか、或いは忘れ物でもしてしまったのか⋯⋯辺りは霧に包まれているというのに、小さな足音が真っ直ぐこちらへ向かって来た。

 

 

「⋯⋯せんせー、かなしい?」

 

 

 霧の中から姿を現した、小さな女の子。彼女は私が手にしていた写真を覗き込む。

 

 

「わぁっ!おねーちゃん!!」

「おねーちゃん⋯⋯君の姉が、ここに写っているのかな?」

「私の⋯⋯?ううん、違う!」

 

 

 写真の真ん中。多くの人妖に囲まれ、困りながらも楽しそうに写る少女を指差しながら、彼女は満面の笑顔で言う。

 

 

「みーーーんなの、すいれんおねーちゃんっ!!」

 

 

 一際大きく悲しげな雄叫びが、幻想郷に響き渡った。




次回──『泣き虫』。

あの⋯次回予告って、私でいいんですか⋯⋯?
な、何を言えば⋯うぅっ⋯⋯映姫様⋯⋯。
え?もう始まって⋯?そ、そういう事はちゃんと言ってよ小町!!尺が無いって、誰のせいで、あ、や、あの!わわ私、死神の水連と申し
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