ポケットモンスター 転生したのは初めに旅立った子供 作:剣の舞姫
ポケットモンスター
転生したのは始めに旅立った子供
第27話
「相棒の最後の意地」
ポケモンリーグに出場する為、旅をしているソラタは5つ目のジムであるヤマブキジムに挑戦していた。
ジムリーダーのナツメが繰り出すバリヤード、ヤドランを撃破し、最後のフーディンを残すのみとなったのだが、ここまででフカマルとギャラドスが戦闘不能となり、ソラタも残るはニンフィアのみ。
そして、ニンフィアはフーディンの高すぎる実力を前にピンチを迎えていた。
“サイコキネシス”、“アイアンテール”のダメージを受けてボロボロとなり、体力が残り僅かといった状態で迫るフーディンの“シャドーボール”は、回避するだけの力が残っていないニンフィアには、どうする事もできなかったのだ。
「ニンフィアーーーーっ!!」
“シャドーボール”が直撃し、吹き飛んだニンフィアの身体が宙を舞った。これで戦闘不能、ソラタにとってジム戦初の敗北が決まったと、そう思った。
だが、次の瞬間ニンフィアがクルリと身体を捻って足から着地、確りと四足で立った事でソラタも、そして表情の乏しかったナツメも驚愕する。
「ニンフィア! 大丈夫なのか!?」
「フィ……フィ……フィア」
確かに自身の足で確り立っているが、体力が限界なのは変わらず、今も息が荒い。だけど、ニンフィアの目はまだ諦めていなかった。
「そう……フーディンの“シャドーボール”が直撃する寸前に自身の“シャドーボール”を展開して盾にしたのね」
そう、ナツメの読み通りだった。先ほど、ニンフィアはフーディンの“シャドーボール”が直撃する寸での所で自分の“シャドーボール”を緊急展開、盾として利用する事でフーディンの“シャドーボール”を相殺しながら、わざと後ろに吹き飛ぶ事で衝撃を逃がしてダメージを最小限に抑えたのだ。
「でも、ニンフィアの体力はもう限界……それでもまだ、戦う?」
「……ニンフィア」
そうだ。ナツメのいう通り、ニンフィアの体力は限界だ。後一発でも攻撃を受ければ間違いなく戦闘不能になってしまうだろうという状況で、まだ戦うというのか。トレーナーが、ポケモンにそんな無茶な真似をさせるのかと、ナツメはジムリーダーとして問うてきたのだ。
「俺は……」
もう、ここで一度ギブアップして、後日再チャレンジでも良いのではないか。リーグ開催までまだ時間はある。修行をし直して、もう一度ジムに挑めば良い。
そこまで考えて、ソラタはギブアップを宣言しようとしたのだが、そこで頬に衝撃が奔った。
「ニンフィア……?」
叩かれた。ニンフィアのリボン状の触手が伸びてきて、ソラタの頬を叩いた。見ればニンフィアはこちらを振り返っており、その表情はソラタに対する怒りが見て取れる程に怒っている。
「フィア! フィア、フィ、フィ~ア!!」
「ニンフィア……お前、まだ戦えるって言いたいのか?」
「フィア!」
「だけど、お前の体力はもう……」
限界だ。そう言おうとして再び叩かれた。
「フィア! フィアフィア! フィ!」
「諦めるなって、そう言いたいのか?」
「フィ!」
自分は諦めていない。だからソラタも諦めるなとニンフィアは言っていた。
そうだ、ニンフィアの闘志はまだ死んでいない。旅に出る前、まだ実家で暮らしていた時のソラタと当時イーブイだったニンフィアは、ずっと母の夢だったチャンピオンになるという夢を叶えようと誓い合ったのだ。
その夢を叶える為に、ニンフィアは絶対に諦めない。そして、ソラタ自身も諦めてはいけない。こんな所で、負ける訳にはいかない。
「そうだ……最後まで諦めるものか! 行くぞニンフィア! 最後の最後まで!!」
「フィア!!」
ソラタとニンフィア、二人の闘志がシンクロした。もう最後まで止まる事がないだろうとナツメも判断して、フーディンに“シャドーボール”を指示する。
「“でんこうせっか”!!」
「フィア!」
“シャドーボール”が直撃する前にニンフィアが走り出す。そのスピードは、先ほどまでの比じゃない。
「今度はこっちの番だ! 走りながら“シャドーボール”!」
「“テレポート”」
ニンフィアが“シャドーボール”を放つと、フーディンは“テレポート”で回避。だが、それで終わりではない。
ニンフィアは再び走りながら“シャドーボール”を放つと、何故か方向転換して走り出した。
「フーッ!?」
「フーディン……!?」
何と、“シャドーボール”を“テレポート”で回避したフーディンが現れた場所にニンフィアが居たのだ。
そのままニンフィアの“でんこうせっか”がフーディンの腹部に突き刺さり、大きく吹き飛ばされてしまった。
「今のは……」
「ニンフィア……! よし、もう一度“でんこうせっか”からの“シャドーボール”だ!!」
「っ! “テレポート”」
今度は“でんこうせっか”を“テレポート”で回避したフーディンだが、回避された瞬間ニンフィアは別方向へ“シャドーボール”を放つと、その先にフーディンが出現、“シャドーボール”の直撃を受けた。
「また……」
「何故って顔ですね」
「……」
「はっきり言って、俺もニンフィアもフーディンが“テレポート”でどこに出現するかなんて予測してないですし、出来ません」
「なら何故……?」
「勘ですよ」
勘、ただそれだけでニンフィアはフーディンの“テレポート”先を予想して技を先回りさせたのだ。
「そんな、曖昧なもので」
「ええ曖昧ですね。正直、普通のトレーナーなら絶対に頼りませんよ……でも、俺はニンフィアの全てを信じてる。その勘だって、ニンフィアだからこそ信じている。テレポート先を予想出来ないなら残るは勘で戦うだけ、ならばニンフィアの勘を信じるだけの簡単な事です」
それからも、何度か“テレポート”を使ったが、その全てを先回りして見せた。その全てが勘頼り、ニンフィアの極限の集中による勘が、フーディンの“テレポート”を完全に封じ込めてしまった。
「なら、もう身動きさせなければ良い……“サイコキネシス”」
「フーディンッ!」
再び、ニンフィアは“サイコキネシス”に捕らわれてしまう。身動き一つ取れない状態で、後一撃でもダメージを受ければ終わる程度の体力しか残っていないニンフィアは再度ピンチが訪れてしまったのだ。
「もう、勘でどうにかなる状況じゃない。これで終わらせる」
「終わるものか! 絶対に終わらない! 最後の最後まで、俺もニンフィアも、諦めるものか! ニンフィア!!!」
「フィア!」
“サイコキネシス”によって天井へ叩き付けられようとした瞬間、ニンフィアは自身と天井の間に“シャドーボール”を展開、それをクッションにして衝撃を逃がすと、フーディンが驚いた一瞬の隙を付いて“シャドーボール”を蹴り、爆発を利用した加速でフーディンの背後へと着地する。
「やれぇ!!」
「フィイイイアアア!!!」
すると、ニンフィアの全身からピンク色のオーラが発生して、頭上に月のようなものが現れる。
その月から放たれた光がフーディンの背中へ直撃すると、フーディンは大きく前のめりに吹き飛んだ。
「今のは……“ムーンフォース”」
「っ!? 行け! もう一度“ムーンフォース”!!!」
この土壇場で、ニンフィアは新しい技を覚えた。“ようせいのかぜ”より威力の高い、フェアリータイプ最強の技、“ムーンフォース”は再度フーディンに直撃して更に吹き飛ばす。
しかし、フーディンもただでは負けないとばかりに“シャドーボール”を展開、ニンフィアへ向けて発射した。
「“でんこうせっか”!!」
「フィア!」
フーディンの“シャドーボール”を回避しながら走るニンフィアに、“テレポート”は駄目だと判断したナツメはトドメとなる一撃の指示を出した。
「“アイアンテール”」
迫るニンフィアに対して、フーディンはスプーンを鋼のエネルギーで光らせると、鞭のように伸びたそれを大きく振りかぶって、目の前まで迫って来たニンフィアへと渾身の力で振り下ろす。
「“シャドーボール”!!!」
だが、振り下ろした“アイアンテール”は“シャドーボール”によって受け止められ、その下を潜るように身を屈めながら走ったニンフィアはついにフーディンの真下へと到達。
「いっけぇえええええ!!!」
「フィアアアア!!!」
フーディンの顎下へ、“でんこうせっか”による渾身の当て身、ニンフィアの頭がフーディンの顎へ直撃した。
「フー……ディ」
何とか倒れないようバランスを取ろうとしたフーディンだったが、脳を思いっきり揺らされてしまった事でバランスが取れなくなり、とうとう後ろへ倒れて目を回してしまった。
「フーディン、戦闘不能! ニンフィアの勝ち! よって勝者、マサラタウンのソラタ!!」
勝った。残り体力が少ない中、逆転しての勝利、喜びがソラタの中から湧き上がる前にソラタは走り出してその場に倒れそうになったニンフィアを抱きとめる。
「ニンフィア!! 勝ったよ! 俺たち、勝てた!!」
「フィア……フィア!」
「ああ! ありがとう、ニンフィア! お前はやっぱ、最高の相棒だ!」
抱き上げて目一杯抱き締めてやれば、ニンフィアも笑顔で抱きついてきた。ソラタの言う通り、ニンフィアはソラタにとってリザードン以上の相棒、パートナーだ。
幼い頃からずっと兄妹の様に過ごしてきて、トレーナーとパートナーという間柄になっても変わらない絆が、この勝利を掴み取る事に繋がった。
「ソラタ君」
「ナツメさん」
「おめでとう……あなたとニンフィアの……いえ、ギャラドス、フカマルもね。ポケモン達との絆、見事だった」
「ありがとうございます」
フーディンを連れて近寄ってきたナツメは表情こそ変わっていないものの、どこか雰囲気が柔らかい。
純粋にソラタの勝利を祝福してくれているのだという事が伝わってきて、サトシとのバトルが彼女を良い方向へ成長させているのだと理解出来た。
「これを……ヤマブキジム勝利の証、ゴールドバッジ」
「ありがとうございます!」
ゴールドバッジを受け取ってバッジケースに納めると、残るジムバッジは3つという事実を実感して身体が震えた。
「次は、どこに行くの?」
「次はセキチクシティのセキチクジムです。セキチクジムのジムリーダー、キョウさんと言えばジョウト地方の四天王も兼任している人で有名ですし、是非チャレンジしておきたいんで」
「そう……なら一つ占ってあげる」
「占い?」
「君のこれからについて」
そう言ってナツメは水晶玉のようなものを取り出して見つめる。数秒そうしていると、直ぐに顔を上げてソラタを見つめた。
「試練が待ってる……試練は、君の前に立ちふさがる壁を意味していて、君にとってのライバルを意味する」
「ライバル……」
「そうね、これは二つの炎……大きな二つの炎がぶつかっている光景かしら」
ソラタの前に立ちふさがる壁の前で大きな二つの炎がぶつかる。それが何を意味しているのか、何となくだけど一人の少女の姿が脳裏を過ぎった。
「多分、君の予想は当たってる……一つ言えるのは、全力でぶつかる事、それだけ」
「全力で……」
「君はポケモンを信じて全力で戦えば良い……結果がどうなっても、それで君の歩みが止まる事は無くなるから」
「……わかりました」
ナツメの占いを受け止め、ソラタは旅立ちの準備を整えた。どんな結果になろうと、全力で、それだけわかれば良い。やること、目指す所は、何一つ変わらないのだから。
「それじゃあ、ありがとうございました」
「頑張って」
こうして、ヤマブキジムを出たソラタは次のジムがあるセキチクシティを目指して旅立った。
立ち去るソラタの後ろ姿を見つめながら、ナツメは先ほどの占いで水晶の中に見た光景を思い返しつつ、数日前のチャレンジャーだった少女の事も思い出す。
「炎と炎、きっと彼女がソラタ君のライバルね……きっと、あの二人は何度も戦う事になりそう」
とは言っても、ナツメはそれすら将来を担うトレーナー二人の試練だと思い、成長を続けるであろう二人のトレーナーの行く末を楽しみにしながらジムへと戻るのだった。
次回は……未定! どうしよう。