ポケットモンスター 転生したのは初めに旅立った子供 作:剣の舞姫
ポケットモンスター
転生したのは始めに旅立った子供
第46話
「修行」
ポケモンリーグ開催まで残り1カ月を切った。ひと月前にマサラタウンに帰って来てからソラタは1カ月後のリーグ開催に向けてトレーニングに励んでいる。
これまでジム戦で活躍してきたメインパーティーだけでなく、サブパーティーも含めたトレーニングを朝から夜になるまで、マサラタウン近くの山で行って、一日中修行漬けの毎日だ。
「よし! ピカチュウは“10まんボルト”! ピジョットは回避しながら急降下して“はがねのつばさ”!」
この日も、ソラタは朝からポケモン達のトレーニングに励んでいる所だった。ピカチュウと、先日進化したピジョットを戦わせて互いの技や回避能力を鍛えている。
ピジョットが急降下しながら鋼のエネルギーを宿した翼で攻撃してきたのに対し、電撃を止めたピカチュウはジャンプして回避した。
「良いぞピカチュウ! “アイアンテール”だ!」
「チュアアア! ピカ!」
「ピジョットォオオ!!」
ピカチュウの“アイアンテール”とピジョットの“はがねのつばさ”が激突し、衝撃が周囲に広がる。
周囲の木々が風圧によってミシミシと音を立てる中、ソラタは平然と二匹を見つめ、両者が静かに離れたのを確認すると、手を叩いた。
「そこまで! ピカチュウ、ピジョット、大分良い仕上がりだな」
ピカチュウの課題だったウエイトの軽さによる物理技の威力が低い問題はピカチュウ自身の成長と筋トレで随分前から克服しようとしていたし、ピジョットはピジョンから進化して身体が大きくなった事による間合いの変化にようやく慣れてきた所だ。
更に、ソラタは周囲を見渡せば近くの岩に向けて技の練習をしているニドクインとスターミー、自主トレをしているゲンガーやガバイトの仕上がりも確認する。
「うぅん……ニドクインはもう少し技のレパートリーを増やすべきだろうな。スターミーは水とエスパー両方を満遍なく使える様にして、電気技もこれから仕込む必要があるし、ゲンガーは……“サイコキネシス”を覚えさせるか、それとも“さいみんじゅつ”と“ゆめくい”コンボを完成させるのを優先するか……悩みどころだ」
他にもサブメンバー2匹が残っているので、そちらの育成もしなければならない。
日替わりで手持ちを入れ替えながらトレーニングをしているから、スケジュール自体は組んでいるものの、その日の成長具合などのトレーニング結果によっては今後のスケジュールを変更しなければならないから、やることは一杯だ。
「えっと、明日はピジョットとニドクインをウインディとバタフリーに入れ替える予定だけど……この分だとピカチュウとピジョットを入れ替えた方が良いか?」
リーグ開催まで残り1カ月、大体のポケモンは育成が終わったが、まだゲンガー、
スターミー、ニドクイン辺りの仕上がりに不安が残り、ガバイトは未だガブリアスに進化していない。
「バタフリーは“むしのさざめき”が完成しているし、正直育成に不安は無いんだけど……ウインディはどうだったかな」
ウインディについてはグレンジムで戦ったカツラのウインディを参考にした育成をしているので、完成系は最初から見えていた。
仕込むべき技も仕込んだので、後は完成度を上げるだけだから、育成には然程時間も掛からないだろうと予測している。
「ソラター!」
「あ、母さん」
あれやこれやと考え込んでいると、アオノの声が聞こえてきて、そちらに目を向けてみればバスケット片手に手を振りながら歩いてくる姿が見えた。
実は、トレーニングをすると聞いてからアオノは家事の片手間ではあるが、時々トレーニングに付き合ってくれるのだ。
「はいお昼ご飯、家に忘れてたでしょ?」
「あ、そういえば」
時計を見れば既に午後1時を過ぎている。家に昼食を忘れて来た事も、昼食時だという事もすっかり忘れていた。
それから、休憩がてらソラタとポケモン達は昼食を食べて、アオノはソラタのポケモン達をチェックする。
「うん、良い感じに仕上がって来てるわ」
「そう?」
「ええ、それで今日もするんでしょ? ガバイトちゃんの修行」
「勿論」
アオノが修行で手伝ってくれるのは主にガバイトの育成だ。大会までに何とかガブリアスに進化させたいソラタとしては、アオノが手伝ってくれるのは本当に助かる。
「ガバイト、行けるか?」
「ガバ!」
「うんうん、じゃあそこの広場で良い?」
「ああ」
他のポケモンをボールに戻したソラタはガバイトとアオノと共に少し開けた場所へ移動、ソラタとアオノが距離を取って向き合うと、ガバイトはソラタの前に立つ。
「それじゃあお願いね、フシギバナ」
アオノがモンスターボールを投げると、中から出て来たのはフシギダネの最終進化系、フシギバナだった。
アオノの現役時代のエースポケモン、アオノが初めてオーキド博士から貰ったポケモンで、現役時代の母をずっと支えて来た最古参のポケモンだ。
「いくぞガバイト! “ほのおのキバ”!」
「フシギバナ、“パワーウィップ”!」
ガバイトが炎を纏った牙を構えて突撃するが、フシギバナが通常の“つるのむち”よりも太い蔓のムチ、“パワーウィップ”を横薙ぎに振るってガバイトに直撃させる。
「ガバハァッ!?」
「ガバイト! そのまま“りゅうのはどう”!!」
「“ひかりのかべ”よ!」
吹き飛びながらも放たれた“りゅうのはどう”だったが、フシギバナが張った“ひかりのかべ”に阻まれてしまいフシギバナには届かない。
「“にほんばれ”!」
「げっ!?」
更にアオノはフシギバナに天候を変化させる“にほんばれ”を指示、これで日差しが強くなって炎タイプの技の威力が上がる。
当然、草タイプのフシギバナには何の恩恵も無い筈だが、フシギバナだからこそ“にほんばれ”は危険だと知っているソラタはガバイトが着地しているのを確認してすぐさま指示を出した。
「“あなをほる”だ!」
「“ソーラービーム”!」
ノーチャージで発射された草タイプの大技、“ソーラービーム”を間一髪、地面に潜った事で回避したガバイトは地面の中、フシギバナに迫った。
「あら、技4つ使っちゃったから“じしん”が使えないわ」
「だろうね! ガバイト!!」
「ガッバァ!!」
「バァナ!?」
フシギバナの真下から飛び出したガバイトの拳がクリーンヒット、大きく仰け反ったフシギバナは隙だらけだ。
「日差しが強くなってるから、コイツの威力も上がってる! “ほのおのキバ”!」
「ガバッ!」
「甘いわよ、地面に向けて“ソーラービーム”」
「はぁああっ!?」
仰け反った状態のフシギバナの背中の花から再度“ソーラービーム”が発射され地面に命中、その反動で飛び上がったフシギバナはガバイトの“ほのおのキバ”を回避した。
「うっそだろ……」
「惚けてちゃ駄目よソラタ、“パワーウィップ”!」
「バナバァナ! フッシー!!」
着地したフシギバナが勢いよく振り向きながら太い蔓のムチで薙ぎ払って来た。
背後から迫るムチに気付くのが遅れたガバイトは背中に痛恨の一撃を受けてしまい正面の木に叩き付けられてしまう。
「ガバイト!」
「ガッバァ……」
「はい、ガバイト戦闘不能ね」
「はぁ……負けたぁ」
現役を引退して10年以上だというのに、アオノの強さは健在だった。流石はポケモンリーグ・セキエイ大会ではカンナが、ジョウトリーグ・シロガネ大会ではワタルがいなければ優勝していたと言われていただけの事はある。
「母さん、毎回思うけどさ、まだまだ現役でトレーナーいけるんじゃない?」
「無理よぉ、10年以上もブランクがあるもの」
10年のブランクがあってこの強さなら、現役時代の母はどれだけ強かったのか、そしてその母に勝ったカンナとワタルの強さは如何ほどのものか、想像も出来ない。
「流石、“無冠の女帝”様だ」
「ちょ、ちょっとソラタ! その呼び名は禁止!! お、お母さん、自分からその呼び名を名乗ったこと無いんだからぁ」
“無冠の女帝”とは現役時代に引退間際のアオノに付けられた異名だ。
リーグ優勝こそ出来なかったが、それでも圧倒的な強さを誇った母に付けられたその異名は当時、新聞にまで取り上げられた程で、アオノは周囲が勝手に付けたその異名で呼ばれる事を酷く恥ずかしがっている。
「うぅ~……ソラタ、今日の夕飯はソラタの嫌いな人参ずくしにするからね!」
「うぇ!? ちょ、それは無し!!」
「知りませ~ん! 意地悪なソラタにはお仕置きが必要だもん!」
「だもんって、母さん歳考えろよ……」
「ソ・ラ・タ~?」
「な、何でもありません!!! いつまでもお若く美しいお母様!!!」
残念ながらソラタの頬が限界まで引っ張られる事になったのは、言うまでもない。女性に対して年齢で弄るのは御法度というのは、いつの時代、どんな世界でも共通なのだ。
次回は一気に時間が飛んでポケモンリーグ開催直前、ソラタはセキエイ高原に旅立ちます。