ポケットモンスター 転生したのは初めに旅立った子供 作:剣の舞姫
夜中の投稿なので、もう寝ます
ポケットモンスター
転生したのは初めに旅立った子供
第74話
「敗北の経験」
ジョウトリーグに出場する為、旅を続けるソラタとククリは見事キキョウジムを制覇してウイングバッジをゲット、今は次のジムがあるヒワダタウンを目指していた。
道中のポケモンセンターで一泊の手続きをした後、ククリが早速センター内に同じく泊っているトレーナーとバトルをする事になったのだ。
確かにキキョウジムを制覇して順調な旅をしているから次のヒワダジム目指して更に経験を積もうとやる気に満ちている様子だったので、ソラタとしても丁度良いと許可した形だ。
「オタチ! “でんこうせっか”!」
「ホーホー! かわして“さいみんじゅつ”!!」
現在、ポケモンセンターのバトルフィールドではククリが二人目のトレーナーとバトルをしており、少年のオタチとククリのホーホーが中央で戦っている。
「オタチ!?」
「今だよ! “ねんりき”!!」
ホーホーの“さいみんじゅつ”でオタチが眠ってしまった隙に“ねんりき”が炸裂、オタチは少年の足元まで吹き飛ばされて目を回してしまった。
「やった! 勝った!!」
「ホー!」
本当にククリの成長速度は早い。相手を眠らせるというのは新人トレーナーだと無視する傾向があり、とにかく攻撃一辺倒になりやすいのだが、ククリはしっかり補助技を駆使して戦えるようになっている。
「凄いわね、あの子」
「あれ、ジョーイさん?」
センターの窓越しにフィールドで戦うククリを眺めていると、隣にジョーイさんが来た。どうやら今の時間は少しだけ手が空いているらしく、フィールドでバトルをしているトレーナーの様子を眺めに来たらしい。
「見た所、まだ新人トレーナーみたいだけど、基礎はしっかり押さえている。その上で粗削りながら応用も使い始めているのね……あなたが教えているの?」
「ええ、一応は……ただ、一つ懸念があって」
「少しばかり自信過剰になっているところ、かしら」
「わかりますか」
「勿論よ。これでもジム戦突破したばかりの新人を多く見て来たもの」
なるほど、それは納得だ。
「でも、それだけじゃないわね。彼女、あなたの教えに忠実に戦っているんじゃない?」
「バレますよね」
「だとすると、多分今まで負けた事無いんじゃないかしら?」
「そうなんです。だから、そろそろとは思っているんですが……」
このポケモンセンターに泊っているトレーナーでククリに勝てそうなトレーナーはいる。実際、今もフィールドの傍らでククリのバトルを観察している少女がいるのだから。
「彼女、そろそろ動きますね」
「そうね……折れたらどうするの?」
「あいつ次第です」
「あら、厳しい師匠ですこと」
バトルフィールドではククリがホーホーをモンスターボールに戻して次のトレーナーを探している所だった。
ここまで順調で、もっともっとバトルをして勝ち星を上げて成長したい。ソラタの教えでどんどん強くなる自分に酔っている事に気付かず只管バトルと勝利の事ばかり考えてしまうようになっている事に、彼女は気付いていないようだ。
そんなククリの下に先ほどからフィールドを眺めていた少女が近寄って来る。年齢はククリと変わらないくらいか、赤のミニスカートと白いトレーナー姿に紫がかった黒髪を背中の中ほどまで伸ばした少女。
「君、やるやんな」
「えっと……」
「ああ、ウチ? ウチはコガネシティのメグリ、君と同じ新米トレーナーや」
「わ、私はワカバタウンのククリって言います」
コガネ弁の少女、名はメグリというらしく、ククリと同じ新人トレーナーだ。しかもククリと同じくジムバッジ1個、インセクトバッジを見せてくれた。
「どや? ウチと一戦せぇへん? ポケモン1匹だけのバトル」
「うん! やろう!」
「ほな、トレーナーゾーン入るで」
早速バトルをする事になり、二人がトレーナーゾーンに入った所でジョーイさんと別れたソラタがフィールドの脇に来た。
どうやらこの試合は近くで観察する事にしたらしく、厳しい表情を浮かべているのが気になるが、師匠に見られているからと、ククリは気合を入れる。
「行くよ、ナエトル!」
「頼むで、ムウマ!」
ククリはナエトル、メグリはムウマだった。相性は可もなく不可もなくといった所なので、勝負の分かれ目はトレーナーの腕次第といったところか。
「ナエトル、早速いくよ! “やどりぎのタネ”!」
「そうきたか! ほなムウマ、“ちょうはつ”や!」
あ、これはマズイ。そう思ったのはソラタだけだった。まさか新人トレーナーで“ちょうはつ”の利点を理解しているトレーナーがいるとは思わなかったが、実に上手い手だと感心してしまう。
事実、“やどりぎのタネ”を発射しようとしたナエトルは“ちょうはつ”を受けてしまってタネを放てなくなったのだから。
「ナエトル、どうしたの!?」
「ナ、ナエェ」
「なんや、“ちょうはつ”知らんのか? “ちょうはつ”を受けたポケモンは攻撃技しか使えんくなるんや」
「そ、それって……」
「“やどりぎのタネ”は使えんいうことやな」
同じ新人同士では本来なら使い道が無かった技だろう。新人にありがちな攻撃一辺倒の育て方をしている相手には不要の技だが、変化技を駆使する相手には絶大な効力を持つ。
「な、ならナエトル! “タネばくだん”!!」
「ムウマ! “スキルスワップ”や!」
ムウマの身体が光り、ナエトルにぶつかった瞬間、ナエトルから何かがムウマに吸い込まれた。
すると先ほどまで浮いていたムウマが地面に降りて、逆に“タネばくだん”を使おうと口を開いたナエトルの身体がふわっと宙に浮き始めたではないか。
「ナ、ナエェエェェ!?」
「何が起きたの!?」
「ええでムウマ! そのまま“シャドーボール”!」
「ムゥウウマッ!」
宙に浮いてバランスを崩してしまい“タネばくだん”をキャンセルしてしまった隙にムウマの“シャドーボール”がナエトルを襲った。
「ナエトル!?」
渾身の一撃を受けたナエトルが吹き飛ばされ慌ててククリがキャッチすると、ナエトルはククリの腕の中で目を回してしまっていた。
「ナエトル戦闘不能、ムウマの勝ちだ」
勝敗は明らか。ソラタがそう宣言するとメグリが驚いた顔をしたものの、直ぐに頭を下げてムウマを抱き締める。
ソラタはナエトルを抱いたまま俯くククリに目を向けて、立ち尽くす彼女の所に近づいた。
「ま、負けちゃいました……師匠、私……」
「そうだな、教えた戦術を封じられて成す術無く負けた」
初手からいきなり“やどりぎのタネ”を封じられ、更に“スキルスワップ”によってムウマの特性“ふゆう”を押し付けられてしまったことで地に足が付かなくなったナエトルは実に良い的だっただろう。
「それで、初めて負けたわけだが……何が悪かったのか、理解出来ているか?」
「えっと……わかりません」
溜息を一つ、しかし仕方がないかとも思う。ソラタの教えを忠実に守って勝ち続けたからこそ、それを封じられて負けてしまった事でショックを受けているところに敗因を問われても理解が追い付いていないのだから判る筈もない。
「今日一晩、考えてみろ。明日、また同じ問いをする」
「え? あの、教えてくれないんですか?」
「甘えるな。負けたから次の戦術を懇切丁寧に教えて貰えると思ったのなら、俺はお前の師匠を辞める事になる」
「そ、そんな……」
「……だからこそ、ちゃんと考えろ。一晩待ってやるって言っているんだ、考える時間は十分ある」
それだけ言い残してソラタはポケモンセンターに入って行った。残されたククリは呆然として、それで頭の中がグルグルと考えを巡らせようとしているのに、負けたショックからか考えが纏まらず混乱してしまっている。
「厳しい師匠やなぁ」
「あ……」
「あれ、セキエイ大会ベスト4のソラタ選手やろ? なんや、あんたソラタ選手の弟子なん?」
「はい……」
見かねたのかメグリが声を掛けて来た。自分を負かした相手、正直複雑だけど今は少しでも負けたヒントが欲しい。
「あの、メグリさん」
「ああ、さん付けやめぇや! 同い年なんやし」
「じゃあ、メグリちゃん?」
「それでええ、ウチもククリって呼ばせて貰うで」
フィールドでは邪魔になると二人で近くのベンチに座った。ナエトルは先ほど目を覚ましてククリの腕の中で変わらずのんびり、ムウマもメグリに抱っこされて満足そうな表情をしている。
「ほんで、何がわからんの?」
「その……負けた理由が、全く」
「はぁ~……そんなん簡単やん、“やどりぎのタネ”封じられて自分、焦ってたやろ?」
「それは、師匠に教わった戦術が初手から使えなくなったから」
「それや!」
ビシッとメグリがククリを指さした。
「そ、それ?」
「もしかしてククリ、今までトレーナーとの戦いは全部ソラタ選手に教わった事ばかりで戦って勝ってきたんとちゃうん?」
「それは勿論、師匠に教わった事だから」
「せやな、そら大切な事やわ……せやけど、トレーナーとして成長したいんやったら、それだけやとアカン」
そう言われても、ククリには何が悪いのか理解出来ない。師匠から教わった事を守って戦って、今まで勝ててたのに、何故それが駄目なのか。
「それやと自分、教わってへん状況に出くわしたらなんも出来へんやろ? さっきのバトルも、それが原因で負けたんや」
「それ、は……」
「ククリ、自分ちゃんと自分で戦術考えたり状況に応じて自分で臨機応変に戦おうとか、考えたことあるか?」
そう問われて、ククリは今までのバトルを思い返してみた。そして、ついこの前の事なのに、忘れていた事を思い出す。
キキョウジムで、ホーホーとポッポのバトル、あの時は確かに必死に考えてバトルをしていた筈だ。
だけど、その後のチョンチーとピジョンのバトルでソラタの戦術が見事に的中したから忘れてしまっていた。
「その様子やと、あるにはあるけど忘れとったやろ」
「うん……」
「あんな? 師匠の教えを守るんはええ事や。弟子やし師匠の教えを守るんは当然の事や。せやけど、全部が全部忠実に守るんは違う。ウチにも師匠がおるんやけどな? マツバさん言うて、メッチャ厳しい師匠やねんけど、ちゃんと戦術とか色々教えてくれたわ……でもな、教え守りすぎて勝てへんくなって、それからは自分で色々考えるようにしたんや」
師匠の教えを守るだけでは成長しない。いや、成長が止まってしまうのだ。師匠の教えが通用しなくなって負けた時、初めて殻を破る。その時にこそ大きな成長を遂げるのだ。
「せやから、ククリも自分で考えなアカンよ。師匠におんぶに抱っこやったら自分、絶対に成長せぇへん……せっかく同い年、同じ新人トレーナーなんやし、ライバルなりたいやん」
「メグリちゃん……」
「せやから約束や、今度会った時はもっと凄いバトルできるように成長するんや。ウチも成長するから、ククリももっともっと強くなるんやで?」
「……うん!」
それからベンチで暫く談笑する二人を眺めていたジョーイさんは少ししてその場を離れて読書スペースで読書をするソラタの横に座った。
「大丈夫そうよ?」
「そうですか」
翌朝、回復を終えたポケモン達を受け取ったソラタはククリとロビーで向かい合っていた。
昨日の、答えを聞く為に。
「私、師匠の教えを守る事ばかりで、自分で考える事を放棄してました……キキョウジムで、ポッポと戦った時はちゃんと出来てたのに」
「……そうだな。確かに俺もお前には教えを守る事だけを考えては駄目だと言わなかったが、自分で気付いて欲しかった。どうやら、あの子とバトルしたのは正解だったようだな」
「メグリちゃんに言われました。次はもっと凄いバトルが出来るようになろうって、ライバルになりたいって」
「そうか……良い出会いをしたな」
「はい!」
ソラタとシズホのように、ククリもメグリとライバルになれるだろう。そして、ライバルの存在は自然と自分を高めてくれる。昨日の出会いは、間違いなくククリにとって良い出会いだった。
「さあ、行くぞ。もうそろそろリザフィックバレーだ」
「了解です!」
敗北を知り、一つ成長を遂げたククリは今日もソラタと共に歩き出す。いつか大きな舞台でメグリとバトルする日が来る事を願いながら、もっともっと成長するのだと、強くなるのだと心に誓いながら。
次回はリザフィックバレー、ジョウトに来てから出番の無かったリザードンがやっと出せます。