ポケットモンスター 転生したのは初めに旅立った子供 作:剣の舞姫
ポケモンの死亡描写がありますので、要注意。
ポケットモンスター
転生したのは初めに旅立った子供
第77話
「デルビル兄妹とポケモンの死」
ジョウトリーグに出場する為、旅を続けるソラタとククリは、二つ目のジムがあるヒワダタウンを目指していた。
道中、リザフィックバレーで新たな力を得たソラタとリザードンは順調に実力を伸ばしていて、旅も問題なく進んでいるかに思われたのだが。
順調に進んでいるからこそ、何が切っ掛けで立ち止まる事になるのかは誰にも予想出来ないもので、ソラタとククリにも何かが迫ろうとしている。
「師匠~、今日も野宿ですか?」
「そうなるな……次のポケモンセンターがある場所まで今のペースで行けば……2日は掛かるかな」
この日、ソラタとククリはヒワダタウンへの道中にある森の中を歩いていた。ポケモンセンターはまだ暫く先にあるので昨日一昨日と野宿をしていたが、今日と明日も野宿になる予定だ。
幸い、食料は大量に買い込んであるし、“きずぐすり”なども沢山買ってある為、しばらくは持つものの、慣れているソラタはまだしもククリには何日も野宿というのは精神的に疲れるのだろう。
「そうだ! いっそリザードンに乗って飛ぶというのは……」
「リザードンなら事情があって前のポケモンセンターに寄った時にオーキド研究所に送ったから居ないぞ」
「ええ!?」
現在のソラタの手持ちはニンフィア、デンヂムシ、ゾロア、ラルトスだ。次のポケモンセンターに着くまでリザードンは手持ちに居ない。
「ああ、そういえば忘れる所だった」
ふとやる事があったのを思い出したソラタはモンスターボールを取り出し、中に入っていたラルトスを出すと、そのまま抱っこをする。
「ラル!」
「師匠?」
「いや、ラルトスのリハビリも兼ねてるんだよ……前に話したよな?」
「はい。確か師匠のラルトスはトレーナーに捨てられたポケモンだって」
ソラタには懐いて信頼してくれているが、やはり心の傷は深い。だから手持ちに入れている時はこうして定期的に抱っこしてやる事でラルトスの心を癒しているのだ。
「ラル?」
すると、抱っこされてご満悦という様子だったラルトスが何かに気付いたようで茂みの方に顔を向けた。
つられてソラタとククリもそちらを向けば、茂みと木々が見えるだけで特に変わった様子は無い。
「いや、エスパータイプのラルトスが何かに気付いたのなら……」
絶対に何かある筈だ。そう考えて茂みの方へ行き、かき分けながら奥へ進むと……。
「わぅぅ」
「グルルルル」
大きな木の根本にある窪みに2匹のポケモンがいた。黒い犬のようなフォルムのそのポケモンはダークポケモンのデルビルだ。
2匹のデルビルは兄妹らしく、♂のデルビルがこちらを威嚇して♀のデルビルが怯えた表情でこちらを見ている。
「デルビル……しかもどっちも傷だらけで、それに少し痩せてるな」
「か、可哀そう……」
念のため、ニンフィアを出してラルトスをニンフィアの背中に乗せた後、リュックから出した“キズぐすり”とポケモンフーズを手にゆっくり近づく。
「ガルッ! グルルルルル!!!」
案の定、♂のデルビルが激しく威嚇してくるも、飛び掛かってくる様子は無い。いや、痩せているのを見るに飛び掛かるだけの体力が残っていない可能性もあるのか。
慎重に傍まで行き、膝を付いて2匹のデルビルの前にしゃがむと、まずはポケモンフーズを2匹の前に置いた。
「大丈夫、怖がらなくて良い……美味いぞ」
試しにニンフィアとラルトスにも同じフーズを渡せば、ニンフィアもラルトスも美味しそうに食べ始めたので、それを見たデルビルも警戒しながら匂いを嗅いで、ゆっくり食べ始める。
「少し染みるけど、我慢してくれな」
食べている間に先ずは♂のデルビルに“きずぐすり”を使用、続いて♀のデルビルにも使用して、目立つ傷には包帯を巻いていった。
「これでよし……それにしても、何があったんだ?」
「デル……」
「キューン……」
ゆっくりとポケモンフーズを食べ終えたデルビル達は顔を見合わせ、すると♀の方のデルビルが起き上がってソラタの服の袖を噛んで引っ張ろうとしてきた。
「お、おいおい……どうした?」
「デル……デル!」
付いてきて欲しいのだろうか。♂のデルビルもソラタの服の袖を引っ張ってきたので、只事ではないのは何となく察した。
ククリにラルトスを抱っこさせて全員でデルビルに案内されるように森の中に入り、少し歩いているとソラタは嫌な匂いを感じ取る。
「何だろう……鉄っぽい匂い……これは、血の匂いか?」
「え、師匠……血の匂いって」
「嫌な予感がする」
段々と匂いが濃くなってきた。そして、ついに目的地であろう切り立った崖の窪みにデルビル達が駆けて行き、そこに居た何かの下で座り込んだ。
追いかけたソラタとククリは、それに気が付くと思わず足を止めて表情を歪めてしまう。そこに居たのは……。
「ヘルガー……」
「ひどい……っ!」
♀のヘルガーだった。しかも全身傷だらけで黒ずんだ血溜りの中で倒れており、呼吸も浅く近くに来たソラタ達の姿を見ても起き上がろうとする様子も無い。
「師匠!」
「わかってる!!」
急いでヘルガーの所へ走り寄り、リュックから“すごいキズぐすり”を取り出してヘルガーの傷に吹きかけてやったのだが、ヘルガーは染みるなどの痛みによる反応すら示さなかった。
「マズイぞ……これは薬で治せるレベルを越えてる!」
「そんな!? じゃ、じゃあ急いでポケモンセンターに連れて行かないと!!」
「無理だ……ここからポケモンセンターには、どんなに急いでも1日半以上は掛かる。手持ちにリザードンが居ないから飛んで行く事も出来ない」
「そ、それじゃあどうしたら……」
「今の俺達に出来る事は……無い」
残念な事にラルトスもテレポートを覚えていないのでヘルガーをポケモンセンターへ連れて行く方法が無い。
今にも命尽きそうなヘルガーに、ソラタ達がしてやれる事は……何も無かった。
「キューン……」
不安そうにソラタとククリを見上げ悲し気な声を漏らす♀のデルビルを、ソラタは抱き締めた。きっと、この子たちはヘルガーの子供達なのだろう、母のピンチにソラタなら助けて貰えるのではないかと、そう期待してくれた筈なのに……ソラタには何も出来ない事が悔しかった。
「ヘル……」
すると、ずっと目を閉じていたヘルガーが薄らと瞼を開けてソラタに視線を向けている事に気付いた。
ソラタは♀のデルビルを抱きかかえながらヘルガーの顔の前に座ると、ククリも同じように♂のデルビルを抱えて横に座る。
「ヘルガー……すまん、俺の持ってる道具でお前を助けられる物が無い。近くのポケモンセンターに運ぶには、時間が足りない……お前を、助けてやれない」
「ごめんね、ごめんねヘルガー……っ!」
「……ヘルゥ」
少しだけ、ヘルガーが力無く首を横に振った気がした。それからヘルガーの視線は己の息子と娘へ向けられ、そしてソラタとククリへ向いて何かを懇願するように見つめてくる。
「……ああ、わかった。お前の息子と娘は、俺達が責任持って保護するよ……だから、安心してくれ」
「ヘル……」
ソラタの言葉を聞いて安心したのか、ヘルガーの瞼がゆっくり閉じて行き、やがて浅かった呼吸が完全に止まった。
「キューン! キューン!」
「ワオオオオン!」
息を引き取ったヘルガーの亡骸に縋りついて泣くデルビル兄妹の横でソラタは申し訳ないと思いながらもヘルガーの身体の傷を観察し始めた。
この森にヘルガーをここまで傷つけて死に至らしめる事が出来るようなポケモンは生息していなかった筈、ならば何がヘルガーをここまで傷つけたのか。
それを調べる為にヘルガーの傷を調べてみたのだが、背中にある傷を見てソラタの表情が変わる。
「師匠……?」
涙を流しながらデルビルを撫でていたククリがソラタの表情の変化に気付いた。そして雰囲気からソラタが何かに怒っている事にも。
「ヘルガー……すまん、少しだけ失礼するぞ」
そう言ってソラタはリュックから長いピンセットを取り出してヘルガーの背中の傷……まるで銃創のような穴にピンセットを差し込む。
しばらく何かを探ると先端に反応を感じ取り、慎重に掴んでヘルガーの体内から取り出した。
「師匠……それ、何ですか?」
「……聞いた事がある。ポケモンハンターやロケット団なんかの犯罪組織がポケモンを追い詰めたり、殺したりする際に使う違法な銃弾があるって」
「違法な銃弾ですか?」
「ああ、ポケモンにとって毒となる特殊な鉱石を弾頭に使った銃弾だって話だ……これは、その弾頭の特徴に一致する」
紫色の弾頭、それがポケモンにとっての毒となる鉱石を使った弾頭の特徴だ。そして、ヘルガーの体内から取り出した弾頭の色は……紫色。
「……っ!」
怒りに震える拳が、思わず横にあった木の幹を殴りつけてしまった。やり場のない怒りが、それだけで発散される訳ではないが、そうでもしなければ証拠となる弾頭を地面に叩き付けてやりたくなってしまう。
「ククリ……ヘルガーの遺体を埋めて墓を作ったら、直ぐに出発するぞ」
「はい」
「ポケモンセンターから通報して、調査して貰わないと」
その後、ソラタとククリはポケモン達の手を借りて穴を掘り、ヘルガーの亡骸を埋めて墓を作ると、花を備えて手を合わせる。
それから、ずっと涙を流しながら母との別れを惜しんでいたデルビル兄妹を連れて次のポケモンセンターへ向けて歩き出すのだった。
次回はデルビル兄妹と共にポケモンセンター到着。