トレセン学園は今日も鬱世に踊る   作:おおおユウゴ

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思わせぶりなのは仕様です。


序幕──とある少年のモノローグ

 

 

 

 トレセン学園に通っているというと、それを聞いた奴らの反応というものが大半“うらやましい”の一言に集約されるのは恐らくどころか、大概にして俺が異性というものとほとんど──そのウマ娘とやらとも──ほとんどかかわりをもっていないからであるからに違いないと思われる。

 

 そうでなかったならば、誰か一人は必ず俺に対して「大変だね」だの、「大丈夫?」といった気遣いの言葉をかけてくれるに違いないからである。同性のことをよく知るゆえに嫌厭(けんえん)するのは女子特有の文化ではないか、ならば女史諸氏はご理解くださるだろう──と女嫌いな俺はわざと声高々に放言する。それゆえにいままで俺が心優しき、俺のことをよく理解している配慮された言葉を頂戴したことは一度たりともないのであるが。

 

 だが思い返してみても俺自身にはなにか特別な出自があるわけでも、辺鄙な育ち方をしたわけでもなければ、必然ながら如何(いかん)ともしがたい宿命やらジンクスといった因縁に囚われて生きてきたというわけでもない。

 

 俺は単なる一般人、あるいは凡庸なる一介の男子として生を受け、自分なりにすくすくと成長してきたわけであるし、これからもそれは変わらないはずだったのだ。

 

 その点でいうのなら、()()()()()()()というべきなのかもしれない。

 

 俺がトレセン学園──日本ウマ娘トレーニングセンター学園というウマ娘たちが国民的スポーツたるトゥインクル・シリーズでの栄光を勝ち取らんとするために日々を切磋琢磨する舞台にして、舞台回しでもある──そんなエリートたちの集う場所にいるのは、()()()()()なのだ。

 

 どこをどうみても、どうとってみても平凡でしかなく、それ故に凡庸であるはずの一介の男子。

 

 それが()()()()()()()ゆえに、俺という少年はこのトレセン学園という場所に居ついている。

 

 

 そのはずだった。

 

 そうであったのならば、無知ゆえのあの安寧たる日々が続いていたのならば、どんなによかったことだろう?

 

 とっとと逃げ出せばよかったのだ。

 

 あの日、トレセン学園においてやらかした自分を呪いたい。悪目立ちこそ俺の本懐とのたもうて、自分では大立ち回りをしてみせたつもりの俺を。自分よりも上位の存在たるウマ娘を救い、あるいは下すことができたと喜んでいた自分を。

 

 そうして俺は見事目をつけられた。

 

 あの面妖な理事長や、底知れないその秘書に。

 トレーナーという人間の皮を被った悪魔の手先に!!!

 

 

 

 今日(こんにち)、俺の「過ごしている」と誇りある人間たる存在なのであればいうべき青春たる日々は、実のところ「消費されている」に過ぎない。あまりにも未来は茫漠としているし、だからといって過去には碌な事柄がなく、また積み上げられてきたものもない。

 

 生きるということが半ば義務とされているこの世の中の(ことわり)にしたがって、かどを立てることなく折り合いをつけて生きている──たてる()()がないともいう。なにせ自分は人であるから、ウマ娘たちのように立てられる耳やらつのをもたないのだ──。だがそう言ってみたと思えば、人らしく二足歩行で独立独歩することもなく、尻ウマに乗るのである。

 

 

 

  

要は自分というものがないのである。

 

  

自分を、なくしてしまったのである。

 

  

魅惑的で、蠱惑的で、狂騒的なこの学園に。

 

 

 

 

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