ウマ娘と腐れ目トレーナーの日常   作:緑茶P

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_(:3」∠)_さあ、ゆるっとこうしーん


閑話『激闘! 恐怖の鶏闘争!!』

 

「………なー、ろびんー。ゴルシちゃん練習飽きた~」

 

「「「「――――」」」」

 

ソレはチーム“コルヴィス”が本格的に始動してしばし経ち、晴れ渡った絶好の練習日和の事。

 

 メンバーの誰も彼もが死にそうな顔でばて切っている中、その声は妙に響き思わず息を呑んでその声の主に視線を向けて沈黙が降り立った。

 

 何故かトレーナーの事を頑なに“ロビン”と呼ぶ葦毛の変ウマ娘“ゴールドシップ”はさっきまで振り回していたバーベルを無造作に放り投げ、気だるげにその場に座り込んで動かない。なんならばそのまま寝転んで昼寝までしそうな雰囲気すらある。

 

 それは、この厳しいレースの世界ではいわゆる“タブー”というモノである事は言うまでもない。

 

 練習が辛くくじける事は合っても、どんなにサボりたいと思っても、自らを高めるために組まれたメニューを“飽きた”なんてトレーナーの前で吐き捨てるのは契約破棄をされたってなんの文句も言えない最大の侮辱。

 

 更に言えば、付き合いは短くとも全員の限界を完全に把握してメニューを組んでいる自分たちのトレーナー“比企谷”という男は偏執なほどなまでの徹底管理主義者だと嫌でも思い知らされている。

 

 そんな男の前で起こした暴挙に、彼の冷たい視線がむいた後にどうなるのか分からず、無言でその沙汰を誰もが待った―――のだが。

 

「…………まぁ、そろそろごね始めるころだとは思ってた」

 

 意外にも、呆れたように溜息一つで座り込んだゴルシの行動を許容した事に目を剥いた。

 

「ちょ、ちょっと! まさかそれだけ!?」

 

「………それだけって――何があると思ってたんだよ」

 

 釈然としなくて噛みついた私“ダイワスカーレット”はそう問い返されて、逆に返す言葉を見失ってしまった。

 

「い、いや、いつものアンタなら弱音とか文句とか言えばスグに“なら辞めろ”とか、“明日から来なくていい”とか言って脅してくるじゃないっ!」

 

 そ、そう。そうだ! いつもの拷問ギリギリ手前の練習に私がキレて反抗してくると冷たい目で言い、切り捨てようとしてくる最低な男。

 だが、それでも耐えてきたのは、コイツの指導を受けてから間違いなく自分たちの記録が爆発的に伸びていたからだ。

 

 なのに、ゴールドシップが同じことをした時はお咎めなしだというのは、どうしたって飲み込むことが出来ない。

 

「……そりゃ、練習に対する弱音なら聞く耳も持たないけどな。ゴルシは“飽きた”と言っただけで“やる気がない”といった訳でもない。ましてや、他の基礎全てが出来てる奴が言うから許される言葉ってのは確かにこの世にあんだよ。――――まぁ、お前らのメンタル的にもそろそろメニューの切り替え時かとも思ってたから丁度いい時期だったのもある」

 

「―――っ、なによ、ソレ」

 

「まぁまぁ、この人の基準が良く分からないのはいつもの事。それに、その取り乱し方は一流には程遠いですわ」

 

 頭の中にある何かがはち切れた音が聞こえ、無意識のままトレーナーに掴みかかろうとする私の肩を抑え込んだのは緩やかな栗毛をもつ“キング”先輩だった。

 

「とはいえ、あまり無用に煽るのも二流のやる事。私のトレーナーならもっと一流に相応しい説明をなさい」

 

「お前は揉め事を起こさなければ気が済まないのか、たわけめ」

 

「それで、なにするの? ゴルシじゃないけど僕もマンネリ気味だったから新メニューは大歓迎だよ!!」

 

 各自トレーニングで散らばっていた皆が集まって来て私とアイツの諍いを取り持ってくれたのもあり、私は伸ばしかけた手を渋々下ろして一歩下がる。

 

 納得も、ムカつきも全く収まってはいないが先輩たちの顔を潰すのも不味いし、トレーニング内容が目新しいモノになるという事自体は吉報である。―――苛立ちは、収まらないけれども、だ。

 

「ふむ、まあ、手始めに――――鶏でも捕まえて貰うか」

 

「「「「「は?」」」」」

 

「お、なーんだっ! 面白そうなトレーニング知ってんじゃねーかよ!!」

 

 私達の間の抜けた声と、キチガイの歓喜する声が青空に響いたのであった。

 

 

 

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 囲まれた金網の中に作られた自然を模した丸太や草、木々。それらが草木特有の湿った青臭さを薫らせ、気を抜けば心が安らいでしまいそうな中で、僕は耳を澄まし、感覚を極限まで研ぎ澄まして周囲を警戒する。

 

 虫の鳴声、風の音、地面の熱。全てに注意を払って10m四方のこの“バトルアリーナ”で勝ち残るための手がかりを探し――――膨れ上がった殺気に反応して全力でステップを駆けだした。

 

 一撃、二撃、三、四と続いて避けきった先の草むらに忍んでいた刺客からの一撃を紙一重で交わし、その鋭く砥がれた禍々しい爪を持つ“彼”をようやく捕えることが出来る。

 

 白い翼を勇猛に羽ばたかせ産毛をまき散らし、尖った嘴は今なお私を狙って鋭く突きだされ激しい抵抗を試みる。そして、何よりもその瞳に宿る敵意とカンカンに聳え立ったトサカが“自分たちの自由”を奪う仇敵を睨みつける。

 

 そう、彼らの名は“鶏”。

 

 古来より人に飼いならされた畜獣の一種。

 

 だが、捕えられてなお戦意を衰えさせないその姿と、仲間を取り戻さんと私を囲んで距離を狭めてくる彼らはテレビなんかで見慣れた飼いならされたモノではなく―――正に『野生』そのもの。

 

 その闘争心の熱が―――私の中に眠る“獣”を呼び起こす。

 

「へへっ、絶対無敵のテイオーの前でみんなちょっと頭が高い―――ぞっとぉっぉお!!」

 

 鶏とウマ娘。

 

 生態系の上下を巡って、譲れない戦いが始まった。

 

 

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「ヒッキー、なにこれ?」

 

「鶏トレーニング。………ロッ〇ーって映画知ってる?」

 

「……ヒッキーって頭いいのに、すんごい馬鹿な時があるよね」

 

 夕方を過ぎても帰ってこないのを心配して迎えに来た由比ヶ浜がお世話になっている養鶏場に来た時に呆れたように白い目で見てくるが、このトレーニング侮る事なかれである。

 

 始めはルナと見た映画からおふざけで始めた特訓であったのだが、オーナーの意向で自然に近い環境で放牧している鶏たちは野性味、凶暴性、知能が無駄に高かったために何なら最初期はルナが捕まえきれずに負ける事があったくらいだ。

 

 そこから始まった鶏との攻防戦は激化と緻密さが増していき一種のデスクリーチャーに進化してしまったのがココの鶏たち。

 一番ヤバいのは最大の群れを治める“ボス”が入っているゴルシの柵で、もうアレは鶏の軍隊だ。素人は命の保証がない。

 

 そんなこのトレーニング。最初は気晴らし程度に思っていたのだが、危険な動物との戦闘のせいか瞬発やら反射、ここ一番での気合の入り方が目に見える程に向上していったので大変に重宝している。

 

 練習嫌いのゴルシはともかく、他の連中も最近は精神がすり減り気味だったので、このほかにも〇ッキーやらジャッキーやら、冗談でやってみて予想外の成果を上げたトレーニングをしばらく重点的にやっていこう。

 

 そうすれば、向こうからいつものメニューにしてくれと懇願してくる事だろう。

 

 なにせ、フィクションの世界から持ってきたものなのでマジでキツイ。

 

 体は壊さないモノを徹底的に選んではいるが、なんせキツイ。

 

 これ考え付いて、ウマ娘にやらせた奴はマジで頭おかしいに違いない。ガハハハッ、俺の事だな。どうもお騒がせしております。

 

 由比ヶ浜からの冷たい視線を受けながら俺はゴルシがボスの首筋に噛みついて勝利の雄たけびを上げるのをぼんやりと紫煙を吹かしながら見守ったのであった、とさ。

 

 

 

 

 

=蛇足=

 

 

「ふっざけんじゃないわよっ! なーにが“いっそのこと機械なら良かった…”よ!! 道具みたいに使い倒すようなトレーニング繰り返したと思えば、今度はあんなふざけたトレーニングさせるとか頭がオカシイのよアイツはっ!!」

 

「あれで教室では優等生キャラとかすげえよな、実際」

 

「クラスメイトとか先生が見たら卒倒しそうだねー」

 

「とはいえ、トレーニング強度で言えばいつもの倍はヘトヘトですから効果はありそうな雰囲気ですわね……」

 

「ほれ、たわけ共、ストレスは分かるがとりあえず食堂が閉まるまでに帰るぞ。コレで夕食抜きというのは冗談抜きで泣く羽目になる。―――あと、スカーレット。バケツを蹴っていいのは1日5回までと決めただろう」

 

 

 ぞろぞろ、ガヤガヤと夜もふけきった寮に帰っていく面子。そんな彼女達の会話に聞き耳を立てる不穏な影が一つ。

 

 

 

???「――――対象の好みは“機械のようなウマ娘”と登録、認証しました。作戦の成功確率が大幅に上昇したことを確認。速やかに実行に移ります」

 

 

 

 感情の籠らない声が、平たんに月夜に響いた。

 




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