ウマ娘と腐れ目トレーナーの日常   作:緑茶P

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(/・ω・)/正妻と側室はこれくらいの関係でいて欲しい!!

さあ、きょうも脳みそ空っぽでいってみよー!!


('◇')ゞちなみに渋で先読みも出来ます→https://www.pixiv.net/dashboard/works/series


閑話 『正妻と愛人』

 いつか来る、と分かっている問題でも人間という奴はソレの解決に乗り出すのはのっぴくならない所まで進行してしまった時。

 そんな例に漏れず俺“比企谷 八幡”という愚か者も頭を抱えてうんうんと一人で寮の自室で頭を抱えているのであった。

 

 俺の目の前にずらりと並ぶ資料に契約書一式。そして、今度の選考会に参加するというウマ娘たちの名簿とプロフィール一覧。

 

 片方は先日、こじゃれたレストランで“引退”について示唆し、今後の展望を熱く語ってくれた我らが皇帝にして、愛バである“シンボリルドルフ”とのトレーナー契約打ち切りの書類。もう片方は、唯一の相方が引退する以上は次のウマ娘をスカウトしなければならないための下調べである。

 

 まあ、ルナの件についてはしょうがない。

 

 どっちにしろ、後一年でやってきた未来であったし、彼女の夢を想うのならばソレは最良の選択肢とタイミングであったのは間違いないのだから。

 

 “皇帝”として彼女が打ち立てた空前絶後の7冠という偉業。この実績があれば文句なくマスターズに殴り込み、世界を股にかけて活躍することが出来る。だが、その道を選べば彼女の舞台は世界へと移り拠点も自然とそちらになってしまう。

 

 いまだ国内の革命すら十全に行えていない現状ではソレは少し時期尚早。ならば、このままこちらの運営に回って国内を掌握していく必要がある。他の娘への配慮もあるのだろうけど、理路整然とした計画は確かにと俺も頷かざる得ないモノだった。

 

 そして、頷いた以上は俺も認めなければならなかった。

 

 もう、自分が彼女を支える役目は果たし切ってしまったのだ、と。

 

 頭では分かっていても、彼女に引っ張って貰っただけの現状とはいえはっきりと言われるまでソレを見て見ぬふりをしてきたのだから我ながら往生際が悪い。いや、未練がましいといった方が正しいのだろうけれども。

 

 そんな惰弱な自分に苦笑を一つ漏らして、最後の書類にサインをして全ての準備を整えた。後は、ルナにサインを貰えば無事手続き完了となる。

 

 よくトレーナーの間では悪ふざけで“離婚届け”なんて言われるこの手続きで話あるがなるほど、年がら年じゅう付き添って苦楽を共にした相方との訣別は体験してみるとふざけて笑いに変えないと少々応えるモノがある。

 

 そんな取り留めもない思考に苦笑いを漏らしつつ、気を取り直してもう片方の選考会の資料に向き直る。

 

 年に数度行われるこの選考会はトレーナーとマッチングすることが出来ずに未だデビュー出来ていないウマ娘たちが実力を示し、スカウトなり交渉を持ちかける非常に大切な催しである。

 

 なにせ、トレーナーと組まなければレースに出ることも出来ず、トレーニングすら個人にあったモノではなく教官達から課される大人数用の出来合いのメニューを繰り返す事しか出来ないのでココで有力なトレーナーと巡り合う事はある意味ではレースで結果を残すよりも重要なくらいだ。

 

 もちろん、ソレはトレーナーだって同じことで優秀なウマ娘と組めれば実績となり、次により繋がるのだから芽の無い子に同情なんかでは時間も割くことはできない。ましてや、実績も経験も無ければ複数の担当になれず、最高峰のトレーナーの証である“チーム”を持つことも出来ない。

 

 だから、まあ、わりかしに色んな明暗が分かれる厳しいイベントなのだ。

 

 その代表例である“皇帝”を引き当てた俺が言うんだから間違いない。

 

 そんなこんなで、次の担当候補を探してページを捲ってはいるのだがどうにもピインと来る娘がいない。新人の頃からルナの走りを見てきたせいか、デビュー前の子でピインと来るわけもないのだが……うーむ、コレが噂の贅沢病という奴か。恐ろしい。

 

 だが、まあ、コレが駄目だとおまんま食い上げなので地道にこっちは探していこう。

 

 駄目なら駄目で貯金が尽きるまでぐうたら生活に戻ってもいい。ルナとの関りで生徒会から学園関係とここ数年は忙しすぎたのだから―――ボチボチ、やっていこう。

 

 

 そんな事を考えて久々の余暇に何をしようかと空想する俺が―――学園長にチーム“コルヴィス”を与えられプレッシャーと頭痛に悩まされる事になる日々が幕を開ける事になるのは数時間後の話であったとか、なかったとか。

 

 

――――――――――――

 

 

 

「エアグルーヴ、旦那の浮気が公認で認められてしまった……ぐすっ」

 

「浮気って……会長」

 

 ここは天下のトレセン学園、生徒会長室。歴史と伝統を誇る我が校の代表がおわします部屋だけあって内装は質素ながらも優美で重厚な設えが成されたその部屋に報告書を持ってきたのだが何度ノックをしても返事がないので一声かけてから覗いてみれば―――この世の終わりとでも言うかのように陰気な影を背負った会長こと“シンボリルドルフ”が机の上でメソメソと項垂れていた。

 

 いつもならば毅然と人の上に立つ彼女がこんな事になっていれば血相を変えて相談に乗るのだけれども、今回の件は学園中で話題になっているあの件についてだろう。

 私は漏れ出る溜息を押さえる事が出来ないまま、そっと扉を閉じて彼女の方へ歩み寄って声を掛けた。

 

「相方の昇進をそんな風に言うのは貴女位のモノですよ。というか、ソレが無ければ“離婚”だったのですから多少の事は多めに見るべきかと」

 

「……理屈ではそうとも。だが、私以外の担当を持たれるというのは実に嫌な気分なんだ」

 

 鬱々と机に“の”の字を書いて不貞腐れる彼女に呆れそうになるが――まあ、私とて一人の女でウマ娘。気持ちは分からんでもないというのが正直な所である。

 

 ウマ娘、というより私たち中央のトレセン学園に集まるモノは少なからず闘争心が激しい。負けるのは何よりも辛いし、所有物に別の匂いがつくのは不快だし、横取りなんてされた日には諺にもある通り後先考えずに足が出る事だろう。

 

 だが、さっきも言った通り今回の件はそこに目を瞑ってでも飲むしかない。出なければ、普通に契約解消して繋がりも残らない最悪の結果が待っているのだから。

 

「というか、今回の異例の対応は私達とアイツの積んできた地道な成果の功績でもあるのですから悲観すべき事ばかりでもないかと」

 

「………うん?」

 

 いつまでもそうされていても困るので、話題を少しでも明るい方に向けて気を取り直して頂くことにしよう。

 いつもより若干だけ幼い動作で首を傾げる彼女に視線を合わせて諭すように言葉を紡いでいく。

 

 そもそもが、長年に渡って実績を積んできたトレーナーでもない彼に理事長がチームを託したのだっていつもの気まぐれという訳ではない。彼は会長のトレーナーとなってからよくココに引っ張られて事務仕事や相談等を受けていた。

 

 始めの頃こそ、私も自分の男を侍らせて職務に取り組む彼女に反発を覚えなかった訳ではないが、意外な事にアイツは文句を言いつつも堅実にその仕事の補助をこなし、学園側との折衝を行う時はトレーナーや一般人側の意見を組み込むのに非常に貢献していた。

 

 そして―――トレーナーが付かず結果が伸び悩んで生徒会を訪れる多くのウマ娘達に的確な指導や改善点を与え続けていた。

 

 自分の実績にもならないウマ娘の指導なんて、損でしかない。

 

 担当以外のウマ娘なんて、燻ってくれていた方が都合がよい。

 

 そんな反吐が出るようなトレーナー達の大多数が唱える正論の果てに何人の子が希望を持つことも出来ずに無茶や諦めを重ねてこの学園を去ったのか分からない。

 

 そんな娘達にとって、彼は希望で、悦びであった。

 

 結果を出してトレーナーが付いた子もいる。出ぬまま卒業した子もいる。だが、その誰もが一様に彼に感謝していた。

 

 少なくとも、勝たなければ価値はないと言われるこの冷たい世界で――― 一人ではないと思わせてくれたから。

 

 そうして、気だるげに、だが真摯に彼がアドバイスをしてきたウマ娘の数はいつの間にかベテラントレーナー以上の数となって聳え立つ。打算と利益を度外視した捨て身のような献身は―――他のトレーナーなど遠く及ばぬ経験を溜め込ませていた。

 

 人とウマ娘の融和、経験、そして―――“皇帝”を無傷のまま“絶対”に押し上げたその実績はどんな抗議もねじ伏せる重みを持ち、ルドルフの望む“皆が笑える世界”への偉大な一歩の先例となった。

 

 内助の功、その言葉にこれ以上のモノがあるだろうか?

 

 私は、少なくとも無いと断言して見せる。

 

 そう、つらつらと述べた私に驚いた様に目を見開いた会長――いや、“ルナ”は少しだけ照れたように柔らかく微笑んで自らの頬を軽く叩いてその瞳にいつもの光を灯す。

 

「そう、だな。少なくとも、私達が築いてきた道はこうして新たな道になってくれた。そのことを私が後悔してしまうのは許されない。―――何より、こんな情けない私の事をいつでも支えてくれる友人がいる事こそがその道の正しさの証明だろう、エアグルーヴ?」

 

「元気が出たようで、何より」

 

 凛と強く、威風堂々に気高く、誰よりも無垢に理想を信じる私の友人が伸ばした手を取り力強く握り返す。

 

 これこそが、私の上司に相応しい姿だ。

 

 

 さて―――――元気もでたようですので、“私の”本題に入ろう。

 

「……ところで、こちらの資料が会長にはいますぐ必要になると思い僭越ながら作らせていただきました」

 

「うん、これは何の名簿かな?」

 

「なんと言いますか……アイツのスカウト待ち一覧ですね」

 

 

「―――――え?」

 

 

「いいですか、会長。古来より貴族とは一夫多妻制または正妻の他に愛人を持つことをよしとして血を残してきました。コレは実に重要な事ですが、問題は正妻には外交面での職務と重圧が多いため家の切り盛りや側室たちの管理は筆頭側室や愛人のリーダーを作ることによって管理してきました。そのために正妻と側室は明確な上下関係を示しつつも限られた有限の権利を争うことなくお家を治める事が出来たわけです。

 分を弁えた側室と、ソレにお目こぼしを与えつつも旦那に目くじらを立てない広い器が正妻には求められコレを的確にこなすことで――――」

 

「ほう、では―――このリストの天辺に太文字で書かれてる“エアグルーヴ”というのは同姓同名の別人ではなく、君の事だという認識でいいのかな?」

 

「………目くじらを立てない心の広さこそが 「雌狐がこんな所にも隠れていたのか」 ――――あだっ、あだだだだっ、いいじゃないですか!! 今まで実績解除されないから我慢してたんです!! もう普通のアドバイス通りの器具トレーニングじゃ記録が伸びなくなってきてたんですから私だってアイツに直接指導して欲しい!!」

 

「喧しい! あれだけいい感じの事のたまっておきながらコレが目的だったんじゃないか!! 大体、君にはトレーナーいるだろ!!?」

 

「あんな言われるままにトレーニング器具の準備をするだけのトレーナーじゃありません!! というか、遂にこのあいだ私に生徒会やめろとか言ってきたので速攻クビです!

 ク ビ ッ!!」

 

「―――――だ、だからといってそうスグに受け入れられるモノでもない!!」

 

「いいじゃないですか! ケチ!! 会長のケチ!! 大体、何処の誰かも分からない娘を引き入れるよりこっちのメンバーはその辺納得済みだから揉めないで一番いいプランでしょう!?」

 

「むっ、ぐぅぅぅぅ――――そういう問題ではなーーーいっ!!!」

 

 






 その日、ドタバタと凄まじい物音と声が生徒会長室から鳴りやまなかったそうだが、誰も踏み込む勇気も、ボロボロで鼻血を流しながら出てきた代表者二名に何があったかも聞ける猛者は生徒会にはいなかったそうな……。




次回予告


傲慢なる船「ははっ、アンタ面白い事いうなぁ。 “友達”っていうのは自分より格下となるもんじゃないだろ?」

無戦無敗の帝王「はっちみー♪ はっちみー♪」

一流の敗北者「私は、全てにおいて一流ですの!!」

無冠の女王「私は、私は一番じゃなきゃ、意味がないの!!」


そのた、いっぱい


 選考会が―――始まる。多分、きっと、メイビー

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