屋上にて木曽あずきは本を読んでいた。その本が気に入らず屋内に入ろうとすると、ある人物に声をかけられることとなり……

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懐かしさよ、来たれり

 平穏な暮らしは、いつの時代も必ず終わりが来る。そしてそれは、突然にやってくることがある。昔、そんな話を聞いた覚えがあった木曽あずきは学園の屋上にて、とある本を読んでいた。

 

『第三次世界大戦の発生は必ず起こるという確信を持っています…… それは聖書にも載っています』

 

 持っている本を朗読する。何も他人のためではない。声に発して自分の知識に入れているのだ。血肉としているのだ。

 読んでいるその顔は、何とも呆れたといった顔であった。否、またか、という顔にも思える。

 

『第三次大戦は第一、第二…… 二つのフェーズによって行われることでしょう…… そして、その間には《国民背番号制》がキャンペーンされることでしょう…… これら全て聖書に載っていることなのです』

 

 巷でいう所の陰謀論をまとめた本である。数年前からあずきは現実世界の陰謀論に興味を持ち始めていた。ここでいう現実世界とは、物質世界のことである。ロマンがあるのが理由らしい。

 

「嘘八百だ、こんなもの」

 

 しかし、このようにして外れをよく引いてしまうのが現状である。中々、真と偽が求めている比率のそれがないという。

 思い切って本を放り投げる。しかも、地面へと。凄い音を出して、地上に直撃した本は中身がバラバラになった。

 

「気に食わなかったのですか? さっきまで読んでいた本」

 

 気持ちを落ち着かせようと、コンピュータ室へと戻ろうとしたとき、意外な人物が屋上に現れた。

 

「まあ、そんなところです…… 家沢寝とるさん、珍しいですね」

 

「いや、人の名前なんだって思っているんですか。会長、私の名前は八重沢なとりです! 決してニートのような名前ではないです」

 

 会長。

 

「おっと、これは失礼。噛んでしまいました。しかし、暫く経っても会長と呼ばれるのは慣れませんね」

 

「慣れてくださいよ、前会長があなたに生徒会を任せてから、もう一年半ぐらい経つんですから」

 

 一年半ですか──あずきは呟きながら、降りる階段の手すりに腰を掛けた。

 

「あの人が去ってから、もうそんなになりますか…… 早いものですね、時の流れは無情にも……

「えらく麻雀がとても好きでマルチタスクで、世間知らずなあの人」

 

「相変わらず辛辣ですね、あずきさんも」

 

「実際、そういう人でしたから…… 裏方でやっていて面倒だなと思ったことが幾度となくありましたので」

 

 そうだったの……? ──なとりは驚く素振りをみせる。以前、三人で作業をしていたとき、あずきはそんな顔をみせることなく動いていたことを思い出したからだ。

 

「鉄面皮ですので、あずきは…… そんな顔を見せずことなく作業できますとも」

 

「それはない」

 

 すかさず否定した、キッパリと否定した。えらくニコニコしていたはずだ、例をあげるならば自己紹介動画のとき。

 

「8割の嘘に2割の真実をぶつけます、これが世の中に蔓延る嘘です…… 8割の真実に2割の嘘をぶつけます、これが世の中に蔓延る真実です」

 

「はぇ、なんです……? それ」

 

 訳のわからぬことを言い出したぞ、と。困惑するなとり。

 

「──そう私が詐欺師だ…… by私のニコラ・テスラ」

 

「否…… ニコラ・テスラ、そんなこと言わないと思います」

 ──それとニコラ・テスラを私物化するな、なとりは続けてそういった。

 

「──by私のひらささ」

 

 付け加えるように、私のひらささとあずき。というか私のひらささってなんだよ、あずきさん。

 

「ああ、もう滅茶苦茶だようぅ…… どうすればいいの」

 

 思わず涙目になるなとり。頭の中がてんやわんやの状況になってしまう。

 

「助けに来たよ、なとりちゃん!!」「ふぇえ……!?」

 

 背中から声をかけられ思わず気の抜けた声が出てしまう。誰の声だろうかと後ろを向くと其処にいたのはヤマトイオリだった。

 

「イオリさん……!? どうしてここに……」

 

「療養中のりこりこからね、『多分あずきちは、お腹がすくとひらささみたいなことを言い始めるからこれでも食わせておけィ』って言われたからね、持ってきたの」

 

 イオリが持ってきたのは、牛巻から渡されたチョコレートバーの高カロリー携帯食の一品だ。それをなとりに手渡す。一品を数秒まじまじと見てなとりが言う。

 

「なるほど、よく分からなかった…… しかし、そんな某携帯食のCMみたいなことが起こりえるんですね」

 

 絶妙な例え方をなとりはした。確かにそれは"某携帯食のCMみたいなこと"としか言いようがあるまい。なとり、もっと別の言い方があったろうに。

 

「いや、ないですよ」

 

「いいえ、起こりえますとも…… そう、電脳世界ならね」

 

「え……?」

 

 それは聞き覚えのある声だった。何せ、数日前にその人物とコラボしたからだ。

 

「あ、あなたは……」

 

「そう、ノワールごんごんよ…… ?」

 

 そこにいたのは金剛いろはだった

 

「久しいですね、ノワゴンさん」

 

「そんな訳し方あったかしら?」

 

「……潔く、そんな訳し方はなかったと認めます」

 

「よろしい……

「ところで…… なとりちゃん、あずきさんに牛巻からの某スニ○カーズ的何かを渡すんじゃなかったのかしら……?」

 

「そうでした、ノワゴンさん…… 気付かせていただきありがとうございます」

 

 なとりは深々と頭を下げて感謝の意を示した。

 

「容易い御用よ、ふふっ…… だがその呼び方やめろ、なとり!!」

 

「あれぇー? ノワゴンちゃんどこに行っちゃったですかぁ?」

 

 なとりは手を口元にやり、薄笑いを浮かべた。してやったりという顔だ。

 

「うぬぬ……」

 

「そんな茶番はいいからさぁ…… それをはよ食わせろや、あずきちゃんに」

 

 キレ味具合からして、この声は……。見当が付いていたいろはとなとりは、その名前を異口同音に言った。

 

「双葉(さん)、いつから居たの? (居たんです?)」

 

 前言撤回、結構ぐちゃぐちゃに言っていた。

 そこに居たのは知っての通り北上双葉だった。

 

「職員室に部室のカギを取りに行ったの…… そしたら屋上のカギがなくなっていることに気付いてさ…… また、あずきちゃんが屋上でなんかしているなと思って……

「来てみたら、イオリちゃんは寝てるし、二人は言い争ってるし、肝心のあずきちゃんは訳のわからぬことを呟いてるし、で」

 

「要するに、いろはが来てからずっとシュッレッダーの隅に宜しく、盗み聞きしてたってこと?」

 ──てか、イオリン寝てるんかい! どこでも寝れるんやな、イオリンは。

 

 いろはは思わずツッコミを入れる。いろはの目線は、寝息をスース―とたてるイオリにあった。

 

「まあ、そんなところかな」

 

 そっけなく答える双葉。

 

「い、いやぁ…… まさかまさか、聞かれていた、とはね…… ははは」

 

 それに対し何故か、急に歯切れの悪くなるいろは。

 

「ボロ出してへんよな、あたし」

 

「……ふ」

 

 双葉がニヤリと笑う。

 

「え……? ふーたん?」

 

「"ボロ出してへんよな、あたし"ですか…… 

「なるほどなるほど、そういうことだったんだね」

 

 何かしらの確信を得る双葉。じっと見つめ頷きながら、いろはのもとへ向かう。

 

「なーんか、怪しかったんだよ…… 雰囲気が違うような感じがしてさ、どうも気になっていたんだよ」

 

「な、なんのことかな……? 双葉ちゃん」

 

「ま、呼び方にはえらく気をつけてたんだろうけど…… つい、地元弁は出ちゃうものだね…… ね、なとりちゃんも気付いてたでしょ……?」

 

「え、ええ…… 勿論、気付いていますとも」

 

 ──あ、これ気付いていないやつだ…… そう思いながらも、話を続ける双葉。

 

「頼りのないレアケースは置いといて、イオリちゃんから手渡されたチョコレートバーの携帯食のことを、なとりちゃんは"某携帯食"としか言わなかった筈…… なのに、あんたは"牛巻からの某スニ○カーズ的何か"と言い直している」

 

「それは、イオリンのが聞こえただけ──」

 

「嘘だッ!!!」

 

 双葉は大声をあげ否定した。その衝撃で柵に乗っていた鳩たちが驚き、羽ばたく。

 

「ヒッ……」

 

 いろは(?)も恐れ戦いた。

 

「それは無いね…… だって双葉見てたもん、イオリちゃんが話しているとき、あんたはまだ屋上に居なかった…… なとりちゃんが丁度『──が起こりえるんですね』と言ったぐらいに来た筈…… 

「そうだね、距離などを考慮に入れて"某携帯食"は聞こえたかもしれないけど、イオリちゃんの話はイオリちゃんとなとりちゃんとの間で数十秒のタイムロスがあったから、どう考えても聞こえないね」

 

 つまりこういうことだ。双葉が述べているのは、いろは(?)が聞いていたと主張するイオリが言ったこの部分、

 "療養中のりこりこからね、『お腹がすくとひらささみたいなことを言い始めるからこれでも食わせておけィ』って言われた"がいろは(?)が来る前に言われており、さらには数十秒間なとりが話すまでに、空白があるということ。そして、それがいろは(?)の居たところからは聞こえないことを指しているのである。

 

 いろは(?)の顔が、この上なく曇る。

 

「この私たちの目の前に居る人は……」

 

 なとりが双葉に聞いた。一体、誰なのだと……。

 

「──ふっ…… では、教えてしんぜましょう…… 自らを、他人と偽りながらもボロををつい出してしまう、疎かなる花を…… 関西弁をたまに出す輩と言えば、この人しか有り得ませんとも」

 

 珍しく格好をつけて、推理展開を行う双葉。

 

「ま、まさか……」

 

 その補足で、なとりも漸く気付いたようだった。

 

「そう、この目の前にいる人物は、ごんごんじゃない別の人物…… そうだよね、──」

 

「──りこお姉ちゃん、ですわね」

 

 双葉の眼が見開く。それは自分が言った言葉じゃないからだ。その声が聞こえたほうに振り返る、双葉となとり。

 

「そうですよね、双葉お姉ちゃん」

 

 そこにいたのは……。

 

「ピノちゃん、居たんだ」

 

「お姉ちゃん方を驚かせる気はなかったんですが、驚かせてしまいましたか?」

 

「──いいや、そんなことはですよ…… でも、ピノさんはどうしてここに?」

 

 なとりが聞いた。

 

「めめめお姉ちゃんから、イオリお姉ちゃんを回収してこいとの要請を電話で受けたので…… それより、いいんですか? 変装犯を誑かしといて……」

 

「あ、ああ、そうだったね…… ピノちゃん、ありがとう」

 

「いえいえ、どういたしまして…… それじゃ、持っていきますね」

 

「うん、ありがと」

 

 ピノは持ってきたキャリーカートに寝ているイオリを入れて、エレベーターで降りていった。

 

「さぁ、どうして療養中のりこさんが、扮してまでここにいるのか…… 説明してもらいましょうかねえ」

 

 正しく、なとりは今『(^.^)』のような顔をしていることだろう。即ち、キレている。

 

「ええと…… それは──」

 

「イオリさんが心配だったから、変装して見守りにきたということです?」

 

「まあ、そんなとこ…… だけど、ちょっかい出したい欲が出てきちゃって……」

 

「なるほど、牛巻さん…… そういうことでしたか」

 

「え、この声は……」

 

「あずきです」

 

 復活した木曽あずきが聞き耳を立てていた。

 

「私がこっそりと渡して食べさせておきました!」

 

 なとりは、空になった高カロリー栄養食の子袋を見せ、にっこりと笑った。

 

「こめっちィ……! ありがとう……!」

 

「チョッ…… りこさん危ないですよ、急に抱きついたら」

 

「ああ、御免ごめん……」

 

 りこは苦笑いしながらも、謝った。

 

「──気になってるんですけど」

 

 その様子を見て、あずきが口を開く。

 

「いつまで、金剛いろはさんの恰好でいるんです?」

 ──それと、声も。

 

「あ、そうだった…… 着替えるね」

 

 りこはそう言って、顔の横に手をやり指を鳴らした。直後、いろはの恰好をしたりこは光に包まれた。

 

「うわ…… 眩しいですね! あずきさん」

 

「ええ、そうですね」

 ──そんな古風な演出で驚くほどですかねぇ……。

 

「ん…… なんか言いました……?」

 

「いいえ、何も…… そろそろ終わりますよ」

 

 光は次第に収束し、そこにいたのはいつもの牛巻りこの姿があった。

 りこの姿を見たあずきは、校舎の中に入るためにドアの方に向かう。それを見たなとりが声をかけ……。

 

「あれ、何処に行くんですか?」

 

「ちょっと、あずきが確かめたいことがありまして、それじゃ、また明日」

 

「は、はい…… また明日」

 

 

 ──あずきの推理が正しければ、ここにいる筈だが……。

 

 校舎の中に入った木曽あずきは、とある部屋のドア前に居た。そのドアノブを捻り中に入ると、あずきの推理通りそこにいた。

 

「心配して思わず来てしまいましたか? 大丈夫ですよ、この通りやって見せています」

 

 その人物は部屋中央にある、大層な椅子に座り窓から外を眺めていた。

 その前にある机には"生徒会長"の表札が置いてある。察しの良い方ならわかるだろう。そう、ここは生徒会室である。

 

「──その通りみたいね、安心した」

 

 一切振り返る素振りを見せず、その人物は答えた。

 

「しかし、まあ…… りこさんと同じ手法で近付いてくるなんて驚きましたよ」

 

「仕方がなかったの、それしか手段がなかったから」

 

「ええ、分かってますとも…… 看守の目から避けるためには在学生になりきるしかありませんから」

 ──ハッ……! ということは、あの人も……。

 

 何かに気が付くあずき。

 

「完璧な計画だと思わない? 私としては、最高傑作の作戦だと思うの」

 

「一本取られましたね、まさかそれぞれ二人にするための作戦だったとは…… ということは、あのピノさんに依頼したという電話は……」

 

「とある人に頼んでボイドを作ってもらったの…… 迫力の完成度だったよ」

 

 次の瞬間、あずきはため息をつき、こう言うのだ。

 

「はぁ…… やっぱり貴女には敵いませんね、──会長」

 

 会長と呼ばれた人物は、あずきのいる方向に振り返り──ニヒルに笑ったように思えた。




アイドル部長編SSである制作コード「West9」の制作永久凍結のお詫び品を兼ねて。
一つ言えることは言語化できない気持ちに覆われています。しかし、前に進まねばならない。

この終わりは新たな始まりを告げる合図となりえることと信じ、ケジメをつけねばと思い投稿する。

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