お気楽ご機嫌ゴッドイーターズ!   作:袈裟前 害

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お気楽ご機嫌ゴッドイーターズ!
1-1 クソッタレな職場だが


「シャブ中」

「薄らバカ」

「カスに失礼」

「イキリ全振り」

「陸には不向き」

「キモさは超一流」

「ウジ虫野郎」

 がたんごとん。

 別に憎しみ合ってるわけじゃない。何とは無しに任務からの帰路で始めた罵倒しりとりが、思いの外盛り上がりを見せたもんだから、俺達3人はこうやって不機嫌な顔で舌打ちを飛ばし合ってるわけだ。

 雨の中の任務だったせいで濡れ鼠になったし、今いるトラックの荷台には窓がねえし、道が悪からガタガタ揺れるし、兎に角イライラするから何かしようぜって始めたこのしりとりだが、余計イライラするし多分失敗だったんだろうと思う。

「うんこ以下のゴミ」

 装甲トラックの荷台、コンテナの壁に寄りかかって答えたこいつは、俺と同じ第7討伐班の早川ハヤテ。ツラだけはいいが人格が終わってる。

「見かけ倒しの雑魚」

 コンテナの床に座って、トラックの振動をケツで直に感じる趣味があるのがデカブツのコフィ・アナン。ハヤテ程じゃねぇが人格が終わってて、会話が成立しないことがある。

「腰抜けなのにGE」

そしてコンテナの天井、出っ張りに意味も無くぶら下がってるのが、最強で人格も大変ご機嫌なこの俺、

 ぎりりりりり、急ブレーキのかかったトラックが軋みを上げて、俺達はコンテナの床にひっくり返る。しこたま打ち付けた頭が痛む。

「痛えなクソ」

「ッチ、」

「仕事だな」

『緊急事態、仕事の時間だよカス共』

 着けっぱなしのインカムから声が聞こえて、俺達は痛みもそのままに、身体に染みついた動きで、壁に4つ並んだ棺桶みてえなロッカーを開く。

 ぷしゅう、俺の相棒を厳重にしまい込んだ分厚い棺桶ロッカーがゆっくり開く間に、コフィがマルコ、トラックの天井で見張りをやってる第7討伐班の班長に状況を確認する。

「了解マルコ。何があった?こっちは3人ともすぐに出られる」

『OK、コフィは僕のところに。一緒に周辺警戒だ。イカれた二人は前方に展開してくれ。前方右側に大型の反応がある。距離5,000』

「了解した」

 完全に開いた棺桶ロッカーの、その中で冷やされていた相棒が、真っ白な冷気を突き破って、がしゃんと音を立てて、俺の目の前にその真っ黒な持ち手、グリップを現す。

 右手、赤くてデカい、バカみてえにデカい腕輪が嵌まった右手を伸ばして、相棒を掴む。

「へっへっへ」

 思わず口元が緩んだ、この重くてデカくて硬くて超かっこいい相棒を、これから思う存分振り回すのだ。横を見るとハヤテの野郎も薄ら笑っていやがった。いややっぱ命を懸けた仕事を前にヘラヘラしてるなんてこいつ頭おかしいんだなと思った。コフィは特に感慨もないようで、既に天井に続く通路へ移動していた。やっぱこういうのがプロの態度なんだよな。いやこいつ前に出れないから不機嫌になってるだけか。

「おい、出るぞ」

「へいへい」

 ハヤテが顎で示すコンテナの後方、ハッチが開いて、すっかり暗くなったでこぼこの道が見えた。

 俺達はそれぞれ相棒―――神機を担いで、外に飛び出す。握った右手から、どくん、と相棒の鼓動が伝わってきた。こいつやる気十分かよ。

 まあ俺だってそうだ。

俺の名前は遠藤ゴウ、極東第2支部、第1大隊第7討伐班のゴッドイーターで、趣味と特技はアラガミ殺しだ。

 

 

 GEにとって距離5000は一瞬だ。駆け足で森の中を突っ切って、少し開けたところからアラガミの様子を伺う。距離は300。アラガミの反応のあった地点(だと思う)には、何かの廃墟とデカい駐車場が見えた。

「デカい建物と駐車場があるぜ」

『旧時代の商業施設だね。―――そう、調査は済んでるみたいだ。アラガミは?』

 多分オペレーターのコダマさんに確認したらしいマルコの声に応えて、双眼鏡を覗き込む。GEの視力がいいって言っても夜中は普通に視界が悪い。なんせ暗いからな。

「ん、ん?あれ死んでんのヴァジュラか。ほれ」

 ヴァジュラ。大型のアラガミで、何か電気飛ばしてくるのと爪で攻撃してくるやつだ。やたらとよく発生する上に電気の攻撃がこっちをスタンさせることもあるから結構な数の仲間がこいつらに殺されてる。トラに似てる、らしいがどっちかっていうと猫じゃねえか。

兎に角、それの千切れた上半身が廃墟にへばりついてて、それをアラガミ共が貪ってるように見えた。双眼鏡をハヤテに渡す。

「報告、恐らくヴァジュラの死骸にアラガミが群がってる。クアドリガが1と、オウガテイルが山程いるな。呑気にケツ向けやがって、こっちには気づいてない」

 クアドリガ。装甲船の船首にヒトの上半身、船底に四つの脚をくっつけたような大型アラガミ。バカみてぇに硬くて重くて、身体の中で作ったミサイルをばら撒いたり、体当たりとか踏みつけで攻撃してくるやつだ。動きは鈍いが助走があれば俺らの装甲トラック並みにはスピードが出るし、まあ建物とかトラックとか、そういうものをぶっ壊して被害を出してくるクソみてえなアラガミだ。アラガミは大抵クソだ。

『そのヴァジュラからコアは抜けそう?』

アラガミにはコアとかって細胞の塊があって、それを抜いたり壊したりすると全身の細胞が風に流されて飛んで行って何にも残らない。今回みたいに死骸が残ってるってことは、コアがまだ残ってるってことだ。

双眼鏡を覗きこんだハヤテが慎重に答える。返せよ。

「損壊状態から言って、無傷の可能性は―――、あー、あるだろうな」

 無傷のコアは新しい神機になる、そう、俺達の相棒は制御されたアラガミなのだ。あと無傷じゃないコアもまあ、色々使い道はある。

『―――よし、ヴァジュラの死骸のコアを確認して、クアドリガだけ討伐しよう。他のアラガミが集まってくる前に突破したいから、作戦時間は300秒だね』

 隣のハヤテと目配せをする。こういう場合はまず一人が突っ込んでデカブツを引きはがす。もう一人が雑魚を散らしてコアを確認、その後デカブツ狩りに合流する。雑魚を一気に蹴散らす突破力があるのはこの血走った目の槍使いだ。もうアラガミをぶっ殺したくて興奮してやがる。怖っわ。病気かよ。

「おい」

「ああ」

俺達は目線を合わせ、頷き合う。

第3大隊にいた時からのそこそこ長い付き合いになってきてて、最近はこういう役割分担で揉めることもなくなってきた。

「俺が死骸からあのデカブツを引き離す」

「俺はクソ戦車をやる」

 駄目だった。何て協調性のない野郎だ、こいつと任務とかイカれてんのか?

「雑魚どもを散らすならお前の槍だろ」

「俺なら銃形態でプルできるんだよ」

 ハヤテの神機、槍形態のそれを指差して言うと、ハヤテはがしゃり、と神機を銃形態に変形させた。強襲タイプ(連射系:長距離も可)だ。俺も負けるもんかと銃形態に変形させる。近接タイプ(散弾・放射系:射程が短い)だ。クソが。

『クアドリガはハヤテが担当、ヴァジュラの死骸とオウガテイルはゴウが担当してね』

 こっちを見てにやりと笑って、ハヤテが神機を構える。準備万端かよ。マジでクソが。

「そっちも警戒を頼む。こっから第2支部まで結構あるんだ、歩いて帰るのは御免だぞ」

『分かってるって。コフィから何かあるかい?』

『―――怖くなったら帰ってきていいんだぞ』

「ふざけんなボケ」

「お前は指を咥えて見てろ」

『じゃ、二人とも頼むよ』

「ああ」

「解ってるよ、畜生」

 頼まれちまえば仕方ねえ。俺達はチームで、チームでいるためにはそれぞれの役割を果たさなくちゃならねえ。役割についてはマルコがよく分かってて、あいつがこういう時に間違えたことはあんまりなかった。マルコの言う通りにしてれば、大抵の場合俺達は気持ちよくアラガミをぶっ殺すことができた。

「くくく、雑魚どもを近づけんじゃねえぞ」

「あ?殺すか?」

『よし、じゃあ任務を開始してくれ』

 まあ仕事は仕事だ。デカブツをやれないのは残念だが、切り替えていこう。それに雑魚とはいえ数は多い、斬りまくるのもそれなりに楽しいだろうし、相棒も降って湧いた「おかわり」にご機嫌な様子だ。

「行くか」

「あいよ」

 ハヤテが左に向かったから、俺は自動的に右から回り込むことになった。急がねえとあのバカが戦闘を始めちまう、俺も小走りでいいポジションを確保しに向かった。

『ゴウ』

「あ?」

 ちょっとも進まねえうちにハヤテからの通信があって、俺は疑問符を浮かべる。

『ぎゃは、悪いが我慢の限界だ』

 ずがん!がんがんがん!

 発砲音、クアドリガのケツが光る、着弾した、あの馬鹿何を、

 ―—―あいつ雑魚も纏めて喰うつもりかよ!

「てッめえふざけんなよくそボケカスがァ!」

『ぎゃは、皆殺しにするんだ、変わりゃしないだろう』

「確かになァ!」

 一気に意識が加速する。

 身体も加速する。

 ハヤテに気付いたクアドリガがミサイルポッドを開く、ハヤテは構わず突っ込む、地面を這うような姿勢から勢いに乗せて人体っぽい部分に槍を突っ込む、クアドリガが怯む。

 オウガテイルもハヤテに向けて、尻尾から針?棘?を飛ばす体勢。

 ―――気持ち右回りに膨らみながら走る!走る!

「こっち見ろやァ!」

叫べばオウガテイルの何匹かがこっちを向く。相変わらずの鳥の体にでけえ頭、しゃもじみてえな尻尾の小型アラガミ、右手の神機に遠心力を載せて、まだ遠い、尻尾から飛んでくる針?棘?を半身になって回避、ついでに流れ弾のミサイルも回避、

「があぁぁぁぁぁァ!」

一歩、右足を大きく踏み込んで、

「死に腐れやァ!」

 右手一本で神機を袈裟に振りぬけば、オウガテイルの首が落ちた。2匹分。勢いはそのまま、前に体を流して、オウガテイルの群れに飛び込みながら水平に一回転、

「もう一丁!」

 身体の回転に合わせてもう一発、今度は両手で大きく振って、4匹を斬った、2匹はぶっ殺したから後でコアを抜く、2匹は浅い、仕留めきれなかったが再生するまで動けない、流れ弾のミサイルがぼこぼこ着弾するが、構わん!

 振りぬいた俺の相棒、長剣タイプの神機が、金属質の刀身に緑色の月の光を反射する。

 こっちに気付いたオウガテイル共が威嚇してくるが、今度は無視、足を止めずに走りながら、見えてきたヴァジュラの死骸に切っ先を向ける、ぞわり、ぞわりと刀身から黒いものが染み出してくる、これが俺の神機の本体、捕喰形態≪プレデターフォーム≫!

 刀身より一回りデカくなるまで染み出し終わったら、次は刀身が先端から二つに割れていく、巨大な顎だ、

「喰らい尽くせ!」

 力を込めて、死骸に神機を突き出す、黒くてデカい口が伸びて、死骸に噛みつく!

 神機から俺に感覚がフィードバックする、ヴァジュラの体からコアを探す、こっちか、反応が、こっちか、見つけた、無傷じゃねえか!いやよくわかんねえ!無傷じゃないかもしれねえ!

 俺の神機がずぞぞ、ずぞぞと音を立てて、さっきとは刀身に逆に黒いものが染み込んでいく、刀身が生物的なものから金属質のものになる。

「っし、報告ッ!ヴァジュラのコア回収完了!」

 無防備な背中にオウガテイルの針を刺されながらコアの回収報告をする。

『了解、さすがゴウだね。ところでさっき叫んでたのは何かあったのかい?』

 マルコから通信が返ってくる、一瞬達成感で忘れてたけどそうだった、俺は神機を振り回してオウガテイルを雑に処理しながらマルコに返答する。

「あの馬鹿いきなり正面から突っ込みやがった」

『時間をかけてヴァジュラのコアを失っても仕方ないという判断だ』

『まあそうなるとは思ってたよ。でも逆でもゴウはそうしたんじゃないかな』

「確かに」

 大口開けて噛みついてきたオウガテイルの口の中に神機をぶっ刺す。死んだかな。死んだ。

『さ、あと少しだ。ゴウ、クアドリガをぶっ殺して回収しよう』

『一人でもやれるぜ』

『早いほうがいい、ヴァジュラを殺ったのがクアドリガとは限らないしね』

 減らず口を叩いたハヤテがマルコにたしなめられる。ざまあ見やがれ。

あと戦闘が長引けば我慢できなくなったコフィがこの辺一帯を吹き飛ばす可能性がある。あいつの神機と人格はマジでイカれてる。

「よーしノロマ、手伝ってやるぜ」

「針刺さってんぞ」

 クアドリガの横っ腹にぼこぼこと穴を空けているハヤテの横に並ぶ、通信もいらない距離だ。クアドリガは全身かなりズタボロで、排熱機関とミサイルポッドが結合崩壊を起こしていた。危ね、瀕死じゃんけ。

「あとちょっとなんだから邪魔すんなよ」

 うるせえ俺にも殺させろ。

 あと一押しのために一気に切り込む、クアドリガの後ろ脚に右からの打ち下ろし、左からの打ち下ろし、体表の装甲に阻まれて連撃は殆ど通らないが、若干柔らかくなったところに一気に≪捕喰形態≫をぶち込む!

「オラァ!」

 神機の本体がひび割れた装甲の隙間から侵食し、オラクル細胞を一気に吸収する!

 神機に力が漲る、神機を通して俺にも力が流れ込んで来る!

「ひひひ、神機解放!」

「あ、待てコラ」

 ハヤテが慌てて捕喰攻撃をぶち込むが、時すでに遅すぎた。

 神機とGEは一度に大量のオラクル細胞を吸収すると、吸収したオラクル細胞を燃料に神機解放(バースト)状態になり一時的に能力が上昇する。

「アラガミはこうやって倒すんでちゅよー、オラァ!(ズドン)インパァ!」

「は、殺すが?」

 インパルスエッジ(インパ)は長剣形態では刀身の付け根に収納されている銃身パーツからオラクルエネルギーを噴出させる必殺技、銃形態に変形させなくても銃撃ができる便利な技だが何故か使い手が少ない。反動で銃身パーツがすぐ駄目になるからか?

 クアドリガの後ろ足にまともに直撃したそれは後ろ足を吹き飛ばし、一時的に行動不能にする。巨体のアラガミが傾く、前足だけで藻掻こうとするが、全身の重量を支えきれない。

「ケっ、止めは俺がもらうぞ」

「あいよ」

 バースト状態のハヤテはとん、とひと跳び、クアドリガの正面、殆ど触れ合うような距離に着地、―――した時にはすでに槍パーツを展開形態にしていた。

「くたばれ」

 突然目の前に現れたGEに、クアドリガはチャンスとばかりに前面装甲を展開、体内で生成したミサイルを発射しようとするが、ハヤテのほうが早い。

―――神機ごとハヤテの左腕がクアドリガに埋まっていた。

 一瞬遅れて衝撃が俺のところに届き、それから爆発音。それは、オラクルエネルギーの噴射音と、神機が凄まじい速度でクアドリガを貫通する音。

 ハヤテのチャージグライドが、デカブツの中身を抉り取って止めを刺していた。

 チャージグライドは槍パーツをなんか細胞を抉り取るのに適した形に展開させて後方にオラクルエネルギーを噴射、加速して突っ込む、間合いの外から肉薄して大ダメージを与える槍の必殺技だ。何故かこいつはしょっちゅう密着状態で使う。

「こちらハヤテ、クアドリガ討伐完了。周辺にはアラガミの気配なし」

『了解。トラックをそっちまで動かすからコアは抜いといくれよ』

「了解」

「了解」

 クアドリガからコアを抜き始めたハヤテに背を向けて、俺も、とりあえず転がしといたオウガテイルからコアを抜くために歩き出す。コアを抜かなければアラガミは時間をかけて復活する。まあコアを抜いてもアラガミはどこかで発生する。

『―――第2支部より通信、第2支部より距離12,000、ヴァジュラ2体とラーヴァナが3体、コンゴウが6、その他小型が複数。救援求む、ってさ』

 ほら見ろ。

 何でもこの終わりの見えない戦いに心を病んじまうGEもいるって話だが。

『ようやくおれの出番だな。さっさと行ってぶち殺すぞ』

『よーし、それじゃもう一戦行ってみようか』

『上等だ、おいゴウ、コア抜き急げよ』

 この戦いに終わりは見えないが、それはつまり。

「ひひひ」

『おい聞いてんのか』

 装甲トラックの音が近づいてくる。

「おっしゃ、んじゃ気合い入れてアラガミぶっ殺そうぜ」

 俺はコアを抜くために神機を捕喰形態に変形させる。

 

 クソタッタレな職場だが、無限にアラガミをぶっ殺せるってのは、まあ気に入ってる。

 

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