俺は俺のことを模範的なGEだと思う。
鉄火場にも一番乗りで突っ込んでいくし、出撃頻度も高い。たまたまコアを無傷で手に入れられないことは、そりゃたまによくあるが、討伐任務なら達成率もいい感じだ。
オペレーターや補給班が一緒の時は撤退命令だってちゃんと聞く。
何よりアラガミをぶっ殺すのが好きだ。
「このようにアナグラは完成されたアーコロジーであることは事実だが、説明した通り完全ではない。完全、つまり真にアナグラのみで全てを循環させることが可能になるには、
―――人類がアナグラから一歩も出ないこと、そしてアナグラに拡張の必要がなく、アラガミ防壁が十分な期間メンテナンスを必要としないこと。
これらの条件が揃った時、初めてアナグラは想定通りの性能を発揮できる、というわけだ。実際には空気や水、有機質やミネラル、オラクル細胞といったあらゆるものを外部から少しずつ補給している。」
でも何でだかウォン先生にとってはそうでもないらしい。
ウォン先生―――マジですげえGEで、第3大隊だった頃に俺の指導教官だった人だ。
先生に鍛えてもらってなけりゃ初任務だけで10回くらいは死んでるだろうな。いやまあ先生に殺されるかと思ったことも10回じゃきかねえけど。
それで、ウォン先生はよく俺にこういう講義を受けるように言ってくる。他の、第1と第2中隊のGEは任意なのにな。半人前扱いかよ。
「サテライト拠点の発展、独立部隊クレイドルの活躍は諸君らもよく知るところだろう、この発展は、それ以前に主流であった『既存のアナグラの拡張・アナグラ内での人類の保護』とは別の可能性を提示した。
アナグラ内の人類の予想以上に、人類はアナグラの外でも生き残っていた。その一刻も早い保護のためには、『既存のサテライト拠点の拡大』、『新たな拠点の設置』が求められるようになったわけだ。より早く、より効率的に」
今俺が受けている講義は初級GE向け、『第2支部の成り立ち(技術編)』だ。
第2支部の立ち上げにずっと関わっていたウォン先生が教えるとあって人気の講座で、初年度のGEはほぼ全員が受講するから50人が入る教室が満席になってる。
普通のGEはそう何度も受けられない―――初年度以外で受講するなら、教室の後ろで立ち見になるしそれも抽選制だ、が、俺は特別にウォン先生から指名されて何度も席について受講してる。特別待遇だ。すげえだろ。
昨日はあのあと真夜中まで戦闘が続いてたから正直かなり眠いんだが、ウォン先生との約束をぶっちぎるわけにはいかねえからな。
「では拠点に求められる機能は何か。最低限、居住設備と生産施設だ。そしてそれらを防衛するためのアラガミ防壁。とはいえアラガミ防壁の生産には生産施設が必要だし、生産施設には人員と彼らが暮らす居住設備、―――無論、資源も必要だ。更に防壁を設置する間は、防壁と設置のための人員自体を守らなければならない」
とはいえ集中力も尽きてきた。ちらりとウォン先生から視線を外して、同じ教室で講義を受けてる連中の様子を伺う。
流石にどいつもこいつも真剣だ。先生はマジですげえGEで、教え子にもすげえGEがいっぱいいるからな。
と、左の席に座ってる奴と目が合う。13、4歳くらいか?第3大隊に配属されたてって感じだな。何でこの歳の俺がここに座ってんのかって顔をしてやがる。俺だってわかんねえよこの野郎。
「これらの問題に対して。サテライト拠点の拡大を進めたクレイドルは、当初、極東本部などで生産したアラガミ防壁を輸送することにして、設置の間の防衛力を彼ら自身が賄う事とした。彼らは皆、尊敬すべき、一流のGEだったからね。それが可能だった。
この写真を見てほしい。先日極東支部から提供してもらった、出発前の写真だな。
右のトレーラー、アラガミ防壁を運ぶものだ、設置のための重機が確認できる。
左のトレーラーは工事人員の輸送用に使われたものだ。セットにして運用された。人員用のトレーラーの荷台は、工事完了後は切り離してそのままサテライト拠点の居住スペースとして利用された。
左のトレーラーで手を振っているのが誰だか分かるか?かの雨宮リンドウ大尉だ。隣は―――嘘だろ、大森タツミ隊長!これはすごい写真だぞ!―――すまない、取り乱した」
うわびっくりした。隣のやつと一緒に教室の前で解説してるウォン先生の方を見る。
マジだ大森隊長だ。先生大森隊長好きすぎだろ。ことあるごとに褒めてたもんな。大森隊長を模範として、大森隊長のように、大森隊長の何たらかんたら。
正直そこは雨宮大尉じゃねえのって気もしなくはない。だって滅茶苦茶強いらしいぜあの人。ウロヴォロスも素手でぶっ殺したって話だしな。
「着実に成果は上がっていた。クレイドル以外の、まあ一般のGEで可能であるかと言われれば、待機人員や補給・整備人員の都合でもう2台ほどトレーラーが必要になると試算されたがね。
では新たな場所に拠点を作るにはどうか。これは現実的ではなかった。既存のサテライト拠点はアラガミ防壁以外の生産施設を備えていたから、これの拡大にはその施設を使うことができた。
だが新たに拠点を作る場合は、防壁を設置する間、本部や別の拠点から生活物資を補給し続けなければならない。防壁を設置し終えたら次は居住設備と生産施設だ。これも別の場所から資材を搬入する必要がある。輸送の護衛には多くのGEが必要とされる。
つまり拠点を同時に複数作ることは不可能だったし、時間を掛ければ生存者も減っていくだろう。先にも言ったように、より早く、より効率的な拠点の設営が必要だった」
やべえいよいよ眠くなってきやがった。いつの間にか半開きだった口から手元の端末によだれが垂れる。やっべ。(べき)よし。
やっぱ眠くなったときは指の骨を折るに限る。隣のやつがびっくりした顔でこっちを見ていた。お前も真似していいぞ。GEだったら回復錠飲めば大体治るからな。
「結果的には諸君らもよく知るこのプランが採用された。写真はフライア、独立移動支部フライアだ。居住設備と生産施設を備えた移動するアラガミ防壁、と言い換えることもできる。研究施設も相当部分を占めていたとのことだが。
ここから着想を得て、そう、居住設備と生産施設とアラガミ防壁をひとまとめにして現地に送り込もう、とね。先に説明したサテライト拠点の拡大及び新たな拠点の建設のために、安全な場所で小型のフライアとも言える、移動式の拠点を生産、拠点の拡大や設置に使うことになった。
―――時間だな。ここまでだ。次回は第一号の移動式拠点がいつどこで造られ、運用されたかについての話から始めよう。では本日の講義を終了する。」
マジかよ指まで折ったのに講義終わっちまった。骨折り損の、あれ、―――そう、アレだ。
教室から第1大隊用のラウンジに移動した俺は、中央の丸いキッチン兼カウンターに腰掛けて、眠気覚ましのコーヒーで回復錠を流し込む。これがキマるんだ。
「ひひひ」
「あー、また回復錠の悪い使い方してる」
明るい声がして意識を戻すと、空席だった左の席に日焼けした肌の大柄な美人が腰掛けていた。天使かな。右側を刈り上げたツーブロックがばっちり決まってる。
「マイ姐さん、キョウトから帰ってたのか」
第6討伐班はちょっと前から第2支部とキョウト拠点との間で補給部隊の護衛任務をやってたはずだ。ひと段落着いたんなら任務に誘ってみるかな。ずっと頭のおかしい連中とばっか組んでるとこっちも頭がおかしくなりそうだしな。
「今日の朝ね。昨日の夜は大変だったみたいじゃん」
「ああ、帰り道に防衛班に誘われて合同任務をやったんだ。流石に数が多いから何匹か間引いてくれってさ」
「ふんふん、それで?」
「楽しかった。マルコがうまくコンゴウだけ釣ってさ。皆で6匹くらい狩ったんだ」
マルコが移動中の群れにバレットを撃ち込んだら、どういう理屈かコンゴウと小型が何匹ずつか群れから離れてこっちに向かってきたから、第7全員で誰が一番多く殺せるかの競争をやった。あれは滅茶苦茶楽しかった。
「へえ。みんなは一緒じゃないんだ」
「マルコは報告書書いて寝るって。コフィはオヴェスト博士から呼び出し食らってる。ハヤテも寝てんのかな。俺はウォン先生の講義。マイ姐さん達は?」
「みんなはあっちにいるよ。あっちで話そう。お願いしたいこともあるんだ」
「わかった」
指差した方向、壁際のテーブル席を見ると、第6討伐班のGEが4人みんなで座っていた。まあこういう場合は任務の手伝いだ。
ふむ、マイ姐さんは美人だし優しいから大体のお願いなら聞くぞ俺。悪いなコフィ、呼び出しとはツイてなかったな。ハヤテ、早起きは三文の徳って言うらしいぜ。残念だったなざまあみやがれ。
あれ、第6だけかと思ったが壁際に何かデカいのがいるな。女だらけの第6に入ろうなんて勇気のあるやつがいたもんだ。どんなバカかツラ拝んでやる。と思ったら知り合いだった。
「よーすお疲れ、あれ、久しぶりだなアーロン」
「ああ、お前はとっくにくたばったかと思ってたよ」
「あ?何だ第5をクビになってこっちで面倒見てもらってんのかバーカ」
「ぶっ殺すぞてめえバカ死ねバカ」
口の減らねえこのデカい(コフィほどじゃねえけど)のは第5討伐班のアーロン・ルイス。俺が第3大隊に入った時からの付き合いで、つまり同期だ。
何でか最近は顔を合わせるたびに因縁つけてきやがる。ムカついたから思いっきりガン飛ばしてやる。オ“ラッ!死ねッ!
「いきなり険悪にならないでくださる?というかマイさん、どうしてこの狂人に声を掛けたんですの」
「腕は確かだよ」
「腕以外が確かじゃないから言ってるんですのよ」
立ち上がって呆れたように言うのは第6討伐班のナディア・レニエ。長い金髪とデコが眩しいお嬢様で、なんかキツそうな見た目をしてるし実際性格がキツい。すぐ前線を下げろとか距離を取って仕切り直せとか言ってくるんだぜ。
両手を腰に当ててやれやれ感を出しているナディアの横に座ってる、癖の強い髪を後ろで縛ってるのが南条リン。
目が合うとにへ、と笑って手を振ってきたからピースサインを返してやる。アーロンと同じく俺の同期で、というかこいつと俺とハヤテとアーロンは同じ日に同じ部屋でGEになった腐れ縁だ。
「マルコ君は班長の仕事が忙しそうだし、ゴウ君ならコフィ君とハヤテ君よりはお願い聞いてくれるかなって」
「そりゃマイさんのおっしゃる事なら聞くみたいですけれど」
「流石マイ姐さんだ、見る目があるぜ」
「……消去法、で選ばれてるんだけど、それは大丈夫?」
「なんで?」
今喋ったのは第6討伐班の最後の一人、クロエ・ホシノ。前髪で目が隠れてるからあんまり表情はわかんねえけど、基本こっちを気遣ってくれるからいい奴なんだろう。消去法だとまずい理由があるのか?俺には分かんねえや。
「じゃあ、えーと、どこから話そうかな。うん、実は第5で今、新人の面倒見てるんだって。教育係はローテで回してるけど、アーロンが4日くらい暇になったから、第6の任務を手伝ってくれないかなって。二人に協力してもらえれば3・3で2隊分になるでしょ?」
「ハブられてやんの」
「イカれ揃いの第7には後輩来ねえけどな」
―――これは多分偶然だと思うんだが、後輩がうちに研修に来たことは無かった気がする。戦闘中の指示も「殺せ」「探して殺せ」「スタングレネード」「コフィから逃げろ」の4種類覚えりゃいいだけの簡単な職場で、新人の研修に来るならうってつけだと思うんだけど。
「ああ、マイ姐さんの頼みだし全然構わないぜ。明日?このへんの討伐?」
「うん、明日の朝から支部周辺の討伐。あと実はわたしの神機が調子悪くて。いっそ更新しようかと思って、その素材集め」
「大丈夫だったのか」
「任務が終わってからだから大丈夫。ブースターの調子が良くなくてね。予備で育ててたこの、ラースマッシャにしようかって考えてるところ」
マイ姐さんは自分のタブレット端末に自分の神機(3Dモデル)を表示させる。今使ってるのはポールタイプの神機、ブーストハンマーで刀身は基本のハンマー系統。
すすっと指が動くと3Dデータが更新されて、刀身が別のハンマー、髑髏のマークが入ってるやつになる。あっ爪綺麗だな。
あと育ててるってのは予備のパーツを強化してるって意味だ。
俺達は何種類かのパーツを所持することが許可されてて、それを任務ごとに切り替えたり予備として保管したりしてる。
保管もコストがかかるから保有できる数は決まってて、新米なら予備は各パーツ1つのみだが、強くなると枠が増える。あんまり数揃える奴はいないみたいだけど。
「マイさんはずっと前衛をやっていらしたから、神機への負担が大きくなってしまって」
「展開機構がヘタるとオーバーホールしかないですからね。ついでにこのガットは変えないんですか」
端末をのぞき込んでアーロン、こいつもブーストハンマー使いだ、が言う。
マイ姐さんの神機の銃身パーツは近接系、ガット系統。銃身が分厚くて頑丈な系統だ。強化ランクは、―――あんまり上げてねえな。これは刀身と装甲に素材を回してるせいか。
「ちょっと金剛大筒が気になってはいるんだよね。銃口2つあるのがどんな感じか分からないけど、瞬間攻撃力は高いって話だし」
金剛大筒。コンゴウの素材を使って作るショットガン系の銃身パーツで、銃口が2つあるのが他にはない特徴。いやマジで何でこれだけ銃口2つなんだ。
「確かに2発いっぺんに撃てるけど反動がきつい。いっぺんに2つ撃たない場合は片方ずつ交互に使わなきゃいけないのがちょっとめんどい(独自設定)」
「へえ、使ったことがあったんだ。でもゴウってずっとマックスじゃなかったっけ」
「銃口2つでインパの威力も2発になると思って作ったんだよ」
「駄目だったんだ」
「駄目だった」
聞いてきたリンにはそう答える。銃口は2つなのにインパは一発しか出なかった。
ちなみに今俺が使ってるのはマックス系統ってショットガンで、簡単な造りで銃口が大きくて頑丈で整備性も高い。何より要求される素材が少ない。
インパはどうやら神機への負担が大きいらしく銃身パーツをすぐ交換する羽目になるからな(独自設定)。造りやすくて頑丈って意味ではガット系でもいいんだが、ありゃちょっと銃口が小せえんだ。
「とりあえず作ってみましょう、それで気に入らなければ流せばいいし。昨日ゴウがコンゴウ狩ったんなら、素材はありますし」
「いやそれはゴウさんの素材でしてよ」
使わなくなったり壊れたりしたパーツは大隊に引き取ってもらうことができる。他のGEに回されたり、潰して防壁とかに使われたりする。
―――たまに変なもんが流れてくるんだよな。墓石シリーズ一式って何だったんだ?
「いいよ、使ってくれ。特に使うものは無かったから」
「ありがとう!代わりに何か素材あげるね、何が欲しい?」
「ボルグ・カムラン系統のを。ブレードの強化に使うんだ」
「整備室に連絡しとくね!」
「あ、俺もやんねえと」
素材そのものと、誰がどの素材を保有してるかは整備室が管理してて、こうやって端末から連絡して保有権を移せば、マイ姐さんが俺の素材を使えるようになる。
逆もそうで、こうやって素材を融通し合わないとなかなか強化に必要な分が揃わねえ。ウォン先生もGEは助け合いだって言ってたしな。あとハヤトにもメッセージ送っとくか。俺の保有分だけじゃ足んねえかも知れねえし。
「……第5討伐班では、ヤマトさんも、近接タイプではないですか」
「あ、ああ、先輩は獣砲、シユウのやつを使ってますよ。砲身が短くて取り回しがいいんだって言ってました」
「獣砲?ほんとだ、……はー、こう見ると獣砲ってこんなに短い、へぇあ」
クロエに袖を引かれたアーロンが面白いくらい狼狽える。お、なんだお前青春か?
長い付き合いのこいつが、こうやって色恋沙汰であたふたしてるのを見ると何だか奇妙な気分になるな。
お前ちゃんとアラガミ殺し以外のこともできるんじゃねえか。
「……弾種は何を使うんですか?アラガミバレットとの相性は?」
「え、ええ、折角ですし先輩に聞いてきましょうか」
「……私と喋るの、嫌ですか?」
「ホァッ!?」
できるんじゃねえのか?
「ケッ、大人になりやがって」
「あら、あなたも男女の機微が分かるんですの」
ナディアが何か言ってきたけど一瞥だけしてアーロンとクロエを眺める。アーロンは質問攻めにあって視線を彷徨わせるが、マイ姐さんは端末に夢中だし、リンとナディアはにやにやしているだけだ。
それで俺は、こいつら早くGEなんか辞めればいいのに、と思ったんだよ。