「いいか、うちの子たちに何かあったらただじゃ置かねえからな。ナディアの指示をよく聞いて、絶対に余計なことをするんじゃねえぞ」
一夜明けて。神機も強化して準備万端の俺は、第2支部出撃待機場の、第6討伐班の装甲トラックの前で、第6討伐班オペレーターの戸倉ユウコさんから、滅茶苦茶注意を受けていた。まだ何もやってねえのに。
「うっす了解っす」
「本当にわかってんのかァ!?」
「うっす了解っす」
戸倉さんは確か元第4討伐班のGEだっけ。引退して支援員、機材準備とか日程調整とか運転とかオペレートとかやる仕事、になったんだよな。めっちゃガン飛ばしてくるじゃんけ。
「大丈夫だよユウコママ。ゴウだってちゃんと回りを見れるんだから」
「アタシをママって言うんじゃねえッ!」
「ご心配はありがたいのですけど、そろそろブリーフィングの時間ですので」
にこにこ笑ってリンが話しかけてくる。後ろには困ったような顔のナディアもいる。戸倉さんは腕時計を確認して、出発時間が近いことに気付いたのか舌打ちをする。
「クソ、いいか、お前らも気を付けるんだぞ。ヤバくなったらすぐに逃げろ。それで、おい遠藤、お前の悪評はアタシが現役のころから聞こえてるんだ。ちょっとでもふざけた真似をしてみろ、アラガミに食わせてやるからな」
「うっす勘弁してくださいよアレすげえ痛ぇんすよ」
「捕喰されたことがあるんですの……?」
「ちょっと前にウコンバサラに頭から」
胸のあたりまで喰われたからやべえと思った。コフィがぶった斬ってくれなきゃあのままワニ人間になってたかもな。
後でマルコに映像見せてもらったが、あのバカ野郎、喰われながら立った俺を見て爆笑しながら斬りやがった。
―――何で言った戸倉さんが微妙な顔してるんだ。
戸倉さんはそのまま装甲トラックの方に歩いて行って、代わりにマイ姐さんとアーロンとクロエが来た。作戦会議だ。
マイ姐さんが、胸の前でぱちんと手を合わせて話し始める。
「みんなおはよう。はい、じゃあ作戦会議ね。まずは今日のチーム分け。わたしチームとナディアちゃんチームね。わたしチーム、マイ分隊はわたし、クロエちゃん、アーロン君。ナディア分隊はナディアちゃん、リンちゃん、ゴウ君」
緩い笑顔のまま、一人一人を見回して言うので俺も頷く。でも眼はもうマジだ。これは気合い入れねえとな。
「ダブルハンマーで近接武器のバランスが悪いから、飛ぶアラガミはクロエちゃんとアーロン君のブラストにお願いすることになっちゃうけどよろしくね」
「先輩のハンマー捌き、勉強させてもらいます」
「……空中戦は任せてください」
話を振られたアーロンとクロエが答える。昨日確認したがクロエは刀身がショート、銃身がアサルトの手数重視スタイルだった。
「ユウコママの装甲トラックはナディアちゃんの方に付くから、ちゃんと守ってね」
「わたくしの分隊ではゴウさんが前衛、リンさんが遊撃、わたくしが後衛として全体を見ます。トラックもあるのでアラガミを見つけてもあまりトラックから離れすぎないように」
ナディアの装備は刀身が俺と同じくロング、銃身がスナイパー、リンのは刀身が鎌、銃身がブラストだったか。
「ああ、まずは銃撃で機動力を奪うんだな。引きつけと牽制はリンとナディアのどっちだ?」
「え、ええ。アラガミを先に発見した場合は可能ならわたくしが狙撃で気を引いて、リンさんが銃撃で機動力を奪うか接近コースを限定、ゴウさんが組み合ってくださいな。
逆に、先にアラガミから発見された場合はゴウさんにできるだけ前に出ていただきます。まずは会敵した場所に釘付けにして、リンさんが遅れて会敵、わたくしはトラックに同行して接近します」
「戦闘中に別のアラガミと接敵した場合は?」
「中型2体以上か大型で即スタングレネード、マイ分隊と合流します。状況次第ではゴウさんに足止めをお願いすることになります」
状況次第。いい言葉だ。昔コンビでやった時はやかましかったからどうかと思ってたが、指揮下で戦うなら気持ちよさそうだ。
「了解。よろしく頼むぜ」
「えっ」
「よろしくね、ナディアちゃん、ゴウ!」
リンは昨日から随分機嫌がよさそうだ。キョウト方面の輸送部隊の護衛で結構ストレスが溜まってたってところだろうか。まあ飯も風呂も不自由だからな。
「お前と組むのも久しぶりだよな」
「ね。あたし達ずっとキョウト方面だったもんね」
キョウト方面といえば、ちょっと前に極東通信(極東支部での出来事をニュース配信する電子新聞)で第6討伐班が取り上げられてたな。アラガミぶっ殺した数じゃ負けねえと思うが、やっぱ極東通信に載ると差をつけられたような気がする。
「そういやこの前極東通信に載ってたな。すげえじゃん」
「ま、あたし達は最高のチームだからね」
ムカつくドヤ顔だな。大体うちのチームだってなあ、―――待てやっぱ無しだ。うちのチームはクソだわ。
「まあ、そこで『あたし達』って言うあたりお前も成長したってことか」
「お、なんだぁ?やるかぁ?」
しゅっしゅっと効果音を口に出しつつ拳を突き出してくるリンを適当にいなしながら装甲トラックに向かう。
―――何かナディアは微妙な顔をしてるがきっとアレだ。俺の卓越した戦術理解に感動して「わたくし達のリーダーになって下さい」とか言うつもりだ。おいおいマイ姐さんを差し置いてそんなことできるかよ。
で、現在俺達ナディア分隊は、装甲トラックの荷台で周辺警戒をしている。同乗してたマイ分隊はちょっと前に別行動になった。天気は晴れで、遠くに雷雲だとか竜巻が見えたりもするがまあそこはいつものことだからな。いい天気なんじゃねえかな。
現在地点は第2支部の南東、約40km。このあたりは元はかなり人口規模の大きい都市で、第2支部をこの辺りに作るって計画もあったらしい。
「南東方向、ザイゴートが見えるな。見られたぞ」
ザイゴートはデカくて羽の生えた黒い風船に、女の上半身が埋まってるような形をした浮遊する小型アラガミで、毒ガスを撒いてくることと目がいいこと以外はクソ雑魚だ。面倒なのは大体他のアラガミと一緒に行動してて、こっちを見つけ次第他のアラガミにもこっちの存在を知らせちまうってことだ。
「確認しました。発見されたようですわね。減速して南東方向に回頭。周辺の反応は?」
『周辺に中型以上のアラガミ反応なし、地中も反応なし』
「北西方向、異常ないよ」
トラックが速度を落とす。俺はザイゴートがふらふら飛んでくる方をじっと見る。ぶっ壊れた住宅街で、2階建ての家がちらほら残ってて見通しが最悪だ。どうだ?
そりゃザイゴートだけってこともなくはないが、普通は別のアラガミが、
いた。
「ヤクシャが2、……3体目を確認」
4mはある直立歩行のアラガミ、ヤクシャ。群れで行動する足の遅いアラガミで、右の腕が砲身になってて、クソ雑魚射程のとろい弾をばら撒いてくる。威力もいまいちだ。
囲まれなきゃ雑魚だし、囲まれた場合はたくさん殺せるってことになる。腕がもう2本追加で生えたヤクシャ・ラージャってのがいて、それが群れのボスをやってることも多い。
そいつらが3体、のそのそとこっちに向かって走ってきている。遊んでんのか?
「こちらからも確認しましたわ。距離はざっと2000、ラージャは見えますの?」
「見えないが―――相殺する!」
家の残骸の一つが紫色に光るのを見た俺は、銃形態に変形させて飛ぶ。紫の極太ビームがトラックに向けて放たれた!ヤクシャ・ラージャの砲撃!
間一髪、射線上に割り込んでトリガーを引く。デカい銃口からデカい音を立てて雑に飛び出るのは放射弾、短射程を面で攻撃するバレットで、銃口からガスバーナーみてえな弾が出る。威力はあるが味方を巻き込みやすい。
目の前が真っ白に焼けて、腕に発射の衝撃が伝わる。
――――――相殺、完了。トラックへの被害も無し。まあこのトラックも2発くらいなら耐えるんだけどな。
撃たれた方向を見る。ぶっ壊れた家が密集してるあたりだ。アラガミの姿はない、てめえ隠れやがったなクソボケ。今からそっち行ってぶっ殺してやる。
「ゴウさん!」
「応!」
ナディアの指示を受けて、走る。剣形態に変形した神機を担いで、アラガミをぶっ殺すために最高速で走る。俺はとにかく早くアラガミをぶっ殺したいし、トラックから離れた位置で会敵できればそれだけトラックは安全になるし、兎に角ヤクシャ・ラージャの砲撃は止めねえといけねえ。
『ヤクシャ・ラージャ1、ヤクシャ3を目標に設定、討伐します。ザイゴートは無視してください』
「了解!」
走る、走る、ヤクシャの射程に入る、横一列に並んで走る3匹の間抜けなヤクシャが弾を打ってくる、脇の下から後方確認、トラックはすでに射線を切ってる、なら俺も、ほとんど掠るような軌道で躱す、弾とすれ違う、最短距離をまだ走る。
『リンさんはトラックが停止するまで待機、安全確認を優先します!ユウコさん、マイ分隊に連絡を!敵がまだいるようなら救援を要請します!』
『了解!』
『了解ィ!』
走る、ザイゴートまであと少し、俺はその奥のヤクシャを睨む、ヤクシャがクソ雑魚ビームを撃ってくる、避けるから当たら、ない!
ザイゴートが大口を開けて飛び掛かってくる、インカムから発砲音、穴の開いたザイゴートが地面に落ちる。ナディアの狙撃だ。やるじゃんけ!
神機の刃を上に向けて突っ込む体勢、3匹のうちのど真ん中、前傾姿勢で突っ込む、ヤクシャどもが俺に砲身を向ける、遅かったな!
「死ねやァァァァァァァァッ!!」
俺の神機は正面のヤクシャの右胸に突き刺さり、身体を構成するオラクル細胞をごっそり吸収した。コアは外したが、そのまま右肩に斬り上げれば砲身になってる右腕が吹っ飛ぶ。これでてめえはただのデカくて柔らかい片腕ゴリラだな!
正面のヤクシャは右肩、切断面を抑えて(アラガミも痛いらしい)膝を突く。両側のヤクシャは、まだ斬り上げた態勢で空中にいる俺に照準を合わせるが、
「だから遅えんだ、よッ!」
空中から倒れてるヤクシャに向けて捕喰形態、伸びた神機が噛みついて、そのままヤクシャを引っ張って、無理やり立たせて盾にする!
「仲間になんてことするんだ畜生共がァ!お前ら人間じゃねえ!」
神機解放、全身に力を漲らせた俺は、狼狽えるばかりのヤクシャの、とりあえず近いほうの右足を切断する。ついでに下腹部にも神機をぶっ刺す。
この感覚だと、コアはまだ抜けない、もっとオラクル細胞を減らさないと抵抗される、どちらにしろこのヤクシャどもにはまだ使い道があった。
「オラぁ出てこいやチンカスゴリラァ!お友達がみんな死んじまうぜ!」
叫んで、一匹だけ五体満足のヤクシャに神機を向ける。お前もお友達と同じにしてやろうってんだよ。馬鹿の一つ覚えみたいに砲身を向けてきた。
実際こいつらは爪も牙もないし力もあんまり強くないので砲撃以外の攻撃方法がない、ので蹲ってたヤクシャを蹴っ飛ばして盾にする。弾着。
さっきはその身を挺して俺を砲撃から守ってくれたヤクシャが、また味方の砲撃から俺を守ってくれる。感動の嵐。―――やっべこいつもう死ぬぞ。人質にもならねえのかゴミカスが。けっ。
とりあえず仲間を2回も撃ったヤクシャの悪い右腕は斬り飛ばしておく。左腕もサービスだ喜べよ。ってなところで、ぼちぼち解放状態が終わる。神機がもっと、もっと、と怒鳴ってくる。
「しゃあねえか」
2番目に右足を切り飛ばしたヤクシャが右足を再生させていたので今度は右肩のあたりに狙いをつけて捕喰する。神機はうめえうめえと喜んでいるが、ヤクシャ・ラージャがどこにいるかわからない状態ではあまり気を抜いてもいられない。
「チンカスゴリラって何!?」
『リンさん!?』
そこに鎌状態の神機を構えたリンがやべえセリフを叫びながら走ってくる。お前頭大丈夫かよ。そりゃナディアもびっくりするわ。
リンはそのまま神機を振りかぶり、助走をつけて両腕のないヤクシャの左肩から胸のあたりまでを切り裂いた。そのまま空中で一回転して着地、周囲を見回しながらさくさくとヤクシャに鎌を刺し始めた。なんだこいつ。
「ラージャは?えい(ざく)」
「まだ殺すなよ、こいつらはラージャ野郎を誘き出す餌にするからな」
「じゃあ悲鳴とか上げさせようか。えいっ(ざくっ)」
俺は神機を銃形態に変形させてリンに向ける。引き金を引く。
「ほれ」
「はーい」
リンはヤクシャを程よくズタズタにしていた手を止めて、鎌の基部でそれを受ける。神機連結解放、リンクバースト。アラガミのオラクル細胞とGE(と神機)のオラクル細胞を混ぜてリンクバースト弾にして渡すことで普通のバーストよりすげえバーストができるっていう、第2世代神機のキモになる機能。
「ゴウにもあげるね」
「あいよ」
バースト状態でリンクバーストを受けることでなんかバーストレベル2っていうのになってGEと神機の性能が跳ね上がる。その状態で別の奴からリンクバースト弾を受け取るとレベル3になってこれはすげえ気持ちいい。あとレベル4になると身体が爆発して死ぬらしいのでリミッターが付けられてるんだとか。
この状態だと目とか耳も良くなるから、これでラージャが見つかるといいんだけどな。
『動かないで!』
耳元のインカムからナディアの声と発砲音、それと左手前方、廃墟から着弾の音、野太いうなり声。よろけたヤクシャ・ラージャが、廃墟の陰から身体を半分出していた。
『ゴウさんは前に出て、リンさんはコアを抜いたらゴウさんに合流してください!』
「おいおいよく当てたな」
「すごいでしょ!」
「マジですげえッ!」
神機を担いで、今度はヤクシャ・ラージャに向けて突進する。ヤクシャ・ラージャは腕が4本の一回り大きいラージャで、爪を使って攻撃してきたり、砲身の性能も上がってるのか結構色んな砲撃をしてくるそこそこ強いアラガミだ。
息を吸い込む。ぶっ殺す。
「ッ殺ァアアアアアアアアアア!ひひひっ、俺だ!俺を見ろ!ウスノロのゴリラァ!!汚ったねえインポビーム撃ってみろよシコ猿がよお、その小っちぇえ右チンポは飾りかよぉ!?―――当たらねえぞ、目ん玉ついてんのかボケ!こっちだっつってんだろ猿、猿?お前猿なのかのかおいこらアラガミ野郎ッ、こっち来いよビビってんのか腰抜けェ!」
ヤクシャ・ラージャは俺に砲身を向けて乱射してくるが、そんなもん俺にもリンにも当たらねえ。だったらってってチャージしようとしたってなぁ!
ヤクシャ・ラージャの肩に着弾、爆発。ナディアの狙撃だ。
『援護しますわ』
「助かるぜ」
『あとその汚い口を閉じないと次はどちらに当たるか分かりませんわよ』
「了解ッ、ぶち殺しますわよオッ」
『は?殺しますわ』
気持ち上品に叫んで、残りの距離を一気に詰める。ヤクシャ・ラージャは砲撃をやめて爪で迎撃するつもりだ。大振り、右からくる爪の攻撃を避けて懐に飛び込む、砲身を蹴っ飛ばして太腿を切り裂く、浅い。さすがに硬くてヤクシャみたいにはいかねえか、―――つまりたくさん斬れるってことだな。
今度は振り下ろしの爪が両側から迫ってくる、ので刀身を横にして受け止める。馬鹿力に背骨をやられそうになるが、今の俺はリンクバーストレベル2だ!何とか耐えてこのままインパをぶち込んでやるぜ、とその時。
俺が受け止めてるヤクシャ・ラージャの両腕の内側が紫に光った。馬鹿め今はお前自身の両腕を盾にして砲を使わせない体勢、
―――油断した、こいつ自分の腕ごと射撃するつもりか!
「させないよ!」
青い光。リンのレーザーか、と思った瞬間、両腕の圧力が消える。ヤクシャ・ラージャは爪のない方の左手で(というか顔を抑えられる腕が一本しかねえのか)顔面を抑えてのけぞってやがる!一足遅れて発射されたヤクシャビームは空の彼方へ!
「ナイスゥ!オラァ!(ズドン)インパァ!」
隙ありってことでインパをぶち込む、狙いは力の抜けた右の腕だ。
狙い通り、ヤクシャ・ラージャの右腕は爆発に包まれてズタズタになった。ついでに爪も全部吹っ飛ばしてやった。ここが勝負時だ。
「手前の肉を寄越せ!ですわよ!」
柔らかく焼けたところに再びの捕喰形態、俺のブレードを神機本体の黒いオラクル細胞覆って、ヤクシャ・ラージャの右腕に噛みつく!オラクル細胞が流れ込んでくる!力が漲る!
「リン!」
「貰うよ!」
俺は噛みついたままの神機を引っ張って、ヤクシャ・ラージャの体勢を崩す。即座に神機を変形させて、リンに向かってリンクバースト弾を発射。
「神機連結解放ッ!―――咬刃……展開ッ!!」
ずるずると音を立てて、リンクバーストしたリンの神機から神機本体が染み出してくる。
捕喰形態、ではない。形成された捕喰口の下顎は神機の基部に、上顎は果てしなく伸びていく。
鎌、ヴァリアントサイズ型の神機の真骨頂がこの咬刃展開形態。通常の神機の捕食形態の変形版で、通常の神機で形成される顎の部分をより広く展開する(限界まで開いたホチキスみたいな感じだ)ことでより多くの範囲のオラクル細胞を一気に削り取ることができる。
まあアラガミが固いと弾かれて使えないので、ある程度弱らせておく必要はある。
ヴァリアントサイズ型はこの展開機構があるから、神機適性の高い奴しか使えない貴重なタイプの刀身パーツってことらしい。
リンの咬刃展開を確認して俺は跳ぶ。神機をもう一度剣形態に戻して、ヤクシャ・ラージャの肩を蹴って、空中から頭頂部に狙いを定める。
こうやって高く跳ぶのにも理由がある。
咬刃展開攻撃の最大の問題点。
攻撃範囲が滅茶苦茶広いから滅茶苦茶味方を巻き込む。
「オラァ!(ズドン)インパァ!」
必殺のインパはヤクシャ・ラージャの頭部を粉砕。よく考えたらこれでとどめになることあんまないし必殺ではないのでは?とにかく俺はその反動で更に高く飛ぶ、ヤクシャ・ラージャは膝と手を付く、そしてそこに、
「食らえぇぇぇぇぇぇ!」
横殴りにリンの咬刃が叩きつけられる。一気に腕と足からオラクル細胞を吸収されてヤクシャ・ラージャが苦し気に痙攣する。
まだだ。
「もう、いっぱぁぁぁぁぁぁつッ!」
ヤクシャ・ラージャを切り裂いて瀕死にした咬刃が、リンを中心に一回転して、もう一度引き裂きに戻ってくる。遠心力を乗せた超威力の一撃!
「死・ねぇえええ”え”え”え”え”え”え”ッ!!」
一度は斬られた腕と脚も、くっついて再生を始めていたところだったが、再生は間に合わない。2発目のリンの攻撃は、ヤクシャ・ラージャを行動不能にするだけのオラクル細胞を削り取った。
ヤクシャ・ラージャは力を失って、大きな音を立てて地面に倒れた。
リンの神機が縮みながら引き戻されて、がちん、と音を立てた。
「完・全・勝・利ッ!」
リンがピースサインを決める、丁度そのタイミングで俺も着地して一息つく。後はコアを抜けば完了だ。
『アラガミ反応消失を確認、リンさん、終わりましたの?』
「いえぁ!」
「ヤクシャ・ラージャの討伐完了、コアは今抜いた。これでとりあえず敵は全滅だ」
「ナディアちゃんもお疲れ様!」
『ありがとうございます。でも周辺警戒を怠っては駄目ですわ』
そう言うナディアの声も、ほっとしたような感じだ。さては急なメンツの指揮で緊張してやがったな。マイ姐さんもいねえしな。
けっ舐めやがって。適当にアラガミの勢力圏のど真ん中に放り込まれたって俺は死なねえぞ。
『ではマイ分隊と合流後、次のアラガミを探します。今度はこっちから先制できるのがいいですわね』
俺とリンは装甲トラックに向かって歩き始める。俺はトラックがどこにあるか知らないからリンが先頭だ。
まずは回収したコアを神機から抜かなけりゃならねえ。いつまでも神機の中に入れてたら神機が消化を始めちまう(独自設定)からだ。
「ねえ、マイちゃん達はどうしてるのかな」
『戦闘があったようですが、全員怪我もないようです』
「お昼ご飯はみんなで食べられるかな?」
『ええ、折角ですし、皆さん揃って食べたいものですわね』
『おいィ、喋ってないでとっとと戻ってこい、家に帰るまでが任務だぞ!』
インカムから戸倉さんの怒鳴る声がする。おっかねえ。
俺は前を歩くリンを見る。
上機嫌で、神機を大きく振って歩いてる。第3大隊にいた頃と変わらない、能天気なやつだ、いや待て昔はもうちょい知性が無かったか?
視線に気づいたのか、リンは神機を持った手を後ろで組んで、こっちを振り返って、上目遣いでにへらと笑った。
「ねえ、ゴウ」
「あ?」
リンは後ろ向きに歩きながら、小首を傾げて言った。
「それでチンカスゴリラってどういう意味?」
「―――知らね。アーロンが言ってた」