装甲トラックからは適当なところで降りて、俺達は目標の廃港付近にやってきた。
あまり海に近づきすぎると落ちた時大変だから、海からはそれなりの距離があるけど、それなりに海の匂いがしていた。
『こちらナッシュ、こっちは問題なし。そっちは付近にアラガミ反応がある。気を付けろ』
インカムからナッシュさんの通信。
装甲トラックは安全地帯から索敵を開始。それを聞いて俺は周りを見回す。
「おいゴウ何か見えるか?」
「倉庫、とコンテナだな。間抜けな顔したアラガミも見えるぞ、って何だハヤテか。紛らわしいツラしやがって。ついうっかりぶった斬るところだったぜ」
「死に腐れ」
元港ってことで地面は平ら、気候変動の影響で建物はまばらに残っている程度だが、それでも視界は今一つ。事前情報じゃあこの辺りを縄張りにしてる大型アラガミがいるって話だったが、これじゃあ探すのは手間がかかりそうだ。
「で、この辺だろ。分かれて探すのか?」
「いや、折角だから向こうから来てもらおうと思ってる」
ハヤテに聞かれて、マルコはへらへら笑いながら答える。こいつ今日はトラックのこと考えなくていいからすっかり気が抜けてやがる。いつもはトラックの安全のために色々と気を回してるが、今回のトラックは護衛付きだからな。
「よーし、大きな声で呼んでみよう」
「来てもらうってそういうことか」
ハヤテがうんざりした調子で言う。
多分マルコが言ってるのは、とにかくデカい音を出して周りのアラガミを呼び集めちまおう、ってことだ。確かにこの死角の多い場所でちまちまアラガミを探すよりは楽なんだろう。流石はマルコ、考えることがスマートだ。
マルコがこっちを見る。
やれってことか。仕方ねえ。俺は息を大きく吸い込んだ。
「さあ出て来いアラガミども、お前らをぶっ殺しに来てやったぞ!」
―――やったぞ!が大きく反響して、俺の耳に戻ってくる。
1秒、2秒、3秒、・・・・・・反応なし。アラガミの気配はない。
「来ねえな」
「そりゃ、ぶっ殺されたくはねえんだろ」
何でもないようにコフィが言った。
確かに。アラガミからすれば最強GEの俺に近づいてぶっ殺されたいとは思わないもんな。ちょっとばかり知恵は回るってわけか。根性のねえアラガミ野郎め、そんなんで俺と殺し合うつもりか。
だがコフィの言葉にはヒントがあった。つまりこういうことだ。
「俺はアラガミだぁッ!安心しろォッ!」
さっきと同じように、安心しろォッ!が反響して俺の耳に入る。
―――反応なし。アラガミの気配はない。
「声が小さいんじゃないか?」
マルコが言う。多少無責任だと思わなくもないが、こいつのことだからそれなりに成功率はあるんだろう。俺は大きく息を吸い込む。
見せてやるぜ俺の全力ボイス。
「お”れ”は”ア”ラ”カ”ミ”だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺の頼もしいアラガミボイスがぐわんぐわんと廃倉庫の間を反響する。
―――クソが。反応がねえ。
ちら、とマルコに目を向けると、あいつはへらへら笑ってコフィに目を遣った。
コフィは目を閉じて頷くと、ひゅごご、と音を立てて息を吸い込んだ。と思えば上半身が大きく膨れて、いやお前本当に生物学的に人間なのか?
「う”お”ぁれ”ぇは”ぁ、ア”ラ”カ”ミ”だぁぁぁぁぁぁあぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」
爆発、と勘違いしたくらい、コフィの声はとんでもなかった。びりびりと、空気も倉庫も地面も、俺達の身体も奥の方から振動する。
すげえなGEってこんな声も出せんのか、こっちも負けてらんねえな。
俺は神機を地面にぶっ刺して、脚を大きく広げて、腰を落とす。
大きくを吸う。喉の奥で潮臭さを感じる。海のエナジー。
「――――――お”ま”え”はア”ラ”カ”ミ”な”の”か”ぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!???」
頭の血管が切れるくらいに声を出す。
「――――――お”れ”は”ア”ラ”カ”ミ”じゃな”あ”あ”あ”ああああああ”あ”あ”あ”い”!!!」
これはハヤテ。顔を真っ赤にして声を張り上げている。
「――――――お”れ”は”ア”ラ”カ”ミ”な”の”か”ぁぁあああああああああぁぁぁ!!!???」
これはマルコ。お前そんなデカい声出たんだな。
「お”ま”え”は”ア”ラ”カ”ミ”じゃなああああああああああああい!!!」
これはコフィ。叫ぶたびに鼓膜が破れそうになる。
「―――、――――――ッ!!」
「――――――!、――――――ッ!?」
「―――――――――っ!?――――――ッ!!?」
「―――――――――っ!?―――――――――ッ!!?」
突然始まった大声大会は、当初の目的も忘れて、もう何が何やら、終いにはアラガミの声真似なんかもやりだして、何もかも分からなくなって、俺達は大声で叫ぶ。笑いながら叫ぶ。
笑いながら叫んでるとなんか段々マジで楽しくなってきた。
俺達は今世界で一番楽しいGEだ。
『おいトシ何だこいつら狂ってるのか』
『そりゃもう狂ってますね』
『この人たち何でこれで生きてこれたんですかッ!?』
インカムから何か聞こえるがそれどころじゃない。何でだか分かんねえけど久々に腹抱えて笑ってるぞ。ああくそこんなに楽しいなら毎回やってもいいくらいだ。
めきめきめき、がしゃん。
げらげらと笑い転げていたのがどのくらいだったか、何か鉄骨がひん曲がるような音がしたから笑いながらそっちに目を遣ると、廃倉庫を踏み潰したデカいアラガミがいた。
「ハハハ、マジで出てきたよ、ハハッハハ!!」
マルコが神機を手に取って、笑いを堪えながら言う。そりゃこんだけ騒げば出てくるだろ、いや待て作戦立てたのお前だろうが。
「ぎゃはは、―――、っあいつがアラガミかぁ?」
「やめろバカ、くく、あいつがボルグ・カムランだ」
「あいつはアラガミじゃなぁい!」
「やめ、ハハッ、馬鹿っハハハ、ゴウ、この馬鹿ハハハハハッ」
ボルグ・カムラン。大型種で、銀色のサソリに似たアラガミって言われているがどっちかっていうとカマキリに似てると思う。カマキリの鎌を盾に変えて、頭をデカくして脚を太くしてサソリみてえな尻尾をつけて全身ガンメタにすれば完成だ。全然カマキリじゃねえ。
尻尾を振り回して攻撃してくるのと頭から小せえトゲを飛ばしてくる、攻撃力よりも防御力で嫌がられるアラガミだ。とにかく刃が通らねえ。
「―――おいまさか、マジでアラガミじゃねえのか?」
「どう見てもアラガミだぞ」
「何でマジで分かんなくなってんだよお前」
こっちに向かってくるボルグ・カムランを見て、ハヤテが急に怪訝な表情になってそんなことを言った。
俺達はそれぞれに神機を構える。殺し合いの時間だ。
がしゃんがしゃんと、どこから出てるのか分かんねえ金属音を響かせる、ボルグ・カムランとの距離はもうあと50。
俺とハヤテとコフィは同時に一歩を踏み出す、アラガミ野郎をぶっ殺す。
一歩。
爆発的な音がして、コフィが身体1個分前に出る。身体能力が桁違いだ。
二歩。
防御を捨てて大剣を大きく振り被ったコフィの横をマルコのレーザーが通過する。
三歩。
レーザーを口の中にぶち込まれたボルグ・カムランが仰け反る。コフィは一瞬大きく屈んで、大きく跳んだ。俺は右に、ハヤテは左に分かれて側面を狙う。
馬鹿みてえに高く跳んだコフィが、大剣を思いっきり振り下ろす。俺とハヤテは捕食形態を準備、左右の前足に噛みついて、思いっきり引っ張って動きを封じる。
衝撃音!コフィの力任せの振り下ろしは、体勢を崩されつつも一瞬で両腕の盾を構えたボルグ・カムランの盾ごと顔面を凹ませた!相変わらず訳の分かんねえ威力だ。
「ハヤテとゴウはあっちを頼む!」
俺はえぐり取ったオラクル細胞でバースト状態になってるのを感じながら、強化された視力でマルコが指す方向を見る。
もう1匹、別のボルグ・カムランがこっちに向かってきている。
「あいつもアラガミかァ!見たことのないタイプだぜ!」
「見るからに堅そうだな、ふん、こいつは骨が折れるぜ」
神機を銃形態に、まずはマルコとコフィにリンクバースト弾を発射して、届いたかどうかは確認せずに走り出す。手元でがちゃがちゃ動かすと神機がまた剣形態になる。
ハヤテが銃形態で牽制しているのを横目に、全速力で突っ込む。
大型アラガミ2体に挟まれながら戦うってのはあんまり効率のいい戦い方じゃねえ。いつもはその辺で好き勝手殺し合ってるくせに、GEがいるとお互いには目もくれずにGEを殺しにくるのがこいつらだ。できるだけ各個撃破をしねえと、アラガミの攻撃が激しすぎてこっちの攻撃どころじゃねえからな。
ばごん、ばごん。
ハヤテの爆発弾が連続してアラガミの表面装甲に着弾、爆発を起こすが全然効いてねえ。
「おい豆鉄砲全然効いてねえ(パァン)ックソてめえやりやがったな!」
「ケッ」
あの馬鹿こっちに向かって撃ちやがった。とうとうアラガミと仲間の区別もつかなくなったのかクソ馬鹿野郎が。
「――――――ッ!」
後ろに向かって中指を付きたてながら走っていると、背中側から割とヤバ目の圧力。ボルグ・カムラン野郎の盾の振り下ろし。
当然最強のGEである俺が、そんな攻撃を食らうわけがねえ。右肩で神機を担いだまま前転で回避、そのままボルグ・カムランの足元に入り込む。
前転の勢いで立ち上がって、神機を構える。右手で持って、左手はブレード部分を支える。
バンザイの形だ。
ボルグ・カムランは全身を甲冑みてえな殻で覆ってるが、腹の部分はどうだろうな。
「―――殺ァッ!(ずどん)インパァ!」
ぐっ、と身体に重圧がかかる。そういえば上に向かってインパをかましたことは無かったけど、これこんなにキツいのかよ。背骨折れるかと思ったぞクソが。
だがアラガミ野郎にもそれなりに効果はあったらしい、デカい銀色の身体が空に向かって打ち上がっていく。―――打ち上がっていく?
え?あ、こんな飛ぶのか。マジか。
俺は神機を下ろして一瞬だけ呆ける。いやだってあんなに打ちあがるとか思わねえからさぁ。まあ気を取り直して、上空に打ち上げられたボルグ・カムランをぶっ殺さねえと。こっちも全力でやらねえと、コフィとマルコがもう一匹を片付けてこっちに来ちまう。そいつはつまり、取り分が減るってことだ。
あれっ、両脚が、あれ。
駄目だ埋まってやがる。
「ぎゃはッ、馬ッ鹿かてめえ!」
「知らねえよなんだこれ!」
ハヤテがげらげらと笑って、空中で勢いを失ったボルグ・カムランに向かってチャージグライドをかます。
大推力がボルグ・カムランをもう一度打ち上げるが、神機はいまいち通ってねえなこれ。
だがそれよりも大事なことがある。
「おいゴウ、こいつら」
「ああ、空中戦には慣れてねえみてえだな」
ハヤトと一瞬目線を交わして、笑い合う。
空中のボルグ・カムランは銀色の脚をわさわさと動かして、着地の体勢を取りたいらしい。
つまり落ちながらは戦えないってことだ。雑魚が。
「オラァ!(ずどん)インパブーストァ!」
俺は足をかがめて、ジャンプと同時に足元に向けてインパを噴射した。
「俺ァ空飛べんだよクソ雑魚アラガミ野郎が!」
『マジかよあいつとうとう人間辞めやがった』
『おいテッド、絶対試すなよ』
『ええ……、いや試しませんよ』
俺はインパの反動で焼いた脚をもりもり回復させつつ空中を走る。
「インパ(小)ァ!インパ(小)ァ!」
「叫ばなきゃ!出せねえのかそれ!」
細かくインパを発動して軌道修正する俺に、細かくチャージグライドでジグザグに飛ぶハヤテが何か言ってくる。お前それ何出して飛んでんだ?
そんなことを考えてるうちに慣性飛行で空中のボルグ・カムランに追いついた。
俺は足を大きく開いて、大きく体を捻って振り被る。
「オラァ!」
アラガミの下から振り抜く。鈍い金属音。
「まあ別に空中だからって柔らかくはねえな」
「そりゃそうだよな」
神機を握る右手に痺れを感じた俺と、まだ脚をわさわささせてるだけのボルグ・カムランと、それからハヤテが落ち始める。どうにかして空中で殺したいんだよ俺は、だってそっちの方がかっこいいからな。
姿勢制御のためにインパを一発。身体が流れて、肩がハヤテにぶつかる。
ぶつかって、そのまま俺達は少し左に流れて、
「あ、おい」
「おう」
ハヤテと目が合う。
付き合いの長い同期は他にもいるが、こういう時に考えてることが分かるのは大体こいつだけなのは、やっぱ俺とこいつがアラガミを殺すことしか考えてねえからなのか。
よしそれじゃあ試してみるか。あいつが地面に着く前にだ。
極小のインパを2回入れて、槍を構えて降下するハヤテに背中を合わせる。これかなり収まりが悪いけど大丈夫なのか。
両腕と神機は体の前に。インパの準備だ。
よし。
「いいぞハヤテ」
「こっちもだ」
神機に力を込める。
身体の中のオラクル細胞に火をつけて神機に流し込む。
正面を向いたインパ発射口が熱を帯びる。オラクルの火花が散る。
「一発で決めようぜ。3」
「お前がミスらなきゃな。2」
「「1」」
「インパァ!(ずどん)」「オラァ!」
残りの燃料が全部、発射口から出ていく。すげえ反動が俺達を下に加速させて、空に向けた発射口から、炎を長く引いて俺達は落ちる。
背中を使ってハヤテを押さえる。押し付ける。
ハヤテは、背中越しだから全体は見えねえけど、多分投槍みたいな構えだ。原始人かよ。
ハヤテの神機が展開して、穂先の手元側から火花が噴き出す。火花が俺の目に入ってくるのどうにかしてくんねえかな。正直さっさと終わらせてほしい。
「ぶち抜けェ!!」
「くたばれッ!!」
激突。
俺のインパの推力をプラスしたハヤテのチャージグライドは、一瞬でボルグ・カムランの装甲ごとど真ん中を貫通!
俺とハヤテはそのまま、アラガミの真ん中に空いた穴を抜けて地面に激突!痛えなクソが最低の作戦だった!
「おいマルコ、空から馬鹿が降ってきたぞ」
「幻覚だよきっと。いくら馬鹿だからって空から降ってきたりはしないでしょ」
「いや分からんぞ。空から降ってくるくらい馬鹿だ、あいつらは」
「いいかいコフィ、もしそうだとしたら、この馬鹿みたいなやり方でアラガミと戦った挙句馬鹿みたいな勢いで降ってきて、馬鹿みたいに半分地面に埋まってるこの馬鹿どもが、よりにもよって僕らの仲間だってことになっちゃうんだよ」
「埋めとくか」
「そうだね」
多分一瞬意識が飛んでたらしい俺は、身動きが取れないまま目を覚ます。なんだこれ、全身クソ痛えうえに上半身が何かに挟まってうまく動かねえ。
近くにマルコとコフィがいるみたいだが何言ってるかはいまいち分らん。とりあえず動く脚を適当に振り回すことにした。俺はここだぞ。
「見てよこれ。GEっていうよりアラガミだよ」
「おいゴウ、あんまり動くなよ」
突然脚を掴まれた、と思ったら次の瞬間には上に引っ張られていた。俺の脚を掴んで逆さにぶら下げたコフィが俺のことを見下ろしていた。
「へっへへ、久しぶりだな。見たかさっきの?空中でぶち抜いてやったぜ」
「ああ色々初めて見たよ。きっと博士も喜ぶんじゃないかな」
「っていうか何でコフィは俺をぶら下げてんだ?俺は洗濯物じゃねえぞ」
「何でだろうなクソ馬鹿野郎」
さかさまになった視界の端の方に何かがある。地面に突き刺さってる人間の脚だ。人間って言うかこれハヤテの脚か。
「あっははは、何だよあいつ勢い付きすぎて埋まってんのか、間抜けだな」
「まあお前と同じくらい間抜けだぞ」
「ぐえ」
コフィが急に手を離すもんだから俺は頭から地面に落ちた。もうちょっと優しいやり方があろうもんだが、気が利かねえ野郎だ。
コフィは俺を掴んでた手でハヤテを引っ張り出す。引っ張り出されてすぐ手を離されたハヤテは頭を振って周りを見渡した。
「んあ?お、何だ?うぇ」
「お目覚めかい、ハヤテ」
「アラガミは?」
「ああ、」
ばん、ばん、ばん。
マルコは目をつぶって集中した後、無造作に銃形態の神機から3回、別の方向に発砲した。目をつぶったまま撃たれたそれは、瓦礫の奥の方に消えていった。
「もうすぐ来るよ」
マルコが適宜アラガミを釣ってくれるから、俺達は何も考えずにアラガミを殺すことに集中できた。気づけば俺達は港を離れて馬鹿デカい駐車場でアラガミと殺し合っていた。多分マルコがコントロールしてるんだろう。今戦ってるのは数だけは多いオウガテイルと、その変異種のヴァジュラテイル(電気を飛ばしてくるオウガテイル)、中型種のグボロ・グボロ(太った魚みたいなアラガミで頭に大砲がついてる)だ。
「お”お”お”お”お”お”お”お”ぉぉぉォォッ!」
「うえっ、こっちに飛ばすな、よっ」
さっきからコフィが叫ぶたびにすっげえ勢いでアラガミの肉片が飛び散ってて職場環境が最悪なんだよな。
ここぞとばかりにコフィが神機をぶん回してオラクル細胞を回収しているのは、こいつのイカれた趣味のせいだ。限界まで威力を上げた砲撃を『砲撃の女神』に捧げる、とか言ってて正直気持ち悪いんだけどまあ俺達は聞かなかったことにしてる。でも『砲撃の女神』の信奉者って結構いるらしいから世も末だぜ。
『おいテッド、一旦銃で援護してくれ』
『了解です!』
『ナイスだ!よし、そいつ捕喰してバーストを維持しろ』
『分かりました!』
俺達が離れた戦場では藤川先輩達が交代で回収作業をしてる。今はトシとテッドが死骸に惹かれてやってきた小型アラガミをぶっ殺してることろだ。アラガミはくたばるとその死骸が霧散、というかオラクル細胞を空中に撒き散らして消えるんだが、ボルグ・カムランの場合は針とか両腕の盾とか尻尾の筋肉とか、分化が進んでる部分が残ることがある(独自設定)。
『うっし回収完了ォ、ナッシュさん、そっちに戻ります』
『オウガテイルの素材はいいんですか』
『ああ、オウガテイルなんかどこにでもいるからな』
『こちらナッシュ、戻っていいぞ。ハヤテ、あいつらが戻り次第交代だ。ヒロ、最後まで気を抜くなよ』
そういう分化した部分も放っとくと霧散したり他のアラガミに食われたりするからそれまでに回収班が回収することになってる。
今回は防衛班の3人の内2人が回収、その間に俺達が交代でトラックに戻って神機からコアの抜き出し作業をする。神機の中がアラガミコアで満杯になると神機が古いコアから順番で消化しちまう(独自設定)からだ。
『マルコ、こちらナッシュ。そろそろ誰か神機が満杯になるんじゃないか』
「次はコフィかな、」
「了解、だが一発撃ってからだ」
ボルグ・カムランをぶっ殺した後、マルコがどこからか呼び出したザイゴートと中型種シユウ(デカい人間の肩に鳥の翼をつけたようなアラガミで飛ぶ)の群れをぶっ殺してコアを抜いたところでハヤテの神機が満杯になったから、今ハヤテはトラックに戻っている。
「あ、ちょうどいいのが来てるね」
マルコが何かに気付いたらしい。俺には何も見えねえけど、マルコが言うならそうなんだろう。言われて少し周りに気を配れば、なるほど少し気温が下がってるな。じゃあプリティヴィ・マータか。
「これはデミウルゴスかな。そのあたりの地面から出てくる。コフィ、一発で決めてくれよ」
「任せろ。跡形もなく消し飛ばしてやる」
「コアだけは回収するからね」
俺は神機を銃形態にして、コフィにリンクバースト弾を渡す。マルコも渡して、これでコフィのバーストレベルが3だ。
「じゃあ今のうちに小型共を集めようか」
「了解、おりゃっ、よしそこから動くんじゃねえぞアラガミ共、」
めりめりと地面が盛り上がってくる、その周辺に小型アラガミを集める。俺は捕食形態でヴァジュラテイルを一匹、引っ張って投げ飛ばす。投げ飛ばしたヴァジュラテイルの上に、同じようにマルコがオウガテイルを投げ飛ばすと、馬鹿なアラガミ共は目の前にあるものに噛みつく習性があるので共食いを始めた。
「グボロも追加だ、ぶっ潰れろ!」
「出てくるよ、コフィ!」
地面の盛り上がりはさらに大きくなって、バキバキと、アスファルトを突き破って真っ黒な大型のアラガミが生えてくる。
ずんぐりむっくりな黒い巨体はデミウルゴス、カバみてえな身体にキリンの首、そこにヤギの頭をつけた大型種で、体表が異様に硬い。異様に硬いから移動するときは前足に切れ目が入って、そこから柔らかい筋肉っぽいものを伸ばしてリーチを稼いで這いずるみたいに動く。そこが弱点。あと冷気を出して攻撃してくる。
「射線上に入ったな」(詠唱開始)
まあ今回はカモだ。さっきから少し離れた位置で『砲撃の女神』に祈りを捧げてたコフィ(祈りの姿勢は仁王立ちで横に構えた神機を両腕で突き出すポーズだ)は、デミウルゴスの咆哮を聞いて、その金色の眼と視線を合わせて。そして。
コフィがゆっくりと神機を構える。圧縮しすぎたオラクルエネルギーが、砲口から太陽みたいに強い光を放つ。
俺とマルコは急いでアラガミから距離を取る。
ひっくり返ったグボロ・グボロとそれに潰された小型アラガミ共は身動きが取れない。
「射線上に入るなと女神も仰っている」
デミウルゴスは一歩を踏み出す。前脚の、手首位の位置から弱点の筋肉が露出する。
でももう弱点も何も関係ない。
「この一撃を女神に捧げるゥ!オ・ラ・ク・ル・バスタァァァァァァァアアアアア!!!」
爆音。
閃光が眼を焼く。
砲口よりも明らかに太いビームが、コフィの神機から迸る。
「薙ぁぎ払えぇえい!!!」
がりがりと、発射の勢いで地面を砕いて後退するコフィが、デミウルゴスを完全に消し飛ばさないように、神機ごと身体をゆっくり旋回させる。
言葉の通りに、薙ぎ払う。
何とか慣れてきた視界の中で、デミウルゴスは首と前脚が吹き飛んで何か黒い塊になってるしグボロ・グボロは腹鰭と尾鰭しか残ってねえし、ヴァジュラテイルとオウガテイルはどこに行ったんだ、と思ってたら薙ぎ払うビームに当たった別のオウガテイルが消滅した。
俺は地面に這いつくばる。しゃがむんじゃなくて臥せるんでも無くて、マジで顔を地面に押し付ける。だってあんなもん当たったら死ぬからな。コフィはいつも、一応味方を巻き込まないように少し上に向けて撃ってるとか言うけど正直アテにならねえと思ってる。
「熱っつ、熱、熱い、死ぬ死ぬ死ぬ!」
ビームが俺の身体の上を通過してる、と思う!多分余波で背中が熱い!めっちゃ熱い!毎回思うんだけどこれ一般GEなら死んでるからな!
とか考えてたら目の前にオウガテイルの脚、というか足だけになったオウガテイルが転がってくる、対応を間違えれば俺もこうなる、間違いなくこいつが一番の脅威だ!
「死にたくねえ!」
滅茶苦茶長かった一瞬が終わって、背中の熱が引いていく。命の危機は去った!生きてる、俺、生きてるよ!
「わあ生きてるてめえコフィ!危うく背中が溶けるところだった!」
「ああ、死ぬほど気持ちよかったぞ」
「マジで?じゃいいか」
俺は一息ついて、辺りを見回す。
コフィを中心にして、扇状に、というかコフィより前にあったものがほとんど何もなくなっていた。その地獄に向かって、やり切った顔をしたコフィがゆっくり歩きだす。デミウルゴスとグボロ・グボロのコアを抜くつもりだろう。高熱で歪む大気の中を、馬鹿でけえ神機を担いで悠然と歩く姿を見て、俺はまるでこの世の終わりみてえなGEだなと思った。
「残りは小型ばかりだね、よし、追加するよ」
マルコがまた明後日の方向に射撃した。かなり遠いが、あれはザイゴートか。
じきに新しいアラガミがやってくる。
「今度は俺の取り分もあると良いんだけどな」
「ハヤテが戻ってきたらコフィが交代かな。あと幾つくらい食べられる?」
「大型なら2つは入らんぞ。中型なら3つはいけるか」
「こっちはまだ大型3つはいけるな」
「了解、じゃあもうちょっと追加しようか」
立て続けに3発、遠くの草むら、ぼんやり見える廃屋、何もない空間に射撃。
射撃音が空に抜けて、俺達は誰も喋らない。
少し離れた海からは、風が吹いて海の匂いがしていた。
俺は神機を担いで、脇腹とアキレス腱を伸ばす。
さっさと来やがれ、アラガミ共。今度こそ、山ほどぶっ殺してやるぜ。