結局あの後交代でアラガミをぶっ殺しまくって、任務開始から11時間でトラックに積める場所がなくなったんで俺達は帰還した。
途中でテッドがぶっ倒れたが、まあ新人にはよくあることで、そのうち勝手にうまくやれるようになるって俺達は解ってる。第3大隊じゃあんまり長時間の任務はやんねえからな。それにぶっ倒れたとはいえほとんど一人でシユウをぶっ殺せるくらいの腕はあるんだから大したもんだ。
時刻は21時。
行きより大分狭くなったトラックで、俺達は思い思いに過ごしていた。
コフィがトラックの上で見張り、マルコは報告書を作りながらテッドと話して、藤川先輩とナッシュさんは運転席にいる。
俺はハヤテとトシとカードに興じていた。大貧民だ。負けた奴が運転席と屋根に合成コーヒーを差し入れに行くルールだ。
「つーかさあ、ブラッドアーツ?感応波?」
トシが場の6の上に7を重ねて出す。
「全然目覚めねえんだよ」
「あー、あれな」
ハヤテの番、9が2枚出てくる。俺はその上にJを重ねる。
感応波。GEとかアラガミから発生する何か特殊なエネルギー。オラクル細胞に命令を送る機能があって、強い感応波はアラガミの細胞に上書き命令を出せる、とか何とか(独自設定)。俺達も体内の細胞に感応波で命令してるから、逆に感応波の強いアラガミ、感応種とか相手だとGE側が金縛りにされちまったりする。
だから基本的にGEは感応種と戦えないんだけど、なんかGEは突然感応波の出力が上がって、体外に感応波を出したり感応種の金縛りのレジストができるようになったりする。これを感応波が目覚める、とか言うってウォン先生が言ってた。
「死にかけりゃ使えるようになるんだっけか」
「死にかけずに使えるようになりてえんだよ」
再びトシの番、今度はパス。
あとGE同士がテレパシーみたいなことをしたり、感応波を纏わせた神機はアラガミによく効くってのがあって、感応波を攻撃に使うのがブラッドアーツだったりブラッドバレットって呼ばれてる。実際かなり効く。
「お前らもやっぱ死にかけたんだろ」
「まあな」
「逆にぶっ殺してやったけどな」
ハヤテのターン、Qが場に出る。できればAまで出させておきたいんだが、こいつ持ってんのかな。
第一大隊、討伐班は拠点から離れて戦うことが多いから、GEは全員が感応波に目覚めてる。まあ感応波に目覚めてから配属されるってことだ。
「楽に使えるようになんねえかなー」
俺は虎の子のKを切る。これであと1枚のK以外はクソ雑魚だ。
感応波に目覚めるかは個人差があって、全体の3割ってところだし、15歳の振り分けの時に感応波が出せるGEはあんまりいないって話だ。俺達の世代は俺とハヤテとリンとアーロンとナディアが配属時には感応波に目覚めてたから、何か黄金世代、とか呼ばれてるらしい。すげえなさすがウォン先生だぜ。
「そういや藤川先輩は感応波、目覚めてんだろ」
「ああ、ブラッドバレットが使えるってさ。キョウトで死にかけた時に使えるようになったって。はー、俺も金が欲しい」
トシはまたパス。
感応波に目覚めると第2大隊では昇格して給料も上がらしい。あと運がいいと討伐班に配属されて、討伐班は防衛班より給料が良い。死亡率も高い。
「そういやテッド、お前は?」
「僕もまだです。というか、僕らの世代はまだ誰も」
ハヤテがマルコと話をしていたテッドに話を向ける。お前良いから早く切れよ。切るのかよ。クソが。俺がパスして、ハヤテが今度は4を出す。
「お前もやるか?負けたらコーヒー係な」
「いや、負けなくてもやりますよ後輩なんですから」
俺は重ねて5。
テッドは立ち上がって、コーヒーポットのほうに歩きだす。足震えてるけど大丈夫か。
「じゃあ悪いけど僕にも貰えるかな。まあ感応波なんて、これから討伐班やら防衛班やらの任務に同行するんだから、目覚めるチャンスはきっとあるさ」
「あー、じゃあ俺も、たまにはアーロンに同行すっかな」
トシは8切り。
「あ?俺達でいいだろ」
「死にかけるなら丁度いいぞ」
「だから嫌なんだよ」
トシはうんざりした顔をして、2を2枚出して、最後に残った3を切った。
オオサカ本部に帰還した俺達第7討伐班はまず神機をメンテに出して、風呂に入って食堂に集まった。同じような任務帰りやこれから任務に行く連中で賑やかな食堂で、たらふく飯を食おうってハラだ。散々アラガミを食い散らかしたが、バランスのいい食生活ってのは大事だ。
「そういやマルコ、博士のとこには行かなくていいのか」
「報告書はもう出してるからね、戦闘記録やら神機のログなんかも確認して、となると、あの博士でもまあ、明日かな」
俺がそうやって聞くと、マルコが嫌そうに答えた。つまり明日は呼び出しか。というかお前帰還中に報告書全部まとめたのか。すげえな。
俺達は連れ立って歩く、食券の販売所に行くと周りのGEが自発的に順番を譲ってくれる。なんだよみんないい奴だな。
「第7だ、戻ってきたのか。全員揃ってるぞ」
「朝から一日中戦ってたんだろ、何でピンピンしてんだよ」
「さっき搬入所で見たぞ、ボルグ・カムランの死骸が運ばれてた。ありゃざっと4体分はあったぜ」
「俺、シユウの腕とラーヴァナの頭が入ってくのも見たぞ。いくつもだ」
「マジで一日中戦ってたのかよ、狂ってやがる」
「オヴェスト博士からの任務だって話だぜ。博士が壊したGEって両手の指じゃきかないってマジなのか」
「ああ。遠藤と早川も実験失敗であの性格になったらしい」
「でもあの中で一番ヤベえのがマルコさんだ」
「アナンじゃねえのか、あいつこの前ヴァジュラと戦ってたが、完全にバケモンだったぞ」
「よく考えろよ、他の二人だって十分バケモンなのに、全員マルコさんに従ってるんだぜ」
「確かに。ああ見えてまともじゃねえんだな」
俺達は模範的なGEで、滅茶苦茶最強なうえに出撃頻度もいい感じだから他のGEから一目置かれてる。こうやって普通に飯食ってるだけで噂されるのも有名人の辛いところだな。何言ってるかは全然聞こえねえけど。
「明日何する?」
「僕は、ハァ、博士のところに顔を出そうかな。誰か代わってくんない?」
「嫌だ。オレはそうだな、メンテが終わるまでアーカイブで映画でも漁るか」
「俺だって嫌だ。・・・・・・朝、メンテの具合見てから考える」
明日の予定について聞くと三者三様の答えが返ってくる。今回は長丁場の戦闘だったから、明日の午前中は少なくとも神機のメンテだってのは間違いない。長引けば夕方までかかるし、そうなったら明日は出撃できない。
適合する別の神機を引っ張り出してきて予備のパーツ付けて出撃するってのもなくはないけど、あれ申請とか調整とかで時間取られる(独自設定)んだよな。
「俺さあ、ウォン先生にヒロシマ用のフノスを見に行けって言われてんだよ。感想文も書かなきゃいけねえんだけど誰か一緒に行かね?」
「何だそのつまんなさそうな課題」
「知らねえ。けど期限がそろそろなんだよ」
実際どうすっかな。そりゃ俺だってそんなめんどくせえ社会見学をやるくらいなら外で元気にアラガミと殺し合ってる方がマジで楽しいんだけどな。ウォン先生の言う事だしな。
考えつつも手は動く。合成タケノコの入った合成肉の炒め物を口に放り込んで、合成スジ肉は相変わらず酷え味と食感だ、噛み砕いて合成牛乳で流し込む。合成じゃないコメとこれまた合成じゃない豆腐に合成醤油をぶっかけて、野菜とも野草とも知れねえ緑色の何かもついでに口に押し込む。飲み込む。
「ドックは入るのに時間がかかるだろ?社会見学ですって間抜けな説明だってしないといけないし、こんなに気乗りしないのはなー、流石にウォン先生の言う事でもなー」
「現場で誰か知り合いが働いてるってことはないかな」
「あ?あー」
言われてみれば確かに。第3に入る前につるんでた連中には、何人か工員になってたのがいたはずだ。まあ、あの時はGEになるか工員になるか死体になるかしかなかったけど。流石に工員になった連中はまだ死んではねえだろうしな。
「ちょっと聞いてみるか」
「おう、そうしろ」
「誰に聞けばいいんだ?」
「知らねえよ」
コフィの野郎、さっきから酒ばっかり飲んでまるで役に立たねえ。こういう時はマルコに限る。俺は酸っぱい匂いの得体の知れないスープを飲んでるマルコに視線を向けて助けを求める。
「朝、見学の申し込みをするときに言ってみたらいいんじゃないかな。もしゴウやハヤテと一緒に育った子たちがいれば、ってね。そしたら昼休みとかにでも会わせてくれるんじゃないかな」
「サンキューマルコ」
「そういうことなら、俺も行くぜ。久々にあいつらの顔が見たくなった」
やっぱりマルコは頼りになる、そう思っていたら生の葉っぱを食ってたハヤテが乗り気になってきた。
「おい、明日はちゃんと俺を起こせよ。んで、空振りだったら許さねえからな」
「何でお前そんな偉そうなんだバカ」
クソ馬鹿野郎は自分で起きる気がないらしい。マジかよこいつ。
「!」「ふん」「へえ」「おっと」
酒を飲んでたって分かる。
気づいたのは同時だった。
俺達が和やかにお食事をしながらお話してる食堂の、空気が変わった。
戦いの気配だ。
違うな。誰かヤバいGEが感応波を飛ばしてやがる。なかなかの圧力だ。おいおい、俺達のお楽しみ空間で何てことをしてくれやがるんだ。一気に酔いが醒めちまった。折角の楽しい食事が台無しだぜ。
「ゴウ」
「ああ」
言われなくても、こういう時は俺の出番だ。理屈はよく分かんねえが、俺の感応波は遠くまで飛ぶらしいからな。
「ふうう”ぅん」
俺は立ち上がると感応波の出力を上げる。何となく圧力の来る方向に向かって飛ばしたら関係ないGEが巻き添え食らって死にそうな顔をしていたが許せ。
感応波はますます強くなって、俺も負けないように出力を上げる。オラッ!死ねッ!
関係ないGEが顔を青くして机に突っ伏すが、すまねえ男と男の戦いなんだ。
「ふぅん、なかなか活きのいいのがいるじゃないかァ」
入口の方から、ビンビンに感応波を出して近付いてきたのは女のGEだった。
高めの身長、日に焼けた肌に、所々赤くエクステを入れたブラウンの髪。露出の多い服装は、パンパンになった筋肉やら柔らかい肉やらではちきれそうだ。
その女GEが、口を大きく横に開いて、笑ってんのか威嚇してんのかよく分からねえ顔でこっちを睨んでる。
「ハルコさん、急にびっくりしましたよ。どうしてキョウトからオオサカに?」
「ふうう”ぅん」
「へっ、あたしの班もそろそろ欠員が出そうでね。こうやってイキの良さそうなのを探してんのさァ」
「ふうう”ぅん」
「だからって、何も感応波を飛ばしてくることは無いでしょう」
「ふん、あいつの欠員を埋めようってんだ。こんくらいで動けないんじゃ話にならないのさ」
「ふうう”ぅん」
「おい感応波止めろ」
「ゴウ」
「あい」
よく分からんがマルコの知り合いらしい。つまり敵じゃないってことだ。マルコがわざわざ敵を生かしておくわけがねえからな。
でも敵じゃねえなら何でこっちに感応波飛ばしてきたんだ?敵じゃないのか?そうだとしたら、敵って何だ?俺達は何と戦っている?
「へぇ、アンタがコフィ・アナン?噂通りなかなかやるようだね」
「早川ハヤテです(裏声)」
ハルコさんらしいGEがコフィに話しかけるがコフィはコフィじゃなかったらしい。俺はずっとコフィのことをコフィだと思ってたけど、コフィはハヤテだった?
「へぇ、すまないね、早川。アフリカ系の名前だったから、勘違いしてしまったよ。許してくれ。じゃあこっちの、アンタがコフィ・アナン?」
「遠藤ゴウです(裏声)」
「おい俺は誰だ?」
ハルコさんは今度はハヤテ・・・・・・コフィ?に話しかけるけどその元ハヤテで今はコフィの奴は俺らしい。じゃあ俺はアラガミ・・・・・・俺はアラガミじゃない、はずだ。
「おいマルコ、あたしはこんなに訳の分からねえのは初めてだぞ」
遠のく意識の中で、何かを掴んだ感覚がする。わかったぞ。そうか、つまり、この何かめっちゃ強い感じのGEが、さっきこっちに感応波を飛ばしてきたのは、
「つまりそういうことか・・・・・・どういうことだ?いやどっちにしろ上等だぜ、俺は、・・・・・・さっぱり分からねえ」
「早川ハヤテです(裏声)」
俺は訳が分からなくなって、博士からもらったラムネをキメる。
すぐに極彩色の歪んだ視界がやってきて楽しくなる。ふへへへへ。
「おいマルコ、マルコ!こいつ薬やってる!」
「それでうちの班員が欲しいんでしたっけ?」
「いらねえよこんな連中!」
「腕だけは立ちますよ」
「腕だけあっても仕方ねェんだよ!」
大げさな身振り手振りで、表情をころころ変えるハルコさんがなんだか可愛いかった。
「俺の名前は遠藤ゴウ、極東第2支部、第1大隊第7討伐班のゴッドイーターで、趣味と特技はアラガミ殺しだ」
「おい!おいマルコ!こいつ自己紹介始めてる!怖え!」
クソタッタレな職場だが、楽しい仲間がいるってのは、結構気に入ってる。