「努力は必ず報われるという事を貴方が証明してみせなさい」 作:音﨑カラス
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「少しは努力をしなさい!!」
突然、見知らぬ人からそんな事を言われる。
突然の事過ぎて頭の整理が追いつかない。何故俺はこの何も無い真っ白い空間で見知らぬ人に説教を垂らされているんだ。
「貴方の生前はまるでなってません! 毎日毎日だらけた日々を送り、親の跡を継ぐからと勉学に励みもせず、部活動にも励まず、人間関係もめんどくさり友達もおらず彼女も生まれてから一度も出来ず、仕事にも真摯に取り組まず……」
状況の説明も無しに長々と説教を垂らされる。
なんなんだこいつ、頭がピカピカな校長先生とタメ張れるんじゃないか? あっ、頭ピカピカはご愛嬌です。まさかこの年になって誰かから説教させられるとは……母が恋しいな。
というか軽くスルーしたけど彼女の話のくだり絶対余計だろ! この世に彼女のいない人が何人いると思っているんだ!!
目の前の見知らぬ人の説教は小一時間は続いた。
俺は三分辺りで頭がボーっとしてきたので説教を右耳から左耳へと流して聞いていた。
「……ちょっと? ちゃんと聞いてるの!?」
うんうん、不思議な感覚だな。身体がなんか半透明だし、あとなんか全体的に軽い。今なら50m走6秒ぐらいで走れそうだな。
「全然聞いてない……おーい? おーい!?」
うん? 深爪の筈なのに全然痛くないな。
「嘘でしょ全く反応がない……」
いや〜長年の悩みがやっと解消されたか、まぁ深爪という事には変わりないんだけど。
「仕方ないわね。女神最終奥義……」
おろ? もう話終わったかな? いやー長いのなんのって
「女神パンチ!!!」
途端、俺の顔面が凹んだ。
「────なるほど、俺死んじゃってた訳ね」
「そういうことよ」
女神さんの最終奥義をくらった後、特に痛みは感じないので悶え苦しむこともなく、目の前の女神さんがことのあらすじを話してくれた。
不慮の事故で死んでしまった俺はお決まりの神様転生をするらしいが、俺の担当の女神さんが俺のあんまりな生前につい説教を垂れてしまったらしい。
「まぁとりあえず、転生をするにあたって貴方に特典を授けなければいけないの」
女神さんは腕を組みながらやれやれ、といった様子溜息を吐く。
「おっ! ということはなんでも一つ?」
「普通ならそうね」
女神さんの含みを持たせた物言いに俺は嫌な予感を感じ取った。
「けど貴方の生前を見て私が勝手に決めさせてもらったわ」
女神さんは未だ怒っている様子ではっきりとそう告げた。
「……マジ?」
「大真面目よ」
俺はガクッと女神さんの前で項垂れた。
何故だ……俺が何をしたというのだろうか。……何をしたというより何もしなかったのがいけなかったのだろう。
そんな俺を無視し、女神さんは話を続けた。
「大丈夫よ、特典なのだから悪いものじゃないわ。寧ろ良いものよ」
女神さんは両腕を腰に当て、安心しろとばかりに口角を上げた。
「貴方の特典は『能力値』よ」
「能力値?」
俺はいまいち特典の詳細がピンとこなく首を傾げた。
「そうね……ゲームの様に貴方の能力を数値化するようなものよ」
能力の……数値化?
「そういえば貴方ダラダラ過ごしてた割にゲームとかやってなかったわね」
「ゲーム小さい頃はやったことあるんだけど、長続きしないんだよね」
「娯楽に対してもめんどくさがり屋なのね」
女神さんは大きな溜息を吐いた。
「もう少し詳しく説明すると、貴方の努力次第ではどんなことでも出来るのよ」
「どんなことでも〜?」
俺は女神さんの言葉に怪訝な表情で返した。
「この『能力値』という特典のポイントは努力をすれば必ず報われる、というところよ」
女神さんは続けて特典について詳しく話していった。
努力をすればそれが経験値として貰える。
その経験値でパラメーターなどを上げることが出来る。
他にも色々と特殊技能がなんちゃらとか称号がなんとかと説明されたが、正直に「よく分からないです」というとまたもや大きな溜息を吐いて「まぁ実際にやってみればその内分かる」と説明を放棄された。
「さて、そろそろ転生先を決めなければいけないわね」
「おっ! 一番重要なところじゃん。俺が決めていいの?」
「いえ、転生先はルーレットで決めているわ」
ルーレット……そんな方法で果たして決めていいものなのだろうか。
「ふふ、安心しなさい。普通は何万とある世界から決めるのだけれど、貴方の為に厳選してきてあげたわ」
女神さんはえっへんという声が聞こえそうなポーズで口角を上げて言った。
「貴方、生前は人間関係をめんどくさがって友情とは疎遠な人間だったから転生先は友情、努力、勝利! の様な世界を厳選してきたわ」
俺はうへぇと間抜けな声が出そうになるのを抑えた。
女神さんセレクトはなんともまぁめんどくさそうな世界ばかりの様だ。
「さぁ! このルーレットを回してちょうだい」
女神さんから人生ゲームの様なルーレットを渡された。
ルーレットには1〜10の数字が書いてある。
俺はもうどうにでもなれと投げやりな気持ちでルーレットを回した。
くるくるとルーレットは周り、何周かしたら速度が落ちていきやがて止まった。
ルーレットが止まった数字は───10───
「10番……ということは転生先はハイキューの世界ね」
「ハイキュー?」
「……貴方まさかハイキューを知らないの!?」
女神さんから信じられない、という顔で驚愕された。
「あの有名なバレー漫画よ!? 本当に知らないの!!?」
「俺スポーツ系の漫画ってあんま読んだことないんだよね。なんか実際にそのスポーツやってる訳じゃないから読んでもあんま分かんないかなって」
「信じられない……」
女神さんは未だ驚愕したままの顔をしている。
それから数秒、気を取り直したのかゴホンッと咳払いをしたあと腕を組んだ。
「それじゃ転生先も決まったことだし、そろそろ時間ね」
「あのー女神さん? 一ついい?」
「なにかしら?」
女神さんは首を傾げながら答えた。
「俺がその転生先でも努力をしなかったらどうするの?」
女神さんは俺の質問に少し驚いた様な顔をし、すぐに俺へと向き合って微笑みを浮かべた。
「ふふ、まさか貴方からその質問をされるとわね。貴方が生前で努力のしない怠惰な生活を送っていたのは自分への自信の無さ故なのは知っているわ」
俺は図星を突かれ苦笑いを浮かべる。
「大丈夫よ、今世は必ず努力が報われる。きっと退屈しないわ」
女神さんはそう言いながら微笑んだ。
「さて、それじゃそこの穴から飛び降りなさい」
「……え? は? え? 今いい感じに話終えたよね? 冗談だよね?」
「いいから飛び降りなさい!!」
その勢いと共に俺は女神さんに謎にできた空間の穴から蹴り落とされた。
「うわああああぁぁぁぁぁぁ……」
「努力は必ず報われるという事を貴方が証明してみせなさい」
女神さんの最後の呟き辛うじて聞き取った後、すぐさま俺は気を失った。