なんとなく思いついたので書いてみた。
「理事長、こちらが以前紹介させていただいた新人トレーナーさんです」
「おお! 重畳ッ! 彼がたづなの幼馴染―――」
たづなに連れられてやってきた理事長室。
そこで出迎えてくれたのは小さな女神だった。
あまりの衝撃に何を言われたのかは分からない。
俺に分かるのは行動しなければ何も始まらないということだ。
「結婚を前提にお付き合い願えませんか!?」
「へ?」
「は?」
「ん? 聞こえなかったかな……こほん、結婚を前提に―――ぐえっ」
思わず片膝滑り込みプロポーズをかましてしまったが、いきなりすぎてどうやら聞こえなかったようだ。
仕方ない、ちょっと恥ずかしいがここはもう一度。
と気合を入れたところでたづなに襟を引っ張られた。
ぐえ、苦しいっての。
「ちょっとこっち来てください。いいから来て。来い」
「ちょ、待てって、今一世一代のプロポーズをだな!?」
「来いって言ってるでしょ?」
「はい……」
「少々お時間をいただきますね、オホホ」
楚々とした仕草かつ爆速で退室したたづなはそのまま俺を廊下の壁に叩きつけて両手で壁ドン。
捕食者かな?
やたら広い廊下なのに締め切った個室に捕らえられた気分だぜぇ。
「何考えてるの?」
「行動しなければ何も始まらない! ガチャは回さねば出ぬぞという名言もある!」
「何考えてるの?」
「いやだからまずは好意を伝えなきゃ何も」
「何考えてるの?」
「え、こわぁ……」
回答を許されているようで許されてねぇっすわ、これ。
年頃の女性が微笑みながら迫ってきてるというのにトキメキが微塵もない。
ドキドキならめっちゃしてるんだけどな!
「マジな話、一目惚れしたから告白したんだけど社会人としては確かにまずかったな」
「社会人というか人間として終わりよ! だいたい理事長は未成年なのよ!」
「あちゃー」
合法ロリじゃなくて
やっぱり合法ロリってファンタジーなんだな。
いや俺はロリコンってわけじゃないからそこはどうでもいいんだけど。
「付き合うにしてもせめて二十歳まで待たなきゃダメか」
「待ってもダメよ! 年の差いくつだと思ってるの!」
「知らんけどその時俺は三十路確定だな」
ついでにその時はお前も―――ぐふっ。
ボディを殴るなよ、たとえ俺の心を読んだとしても殴るなよ。
何を考えたっていいけど態度や口に出したらNGが世界共通の風潮だろうがよ。
暴力ヒロインは今時流行らんぞ。
「とにかく! あなたのその想いは捨てなさい、今すぐ!」
「そりゃ無理だろ」
即答したらネクタイをめっちゃ絞られた。
タップタップ! 締まるを行き過ぎて首がちぎれちゃうから!
「私の聞きたい言葉が何か分かる?」
「想いを外に出さないようにガンバリマス」
「……よろしい」
なんとか合格点はもらえたらしい。赤点回避って感じだけど。
ささっと乱れたスーツを整えてくれるたづな。
こういうところをだけ見るといい女なんだけどな。
乱したのもこいつだけど。
「理事長は多感な時期をウマ娘への愛情でなんとか乗り切ろうとしてるところなの。
邪魔するようなら本当に許さないわよ」
「そういえばそうだったな、実際に見てから聞くと話の印象変わるわ」
彼女の母はその実力と情熱を買われ、海外で活動をしているらしい。
その後を継いだのがまだ幼い秋川やよい現理事長というわけだ。
初めて聞いた時も無茶苦茶だと思ったものだが、どうやら天才的手腕を母親から継いでいたらしく、無難に職務をこなしているらしい。
たぶんその素質を見抜いていたから後釜を娘に当てたのだろう。
補佐として幼馴染が頑張っているとは聞いていたからそこまで心配はしていなかったが。
それが実際に理事長を見てしまうとどうだ。
まだまだ親の―――特に母親の愛情が恋しい年齢に見える。
そんな年頃の子にプロポーズした俺のことはさておき、あの子を置いて海外に行った母親は鬼畜じゃないか?
かわいい子には旅をさせよ、ってレベルじゃねーわ。
「とにかく頭は冷えた。大丈夫」
「本当に? 次にやったら本気で蹴るから」
「死ぬわそれ」
俺は知ってるぞ。
たづなキックは破壊力なんだ。
どうにか気持ちを落ち着けて理事長室へ。
小さな女神こと秋川理事長はソファに座って扇子を仰いでいた。
頭の上の猫も気持ちよさそうだ。
今度はきちんと挨拶をする。
「ご紹介に預かりました
「歓迎ッ! うむ、先ほどのことはさておき、歓迎するぞ椎葉トレーナーよ!」
どうやら受け入れてくれるようだ。
これで俺を仲介してくれたたづなの顔も立つ。
いや、安心するにはまだ早いな。
たづなの顔に泥をかけるようなことがないように気を付けなければ!
「着席ッ! まずは腰を落ち着けるがよい!」
「失礼します」
閉じた扇子で示されたソファへ向かう。なにあのポーズ可愛い。
ぺこりと頭を下げてから座り込む。
確かマナー的にはこんな感じだったはずだ。
うわ、ふわっふわだぞこのソファ。
思ってたより深く沈み込むもんでちょっとビビったわ。
さすがにいいモノ使ってんなー。
「確認ッ! これは大事なことなのだが……椎葉トレーナーはいわゆるその……ロリコンという奴なのだろうか?」
「「違います」」
……ん? どうしてたづなも否定すんだ?
まぁ、いいか。
「普通に同年代が好きですよ」
俺の言葉は受け入れがたいのか理事長はたづなを見上げる。
いつの間にか理事長の後ろに回り込んでたたづなは微笑んで答えた。
「ええ、記憶している限りでは女児に興奮するような男性ではありませんでしたよ。
だいたいそういった男性なら紹介してません」
とぐうの音も出ない正論を出された。
なんせここは女子校でもあるわけで、ロリコンとかはガチ目に採用不可な学び舎なのである。
というか結婚できる年齢にならないと普通に犯罪だからな。
「承知ッ! たづなを信じよう。もしたづなに裏切られたのなら裏切らせた私が悪い!」
それはつまり俺が生徒に手を出すようなことがあればたづなを辿って理事長が悪いと。
いや雇用関係的にはまさしくその通りではあるのだが。
こんなに小さな子の顔に泥を塗りつけるようなマネはしたくないな。
今後は軽挙を慎むよう本当にしっかりしようと思いました。まる。
「談合ッ! それでは詳細を話していこう! とはいえ大よそのことはたづなから伝わっているな!」
「はい、立派な書類の方もいただきました」
それから契約についてのあれこれやトレセン学園独自の文化についてなど。
様々なことを話し、予定をしていた一時間はあっという間に過ぎ去ったのだった。
内定レベルだった契約も正式を結んで、これで俺も晴れてトレセン学園のトレーナーだぜ。
「それで俺の部屋ってどこ?」
「特に希望もないって話だったから社員寮になるわ」
荷物もそちらに届いているとのことだ。
というわけでたづなにその社員寮まで案内してもらうことに。
くぅ~! ウマ娘たちとの青春の日々! 楽しみだぜー!
「それと、社員寮は女性の連れ込み厳禁ですので、よーっく覚えておいてくださいね♪」
「うぃっす……」
急に敬語になるの止めてくんないっすかね。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄リジチョー―――――
「こ、困惑ッ! 結婚を? 前提に……おつ、おつき、あぃ?」
たはーっ!
理事長こと秋川やよい以外誰もいない部屋で少女のもだえる声が響く。
顔は真っ赤に染まり、白い帽子で顔を隠しているが他に人のいないここで誰から隠れようというのだろうか。
「にゃー」
そうだね、猫がいたね。
「赤面ッ! 赤面が抑えられぬ、まるで古いドラマのプロローグ染みた告白ッ!
上司と部下のラブストーリーが始まるようではないか!」
扇子の動きが今日一で忙しい。
パタパタと顔を煽り、帽子が飛んで行ってしまいそうな勢いだ。
猫が帽子の上に陣取っているので見た目以上に安定しているのだが……その上で帽子が飛んで行ってしまいそうな危うさがある。
ふいに扇子を畳み、立ち上がる。
向かう先は入り口近くに設置された姿見だ。
部屋を出る前に身だしなみをチェックするための物だが、それで己の全身をまじまじとチェックする理事長。
背は小さく、同じ女性であるたづなの胸元までしかない。
顔立ちは均整がとれた美しいもので、あと数年もすればスターウマ娘にも負けない美しさを花開かせることだろう。
長い髪の毛も手入れが行き届いており、栗毛色は部屋の明るさを吸収しているのではないかと思わせるほど艶やか。
肌は年相応のぷにぷに感が見ているだけで伝わってくるようだ。
つまり見た目は育ちの良い女子○学生だ。
女性的な魅力はまだ薄い。
体のラインを音にするとこんな感じだ。
ストンッ。
悲しいことに擬音一つで表現ができてしまう。
衣装のおかげでくびれらしきものが見えるがそういうシルエットというだけで、実際これを脱いでしまえばスットントンである。
見栄でつけているが、実際はブラジャーも必要ないレベルだ。
「否定ッ! 多少は、ちょっとくらいはある!」
胸を押さえて自分へと抗議。
しかし脳裏に浮かんだ女性らしい肉体を持つたづなと比べてしまうと誤差みたいなものだ。
スズカのゲートの方が広いデースッ!!!!
「ぬおおおお!」
頭を掻きむしりそうになり、のんびりしていた猫が飛び降りる。
果たして彼はこんな自分のどこに惚れたというのか。
改めて疑問に思う。
やはりその筋のスキモノではないかと考えてしまうが明確に違うとの返事をもらった。
それで納得してみせた以上、今更そこを疑うのは本意ではない。
「詰問ッ! やはりそれしかあるまい!」
先ほどはうやむやにしてしまったが、今度しっかりと時間を取り、どうしてあのようなことを言ったのか問いたださなければならない。
そう誓い、それまでは考えないようにしようと結論を出す。
つまり問題の先送りだ。
こうしてまた一つ、やよいは大人になった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄リジチョー―――――
「それで、どういうつもりなの?」
「ん? このニンジンつくねもう一本頼もうかなって……たづなもいる?」
「いる……じゃなくて!」
いづるとたづなは二人きりで串焼き屋にやってきていた。
名目はいづるのプチ歓迎会である。
そこでレモンサワーを4杯飲んで出来上がっているたづなはトリ皮の串でいづるのワイシャツを突いている。
その顔はとても不満気だ。
「理事長の件よ」
「ああ」
それね、とでも言いたげな表情にたづなの不満も膨れ上がる。
内心どれだけ動揺したと思ってるのかしら。
そうぼやいて残り少ないレモンサワーを飲み干した。
おかわりの手際は無駄に良い。
ニンジンつくねの追加も忘れてはいない仕事ぶりだ。
そうしてから串ソードをいづるへと突きつける。
危ないのでよい子のみんなはマネしないようにしよう!
「で、出会ってすぐにプロポーズなんて随分情熱的だこと」
「そんくらい衝撃的だったんだよ」
うまく言語化できないがとにかく動かなければならないという思いに突き動かされた結果があれである。
「天啓的な?」
「○学生にプロポーズする天啓って何?」
「さてなぁ……真面目な話をすると、お前があの子の側にいる理由とおんなじだと思うぞ」
それを言われるとたづなも弱い。
つまり彼女のカリスマにやられてしまっていると、そういうことだ。
いづるにはそれが敬愛なのか、親愛なのか、恋愛なのか、己の持つ感情に名前を付けられないでいる。
幼い頃たづなに初恋をして以来、恋愛経験のない男には難しい命題であった。
「だからってプロポーズなんてそんな……」
「はいはい、ま、ま、飲みなされ」
追加オーダーのお酒とつまみが来た。
これで誤魔化そうというのだろうか、とたづなが睨んでみても怖さなんて微塵もない。
今の短いやり取りで彼女なりに納得してしまったのだろう。
これ以上は愚痴でしかないのだ。
ならばここは誤魔化されてやってもいいか。
そう考え、改めて杯を重ね合った。
「これからはよろしくね」
「おうよ、頼むぜ先輩」
「あはは、ちょっと止めてよくすぐったい!」
幼馴染との再会の夜は長く続いたという。
「んー、それにしても俺、ひょっとしてロリコンだったのか?
理事長が可愛く見えたのも嘘じゃないんだよなぁ……」
「そっか……私とおんなじ、か……そっか……」
「驚天ッ! ウマ娘にすべてを捧げるつもりだった私に春が来るかもしれぬとは……!
そ、そうだお母様に連絡を「にゃー」にゃ、にゃにをするかー!」
次回ッ!
「推挙ッ! キミにぜひ観てもらいたいウマ娘がいる!」
「桐生院 葵です。噂はかねがね伺っています。同期のトレーナー同士、手を取り合って頑張って参りましょう!」
「あらあら、まぁまぁ、昨日の今日でもう担当したいウマ娘を見つけたんですか?」
「ダメだ、俺このままだとロリコンになっちまう……!」
ウマ娘 プリティーダービー
-俺と理事長のこれからとそれから-
「あなたの担当ウマ娘になったニシノフラワーです。その、よろしくお願いします!」
素のたづなさんはこんな感じなんだろうなと思いながら書けたので満足です。
なお本作は短編であり続かない模様。