怠い体を無理やり動かしながら自身の何倍もある巨石を運んでいく。周りにいる人たちも俺と同じように運んでいる。その姿はまるでピラミッドを立てるため鞭に打たれながら働く奴隷のような光景だった。
そんな限界状態の中、俺は怒りに染まっていた。
「異世界転生させた神様がいたらゼッテー殺す。あと、ここで偉そうにしてる奴らもぶっ殺すッ」
それは突然だった。
いつも通りの朝を迎え、学校に行き、授業を受け、家に帰る。家に着くと漫画を読んだりゲームをしたりとだらだらと過ごす。そして、ご飯を食べ歯を磨き携帯を弄りながら布団に入り眠る。
そんな生活を送っていたら、異世界にいた。
寝て起きたら、転生していた。見知らぬ世界が自分の目の前に存在していた
誰かを庇って死んでもいないし、召喚魔法によって呼ばれたわけでもない。それに神様にあって話をしたわけでもない。
ただ、起きたら異世界にいた。この現象について説明してくれるような親切な存在はなくただ就寝して起床したらこうなってた。言えることはこれくらいである。
正直言って異世界転生するのはオタクとして大歓迎だし、自分がソレを体験するのは主人公感があってめちゃくちゃ興奮する。実際それくらい重度の中二病を患っていた俺は、自分が転生したことを理解した瞬間、顔がにやけてたと思う。
起きた当初はこの現象に驚いて混乱していたが、それと同時に宝くじの一等を引き当てたような幸福感が確かにあった。
目を覚ました時は、ずぶ濡れの状態で知らない海辺にいた。空に映る満月は大きくその周りに控える星々は夜空を美しく彩っており、その美しさに息も忘れ見入ってしまうそんな景色が広がっていた。現代日本においては滅多に見られない光景に心を奪われると同時に微かに聞こえてくる波のさざめきは心地よく、まるで自分の転生を祝福しているのではないかと感じるくらいの感動が広がっていた。
ただ、転生した環境はそんな中二病の幸せを噛みしめることを許してはくれなかった。
心地よい気分を壊すように知らない男の声が聞こえ、それと同時に頭へ強い衝撃が走る。
「おい、なんでこんなところにいるんだ。アァッ!」
殴られた衝撃によって自分の体が砂浜へと投げ出される。170㎝の自分を吹っ飛ばすような人間がいることに驚いていると、自分の目にありえない光景パート2が飛び込んでくる。それは自身よりも何倍もある男の姿だった。
転生したての現実をうまく呑み込めていない俺はそのデカい図体と殴られた衝撃、厳つ過ぎる顔に驚いてしばらくの間呆然としていた。だが、そんな姿を見た男は笑いながら俺を殴ってくる。殴られながら気づいたがどうやら俺の体は縮んでいるらしい。
痛みや恐怖で震えながらそこまで確認したところで――――視界が暗転する。
そして、起きると牢屋の中にいた。
え?
どうやら俺は奴隷らしい。
気絶から覚めると周りで心配してくれていた子どもたちやおじいちゃんから話が聞けた。この島は楽園の塔と呼ばれる魔法装置を作るための奴隷島であり、抜け出すことは不可能ということ。また、牢屋の外やこの島を管理している大人たちは魔法を使えるらしく反抗すると徹底的に拷問されるか殺されるの2択しか許されない地獄の島だということが判明した。
楽園の塔と呼ばれる魔法装置は、魔法的資質が必要なく単純なマンパワーと設計図、それを指揮することのできる魔法使いが数人いれば完成させることができる簡単かつ強力な魔法だという。現代においては、その大きなマンパワーを集めることの難しさや楽園の塔が大きい故に表では隠しにくいという特性から再現が不可能と言われていたらしいが、それらの欠点をこの奴隷島では克服しているという犯罪者向けのプライベートアイランドだったらしい。夜に見たあの美しい光景は、俺を歓迎したのではなくこの奴隷島にいる犯罪者を歓迎していただけだった。
とにかくこの奴隷島は、完成するまで見つかることはないと牢屋にいたおじいちゃんが教えてくれた。
まぁ、ここまで聞けばわかると思うけど俺はそこまで聞いて、自分が相当なハズレくじを引かされたことがようやく理解できた。
【大凶】警察の助けが来ないような絶海の孤島で奴隷として一生を過ごす
そんな絶望のくじを引かされた俺はそこから心が死んだかのように奴隷生活を送っていた。ただ、そんな絶望に打ちひしがれている余裕すらこの場所では与えてくれない。何よりも今まで日本という生活水準の高い国で暮らしていた弊害が顕著として表れてくる。
①食事:とにかく美味しくない。台所においてある三角コーナーの中身をそのまま持ってきたような生臭さやぐちゃぐちゃと不快な食感そのすべてが今までの暮らしと違い過ぎて頭がおかしくなりそうになる。
②衛生:すべてが最底辺。トイレはなく全てを垂れ流すか壁際などで処理を行う。そんな絶望的汚さに加えて風呂がないため常に汚れた状態のまま過ごすことになる。
③労働:自分の数倍ある巨石を毎日塔の上までもっていく仕事。自分の小さくなった体を限界まで使い潰すような毎日が続く。
この仕事は、子どもの中では俺だけが担当している。こうなったのも俺が逃亡者としてブラックリスト入りしたためである。どうやら転生初日で目を覚ました場所は、奴隷島の浜辺であり奴隷が絶対に入れない場所だったらしい。そのせいで逃亡した奴隷だと判断され、今では大人でも過酷とされている巨石運びに一人任命された。そのため労働仲間は全員大人という転生してもボッチの生活を過ごしている。
そんな生活を送っているとまず体にうまく力が入らなくなってくる。常に力が抜けた状態が続くような感覚である。そんな極限状態になってしまうと巨石をうまく運ぶことが徐々に出来なくなる。だが、少しでも休むと鞭や棍棒、剣などで殴られる。
それが嫌で殴られないために体を引きずってでも運ぶ。そして、牢屋に帰ると周りの声を無視して眠る。このサイクルが奴隷島に来て数か月ほど経った俺の見つけた自分の守り方だった。
人間は凄いことにそうして時間が過ぎていくと、少しづつこの環境に適応してくる。今まで不味いと感じてた食事は、食べることに抵抗がなくなる。トイレや風呂もないことに違和感がなくなり、自分が不衛生なことを気にせず過ごすことができる。そして、何よりもすごいのが少しづつだが、巨石を運ぶスピードが上がっていることだ。
自分の何倍もある巨石を持ち上げ塔の上まで運び指定の位置までもっていく。そんな非常識なことを今では休むことなく続けることができていた。
そうして、適応し自分に余裕が生まれたことで今まで見えていなかった周りの情報が入ってくる。
自分と同じように首輪をつけ死んだ目をしながら働く人たちの姿、鞭で殴られながらも文句を言わず働く女性、奴隷同士で励ましあう姿、動かなくなった奴隷仲間を運ぶ子ども、食べ物を若い世代に分け与える大人。
クソみたいな環境の中で奴隷同士が支えあい、それぞれのコミュニティを形成しながらこの奴隷島で暮らしていた。
そうして周りを見ていると、今までただ死んだ顔で働いていただけの自分に話しかけてくれている存在がいることに気付いた。
自分と同じように小さい体、深海のような蒼い髪の毛、右側のおでこから右目を挟んで頬まで伸びている刺青
「なぁ、君大丈夫か?」
彼の名は、ジェラール。俺の人生を大きく変えてくれた人物だ。
転生から約3年経ったところで、俺は本当の意味で人と触れ合う。