二人の孫悟飯   作:無印DB好き

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超サイヤ人…?

 話はビーデル達と悟飯の組手が行われた時間までさかのぼる。あの後、会話もそこそこに各自解散となったのだが、ビーデルが帰宅するや否やミスターサタンから強めの詰問を受けたらしい。

 

 最初は夜遅くまで外出してたことと、家に男を二人も連れ込んだことに対してだったので、ビーデルも強めに振り切ろうとしたのだが、振り切り切れずについ悟飯の名を口にしてしまったのだ。

 

 その名を聞いた瞬間、ミスターサタンの顔色が変わったというのはビーデルの談だ。直後、夜遅くだというのにミスターサタンは何処かへと出かけてしまった。ビーデルが執事に聞いたところ、この時はテレビ局に向かったそうだ。

 

 そして翌日。ビーデルが起床し登校の準備をしていると、いつの間にか帰ってきていたミスターサタンがビーデルの登校を制止し、そのままミスターサタン自身が学校へと向かっていったそうだ。

 

 恐らくは悟飯に関する事だろうと察し、ビーデルも同行したいと訴えたのだが、厳しい表情で却下された。しかし、ビーデルも諦めるつもりは毛頭なく、かと言ってどれだけ強く訴えても昨日と同じ結果になる…という事で、ここで咄嗟の奇策に出る。

 

 なんと、今まさに出立しようとしているミスターサタンの衣服に盗聴器を仕掛ける…というものだ。一応擁護しておくと、これはビーデルの私物ではなく、以前に警察に協力して捕まえた悪人から押収したものだ。故に碌に整備もしていなかったので動作するか不安だったそうだが、この時はちゃんと動いたと言う。

 

 そして、少し間を置いてから始まるミスターサタンと悟飯の会話。当然、この会話は盗聴器を通じてビーデルにも筒抜けであり、故に知ってしまう。セルを倒したのがミスターサタンではなく、誰あろう同級生である孫悟飯その人であったことを。

 

 実をいうと、悟飯に会う以前からミスターサタンがセルを倒したというのには違和感はあった…と、ビーデルは語る。とはいえ、それは小さな小さな感覚。心から振り払うのも簡単なものだった。

 

 しかし、悟飯に出会い近づくにつれ、その違和感は無視できない程に大きく膨れ上がれあがっていく。そこに、この真実を聞かされたショックはかなり大きかったようだ。

 

 ショック…つまり、悟飯たちから栄光をかすめ取り、世界中の人たちを欺いていた事。ビーデル自身の正義感の強さもショックを増強させる仇となったのは言うまでもない。

 

 加えて、これまでのミスターサタンのあまりよろしくない”お遊び”という事実も加わり、遂に感情が爆発して家出してしまった。

 

 

 

 

 

 …というのが、事の経緯の様だ。

 

「―――考えれば考えるほど頭がぐるぐるしちゃって…。しまいには、正義面して警察に協力なんてしてるのも滑稽だなぁ…なんて考えちゃって…」

 

 落ち込んだ様子でポツポツと語るビーデル。その、今にも泣きだしそうなその雰囲気は、容易に口を開くことを許さない。

 

「ビーデルさん、一つだけいいかな?」

 

 しかし、その雰囲気を悟飯が破って見せた。

 

「確かに、セルを倒したのはサタンさんじゃなかった。でも、サタンさんの”勇気”がなければ、多分僕達もセルに殺されていたと思うんだ」

 

 諭すような悟飯の口調に、ビーデルのみならずその場の全員の視線が悟飯に集中する。

 

「あの戦いの最中に、僕に助言をくれた人がいたんだ。でも、その人は重傷を負っていて、本来なら動けない筈だった。それを僕の傍にまで連れてきてくれた人がサタンさんなんだ。近くにセルがいて、殺されてもおかしくない…という恐怖を押し切って。…まあ、これを知ったのは、昨日のサタンさんと話をしていた時に、サタンさん自身から聞いたんだけど…」

 

 悟飯の語りに、ビーデルは驚いた様子で目を丸くしている。その様子を見るに、どうやらこの辺りの会話は知らない様だ。

 

「え? ビーデル、悟飯君とミスターサタンの話聞いてたんじゃないの?」

 

「き、聞いてたけど…。悟飯君がセルを倒したって聞いた時点で頭が混乱して、とにかく何処かへ行きたいっていう気持ちでいっぱいだったから、それ以降の会話はあまり聞いてなくて…」

 

 そのビーデルの様子に困惑するイレーザに、ビーデルは釈明をする。どうやら、昨日のミスターサタンと悟飯の会話の流れは、セルは悟飯が倒した→前述の助言の人を移動させたのはミスターサタン…という順序であり、ビーデルがしっかりと聞いていたのは前半の〈セルは悟飯が倒した〉というところまでの様だ。

 

「………そっか。パパも活躍してたんだ…」

 

「うん、それは間違いないよ。それに、僕達としてはあまり人目に付きたくなかったから、その矢面に立ってくれたサタンさんに感謝こそすれども、批難なんてする気は一切ないよ」

 

 少し安堵した様子のビーデルに、悟飯が更に笑顔でフォローを重ねる。

 

 これにて一件落着! …とまではいかないだろうが、ビーデルの表情は語りを始める前よりかはだいぶ安定を取り戻していた。

 

「…にしてもよ、一つ疑問なんだが、悟飯がセルを倒したってのは本当なのか? 確かに俺達よりかは数段強いのは明らかだし、ミスターサタンも認めてるっていうけど、それでもいまいち信用できないぜ…」

 

 と、ここでシャプナーが口を開く。安定し始めたビーデルを見て雰囲気に余裕が出てきたのを感じたのだろうが、その言葉通りに疑惑の瞳で悟飯を凝視している。

 

「いや、俺の記憶が正しければ、あのセルとミスターサタンの映像に移っていた謎の集団の中に、一人だけまだ子供がいたはずだ。恐らくはあれが悟飯君…なのだろうが…」

 

 しかし、このシャプナーの疑問はウットナの言葉によって遮られる。セルとミスターサタンの映像自体は生放送だったので、見た事ある人はかなり多い…いや、当時はほぼすべての人が見ていただろう。当然ウットナも例外ではなく、その時の映像を思い出そうと己の頭を指でトントンと叩きながら言葉を紡いでいく。

 

「確か、あの少年は金髪だった…と、記憶している。悟飯君、どうして黒髪に戻したんだい? あんな緊急事態時に若気の至りで金髪にしていた…なんてセンチメンタルな理由でもないだろうし…」

 

「へ!? そ、それは…。ま、まあ、一応正体を隠すため…かな? は、はは、ははは…」

 

 何気ないウットナの問いに、しかし悟飯は明らかに動揺気味に答える。どうやら、セルを倒した…以外にも彼にはまだ秘密が隠されている様だ。

 

 が、残念ながらこの秘密は、予想外の存在によってあっさりと白日の下に晒されてしまった。

 

「お兄ちゃん、金髪って何?」

 

 これまでの一部始終を見聞きしていた悟天が唐突に悟飯に尋ねる。

 

「ん? あ、ああ…。金色の髪の事だよ…」

 

「あはっ、じゃあこれの事だね!」

 

「え?」

 

 間抜けな声を出す悟飯を他所に、悟天は気合を入れて構えを取る。すると、ドウッ! っという破裂音と風圧と共に、なんと黒髪に黒い瞳から、金髪に碧色の瞳…そして黄金のオーラを纏う別人へと変身してしまったのだ!

 

「……………………あがっ、ご、ごて、お、おま、お前それいつから!?」

 

「え? うーん………。忘れちゃった!」

 

 顎が外れているのでは? という程に間抜けに大口を開けながら問う悟飯に、悟天は無邪気に答える。

 

「信じられない。僕も死んだお父さんも、超サイヤ人になるにはすごく苦労したんだけどな…」

 

「ふーん…」

 

 なんとか表情を元に戻しながら続けて喋る悟飯だったが、まだ頬がピクピクと痙攣しているところを見るに、悟天の変身にはかなり衝撃が大きかったようだ。対して、悟天は悟飯の話を聞いても不思議そうに悟飯を見上げるのみだ。

 

「―――悟飯君? 超サイヤ人…? というのは、なんだい?」

 

 と、ここにウットナから声がかかる。途端、ギクッ!! という効果音でも付いているかのように、分かりやすく体を跳ね上げる悟飯。ついで、そーっとウットナ達の方へと視線を見遣る。明らかに脳内で(しまったーーーーっ!!)と言っているのが分かるほどに、その表情は冷汗と動揺が入り混じっている。

 

「つまり、当時の悟飯さんはその超サイヤ人? というものになっていたと?」

 

 次に、いつもの如く瞳をキラキラさせているクオーラから言及が入る。クオーラ的にはこれも気功波の応用みたいに見えているのかもしれない。

 

「…子供の頃は出来ていたのに、今は出来ない…なんてことはないわよね、悟飯君?」

 

 トドメとばかりにビーデルからも言及が入るが、しかし悟飯は答えない。何とかこの場を切り抜けようと考えているのか、視線を右往左往させるのみだ。

 

「ねぇねぇ、悟天君ってやっぱり強いの?」

 

 と、ここでクオーラが悟天に話しかける。どうやら、悟飯に聞くより悟天に聞いた方が良いと判断したようだ。可愛げのある顔に似合わず、なかなかの策士のようだ。

 

「…わかんない。トランクス君とは対決ごっこしてるけど、負ける事の方が多いから…。トランクス君は空も飛べるし…」

 

「そっか。それは悔しいよね…。じゃあさ、お兄ちゃんに組手で稽古をつけてもらうってのはどうかな?」

 

 少し落ち込み気味に話す悟天に、これまたとんでもない提案をするクオーラ。空を飛ぶ…という不可解な単語が混ざっていたが、それはスルーしながら悟天の心情に同情する様子もまた狡猾だ。

 

「…っ!? したいっ! 兄ちゃん、僕もっと強くなりたいから稽古つけてっ!」

 

「ですって悟飯さん! 可愛い弟のお願い、叶えない訳にはいきませんねっ!!」

 

 必死の形相で悟飯の足に組み付き懇願する悟天に、クオーラもニコニコと笑顔…俗にいう<殴りたい、この笑顔>という類の物だが…で、悟飯に迫る。ここまでの話の流れから察するに、どうやらクオーラはこの兄弟の組手が見てみたいようだ。

 

「判断が早いね、クオーラちゃん…」

 

「クオーラちゃん、えぐすぎないか…?」

 

「本当に、あいつは目的の為なら手段を選ばないな…」

 

 睨むビーデルと、ニコニコ顔のクオーラ、そして懇願する悟天に挟まれ、観念したように脱力する悟飯を見て、かなり引いている様子のイレーザとシャプナー。ウットナも、妹の意外な押しの強さは知っている様で引きはしていないが、ヤレヤレ…とばかりにため息を吐いている。

 

 こうして、ウットナ達は悟飯と悟天の兄弟組手を見学する事となるのだった。




 超サイヤ人の瞳の色ってなんて表現すればいいんだろうと、ちょっと迷いました。アニメの当初はエメラルドグリーン(本作では碧色と表記)だった筈ですが、なんか普通の水色のやつもあったような…? 調べてもうまく出てこない…。

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