二人の孫悟飯 作:無印DB好き
「むっ、ふっ…」
悟天と組み手をする前に、入念に準備運動をする悟飯。この前のビーデル達との組手前には碌に準備運動もしていなかったので、それだけこの超サイヤ人という状態の強化度合は大きいのだろう。そして、
「ふっ!」
悟天と同じく悟飯も気合と共に身体に力を入れる。すると、悟天と同じく悟飯も金髪に碧色の瞳、そして黄金のオーラを纏う別人へと変身する。
「やっぱりできるのね…」
「どういう原理なんだあれ…?」
その様子を見て、深刻な表情で呟くビーデルと、不可解そうに眉をひそめるシャプナー。イレーザとウットナも似たような表情だが、唯一クオーラだけは純粋に興味深そうに瞳を輝かせている。
「よし! さあ悟天、何処からでも来い!」
「うん、じゃあ行くよ! 思いっきり行くからね!!」
お互いに一礼をした後に、構えを取り合う兄弟。そして、
「たあーーっ!!」
最初に動いたのは悟天だ。が、驚くべきはそのスピードだ。なんと、掛け声をあげてから悟飯までの間合いを詰めるその動きが、ビーデル達には誰にも見えなかったのだ!
「くっ!?」
そして、そのスピードに驚いたのは悟飯も同様らしい。動きと共に繰り出された蹴りを何とか両腕でガードするが、その表情は驚愕に満ちている。
更に、その攻撃によって悟飯の体勢が少し揺らぐという事態も起こる。つまり、悟天の攻撃はスピードだけでなくパワーも十二分に発揮されているという事だ。もし下手なガードでもしようものなら、体勢を崩されて大きな隙を作ってしまうだろう。
「えいっ! やあっ!!」
しかし悟天は容赦しない。続けざまにパンチ、キックと二連撃を繰り出す。
「ぐっ! ぐぐっ!!?」
それを膝と腕で何とかガードして凌ぐ悟飯だが、明らかにその顔色には焦りの色が浮かんでいる。まさか、弟がこれほどまでの強さだとは微塵も思っていなかったのだろう。
なんとか距離を放そうとバックステップから木の裏に回る悟飯だったが、悟天はお構いなしに回し蹴りを繰り出す。信じられない事に、横幅だけでもビーデルの体くらいはありそうなかなり大きな木を、その一撃はやすやすとへし折ってしまったのだ!
「す、凄い…!」
「最早人間技ではないな…」
そのあまりに非常識な一撃に、クオーラは感嘆の声を上げ、ウットナも冷や汗交じりに悟天を見つめる。
とはいえ、今一番たまったものではないのは間違いなく悟飯だろう。回し蹴りこそ跳んで回避したものの、悟天の追跡は一向に緩まない。縦に高い岩山を器用に跳び上っていく悟飯に、同じく器用に跳び上りながら執拗に悟飯に攻撃を加える悟天。
しかし、その岩山の頂点に着き、尚も続く悟天の攻撃から逃げるように空中へと飛び上がった悟飯に対して、悟天は何故か攻撃を中断してしまったのだ。
「あー、兄ちゃん空を飛ぶなんてずるいよー!」
「………へ? あ、そうかお前確か…」
頬を膨らませて不満を口にする悟天に、悟飯も少し首を傾げた後ハッと気づく。そう、悟天は先ほどトランクス君は空も飛べる…つまり、自分は飛べないと言っているのだ。
「兄ちゃん、空飛ぶなら僕にも教えてくれないと無しだからねーっ!!」
「分かった分かった! 教えてやるよ空の飛び方!! ………順序がまるっきり逆だな…」
ぷりぷりと怒る悟天に、空の飛び方を教える約束をする悟飯。途端、悟天は嬉しそうに笑いながら、その場で跳び上がったりバク転したりし始める。その時に悟飯も何とも言えない笑みを浮かべていたが、この時悟飯が何を思っていたのかを知るのは彼自身のみだ。
「ね、ねえ…。生身で空を飛ぶって、そんな簡単な事なの…?」
「さ、さあ…。俺にはトリックにしか見えないが…」
その一部始終を見ていたビーデル達。イレーザとシャプナーがお互い不可解そうに首を傾げるが、
「だったら悟飯さんに聞いてみればいいんですよ! おーい悟飯さーんっ!!」
相変わらず、ただ一人目がキラキラしているクオーラが、大いに興奮した様子で右手を振りながら悟飯に向かって駆けだす。その後を、慌ててビーデル達も追いかける。
「悟飯さんっ! 私達でも空って飛べるんですかっ!?」
空から降りてきた悟飯と、岩山から跳び下りてきた悟天の傍に駆け寄ったクオーラの、前置きも何もない直球の質問。
「え? そ、そうだなぁ…。クオーラさんなら気功波も撃てるし、頑張れば十分出来ると思うよ」
「と、いう事は、やはりこの空を飛ぶ技術も気に関係しているという事ですね!?」
腕を組む悟飯の口から出た答えに、クオーラは満足そうにしている。
「お姉ちゃんも、空を飛びたいの?」
「うん、飛びたい! この技も気功波の類の物なら習得したい!」
続く悟天の問いに、両手を握り締めて力説するクオーラ。そして、良く分からないが何か波長が合ったのだろう。悟天とクオーラは共に笑みを浮かべながらハイタッチを交わす。
「ところで悟飯さん! やはり、超サイヤ人というのも気功波の応用なのでしょうか!?」
そして、更なるクオーラの質問に、しかし悟飯はあからさまに顔をしかめ俯いてしまう。
どうにも答えに窮している様だが、クオーラに続き駆けつけてきたビーデル達の視線もあり、少しの間を置いてから観念した様子で顔を上げた。
「その、この事はあまり言いふらさないで欲しいんだけど…」
と、前置きをする悟飯。どんな重大な事実を告げられるのかとその場にいる全員が生唾を飲み込む。
「僕のお父さん…つまり、孫悟空は宇宙人なんだ」
しかし、悟飯から告げられた言葉は、その場にいる全員の予想を斜め上に上回る珍妙なものだった。当然ながら全員呆けた顔をするが、いきなり宇宙人なんて単語を出されたらこうなるのも仕方ないだろう。
「―――宇宙人…ってのは、地球外生命体の事か…?」
たっぷりと間を置いてから、シャプナーがかすれた声で尋ねる。対して、悟飯は頷くのみだ。
「…って事は、悟飯君は宇宙人と地球人のハーフって事?」
「うん、そうなるね」
次にイレーザが確認を取るが、これにも悟飯は素直に頷く。
「…因みに、その宇宙人って言うのはどんな種族なの…?」
更に、ビーデルが質問をする。その険しい表情を見るに、種族の特徴を聞く事で、本当か嘘かを見極めようとしているのだろう。嘘なら、なにかしら綻びがある筈だ…というところだろう。
「サイヤ人っていう戦闘民族だよ。基本は地球人と一緒だけど、尻尾が生えてるのが特徴だね。そして、戦闘民族っていう名の通り、戦うのが大好きな種族。僕のお父さんは優しかったけど、伝え聞いた話によると、かなり危険な種族…だったみたい。僕も小さい頃に酷い目にあわされたし…」
しかし、その種族…サイヤ人についてスラスラと語る悟飯には、嘘をついている様子は何処にもない。挙句に、何かを思い出しているような姿を見せられては、ますます真実味が出てきてしまう。
「せ、戦闘民族か…。信じがたい話だが、確かにそれなら君や悟天君の戦闘能力も説明はつくな…」
「もしかして…。名前的に、超サイヤ人になれるのは、サイヤ人の血を受け継いでいる者だけ…?」
そんな悟飯の様子に、ウットナも受け入れ難そうにしながらも、納得はしている様子だ。一方、クオーラはある思考にたどり着き、悲壮感漂う雰囲気で呟く。
「うん、そうだね。だから、クオーラさんは超サイヤ人には…」
「そ、そんな~………」
その思考を悟飯に肯定され、ガックリと膝をつくクオーラ。悟天が脱力するクオーラを気に掛けるが、だいぶ落ち込んでいる様ですぐには立ち直れそうにない。
「…ん? ちょっと待ってくれ悟飯君」
と、ここでウットナから待ったが入る。
「君の父親が宇宙人なのは…まあ分かった。でもそうなると、孫悟空氏と孫悟飯翁の関係はどうなるんだ? まさか孫悟飯翁も宇宙人…の訳ないよな?」
不可解そうに首を傾げるウットナ。ウットナからしたら、名字が同じ以上血縁関係があると思っていたのだ。しかし、そうなると孫悟飯翁まで宇宙人という事になってしまう。
だが、ウットナがこれまで見てきた孫悟飯翁の映像では、彼はそのサイヤ人とやらの特性とはまるで一致しない。特に、戦いそのものを楽しそうにしている孫悟飯翁が映っている映像など一つもないのだ。
「悟飯おじいちゃんは、この星に送り込まれていた当時まだ赤ん坊だったお父さんを拾ったんだって。送り込まれた理由は…その、あ、あまりよろしくない理由なんだけど、それを悟飯おじいちゃんが更生した…んだと思う」
対して、悟飯もその事情を説明するが、どうもあやふやな感じがするのは否めない。とはいえ、彼の父親が赤ん坊のころの話らしいので、そんなもの正確に説明などできる筈もない。この事情をしっかりと説明できるのは、当事者の孫悟飯翁くらいだろう。
「おお、そうか! そんな危険な種族を更生させられるとは、流石孫悟飯翁だ!」
しかし、そんなあやふやな言説にウットナは先ほどのクオーラと似た興奮を見せる。その様子の似通いぶりは、流石兄妹といったところか。
「兄ちゃん、お話終わった? 早く空の飛び方教えてよー」
「…そうです! 超サイヤ人はまあ仕方ありません…諦めますが、ならせめて空の飛び方は教えて下さい!!」
と、ここで悟天が物欲しそうに悟飯に空の飛び方の伝授を催促する。その言葉に反応し、ガックリと膝をついていたクオーラまでもが悟飯に縋りつくように伝授をせがんできた。
「ちょっと悟飯君! さっきまで気の修行をしていたのは私なんだから、まず私に教えるべきでしょ!?」
更に、この騒動にビーデルまでもが乱入してくる。先ほどまで悟飯の宇宙人発言に顔をしかめていたのだが、悟飯に空の飛び方を教わろうとする悟天とクオーラを見て、最初に修行を受けたのは自分なのに、この二人に先を越されるのは悔しい…と感じたのだろう。
「…ま、宇宙人でも何でもいいか」
「だね~…。悟飯君は悟飯君だし…」
ビーデル、クオーラ、悟天の三人に激しく催促されて狼狽えながらも落ち着かせようとしている悟飯を見て、シャプナーとイレーザもなにやら毒気を抜かれた様子で笑みを浮かべていた。
が、そんな中において、ウットナだけはなにやら難しい様子で考え込んでいるのだった。
実際、転校生が宇宙人と地球人のハーフだったとか、一昔前のラノベにありそう…というか読んだ事があります。別作品ですが、ハルヒさんとか大喜びしそうだな(ネタが古いのは許して…)