二人の孫悟飯   作:無印DB好き

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天下一武道会の賞金

 孫兄弟の組手を見学したその日の夜。ビーデル達は孫家で夕食を頂いていた。

 

「チチさん、夕食までごちそうになってありがとうございます」

 

「そったら事、気にするでねえ! 悟飯ちゃん達みたいにドンドン食え!!」

 

 お礼を言うウットナに、チチも気前よく返事をしてくれる。

 

「い、いや、この二人みたいには…」

 

 しかし、そのチチの言葉にシャプナーが少し引き気味に引き攣らせた声を上げる。が、それも無理はないだろう。まだ食事が始まって五分も経っていないというのに、既に悟飯と悟天の両名は数十人分はあろうかという量の料理を平らげてしまっていたのだ。

 

「昨日も見たけど、本当に何回見ても凄い食べっぷり…」

 

「体のどこにこれだけの量が入ってるんだろう…? 太ってる訳でもないし…」

 

「ほえ~…。これがサイヤ人の血なんですねぇ…」

 

 その両名の様子を、ビーデル、イレーザはやはり少し引き気味に、クオーラは興味津々といった感じで見つめている。

 

「そうか…。悟空さがサイヤ人だって事、話しちまったんだな」

 

 が、クオーラの言葉を聞いたチチが少しうつ向きがちに呟く。確かに、あまり他言していい様な話ではないし、もし悪い奴に聞かれでもしたらそれこそ面倒ごとが起こるだろう。

 

「う、うん…。ごめんお母さん」

 

「うんにゃ、大丈夫だ。大勢の人と関わる以上、いつまでも秘密になんて出来ねぇべ。これくらい、悟飯ちゃんが学校に行く時から覚悟してただよ。それに、ヤムチャさんも言ってたけど、皆いい子達だしな」

 

 謝る悟飯に、チチはきにするな! とばかりに直ぐに笑顔で応える。と、同時にチチのビーデル達に対する評価も上々である事も明らかになった。

 

「し、しかし、これは本当に食費が凄い事になってそうですね…」

 

 と、ここでシャプナーが話の矛先を変えるべく、再び孫兄弟の食べっぷりに話を戻す。とはいえ、未だに孫兄弟の食べっぷりに対するショックも抜け切れていないみたいなので、これはこれで本心を語っている様子だが…。

 

「んだなぁ~…。お父の財産も尽きてきてるし、このままじゃ少し不味いかもしれねぇだ…」

 

「そ、そうなんですか? あれ、じゃあ俺達が夕飯を頂いているのも少し不味いのでは…?」

 

 そのシャプナーの言葉に応じるチチだが、あまり芳しい返事ではない。そんなチチを見て、ウットナも少し慌てた様子で聞き返すが、

 

「大丈夫だべ! 近いうちに大きな収入が入ってくる予定があるだ! な、悟飯ちゃん、ビーデルさん!」

 

「はい、任せてくださいおば様!」

 

 何故か自信満々に返答するチチ…とビーデル。しかし、ビーデルと同じく同意を求められた悟飯は気まずそうに茶碗で顔を隠している。

 

 大きな収入…? それも、悟飯とビーデルで得られる…? と首を傾げるウットナ、クオーラ、シャプナー、イレーザの四人であったが、少し間を置いてから、クオーラがあっと声を上げる。

 

「もしかして…天下一武道会の事ですか?」

 

 そして、クオーラが口にしたイベント名に他の三人もハッと顔を上げた。

 

「んだんだ! 近々天下一武道会が開催されるっていうでねえか! しかも優勝賞金は一千万ゼニー!! 二位でも五百万ゼニー貰えるってんだから、悟飯ちゃんとビーデルさんで、計一千五百万ゼニー貰える計算だべ!! いやー、あの大会も太っ腹になったもんだべなぁーっ!」

 

 どうやらクオーラの答えは当たっていたようで、途端にほくほく顔で興奮気味に喋りだすチチ。彼女の中では既に悟飯とビーデルが優勝と準優勝をする事が決まっている様だ。確かにこの二人…特に悟飯は無類の強さではあるが、この時点ではまだ捕らぬ狸の皮算用なのは言うまでもない。

 

「ビーデルは良いの? ミスターサタンがチャンピオンじゃなくなっちゃうけど…」

 

「良いのよ! イケない遊びもそうだけど、最近はパパ、トレーニングもさぼるようになってきたから、ちょっとこの辺りでお灸をすえた方が良いわ!」

 

 チチの期待を受けて意気込むビーデルに、イレーザが少し眉根を寄せながら尋ねる。だが、ビーデルの返答は手厳しいものだ。セルとの闘いでの誤解こそ解けたものの、完全な雪解けにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

 と、ここまで意気揚々としていたビーデルだったが、ここで突然申し訳なさそうにイレーザとシャプナーに向き直る。

 

「…という訳だから、私暫くここで悟飯君とトレーニングするつもりなの。一応、学校の長期休暇の申請書は用意したから、学校の皆には上手く言って欲しいの。お願い!」

 

「待て待てビーデル。学校はそれでいいとしても、ミスターサタンはどうするんだ? あの人、今もお前の事を心配して探し回ってるんじゃないのか?」

 

 そのビーデルのお願いに、しかしシャプナーが口を挟む。

 

「大丈夫だ! サタンさんにはもううちでビーデルさんを預かってると連絡してあるだよ! まあ、あの時は弱ってるビーデルさんを見てつい小言を言っちまったけど、余計なお世話だったべかなぁ…」

 

「良いんですよおば様! 言って貰えるうちが花ですから!」

 

 そこに、更にチチからフォローが入る。と、同時にチチはミスターサタンに何やらを言った様子だが、ここは同じ親として言わずにはいられなかったのだろう。

 

「ビーデルさんが残るなら、私も残ろっと! どうせなら私も天下一武道会に出てみようかなぁ…。でも、私の年齢じゃ、ギリギリで少年の部になっちゃうんだよなぁ…。できれば悟飯さんやビーデルさんと一緒に戦いたいんだけど…」

 

 一方、クオーラはクオーラで何かを呟いている。どうやら、現在の天下一武道会の部門分けに少し不満を抱いている様子だ。

 

「待てクオーラ。お前も学校があるだろうが」

 

「そんなの、サタンシティへ向かう時点で長期休暇の申請を終えてるよ。折角長めにとってるんだから、その分満喫しないとね!」

 

 ウットナ的には聞き逃せない呟きに苦言を呈するが、残念ながらクオーラはどこ吹く風だ。こうなったらこの妹は梃子でも動かない事を熟知しているウットナは、思わずため息を吐く。

 

「悟飯ちゃん、この娘っ子も強いだべか?」

 

「う、うん…。独力で気功波を使えるくらいだから、しっかり学べば強くなると思う…」

 

「へえー! そりゃ凄いなぁ!! という事は、三位の三百万も頂きだべな!!」

 

「あ、いえ、私は年齢的に大人の部には出れないから、少年の部になるんです。そっちでも賞金って出るのかな?」

 

 新たな収入の有力候補の出現に、チチが大いに喜び沸き立つが、大してクオーラは少し申し訳なさそうに大人の部には出れない(=賞金は取れない)ことを白状した。のだが、

 

「大丈夫よクオーラちゃん。確か少年の部でも優勝と準優勝の賞金は大人の部と同額の筈だから」

 

 ここにビーデルから助け舟が入る。そして、この言葉を聞いた途端、チチの顔色が変わった。

 

「ど、どどど、同額!? と、いう事はプラス一千万…っ!? おめえ、クオーラちゃんって言うのか!? 頑張るだぞ! おめえの働きに我が家の家計がかかってるだよ!!」

 

「あ、は、はい! 何だか良く分かんないけど頑張りますっ!!」

 

「悟飯ちゃんもしっかりこの娘っ子を指導してやってくれな!」

 

「―――う、うん…」

 

 先ほど以上に興奮気味にまくし立てるチチに、クオーラはわずかに戸惑いながらも元気よく返事をするが、悟飯の返事は何とも歯切れが悪い。何やら良心が疼いている感じだ。

 

「お母さん、僕も出ていい?」

 

 と、ここでずっと黙って会話を聞いていた悟天が口を開く。

 

「ん? うーん、悟天ちゃんには流石にまだ早いかもしれねぇなぁ…」

 

 しかし、見るからに子供という感じの幼い悟天に対してはチチも渋る。

 

「大丈夫だよ! 僕こう見えても強いし、いざとなったらあの金色の髪にもなれるし! 僕も兄ちゃんやお姉ちゃん達と一緒にかけーを助けるんだ!」

 

「悟天ちゃん…っ! 分かった、悟天ちゃんも出場していいだよ! でも、危ないと思ったらすぐに降参するだよ!? いざとなったら不良になっちまっても構わねえべ!」

 

「いや、ダメだよお母さん! 超サイヤ人になったら勘のいい人が見たら僕達の正体がばれちゃう!! って言うか、お母さん悟天が超サイヤ人になれるって知ってたの!!?」

 

 健気な悟天の意気込みに、感動の面持ちで出場の許可をするチチだったが、その後の言葉の無節操ぶりに慌てて止めに入る悟飯。と、同時にチチが悟天が超サイヤ人になれるのを知っていたらしいことにも、かなり驚いている様子だ。

 

「―――ね、ねえ、シャプナー…。これって流石に八百長っぽくない…?」

 

「―――ま、まあ、いいんじゃねえか…? 強い奴が勝つってのが天下一武道会の根底のルールだし…」

 

 天下一武道会…の、主に賞金の事でチチを筆頭に大はしゃぎするビーデル、クオーラ、悟天を見て、少し訝し気にシャプナーに聞くイレーザ。対して、シャプナーも一応は頷きながらもどこか釈然としない様子だ。悟飯も何か申し訳なさそうに頭を垂れているが、恐らくはこの二人と同じ理由だろう。

 

「で、兄さんはどうするの!? 一緒に大会に出る!?」

 

 そんな中、興が乗ったらしいクオーラがハイテンションでウットナに尋ねるが、当のウットナは静かに首を横に振り、おもむろに口を開いた。

 

「いや、俺は孫悟飯翁の軌跡を追いたい。昼間の悟飯君の話を聞き終わった時から考えていたんだが、恐らく今が孫悟飯翁をもっと詳しく知る最大のチャンスだ! 多分、今を逃したら二度と翁に近づくことはできない…という予感がするんだ…」

 

 力強く宣言してからしみじみと語るウットナに、天下一武道会の事で盛り上がっていた場も静まり返ってしまった。

 

「チチさん。もし差し支えなければ、孫悟飯翁の墓石の場所などを教えて頂いてもいいですか? お参りだけでもさせて頂ければ、凄くありがたいのですが…」

 

「ご、悟飯さんの墓か? えー、そういやぁ、悟空さからそのあたりの事は聞いた事ねぇなぁ…。お墓参りも一度も行った事ねぇし…」

 

 そうして、改めてチチに向き直り尋ねるウットナだったが、返ってきた答えにウットナは驚愕の表情を浮かべる。

 

「一度もお参りしたことがない!? さ、流石にそれは親不孝過ぎるのでは…?」

 

「でも、あの人ならあり得るかも…。ちょっと非常識っぽそうだったし…」

 

 苦言を漏らすウットナに、ビーデルも同調する。恐らくは、あの映像の嫁や結婚という事すら知らなかったっぽい孫悟空を思い出しているのだろうが、そもそも男親に不信感を抱いている感じもする。

 

 そんな感じで、孫悟空という人物のイメージが悪くなりそうになっている事に、チチが少し焦ったのだろう。とんでもない事を口走ったのだ!

 

「まあまあ、悟空さも悟飯さんの事は大事に思ってたよ。それに、悟飯さんはもう故人だから難しいけど、会おうと思えば会えない事もなかったし…」




 執筆してて思ったのですが、そういえばミスターサタンの交友関係って悟空たち以外には全く明らかになってないんですよね。作中でも、ハイスクール編ではミスターサタンのわがまま放題の行動を諫める人は一人もいませんでしたし、やはり英雄は孤独になる定めなのか…と、ちょっと暗い気持ちになってしまいました…。
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