二人の孫悟飯   作:無印DB好き

2 / 12
 お詫び:前回投稿時、主人公ウットナの一人称が俺だったり僕だったりしてましたが、彼の一人称は俺です。以降気を付けて執筆していきます。


悟飯君調査隊結成

「情報の…交換?」

 

 ウットナの提案に、今まさに悟飯を探そうと飛び出しかけていたビーデルが、ピタリと動きを止めて少し怪訝そうにウットナに視線を向ける。

 

 実をいうと、ビーデルと会話をするのはこれが初めてだ。無論、ウットナはビーデルの事はよく知っている。あのミスターサタンの娘であり、同時に女性でありながらもミスターサタンに匹敵するかもしれない程の武術の達人。

 

 ミスターサタンが優勝した第二十四回天下一武道会でも、その子供の部の優勝者は当時まだ十歳にも満たないビーデルだった事でもその資質の高さは伺える。少しだけ話してみたいと思った事も一度や二度ではない。

 

 しかし、ビーデルからしたらウットナなど名前すら憶えていなかった、ただの同じクラスメイトだ。そんなよく知りもしない相手から、いきなりこんな提案を持ちかけられたら疑いもするだろう。

 

 だが、そうしながらもビーデルは腕を組んで考え込む。やはり、先ほど彼女が口にした孫悟空という人物の情報は今の彼女にはかなり魅力的に写ったのだろう。それを示すように、やや間を開けてから、

 

「…いいわ。情報の交換といきましょうか」

 

 と、険しい顔ながらもコクリと頷いた。

 

「おい、なんか面白そうだな! 俺も混ぜろよ!」

 

「私も私も~! 謎の転入生の正体を暴けっ! なんて超面白そうじゃん!」

 

 そして、ここで今までずっと話を聞いていたシャプナーとイレーザが割り込んでくる。二人とも、確かに言葉通りに興味深そうに瞳を輝かせていた。

 

 この二人とも、ウットナは話をしたことはない。確か、イレーザはビーデルの幼少の頃からの幼馴染で、シャプナーとビーデルは当初こそ険悪な仲だったが、ホームである筈のボクシングでシャプナーがボコボコにされて以降、溝は取り払われていった…という話を聞いた事はある。先の悟飯に放ったボコボコにされる発言も、この時の経験が無意識に来ていたのかの知れない。

 

「良いかな? ビーデルさん」

 

「…いいけど、シャプナー。貴方部活は?」

 

「部長には言っとくから大丈夫だ。部活以外にもトレーニングはしてるからなまりはしねえよ」

 

「いえーい、決まりだね! じゃあ、悟飯君調査隊しゅっぱーつ!」

 

 こうして、謎の転入生…孫悟飯の身辺を調査する四人の団が結成されたのであった。

 

 

 

 

 

 情報交換という名の、記念すべき調査団一回目の会議場所は、何故かビーデルの家…つまり、豪邸でならすミスターサタンの家で行われる事となった。ビーデル曰く、部屋ならいっぱいあるし警備も手厚いから、誰にも聞かれずに密談するには丁度いい…のだそうだ。

 

 とはいえ、ウットナとシャプナーは気が気ではない。というのも、ミスターサタンが娘を異常なまでに溺愛しているのは周知の事実だ。もしこんな場面を当のサタンに見られよう物なら…。

 

「いいのよ! どうせパパは今日も帰ってこないし。いつものように女の人の家に泊まりに行っているに決まってるわ! パパは良いのに私は男の子と一緒にいたらダメなんて不公平じゃない?」

 

 上記の理由で尻込みしていたウットナとシャプナーに、ふんまんやるかたない様子のビーデルが強引に自宅へと二人を連れ込んだのだが、その時に口にした言葉がこれだ。

 

 どうやら、ビーデルは父の強さや偉業自体は尊敬している様だが、普段の生活においては少し忌避感を抱いている様子。加えて、思春期特有の難しいお年頃に反抗期も加わって、その胸中たるや非常に複雑な思いを抱いている様だ。

 

 まあ、というようなゴタゴタはあったものの、改めて会議が開催される事となる。が、残念ながらウットナの思惑に違い、今回の議題はビーデル主催という事で、孫悟空という人物について…ということになってしまった。

 

 とはいえ、この孫悟空という人物も孫悟飯の関係者である可能性は高い。悟飯翁と同じく謎に包まれた生い立ちもそうだが、何より苗字が一緒だ。そのうえ、”孫”などという珍しい苗字そうそうお目に掛かれるものではない。実際、少年の方の孫悟飯の名前を聞いて、その珍しい苗字にビーデルは反応したのだから。

 

 さて、その孫悟空。天下一武道会第二十一回、第二十二回準優勝者。そして、次の第二十三回にてついに優勝を飾った人物だ。この時点で、素晴らしい武術の技を持った人物であることが伺える。

 

 しかし、それ以外の来歴については正確な情報は全くない…というのが実情だ。真偽の定かではないものならいくつかあるのだが、西の都でストリートファイターを一方的にぶちのめしたとか、複数の村をまたいで暴れる魔獣を倒したとか、そういう武道家らしいエピソードから、軍隊を一つ潰しただの、天下一武道会に出場するために、会場であるパパイヤ島を目指してその裏側にあるヤッホイから泳いで来ただの、人間としての性能的に思わず首をひねりたくなるエピソードも満載だ。

 

 中には、第二十二回が終わった後に、武道寺の中から黄色い雲に乗って空に飛びあがっていった…という非科学的なものもある。その時の彼は、子供とは思えない程恐ろしい表情をしていたらしい。

 

「……………………」

 

「………いや、そりゃ流石にデマだろ? 何だよ軍隊を一つ潰したって。トリックか?」

 

「確かにヤッホイからパパイヤ島までの海路はあるけど、泳いでいけるような距離じゃないわよ…?」

 

 ウットナの語る孫悟空のとんでも人物像に、乾いた笑いと共に、呆れた様子で口を開くシャプナーとイレーザ。まあ、言いたい事は分かる…というか、ウットナもほとんど同じ気持ちだ。

 

 しかし、そんな中において、ビーデルだけは目を閉じ腕を組みながら黙っていた。

 

「ビーデルさん…?」

 

 そんなビーデルにウットナが声をかけ、シャプナー、イレーザも視線をビーデルに移す。そして、少し間を置いてから、ビーデルはゆっくりと目を開いた。

 

「私とパパがダブルで優勝を飾った二十四回の時なんだけどね、審判の人が大会関係者の人と話をしているのを偶然聞いちゃったの。いろいろ言ってたけど、かいつまんで言えば、前回に比べて今回の選手のレベルはだいぶ落ちていた…って」

 

 重々しい口調でそう語るビーデルに、他の三人は口を挟むことができない。更に、彼女の険しい表情を見るに、当時その話を聞いた時はすごく悔しい思いをしたのかもしれない。故に、前回優勝者である孫悟空の事を調べ、少年の孫悟飯…その”孫”という珍しい苗字に過剰な反応を示したのも納得がいく。

 

 少しの間、場に重い沈黙が訪れたが、不意にウットナが両手をパンと叩いて自分に注意を向けた。

 

「やっぱり推察について話し合いをするだけじゃ埒が明かない。ここは一つ、当時の人に話を聞いてみたいと思うんだ」

 

「当時の人って…心当たりがあるの?」

 

「ああ、この三回の武道会のいずれかに出て、今も所在が分かってるのは三人。第二十一回にて本戦の準決勝で彼と当たったナム選手。二十二回にて本戦の初戦で当たったパンプット選手。そして、全ての大会で本戦の初戦で敗退しているヤムチャ選手だ」

 

 ウットナの提案に不思議そうに首を傾げるビーデル。そんなビーデルにウットナは頷くと当時に指を三本立てて説明する。

 

「しかし、残念ながら前二人は今会うのはあまり現実的ではない。ナム選手は今はとある砂漠の村の村長をしており、パンプット選手についても、今は老練のクンフーアクションスターとして北の都で映画を撮影中だ。仮にビーデルさんがミスターサタンのコネを使ったとしても、単純に遠すぎて時間がかかってしまう」

 

 そうして、立てた三本の内二本を折りながら説明を続けるウットナ。

 

「となると、残るのはヤムチャ選手だが…。実は今から十年ほど前にスポーツ界である人物が脚光を浴びていた。ウルフェンって言うんだけど、彼が助っ人として所属したチームは、たとえそれがどんな弱小チームだったとしても必ず勝利を収められる…という事で、いろいろなチームから引っ張りだこだったらしい。加えて、種目もベースボール、サッカー、アメフト、バスケと選ばなかったから猶更だ」

 

「お、そいつなら知ってるぞ! 親父がスポーツ大好きで、そいつの話をよくしてたぜ! なんでも伝説の超スケッターとか言われてたらしいじゃねえか! まあ、やり過ぎたせいで総合スポーツ協会から警告受けて早々に姿を消したらしいが…」

 

「個人種目ならともかく、団体種目でもお構いなしに個人プレーをしていたからね。そもそも、必ず勝てる試合なんてチーム的にはともかく、観客としてこれほど冷める興行もないし…」

 

 なにやら呆れた笑みを浮かべながら口を開くシャプナーに、ウットナもフッと笑みをこぼしながら答える。その横ではイレーザも「確かにね~…」と同意していた。

 

「まあ、それは置いといて…。実はこのウルフェンって人物が、ヤムチャ選手にそっくりなんだ。そのウルフェン本人も、過去に大きな武道大会に出場した事があるって明言してたし。そして、ここからが大事なんだけど…。なんとこのウルフェン、サタンシティお抱えのアメフトチーム…『ブラッドオレンジャーズ』の助っ人として、今このサタンシティに滞在しているらしいんだ!」

 

「…という事は!」

 

「すぐにでも会いに行ける…っていう訳ね!」

 

「そういう事さ! 勿論、本当にこのウルフェンがヤムチャ選手なのかという確証はない。それでも、あってみる価値はあると俺は思う。ビーデルさんは…」

 

 ウットナの説明に沸き立つシャプナーとイレーザ。そして、三人の視線はビーデルへと向かう。この視線を受け、ビーデルはおもむろに口を開いた。

 

「…そうね。『ブラッドオレンジャーズ』ならパパのコネも通用しそうだし、一度そのウルフェンという人に会って、話を聞いてみましょう」




 ベースボールなら、たとえブロリーとてヤムチャ様を越える事は出来ぬぅ!!



 偽名の件ですが、実際ヤムチャがベースボールの試合に出ていた時に偽名を使っていたのかは不明ですが、やっぱり謎の人物の調査には、偽名を使っている人の証言が似合っているよなぁ…という作者の気分でだしました。もしかしたらアニメとかでアナウンサーとかに本名を呼ばれてるシーンがあるかもしれませんが、そもそもこのスポーツ云々がアニメオリジナルだったような…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。