二人の孫悟飯   作:無印DB好き

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※このお話は一般人のウットナ視点で進んでいるので、サブタイトルは一般人から見た超人技…という意味です。DBの主要キャラから見たら超人でも何でもない、寧ろできて当たり前の技です。


ヤムチャの超人技

 第一回の会議を終えた翌日、ウットナ達は早速ウルフェンなる人物に会いに行くために街へと繰り出す。因みに少年孫悟飯だが、やはりというかウットナ、ビーデル、シャプナー、イレーザの四人を意識的に避けるようになってしまった。

 

 まあ、あれだけ詰め寄ってしまえばこうなってしまうのも当たり前だろう。一応昨日の不躾な質問は謝りはしたものの、そう簡単に警戒が解かれるはずもない。

 

 が、実はこれに関してはウットナにはある秘策があった。以前から見てみたいと思っていたある映像があったのだが、これを何とか入手できるめどが立ったのだ。早ければ今日の夜中にでもダウンロードできそうなので、これを入手するまでは少年悟飯には深追いしないで欲しいとビーデル達には伝えてある。

 

 さて、ビーデルの持っている飛行機で飛ぶこと数分。お目当ての『ブラッドオレンジャーズ』の本拠地に到達する四人。すぐさま警備の人達がやってくるが、飛行機から降りてきた四人のうちの一人がビーデルであることを確認すると、大慌てで上の人へと話を通してくれた。

 

「おお…。一緒に通学してると忘れちまいそうになるけど、やっぱビーデルすげぇな…」

 

「あまりよくない事なのは分かってるけど、今回はどうしても…ね」

 

 その時のビーデルの扱いを見て、改めて驚きの表情をするシャプナー。勿論ウットナも、ここまですんなりいけるとは思わなかったので、改めてミスターサタンの影響力を思い知らされた。が、イレーザだけはあまりいい反応をしていない。幼馴染なだけに、こういう形でのゴタゴタを何度か目にした事があるのだろう。

 

 そうこうしている内に、本拠地の建物の中から何故か町長が現れて、ビーデル達一行を建物の中…そのうちの一室へと案内する。どうやら、この中に件のウルフェンがいるらしい。

 

「ウルフェンさん、お連れしました」

 

「ああ、中に入ってくれ」

 

 町長の言葉に、部屋の中から入ってくるように促す声が返って来る。なかなか爽やかな感じの声色だ。そして、部屋の中にいた男性はその声に符合するかのような爽やかな顔立ちの男性だった。身長も高く、爽快な笑みを浮かべていたが、唯一頬に付いている傷跡が渋みも醸し出している。

 

「成程、君達か。悟飯が言ってたのは。………で、君があのミスターサタンの娘か。へぇー、あいつの娘にしちゃなかなか可愛いじゃないか」

 

「ふん、アンタなんかに褒められても嬉しくないわよ」

 

 ジロジロとビーデルを見ながら口を開くウルフェンに、しかしその少し失礼な口調にビーデルはピシャリと強気に言い返す。

 

「単刀直入に聞きますが、貴方の本名はヤムチャさん…ですね? その昔、天下一武道会に出場した」

 

「ん? …ああ、まあいいか。そう、俺の名前はヤムチャ。しかし、天下一武道会とはまた懐かしい響きだ。それと、良く知ってるな君」

 

 続いてウットナが質問したのだが、意外にあっさりとウルフェン…いや、ヤムチャは正体を明かしてしまったので、ウットナは少し拍子抜けしてしまう。

 

「だったら教えなさい! 悟飯君や孫悟空という男の事! 孫悟空と一緒に天下一武道会に出たのなら、少しはこの男の事も知ってるんでしょ!?」

 

 しかし、呆気に取られているウットナと違い、ビーデルは語気を強めてヤムチャに食って掛かる。まあ、先に失礼な口をきいたのはヤムチャの方なので、ビーデルの口調が多少無礼なものになってしまうのも仕方がない所だが。

 

「悟飯だけじゃなくて、悟空の事も知りたいってのか…。以外に我儘な娘だな。でも、一つ聞きたいんだが、そんな事を知ってどうするんだ?」

 

「え? ど、どうって…」

 

 しかし、ここで真顔でヤムチャに問われ、少し怯んでしまうビーデル。

 

「隠してるって事は、知られたくないって事だろ? それを、こんな本人のあずかり知らぬ形で聞き出すなんて、お世辞にも褒められたもんじゃないぜ? もしこれが原因で悟飯が塞ぎ込んだりしてしまったら、お前ら責任取れんのか?」

 

 そんなビーデルに構わず、更に厳しい言葉を続けるヤムチャ。その剣幕を前に、ビーデルはもとより他の三人もうかつに反論する事が出来ない。

 

 そうして、暫くの間ヤムチャとビーデル達の視線が交錯し続けたのだが、ここでフッとヤムチャの表情が和らいだ。

 

「…とはいえ、そんな程度で塞ぎ込むほど悟飯はやわじゃないけどな」

 

「そ、そうなのか…?」

 

「ああ。つーか、こんな程度でへこたれてたら、あいつの幼少期なんてとても乗り越えられないぜ。数えきれないほどの修羅場をくぐって、数多の死線をさまよってきたからなあいつ」

 

「修羅場…? 死線…?」

 

 乾いた笑みを浮かべながら不穏な言葉を口にするヤムチャに、シャプナーとビーデルも怪訝そうな表情を浮かべながら口を開き、ウットナとイレーザも口こそ開かなかったが同じ表情だ。

 

「俺としては、むしろあいつの身の上を知ったうえでフォローしてくれる人が欲しかったんだ。このご時世に、たった一人で身元を隠し続けるなんて不可能に近い。俺も、あいつの母親に頼まれて様子を見る為にここに来てる訳だし」

 

「はあ!? じゃあ、さっきの問答は何だったのよ!?」

 

「悪い悪い。ちょっとお前らを試してみたくてさ。でもまあ、悪い奴らじゃない事は分かった。それだけでも大収穫さ」

 

 ヤムチャの言葉に憤慨するビーデルだったが、対してヤムチャはおどけるように謝るのみだ。とはいえ、先ほどの問答自体は正論なので、ビーデルもあまり強くは出ない。

 

「それに、今以上に悟飯に近づきたいってんなら、覚悟が必要なのはお前らの方だぜ? それも、並の覚悟じゃへし折れる事請け合いって程の…だ」

 

「覚悟…?」

 

 再び真剣な表情に戻るヤムチャに、ウットナが冷汗を垂らしながら呟く。と、その時だった。不意に部屋の入り口の扉が開き、ビーデル達を室内に入れた後に何処かへと消えた町長が無断で入って来たのだ。何故か『ブラッドオレンジャーズ』の選手十数名を引き連れて。

 

「ウルフェンさん、やはり契約はして頂けませんか?」

 

「悪いな。知っての通り協会から警告を受けてる身だし、それ以前に、もうスポーツ界に顔を出すつもりもない」

 

 威圧的に尋ねてくる町長に、しかしヤムチャは余裕の笑みを浮かべて拒否する。

 

「ならば、仕方ありません。多少手荒にでも契約をして頂きましょうか」

 

 そして、ヤムチャに契約の意志はないと確信した町長が言葉と共に合図を出す。すると、その後ろにいた選手たちが、そろってヤムチャとビーデル達を取り囲んだのだ。

 

「おいおい正気か? まさかこの女の子が誰か知らない訳じゃないだろ?」

 

「ええ、勿論ご存じですとも。ミスターサタンの娘であり、本人も武術の達人。まともにやりあっては、例えこの人数でも勝ち目は薄いでしょう。ですが、その他の子供たちはどうですかな…?」

 

 そう言って、町長はシャプナー、ウットナ、イレーザの三人に視線を移す。どうやら、この三人の誰かを強引に人質に取って、ヤムチャに無理やり契約させようという腹積もりらしい。

 

「くっくっく…。ガキだからって甘く見られたもんだぜ…」

 

「卑怯な奴らめ…。絶対に負けはせんぞ…っ!」

 

 対して、不敵に笑いながら両腕を顔の前に構えて応戦の体勢を取るシャプナーと、怒りに燃えながら同じく武道の構えを取るウットナ。

 

「ちょっとアンタ! 天下一武道会に出た事あるって事は、少しは腕に覚えがあるんでしょ!? イレーザだけは戦えないから、アンタ守りなさいよっ!!」

 

「分かった。えーと、イレーザちゃん…か。俺の傍を離れるなよ」

 

「あ、は、はい…」

 

 そして、同じく構えながら唯一の非戦闘員であるイレーザをヤムチャに託すビーデル。と、ほぼ同時に、

 

「よし、狙いはあのウルフェンの傍にいる女の子だっ! 全員、かかれっ!!」

 

 町長の指示と共にアメフトで鍛え上げられた屈強な選手たちが、一斉にビーデル達に襲い掛かって来た!

 

「はあっ! せいっ!! まだまだぁっ!!!」

 

「オラオラァッ!! その図体は飾りかよてめえらっ!?」

 

「やあーーーーっ!!!」

 

 しかし、その屈強な選手たちを、ウットナ、シャプナー、ビーデルの三人は次々になぎ倒していった。ウットナは自前の武術で相手の急所を的確に攻撃し、シャプナーはボクシングで鍛え上げた己の拳を相手の鼻っ面に次々に叩きこみ、ビーデルに至ってはその小柄な体からは想像もできないパワーで、巨漢どもを手当たり次第にのしていく。

 

「ビーデル―! シャプナーにウットナ君も頑張ってーっ!!」

 

「おお、三人ともかなりやるじゃないか。正直想像以上だ」

 

 黄色い声援を送るイレーザを守りながら、ヤムチャも少し驚き感心した様子で三人の戦いを見守る。そうこうしているうちに、三人はあっという間に全員片づけてしまった。

 

「そ、そんなバカな…。な、何だこの子供たちは…っ!?」

 

「さあ、町長さん。どうしてこんな事をしたのか白状しなさい!」

 

 ビーデルはもとより、シャプナーにウットナも想像以上の実力を持っていた事に驚愕し狼狽する町長に、ビーデルが険しい表情で詰問する。

 

「この街が『サタンシティ』に改名した事から、チーム名を『サタンソルジャーズ』に改名したかったそうだ。が、最近は成績が一流のSリーグから二流のAリーグに落ちようかというレベルで低迷しているらしい。このままじゃ、名前負けし過ぎているチームというレッテルを張られてしまう。そこで、今季を優勝で飾って満を持して改名するために、どうしても俺を使いたかったそうだ」

 

「なんだそりゃ、つまんねえ…」

 

「そんなので勝っても、嬉しくないと思うけどなー…」

 

「軟弱な! ただただ貴方達の精進が足らないだけじゃないか!」

 

「ウットナ君の言う通りだわ。ほんと、呆れてものも言えないわね」

 

 しかし、ビーデルの詰問にはヤムチャが答える。途端に、四人から飛んでくる批難の言葉。

 

「う、うるさいうるさいっ! なら、これならどうだっ!?」

 

 その批難に激昂した町長は、懐に隠していた拳銃を取り出し、ヤムチャに突きつけた!

 

「ちょ、おい! そこまでするかっ!?」

 

「くっ! この…っ!」

 

「待てっ!」

 

 町長の行動に、驚愕するシャプナーと、同じく驚きながらもすぐに取り押さえようとしたビーデルだったが、ここでヤムチャから制止の声が入る。

 

「良い機会だ。俺達に関わるのにどれほどの覚悟が必要か、直に見て貰おう」

 

 そういうと、ヤムチャはさりげなくイレーザを自分から離しながら、町長に向かって一歩前に進む。

 

「ち、近づくなっ! それ以上近づけば撃つぞっ!!」

 

 警告する町長だが、構わずヤムチャはもう一歩前へと踏み出した。

 

「うわあああああっ!!」

 

 絶叫と共に響く拳銃の破裂音。イレーザは思わず目を覆い、ビーデル、シャプナー、ウットナも視線をヤムチャから背けてしまう。が、

 

「………あ、な…っ!?」

 

 頓狂な声を上げる町長に、四人は一度は背けていた視線をヤムチャに向ける。ヤムチャは右手をグーの形で腹の辺りに構えながら、撃たれたはずなのに何故か無傷で立っていた。

 

 驚き呆けるビーデル達を尻目に、握っていた右手をゆっくりと開くヤムチャ。その手の中から一発の銃弾が地面に落ち、カンッという無機質な音が室内に響く。

 

「うっ、こ、このっ、このおおおぉぉぉっ!!」

 

 あまりの状況に錯乱した様子の町長が拳銃をヤムチャに向かって乱射する。しかし、発砲音が響くたびに、ヤムチャの右手は目に見えない程のスピードで動く。あまりに速すぎるせいで、腕が何本にも増殖したかのような錯覚にすら陥るほどだ。

 

 そして、弾切れを起こす拳銃。次に、ヤムチャが握っていた右手を開くと、発砲音と同じ数だけの弾丸がパラパラと地面に落ちる。それでも、信じらない…といった様子でトリガーをカチッカチッと引き続ける町長だったが、やがて拳銃を取り落とし、一歩後ずさった。

 

「きえろ。ぶっとばされんうちにな」

 

 そんな町長に、中指を立てながら凄みを利かせるヤムチャ。途端に、町長は情けない悲鳴を上げながら脱兎の如く部屋を飛び出してしまった。

 

「拳銃の…弾を…掴み取った…?」

 

「う、噓でしょ…? 人間技じゃないわ…」

 

 この一部始終を見ていた四人。シャプナーとイレーザは驚愕に震えながら両目を見開き、ビーデルとウットナも口こそ開かなかったが似たようなものだ。

 

「一応言っておくが、当然悟飯も同じことができる。そして、もし悟飯がいざこざに巻き込まれた時の相手も、これくらいのレベルはあると思った方がいい」

 

 そんな四人に振り向きながら、改めて宣言するヤムチャ。

 

「それでも、悟飯に近づく覚悟があるってんなら、俺の知ってるあいつの事は全部教えよう。俺はしばらくこの街に滞在している。住所も教えておくから、覚悟が決まったというんなら来てくれ」

 

 そして、それだけ言うと一枚の紙をビーデルに渡し、ヤムチャはさっさと部屋を後にするのだった。


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