二人の孫悟飯   作:無印DB好き

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気功波マニアな妹

 ヤムチャと出会った日の夜。ウットナは、ビーデル達と別れた後、毎日の自主鍛錬を手早く終え、自宅のパソコンを操作していた。

 

「―――よし、よし! ダウンロードできるぞ!」

 

 上機嫌にそんな事を言いながら、操作を続けるウットナ。と、そこにウットナのスマホに着信が入る。

 

《兄さん!? どう、例の映像手に入った!?》

 

 その着信に応じるウットナだったが、出るなりいきなり大きな女性の声が鳴り響く。

 

「挨拶もなしに直球とは、少し感心せんな…。ああ、今ダウンロードしてるところだ。終わったらちゃんと見れるか確認して…」

 

《分かった!! 今そっちに向かってるから、何とか見れるようにしておいてっ!!》

 

 ウットナの言葉を遮り、一方的にしゃべった後に電話を切る向こうの女性。

 

「………向かってるって、実家からここに…って事か? クオーラ、お前何考えてんだ…?」

 

 女性…クオーラの言葉に、ウットナは呆れた様子でスマホを眺め続けた。

 

 

 

 

 

 そして翌日。ウットナは例の秘策を引っ提げて、改めて悟飯に突撃しようと機会を窺っていた。ヤムチャからは覚悟が決まったら…と言われたが、ウットナとしてはとうに覚悟は決まっている。そう、彼の崇拝する武道家…孫悟飯翁の事を知るためならば…っ! 

 

 そして、昼休みの時間。遂にウットナは悟飯に再び話しかけた!

 

「あ、え、え…と…。君は、う、ウットナ君…だったよね?」

 

「ああ、そうだよ悟飯君。繰り言になるけど、前は不躾に詰め寄ってすまなかった。あれはいくら何でも失礼過ぎたと反省している」

 

 笑顔ではあるものの、少し警戒気味にウットナに接する悟飯。対して、まずは改めて謝罪をするウットナ。

 

「あ、いや、いいですよ。それに、あの時は僕も曖昧に濁してしまったから…」

 

「ところで…悟飯君。君、天下一武道会っていう大会に興味はあるかい?」

 

 一応は許してくれた悟飯に「すまん…」といった様子で一つ頷いた後、ウットナは秘策をぶつける為の言葉を切り出した。

 

「え…? あ、お父さんとお母さんがでた大会だよね」

 

「ん? お父さんと言うのは孫悟空氏の事か?」

 

「あ、うん。孫悟空は僕の父親だよ…」

 

「それを教えても大丈夫なのか?」

 

「ヤムチャさんがそれくらいならいいだろって…」

 

 以前と違い、ウットナの質問に答えてくれる悟飯。どうやら、ヤムチャが手をまわしてくれたようだ。とはいえ、孫悟空はともかく、彼の母親までもが武道会に参加していたというのはウットナには少し驚きだ。

 

「なら話は早い。悟飯君、父親と母親の雄姿を見てみたくはないか?」

 

 その驚きを隠しながら、ウットナはそう言って、懐から一枚のデータチップを取り出した。

 

「このチップの中にはある映像が入っている。そう、君の父親が優勝した、第二十三回天下一武道会…その本戦の様子を撮った映像がね」

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

 重々しく言い放つウットナに、悟飯とその隣の席にいたビーデルが大きく反応する。秘策の内容はビーデル達には伝えていなかったので、悟空と悟飯の関係性が明かされても我慢して黙っていたビーデルでも、流石にこの情報には反応せざるを得なかったのだろう。

 

「本当に当時の映像が見られるの!?」

 

「ああ、とある武道会マニアとずっと交渉してたんだけど、先日やっと許可が下りたんだ」

 

「私にも見せて! その孫悟空って男がどれだけ強いか、この目で確かめたいわっ!!」

 

 ウットナの思った通り、ビーデルは凄い食いついてくる。

 

「お父さんとお母さんの若い頃の映像か…。ちょっと見てみたいな…」

 

 そして、肝心の悟飯も腕を組んで考えているが、呟いている言葉を聞く限りはなかなか手ごたえはあった様だ。

 

「うわー、前々回の大会の映像なんて、本当によく手に入れたねーっ!」

 

「確か、変な選手が紛れて大会そのものがあやふやになっちまったんだよな、前々回の武道会は」

 

 その横では、イレーザも感動の面持ちで、シャプナーは首を傾げながら口を開く。二人とも反応の差こそあれど、この貴重な映像が収まったチップには興味津々の様だ。

 

「全員見てみたいって事でいいかな? じゃあ、学校が終わったら、俺が一人暮らししているマンションに集まって貰っても良いか?」

 

「何でウットナ君の家に? 学校で機材を借りればいいんじゃないの?」

 

 全員の様子を見回した後に提案をするウットナに、しかしビーデルが疑問を呈する。

 

「あー、実は俺の妹もこの映像に興味津々でな。どうしても見たいってあいつ実家からこのサタンシティまで押しかけて来るらしいんだ。多分もう俺の家にいると思うけど…」

 

 その疑問に、ちょっとバツが悪そうに説明するウットナ。それを聞いて、ビーデルは分かった…とばかりに頷き、シャプナーとイレーザはウットナの妹なる人物にも興味を持った顔ぶりをしている。

 

 そんな中、ウットナは悟飯にだけ聞こえるように悟飯に耳打ちをした。

 

「ところで悟飯君…。きみ、『かめはめ波』っていう技知ってるか?」

 

「えっ、ウットナ君って『かめはめ波』まで知ってるの…っ!?」

 

 その内容に驚く悟飯。その反応を見る限りでは知っている様だ。と言っても、ウットナも詳しくどんな技かを知っている訳ではない。数少ない孫悟飯翁の映像の中の一つに、この技を使っている悟飯翁の姿があったから、見た事はある…というくらいだ。

 

「その『かめはめ波』なんだが…。妹がこの技に物凄く執心しててさ…。いや、執心なんて生易しいものじゃない。なんたって、自力で似たような技を習得してしまったほどだからね」

 

「か、か…『かめはめ波』を自力で…っ!?」

 

「ああ。勿論、悟飯翁のそれに比べたら子供だましの様な物…射程は数メートルが限界、威力も普通にパンチを当てるよりは強いって程度だが…」

 

「それでも凄いよっ! だって僕、普通の人が気功波の類を習得している所なんて見た事ないからっ!」

 

 少し謙遜しながら語るウットナに、しかし悟飯は興奮気味にウットナの妹の所業を褒めてくれる。それを聞いて、思わずウットナも笑みを漏らしてしまった。身内の事を褒めてもらえるのは、やはり嬉しい事だ。

 

 しかし、その直後に表情を引き締めるウットナ。

 

「その気功波…? とやらを知るきっかけになったのが悟飯翁なのだが、当然同じ名前を持つ君にも興味を持つと思う。それだけは伝えておきたくてな」

 

「そ、そうなんだ…。うう、女の子って苦手なんだよなぁ…」

 

 ウットナの言葉に、露骨に顔をしかめる悟飯。しかし、その気持ちはウットナにも良く分かる。なにせウットナ自身も女性自体は少し苦手だからだ。妹がいるのになんでだ? 何て言われたこともあるが、物心つく頃から一緒にいる人と、初対面の人を一緒にしないでもらいたいものである。

 

 

 

 

 

 そうして学校が終わり、悟飯、ビーデル、シャプナー、イレーザの四人を連れて今住んでいるマンションへと帰宅するウットナ。しかし、その扉の前に着くや否や、何故か中から勢いよく扉が開き、一人の少女が飛び出してきた。

 

「待ってたわ兄さん! さあ、早く例の映像を見ましょう!!」

 

 その少女は腰に両手を当て、好奇心に瞳をキラキラさせながら大声でウットナに催促してくる。ぱっちり開いた瞳に、整った顔付き。ポニーテールにまとめた綺麗な黒髪は、腰まで届く長さ。少し童顔気味ではあるが、十分に美少女と言って問題ないだろう。

 

「落ち着けクオーラ。まずは皆さんに挨拶をするのが礼儀だろ? みんな、妹のクオーラだ」

 

 いきり立つクオーラに、しかしウットナは冷静にいなしながら、唐突なクオーラの出現に呆気に取られている悟飯達にその少女を紹介するウットナ。

 

「え? あ! 兄さんのご学友の方達ですね! 初めまして、クオーラと言います。学校では兄さんがお世話になっています!」

 

「…あ、え、ええ。私はビーデルよ。宜しくね」

 

「私はイレーザ! 宜しく!」

 

「俺はシャプナーだ。思ったよりかわいい子だな…」

 

 クオーラの自己紹介に、最初に気を取り直したビーデルが紹介を返し、次にイレーザ、シャプナーと続く。ここまでは良かったのだが、

 

「え、えっと…。僕は悟飯って言います。孫悟飯で…」

 

「孫悟飯!? え、あの映像の中のおじいちゃんの孫悟飯とおんなじ名前!? え、え、ホントの本当にっ!!?」

 

 やはりというか、悟飯の名前を聞いた瞬間異様に興奮しだすクオーラ。

 

「もしかして…ですけど…。あの『かめはめ波』って技知ってます!? 更に聞くなら、使えちゃったりする様なしない様なする様なっ!?」

 

「え、あ、ま、まあ、使えるっちゃ使えるけど…」

 

「おおおおーーーーーっ! 凄い凄い!! 今度見せてくださいっ! 約束ですからねっ!!」

 

「やっぱり使えるのか…」

 

 ハイテンションで悟飯に詰め寄り、ついには技の見学の約束まで取り付けてしまったクオーラ。ついでに、悟飯が『かめはめ波』を使える事にウットナも言葉を漏らしてしまう。

 

「ねえ、なんなのよ『かめはめ波』って?」

 

「その答えはこの映像の中にあると思う。じゃあ、皆中へと入ってくれ」

 

 少し蚊帳の外にされてしまったビーデル、シャプナー、イレーザの内、代表としてビーデルが苦言を呈するが、それはウットナが手に持ったチップをかざしながら室内へといざなう事で、美味く流すのだった。

 

 

 

 

 

 ちょっとした会話もそこそこに、早速映像を流すウットナ。画面には天下一武道会の武舞台を観客席から眺めている様子が映っている。

 

 

「それでは! これより第二十三回天下一武道会を開催したいと思います! では、早速いってみましょう!! 第一試合は、天津飯選手対桃白白選手です! どうぞーっ!!」

 

「うわっ、審判の人若いなーっ」

 

 武舞台の上で勢いよく大会開催を宣言する、サングラスをかけた金髪オールバックにひげを生やした男性。その男性を見て、ビーデルは少し感動した面持ちで言葉を漏らす。

 

 しかし、次に出てきた二人の選手…特に桃白白選手を見た瞬間、場が一気に緊張感に包まれた。

 

「な、なんだあいつ…」

 

「き、気持ち悪…」

 

「あ、あれ…? あの人何処かで…?」

 

 口元以外すべてが機械で覆われている桃白白選手に、シャプナーとイレーザが露骨に嫌悪感を示す。ビーデルやウットナ、クオーラも似たようなものだったが、唯一悟飯だけは不思議そうに首を傾げた。

 

 そうして始まる試合だったが、序盤こそ天津飯選手が優位に試合を進めていた。防戦一方ではあったものの、相手の全ての攻撃を楽々いなしているのは素人目にも明らかだったからだ。

 

 しかし、途中でいきなり試合の空気が変わる。なんと、自分の攻撃が悉く通用しない事に業を煮やしたのか、突如桃白白選手は左手の義手を外し、そこからナイフを出現させ天津飯選手に切り掛かったのだ!

 

「あっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

「こ、こいつ…っ!?」

 

 あまりに突然の事に、思わず身を乗り出してしまうシャプナー、イレーザ、ビーデルの三人。他の三人も声こそ上げなかったが、表情が険しいものへと変わる。特に悟飯が顕著だ。

 

「は、反則、反則ですっ! 武器の使用は固く禁じられていますっ! この試合、天津飯選手の勝ちーーーっ!!」

 

「うるさいなっ!!」

 

 桃白白選手の行為に審判は反則負けを宣言するが、怒りで暴走しているらしい桃白白は審判を一喝すると、ナイフを構えて天津飯を見据える。

 

「ふ、ふはははっ! 殺してやる…殺してやるぞ天津飯っ!!」

 

「そうじゃ! そうじゃぞ桃白白! 殺せっ! 亀仙流の奴らは、どいつもこいつも殺しちまえーっ!」

 

 臆面もなく殺害宣言をする桃白白に、観客席にいた鶴の被り物を被った変な老人もまざり、会場は一瞬にして危険な殺し合いの場へと様変わりしてしまう。

 

「白白様…っ! 武道家としての誇りもなくしてしまったのですか…!?」

 

「ふ…ん。偉くなったな天津飯。せいぜいほざくがいい。すぐにその口もきけなくなる…」

 

 切られたシャツを破り捨て、怒りに満ちた表情で問う天津飯選手に、桃白白は嘲笑気味に嫌味を言った後、今度は右の義手を取り外す。すると、そこからバズーカ砲の様な砲口が姿を現した。

 

「こいつはスーパーどどん波といってな。今までのどどん波とは比べものにならん威力だ。あーっという間に地獄へと行けるぞ…」

 

「いかん! 天津飯よ、逃げろ、逃げるんじゃ!! 天津飯っ!!!」

 

 その砲口から放たれる物を説明しながら、天津飯選手に向けて突き出す桃白白。また別の観客席から、天津飯選手に逃走を促す老人が現れるが、天津飯選手は一向に動く気配がない。

 

「え? え?? こ、これ、天下一武道会の試合だよね…!? なんで、こんな緊迫した殺し合いみたいな事になってんの…!?」

 

 そのあまりの緊張感に、とうとうイレーザが悲鳴のような声を上げてしまう。しかし、それに他のメンツが気を遣おうとした瞬間、

 

「さあやれ! やってみろーーーっ!!!」

 

 天津飯選手の気迫と怒りに満ち満ちた怒鳴り声が響き渡り、嫌でも全員の視線が画面にくぎ付けにされてしまう。

 

「うははははっ! 命知らずの愚か者めっ!! このサイボーグ化された桃白白様を見くびったのが運のつきだっ!! 死ねっ! スーパーどどん波っ!!!」

 

 桃白白の声と共に、明らかにやばい感じの光球が尾を引いて天津飯めがけて飛び出す。その様子にイレーザとクオーラも思わず目をそらし、他の者達も両手を握り締めながら画面を凝視する。

 

「かあーーーーーーっ!!!!」

 

 そして、その光球が天津飯選手に直撃する直前! 天津飯選手はありったけの気合を込めた一喝を光球に向けて放つ。すると、一瞬の閃光の後、なんと人を何人もまとめて殺せそうなあの光球が、その気合の一喝で消し飛ばされてしまったのだ!

 

「な…っ!? バカなっ!? 気合で…気合だけで…スーパーどどん波を…かき消して…っ!」

 

 驚き狼狽し後ずさる桃白白に、目にも止まらない程の速度で間合いを詰め拳の一撃を叩き込む天津飯選手。その一撃で、桃白白は気絶してしまった。

 

 その後、なんやかんやゴタゴタはあったが、結果的には桃白白の反則負けという事で、天津飯選手が準決勝へと駒を進めることになったが、当の天津飯選手はあまり嬉しそうではなかった。

 

「ちょ、ちょっと待て。初戦からとんでもねえ試合…? なんだが、もしかして第二十三回天下一武道会の本戦って、こんな危ない試合がずっと続くのか…?」

 

 第一試合を終えた後、焦燥気味にそう口にするシャプナーだったが、それに応えてくれる者はその場には誰もいなかった。




 クオーラの使う気功波は、分かる人向けに言えばストリートファイターというゲームに登場するダンというキャラの必殺技、我道拳をイメージして頂ければわかりやすいと思います。

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