二人の孫悟飯   作:無印DB好き

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 サブタイトルの通り、今回のメインは悟空なので、悟空が絡まない試合はダイジェスト形式で飛ばしております。ご容赦ください。


孫悟空の強さ ~第二試合から準決勝第一試合前半まで~

「で、では…気を取り直して次の試合へ参りましょう…! 第二試合は孫悟空選手対匿名希望選手です!」

 

「あ、お父さんとお母さん! あはっ、二人とも若いなー」

 

「あれが孫悟空…」

 

 初戦から大波乱があったものの、それでもつつがなく進行する武道会。そして、第二試合目にして、遂に今回の目的である孫悟空という人物が登場する。その容姿を見て、悟飯は少し嬉しそうに声をはずませる。逆にビーデルの表情は少し険しくなった。

 

「おめえ、いつも怒ってんな…。なんでだ?」

 

「自分の胸さ、聞いてみれ!」

 

 武舞台の上に立った二人だが、困惑気味に尋ねる孫悟空に匿名希望選手の怒りの返答が響く。確かに、匿名希望選手は登場してからずっと不機嫌そうだ。

 

「それでは、試合を始めて…」

 

「いやあああーーーっ!!」

 

 審判の試合開始の合図に対し、ややフライング気味に孫悟空に向かっていく匿名希望選手。その最初の一撃を戸惑いながらも防ぐ孫悟空だったが、間髪入れずに匿名希望選手の連撃が孫悟空に襲い掛かった!

 

「あの頃の約束を何年も何年も…! オラずーっと待ってただぞっ!」

 

「や、約束…?」

 

「約束も忘れちまっただかっ!!?」

 

 口論を続けながら攻める匿名希望選手と、防戦一方の孫悟空。

 

「ねね、ビーデル。この女の人、凄く強くない!?」

 

「…ええ。凄まじい達人だわ。正直、私でも勝てるかどうか…」

 

「ビーデルでも勝てるかわからないとかマジかよ…」

 

 その交戦の様子を見て、少し興奮気味にビーデルに質問するイレーザに、ビーデルは冷汗に交じりに答える。その答えに、シャプナーもかなり狼狽えている。

 

「な、なあ。オラ本当におめえと約束なんてしたのか?」

 

「ああ、オラの事…お嫁にもらってくれるってな!!」

 

 一旦距離を離し、膠着状態になってからの匿名希望選手の宣言。

 

「…うーん。悟飯さんの親を悪く言うのもあれですけど、女の子としてはこういう約束を忘れているのはちょっとマイナスですね…」

 

 しかし、その宣言を聞いてもなお口をポカンと開けている孫悟空を見て、厳しい表情でそう断言するクオーラ。隣ではイレーザとビーデルもうんうんと頷いている。悟飯もそう思うのか特に反論はなく、他の男性二人もどうやらクオーラに賛成の様だ。

 

 が、残念ながら孫悟空という人物はこの少年少女達の予想を残念な方向に遥かに上回っていたのだ。おもむろに武舞台入り口の方へと振り向いた孫悟空は、仲間と思しき人物に向かって大声でこう叫んだのだ。

 

「なあクリリンっ! オヨメってなんだ!?」

 

「バカヤローッ! お嫁に貰うって事はな、結婚するって事だよ!!」

 

「夫婦になってずーっと一緒に暮らすって事だ! 悟空、お前それ分かってて約束したのか!?」

 

「ずーっと一緒に暮らす!? オラそんな約束したか!? おめえホントいったい誰なんだ!?」

 

 仲間二人…片方は恐らく若い頃のヤムチャ…のツッコミを受け、驚きの表情を浮かべながら匿名希望選手の名前を聞き出そうとする孫悟空。

 

「な、何なのよこの人…」

 

 そのお笑い番組みたいな一連の流れに、ビーデルは思わずといった感じで眉間にしわを寄せながら、誰に言うでもなく呟いていた。

 

「ふん、しょうがねえ、教えてやる。ただし、オラに勝ったらだ!」

 

「ほんとか!? 良かったー、オラ名前も分からねえ奴とずっと一緒に暮らさなきゃいけねえのかと思っちゃった!」

 

「もう勝った気でいるだか? あめえぞ、オラがそう簡単にやられると思ったら、大間違いだべ!」

 

 勝ったら名前を教える…という言に、嬉しそうにしながら構える孫悟空に、匿名希望選手も啖呵を切りながら構えなおす。そして、ジリジリと間を詰めようとする匿名希望選手に向かって、突然、孫悟空は思い切りパンチを放ったのだ!

 

 とても腕が届く距離ではないにも関わらず、ドンッ! という突如暴風に晒されたような音と共に匿名希望選手は吹き飛ばされ、そのまま場外の壁に叩きつけられてしまった。

 

「な、なんだ…? 今何が…」

 

「衝撃波だよ。お父さんの拳から出た衝撃波にお母さんは避ける間もなく吹っ飛ばされてしまったんだ」

 

 理解できない現象に首を傾げるウットナに、悟飯が説明をしてくれる。が、拳を突き出しただけで人一人を吹き飛ばせるほどの衝撃波が出せる…というのがまず驚きだ。これも気功波という技の応用なのだろうか?

 

 そして、それ以上の事実として、ビーデルすら勝てるかわからないといった匿名希望選手…今画面で名前を口にしたが、チチという名前らしい…を事実上一蹴して見せたのだ。という事は、例えビーデルが挑んでもまず同じ結果になるという事だ。

 

 孫悟空という人物のまだまだ未知数な実力に、思わず難しい顔で押し黙ってしまう面々。その中において、悟飯だけは何処か嬉しそうにその場で結婚して突然いちゃいちゃし始めた両親を眺めているのだった。

 

 

 

 

 

 次の試合はクリリン選手対マジュニア選手。圧倒的な強さのマジュニア選手にクリリン選手は善戦むなしく敗退。しかし、この時にクリリン選手の放った自動で相手を追跡する気功波二連と舞空術という空中に浮く技、そして満を持して放たれたかめはめ波にクオーラが大いに反応した。

 

 続く第四試合はヤムチャ選手対シェン選手。あのヤムチャの若かりし頃だが、残念ながら試合内容は股間を強打したり、大技を当てて一矢報いたと思ったら、その直後に隙を突かれて場外に押し出されるなどお世辞にもカッコいいと言えるものではなかった。が、繰気弾という技がこれまたクオーラの感性にヒットしたらしく、彼女はかなり大はしゃぎをしていた。

 

 そして武道会は準決勝へと進む。準決勝第一試合は孫悟空対天津飯。両者とも初戦の相手をほぼ一蹴という形で倒しているため、孫悟空は勿論天津飯も実力は未知数だ。

 

 更に、この組み合わせは前回…第二十二回天下一武道会の決勝の組み合わせであることが審判により明かされた。その所為か、場内の熱気もヒートアップしてきている。

 

「それでは、始めてくださいっ!!」

 

 審判の合図と共に激突する両者。先手を切ったのは天津飯だ。高速のパンチ、キックによる連撃は、あまりの速さに目で追いかける事すら叶わないが、しかし孫悟空は出来て当然とばかりに全て避けている。

 

 一旦距離を離し、再びお互いに向かって飛び掛かる二人だったが、なんとその途中で二人とも姿を消してしまったのだ!

 

「ふ、二人とも消えおったーっ!」

 

 第一試合で天津飯に逃走を促したあの老人が再び叫ぶが、確かにその老人の言うように二人の姿は見えない。にもかかわらず、武舞台の上からは攻撃の空気を切り裂く音と、打撃音が聞こえてくる。

 

「な、なんだよ…。何がどうなってんだ…?」

 

「い、いや、さっぱり…」

 

 その、ある種不気味な光景にシャプナーが狼狽気味に声を絞り出し、その横でウットナも険しい表情で首を傾げている。音がする以上、その場にいるのは確かの筈なのだが…。

 

「今の所はほぼ互角だよ」

 

 そんな中、冷静に言葉を発する悟飯。視線がせわしなく画面を縦横無尽に動いているのを見るに、信じられないがこの二人の動きを追えている様子だ。

 

「悟飯君。アナタこれが見えてるの…!?」

 

「うそっ!? 私全然見えない…」

 

 その様子にビーデルは目を見開き、イレーザも口に手を当てて驚くが、そのイレーザの言葉が言い終わらないうちに、悟飯が「くる」と短く宣言する。その直後、孫悟空と天津飯は姿を現し、先ほどの超高速の攻防から一転、両手を掴んでの力比べへと勝負の矛先を変えた。

 

「ぐ………ぐぐぐ……っ!」

 

 明らかに苦悶の声を上げるほどのフルパワーで押している天津飯。表情も苦しそうだ。対して、孫悟空は表情こそ険しいが特に力んでいる様子はない。

 

 と、ここで孫悟空が一瞬笑みを見せる。と、同時に押していた腕を逆に引っ張り天津飯の体勢を崩す。その直後、体が宙に浮いてしまった天津飯の腹部に両足で蹴りをお見舞いする孫悟空。

 

 空高く飛ばされる天津飯だが、再びその姿を消し、気づいたころには孫悟空の背後から超高速で襲い掛かる。対して、孫悟空は飛び跳ねてこの一撃をかわすが、その動きにピッタリと付いて行った天津飯が再び孫悟空の背後を取り、大ぶりの右の拳を振りぬいた! …のだが、その一撃は何故か孫悟空の体を貫通して空を切ってしまう。

 

「古い手に引っかかるんだからー」

 

 唐突に響く声に天津飯が振り向くと、その方向に孫悟空の姿が。と、同時に天津飯の目の前にいた孫悟空の姿はスッと掻き消えてしまう。

 

「はあっ、はあっ…。ざ、残像拳か…」

 

 明らかに、疲労により息切れをしている天津飯が口を開く。対して、孫悟空は特に疲労を見せずニコッと快活に笑うだけだ。

 

「こ、ここ、これまたとんでもない試合です! まさに、息を吐く暇もありませんっ!!」

 

 そこに入る審判の人の少し震えた声。そして、会場の観客たちも静まり返っているのを見るに、それほどまでに凄まじい試合だというのが実感できる。

 

 事実、この試合を映像としてみている面々も、最早口を利かずに、ただ画面を食い入るように見つめているのみだ。

 

「孫よ…。お前は本当にすごい奴だ。三年前のあの時点でその強さはまさに完璧と言っていいものだった。それをさらに上回るとは恐れ入ったよ。…しかし、ただ一つお前が三年前とあまり変わっていない物がある」

 

 そんな中、淡々としゃべり始める天津飯。前半こそ称賛の言葉だったが、後半に入り少し雲行きが怪しくなる。その様子に、孫悟空も少し警戒し始めた。

 

「それは…………スピードだっ!!!」

 

 そして、その足りないものを大声で宣言した瞬間、再び天津飯の姿が消えてしまった。そして、それを追うように孫悟空も姿を消す。

 

「二人とも上空に飛び上がったよ。でも、この映像を撮ってる人に二人が見えてないから、映像は武舞台の上のままだね」

 

 消えた二人の姿を今度こそとらえようと画面に近づくイレーザと悟飯以外の四人だったが、そこに悟飯から注意が入る。その注意を裏付けるように、少し間を置いてからドゴッ! っと空中から重い打撃音が響き渡った。と、同時に映像が空中へと移る。そこには、撃墜されたがごとく頭から落ちてくる孫悟空と、それを追うように着地体勢に入って降りてくる天津飯の姿が。

 

 即座に体勢を立て直し、何とか無事着地する孫悟空。しかし、その後立て続けに天津飯へと飛び掛かる孫悟空だったが、その攻撃の悉くを紙一重でかわされ、手痛い反撃を貰う。そして、最後の一撃をかわされた後の反撃で、遂に孫悟空は場外へと蹴り飛ばされてしまった。

 

 しかし、体を猛回転させて空中の軌道を変える事で場外負けを免れる孫悟空。何気に結構滅茶苦茶な事をやっているが、最早誰もそんな事には突っ込まない。

 

「はあっ、はあっ…。やはり俺の思った通りだった。孫、お前はスピードだけは三年前とほとんど変わっていなかった…」

 

「流石だな天津飯。これほど速くなっているとは思わなかったよ」

 

 そうして、お互いに言葉を交わす二人だったが、

 

「待って待って。この二人にとっては今までのも遅かったって言うの?」

 

「ヤバすぎるだろ…。どうなってんだこいつら…」

 

 混乱気味に口を開くイレーザと、ただただドン引きしているシャプナー。悟飯以外の他のメンツも似たようなものだ。

 

「よし、こいつでトドメだ!」

 

「ちょっとタンマ」

 

 そんな中、トドメを刺そうとする天津飯だったが、ここで孫悟空からタンマが入る。

 

「天津飯、ちょっと服脱いでも良いか?」

 

「ん? ああ、好きにしろ、暑いからな」

 

 天津飯の許可を取ってから、おもむろに服…というより下着を脱ごうとする孫悟空。しかし、何やら様子がおかしい。ただ服を脱ぐという行為をするだけなのに、やけにてこずっているのだ。彼の身体能力なら、こんな何気ない行動をてこずるなどありえない筈だが…。

 

「そ、孫…。ちょっとこの服見せて貰っても良いか?」

 

「へ? ああ、いいぞ」

 

 天津飯もおかしいと思ったのだろう。孫悟空の許可を取ってから、彼の脱いだ下着を掴んで持ち上げようと…したその瞬間!

 

「な、何ぃ…っ!?」

 

 驚愕の声を上げる天津飯。そうしながらも、天津飯は震える腕でゆっくりと下着を持ち上げた。

 

「そ、孫…。お前、今までこんなのを着て戦っていたのか…?」

 

「うん、これもな神様の修行だって。よっと」

 

 震える声で確認を取る天津飯に、あっけらかんと答えながらリストバンドと靴を外す孫悟空。

 

「何だってんだよ。俺が片づけてやるよ」

 

 その様子を見かねた孫悟空の仲間達…クリリンとヤムチャがやってくる。が、悟空が脱いだ靴を持った瞬間、クリリンも「な、何だいこりゃ!?」と頓狂な声を上げた。

 

「お、重い…。なんて重さだ…っ!」

 

「こ、こんなのはいてたらどうやって動くんだよっ!?」

 

 下着とリストバンドを持つヤムチャが震える声で口を開き、クリリンはクリリンで悟空の靴をはいて動きづらそうに歩いていた。

 

「ぜ、全部で百キロ以上はある…」

 

「ひゃひゃ、百キロ以上だって~!?」

 

 ポツリと漏らした天津飯の言葉にクリリンが大声で応え、そのクリリンの大声に今度は会場の観客たちが驚きにざわめき始めた。

 

「…ひゃ、百キロ…? じょ、冗談だろ…?」

 

「俺も、数キロ程度のリストバンドくらいならした事があるが、百キロは流石に体が壊れる…」

 

 勿論、これらを映像で見ている面々とて例外ではない。もう何度目かわからない驚きの表情を浮かべるシャプナーにウットナも目を見開きながら呟いている。

 

「ははっ、軽くなった軽くなった! 待たせたな天津飯!」

 

「…ふ、ふふ、成程、そういう事か。いいだろう、見せてもらいたいもんだな。どれほどの違いがあるかを!」

 

「うん!」

 

 何度か軽くジャンプし後に臨戦態勢に入る孫悟空に、天津飯も一つ頷きながら構えた。

 

「でやああああーっ」

 

 そして、右手を振り上げながら孫悟空に向かっていく天津飯。その右手から繰り出された手刀を、孫悟空は天津飯の懐に潜り、そのまますり抜けるような形でかわし、同時に姿を消した。

 

「そこだ!」

 

 しかし、すぐさま天津飯は別の場所へと飛び掛かり、何もない筈の空間に拳を繰り出す。すると、ガッ! という衝撃音と共に、姿を現す孫悟空。

 

「くっくっく…。残念だったな孫。確かに少しは速くなったが、俺の三つの目からは逃れられんぞ…」

 

 そういう天津飯の気迫に、みな映像に目が離せないでいた。のだが、

 

「天津飯さん、あんまり動くとズボンがずり落ちちゃうよ…」

 

 唐突に悟飯がちょっと申し訳なさそうな顔でそんな事を言う。間髪入れずに、

 

「それはどうかな?」

 

 映像の中の孫悟空もそう言いながら、右手を天津飯の前に晒す。その手には帯が握りしめられている。

 

 少し間を置いてから、視線を自分の下半身に移す天津飯。すると、いつの間にか道着の帯が抜き取られていたズボンが、絶妙なタイミングでずり落ち、下着を露出してしまう。

 

「ば、ばばばバカな…っ! そ、それは、ひょっとして俺の帯か!?」

 

「ああ」

 

 大慌てでズボンを元に戻す天津飯。会場からは驚きと笑いという二種類の歓声が聞こえてくる。

 

「ご、悟飯さん。今の孫悟空さんの動きも見えたんですか…!?」

 

「うん、懐をすり抜ける瞬間に帯をほどいているところを…」

 

 一方、悟飯の予告が当たった事に、他のメンツは驚きの表情で悟飯に視線を向ける。そんな中、最初に声を出したのはクオーラだが、悟飯の答えは見えて当たり前と思わせるほどに実に簡潔なものだ。

 

「ふっふっふ…。参ったぜ、まさかこれほどとはな…。だが、俺は諦めたりはしない。とっておきの出番が少し早くなっただけだ。とっておきの必殺技のな…」

 

 そんな悟飯に全員の視線が集中するが、そうこうしているうちにも映像は進んでいく。どうやら、孫悟空から返してもらった帯を付けなおした天津飯は、状況的には劣勢に見えるがまだ逆転の秘策があるらしい。そうして、全員の視線は再び映像へと戻るのだった。




 次回も準決勝第二試合のシェン対マジュニアはダイジェスト形式にしようと思っています。DBの歴史的には外せない一戦ではありますが、本作に限って言えばあまり話に絡みませんので…。

 そもそも、本来は悟空対ピッコロしか書くつもりはなかったのですが、いざ書くとあれも書きたいこれも書きたいと筆が止まらなくてこんな事になってしまっています。なので、申し訳ありませんが、もう少しお付き合して頂ければ幸いです。

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