二人の孫悟飯   作:無印DB好き

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 あくまで観客が撮った映像なので、この映像はピッコロが正体をばらすまでしか記録されていません。それ以降は、会場はピッコロ、悟空とその関係者と審判のおっちゃんしかいませんので…。


孫悟空の強さ ~準決勝第一試合後半から決勝戦~

「とっておきの必殺技って何だよ? まさかまた、あの気功砲ってやつか?」

 

「ふっふっふ…。気功砲は危険すぎる。お前にも俺にもな。おまけに、その素早さでは避けられてしまう恐れもある」

 

 天津飯のこれみよがしににおわせる秘策の存在に、孫悟空も警戒しながら会話を続ける。

 

「これから見せる技は、気功砲程の威力は無いが…絶対に避けられん!!」

 

 そう高らかに宣言し、両腕を顔面の前に構え力み始める天津飯。明らかに今から何かをしてやろう…という行動に、孫悟空も慌てて構えを取る。

 

「悪いな孫! この試合俺の勝ちだ!」

 

 勝利を予告してから、顔の前で×の形に交差させていた腕を広げる。すると、なんと天津飯が二人に分裂するという奇天烈な現象が発生してしまったではないか!

 

「いっ!?」

 

 これにはさしもの孫悟空も驚いたようだ。が、天津飯の技はまだ終わらない。再び腕を交差させて広げるという動作を二人同時に行う。すると、当然のように二人が分裂をし、今度は四人になってしまった。

 

「…ざ、残像拳…じゃねえ! どうなってんだ!?」

 

「ふっふっふ…。四身の拳!」

 

 驚き狼狽える孫悟空に、自慢げな笑みと共に技名を口にする天津飯達。勿論、驚いているのは孫悟空だけではない。この映像を見ているビーデル達も目を見開いている。

 

「よ、四人に分裂するなんて、そんなのありかよ…」

 

「あ、あれ? これって反則にならないの…?」

 

「こ、これも気功波とやらの応用なのか…?」

 

 シャプナー、イレーザ、ウットナの順に口を開くが、三人とも声が震えている。そして、

 

「あっ!? これ、セルがお父さんと戦っていた時に使った技…!?」

 

 悟飯は悟飯で別の意味で天津飯の技に驚いている様子。

 

「…っ!? 悟飯君、今なんて言ったの!?」

 

 そんな悟飯の呟きを耳聡く聞き逃さなかったビーデルが、凄い形相で悟飯に食って掛かる。

 

「え!? あ、いや、何でもないよ! な、何でも…は、ははは…」

 

 乾いた笑いを浮かべながら何度かごまかそうとする悟飯だが、恨めしそうに悟飯を睨むビーデルを見る限り、こんな程度で追及を諦めてくれそうにはない。

 

 しかし、ビーデルが更に詰め寄ろうとした矢先、映像から爆発音が響く。見ると、武舞台の四隅に散った天津飯達が孫悟空に向かって気功波を放ったところだった。

 

 爆煙が消えるとそこに孫悟空の姿はない。しかし、その爆煙が消える前から天津飯達は上空に視線を向け何かを探していた。

 

「…っ! 見えたっ! 終わったぁ!!」

 

 叫びながら一人の天津飯が額の瞳から怪光線を上空に放つ。それに倣い、他の三人も次々に瞳から怪光線を上空に向かって放った。

 

「ぎゃっ!?」

 

 果たして、その四つの怪光線はどうやら孫悟空にヒットしたらしい。空高くから悲鳴が聞こえてきたかと思ったら、姿を現した孫悟空が腹部を押さえながら落ちてくる。

 

「…っ! う、くくく、い、いって~っ!!」

 

 なんとか体勢を立て直し着地したものの、相変わらず腹部を押さえて痛がっている孫悟空。どうやらかなりのダメージを貰ってしまった様だ。

 

「くっくっく…。今のうちに降参しろ、孫! 次は命に関わるぞ!」

 

「へ、へっへ~。オラもう今のは食らわねえよ。弱点を二つも見つけちゃったぞ!」

 

 少し高圧的に降参を促す天津飯達だったが、大して孫悟空も自慢げに指を二本立ててそんな事を言う。

 

「何だと? 弱点?」

 

「嘘だと思うなら、もう一回やってみろよ」

 

「言われなくても、やってやるさ…。今度はフルパワーでな…!」

 

 孫悟空の挑発じみた台詞に、天津飯は再び四隅に分かれて孫悟空に向かって構える。気功波が放たれ、爆発し、爆煙が収まると、やはり孫悟空の姿はない。

 

「無駄だ! 十二の目からは逃れられんぞ!」

 

 そう言って、上空を探し始める天津飯達。ここまでは先ほどと全く同じ流れだった。が、

 

「悪いな天津飯! おめえの技使わせてもらうぞ! 太陽拳!!」

 

 上空から大声が聞こえてきたかと思うと、突如、天から視線を切り裂くほどに強烈なまばゆい光が降り注いできたのだ!

 

「きゃあっ!?」

 

「ぐあっ!?」

 

「ま、眩しいっ…!」

 

 映像から放たれるあまりの眩しさに、悟飯も含むビーデル達全員が眩しさに目をつむってしまう。

 

「これが弱点その一。おめえ目が良すぎるんだ」

 

「ま、まさか太陽拳とはな…。ぐっ…!」

 

 映像から孫悟空と天津飯の声が聞こえてくるが、眩さに目がくらんでいるビーデル達には状況がどうなっているのか良く分からない。ただ、天津飯の掛け声と腕を振る音が聞こえてくるので、どうやら天津飯が攻撃を行っている…という事だけはかろうじてわかる。

 

「目が良すぎるから、目だけで相手の動きを追っちゃうんだ」

 

「な、なるほど…。しかし、それはお前も同じだろう!」

 

「ひひ~、残念でした。後ろの天津飯が右の手刀でオラを狙ってる」

 

「ばかな…っ!? 何故わかるんだっ!?」

 

 そのまま交戦と会話を続けている様だが、次第に目が慣れてきたビーデル達。そこには、後ろを見ずに後ろにいる天津飯の体勢を言い当てる孫悟空に動揺する天津飯の姿があった。

 

「さてと…。どうやら目が元に戻ってきたようだな。じゃあ、オラ遠慮なく勝たせてもらうぞ」

 

「勝たせてもらうだと…? それはどうかな? 同じ手は二度と通用せんぞ!」

 

 今度は孫悟空が勝利宣言をする。対して、冷汗を垂らしながらも不敵に笑い余裕があるかのようにふるまう天津飯。

 

 しかし、ここからの孫悟空の動きは、まさに神業と言えるほどの凄まじい速さだったのだ!

 

「いいか! 四人になったのは失敗だったなっ!!」

 

 そう大声で叫んだかと思った次の瞬間、孫悟空の姿が掻き消える。そして次瞬には姿を現したかと思ったら、何故か天津飯達は四人とも場外に吹っ飛ばされていたのだ。

 

「………い、今、何かしたのか?」

 

「…何も、何も見えなかった…」

 

 あまりの素早さに、ウットナとクオーラは茫然自失といった感じで言葉を絞り出す。他のメンツも似たようなものだったが、不意にビーデルは険しくありながらも比較的冷静に悟飯に視線を移す。

 

「悟飯君。今のも見えたよね? 説明して」

 

 そのビーデルの厳しい口調に、更に場の視線が全部悟飯に集中する。対して、悟飯は何とかごまかそうと思ったのか視線をあっちこっちにさまよわせ始めるが、やがて全員の真剣な眼差しにごまかすのは不可能と判断したのか、観念したかのように口を開いた。

 

「一人目は不意を突かれて吹き飛ばされて、二人目は何とか反撃を繰り出すもあっさりかわされ蹴りで、三人目はその蹴りの反動を利用した一発で、四人目は腹部に一撃で全員吹っ飛ばされたんだよ」

 

 細部を正確に説明する悟飯。これは、今の信じられない素早さの動きもぜんぶしっかり捉えていたという事だ。

 

「い、今のも全部見えたってのか…」

 

「わー、凄いね悟飯君!」

 

「流石、悟飯翁の名を冠する者。そうでなくては」

 

「うんうん、本当にあの悟飯おじいちゃんみたいに凄いんだね悟飯さんって!」

 

 そして、シャプナーこそ驚きに満ちた表情をしているが、イレーザ、ウットナ、クオーラの三人は素直に悟飯を称賛する。対して、悟飯も少し申し訳なさそうにしながらも、まんざらでもない様子だ。

 

 そんな中、ビーデルだけはひと際険しい表情で、悟飯を睨み続けるのだった。

 

 

 

 

 

 次の試合はマジュニア対シェン。これまた先ほどの試合に勝るとも劣らぬ激しい戦いではあったのだが、同時に謎の言語で両者が言い合いをするという不思議な試合でもあった。

 

 極めつけは、魔封波というこれまた不思議な技だ。シェン選手が放ったと思ったらマジュニア選手に跳ね返され、シェン選手の中からマジュニア選手にそっくりな人物が飛び出し、そのままシェン選手の用意していた小さな瓶に吸い込まれてしまったのだ。

 

 この技については、悟飯も良く分からないと言っている。如何に悟飯とて分からないものもあるんだな…とシャプナー辺りは逆に感心していた。

 

 そして、ついに来た決勝戦。孫悟空対マジュニア。会場からの割れんばかりの歓声が、この決勝戦にかける期待の大きさを物語っている。

 

「覚悟はできたか?」

 

「何の覚悟だ?」

 

「当然…死ぬ覚悟だっ!」

 

 来ていたマントを投げ捨てながら大声を上げるマジュニア。その物騒な物言いに、この大会の初戦…天津飯対桃白白のあの緊張感が蘇って来る。

 

「あ、そうか…。この時はピッコロさん、お父さんを殺す気でいたんだ…」

 

 マジュニアの様子に、悟飯も少し顔色を変えながらボソッと呟く。

 

「悟飯君。この人、ピッコロって言うの?」

 

「あ、うん。この時はピッコロさん、ちょっと大っぴらに名乗れない事情があって…」

 

「まあ、こんな観衆の面前で堂々と殺すなんて言う奴が、まともな訳がないか…」

 

 その呟きをやはり聞き逃さないビーデルの問いに、悟飯はコクリと頷き、ウットナも難しい顔で映像を見据えている。

 

「それでは、第二十三回天下一武道会決勝戦…始めてくださいっ!!」

 

 審判の開始の合図と同時に、雄たけびを上げながら突撃する両者。そこからさらにお互いが攻撃を繰り出すが、数手の攻防の後、マジュニアの頭突きが孫悟空にヒットする。

 

 吹き飛ばされる孫悟空…の背後を即座に取るマジュニアだったが、今度は孫悟空の前を見ながらの後ろ蹴りがマジュニアの顎にヒット。今度はマジュニアが吹き飛ばされ、武舞台の淵にまで追いやられる。

 

 そして、ここでおなじみの両者姿を消しての超高速の攻防。悟飯だけは目で動きを追っているが、他のメンツは必死に目を凝らして見ようとしている…特にビーデルが顕著だ…が見えている様子はない。

 

「上」

 

 そんな中で、悟飯が唐突に短く言う。その直後、いつのまに上空に上がっていた孫悟空とマジュニアが、凄い勢いでまっすぐ武舞台に着地してくる。

 

 不意に、不敵な笑みを浮かべるマジュニア。と、同時に右手を大きく振りかぶる。この構えは、クリリンと戦った時に使った構えだ。

 

「あ、また…!」

 

「伸びる…!?」

 

 クオーラとビーデルが口に出すとほぼ同じタイミングで、マジュニアが振りぬいた右手が大きく伸び、孫悟空に襲い掛かる。

 

 しかし、孫悟空も一度見た技故か、慌てずに横に動いてかわし、更にその腕を捕まえて上空に投げ飛ばしてしまった。

 

 ある程度まで飛ばされた後空中で制止するマジュニア。伸ばした腕も元に戻す。が、ここで孫悟空が匿名希望に使ったあの衝撃波を飛ばし、マジュニアに更なる追撃を行う。

 

 衝撃波をもろに受け、更に上空後方へと弾き飛ばされるマジュニア。そして、孫悟空も更なる追撃を加える為に、マジュニアに向かって飛び立った。

 

「あ、ダメだお父さん! 今のはしっかりヒットしてない!」

 

 そんな孫悟空に、悟飯が慌てて身を乗り出すが、時すでに遅く、マジュニアに追いつく寸前にマジュニアは一気に体勢を立て直し、ほぼゼロ距離から孫悟空に向かって気功波を放つ。

 

 不意を突かれ気功波をまともに食らってしまった孫悟空。しかし、マジュニアは容赦しない。墜落していく孫悟空に向かって、更に気功波を連射したのだ!

 

 武舞台に叩きつけられた孫悟空に、容赦なく降り注ぐ気功波の雨。その威力は、武舞台の表面の石の瓦を剥いで、土台を抉り出すほどのものだ。

 

 その出来てしまった穴の中心で倒れる孫悟空に、カウントを開始する審判の人だったが、

 

「カウントなど数えても無駄だ…黙れ」

 

 降りてきたマジュニアからそう一喝されてしまう。

 

「孫悟空、白々しい真似はよせ。貴様があの程度でくたばる訳がなかろう…」

 

「―――………へへ、やっぱしばれた?」

 

 不敵に笑いながら言うマジュニアに、少し間を置いてから孫悟空もなにやら楽しそうな笑みを浮かべながらおもむろに起き上がる。どうやら大したダメージは入っていない様だ。

 

「武舞台が破壊されるほどの攻撃を受けても目立ったダメージは与えられないのか…」

 

 その様子を見て、ウットナが難しい顔で唸る。常人なら即死してもおかしくない威力の攻撃を受けてこれでは、ウットナの反応も当然の事だろう。

 

「おめえ、すげえ悪い奴だけどよ、腕はすげえからオラわくわくすんだ!」

 

「くっくっく、今にそんなたわごとは言っておれんようになるぞ…」

 

「かもな…」

 

 ボロボロになった道着の上半身部分を破り捨て、帯をしっかり締めなおしながら言葉通りに昂った様子で口を開く孫悟空。マジュニアもニヤリと嫌らしい笑みを浮かべながら応じる。

 

「さてと、それじゃそろそろ本気で行くかな」

 

「一瞬のすきも見逃さんぞ」

 

 そうして、再び構え直す二人。

 

「…今まで本気じゃなかったの?」

 

「…らしいな。今までと何が違うのかさっぱり分からんが」

 

 そんな二人の言葉に、イレーザが呆れた様子で言い、シャプナーも乾いた笑みを浮かべながら答える。この二人に限らず、最早だいぶ前から悟飯以外は大会のレベルについていけてないので、これ以上レベルを上げられても、もう違いが分からないのだ。

 

 そして始まる乱打戦。お互いの腕と足が三本も四本もあるように見えるほどの素早い攻防を繰り広げたかと思うと、一転して孫悟空対天津飯戦でもみた、腕と腕を掴んでの力比べへ移行する。今度は孫悟空も歯を食いしばって力んでおり、二人の力は均衡している様子。

 

 と、ここでマジュニアの両目から、あの天津飯の怪光線に似た光線が孫悟空の顔面めがけて射出された。しかし、これを咄嗟に頭を下げてかわす孫悟空。とんでもない反射神経だ。

 

 そのまま掴んでいるマジュニアの両腕を支えにして、軽く飛び上がりながら両足でマジュニアの顎を思い切り蹴り上げる孫悟空。この一撃で一瞬前後不覚になったマジュニアの隙を突き、孫悟空は姿を消す。

 

 すぐさま体勢を取り直し、周囲を注意深く探るマジュニア。そして、

 

「はあっ!!」

 

 気合の掛け声と共に、肘打ちを繰り出すマジュニア。その一撃は、完璧に姿を消していた筈の孫悟空の顔面を正確にとらえた!

 

 吹き飛ばされ武舞台入り口の両脇にある壁に激突する孫悟空。壁が完全に崩壊する程のその威力に、近くにいた孫悟空の仲間が慌てて駆け寄る。が、

 

「ご、悟空っ!? ………い、いない!?」

 

「な、なにぃっ!?」

 

 クリリンの驚きの声に、マジュニアも目を見開きながらその破壊された壁の方を見遣る。

 

「後ろだ…!」

 

 そのマジュニアの背後をいつの間にかとっていた孫悟空が、振り向くマジュニアの顔に思い切り蹴りをお見舞いした。

 

 今度はマジュニアが蹴り飛ばされるが、少し飛んだ後で武舞台に両手を叩き付け、その勢いで上空へと飛び上がるマジュニア。

 

「おのれ…! 会場もろとも、吹き飛ばしてくれるわーっ!!」

 

 蹴られた顔を拭いながら、怒りに震える声で叫んだあと、両手を武舞台に向けて突き出すマジュニア。

 

「やべえ! みんな逃げろーっ!」

 

 瞬間、会場にいる全員に逃走を促す孫悟空だが、そんな咄嗟に動ける常人などまずいない。みな、不思議そうに上空のマジュニアを見上げるだけだ。

 

 誰も動くことができないと判断した孫悟空は、ならばと自分が飛び上がり、

 

「オラはこっちだーっ!!」

 

 と、マジュニアの注意を自分に引き付けた。

 

「馬鹿め、人間などを庇いおって! 死ねっ!!」

 

 そんな孫悟空に、マジュニアは容赦なく気功波をぶっ放した。あのスーパーどどん波が児戯に見えるほどの巨大で極太の気功波だ!

 

「今度はオラがよけねえと…っ!」

 

 そう言って、中空に向かって例の衝撃波を放つ孫悟空。その反動で体を逆方向へ逃し、かすりこそしたものの、気功波の直撃は免れた。

 

 そして、その気功波だが、その先にあった山に着弾した瞬間、眩い閃光と極大の爆発音、更に地響きが会場中を襲う。その揺れは、映像の中でも鮮明に感じるほどが出来るほどに酷いものだ。

 

 その揺れが収まった後、直撃した山の方へと映像が向く。すると、信じられない事に、結構大きかった筈の山が、跡形もなく消し飛ばされていたのだ!

 

「や、山が………きえ、た……」

 

 茫然とした様子の男の声が映像から聞こえてくる。恐らくは、撮影者かその近隣にいる人物の声だろう。

 

「や、山が消えた…? なんなんだよこれは一体…」

 

 その目を疑う光景に、シャプナーがもう色々と限界、とでも言いたげに呟く。

 

 一方、かすった衝撃で跳ね飛ばされていた孫悟空だが、更に小さなかめはめ波を進行方向へと撃つ事で、どうにか場外は逃れる。

 

「あ、あのやろー…っ! 相変わらず無茶苦茶しやがるな…っ! お返ししてやるぞ! 超かめはめ波だっ!!!」

 

「ちょ、超かめはめ波っ!!?」

 

 怒りに燃える孫悟空が大声と共にかめはめ波の構えを取る。その素敵な名前に、クオーラが瞳を輝かせながら食いついた。

 

「ま、待て悟空! あ奴を殺してしまえば、神様も死ぬことになるぞっ!!」

 

「…っ! そ、そうだった、ちくしょう…っ!」

 

 しかし、武舞台入り口付近にいるあの老人が孫悟空を止める。すると、孫悟空も口惜しそうにしながらもかめはめ波の構えを解いてしまった。

 

「ふはははははっ! どうした、何かするんじゃなかったのか!?」

 

 動作を中断してしまった孫悟空を見て、勝ち誇った様子で見下すマジュニア。孫悟空は歯噛みしながらマジュニアを見上げるのみだ。

 

「神が気になって思い切った攻撃が出来ないのか!? だが俺は違う! 悪は完全に自由だ! 何でもできる!! 例えば………この会場にいる奴らを全員吹き飛ばす事だってな!! はあああああ…っ!」

 

 対して、マジュニアは自慢げに力をため始めた。すると、マジュニアの体を目視が可能なほどの濃い気の力が覆いだす。

 

「よせ、卑怯だぞーーっ!! 戦ってるのはオラだっ! 他の皆は関係ねえーーっ!!」

 

「知った事か…っ!」

 

 そんなマジュニアを何とか言葉で止めようとする孫悟空だが、マジュニアは聞く耳を持たない。

 

「は…? こいつまさか、さっきの一撃を会場に撃ち込むつもりか…っ!?」

 

「駄目だよ、止めてっ!!」

 

「おのれ、卑怯な奴め…っ!」

 

「ピッコロさん、流石にそれは…っ!」

 

 その光景に、シャプナーは驚愕にこぶしを握り締め、イレーザは否定の言葉を吐き、ウットナは怒りに燃え、悟飯も困惑気にマジュニアの行動を非難する。

 

「悟空! ドラゴンボールがあるじゃないか! 神様も生き返れる! 俺達がそうだったように!」

 

 と、ここでクリリンが孫悟空に呼び掛ける。

 

「あ、そうか、その手があったか! サンキュークリリン! お見舞いしてやるぞ、超かめはめ波だっ!!」

 

 その言葉を受け、引っ掛かりが解けたかのような会心の笑みを浮かべた後、再びかめはめ波の構えを取る孫悟空。

 

「か、め、は、め…っ!」

 

「残念だったな、神龍は三年前に死んだぞ! 消えてなくなれーっ!」

 

 大急ぎで気を練る孫悟空に、遂にマジュニアは先ほどの物をも上回る超特大の気功波を、会場めがけて放出してしまう!

 

「神龍は蘇ったんだっ! 波ーーーーっ!!!」

 

 その特大気功波を、さらに上回る馬鹿でかいかめはめ波を放つ孫悟空。それは、まさに”超”という言葉がふさわしい圧倒的なパワーで、マジュニアの特大気功波を跳ね返してしまった!

 

「ぐわーーーーっ!!」

 

 悲鳴を上げながら、超かめはめ波の超絶パワーに飲み込まれたマジュニア。それだけにとどまらず、エネルギーの余波のみで武道館が軋み始め、あまりの暴風に観客席からも悲鳴が上がるほどだ。

 

「ほわーっ!! 凄い凄いすごーいっ!! こんなかめはめ波見た事ないよーっ!!」

 

「超かめはめ波か…っ! 名前に恥じない超絶威力だな…っ!!」

 

 大惨事になっている映像の光景に、しかしクオーラは瞳をキラキラさせて大はしゃぎし、ウットナも冷や汗を垂らしながらも、どこか満足そうにもしていた。

 

「けっ、ざまあ見やがれ! 良く分かんねえが、こんな攻撃食らった流石にあの緑野郎も…」

 

 更に、シャプナーも溜飲が下がったかのように言葉を放つが、その台詞を言い終わらないうちに、

 

「………なんて野郎だ。堪えやがった」

 

 超かめはめ波を撃ち終わった孫悟空が、少し呆れた様子でそう口にする。果たして、エネルギーの余波が冷めると、上空には両腕で防御をしてたマジュニアが姿を現した。

 

「お、おのれ~…! この俺様に、一瞬とはいえ…恐怖を与えおったな…っ!!」

 

 怒り心頭…といった様子で孫悟空を睨むマジュニア。そのまま、まっすぐ武舞台に降りてくる。

 

「許さんぞ…っ! バラバラにしてやるっ…っ!!」

 

 瞳は血走り、かぶっていたターバンが取れたため露になった頭部は、怒りに血管が浮き出ている。怒気をふんだんにまき散らす非常に恐ろしい姿だ。

 

「ひ…っ!」

 

「ほ、本当に全く効いてないのか?」

 

「信じられん…」

 

 そのあまりの形相に怯えるイレーザ。一方、シャプナーとウットナはあれだけの攻撃をまともに食らって平然としているマジュニアに心底驚愕している様だ。

 

「そ、孫悟空選手の物凄い攻撃でしたが、信じられない事にマジュニア選手、これを堪えました…。服がボロボロになっただけで………ん、んん?」

 

 その様子を、震える声で実況する審判の人だったが、ここで少し言葉を濁す。と、同時に観客席も、何やらざわざわとざわつき始めた。

 

「な、なんだ…?」

 

 場の様子が変わったのを感じ取ったシャプナーが訝し気に映像を見つめる。

 

「似てるぜ…! ピッコロ大魔王に…っ!!」

 

 と、その時、観客席の一角からこのような大声が。途端、観客席のざわつきはさらに大きくなる。

 

「ピッコロ大魔王…? そ、それって一体…」

 

 その謎の単語にクオーラが首を傾げた、その直後、

 

「似てて当たり前だ! この俺はピッコロ大魔王の生まれ変わりだっ!!」

 

 マジュニアは両手を広げて大々的に宣告した。

 

「世界中に知らせておけ! 孫悟空を殺した後、再び貴様らの王になってやるとな! ピッコロ様の天下が蘇るのだっ!!!」

 

 高笑いをしながら宣言するマジュニア。すると、

 

「………う、ひ、う、うわーーっ!!」

 

 我先にと観客たちが武道会場から逃げ出したのだ! と、同時に、撮影者も逃げ出したのだろう。武舞台が遠のいていったと思ったら、唐突に映像が切れてしまったのだ。

 

「あ、え、映像が消えちゃった!」

 

「な、なんだよ! どうみてもこれからが佳境じゃねえかっ!」

 

 あまりに突然すぎる映像の終了に、イレーザとシャプナーが名残惜しそうに映像機器をいじる。しかし、どう設定しなおしても続きが映りそうな気配はない。

 

「…ピッコロ大魔王か。少し調べてみよう」

 

「ちょっと尻切れトンボだけど、いろんなかめはめ波の類似技を見れたのは大満足だよっ!」

 

 ウットナは、ピッコロ大魔王という単語に興味が出たらしい。クオーラも、様々な気功波が見られたという事には満足している様だ。

 

「なんかピッコロさん、やさぐれた子供みたいだったな…」

 

 そして悟飯は、何とも言えなさそうな微妙な表情をしていた。

 

「ねえ、悟飯君」

 

 そんな悟飯に、ビーデルが話しかけてくる。怒っているともとられかねない程にいかつい表情をしながら、意を決した様子でビーデルは口を開いた。

 

「ちょっと組手をしてみない? できれば、いますぐ」




 ぶっちゃけ言うと、このお話は原作準拠とアニメオリジナルが滅茶苦茶に混ざり合ってます。悟飯が桃白白を知っていたりセルが四身の拳を使ったりは、アニメオリジナルです。原作では悟飯は桃白白なんか知りませんし、セルは悟空が本気になった後いきなりかめはめ波をぶっ放してます。

 逆に、悟空がおもりを脱いだ後軽いジャンプだけで済ませたり、天津飯が四身の拳のあとすぐさま四隅に散ったりするのは原作基準です。アニメではおもりを脱いで軽くジャンプした後に少し暴れまわりますし、四身の拳のあともすぐに四隅に散らばらず少し交戦してます。

 あまりよくない事かもしれませんが、この後のお話を書きやすくするための都合と言う事で、見逃していただければ…。

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