二人の孫悟飯   作:無印DB好き

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 本作のミスターサタンは殆どギャグ要素がないかもしれません。それは果たしてミスターサタンと言えるのだろうか…?


ミスターサタンと孫悟飯

 翌日、早めに学校へと着いたウットナは、カバンを自分の席へ置くや否や、いの一番に既に登校していた悟飯に駆け寄った。

 

「おはよう悟飯君! どうだった!?」

 

「あ、ウットナ君。おはよう。うん、お母さんは良いって言ってくれたよ」

 

「ほ、本当かい!? うおーっ! やったー! 次の週末が楽しみだっ!!」

 

 悟飯の言葉を聞いて、大喜びするウットナ。力のこもったガッツポーズをする様子を見ても、心底喜びに打ち震えている事が伺える。

 

 そう、前日の組手の後にかわされた孫家への訪問の許可。それがいま約束されたのだ。

 

「…でも、ウットナ君っておじいちゃんの孫悟飯の事が知りたいんだよね?」

 

 しかし、ここで悟飯が少し真面目な顔で聞いてくる。

 

「あ、ああそうだけど…」

 

「だったら、お母さんやおじいちゃんより、武天老師様に聞いた方が詳しく聞けると思うっておじいちゃんが言ってたよ。なんでも、武天老師様の一番弟子だったって…」

 

「な、なんだとっ!!?」

 

 そして、続く悟飯の台詞に、ウットナは驚愕の大声を上げる。いかにまだ生徒も殆ど来ていない早朝とはいえ、流石に数少ない周りの生徒たちの目を引き始めているが、そんな事にすら気づかない程にウットナは驚いている様子だ。

 

「む、むむ、武天老師様はまだご存命なのか!? もう数百年も前の人物の筈だが…」

 

「うん、今も元気だよ。でも、そういえば武天老師様って今何歳なんだろ? 僕が4歳の時に初めて会った時からずっとおじいちゃんで元気だったから、年齢なんて気にした事なかったな…」

 

 食らいつかんばかりに悟飯に詰め寄り、引き攣った表情で確認を取るウットナ。すると、悟飯は頷きはしたものの、悟飯自身も何やら不思議そうに首をひねり始めた。

 

「ご、悟飯君…。そ、その…」

 

「分かった。お話が聞けるようににちょっと掛け合ってみるよ」

 

 そんな悟飯に少し歯切れが悪そうに口を開くウットナ。が、ウットナがすべてを言う前に、悟飯は内容を察してくれたようで、笑みを浮かべて快諾してくれた。

 

「ご、悟飯君! いや、もう悟飯様だ!! 本当に本当に恩に着るよ!!! あ、でも武天老師様が渋るようならすぐ引いてくれて構わないから! 失礼をしているのは俺の方だし!!」

 

「大丈夫だよウットナ君。武天老師様も同居しているクリリンさんも気さくな人だから、礼儀さえわきまえていたら邪険にはされないよ。ただ、18号さんがなんて言うかだけど…」

 

「クリリン!? それは、例の映像で映っていたあのクリリン選手の事かい!? 悟飯君、君は本当に顔が広いなあ!! 尊敬するよっ!!」

 

 ひっきりなしに興奮した様子で悟飯を称えるウットナだったが、当の悟飯はこそばゆいのか「まあまあ…」と言わんばかりに両手を前に出してウットナを落ち着かせようとする。

 

「おはよー、朝から元気だねウットナ君!」

 

「子供みたいに目をキラキラさせてんなお前」

 

 と、そこに二人に掛かる声。見ると、今登校してきたばかりらしいイレーザとシャプナーが二人に近づきながら挨拶をしていた。いや、この二人だけじゃない。周囲を見回すと、既に大多数の生徒たちが登校してきていた。どうやら、そこそこの時間話し込んでいた様だ。

 

「そりゃ元気にもなるさ! 憧れていた孫悟飯翁に一歩も二歩も近づけるんだから! さて、週末は忙しい…いや! やることは今から満載だ! まず武天老師様の現住所の確認、移動手段の確保、そして失礼のないように、知れる範囲で武天老師様やクリリン選手の事を調べておいた方がいいな。それと………」

 

 元気よく挨拶してくれたイレーザと、ちょっと茶化してくるシャプナーにウットナも勢いよく答え、そして何やらブツブツ呟きながら自分の席へと戻る。

 

 が、ここでちょっとした異変が起こる。さらに時間が過ぎホームルームの時間を迎えたのだが、ビーデルが未だに登校してきていないのだ。

 

「ちょっとした事件でもあって、警察に協力している最中なのかな…?」

 

「いや、だったら連絡くらい入れるだろ。何かあったのかもしれねぇな…」

 

 ホームルームを終え、一時限目を終えても登校しないビーデルに、流石に不安そうにするイレーザとシャプナー。そして、二時限目の最中に事は起こった。

 

 突然廊下を荒々しい足音がしたかと思うと、唐突に扉が開き、なんとそこからミスターサタンその人が姿を現したのだ!

 

「孫悟飯君。孫悟飯君という少年はここにいるか?」

 

 険しい表情で教室内を見回すミスターサタン。その口から発せられた言葉に、教師を含む教室中の視線が悟飯へと向かう。

 

「あ、はい…。孫悟飯は僕です…」

 

「む…君が…。―――成程、あの時の少年の面影があるな…」

 

 素直に立ち上がり名乗る悟飯に、ジロジロと値踏みするミスターサタンだったが、不意に一つ頷いてから改めて顔を上げる。

 

「少し君と話がしたい。付いて来てくれないかね?」

 

「分かりました…」

 

 ミスターサタンの要請に、悟飯は首を縦に振って席を立つ。

 

「皆、授業の邪魔をしてすまなかった。それでは」

 

 そして、悟飯を連れてミスターサタンは何処かへと立ち去ってしまった。

 

 無論、こんな状況でつつがなく授業が続く筈もなく、生徒たちは勿論教師に至ってまで上の空で二時限目は過ぎていく事となった。

 

 この時点でもなかなかの急転直下だが、事態は更に混迷していく。悟飯がミスターサタンに連れられた後、学内にこのような放送が入ったのだ。

 

『〇年〇組ウットナ君。〇年〇組ウットナ君。至急職員室まできてください』

 

 二時限目と三時限目の合間の休憩時間に鳴り響く放送。唐突な事にウットナが訝し気に首を傾げたのは言うまでもない。

 

「ウットナ君…? やっぱりさっきのミスターサタンと関係が…?」

 

「おいウットナ。お前なんかやらかしたのか?」

 

「分からない…。もしかしたら、この前の俺とシャプナー君の来宅が気に入らなかったのかもな…」

 

「いや、あんな程度でここまではしないだろ…。しないよな…?」

 

「いくらミスターサタンがビーデルを可愛がってるって言っても、流石にそこまではしないよ! それに、もしその件なら最初に悟飯君が呼び出されたのはおかしいでしょ? あの時は悟飯君いなかったよ」

 

「そ、そうだな…。し、しかし、それでは一体何の用で…?」

 

 イレーザ、シャプナー、ウットナの三人で話し合うが、ウットナが呼ばれた理由は皆目見当がつかない。しかし、呼ばれたのは事実なのでウットナは二人との会話もほどほどに、足早に職員室へと向かった。

 

 そこで校長先生と少し会話し、通された客間には先客のミスターサタンと悟飯がソファに座っている。ミスターサタンは険しい表情で、悟飯は少しおどおどしており、お世辞にもあまりいい空気とは言えない。

 

「おお、君がウットナ君か。まあ、座りなさい」

 

 そう言って、悟飯の対面にウットナを座らせようとするミスターサタン。その言葉通りに、指された場所に座るウットナ。これで、上座にミスターサタン、その両翼に悟飯とウットナという配置になる。それ以外の人物は校長を含め全て人払いされていた。

 

「さて、早速だが…。ウットナ君、君が前々回の天下一武道会の映像をビーデルに見せた…これは間違いないね?」

 

「…はい」

 

 厳しい口調で尋ねてくるミスターサタンに、ウットナも緊張の面持ちで肯定する。

 

「もう一つ聞きたい。君は、あのセルとの闘いの映像も持っているのか?」

 

「いえ、あの映像は持っていません。理由は分かりませんが、あの映像は規制が厳しくて、一介の物好き程度では近づく事さえできないんです」

 

 次なる質問に、ウットナは首を横に振る。そう、あのセルゲームの映像は公的な規制もあいまって入手難度がけた違いに高いのだ。

 

 更に、映っているのはセルとミスターサタンと謎の連中が数人、そのうえ、ハッキリと撮れている映像は、よりによってミスターサタンがあっさり場外負けしてしまったシーンしかないのだ。

 

 謎の連中とセルの交戦シーンも映っていると言えば映ってはいるのだが、何か喋っているシーン(うまく聞き取れない)、何も見えないシーン(文字通り速すぎて)、爆発の煙で何も映ってないシーンの三拍子が揃っているので、マニアの間でも価値はあまり高いものではない…つまり、所持している個人も極端に少ない、というのも入手の難度に拍車をかけている。

 

「だろうな。その規制をかけるように頼んだのはこの私だからだ」

 

 正直に答えるウットナに、ミスターサタンも白状する。まるで、観念したかのように。

 

「何故、そんな事を…?」

 

 と、一応は問うてみるウットナだったが、実をいうと察しは大体ついていた。

 

 あの前々回の出場者達は明らかに、ミスターサタンより数段上…いや、別次元と言っていい程の実力の持ち主だ。それは審判の人がぼやいていたという事を見ても、明らかだろう。

 

 そして、恐らくはセルもあの出場者達側の大悪党だ。そんな化け物を、ミスターサタンが倒せたとは到底思えない。つまり、

 

「そこの悟飯君がセルを倒したという、決定的な証拠になりかねないからだ」

 

「―――………は?」

 

 ミスターサタンの告白に思わず頓狂な声を上げてしまうウットナ。が、ミスターサタン以外の人物がセルを倒した事に驚いたのではない。それは前述のとおり察しはついていた。

 

 驚いたのは、その人物が目の前にいる孫悟飯である事だ。

 

「…ほ、本当なのか!? 悟飯君!」

 

「………うん」

 

 目を見開きながらのウットナの問いに、遠慮がちに頷く悟飯。が、それでもウットナは信じられない。なにせ、ウットナと同学年である以上悟飯もウットナと同じ年齢だ。つまり、セルゲーム当時は、彼はまだ十にも満たない子供だった筈なのだ。

 

 しかし、悟飯だけならともかくミスターサタンまでもがそう言っているのだ。それに、彼の超人的な実力は昨日確かに確認している。如何に昨日の組手が無謀だったのか、そしてクオーラの一撃が奇跡だったのかを改めて実感するウットナ。

 

「正直に言えば、あの時は見栄だった。しかし、その所為で娘のビーデルまでもが世界を救った大英雄の娘…ということで正義感の強い…いや、強すぎる子に育ってしまった。日夜警察に協力し、正体不明の犯罪者共と戦っているのだ。そんな事をしていれば、命がいくつあっても足りんというのに…」

 

 そんなウットナを他所に、ミスターサタンはミスターサタンで懺悔の様に言葉を絞り出す。どうやら、ミスターサタンにもいろいろと苦労がある事が見て取れる。

 

 と、ここで唐突に高らかと鳴り響く電子音。直後、少し弱気な表情をしていたミスターサタンが顔を引き締め、懐からスマホを取り出す。

 

「私だ。どうした?」

 

「サタン様! サタン様! 至急お戻りを!! ビーデル様が…………あ、いけませんビーデル様!! そんな乱暴にジェット機を使われては…っ!!」

 

 冷静な声色のミスターサタン。が、受話器の向こう側からは慌ただしい言葉が…。更に、少し遠くからエンジンの大きな音も聞こえてきた。

 

「なに!? おい、ビーデルがどうしたのだ!!?」

 

 大声で聞き返すミスターサタンだったが、聞こえてくるのは大きくなるエンジン音だけだ。

 

「くっ! すまないが急用ができた! 失礼する!」

 

 慌ててスマホを懐にしまい、脱兎の如く部屋を出て行ったミスターサタン。

 

「悟飯君! 俺達も行ってみよう!」

 

 そんなミスターサタンの姿を見て、悟飯に追行を促すウットナ。悟飯も頷き、二人でミスターサタンの後を追うのだった。


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