二人の孫悟飯 作:無印DB好き
急いで学校を飛び出すウットナと悟飯だったが、残念ながらミスターサタンは彼専用の飛行機ですでに飛び立った後だった。
「ここからミスターサタン邸となると少し遠い…。バスは時間が合わないしタクシーは高すぎて手持ちが…。走るしかないか!」
そう言って、今にも走り出しそうだったウットナを悟飯が手で制する。
「ウットナ君。サタンさんの家ってどの辺りなの?」
「え、あ、ああ…。それなら…」
ミスターサタンの家を尋ねる悟飯に、ウットナはスマホの地図アプリを開いて悟飯に見せる。その画面に表示された道順を読みこんだ悟飯が、一つ頷いてから唐突にウットナの肩を掴んだのだ。
「ウットナ君。それなりの速度で走るから、振り落とされないで!」
言うや否や一気に駆け始める悟飯だったが、そのあまりに傍若無人なスピードにウットナは目を白黒…させる暇すらない。
「ぐが…っ!? ぎが、ぐぎぎぎぎ…っ!!!」
スポーツカーと同等…いや、もしかしたらそれ以上かもしれない速度。加えて、右折や左折時の遠心力も加わって、ウットナにかかる負荷は尋常なものではない。歯を食いしばって悟飯にしがみついているその必死の表情を見ても、想像を絶する苦行なのはヒシヒシと伝わってくる。
が、その苦行の甲斐もあり数分足らずでミスターサタン邸へと辿り着いた二人。まあ、苦行と言ってもばてているのはウットナだけで、走っていた悟飯は当然のようにケロッとしてるが…。
そして、ミスターサタン邸なのだが、複数人が携帯を持ちながら駆け回っており、見るからに慌ただしい様子だ。
「あの、何かあったんですか?」
「ん? ああ、実は…」
「バカ! 余計な事を言うな!」
疲れ切っているウットナを休憩させながら、その慌ただしそうな人達の一人に尋ねる悟飯。が、何か喋りそうだったのを、更に別の人が黙らせてしまった。
「そ、そうか。そうだな。…すまない少年。気にしないでくれ」
そう言って、悟飯が尋ねた人物はそそくさと離れてしまう。が、口を開きかけてしまった事と言い、彼らは彼らでかなり気が動転している感じもする。
「あ、その、サタンさんは…」
「ミスターサタンは先ほどご帰宅された。が、今は取り込み中だ! さあ、邪魔だから帰った帰った!」
めげずに声をかける悟飯だったが、先ほどのうっかり発言を邪魔した人によって邪険に追い払われてしまった。
「はあ…はあ………ふう。どうやら、取り込み中の様だな。さて、どうするか……………ん?」
なんとか息を整え、次の手を考えるウットナだったが、不意にウットナのスマホが鳴り響く。そして、
「誰だ? ………ビーデルさん!?」
発信者の名前を見て、声を上げるウットナ。必然悟飯も反応し、ウットナに近づいてい来る。
「―――もしもし? ビーデルさん?」
「あ、ウットナ君!? ねえ、今君の近くに悟飯君いる!?」
恐る恐る…といった感じで着信に応じるウットナ。対して、受話器の向こうからはジェット機のエンジン音と共にビーデルの声が聞こえてきた。
「あ、ああ…。悟飯君ならすぐ近くに…」
「良かった! ちょっと代わって欲しいんだけど!」
ビーデルの頼みを受け、少し戸惑いがちながらスマホを悟飯に貸すウットナ。受け取った悟飯も同様に少し戸惑っていたが、とりあえず…といった感じでビーデルと会話をし始めた。
「はい、悟飯です…。―――え、うん、お母さんから許可は貰ったけど…。―――へ!? 今から!? 待って待って、それは流石に…っ! ―――そ、それはそうだけど…」
が、会話が始まってすぐに悟飯が狼狽し始める。何か無茶を言われている様子だが…。
「―――分かりました。すぐ行くよ…」
という言葉を最後に、耳からスマホを離し、溜め息と共にウットナに返す悟飯。
「ビーデルさん、なんて?」
「今から僕の家に行くから、何とかお母さんにとりなしてくれ…だって」
「えぇ…。何を言ってるんだビーデルさん…」
スマホを懐にしまいながら問うウットナだったが、悟飯から返って来た言葉は予想以上の無理難題だ。思わずウットナが顔をしかめてしまったのも仕方がないだろう。
「そういう訳だから、今日は僕早退するよ。今すぐ帰るから、ウットナ君。僕の学校においてある荷物、一日だけ預かっててもらってもいいかな?」
「…むう、仕方ないな。先生やシャプナー君達にはうまく言っておくから、ビーデルさんの事は頼んだよ」
まだ戸惑いの表情ではあるものの、それでも早退をする事にしたらしい悟飯。ついでに荷物を頼まれたので、ウットナはここで悟飯と別れ、学校へと戻るのだった。
学校に戻った後、このことをシャプナーとイレーザに話すウットナ。そして、学校が終わった後、悟飯の家に行くための準備をする為にウットナのマンションに泊まっているクオーラにも話す。シャプナーとイレーザはビーデルの身を案じ、クオーラもビーデルの事を心配していた。
そして翌日。週末までにはあと一日あるが、ビーデルの事が心配…という事で、今日は全員で学校を休み、一日早く四人で悟飯の家に行く事となった。かなり遠いので、四人の手持ちを合わせて四人乗りのジェットフライヤーをチャーターしたのだ。
「………おい、完全に民家がなくなったぞ。本当に場所あってんのか?」
「あ、ああ…。以前悟飯君が言っていた住所はこのもうちょっと先の筈だ…」
「田舎なんてレベルじゃないです。本当に森と山しかありません…」
「ビーデル…大丈夫かな…」
そうしてフライヤーを飛ばすこと数時間。人の気配が全くしない無人の地を往く四人だったが、あまりに辺境すぎる場所にシャプナー、ウットナ、クオーラの三人は驚きを隠せない様だ。イレーザだけはビーデルの事を思っている様だが…。
更に一時間程飛んだあと、ようやく一つの民家らしきものが見えてきた。
「お、あれか!?」
「付近に人の家はない。恐らくそうだ!」
「うん、あの民家の隣に止まってる飛行機、いつもビーデルが乗ってるやつだ!」
「と、いう事は間違いないですね! 早速行ってみましょう!」
ようやくみつけた人の気配を感じる場所に、四人は意気揚々と向かう。民家の付近にフライヤーを着陸させ、民家の入り口の扉を叩いてみると、中から一人の妙齢の女性が顔を出した。
「お! おめえらが悟飯ちゃんの友人達だな!? オラが悟飯ちゃんの母親のチチだ! いつも悟飯ちゃんがお世話になってるだ! 遠い所からやってきて疲れただろ!? 話は悟飯ちゃんとビーデルさんから聞いてるから、ちょっと中でゆっくりしていくといいべさ!!」
「あ、ビーデル! やっぱりビーデルはここに来てたんですか!? 今どこにいるんですか!!?」
快活に挨拶をしてくれる女性…チチに、最初に口を開いたのはイレーザだ。その必死の表情を見ても、やはり親友の事が心配なのだろう。
「ん? ビーデルさんなら悟飯ちゃんと悟天ちゃんと一緒に今”気”の修行をしてるだ。この家を出てまっすぐ歩いたところだと思うだよ」
「ありがとうございます!」
「あ、ビーデルさんずるい! 私もすぐに行かなきゃ!!」
チチの言葉を聞き終わるや否や、彼女が指差した方向へ一目散にかけていくイレーザ。おまけに、気の修行…という言葉に反応して、クオーラまでイレーザの後を追って駆けて行ってしまった。
「…ったく。ビーデルが心配なのはわかるけど、挨拶くらいしっかりしろよな…」
「チチさん、連れと妹の失礼、申し訳ありません…」
「ふふ、いいべいいべ。友達を心配するのは当然だし、あの年頃の娘っ子はやっぱり元気が一番だべ!」
女子二人の少し礼を失している行動にシャプナーは苦言を、ウットナは二人の代わりに頭を下げるが、ありがたい事にチチは特に気にしている様子はない。
「で、おめーらはどうするだ? やっぱり悟飯ちゃん達の所へ行くけ?」
続くチチの質問に、男子二人も「はい!」と元気よく答えた。
そうして、移動する事十数分。そこには、専用の武道着に着替えた悟飯と、座禅を組み集中しているビーデル。そして、そのビーデルを興味深そうにじっと見ている少年の姿が。
「ビーデル!!」
「…ん? あ、イレーザ! シャプナーにウットナ君、クオーラちゃんも!!」
ビーデルの姿を見つけて、まず駆け寄ったのはイレーザだ。そして、その後ろからクオーラ、シャプナー、ウットナの順に顔を出す。
「もう、心配したんだよビーデル!」
「ごめんねイレーザ。ちょっとムキになり過ぎちゃったかも…」
「ちょっと…じゃねえよ。全く、無茶な家出を敢行しやがって…」
「まあ、とにかく何事も無くて何よりだ!」
「ていうか、抜け駆けずるいですビーデルさん! 私もまじります!」
座禅を解き、イレーザ達を迎えるビーデル。そして、シャプナーが少し苦言を発しはしたものの、全員安堵の表情を浮かべている。
「お、お兄ちゃん…。この人達誰?」
そんな中、ビーデルを見つめていたあの少年が、悟飯の陰に隠れながら悟飯に聞いていた。
「ああ、お兄ちゃんの学校の友達だよ。皆良い人たちだから、怖がることはないよ」
「………ふーん」
己の帯を掴みながら説明する悟飯だったが、残念ながら少年の警戒は解けそうにない。
「あの子は?」
「悟飯君の弟で、悟天君って言うんだって」
その少年…悟天の事をイレーザに説明するビーデル。
「この子…あの映像の孫悟空って奴に似てるな…」
「おお、確かに…! 悟飯君、この子もやっぱり君みたいに強いのか!?」
「いや、どうだろう…? 何も教えてないから今は全然だと思うけど…」
「ええ!? 何も教えてないんですか!? それはそれですごーくもったいない気がします…っ!」
首を傾げながらのシャプナーの一言にウットナが反応し、興味全開の様子で悟飯に聞くウットナだが悟飯の答えはあまり芳しいものではない。その答えにクオーラがもの惜しそうに大声を上げる。その一部始終を、悟天は悟飯の後ろで警戒を続けながらも見つめていた。
「まあ、その話はとりあえず置いといて、まずはビーデルさんに聞きたい事がある。何故こんな家出まがいの事をしたんだ?」
「あ、それ私も気になる! どうしてこんなことしたのビーデル!?」
そんなクオーラを制止し、改めてビーデルに向き直るウットナ。途端、イレーザもビーデルを問い詰める。一瞬話を逸らそうとしたらしいビーデルが周囲を見回すが、既にその場の全員の視線が自分に集まっている事に気づくと、観念して近くの岩に腰を下ろし喋る体勢に入った。
※ 悟飯君はまだ悟天君が超サイヤ人になれる事を知りません。(フラグ)