ポケットモンスター プリティーダービー 作:室星奏
01 日常に浸食するソレ
「来たようだね、モルモット君?」
「また栄養ドリンクの実験台? もう何回目よ、タキオンちゃん?」
「ふふふ、今日は別件だ。安心したまえ」
新入生が入学してくるこの忙しい春の頃、突如として私が担当するウマ娘の一人であるアグネスタキオン(通称、タキオンちゃん)に呼び出され、彼女の部屋へと入室する。
この手の呼び出しにはもう慣れっ子であり、大抵の理由がウマ娘用のプロテイン薬品、またはそのおまけで作られたポケモン用のドーピングアイテム……いわば、栄養ドリンクの実験台としてである(なぜ私に飲ませる?)。
あ、そうそう、ポケモンって言うのは――
『ジバジーッ!』
「うわっ……とと、ははは、ジバコイルも久しぶり。もうすっかり助手ポジかな?」
「なに、こいつもモルモットの1匹に過ぎないよ」
この様に、様々な形状を持った異質な生命体だ。数年前、世界に突如出没し、一時期混乱を招いた謎の存在。
色んな研究機関(とタキオンちゃん)が、総力をあげて調査しているが、未だ詳しい事は判明していないらしい。
今となっては、タキオンちゃんが開発したモンスターボールとやらで、ゲットする事により、自分のパートナーにできるようになった為、混乱するどころか、すっかり日常に溶け込んでしまっていた。
勿論それは、トレセン学園も例外なく――。
そしてまたこの子は、しれっととんでもない事を言ってのける。時々冗談を言う時もあるのだが、ここまでくると、どこまでが冗談か分からなくなってくる事も多々ある。
冗談だったのを真に受けた時のニヤニヤ顔を見ると、非常に悔しい気分になるので、ここ最近は慎重に見極めるようになってしまっている。
……今回はガチだな。
「そ、それで? 今回の要件は? 結構忙しいんだけどなぁ~」
「ふふ、焦ることはない。すぐ終わるさ」
と、タキオンちゃんは机の引き出しをぐいっと引く。その刹那、そこからビュインッ! という風切り音と共に一つの端末機器? のような物が飛び出し、私の眼前へと体当たりをかます――ってなんで!?
「って!?」
「おや、少し過剰反応すぎたかな?」
「か、過剰反応……?」
『起動完了。よロトしく、ボク、ロトム図鑑ロト!』
「ナニコレ……?」
変な形状をした顔のついた端末が、自分の眼前でめっちゃ挨拶してくる。とうとう非現実的な物でも目にしてしまったか?
いやいや、常日頃からウマ娘という凄い存在を見てきているんだ、早々驚くことでは……うん、やっぱ無理だ、どういうことだ?
「ロトム図鑑、私の新たな発明品さ」
「またガラクタ作ったの?」
「ガラクタではないさ。これ一つさえあれば、あらゆる物事の計算や検索、ポケモンの解説、ひいては相手の思考までもが――」
「え!? 何それ!? めっちゃ有用!? 詳しく聞かせて!?」
トレーナーにとっては必須のスキルをこれ一つで出来るって言うの? タキオンちゃん、ついにそんな次元にまで到達してしまっていたのか?
やればできる子……!!
「く、食いつきが凄まじいな、モルモット君は……」
「今まで長く続けていたけど、こんな便利なトレーナーグッズ、今まで聞いたことないよ。詳しい使用説明書は!?」
「まあ待ちたまえ。今から教えるさ。今日呼んだのは他でもなくてね、そのロトム図鑑をテストとして使ってみてほしいのさ」
「……どんな実験台にされるかと思ったけど、なんて好都合な頼みなの!!」
クソ、タキオンちゃんめ、断るに断りづらい説明ばっかしてきやがって……。憎めない、何て素晴らしいウマ娘なの!?
君が担当するウマ娘の一人で良かったと、今久しぶりに実感した気がするよ。
「そうだろう、そうだろう? じゃあ早速使い方の方を――」
***
「……っていう経緯なんです。あんまり気にしないでくださいな、会長……」
「成程。まあ十中八九、あの子の仕業とは思ったが」
『エペーッ!』
確かに、こんな得体のしれない謎の顔面端末が浮遊して喋ったりしたら、ちょっと騒ぎになりますよね。いや、ポケモンが出現した時程ではなかったのだけれど。
「あれ? グルーヴちゃんは?」
「彼女なら、今資料配布とサボってるナリタブライアンを探しに向かっている。ムクホークと一緒だ、すぐ戻ってくるだろう」
「ははは……ブライアンちゃんは相変わらずというか。エンペルトも、すっかり生徒会の顔って感じだし……」
「ああ。最初は困惑したが、今となっては相棒の一人だ。ダジャレの練習にもよく付き合ってもらっている」
ペンギンだから寒さ耐性でもついているのだろうか。
「ああ、そうだ、トレーナー。来週の新入生歓迎会だが、君にもその日程を見てもらいたい」
「え? もう完成したの?」
渡された紙に視線を移し、その項目を一つ一つ確認していく。
代表挨拶、屋台や自由時間、歓迎会レース……どれもこれも立派に組んであって、生徒会の仕事の良さが伺える一枚となっていた。
「うんうん、問題ないと思――……ん? ねえねえ会長」
「ん、不備でもあったか?」
「いや、大丈夫だけど……。この、ポケモンバトル大会っていうのは……?」
「ああ。困ったことに、在学生がどうしてもって言って聞かなくてな……。仕方なく項目の一つとして組んだのだが、やっぱマズかっただろうか?」
「……いや、もう、良いんじゃないかな~。それ終わってちゃんとトレーニングに励んでくれるのならさ、ははは~」
なんだかもう、日常に浸食するどころか、ウマ娘界隈としても非常に不味い所まで来ていると思います。