ポケットモンスター プリティーダービー 作:室星奏
「トレーナー、どうかしたか? 凄い疲れた顔をしている様だが……」
「……オグリンこそ、この状況何があったの?」
会長たちとの会話も終わり、夕食もかねて食堂にやってくると、そこには見慣れない光景が視界一面に広がっていた。というか周りも騒然としている。
おかしい。昨日まではこんな光景なかった筈だ。いや、あったら絶対に忘れられない光景となっているだろうし、それは確かである。
それは、オグリキャップ……通称、オグリンが、眠っている謎の巨体の腹上で、悠々とごはんを食しているという異様な光景だった。
「えっと、先日いたゴンベちゃんは?」
『説明するロトッ!』
頼んでも無いのに、例の顔面端末が懐からビョインッと飛び出し、目の前の光景を簡易的に説明してくれた。
ありがたいけど、一々ビビるからやめてほしい。機能停止ボタンとかないのだろうか? クソ、聞き忘れてしまった。
『カビゴン。ゴンベの進化系――毎日400キロのエサを食べるというロト』
「進化?」
「なんだか知らないが、先ほどちょっと大きくなってな」
「「「ちょっとどころじゃない!!!!」」」
「それより、はよどかんかーッ!!」
よく見ると、数名のウマ娘が下敷きの被害を受けていた。ごめん、目の前の光景にしか目がいかなかった様だった。
周りで唖然となっていたウマ娘たちに協力を仰ぎ、タマモクロス含む数名を救助した後、一先ずボールの中へと戻してもらう。
「すまなかった」
「気づくんが遅いわ!!」
「まあまあ……」
骨折はしてないようで一先ず安心はした。そこはさすがウマ娘といった所か、私みたいに日頃から鍛えてない人間だったら、大惨事待ったなしだっただろう。
オグリンのゴンベは数日前に、食堂へ迷い込んできた所をオグリンが見つけて保護して以来、ずっと一緒に過ごしていたのを見てきたが、まさかここまで巨大化するとは思ってもみなかった。あとで会長に相談しよう……ごめん、会長。また胃痛になっちゃうかもしれない。
「せやトレーナー。その機械はどうしたんや?」
「ん、これ? タキオンちゃんにつかまされた奴」
『ロトム図鑑ロト。よロトしく』
「機械が喋ったぞ?」
「もうあまり驚かなくなったね」
予想に反して、皆の溶け込みが速くて助かる。今日のトレーニングでも、記録係として中々重宝したし、暫くの間タキオンちゃんのテストとやらに付き合ってあげてもいいかもしれない。
そんな事よりも、オグリンのカビゴンの扱いについて考えなければならない。さすがに食堂で適当に出されてしまっては、二次被害が発生しかねない。
まあ、それは追々考えるとして……。
「そういえば今日、食堂人少ないね。何時もなら蔓延ってるぐらいなのに」
「何か皆、急いで食べてどっかいきはったで? 外で遊んどるんちゃうか?」
「……ポケモンバトルって奴か?」
「まあそうよね。まあトレーニング後だし、別にいいんだけどぅぅあぁっ!?」
刹那。
壁に何かが衝突したのか、学園が左右に激しく揺れ動く。ガラスの破壊はないだけマシといった所か。またエアグルーヴのやる気が下がったら溜まった物じゃない。
風紀が、風紀が乱れる。
「……トレーナーも大変やな」
「うん、ちょっと行ってくる……」
ウマ娘の不祥事は、大体トレーナーが事情を聞きに行かなければならない。まあ外で問題を起こす事は本当に余程な事がない限り起こりえないのだが、学園内ともなるともはや日常茶判事と言わんばかりに、何かトラブルが起こる。
ポケモンがやってきてから、その回数も更に跳ね上がったような気もする。
「大変だけど……まあ、嫌ってわけじゃないし……いっか」
***
「で? 何やらかしたの?」
「トレーナートレーナーッ!! ゴルシがまた壁にポケモンぶつけたんだけどぉ~!!」
「……またか」
このトレセン学園で唯一ポケモンを所有していないトウカイテイオーが状況確認にやってきた私に駆け寄り、事の顛末をすべて報告する。
何故か知らないがこのテイオー、ポケモンが触れないらしい。『テイオーだから大丈夫』と高をくくっていた所に、尻尾で弾かれて以来何かトラウマを抱いてしまったとかなんとか。
そういうところも可愛い。
それはそうと、これもう何回目なんだろうか? ポケモンによる壁衝突事件は今回含めてもう100回近くは報告されている。いい加減注意してもらいたい物だが、バトル中はどうしても夢中になってしまうとかなんとか。
専用のフィールドでも用意? いやさすがにそんな資金は避けない。ここは何としてでも直してもらいたい問題だ。
「ゴ~~~ル~~~シ~~~ッ!」
「げっ!!」
「こらぁ逃げんなー!!」
私はテイオーを置き去りにし、逃げるゴルシを追いかけに行く。まあ追いつく事なんて出来やしないのだが、こうでもしないとまたやらかしかねないので念押しの意味をかねて追いかける。
ああ、こういう時にたづなさんがいてくれたらな……と、毎度のことながら思うのであった。
***
「行っちゃった……」
取り残されたテイオーは一人、その後ろ姿をマジマジと見つめる。毎度この光景を見る度に、つい自分が悔しくなってくる。
何で私は触る事ができないのか、と。皆が触れあったり、戦わせたりしている光景を見て、何度も挑戦しようとしているのだが、つい躊躇いが生じてしまう。自分らしくもない。
「……いや、皐月賞も近いし。もう一走りしてこよう」
気持ちを整え、練習用コートの方へと駆け走る。先ほどのゴルシの顔、少し面白かったなあと想起しながら、身体を楽しい気持ちへと転換させる。こういう事が出来るのは、自分の十八番なんだと自負している。
「……?」
なんか急に身体がマグマの如く熱くなったような感覚を覚える。それと同時に、どこからか私を見ているような視線も。
トレーナー? と声をかけてはみた物の、周囲にはバトルに夢中で私を見ているウマ娘やトレーナーは一人もいない。
……気のせいかな。きっと気分が高揚してきた証拠なのかもしれない。なんなら、さっきよりも断然走れるような気分だ。
にひっ、と笑みをこぼし、そのまま怒涛の勢いでレース場へ駆け走るのだった。
『……』
この時のテイオーの予感は的中していた。
その時、トレセン学園の屋上には、一つのこの世の物とは思えない影が存在していたのだから。
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