月とスッポン、酔えば同じ   作:アップルワインにサイダー


オリジナル現代/文芸
タグ:オリジナル
 男は最後の酒は月見酒にしようと、苦手な辛口の日本酒を用意した。
 三日月の月をグラスの水面に映そうとしたところ、そこに映っていたのは満月だった。
『夜になるとキツネが化かしに来るぞ』
 男は構わず酒を呑む。ゆっくりと時間は進む。
 男と狐の語り合いが和やかに始まる。

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 別のところで書いた小説を手直しして、読めるくらいにしたので初投稿です。
 pixivにも同じものが載せてありますが、内容は同じですので別に見なくても構いません。

 では、どうぞ。


月とスッポン、酔えば同じ

「夜になると狐が化かしに来るぞ」

 

 死んだ叔父がそんなことを昔云っていた。

 眉唾な話だとその話を聞いていた昔の私に、そんなことはないぞと今は一言いれてやりたい気分になっていた。

 

 小さな部屋には違和感のある大窓を開けると空気がぐおんと入れ替わって、ひと時の強い風に手で顔を覆った。止んだことを確認したら、用意していた辛めの日本酒を良く冷やしたグラスに注ぎ入れて、ことりと床に置かれたお盆におく。

 腰を下して足だけを窓の外に出し、元々外に出してそのままだったスリッパに足を通して、そのまま土を確かめるように踏みしめる。うむ、良きかな。

 今日は三日月と月見酒にはあまり向かないが、今日から酒を止めると決めていたので、わびさびを感じられるような呑み方といえば月見酒だろうということで三日月の下で呑むことにした。

 

 なんで酒を止めるのか、それに関しては色々理由はあるが、まあ一番の理由は別段好きではないからだ。

 大学のときノリで呑まされて、意外にも酒に強かった自分は、そのまま酒飲みへと毎回誘われ行く日々。それからはお酒の中では度数の低く甘い、酒の感じもしない酒を好んで飲んでいた。たまにビールや日本酒は嗜んでいたが、呑むときは基本ジュースみたいな酒を毎回頼んでいた。

 しばらく呑んで、呑んで、呑んで、四~五年くらい経って社会人になったときに、ふと「あれ、自分あまり酒が得意ではない?」と疑問に思ってからは、酒を呑むのは止めようという考えに至るのは早かった。

 

 グラスに注がれた日本酒を手に取り、窓の外の夜空にグラスの水面を映す。

 ……水面に移るはずの三日月は、何時の間にか満月へとすげ替わり、星を掻き消すかのように光輝いていた。

 ……再度確認のためにスマートフォンを手に取り、今日の月の満ち欠けを確認する。画面には今日の月は三日月だそうだ。

 ……はてさて、いま自分が見ているこの綺麗な満月は一体なんなのか。日本酒を片手に月を眺めている私にはわからん。

 三日月から満月へとすげ替えられた月を眺めつつ、日本酒をとくとくと注いでいく。私は辛いお酒が苦手で、基本は甘い酒ばかりを選んで呑んでいるのだが、今日は辛めの酒を用意していた。

 普段呑む酒が甘く度数の低い酒のせいか、いま呑んでいる酒に酔いが周り始めてしまっていた。

 酔った頭ではその月がなんで満ちているのか、きっと狐のせいなんだろうな、なんてぼんやりと考えるだけで終わっていた。

 コップの水面が鏡のようになって満月を落としていた。コップをクイッと傾けて、そのまま満月ごと呑み干す。

 少々上機嫌になったため、私は次に話しかけることとした。

 

「おぉい、そこの月に化けてる狐さんや」

『…………なんだ』

「おお、返事が来るとは思わなんだ」

 

 少し驚いたが、それもまた一興。酒を傾けて呷った後、ふぅと一息。会話できるなら話しを続ける。

 

「お前さん、どうして満月なんかに化けてるんだ」

『…………きさんを、化かして楽しもうと思うとったが、駄目じゃった』

「はは、そんな綺麗な満月になられてしまっては、こちらは酒を呑むしかあるまいに。化けるものを間違えたな」

『…………そのようだ』

 

 ちょっとの会話でなんとなくだが、この狐はおっちょこちょいであることを察する。

 ゆっくりと酒を呑み、ぷはぁと息を漏らしながら、このおっちょこちょいの狐の会話を楽しむこととする。

 

「お前さんが満月に化けたおかげで、苦手な酒が旨く感じる。こいつはお前さんになにか感謝せねばな」

『…………酒、いなり、肉』

「くはっ、以外にも食欲に忠実じゃねぇか。面白いやつだ。ちょっと待っておれ」

『…………くれるのか』

「あったらな」

 

 立ち上がり、冷蔵庫へと向かう。扉を開けて中を見やり、酒と肉を見つけ、ついでに私の摘まみになるであろうチー鱈を見つけたので、それをむんずと掴んで、大きく開いた大窓へと戻る。

 

『…………いなりは』

「ちょうど品切だ。肉と酒で勘弁してくれ」

『…………酒池肉林という言葉もある。よかろう』

「そういう意味で使う言葉ではねぇような気がするが……、野暮といったものか」

『…………して、わしはどうやってその酒と肉を食えばよい』

「……? 化けるのやめて降りてくりゃいいんじゃねぇか?」

『…………狐は一度化けると、朝になるまで解くことはできぬ』

「面倒くせぇこった」

『…………すまぬ』

「化け狐が素直に謝んじゃねえや」

 

 はてさて、満月を映して呑む酒も洒落てて善いものだが、会話しあいながら呑む酒にも善いものであることは間違いなし。さてどうしたものか。

 

『…………おい、煙草はあるか』

「ん、おお。もうやめたが、実物は捨てれねぇでそのままだ」

『…………なら、それに火をつけ、煙を出せ。狐は煙を嫌がり、変化を解いて逃げる』

「おいおいおい、それじゃあお前さん。いま輝いている満月も、お前との会話も、両方捨てることになっちまうじゃねえか」

 

 それはいかん。せっかく楽しい酒盛りとなるところだったのに。そう不満を呟くと、くっ、くっ、くっ、と嫌味たらしく笑われた。

 

『…………無論、煙が出れば逃げるが、逃げる場所はわしが決めること』

『…………逃げ込んだ先が、たまたま酒と肉があれば、運良しと喰らうだけよ』

「……なるほどね、それなら煙草を吸っても良さそうだ」

 

 部屋へと入り、奥へと寄せられていた煙草を取り出し、百円ライターを使って火をつける。

 フゥー、と煙をわざとらしく吐きながら縁側へと戻り、また煙草に口をつけ、数瞬の後、また煙を吐く。

 はと上を見上げれば、満月は消え失せていた。少々惜しい気もしたが、このあと来る来客と交わす酒と比べりゃ、悩む必要もなし。

 久方ぶりに出した煙草を、そのまた懐かしく出した灰皿に押し付けて火を消し、酒と肉とチー鱈と、ついでにあったいなりを盆おけにのせ、窓の近くで待つ。

 ピンポーンと、間抜けな音が奥から聞こえた。有無も云わさず入れば良かろうにと思いながらも「表じゃなく裏を回ってそのままこい」と声を張り上げて呼ぶ。

 数刻して、裏手を回ってそいつが現れた。

 

「ほう、こいつは驚いた」

「わしもよ。いなり、あるじゃあないか」

 

 かつかつと下駄をならしながら綺麗な着物姿の女性は、盆おけのすぐ隣へとどかりと座り、酒や肉よりも先に、いなりをひとつ取ってぱくりと口へ運んだ。

 大窓は人一人と化け狐一匹でギュウギュウと狭くなっていたが、狭さは特に両方とも気にしてはない様子だ。

 

「えらい別嬪さんが来たと思ったら、態度はふてぶてしい猫みてぇだな」

「わしは狐だ」

「そりゃ失敬」

 

 旨そうにいなりを食む姿をみていたら私も食べたくなり、いなりに手を伸ばすと、ぱしりと手を叩かれた。どうやらいなりはこの狐のものらしい。

 

「随分と態度のでかいこって」

「知るか。人など化かしたり供物を貰うだけの存在よ」

「へえへえ、ならばその盆にある供物の代わりに酒を交わしてくれると嬉しいね」

「…………それくらいなら良かろう」

「ありがたい限りで」

 

 さて、子供だったころの私よ。化け狐はいることがこの年になってやっとわかった。

 今も綺麗に輝く星々と三日月の下で酒を酌み交わしている。ぶっきらぼうでふてぶてしい奴だが、中々に面白い話しをしてくれる、そんな奴だ。

 

「おい、そのちゐたらとやらも献上せよ」

「こいつは俺の酒の充てだ。見逃してくんな」

「ふてぶてしい輩だ」

「どちらも同じだよ」

 

 以外と似た者同士だったのは驚きだったが。

 そのまま、化けた女と共にグラスを傾ける。

 辛い中に、喉に残る米の甘さがじんわりと来て、数秒口内を彷徨った後に喉へと押し込まれる。

 ゴクリ。……うん、辛い。辛いのはやはり苦手だ。だが──

 

「んぐんぐ……コクコク、プハァ。……ほれ?きさんも喰わんとちゐたらが無くのうてしまうぞ」

 

 何食ってやがんだとクククッ、と笑いながら苦手な辛い酒を煽る。

 苦手な辛い日本酒の旨さが、ほんの少しわかったかもしれない。

 

 本物の月である三日月は、自分達を見て笑ってるかのような弓張り月に輝いていた。




 酒飲みながら書いたから酒の方へと話が流れて行った。
 お酒美味しいですよね。私はアップルワインをサイダーで割って飲むのが好きです。

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