転生者は創造神の光を見るか?   作:おんのじ

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誤字・脱字があったら教えてください。

完結させたい気持ちはまだあります。


9話 転生者は分からない

 佳い風が吹き抜けた。どこまでも清々しく、純粋な風だった。

 

 不満かと、()は問う。

 不満だと、()は言う。

 

 天の下に在るのは()では無いと、曇りなき眼で断言した。自分にこそ、アレ(・・)は相応しいのだと。

 

 竜が昇るが如く、()はこの世界を大笑しながら邁進する。いつの日か、その大翼が世を風靡すると疑うことなく────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さん………ショウさん……!」

 

 誰かが、オレを呼んでいる。夢なのか、現実なのか区別がつかぬまま朦朧とし、

 

「しっかりして下さい、ショウさん!」

 

 強めの呼び掛けにより、ハッと意識が覚醒する。

 キョロキョロと周りを見渡して見れば、そこはヒウンシティのポケモンセンターだった。

 

「大丈夫ですか? 突然反応が無くなってしまったので……」

 

「あ、あぁ……すいません…ちょっと寝不足で……ぼーっとしちゃいました…」

 

 適当な訳を作りながら、手の中にあるモンスターボールの存在に気付いた。どうやら預けていたポケモンを受け取っている最中に気を失ったらしい。

 今受け取ったボールには、昨日見つけた件のポケモンが入っている。様子を見るに寝ているようで、恐らくまだ疲労が溜まっているのだろう。

 

 昨日、オレには本当に簡易的な応急処置しか出来ず、やむなく"捕獲"という形をとりポケモンセンターへ急いだのだ。

 それからは流石ポケモンセンターと言ったところか、迅速且つ丁寧に処置し、とりあえず翌日の朝まで休ませるとの事で昨日は了解しオレも部屋に戻った。

 

 見つけた時の状態はそれは酷いものだった。キズは生々しく、息も絶え絶えで放っておけば衰弱死は確実だった程だ。

 打って変わって、現状は見る限り呼吸も安定しているようで、キズも一部(・・)を除いてほぼ治りきっている。あれほどのキズが一晩でここまで治ってしまうとは、ポケモンセンターの設備と技術が如何に優れているかが分かる。

 

 受付のお姉さんにお礼を言い、複雑な心境のまま外に出る。

 冬の朝の空気は冷たく澄んでいる。ゴチャゴチャとしたオレの内心を清浄にするにはもってこいだ。ヒウンでなければもっとクリアな空気だったのだろうが、それはそれだ。

 大きく息を吸い込み、吐き出す。

 色々と考えたくなることがあるのは確かだが、それよりも今はジムに向けた調整の方が大切だ。午後からはバトルカンパニーの見学(・・)もあり、体力的に問題無ければそのままジムに挑んでしまおうかとも考えている。無論、一旦休息はとるが。

 普段から割とフラフラしがちなジムリーダーだが、どうやらインスピレーションが湧く出来事があったらしく暫くはジムにいるらしい。出来事というのは、十中八九ポケモンのホネが盗まれたあの事件の事だろう。

 

 午後まではまだ時間もある。せっかくなので、"興味ナシ"と判断していたゲームフリークやアトリエヒウンも覗いてみようかと脳内で観光プランを組み立てる。

 

『それじゃ行こうか、な。』

 

 手に握ったままだったボールを、若干躊躇しながら腰のベルトに付け人混みに身を投じる。

 暇つぶしを兼ねたヒウン観光が、再び始まった。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相性というモノはどうしても存在してしまう。だからこそオレは確信した。この町とオレの相性は全く良くないのだと。

 アトリエヒウンは芸術がさっぱり理解できないオレにはただの不思議空間でしかなく、ぐるっと一周して流れるように退場してしまった。惹かれる絵も何枚かあったが上手いこと感想が出てこないのが実情である。

 ゲームフリークはそもそも予約をとっていなかったので、1回のロビーを見学するだけだった。新作のゲームの広告や会社の求人情報を一通り眺めて退出し、次に義父に会った時、珍しくゲームをねだってみようかと思いながらその場を後にした。そう思わせられるくらいには魅力的な広告だったとも言える。

 

 ふたつ合わせて滞在時間1時間未満と、オレの観光は即終了してしまったのだった。

 とはいえ時間は有り余っているので、時間の消費の為にオレは少々シャレたカフェでコーヒーを頂いている。

 

『楽しみだなぁバトルカンパニー。……フタチマルとイーブイの最終調整も済めばいいけど。』

 

 昨日で"めざめるパワー"が8割方仕上がったが若干の不安定さがあるイーブイと、要領と実行法は掴めているが"ワザ"に昇華するには未だ至らないフタチマル。両者ともジム戦では活躍してもらわねばならなく、そのためにもバトルカンパニーでの調整はより意味のあるものになってくる。

 

 図鑑や地図を眺めているうちに、日の位置が上の方に昇ってきた。

 完飲しきっていなかったコーヒーを一気に飲み干し、

 

『よし、行こう。』

 

 スカーフを結び直す事で気合を入れ、直意気揚々とバトルカンパニーのある海沿いの通りへと歩き出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 あっという間に時は過ぎ、気付けば日も落ち始めた頃。

 小脇に戦利品である"がくしゅうそうち"を抱えながら、オレはバトルカンパニーから帰っていた。

 ノルマがバトルの成績だったりするだけあって、社員とのバトルはどれも質の高いものだった。

 

 しかし、それに反するようにオレ自身の気分は決して良いものではなかった。

 肝心のフタチマルとイーブイが"ワザ"を完成させるに至らなかった(・・・・・・)からか、否だ。

 勿論これ自体は無視できる事態では無いのだが、百歩譲ってイーブイは八割で"めざめるパワー"を放つことが出来るから良い。フタチマルがまだ"ワザ"として自分のものに出来ていないのが懸念点ではあるが。

 

『ま、何とかなるよ。 …何とか、さ。』

 

 最後の一言だけは言ったかどうかも怪しいほどに弱々しい声色だった。

 おもむろにフタチマルが入ったボールを手に取り、じっと見つめてみる。中に入っている相棒は特訓の疲れからか、眠っているようだ。

 

 気分は良くないと言った。が、それはフタチマルとイーブイが"ワザ"を習得出来なかった事だけが理由では無い。寧ろ、原因はほとんど()にあり、それは自分自身で勝手に引き起こしているだけだ。

 

 ふぅ、と深いため息が(こぼ)れる。

 吐いた息は重く、鉛でも吐き出しているのかのようにすら感じられた。

 

 バトルカンパニーでの連戦の時、オレは「なぜ」フタチマルが"ワザ"として攻撃を繰り出せないのかを考察していた。攻撃の仕方、クセ、その後の動きを観察し、何が欠けているのかを見極めようとしていた。

 結果として、何が欠けているのかは大凡(おおよそ)の予測が立てられた(・・・・・)のだが、それを伝えようとしたほんの一瞬、僅かに頭を()ぎってしまったのだ。

 

 オレが今していることは、フタチマルが自身で成長する機会を奪ってしまっている(・・・・・・・・・)のでは無いのかと。

 

 ()ぎってしまったものは仕方がなく、伝えようとしたアドバイスは口の中で留まり、終に言の葉になることなく消えていくだけだった。

 

『それになぁ……』

 

 思い出すのは昨日の事、4番道路でのバトル。

 オレはイーブイの可能性を信じ、やりたいようにやらせる事で力を引き出すことに成功した。────して、しまった(・・・・)のだ。

 そんな成功例を見てしまったのであれば、それは他のポケモンにも同じことが言えるのではないのだろうか、と考えてしまうのも不思議なことでは無い。

 イーブイが如何に可能性に満ち溢れたポケモンだとしても、ポケモンという存在自体が可能性の塊みたいなものなのだ。同様の行動をすれば、良い結果は得られると十分に考えられる。

 

「何とかなる」と言ったのはこの為である。ポケモンの自主性に任せ、オレは信じて見守る。「何とかしてくれる」と言い換えた方が良いかもしれない。

 

『…ッ』

 

 ああ、しかし────「それで良いのか(・・・・・・)」と揺らぐ自分がいるのも事実なのだ。

 くだらない考えだと否定したい気持ちは大いにある。けれども、「それもトレーナーなのではないか」と思えてしまう。

 それはオレが"転生者"だからなのだろうか。"転生者"であるから、ポケモントレーナーについて理解できないのだろうか。

 

 ─────悔しいが"転生者(オレ)"には、ポケモントレーナー(・・・・・・・・)が何者なのか、分からないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何にも解決しないまま時間は過ぎて行き、気付けばジムの目の前に立っていた。

 オレにとって3つ目となるヒウンのジム。その扉に手をかけた所で、動きが止まる。

 

 果たして今のオレは、ジムを突破する程の状態であるのだろうか。

 果たしてトレーナーという存在に対して疑問を持っている人間が、トレーナーを育成するジムに挑む資格があるのだろうか。

 果たしてオレは─────()なのだろうか。

 

『…分かんないから、挑むんだよ。』

 

 半ばヤケになっていると言ってもいい。

 傍から見ればしょうもない悩みかもしれないが、オレには余りに難解な問題なのだ。「ポケモントレーナー」という存在について考えるのは。

 

 ガッと扉を開き中に入る。

 受付でジム挑戦の手続きを済ませ、奥へと足を踏み入れる。

 眼前に広がる何とも言い難いアーティスティックな装飾と、どう見ても樹液やミツの類で出来ているブヨブヨの壁。これが仕掛けなのだろう。やっぱり芸術は分からないな、と苦笑する。

 仕掛けについては事前に情報を仕入れていたので、ブヨブヨの壁に結構本気でぶつかって突き破り、床のスイッチを上手いこと踏んでサクサクと攻略を進めていった。

 ジムの仕掛けの方は問題なかったのだ。しかし、ジムトレーナー戦は驚く程に苦戦を強いられてしまった。

 ポケモンのレベル的にはこちらが上なのに、いつも以上にジリジリと削られていき、最終的に強引に力押しで勝負を決めるといった、このジム風に言えば"芸術性の無いバトル"がほとんどだった。

 

 無論、そんな力任せなジムチャレンジを敢行すればどうなるかは想像に難くない。

 ジムリーダーの所に着く頃には、ポケモンは勿論、トレーナーですらも疲弊してしまうのは分かりきっていた事だろう。それが()である。

 

『やーやー! 待ってたよショウ君!』

 

『……オレ貴方と面識ありましたっけ? なんで名前知ってるんです? アーティさん。』

 

 

 パッと見は少し変わった青年と言ったところだが、彼こそがこの大都市ヒウンシティのジムリーダー、アーティである。「モスト・インセクト・アーティスト」のキャッチコピーで通っている、"むし"タイプの使い手だ。

 

『うぅん、実はアロエねえさんから「アララギ博士の息子が来るかも」って連絡を貰ってねー。絵を描きつつ、キミが来るのを待ってたんだよー。』

 

『はぁ、なるほど。…世話焼きなのか試してるだけなのか、分かんないな。』

 

 それほどの期待をジムリーダーから頂いているのは大変光栄な事なのだが、今のオレがそれに応えられるだけの試合を生めるかは疑問である。

 手持ちのポケモンは体力は全快、だがしかし疲労が溜まっているのは事実。ここは"むし"ポケモンの弱点である、タイプ相性に於ける弱点の多さを上手く突いての短期決戦を狙うのが得策だろう。もっとも、ジムリーダー相手に"弱点を突く"程度の知恵で叶うはずもないが。

 

 お互いに定位置に付き、それを確認した審判が試合開始の宣言を告げる。オレの3つ目のバッジを賭けた戦いの火蓋が切って落とされた。

 

『ホイーガ!』

 

『イーブイ!』

 

 ジムリーダー(アーティ)チャレンジャー(オレ)双方の1匹目がフィールドに姿を現す。

 毒々しい体色とタイヤの様な姿の中心からギョロリと覗かせる眼が印象的な"まゆムカデポケモン"のホイーガ。「ヤグルマの森」等でよく見かけるフシデが1段階の進化を果たした姿だ。フシデの頃よりも防御面に磨きがかかり、生半可な攻撃では大したダメージにならないだろう。

 そんな基礎的な情報は置いておき、イーブイの状態の方に目を向ける。

 体力的には問題無し。ただし、既に息が上がり気味で、過度な動きをすれば身体の方が意思に応えられないだろう。

 

『……』

 

『んぅん? 攻撃してこないのかい?』

 

 試合は始まっている。始まっているけれど、指示が出せない(・・・・)。いつものように確信を持って飛ばす言葉が、出てこないのだ。

 

『……ふぅん、じゃあこっちから! "ポイズンテール"!』

 

 動いてこない事を察したアーティが攻撃に移る。

 指示を聞いたホイーガは回転を始め、トップギアでイーブイに襲いかかる。急接近し、一際長い毒のトゲにより一層の毒気を貯め、しならせることでムチのような動きになりイーブイを捉える。

 普段なら持ち前の素早さで躱せていたであろう攻撃も、今のイーブイには全ての攻撃が先制技並の速さに思えてしまう。故に、直撃は必死だった。

 

『ホイーガ"おいうち"!』

 

 攻撃を受けたのも束の間、すぐさまホイーガが追撃体勢に入る。

 ダメージを受けた直後に"おいうち"が決まれば、ダメージ増加の効果もありまず間違いなくイーブイの体力は瀕死にまで陥るだろう。

 元より防御力に秀でてはおらず、回避を主体にすることでその脆さを補ってきたのだ。その主体となっていた回避が難しい状態の今、確実にイーブイは負けるだろう。

 

『…ぁ…』

 

 だとしても、こんな状況の中にあっても、オレの中の"迷い"は渦を巻く。うねり、荒れ、暗雲が思考を閉ざし、雷鳴が心底を怯ませる。

 これまでの様に指示に確信は持てず、一瞬の閃きなど起こるはずもなく、想いを力に変えることなど不可能。

 

『よ………避け…!』

 

 ────結果として、遅かった。

 オレの(ぬる)い指示が口から発せられ、イーブイに伝わるよりも早くホイーガの"おいうち"がイーブイに命中してしまった。

 どさりとイーブイが地面に倒れる。ぐったりとしたその姿に、最早体力が残っている訳もなく。

 

 審判からイーブイの戦闘不能の宣言が下され、現実を叩きつけられる。

 今までこんなことは無かった。相手の、それも1匹目のポケモンに、一撃も与えられないなんて事は。

 

『……ごめん。』

 

 目の前が真っ暗になりそうになりながら、イーブイをボールに戻す。

 ボールなんて直視出来ない。逃げるように次のポケモンが入ったボールに手をかけ、気付いた。

 

『(あれ…手の震えが……止まらない…)』

 

 何もしなかった(・・・・・)

 一体それがどれだけ愚かな事だったのか、オレには分からない。分からないが、ひたすらに苦しいのだ。

 

『むぅん……ショウ君、ジムチャレンジは中止にするかい? なんか様子もヘンだし…ポケモンも万全って感じじゃなかったしー…』

 

 アーティの提案はこちらを100パーセント心配しての事だろう。ジムリーダーはチャレンジャーを試し、力を見定める役割を持つ。チャレンジャーが不安定なこの状態で、役割を遂行出来ないのなら中止にした方が良い。

「それでも」、いや「それだから」、オレの返答は決まっている。

 

『……大丈夫です。続けさせて下さい……』

 

 続行だ。

 今ここで中止にして、ゴチャゴチャとした心身を整えた方が良いのは明らか。何よりそうした方が勝算は高い。

 

 それら全てを承知の上で、オレはチャレンジを続けよう。

 今ここで「ポケモントレーナー」とは何かを識ってこそ意味があるのだ。本気で苦悩し、迷っている今こそ識るべきなのだ。

 "転生者(オレ)"は「ポケモントレーナー」になって(・・・)、自分がなぜこの在り方に"惹かれた"のかを確かめなければならない。

 

 

 

 

 

 




こんにちは、お久しぶりです。
約1年ぶりの投稿となります。

ちょいちょい書いてるのでよろしくお願いします。
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