転生者は創造神の光を見るか?   作:おんのじ

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まだ書いてます。


10話 ただ誠実であれ、ただ真っ直ぐであれ

 

『頼んだ……ガントル(・・・・)…!』

 

 ボールの投げ方にすら迷いは乗る。気迫も無く、勇気も携えず、その姿はきっと無様に見えるのだろう。

 そんな恥も外聞もかなぐり捨てて、オレはここでバトルを続けている。この"迷い"に意味を見出すべく。

 

 二番手として繰り出したのは、かつての姿から大型化し、新しく身体にオレンジ色の結晶を生やした"こうせきポケモン"ガントル。そう、ダンゴロが"進化"したのである。

 バトルカンパニーでの調整の中、ダンゴロは進化を果たしガントルとなった。先日から進化の兆候は見られておりいつ進化してもおかしくなかったが、その時は存外早く訪れた。

 ダンゴロだった頃よりも体重が大幅に増え、得意としている「受け止め、反撃する」スタイルに磨きがかかり、純粋なパワーだけならオレの手持ちで唯一進化していたフタチマルをも超える。その分身軽さが犠牲になったが、"ワザ"や"道具"である程度なら補えるのでさして問題にはならないだろう。

 

『おぉお! これは手強そう!』

 

『強いですよ、ウチの大黒柱は』

 

 掛け値なしに今の手持ちの中で一番"強い"のはガントルだ。能力的にも、精神的にも。

 "ちかすいみゃくのあな"で群れのリーダーを務めていた"彼女"は、その経験からか何事にもどっしりと構え対応出来る。多分、オレがガントルを選んだのも、その剛毅(つよ)さに縋りたかったからだろう。

 

『それじゃあ楽しいバトルを期待してるよ! "ポイズンテール"!』

 

 再び襲い来る毒の鞭。だがしかし、"どく"タイプのワザは"いわ"タイプのガントルに対し有効打にはなり得ない。真正面からの"ポイズンテール"を受けても涼しい顔でいるのは、流石の"ぼうぎょ"と言ったところか。

 

『…ロ、"ロックブラスト"…!』

 

 まだ戸惑いが残る状態の指示。タイミングも声量も褒められたものでは無いが、指示が出せるだけ前進であると思っておこう。

 

 オレンジ色の結晶が光輝き、充填されたエネルギーを動力にガントルが岩の弾丸を連続発射する。

 "ポイズンテール"の直後にガントルが攻撃を開始した為、位置としてはほぼゼロ距離。1発、2発、3発とホイーガを捉えるも、最後の4発目だけは当たること無く地に落ちた。

 

『ホイーガ! 大丈夫かい!?』

 

 岩石弾の勢いによりフィールドの中央からアーティの側まで吹っ飛ばされるも、その場でターンを決めてみせまだ体力は残存していることをアピールするホイーガ。3発の直撃を受けてもなお動きに鈍りが見えないのがジムリーダーのポケモンだ。鍛えられ方が並のトレーナーのポケモンとは一線を画している。

 

『うぬぅ…確かに強い…けど!』

 

 力強いアーティの言葉に続くように、ホイーガも唸る(・・)。その唸り声はバイクのエンジンをふかした時のような、重厚で耳に残るような唸り声だった。

 

『次は…次は……"ロックカット"!』

 

 まだ躊躇いが消えない声で、精一杯の指示を叫ぶ。

 オレの手持ちには全て"変化技"を一つは覚えさせているが、ガントルの場合今は(・・)"ロックカット"である。

 元々お世辞にも高いとは言えないガントルの"素早さ"も、"ロックカット"の使用により平均、もしくはそれ以上の"素早さ"を得ることが出来る。

 

『攻め切る…! "おんがえし"!』

 

『ここ大事だよホイーガ!』

 

 オレが"ワザ"を言い切るのと同時に、ガントルは最高速で動き出す。

 普段の動きからは想像も出来ないような俊敏なステップで間合いを詰め、たったの2秒で射程圏内へ踏み込んでいた。

 

 時間にしてコンマ数秒、"おんがえし"を繰り出そうとした瞬間、

 

『ハイ今!』

 

 ホイーガの周囲をエネルギーの殻が覆った。

 ほぼ全ての攻撃をシャットアウトしてしまうそれ(・・)は、例に漏れずガントルの"おんがえし"をも弾き返したのだった。

 

『すばらしい! すーばらしいよホイーガ!』

 

『くっ……"まもる"か…!』

 

 読んで字のごとく、相手からの攻撃から身を"まもる"だけの"ワザ"。たったそれだけであるが、この技の恐ろしいところは流れの切断(・・・・・)である。

 "ロックブラスト"から始まり、"ロックカット"で体勢を整え、"おんがえし"で沈める─────はずだった。

 最後の締めとなる決定打、それが何の成果も得られなかったともなれば、流れを奪われたと言い切ってもいい。

 

『ならもう一度……!』

 

 と、再び流れを掴もうと切り返しの一手を発する前に異変(・・)に気付く。

 

『……ガントル?』

 

 ガントルの様子がどうもおかしい。

 まるで嫌いなモノがすぐ近くにあるかのような、そんな嫌悪感が読み取れる呻き声を発している。

 

『……これは…いやでもどのタイミングで……?』

 

 ガントルの異常、それは"ぼうぎょ"の超低下(・・・)である。それはすぐに分かった。しかし"いつ"、そして"なぜ"そうなったのかが分からない。

 数度の攻防の中にホイーガが搦手を使ったような様子は見受けられず、"ワザ"を受けたにしても、ホイーガが使ったのは"ポイズンテール"と"まもる"のみ。どちらの技にも"ぼうぎょ"が下がるような追加効果は無いはずだが────

 

『そうか………あの時(・・・)か…!』

 

『…フフフ、やっぱりすぐバレちゃうかー』

 

 そう言うアーティの言葉は、やたら皮肉めいた言葉に聞こえた。

 違和感(・・・)に対して何も疑問を抱かなかったオレのミスから来る後悔が、歪んだ認知を引き起こしているのだろう。

 

 どこからガントルの"ぼうぎょ"ダウンは始まっていたのか。答えは「"ロックブラスト"を撃った直後」である。

 "いつ"が分かったのなら次は"なぜ"を考えなければならないが、その答えが出てくるのは早かった。

 ホイーガが"ロックブラスト"から復帰してすぐの唸り声。あれが違和感(・・・)の正体だ。正確に言えば、あれは唸り声ではない(・・・・)のだが。

 

『さっきのホイーガ唸り声……あれ、"いやなおと"だったんですよね?』

 

『うぅん! 流石ショウ君ご名答!』

 

 実に満足気な表情でジムリーダーが笑顔で拍手する。

 その賞賛は全く嬉しさを生まず、"気付いていたら"という後悔を増長させるだけだった。

 

 耳障りな音を聞かせることにより、"ぼうぎょ"をガクッと下げる技が"いやなおと"。どんな音が"いや"なのかはそれぞれだが、今回相対したホイーガが発した音は偶然にもバイクの音(・・・・)だったのだ。

 

 昨日4番道路にてオレが戦ったのは、バイク乗りが大半を占めるチンピラ達。本人達が騒がしいのは当然として、ことある事にエンジンをふかし騒音を鳴らしていた。つまり、バイクの音に慣れてしまった(・・・・・・・)事により、"いや"を"いや"だと認識出来なくなっていた。

 

 オレがバイク音に耐性が出来たのは全くの偶然に過ぎないが、恐るべきはアーティの判断力である。

 "いやなおと"という罠を張り、人によっては看破されるであろう罠にオレが無反応だった事を瞬時に見透かし、"まもる"を挟んで一気にペースの主導権を手に入れた。

 

『ボクも伊達にジムリーダーやってないからねー。チャレンジャー達の壁になれるよう、厳しく抜かりなくバトルさせて貰ってるよー!』

 

 調子の良い時のオレなら気づけたのだろうか。否、無理だっただろう。余りにも自然な流れ過ぎて、気付くのはどの道困難だったと推測する。

 

『仕方ないか…一旦引こうガントル』

 

 "ぼうぎょ"が下がった状態では得意の「受け止めて反撃」するスタイルも成り立たない。せっかく"ロックカット"で"素早さ"を上げたが、"いやなおと"の"ぼうぎょ"低下の方がデメリットとして甚大であると判断したが故の交代だ。

 

 残りの手持ちは実質(・・)三匹。実際は四匹であるが、()を数に入れるには無理がある。

 その中でオレが交代先に選択したポケモンは、

 

『ココドラ…いくよ!』

 

 定石通りココドラだ。

 "はがね"タイプを持つココドラなら、タイプ相性有利且つホイーガの物理攻撃にも高い"ぼうぎょ"を以て完全対応出来る。加えてココドラには"てっぺき"を覚えさせてあるので、ガントルのように"ぼうぎょ"が下がったままになることは無い。そんな泥沼は勘弁願いたいが。

 

『んぬぅ…? あ、他の地方のポケモンかー!』

 

『あれ、さっきのイーブイもそうでしたけど……』

 

『え? そうだったの? あれー…前にヒウンで同じようなポケモン見かけたような気がするんだけどなー…?』

 

 ポケモンの生息域は年月の経過や環境等でコロコロ変わるので絶対とは言えないが、少なくともオレがフィールドワークを手伝っていた時にはイーブイがイッシュ地方に生息しているという記録は無かったはずだ。

 研究者の義父と義姉を持つ身としては興味深い話だが、今はジムチャレンジに意識を戻さねばならない。

 

『えっと…頑張ってココドラ。……まだちょっと纏まらない(・・・・・)…ごめん』

 

 返答は無かった。

 振り返ることすらせずに、ココドラはただ眼前のホイーガを見つめている。信頼されているのか、聞こえてないのか、あるいはオレの姿に失望したのか。

 普段からぼんやりしているように見えるので、ココドラの真意はいまいち読み取れない。()は絶えていないので関係が悪い訳では無いのは確かなのだが。

 

「纏まらない」という発言からも、オレはまだ迷っている。ポケモントレーナーとは何なのか、ポケモンに対してどう在る(・・)べきなのか、迷っている。

 けれども、先程の攻防の中に感じたこの感情は、衝動は、昂りは、きっと間違いでは無い(・・・・・・・)のだろう。

 "間違いでは無い"と思えるからこそ、オレはまだ自分自身と向き合わなくてはならない。僅かに残ったこの感情の正体を知らなくてはならない。

 もう少し、もう少しで─────

 

『辿り着つける…はずなんだ……ッ!』

 

 心に残った"ナニカ"から絞り出したような声に呼応し、無数の岩がホイーガを取り囲み降り注ぐ。

 最初の岩群こそ回避していたが、続く岩に進路を塞がれ、そこを基点に次々と岩がホイーガを包囲した。

 ホイーガは平面の動きには強いが、立体的に盤面を捉えた戦法にはタイヤの様な独特のフォルムが災いし対処が困難となる。そこを突いた上からの攻撃である。

 

『ココドラ……』

 

 少しだけ、ココドラがこちらを向いた。

 彼は分かってくれていたのだろう。オレが迷い、もがいていることを。

 昔からそうだった。何を考えているのか分からないくせに、感情の変化や調子の善し悪しには敏感だったのだ。

 今ココドラがオレに向けた表情(かお)は、失望なんてしていただろうか。「もう見限った」と、そう言いたげな表情(かお)をしていただろうか。

 

 ────しているわけがなかった(・・・・・・・・・・・)

 

 

 技の指示なんて出していないけれど、ココドラは自らの意思で"がんせきふうじ"を繰り出した。

 この事象を"失望"や"見限り"と解釈するほど、オレは馬鹿では無いつもりだ。全く──────いつからオレは、こんなにもネガティブな思考に陥りがちになってしまったのだろうか。

 

『はははっ……そうだよなぁ…』

 

 あまりの情けなさ、もといしょうもなさ(・・・・・・)に笑いすら込み上げてくる。

 ココドラの表情の変化は極わずかなものだった。それでも、その中にオレは確かに感じ取ったのだ。"信頼(・・)"という名の"光"を。

 実際、オレはまだ「ポケモンに対してどうあるべきか?」という問いに対して答えを得た訳ではないし、自分自身と向き合えた訳でもない。

 それでもと、オレは言おう。例えまだオレが不完全な状態であったとしても──────

 

『それをウジウジと引きずって……パートナーにまで響かせるのは……違うからね……ッ!』

 

 眼前でパートナーが必死に勝利に手を伸ばそうとしているのに、自分は勝手に1人でゴチャゴチャと考え込んでは頭を抱えている。そんな自分があまりにもしょうもなく、そして不謹慎だった。

 答えなんてなくてもパートナーと同じ方向は見ることが出来る。自分と向き合えていなくてもパートナーと心は通い合わせている。当たり前の事だったはずなのに、目を背けたのはオレ自身だ。

 だからせめて、このバトルの間は───────

 

勝つことだけ(・・・・・・)を考える…! 畳み掛けるよココドラ! "がんせきふうじ"ッ!』

 

『うぬぅ!? ホイーガ仕掛けてくるよ!』

 

 これで最後だと言わんばかりにココドラは吼え、岩石は降り注ぐことで応えた。

 ホイーガを包囲していた岩ごと第二陣の岩石は粉砕し、フィールド全体が砂埃に包まれる。

 

『──────』

 

 何も見えないフィールドで、誰かが一言呟いた。

 

 

 

 しばらくすると砂塵も晴れ、フィールドの様子が露わになる。

 ココドラは当然無傷で、じっとホイーガが居た場所を睨んでいる。そこにホイーガの姿は無く、ただ瓦礫の山が聳えるのみだった。

 普通に考えればあそこから逃げる術はなく、攻撃は命中したと考えていいだろう。が、その考えは3秒後に少し違うと知ることになる。

 

 カラリと、瓦礫の山が震え、吹き飛んだ(・・・・・)

 

『やっぱりそうきたか……』

 

 避ける術は無かった、攻撃は命中した。しかし、それがホイーガの撃破とイコールにはならないのだ。なぜなら──────

 

『いやぁ、直前で"まもる"の指示が間に合って良かったよ!』

 

 砂塵に掻き消されつつも、アーティの指示はホイーガへと届いていた。

 身体を覆う絶対防御の殻、それは岩石を寄せ付けること無く無傷での残存をホイーガに約束したのだ。

 ふるふると身体を震わせ、付着した砂埃を落とすホイーガ。まさに余裕の表れであり、オレ達の起死回生の攻撃を凌ぎきったという格の違いを見せ付けているのだろう。

 

『─────けど、ね』

 

 刹那、どこからともなく岩石(・・)が飛来した。

 それ(・・)はホイーガの中心部、いわゆる急所(・・)を然と捉えたのだった。

 

『えぇえ!? 』

 

 予想外の攻撃にアーティも驚嘆の声が出ている。してやったり、といったところか。

 

 砂塵の中、指示を出していたのはアーティだけでは無い。オレも指示を出していたのだ。

 アーティが"まもる"を命ずるのは予測が付いていた。何せ、頭のキレる(・・・・・)人だ。ただの奇襲では即座に対応されてしまう。

 しかし、対応と言ってもホイーガが出来ることには限界があるし、所詮は即座の対応だ。文字通り「凌ぐ」ことが最優先事項になるのは必然になる。

 従って、オレがとったのは"まもる"の一点読みだ。"がんせきふうじ"はただの時間稼ぎとして放ち、砂塵が晴れた後の数秒に全てを賭けさせて貰った。

 

『いけぇッ!! "メタルクロー"!』

 

 畳み掛けるなら今しかないと、吼えるようにオレはココドラへと指示を飛ばす。

 狙い済まされた一つの岩石(うちおとす)で好機を得て、ココドラは普段からは想像できないスピードで駆ける。

 

『ぬぅぅんッ! ホイーガ!』

 

 ──────捉えた。アーティの叫びが届く前に、銀色に鈍く光る爪が再びホイーガの急所を捉えたのだ。

 

 その場から距離を取り、ココドラは様子を窺う────が、ホイーガがもう起きてくることは無かった。戦闘不能の証である。

 

『よし…! ありがとうココドラ。……色々と』

 

『うぅん……お疲れ様ホイーガ。休んでねー』

 

 ココドラは小さく鳴くだけだった。

 いや、むしろそれが全て(・・)なのだろう。

 オレが呼び、ポケモンが応える。これだけでいいのだ。これさえ見失わなければ、オレはポケモントレーナーとして在れるのだ。

 

『ホント……面白いな、ポケモントレーナーって』

 

 ──────もしかしたら、オレはこの後もポケモントレーナーが何なのか分からないままかもしれない。

 

 けれど、それでいい(・・・・・)と思った。

 

 なぜなら、例え分からなくても、オレはポケモントレーナーでいられるから。答えなんて持っていなくても、ポケモン達とは繋がっていられるから。

 その事実がある限り、"転生者(オレ)"はポケモントレーナー(オレ)でいられるのだ。

 

 ────────ああ、けれども。オレがポケモントレーナーに"惹かれた"のは、一体──────

 

 

『……今は違うな ……さぁ、バッジ貰って帰ろうみんな!』

 

 郷愁(・・)にも似た何かを捨て、オレはジム戦へと意識を戻す。

 このジムチャレンジに勝利し、ポケモン達にも「もう大丈夫」だということを示すためにも、オレはジムリーダーが繰り出した次のポケモンを見据えていた。

 

 




こんにちは、お久しぶりです。
約半年ぶりの投稿となります。


良かったらこれからもよろしくお願いします。

※追記:UA4500ありがとうございます。励みになります。
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