転生者は創造神の光を見るか?   作:おんのじ

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長い……?


11話 窮地にこそ活路はある

 

 3つ目のジムバッジを賭けた戦いも、いよいよ後半戦に入ろうとしていた。

 アーティが2体目に繰り出してきたのはイシズマイ。昨日特訓で赴いた"4番道路"の先にある、「リゾートデザート」にも生息している"むし"・"いわ"タイプのポケモンだ。

 しかしオレがフィールドに出しているのは"はがね"・"いわ"タイプのココドラ。相性でも有利をとり、攻め手は全て"てっぺき"で防ぎ着ることが可能だ。負け筋なんてものは万に一つも無いだろう。

 それよりも、だ。イシズマイは良いとして、この後に控えている最大の鬼門(エース)をどうするかを考えなくてはならない。

 

『…どうしたものか……』

 

 "メタルクロー"の猛襲を仕掛けるココドラを見つつ、誰にも聞こえないようにぼやく。

 ジムバッジ取得、その最後に立ちはだかるのは"むし"・"くさ"タイプのハハコモリ。図鑑登録の為にヤグルマの森で捕まえたクルミルの最終進化である。

 正直なところ、3つ目のジム戦はこのハハコモリをどうするかの一点のみを考えてきていた。最終進化というだけあり、こちらには地力で勝てるポケモンがおらず、真っ向勝負を仕掛けようものなら返り討ちにあうのは想像に難くない。その対策として色々と策は考えていたのだが───────それがこのザマ(・・・・)だ。

 イーブイは既に倒れ、ガントルもココドラもそれなりに消耗させてしまっている。特に昨日一昨日と重点的に鍛えてきたイーブイが倒れているのが大きく、本来のプランではイーブイの"ほのお"タイプの"めざめるパワー"で4倍弱点を突き、早期決着を狙うつもりだった──────のだが。

 

 ジムに挑む前のオレの心理を言うのであれば、「勝ちたい」が5割、「早く終わらせたい」が3割、「"むし"タイプだから何とかなるだろう」が2割となる。

 100歩譲って"むし"タイプを舐めてかかったのは置いておくとして、「早く終わらせたい」などと、ジムリーダーはもちろん、自分のパートナーにも失礼な気持ちでいた事は我ながら看過できない。お陰でジムリーダーのエースにぶつける予定だったイーブイを初手から出し、試合を早く終わらせようとして見事に失敗したというわけだ。

 

 と、いつまでも自分の失敗ばかり振り返ってはいられない。今は対ハハコモリの策を講じねばならないのだから。

 とは言えども、実はイーブイの"めざめるパワー"以外にも策はある(・・・・)。事実上のぶっつけ本番という形になってしまうのだが。

 

『……ッ! ココドラ!』

 

 思考の途中、オレの両目はチャンスを見逃さなかった。

 ココドラの猛攻を岩の殻と爪で上手いこと捌いていたイシズマイだったが、連続で放たれる"メタルクロー"で体勢が崩れたのだ。

 オレの声に呼応し、ココドラも好機と捉え今まで以上に鋭い爪閃がイシズマイの身体を裂いた。

 ジワジワと蓄積され続けてきたダメージと、今の手痛い"メタルクロー"を受けイシズマイがダウン。審判が戦闘不能のフラッグを掲げたのだった。

 

『よし、ありがとうココドラ。戻ってくれ』

 

『うぅん……流石だねショウ君! よく鍛えられてるよそのココドラ!』

 

 ジムリーダー直々にお褒めのお言葉を貰えるとはありがたいことである。ボールに戻っていくココドラも気持ち嬉しそうにしていた。

 クイックボールを腰に戻し、次のボールに手をかけ、

 

『ガントル任せた!』

 

 繰り出したのはガントル。ホイーガと1戦交えていることでやや疲れているが、それでもここはガントルに一旦任せたい。

 

『よぉしボクの最後のポケモン! おいでハハコモリ!』

 

 さて、遂にエースであるハハコモリのお出ましだ。

 こそだてポケモンと言われるだけあり母性を感じさせる見た目だが、腕刃の鋭さは隠せない。

 そこから繰り出される"はっぱカッター"は全てを瓦解させる可能性を孕んでおり、特筆すべきはその急所率。"はっぱカッター"という技そのものが急所に当たりやすいのもあるが、そこにアーティの頭脳がプラスされることにより精度がさらに向上している。こちらがどれだけ"ぼうぎょ"を高めようと、1回の急所で全部台無しだ。

 

 戦闘可能なポケモンの数だけ見ればオレが圧倒的に有利だが、実際は互角、もしくは不利(・・)と言える。

 残るガントル、ココドラ、フタチマルの3匹の内2匹は弱点を突かれ、1匹はそれなりに消耗してしまっている。もしハハコモリにペースを掴まれてしまえば、一気に攻め崩されるだろう。

 

 ごくりと生唾を呑み込む。ここが正念場だ。

 

『いくぞガントル! "ロックブラスト"!』

 

 とにかくこちらから攻撃を仕掛け、後手に回るのだけは避けなければならない。

 "がんせきふうじ"なら相手の動きを制限し、弱点も突けると最初の展開としては良い技選択であると言えよう。

 そう─────上手くいくはずもないのだが。

 

『やっちゃってハハコモリ! "はっぱカッター"!』

 

 やはり来たか、と眉間にシワがよる。

 発射した岩石は5発、ハハコモリが放った葉刃も5枚。一つ一つがぶつかり合い──────否、触れた直後に、岩石が真っ二つに裂かれていた。

 当然10個に増やされた(・・・・・)岩石はハハコモリに当たることなく、地面へと落下していく。

 

『予想はしてたけど…これは…』

 

 予想外と言えば、予想外だ。

 "がんせきふうじ"がそのまま通るとは思っていなかったが、驚くべきは防がれたことよりも斬られた岩石そのものにあった。

 

 ──────同じなのだ、大きさが(・・・・・・・・・・)

 

 本当に、文字通り、嘘偽りなく「真っ二つ」になっているのだ。

 ヒヤリと冷たい汗が頬を伝う。このままではマズイと、ハハコモリの情報をアップデートし、旧いプランから新しいプランへと移行する。

 ただ斬られただけならいい、わざわざ数まで合わせたパフォーマンス(はっぱカッター)をしてきたということは、"いつでも急所を狙える"という宣告なのだろう。

 

『さあどんどんいくよ! "いとをはく"!』

 

『…ッ! 岩に"ロックブラスト"だガントル!』

 

 足まで奪われたらおしまいだと、糸から身を隠すためにガントルは転がっている岩に片っ端から岩石をぶつけ、爆ぜさせていく。

 幸いハハコモリとはフィールドの端から端までの距離があり、"いとをはく"着弾までのタイムラグがある。砂塵を起こすには十分だ。

 

『考えろ…勝つための一手を…!』

 

 とりあえずの対応で時間を稼ぎ、次どうするのかを導き出さなくては。

 "はっぱカッター"の威力を見た今、無闇な突貫は出来ず、かと言ってここでこのまま遠距離戦を仕掛けても突破口は見えてこない。

 それなら、もういっそのこと開き直るのも─────悪くないのか。

 

『"ロックカット"…からの"おんがえし"!』

 

『むぅん!? くるよハハコモリ!』

 

 今更恐れていても仕方がない。当たって砕けろとは言わないが、多少のリスクは負わなければならない時もある。

 "はっぱカッター"が怖いなら、撃たせる前に距離を詰め切るのが吉とオレは判断した。"ロックカット"で"すばやさ"が上昇した今ならそれも可能なはずだ。

 

『……なんてねー』

 

 アーティが不敵に笑うのが目に映った。

 突っ込んだガントルの動きが徐々に鈍くなり、最終的にはピタリと止まってしまった。

 地面を見れば、そこにはトラップの如く仕掛けられた糸が張り巡らされていたのだ。

 

『んぅんー……目眩しはさっきやられたし、同じことを繰り返すのはナンセンスだよねー 』

 

『くっ……!』

 

 この人はサラッと痛いところを突いてくる。

 ジムリーダー相手に同じ手が、ましてや決め手になった戦法が通じるほど甘くはなかったのだ。

 加えて今度はこちらの戦法を逆手に取り、トラップまで仕掛けて待ち構えてたときた。してやられた、と言うしかない。

 

『ハハコモリ、"はっぱカッター"でフィニッシュ!』

 

『 間に合え……! "ロックカット"!』

 

 最後の望みを賭け、"はっぱカッター"の着弾までに"ロックカット"での脱出を試みる。

 本来は身体を磨いて空気抵抗を少なくする技だが、磨く動きを応用すれば─────

 

『よし! 抜けた!』

 

 と、安堵したのも束の間。"はっぱカッター"はすぐ目の前まで迫っていた。

 上がった"すばやさ"で出来る限り回避していくが、被弾というものはどうしても起こってしまう。1つの被弾をきっかけに、次々と葉刃がガントルの身体を切り裂いていく。

 

『抜け出したのはお見事だけど、躱しきれないよねー』

 

『でも、まだ足掻ける! そのまま突っ込めガントル!』

 

 体力を削られつつガントルは猪突猛進、ハハコモリ目掛けて特攻していく。

 その度に"はっぱカッター"は容赦なく放たれ、残り体力極わずかとなったところで、遂に────届いた。

 

『繋ぐぞ…! "いわくだき"!』

 

『"いあいぎり"!』

 

 最後の力を振り絞り、オレンジのコアを光らせ"いわくだき"を繰り出す。

 そこに合わせられるハハコモリの鋭利な腕刃。2つの力がぶつかり合い──────オレンジの光は、消えた。

 

 

 審判がフラッグを挙げるまでもなく、ガントルは力尽き倒れた。しかし、今の一撃がこの勝負の分かれ道になったと、オレは確信している。

 

『お疲れ様ガントル、十分過ぎる活躍だった』

 

 心から思った言葉、そのままを伝えボールを腰に戻した。

 さて、次に出すべきは、

 

『ココドラ!』

 

 ココドラである。

 これが意味するもの、それはオレの切り札がフタチマルである(・・・・・・・・)ということだ。

 一見勝算が高いのはココドラに見える。間違いでは無いし、地道に守りを固めつつ攻めれば勝算はそれなりにあるだろう。

 けれども、それ以上にオレはフタチマルに勝ち筋を見出しているのだ。1つ問題を上げるとすれば、その勝ち筋が未完成(・・・)なことだ。

 

『悪いねココドラ、今回はフタチマルに譲ってくれ』

 

 ────反応無し。ココドラはただ目の前のハハコモリを見据えるのみだ。それならそれで全然良いのだが。

 

『よし、まずは"てっぺき"!』

 

 保険はかけておいて損は無いだろう。"てっぺき"をかけることで"ぼうぎょ"をぐーんと高め、急所以外の攻撃に備える。

 そうすれば相手がとってくる行動は絞られるわけで、

 

『"はっぱカッター"!』

 

『急所っぽいのだけ"メタルクロー"で落とせ!』

 

 対処もある程度は容易になる。

 この際だ、ダメージを負うのは覚悟で致命傷になりそうなのだけ防ぐ方向にシフトした方が良いとオレは判断した。そうしなければいつまで経っても攻撃に転じられないのだ。

 

『よし、今だ"がんせきふうじ"!』

 

 "はっぱカッター"が止むと同時に、今度は"がんせきふうじ"による岩の雨が降り注ぐ。

 間髪入れずに、

 

『岩を盾にして距離を詰めるんだ!』

 

 指示を飛ばす。

 思考は止まることなく、勝つための一手を模索し続ける。その中の最適解を瞬時に導き出し、ポケモンに伝えること。それが今のオレの役目であり、オレに出来る唯一の事だ。

 

『"おんがえし"!』

 

『むぅん! "いあいぎり"でガードだよ!』

 

 岩陰から飛び出すや否や、跳躍し勢いよく突撃を敢行するココドラ。

 腕刃をクロスさせガードの構えをとるハハコモリに、もはや鉄の弾丸と呼べる攻撃がぶつかる。

 なんとか真っ向勝負に持ち込むことは出来たが、ココドラが明らかにパワー不足だ。ダメージとしては大したことは無いが、いずれ弾き返されてしまう。

 

『負けるなココドラ……!』

 

『弾き飛ばせハハコモリ!』

 

 ギャリギャリと異音を立てながら拮抗し合う2匹。

 が────カクリと、ココドラが体制を崩した。

 

『ッ! ここにきてスタミナ切れか……!』

 

『畳み掛けるよハハコモリ! "はっぱカッター"!』

 

 ホイーガとイシズマイとの戦いで蓄積されていた疲労が、ここにきて表れたのだ。体力(HP)的には軽微なものであっても、体力(スタミナ)というものは動けば消費するもの。どれだけ一方的な勝負をしようとも、労力というものは発生してしまうのだ。

 そんなガス欠状態のココドラが"はっぱカッター"の弾幕を回避出来るはずもなく、

 

『くっ……』

 

 ほとんどをしっかり急所に当てられ、ココドラは"ひんし"状態まで持っていかれてしまったのだった。

 

 予測できたはずだった。ココドラが実質3匹を相手にして疲れていることはわかっていた。そこを考慮出来なかったのは俺の咎。まだまだ視野が狭いということだろう。

 本当ならどっぷり落ち込みたいところだが、そうも言ってられないのがジム戦であり今のオレだ。

 そういえば、ココドラがジムで倒されるのはこれが初めてかとふと気付いた。これからはココドラに頼りすぎるのも卒業しなくてはと思い、ボールに戻す。

 一言「ありがとう」とクイックボールに声をかけ、次なるポケモン、フタチマルを繰り出した。

 

『……分かってるよフタチマル、不安なんだろう?』

 

 何も訴えかけて来ずとも、オレには分かる。オレだけに見えるこの"キズナの光"が、フタチマルの不安を伝えてくれる。

 前回のシッポウジムではミルホッグに一撃で倒され、今回のヒウンジムでは技を完成しきれなかった。そんな自分が相性の良くない、さらにジムリーダーのエースに勝てるのか、と。

 

『お前は"まじめ"だからな、そんな風に思っちゃうのも分かるよ。けど、大丈夫だよ』

 

 多分、笑っていたのだと思う。

 穏やかに、ただフタチマルに対してオレがいる(・・・・・)ことを伝えるために、笑っていたのだと思う。

 

『さぁ、決着つけよう! "シェルブレード"!』

 

『ボクもテンション上がってきたぞー! "いあいぎり"だ!』

 

 どちらもある意味二刀流。同じ剣客同士、譲れないものがある。

 まず仕掛けたのはフタチマル。右のホタチを横一閃に薙ぎ、続く左のホタチを下から上へと切り上げる。いわゆる十文字斬りだ。

 その剣撃をハハコモリは容易く受け止めてみせた。お返しと言わんばかりに、両手を合わせたフルパワーでの剛剣がフタチマル目掛けて振り下ろされる。

 

『引くなよフタチマル!』

 

 しかしフタチマルは受け止めきれないと見切り、本能的に回避が選択される。

 叩きつけた刃の下には割れたフィールド、数秒前までそこにフタチマルがいたのだから、当たっていたとなれば────考えるのも恐ろしい。

 

『逃がさないよ! "はっぱカッター"!』

 

『"れんぞくぎり"! 』

 

 飛び退いた直後でありながら、フタチマルは向かってくる"はっぱカッター"を残らず切り捨てていく。

 "れんぞくぎり"はその特性上、連続で斬り続けることでどんどん威力が上がっていく技。1枚斬る度にホタチは光り輝き、その鋭さと迅さが研ぎ澄まされる。5枚も斬れば名刀と言って差し支えない程の斬れ味へと昇華する。

 

『叩き込めフタチマル! 威力最大"れんぞくぎり"ッ!』

 

 もはやパワー不足などでは無い、この一撃はハハコモリを倒し切るのに過剰と言えるパワーを持っているのだ。

 未だ降り来る"はっぱカッター"を駆けながら避け、切り捨て、跳んだ。全身全霊の一刀を叩き込むために、右手のホタチを振り下ろす。

 

『ハハコモリ、逸らして!』

 

 しかしてそれは威力に重きを置いた単調な攻撃に過ぎず、ハハコモリとアーティからしてみれば児戯に等しい。

 スルリとホタチに刃を這わせ、一瞬でその威力の行く先を右へと逸らす。

 

『……ッ!』

 

『"いあいぎり"!』

 

 完全に後隙を突かれ、"いあいぎり"がフタチマルの胴体に叩き込まれる。振り抜かれた刃はフタチマルの身体を軽々とフィールドの端にまで吹っ飛ばしてしまった。

 ────まともに貰った時の威力は先程の地面が証明済み。つまり────

 

狙い通り(・・・・)……かな!』

 

 ニッとオレは不敵に笑ってみせる。

 フタチマルには申し訳ないが、そもそも"れんぞくぎり"が当たるとは微塵も思っていなかった。むしろ狙っていたのは、攻撃が避けられ、もしくは防がれてカウンターを貰うこと(・・・・・・・・・)だ。

 先程からフタチマルは"はっぱカッター"を上手いこと()なしていたように見えるけれど────彼自身気付いてないと思うが────ちょくちょく被弾はしていた。

 そして今の"いあいぎり"が最後のトリガーになったことだろう。

 

『これからが本番、いやこれで終幕(おわり)だ! "アクアジェット"で吹っ飛ばせ!』

 

『迎え撃つよ! "いあいぎり"!』

 

 特性"げきりゅう"、これの発動を以って全ての準備が整った。

 水流を身に纏い、段違いのスピードとパワーでハハコモリに攻撃を命中させる。

 流石のハハコモリもよろめき、しかしその体勢のまま攻撃を敢行、"いあいぎり"を振り抜いた。

 

『受け止めろ! "シェルブレードッ"!』

 

 それでも今のフタチマルには届かない。

 降ろされた腕刃は、確かに二刀のホタチが受け止めていた────が、それだけでは無い。"げきりゅう"で増加したパワーは、受け止めていた"いあいぎり"を弾き飛ばすことすら可能としたのだ。

 これ以上ないチャンスが生まれた今、オレもフタチマルも今しかないと"キズナの光"を通して互いに認識する。

 思い切り息を吸い込み、ジムに挑んだ直後とは比べ物にならない程の声量と自信を持って、オレは最後(・・)の指示を命じた。

 

『斬り伏せろフタチマル! "つばめがえしッ(・・・・・・・)"!!』

 

 これがオレの策にして対ハハコモリの切り札(ジョーカー)、"つばめがえし"だ。

 ヒウンシティに到着してからずっとフタチマルと練習してきたが技は一向に完成せず、悔しい思いをし続けていたフタチマルの姿はオレの脳裏から焼き付いて離れない。

 

 けれども────オレは出来ると確信していた。

 そもそも技を習得するのに、技術やレベルの面では特に問題はなかったのだ。ならば何故技にならないのか。答えは至ってシンプル、踏み込み(・・・・)が足りていない。

 今のフタチマルにはあと一歩(・・)足りていない。前に踏み出すための勇気が、懐に入るための胆力が。

 "げきりゅう"の勢いと後が無いという状況が合わされば、そうすればきっと────

 

『"はっぱカッター"!!』

 

 ドン、と力強く踏み込んだ音がした。

 2匹の影が重なり、攻撃(・・)が繰り出される。その攻撃は(まさ)しく、飛燕(・・)のようであった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

『いやー、危なかったなー』

 

 ジム戦を終え、レポートを書きながら誰もいない空間に呟いた。

 バッジケースの中で、新たに光を讃えているのは"ビートルバッジ"、アーティを倒した者にだけ与えられる強さの証である。

 

 今だからぶっちゃけられるが、"つばめがえし"だけ(・・)で倒せるかというところにはかなり疑問が残った。

 "みず"タイプの技では無いので"げきりゅう"は乗らず、約4倍の威力とは言えハハコモリはほぼ無傷、最終進化の"ぼうぎょ"を以てすれば耐えられてしまう可能性も捨てきれなかった。

 と、思っていたのだ。ハハコモリを相手取る直前までは。

 だから、少しだけ布石を打たせてもらった。不確定が確定になるように、仲間の背中を押して貰えるように。

 

『ほんと、オレも頭が上がらなくなりそうだな…ガントルには』

 

 ガントルとハハコモリが最後にぶつかりあった時、オレは"いわくだき"を命じたのだが、ここが布石だ。

 狙ったのは"ぼうぎょ"ダウン。ここで"ぼうぎょ"を下げておくことで、"つばめがえし"での撃破を可能としたのだ。とは言え"いわくだき"で"ぼうぎょ"が下がる確率は半分。ガントルにはよくやってくれたと言う他ない。

 

『んー……こんなモンかなー…』

 

 レポートを書き終え、軽く水分補給と食事をして外に出る。

 オレにはまだ、やらなくてはならないことが残っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて……』

 

 今日頑張ってくれたパートナー達はまだポケモンセンターで休んでいる中、オレは1人で4番道路の外れまで赴いていた。

 今日は不良の方々もいないようで都合がいい。2日連続で絡まれたら流石に警察に行くが。

 

 おもむろにボールを1つ、腰から外す。

 いつから覚醒していたのかはオレにも分からない。けれど、気付いた時にはもう敵意を向けられていた(・・・・・・・・・・)

 コロコロとボールを転がし、3回転したあたりでボールから光が溢れ出す。

 

『おはよう…って雰囲気でもないか。ただ保護しただけなんだけどな……キミがどう感じてるのかは分からないけどさ』

 

 もはや憎しみや怒りと言った方がいいだろう。なぜそれがオレに向けられているのかはさっぱり分からないが、とにかくオレに向ける視線や態度、そして視える"光"までもが最悪と言っていい。

 

『キミがオレを嫌うならそれでいいけど、その理由は知っておきたいんだ。だから教えてくれ────ウォーグル(・・・・・)

 

 風の音が静かに通り過ぎる中、オレはただ静かに目の前の巨鳥、ウォーグルを見つめていた。

 




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