転生者は創造神の光を見るか?   作:おんのじ

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前半ちょっと主人公が嫌なヤツかもしれません、ご了承ください


13話 郷愁、募りて

 

『"でんこうせっか"、"アクアジェット"、"がんせきふうじ"、"うちおとす"』

 

 加減は無し、「空の戦士」相手に容赦なんて不要だ。例え右目が見えていなくとも。

 フタチマル、イーブイの2匹は左右から突っ込み、空いた中央からガントルの"うちおとす"がウォーグルの右側面を狡猾に狙う。上空からはココドラの"がんせきふうじ"が降り注ぎ、完全にウォーグルの逃げ場を消し去った。

 

 4対1のカタチが一見卑怯に思えるかもしれない。けれど、オレは「これでいい」と思っている。

 これはトレーナー対トレーナーのバトルでもなく、さらに野生のポケモンとの戦いでもない。ただの身内での特訓と同義だ。

 

 ウォーグルも怨恨を携えた眼光はそのままに、この状況に怒りも反乱もしない。「空の戦士」からしてみれば一対多はありふれた状況だったのだろう。

 しかし、そんな不利な局面すらもウォーグルは対応して見せた。

 急加速して上昇したかと思えば、降ってくる岩の1つを脚爪で掴み地上へとぶん投げたのだ。

 

『すごい脚力だな。空中であの芸当をやってのけるのか……』

 

 大したテクニックとパワーだと感心する一方、詰めの甘さ(・・・・・)も同時に感じられた。

 投げた岩は誰を狙ったモノでもなく、スピードを意識した攻撃をしていたイーブイとフタチマルからしてみれば余裕で回避が間に合う。ガントルとココドラは当たったとしてもかすり傷すら負わないだろう。

 

 攻撃を仕掛けたことにより完全にこちらを"敵"であると認識し、ウォーグルも反撃として怒りのままに"みだれづき"を繰り出す。

 だがその攻撃は余りにも雑で、感情のままに力を打ち付けるだけのものであり対応は容易に行える。

 元から俊敏なイーブイと、動体視力には自信のあるフタチマルは悠々と避け、ガントルとココドラは避けるのすら億劫に感じたのか、一歩も動かずに"みだれづき"を受けきってみせた。

 

『なるほどなるほど、そのくらいなら……イーブイだけ(・・)でも十分かな』

 

 大体の強さは測れた。この程度(・・・・)ならイーブイ1匹いれば十分であると判断し残りの3匹を手早くボールに戻す。

 

 当然、そんなことをすればウォーグルの怒りは頂点に達する。煌々と怨みを迸らせ、ウォーグルは咆哮を上げる。あちらからしてみればオレが今やった事は戦士としてのプライドを侮辱する行為だ。

 しかし、いや、だからこそ(・・・・・)オレは臆すること無く告げる。

 

『悪いけど、オレは君を強いとは思ってないよ。なんなら弱い(・・)と思う、色々と。イーブイだけってのもそういうことだよ』

 

 冷たく、残酷に、淡々と事実だけの言葉を紡ぐ。

 ずっとウォーグルに対して恨みだ怒りだ憎しみだとオレは評しているが、要するに今のウォーグルは感情に呑まれているだけだ(・・・・・・・・・・・・)

 感情の力を否定する気は無い、想いが力になることはオレもよく分かっている。最近のヒウンジム戦がいい例だ。

 が、それが過剰になるとどうだろう。技は精細を欠き、力は無駄が増え、動きは雑になる。"感情"はあくまで乗せるもの、それが主にはならないのだ。

 

『イーブイ、やろう。"スピードスター"』

 

 こくりと頷き、羽ばたくウォーグル目掛けて星型のエネルギー弾を無数に放つ。

 この技は回避不可能、それを知るはずもないウォーグルは身を捻って避けるも、ぐるりとUターンし戻ってきた"スピードスター"が背後から襲いかかった。

 

『"でんこうせっか"』

 

 間髪入れずに指示を出す。

 "スピードスター"の爆発で次の行動が遅延したところを、稲妻の如く加速したイーブイが急襲する。"てきおうりょく"で威力が上昇したそれは、いとも容易くウォーグルを地へとたたき落としたのだった。

 

『ちっちゃいからって油断したか? それとも怒りで周りが見えてなかっただけかな? あまり甘く見ない方がいいよ、オレのイーブイを』

 

 オレの言葉にイラついたか、はたまた戦士としてのプライドか。どちらでも構わないが、ウォーグルは起き上がってみせた。一方的に地に落としたにも関わらず、まだ折れないガッツは大したものだ。

 もちろんそんな褒め言葉はカタチにせずに、極めて冷静にオレは振る舞う。無関心を装い(・・)、粛々とバトルを進めるだけだ。

 

『そろそろ切り上げ時かな…"おんがえし"でフィニッシュだ』

 

 最後はパワー勝負、単純明快な差が分かればウォーグルも矛を収めるだろうと、イーブイに今出せるフルパワーでウォーグルと激突してもらう。

 威力は最大、体格で劣ろうとも拮抗、あるいはそれ以上のパワーを"おんがえし"は発揮する。と────思ったのだが。

 

『互角……ううん、少し押され気味か……?』

 

 ウォーグルは渡り合ってみせたのだ。それも彼が覚えているはずのない技、"やつあたり"を使って。

 レベルアップで覚える技では無かったはず、と首を傾げるも、負の感情が技に転化したのならそれも頷ける。"おんがえし"とは対極に位置する技というのも、今のオレ達を表しているようで中々面白い。

 この土壇場でそれをやってのけたのは賞賛しよう、しかし────

 

『力比べだけがバトルじゃないからね。イーブイ受け流して』

 

 続く拮抗をイーブイは自ら放棄し、一瞬だけ力を緩め、払い除けるようにウォーグルの行き先を右方向へとズラしたのだ。

 せめぎ合う相手がいなくなったことにより、ウォーグルはそのまま流されるように目の前の草むらへと突っ込んで行ったのだった。

 

『大丈夫か……って、全然大丈夫そうだな』

 

 思いの外突っ込む勢いが凄かったので、大事は無いかと駆け寄るも杞憂だったようだ。草と土でグチャグチャではあるが。

 

 依然としてウォーグルは臨戦態勢をとる。しかしオレにはもう、これ以上バトルを続ける意味が見出せなかった。その理由として二つの事柄が挙げられる。

 

 一つ目はシンプルに実力差の問題だ。オレの手持ちとウォーグルとではレベル差(・・・・)も、それこそ感情のコントロールの仕方もこちらが上をいく。トレーナーの有無はさて置き、このまま続けていてもウォーグルが勝つことはない、そう断言出来る。

 二つ目は時間だ。時間の無駄だとかそういう事では無く、時間帯的な話である。時計を見ればまもなく深夜1時半に差し掛かろうとしており、いつもならギリギリ起きているかどうかの時間なのだ。今日は遊び疲れているのもあり、眠気は限界に近い。

 さらに言えば、14歳の少年が深夜に道路のど真ん中でバトルしている、というのも世間体的にまずい。特に"ポケモン博士の息子"や"天才"なんてレッテルを貼られていようものなら。

 

『勝てる算段がある訳でも無さそうだし、今日はもうこれくらいでいいだろ? また今度付き合うよ』

 

 眠気を堪えつつジッとウォーグルの眼を見つめる。

 すると、意外にも納得してくれたのか臨戦態勢を緩めてくれた。戦士として強者の言葉には耳を貸すということなのだろうか。強硬手段もやむなしかと考えていたので望外である。

 

 ならばとウォーグルをボールに戻し、大きな欠伸をして一息つく。

 色々と考えたいことはあるが、ここぞとばかりに襲い来る睡魔と疲労には抗えそうもない。

 一刻も早くポケモンセンターに戻って寝てしまうべきだと考え、重い身体と働かない頭を無理やり動かし、ライモンシティのゲートへとオレはフラフラと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝────もとい昼前。

 まだ取れない疲労感と共にベッドから身体を起こす。掛けていたアラームはしっかり機能していた跡が見えたが、オレを眠りから起こすことは無かったようだ。

 手早く支度を終えて朝食のトーストを食べながら、先送りにした昨日の振り返りを行う。

 

 図鑑を起動してウォーグルのレベルを確認してみると、表示されたのは"25(・・)"という数字。

 保護した時にこの数字を見て心踊ったものだ。レベル25のウォーグルなんて、これまでの記録には無かった(・・・・)のだから。

 本来ワシボンからウォーグルへの進化に必要なレベルは"54"。それを大きく下回るレベルであのウォーグルは存在するのだから非常に興味深い。

 

 それにしても、ポケモンという生き物は本当に面白いとつくづく思う。これまでにあったデータが、ある日突然塗り替えられるのだから不思議としか言いようがない。ウォーグルにしても、"54"という数字はこれまでのデータから来る指標に過ぎず、未解明の要因で進化のレベルが早まる────なんてこともあるのかもしれない。

 

 不思議と言えば────25の数字を見た時に、そこまで驚かなかった(・・・・・・)のは何故なのだろうか。

 

『ま、"転生者"だから…なんだろうけどさ…はは』

 

 やや自虐気味に吐き捨て、冷めかけているコーヒーに口を付ける。────こうやってコーヒーを飲んでいる"転生者(オレ)"は一体、誰なのだろうか。

 

 話を戻して、ウォーグルにしてはやけに戦闘能力が低いと感じたのも"25"レベルなら合点がいく。

 本来ウォーグルは────データ通りなら────54レベルという数字に裏打ちされた実力があるはずなのだ。

 推測になるが、決して高くないレベルでウォーグルに進化してしまったせいで、怒りに振り回されている以前に能力を上手くコントロール出来ていないのだとオレは考えている。そうすれば、力任せだったり不安定な情緒にも頷ける部分がある。

 

 右目を潰されているのは理解している。怒りも憎しみもあって当然で、恨む権利がウォーグルにはある。

 

『人が憎いのは分かる…けど…その感情のまま進めば────』

 

 ハッと顔を上げる。

 今話していたのはショウ(オレ)なのか。それとも、"────"(オレ)なのか。

 言いかけた言葉は、()に対してのものだったのか。

 

『…そんなの、ウォーグルのために決まってる……』

 

 自問自答しているはずなのに、まるで誰かと話しているような錯覚にとらわれる。いや、オレは確かに話していた────けれど、誰とだろう。

 ウォーグルとキズナを結びたい、そのために彼の事を考えていた。けれど、オレは────

 

『……ッ ……ダメだ、少し休もう……』

 

 酷く混乱した頭はこれ以上の労働を拒否してきた。

 もう日は高いと言うのに、オレはこの部屋から出ることが出来ない。出たいのに、溢れんばかりの郷愁(・・)がオレを蝕んでいるのだ。

 筆舌に尽くし難い"寂しさ"は、オレを意識の彼方へと連れ去っていく。────もう、戻れないと言うのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 帰りたい、還りたい、かえりたい。────何処に。

 

 会いたい、逢いたい、あいたい。────誰に。

 

 知りたい、識りたい、しりたい。────何を。

 

 

 オレは、────にかえりたい。

 

 オレは、────にあいたい。

 

 オレは、オレの事ををしりたい。

 

 

 ああ、最後の1つだけは────見失わない。

 この想いこそ、オレがオレをこの世界に繋ぎ止める鎖なれば。

 この願いこそ、オレがオレを知るための鍵なれば。

 

 だから、この世界のどこかで待っていて欲しい。

 オレが何者なのか分かった時に、迎えにいくから。

 手が届かなくても、届くまで手を伸ばしてみせるから。

 

 そうしたら、またはじめよう。

 おわった物語のページに、また新しい物語を綴ろう。

 今度は────アナタも、最初から一緒に。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

『……うぅん……』

 

 最悪の気絶から一転、目覚めは怖いほどに清々しいものだった。

 時計を確認してみれば、長針は5過ぎ、短針はピッタリ12を指し示している。

 少しだけカーテンを開けると、辺りを色とりどりのネオンライトが深い闇を着飾っていた。なんと昼頃から起きること無く夜まで寝てしまったらしい。

 

 上半身だけを起こしぼーっと窓の外を眺めていると、カタカタとボールが震える音が耳に入ってきた。

 そういえば、パートナー今日1日ボールから出ていないことになる。窮屈なボールに入れっぱなしなのもトレーナーとしてどうなのかと思い、いそいそとボールからみんなを出す。もちろん、ウォーグルもだ。パートナー達が睨みを効かせていれば暴れ出すことはないとの判断である。

 

『夢…だったのか? いや違う、あれは……あの声は……オレの声……?』

 

 あの夢は、恐らくいつか(・・・)のオレが言った言葉なのだろう。もう、とうに記憶から失せてはいるけども。

 

 一つだけ分かったのは、オレは誰かに会いたい(・・・・)のだ。誰に会いたいのか、どうして会いたいのかは分からない。

 おかしな話だ、何も分からないのに誰かに会いたいなどと。

 

 けれど、朧気ながらも分かった。

 そこがきっと────オレの旅の、終着(・・)なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

『気を取り直して、本日も遊びますか!』

 

 晴れ晴れとした気分で迎えたライモンシティ3日目。

 1日目にエンターテインメント系の施設を巡ったのなら、今日行くべきなのはそう、バトル系の施設である。

 目玉はなんと言ってもライモンの中央、"ギアステーション"から発車している"バトルサブウェイ"だ。イッシュのトレーナーならば一度は乗車しておきたい、ポケモンバトルの聖地である。

 バッジを3つ手に入れた状態のオレ達が、果たしてどこまで通じるのか試したくて仕方がない。

 

 ポケモンセンターを出て東の方へ少し歩けば"ギアステーション"に到着。電車乗り場に有るまじき威圧感がするのは気の所為では無い。ここに集うのはカジュアルからベテランまでありとあらゆるトレーナーなのだ。

 

『目標は……とりあえず7連勝かな。行ける所までいって、叶うのならサブウェイマスターに挑みたいけど……高望みかな』

 

 "サブウェイマスター"とは、言ってしまえば"バトルサブウェイ"で1番強いトレーナーのことだ。名前は確か"ノボリ"と"クダリ"、二人とも凄腕のトレーナーだと聞いたことがある。

 その二人に挑むには、7連勝をワンセットとして合計3週、その最後21戦目でようやくサブウェイマスターに会うことが出来る。これが想像を絶する難易度らしい。

 最初に挑める"シングル"と"ダブル"はほんの小手調べ、21連勝も並以上の実力と臨機応変な対応力があれば不可能ではない。が、上位の"スーパーシングル"と"スーパーダブル"はそうはいかない。

 並以上ではもはや足りない。最低でもバッジを8個集められる程度、リーグチャンピオンレベルの実力を以てようやく適正ラインと言ったところか。

 

『頑張ってみよう、みんな!』

 

 スカーフを巻き直し気合いを入れる。今回は腕試しに過ぎないが、ここでの戦績は今後の指標になる。

 いずれ"スーパー"を攻略するためにも、初回の挑戦は大切にしようとオレは"シングル"の乗り場へと進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人生、上手くいくことの方が少ないのは理解している。2週目のオレが言うのだから間違いない。1周目の記憶は失っているが。

 

 結論から言うと、全然駄目(・・・・)だった。

 辛うじて7連勝は達成出来た。しかし、次の8戦目でボロボロと表現するのが相応しいほどに負けたのだ。手も足も出ないとはまさにこの事である。

 ひっそりと「サブウェイマスターに挑めるのでは」と考えていた数時間前の自分は何処へやら、ポッキリと自信を折られたオレは"遊園地"のベンチで"ミックスオレ"片手に黄昏ていた。

 

 自信こそ折られたが、これはこれでいい経験になった。驕ることなかれ、過信することなかれ、と。

 それに、普段とは違うキッチリとしたルールの中行うバトルも楽しめたのだ。戦績は微妙でも経験としてはプラスだろう。

 

『にしても…さすが遊園地だ。家族とカップルしかいない』

 

 こうやって一人でいると、周りから浮いている気がしてならない。いや、実際のところ多分浮いている。

 その証拠に、行き交う子供からまるで不思議なものを見ているような、「遊園地なのに一人なの?」と言いたげな視線を向けられているような気がしてならない。

 

『素直にポケモンセンターに帰るべきだったか……』

 

 もう帰ってしまおうかと、立ち上がり歩きだそうとしたところでふと思い出す。そういえばまだ、観覧車に乗っていなかった。

 せっかくライモンに来たのなら遊園地の観覧車は外せない。イッシュ地方の観光ガイドブックに必ずと言っていいほど掲載されており、遠くから通う人も多いと聞く。噂によれば、その日偶然居合わせた二人で乗ることもあるそうだ。男女で乗れば恋愛に発展することもある────のかもしれない。

 前に来た時は家族と同伴、今日はポケモン達と一緒だ。体重の関係で乗るのはイーブイのみになるが。

 

 脳裏に焼き付いている絶景を思い返しながら、遊園地の奥へと歩き出す。

 途中で"ミックスオレ"の空き缶を捨て、最奥にある観覧車乗り場へと来てみれば────

 

『ん? あの人……?』

 

 オレの目に止まったのは、ある1人の青年だった。

 長い緑髪を束ね、帽子を被ったその姿は忘れもしない。あの青年とは、一度シッポウシティで出会っている。

 

 声でもかけてみようかと、人混みを掻き分けて開けた場所に出てみると────そこに、彼はいた。

 

『また会ったね"光"が見えるトレーナー』

 

 少し嫌な汗が流れた気がする。オレが見つける前から気付いていたのだろうか。

 それ自体はオレを覚えてくれていたということで嬉しいのだが、得体の知れない不気味さを感じてならない。

 

『お久しぶりです…シッポウ以来……ですよね』

 

『そうなるね。ボクもまた会えて嬉しいよ』

 

 分からない。オレには、この人が何を考えているのかが分からない(・・・・・)。敵意もない、悪意もない、なのに警戒せざるを得ない(・・・・・・・・・)

 独特の雰囲気のせいか────否、違う。それだけじゃない、別の理由がある。あるのだけれど、上手く言葉にできない。

 

『か、観覧車乗りに来たんですか? 』

 

『そうだよ。ボクは観覧車が好きでねよく乗りに来るんだ』

 

 相変わらずの早口である。

 観覧車が好き、と言う割には表情の変化が乏しい気がするが触れないでおこう。

 

『へー……あ、良かったら一緒に乗りませんか? 』

 

『……一緒に?』

 

『あ! 嫌だったら全然いいんで!』

 

 流石に無遠慮過ぎたか。

 確かに以前カフェで席が隣合っただけの人に、突然観覧車へ誘うのは我ながらどうかと思う。むしろ何故誘えてしまったのだろうか、数秒前のオレは。

 なんとも言えない空気の中、先に口を開いたのは青年の方だった。

 

『嫌じゃない。ただ同じこと(・・・・)を考えていたんだ』

 

『同じ……と言うと?』

 

『ボクもキミと観覧車に乗りたかったんだ。だからキミを待ってたんだよ(・・・・・・・)

 

 ────"待ってた"。

 この言葉をオレはどう捉えたらいいのか。

 場合によっては────オレは、今すぐに逃げ出すべきなのかもしれない。

 

 当然オレと青年はここに集まる約束はしていない。つまり、ここで鉢合わせたのは偶然のはずなのだ。

 それなのに、"待ってた"は言葉の選び方として不自然(・・・)ではないだろうか。

 普通なら"誘った"だとか、"乗りたかった"で言葉を終わらせればいいはずだ。わざわざ"待ってた"を用いたということは、こうやって話しているのは偶然ではなく意図的なものである、そうならないだろうか。

 

 ここからはオレの考えすぎかもしれない。しかし、放っておくには些か危険が過ぎる。

 もし────もし、だ。

 オレが遊園地に来ることを、事前に彼が知っていたとしたら。オレは一連の行動を、何者かに監視(・・)されていたことにならないだろうか。

 

『1つ、良いですか』

 

『どうかした?』

 

『自意識過剰かもしれないですけど……オレがここに…遊園地に来てるの、知ってました?』

 

 オレは今きっと、物凄く変なことを聞いているのだろう。

 しかし、オレの推測が正しいのなら。オレ自身の危険信号を信じるなら、確かめなくてはならないのだ。

 

『………いや、さっき見かけただけだよ。偶然見かけたから声をかけたんだ』

 

 表情の変化が薄い顔から、感情が読み取れるはずもなく。

 そう言うのであれば、オレは信じるしかない。オレの思い込みならば、それでいいのだから。

 

 だが、オレは忘れない。

 オレの問に対し、常に早口だった彼が、今まで以上の"間"と、話すスピードを鈍化させていたことを。

 

 

 

 

 





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