転生者は創造神の光を見るか?   作:おんのじ

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誤字脱字ありましたら教えて下さい


バトルシーンが難しい……区切る箇所が分からん……


14話 乗り物酔い対策は忘れずに

 

 ごうんごうんと重低音を響かせながら、ゆっくりと観覧車は廻る。オレが小さい時からあるのだ、年季も入っている。

 車窓から見えるイッシュの雄大な大地は、沈んでいく太陽に彩られオレンジ色に染まっていた。方角的に向こうは"カゴメタウン"、若しくはポケモンリーグだろうか。

 

 昔から高いところが好きだった。そこから見える景色も、自分は誰よりも高いところにいるという感覚も。

 

 もし一人だったら、オレは浸っていたのだろう。胸高鳴るこの感傷に。

 しかしそんな事を考えさせない程の緊張感が、この部屋には張り詰めていた。向かい合う形で座ったはいいが、乗ってからもう頂点が見えてきたと言うのに、互いに無言が続いている。

 この際雑談でもなんでもいいか、と話を切り出したのはオレだった。

 

『そういえば、ライモンに住んでるんですか? 観覧車が好きって言ってましたし』

 

『違うよ。ただ好きだからよく来るだけさ』

 

『あっ…そうでしたか…』

 

 会話、終了。

 この人について何も分かっていないオレは、観覧車が下に着くまでどう話を繋げばいいのか。義姉のコミュニケーション能力の高さが今だけ羨ましくなる。

 話がズレたが、トレーナーズスクールのお堅い教師ともまた違う、近寄り難い話しづらさがより会話を困難にしている気がする。例えるなら、彼だけ別世界に生きているかのような感じだ。

 

『(シッポウにもふらっと行けてライモン…観覧車によく来る…? そこそこ距離あるのになぁ…)』

 

 大きな荷物も持っていないことから、旅をしているようには見えない。かと言って社会人として働いている風では無い。それなのに、彼の言動や纏う空気から「全てを見てきた」という意思が感じられてしまう。この印象は、果たしてオレの思い込みなのだろうか。

 

『(いいや、思い込みなんかじゃない。この人は多分…本物の"天才(・・)"なんだろうな。言葉の節々から理知的な印象を感じるし)』

 

 彼の見ている世界は、どんな景色なのだろう。

 この人が何をしているのか、どのような人なのか考えているうちに妙な親近感(・・・)を覚え、興味が湧いてきた。

 

『あの』

 

『キミは、プラズマ団をどう思う(・・・・・・・・・・)?』

 

『………え?』

 

 抱いた興味は、想定外の質問により塗りつぶされた。

 普段動揺することが少ないオレが珍しく投げられた問いに狼狽えてしまっている。余りにも問いが唐突で、タイムリーなものだったのだ。

 

 プラズマ団をどう思うか、と彼は聞いた。簡単なようで難しい質問である。

 悪評は散々、悪行も働いている。さらにオレのパートナーも被害を被っていると、プラズマ団の活動を肯定する気は一切ない。ないのだが、たった一つだけプラズマ団への「否定」を阻む障害があるのだ。

 それは、オレは"プラズマ団に会ったことがない"ということ。

 見たことも会ったこともない人を、他者の意見を借りて糾弾するのは納得出来ない(・・・・・・)。もしかしたら────確実に無いと思うが────やむを得ない事情があって、蛮行を働いている可能性もゼロではない。だとしても人のポケモンをとったら泥棒なので、褒められた行動では無いのだが。

 

 如何に自分が頑固か理解しているのに、自分の目で見て確かめたい性分を曲げないのだから、我ながら大概である。

 

『オレ、プラズマ団に会ったことがないのでなんとも言えないですね。良い評判は聞きませんけど』

 

『…………だろうね(・・・・)

 

『え…?』

 

 彼の言葉に違和感(・・・)を感じたが、そこに触れようとする気は起きなかった。いや、触れたくなかったというのが正しいのだろうか。不思議だが、そうしてしまったのだ。

 

『前に来た時は別のトレーナーと乗ったんだ。少しキミに似ているトレーナーでね……ああ、性別は違うけど』

 

『似ている…ですか』

 

 またしても話題がガラッと変わり、青年は僅かに口角を上げ呟いた。

 オレに似ている。それなら「同じ"光"が見えていれば」と思ってしまうのは、まだ燻る"寂しさ"が消えないからか。

 

 閑話休題。性別が違うのにオレに似ているということは、見た目より中身の話をしているのだろう。

 恥ずかしながら"アララギ・ショウ(オレ)"も"転生者(オレ)"について分からないことが多く、自分がどういう人間なのか上手く説明できないが、青年が好反応を示していることから良い印象が被っていることが窺える。

 

『どの辺が似てるんですか? 誰かに似てるってあまり言われないから気になっちゃって…』

 

『そうだね……雰囲気…精神……あと…素質(・・)かな…?』

 

『そ、素質……?』

 

 雰囲気と精神は分かる。誰かに似てると言われた時、見た目以外では大概はこれが当てはまってくるものだ。

 しかし、「素質」はいまいちピンと来ない。そもそも"どこが似ているのか"の返答に、「素質」と返すのをオレは初めて聞いた。

 

 誰と似ているのかはひとまず置いておいて、彼の言う「素質」の意味を聞こうとしたところで────

 

『おや、もう終わりみたいだね』

 

『え? あ、ホントだ』

 

 青年が窓の外を見ながら、名残惜しそうに言う。

 同じように外を見ると、いつの間にか観覧車は頂点を越えて乗り場近くまで降りてきていた。青年との話に気を取られすぎて景色を楽しめなかったのは少し残念だが、その分貴重な時間を過ごせた────と考えよう。

 

 もう会話を続けられるほど残された時間は無く、観覧車は再び乗り場へと戻ってきた。男2人が観覧車から出てきたのを見て係員が微妙な顔をしていたのは気のせいではないと思う。

 

 外に出るとオレが来た時よりも長蛇の列が観覧車へと続いていた。カップルにはこの時間帯、夕方と夜の境目がムード的に良いのだろうか。とにかく待つことなく乗れたのは幸運だった。

 

『それで、素質ってなんの素質なんですか?』

 

 青年と共に近くのベンチに腰掛け、オレは観覧車での会話を再開する。オレと似ているのが誰なのかも気がかりだが、それよりもオレ素質がなんなのかが気になって仕方がない。もしかしたら"転生者(オレ)"を知る糸口になるかもしれない。

 

『……なんだと思う?』

 

 なるほどそう来たか、と思わず苦笑いしてしまった。

 自分の口から答えを言わないのは、オレを試しているからか、それとも"天才"の戯れか。

 オレの素質となると、当然真っ先に浮かぶのは"光"についてだ。厳密にはオレ(・・)の素質なのかは怪しく"転生特典"的なものだと考えているが。

 だが、これが青年の言う素質では無いのだろう。どちらかと言えば"素質"より"能力"と言うのが正しく、青年もこれを言っているのでは無いと思われる。

 

 さて、そうなるとオレには何があるのか。

 唯一考えられるのは、

 

『うーん…ポケモンと仲良くなりやすい……とか?』

 

 しかし、これもまた"推定転生特典"に紐づけられた力であり、オレ自身の素質と呼べるかは強く疑問が残る。記憶の無い"転生者"であるが故に、持てる能力全てに疑いをかけなければならなくどれが自分の素質なのか分からないのは中々に辛い。

 とはいえ、答えられるのがこれくらいなのでこう答えるしかないのだ。いつか自信を持って───(オレ)ショウ(オレ)であると言える日が来ると良いのだが。

 

『へえ…仲良くなりやすいんだね、キミ』

 

『……一応。"光"が見えてるからってのが大きいと思いますけど』

 

 少し不貞腐れたような言い方になってしまったが、こうして"光"の事を隠さず話せるのは気が楽で良い。

 青年は微笑を浮かべているが、多分オレの答えは青年の求めていたものでは無かったのだろう。一体彼はどんな素質をオレに見たのだろうか。

 

『……そうだね、キミ"電気石の洞穴"は分かるかい?』

 

『えっと…ホドモエとフキヨセを繋ぐ洞窟でしたよね』

 

 "電気石の洞穴"、電気を纏った岩がほかの岩や地面と反発して浮いているという幻想的な場所だ。フィールドワークで義父と何度か訪れ、浮いている岩で遊んだり、そこにしか生息していないシビシラスを探して1階から最下層まで行ったり来たりしたのは良い思い出である。結局最下層にしか生息していないと気付いたのはカノコに帰ってからだったが。

 

『ボクはあそこが好きなんだ。そこで答え合わせをしよう』

 

『……つまり、ここではオレの素質について教えてくれないと』

 

 青年は何も言わない。無言、即ち肯定と受け取っていいだろう。

 フキヨセにジムがある以上、どの道"電気石の洞穴"は通らなければならないダンジョンだ。そこにたどり着く頃には、オレはオレで確信を持った答えが得られているかもしれない。

 

『分かりました。……でもオレが来たって分かります?』

 

『心配しなくていい、ボクの…知り合い(・・・・)が迎えに行くから』

 

『え』

 

 失礼ながらこの人に知り合いが、それも頼れる程の人間がいたのかと驚いてしまった。人を見た目で判断するのは良くないと分かっているが、孤高の極致のようなこの青年に"頼る"という概念が存在したことが意外だった。

 言葉と言葉の(あいだ)に若干の()が空いたのが引っかかるが、指した問題では無いだろう。

 

『サヨナラ、"光"が見えるトレーナー。また会おう』

 

『はい。"電気石の洞穴"で、また』

 

 ひらひらと手を振り、雑多の中に消えていく青年の背を見送った。

 もう姿が見えなくなった頃に、また名前を聞き忘れたことを思い出したが時すでに遅し。しかし次会うのも約束したわけであり、その時に聞けばいいかと気持ちを切り替える。明日はいよいよライモンシティに来た本来の目的、ジム戦に挑む日である。ヒウンジムのような情けない試合は、オレもしたくないしポケモン達にもさせたくない。

 早速ポケモンセンターに戻って対策と情報の整理をしようと、オレもより賑わいが増すばかりの遊園地を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、明日のライモンジムは煌びやかな街からも分かるように"でんき"タイプのジムである。しかもジムがあるのは先刻遊び回った遊園地の敷地内で、挑戦者を阻む仕掛けもジェットコースターらしい。

 4つめのバッジを掛けて対するのはイッシュが誇るスーパーモデル、カミツレだ。通り名は「シャイニングビューティ」、電気の煌めきとカミツレの華やかさがよく分かるキャッチコピーである。ジムリーダーとモデルという二足の草鞋(ヒール)を履きこなし、どちらも高いレベルで活動しているのは流石としか言いようがない。

 世間では3つ目のジムバッジを獲得出来るかがジムチャレンジの分かれ道と言われており、4つめに挑めるだけでも評価されることらしい。もちろん、オレはそこで止まらないが。

 

『うーん、厳しくなりそうではあるんだよなぁ……カミツレさん意外とアグレッシブだし…』

 

 見た目はクールに見えても、織り成すバトルは苛烈そのもの。

 2匹のエモンガによる"ボルトチェンジ"で容赦なく攻め立て、切り札のゼブライカが"ニトロチャージ"や"スパーク"で捩じ伏せる。シンプルな攻撃的スタイルだが、"物理"と"特殊"を使い分けており受け切るのは容易ではない。おまけにエモンガには"でんき"タイプの弱点である"じめん"タイプの技が効かないと、セオリー通りの攻略を出来なくしているのもポイントだ。

 

 オレの手持ちはまたしてもフタチマルが不利を取り、残りの3匹────いや4匹も強気には出れない。タイプでは五分に見えるココドラとダンゴロも"特殊"には弱く、後手に回りがちなスタイルがここに来て悪手となってしまう。ウォーグルは言わずもがなだ。

 

『さぁどうしよっかみんな。ヒウンジムよりキツいよこれ』

 

 机に並べられた五つのボールに問いかけるも、特に案が浮かんでくる訳でも無く対策会議は停滞していくばかりだ。

 もういっその事策なんて持たずに、一か八かで突貫した方が勝ち目があるのではと思えてくる。それで勝てたら苦労はしないのだが。

 

 一旦ペンを置き、詰まった空気を入れ替えようと窓を開ける。

 まだまだ冷える冬の夜は、厳しい寒さと共に頭をクールダウンさせる冷涼をもたらしてくれる。

 

『早く春にならないかな…………っと、あれどうしたのイーブイ』

 

 開閉スイッチを押した記憶は無いが、どうやら自分でボールを転がして出てきたようだ。

 突然窓の縁に座ったかと思えば、そのままピタリと動かなくなってしまった。ライモンのイルミネーションに見とれているのか、普段のイーブイからは想像出来ない落ち着きようだ。

 

『…そういえばさ、"ヤグルマの森"で聞いたじゃん、何に進化したいのかって。どう? 決まった?』

 

 質問の数秒後、イーブイは小さく首を横に振った。

 普段のイーブイを基準にするならオレはブースターがいいと思うが、こうした冬の夜に浸る姿を見るとグレイシアも合っている気がしてくる。要はどの進化先もピッタリな気がして捨て難いのだ。

 一言「そっか」と返し、程々にしないと風邪を引きかねないので窓を閉める。同時にイーブイもピョンと降りベッドの上でまるくなってしまった。

 

『あーあ、寝ちゃったか…仕方ない、ざっくりと方針だけ決めておこう……』

 

 具体策が出てこないのなら致し方無し。前述した突貫までの無策とはいかずとも、誰に誰を合わせるかくらいは決めておかねばならないだろう。

 まずゼブライカにはガントル、これは確定だ。パワー的にもゼブライカなら競り勝てる確率は十分ある。

 後のエモンガ2匹は総がかりで当たるしかない。上手いこと"ボルトチェンジ"をさせないように立ち回り、1匹を逃さず撃破する必要がある。オレの指示と策が試される時だ、万全を期して望まねばならない。

 

『こんなところかな……ベッド占領されちゃったしソファーで寝よう……』

 

 スヤスヤと寝息をたてるイーブイを横目に、決して大きくはないソファーに寝転がり目を閉じる。

 連日遊び倒した疲労のツケか、数分もしないうちに深い眠りへと落ちてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、ショウと青年────Nが分かれた頃。

 ライモンシティの外れに、3つの黒い影が集結していた。影の名は"ダークトリニティ"、プラズマ団の七賢人が1人ゲーチスの忠実なる下僕である。

 

『ゲーチス様、N様の件…如何いたしましょう』

 

 ダークトリニティの1人が呼びかけた先にあるのは、黒よりもさらに黒い影────七賢人ゲーチス、その人がいた。

 

『構いません、好きにさせなさい。……監視(・・)は続けながら、ですが』

 

 主の言葉にダークトリニティは従うのみ。これまで通り(・・・・・・)アララギ・ショウと"王"であるNの監視を続けるだけだ。

 この事を知っているのはここにいる4人しかいない。いずれ障害になりそうなアララギの息子を監視するのはともかく、Nまでも監視する理由。それは近頃、Nに"揺らぎ(・・・)"が見えてきたため。

 ポケモンと育ち、ポケモンの声を聞き、英雄たらんとする彼に起こったブレ。それをもたらしたのが他でもない、アララギ・ショウともう1人、同じくカノコタウンのトウコというトレーナーであった。

 彼らと触れ合う事でNは確かに変わっていっている。ショウからはポケモンとトレーナーの間にある"光"を、トウコからはトレーナーと共に在るポケモン達の喜声を教えられた。

 だがそれはゲーチス────もとい、プラズマ団にとってよろしくない。王が揺らげば組織全体に悪影響が出る。そうなることを憂いた────ように見える(・・・・・・)ゲーチスは、ダークトリニティに監視を命じたのだ。危険な兆候があれば、すぐに両者を引き離せるように。

 

『接近は王より禁止(・・)されていますが………この辺りでアララギの息子を揺さぶってみましょうか…』

 

 留まることを知らない魔の手は、もうショウの足元を絡め取る寸前まで来ている。

 冷たく、昏い闇は徐々にイッシュの地を染めんと侵食しているのだ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の昼頃、もう一度遊園地に来たオレは敷地内にあるジムへと足を踏み入れていた。

 仕掛けのジェットコースターはスピードが凄まじく、心做しか行く手を阻むジムトレーナーも顔色が悪いような気がする。無論その程度でバトルの手は抜かないが、オレもオレで三半規管が悲鳴を上げ続けている。朝食べたトーストと目玉焼きがいつ戻ってくるか、いや戻ってくる前にカミツレの元まで行けるのか、一抹の不安を抱えながらジェットコースターに搭乗し辿り着いた終着駅、ジムの最奥でカミツレは待っていた。────ものすごく心配そうな顔をして。

 

『ねえ大丈夫? すっごく顔色悪いけど……』

 

『うっぷ…だ、大丈夫です…うぇ……』

 

 言葉と状態が一致しないのはこの際仕方ない。あの大回転は常人の三半規管では耐えられないレベルの回り方をしている。魂が飛び出たと言われても信じる程に。

 

『あー…落ち着いてきた……よし、お願いします!』

 

『ジェットコースターでクラクラ…どころじゃないわね。けれど大丈夫、これからもっとクラクラさせてあげるから!』

 

 何が大丈夫なのだろうか、と内心のツッコミを入れたと同時に審判がフラッグをあげ、開戦の合図を示した。

 

『フタチマル!』

 

『エモンガ!』

 

 カミツレの初手はやはりエモンガ。対してオレはフタチマルと最初の対面は不利に見える。実際滅茶苦茶不利なのだが。

 フタチマルには申し訳ないが、今回のジム戦での役割は偵察役だ。とにかく相手の攻撃を引き出し、バトルを組み立てる材料を持って帰って来てもらう。

 これはフタチマルも了承の上であり、彼も有効策無しに苦手なタイプ相手に立ち回れる程まだ(・・)強くないとわかっている。故に、みんなのために先鋒を買って出てくれたのだ。"まじめ"な性格で良かったとつくづく思う。

 

『最初からトばすよ! "シェルブレード"!』

 

 切込隊長がやるべきことはただ1つ、体力尽きるまで攻撃を続けることだけだ。彼もそのつもりだったのか"シェルブレード"の"シェル"を言った辺りで、既に荒波の如き気勢を以てフタチマルは駆け出していた。

 エモンガの方も指示が終わる前に攻撃を開始するとは思わなかったようで、僅かにフタチマルへの反応が遅れた。その隙をフタチマルが逃す事はなく、念入りに研がれた2つのホタチがエモンガに襲いかかる。

 

『避けて!』

 

 が、そこは流石のジムリーダー。簡単に初撃を命中させてくれる程甘くはなかった。

 クロスするように裂いた"シェルブレード"は、すんでのところで華麗なステップにより回避され、フィールドを蹴った反動で飛び上がったエモンガはそのまま滑空体勢に入る。

 

『"アクロバット"!』

 

 空気の流れに乗り、エモンガが仕掛けるのは変幻自在の空中殺法(アクロバット)。"持ち物"を持っていない状態であるならばその威力はさらに上がる。正に今のエモンガの状態である。

 柔軟な身のこなしでフタチマルの死角に入りエモンガは攻撃する。気配察知は得手であるはずのフタチマルも、動きがテクニカル過ぎて全く対応出来ていなかった。

 

『それなら…"アクアジェット"!』

 

 このままエモンガにしてやられるのはまずいと、一旦"アクアジェット"での離脱と展開のリセットを図る。続く"アクロバット"による攻撃の合間を縫い、急加速したフタチマルは一気に間合いを取り危機を脱した。

 

『よし、上がれ(・・・)フタチマル!』

 

 それだけでは終わらない。加速したスピードを落とすことなく、勢い付いた"アクアジェット"は重力に抗い空へと上がりだした。フタチマルはエモンガよりもさらに高く昇り、位置的有利を得ることに成功したのだ。

 エモンガは滑空こそすれど、翼をはためかせ縦横無尽に空を飛ぶ能力は無い。つまり、上さえ取ってしまえばこちらのものであり、フタチマルは今絶好のチャンスを得たと言える。

 

『突っ込め!』

 

 指示とともに急降下し、エモンガの背目掛けて大滝の如き水流が迫る。

 

『フフ、"ボルトチェンジ"よエモンガ』

 

 カミツレの声はまるでこれを読んでいたかのような落ち着きようだった。くるんと地面に背を向け、滑空を捨てたエモンガが"ボルトチェンジ"を放つ。

 スピードに乗っていた─────いや、乗らされていた(・・・・・)フタチマルが急に止まれる訳もなく、"アクアジェット"の水流に電撃が迸る。堪らず水流を解除して地へと降り立つも、ふつふつと溢れるオーラから"げきりゅう"発動のラインまで削られてしまっているのが分かる。

 しかし、"アクロバット"のダメージ込みで耐えたフタチマルはよくやってくれた。"げきりゅう"も次のポケモンに強力な攻撃を叩き込めると考えれば悪くない。

 

『ゼブライカ!』

 

 交代先にカミツレが選んだのはエースであるゼブライカ。進化前のシママより体格は約二倍になり、稲妻に見える身体の模様も鋭さを増している。気性も荒くなっており、カミツレの激しい攻撃的スタイルとは抜群の相性だと言えるだろう。

 

『いきなりエース出してくるか……! 』

 

 正直このタイミングでジムリーダーの切り札と対面出来たのは僥倖だ。ジム戦において一番の壁になるであろうエースポケモンの情報を得られるのは後々のプランを立てる際に大きく影響してくる。

 

 体力的にフタチマルはあと一回攻撃されれば倒れてしまう。それを考慮した上でゼブライカの猛攻を凌ぎ、"げきりゅう"による"みず"技を放つタイミングを図らなければならない。

 はっきり言って凄い難しい。けれど、やるしかないのだ。腹を括り、ゼブライカの出方を窺う。一挙手一投足に神経を集中し、動き出した瞬間に勝利へのルートを構築しなければならない。

 

 

『まずはスピードを上げましょう! "ニトロチャージ"!』

 

『…ッ! "みずのはどう"で迎え撃て!』

 

 カミツレの指示に重ねるように、オレもフタチマルへと迎撃の命を下す。

 炎を纏い高速で突進してくるゼブライカをギリギリまで引き付けたところで、両手の内からフタチマルが放つのは振動を伴う水流波。"げきりゅう"により"ハイドロポンプ"もかくやの威力となったそれは、ゼブライカの炎を消し去るどころか吹き飛ばしてしまう程の破壊力を呈していたのだ。

 

『なんて威力…! とても鍛えられているのね…!』

 

『いやー……リゾートデザートで鍛えた甲斐があったなフタチマル…』

 

 過酷な"リゾートデザート"での特訓を思い出しながら、フタチマルも「うんうん」と頷く。

 ヒウンのジム戦を終えてから、オレもフタチマルもこの先遠距離技の有無が重要になるのは分かっていた。アーティのハハコモリによる"はっぱカッター"の嵐も、もしなにかしらの遠距離技があれば、態々ホタチで捌く必要も無かったはずなのだ。

 これまではフタチマルが生粋のインファイターであったためその意志を尊重して近接技をメインに特訓してきたが、今後待ち構えているジムや強敵の事も見据え、苦手な遠距離技を重点的に鍛えたのだ。結果"みずのはどう"を習得し、水気の少ない砂漠で鍛えたお陰か他の"みず"技にも磨きがかかった。

 

『でも、まだゼブライカは元気よ。もう一度"ニトロチャージ"!』

 

『速い…ッ! 避けるんだフタチマル!』

 

 起き上がったゼブライカは落雷のような声で嘶き、再び炎を纏ってフタチマルを狙う。

 "ニトロチャージ"は繰り出す度に自身の"素早さ"を上昇させる技。先程は"みずのはどう"の発射が先を越したが、"ニトロチャージ"の発動自体はしていた。つまり、現在ゼブライカの"素早さ"は上がってしまっている状態なのだ。

 こうなると"みずのはどう"のチャージが間に合わない可能性が高く、回避せざるを得ない。幸いフタチマルの動体視力なら"素早さ"が上がっていても回避は可能だ。─────それもいつまで続くかは不明だが。

 

『これじゃジリ貧だな……どうする…?』

 

 ペースは完全にカミツレ側に傾いている。"みずのはどう"の命中もダメージこそ与えはしたが大した影響は及ぼさなかった。

 

 "でんき"技でフタチマルを仕留めに来るのではなく態々相性の悪い"ほのお"技を選んてきた辺り、カミツレは恐らく次を見据えているのだろう。

 何を食らってもフタチマルは倒れるのならば、有利な状態を整えて次のポケモンを迎え撃とうという算段だと思われる。仮にフタチマルがずっと凌いだとしても、スタミナが尽きるまで"ニトロチャージ"を繰り出し続ければいずれ磨り潰せる。さらに、時間をかければかけるほど"素早さ"は上がり、次のポケモンへの備えが盤石になってしまうときた。

 

『仕方ないか…! 戻れフタチマル(・・・・・・・)!』

 

『あら、下げちゃうのね。残念』

 

 選んだのは交代、流れを断ち切るにはこれしかない。それに、フタチマルにはまだ役目がある(・・・・・)。切込隊長としての役目を終え、たった今新たにオレが見出した役目が。

「お疲れ様」と声をかけ、ボールを腰のベルトへ戻す。体力的な回復は見込めずとも、スタミナを蓄えておくことは出来るはずだ。その時(・・・)がきたら、もう一度フタチマルには出張って貰わねばならない。

 

『……よし、ルートの修正はオッケー…後は……』

 

 勝利への道筋を描き直し、次のポケモンが入ったボールに手を掛ける。

 ジム戦はまだ始まったばかり。これまで以上に厳しいジム戦だと言うのに、心の昂りは留まることを知らない。この昂りさえあれば、オレはまだやれる。何より─────ジム戦を、バトルを、楽しんでいるのだから。

 

 

 




こんにちは、読んで頂きありがとうございます

UA6000件感謝致します。多くの人に読んでもらえて嬉しい限りです。よければこれからもよろしくお願いします。

語彙力が……文章力が欲しい……





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