転生者は創造神の光を見るか?   作:おんのじ

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誤字・脱字ありましたら教えてください

今回から少しだけ独自要素が出てきます。苦手な方は申し訳ございません。


15話 パートナーはどこまでいってもパートナー

 

『予定変更、頼んだココドラ!』

 

 本来ゼブライカにぶつけるはずだったのはガントル。オレの中でそれは変わっていないが、その前にココドラに一働きしてもらわねばならない。内容は─────言わば、嫌がらせ(・・・・)か。

 フタチマルが想像よりも早く体力を削られてしまったので、2体のエモンガへの対処を大幅に変更せざるを得なくなった。その代わりにエースのゼブライカを大きく消耗させる事に成功し、対価としては十分である。

 

『仕込みは十全にいこうか。"ステルスロック"!』

 

 オレの指示を聞き届け、地面から岩を隆起させゼブライカ側のフィールドに設置する。この岩が今すぐにゼブライカを襲うことは無いが、矛先だけは常にゼブライカ─────もとい、相手のポケモンを捉え、期を窺っている。発動のタイミング、即ち交代した瞬間を待ちわびて。

 

 本当ならばカミツレを超える攻めを行い"ボルトチェンジ"を撃たせずに決め切るのが第一の指針であった。昨日の段階では「今のオレ達なら出来なくもない」、そう評価していたが現実は甘くなかった。

 そこで第二の指針として、"ボルトチェンジ"を撃たせる回数に制限を掛けるという指針を掲げた。"ステルスロック"が設置されれば"いわ"タイプが弱点のエモンガは交代を躊躇い、撃ったとしても交代先に負荷をかけることになる。エースのゼブライカも現在ダメージを負い消耗戦では有利にたった今、この策はより一層の効果を期待できるだろう。

 

『いい判断ね、でもそれで怯むほどヤワじゃないわ! "スパーク"!』

 

『ジムリーダー相手に躊躇は期待してないですよ…! "てっぺき"でガードだ!』

 

 炎の次は電光を迸らせ、ゼブライカはココドラと正面衝突する。しかし、ココドラもこれまでジムリーダーのポケモン相手に圧倒的な守備力を証明してきた。衝突の瞬間だけは後退したものの、拮抗してからは微動だにしない要塞の如き堅牢さで"スパーク"を受け切っている。

 ゼブライカのパワーは前回のジムの切り札だったハハコモリのそれと同等、或いはそれ以上だ。言い換えればその程度なのである(・・・・・・・・・)。急所にさえ当たらなければ"てっぺき"で防御を高めたココドラに敗北は無い。

 

『…硬いっ! ゼブライカ一旦引いて!』

 

『よしバッチリ……あれ?』

 

 完璧に受け切ったと思いきや、ココドラの顔色が悪い。プルプルと痙攣し、普段余り動かないせいで分かりにくいが動きが鈍くなっている。

 

『"まひ"か…"スパーク"一回でなっちゃうのはツイてないなココドラ?』

 

 軽口を叩きつつココドラが続投できそうか観察を行う。

 体力的には問題無し、"まひ"も元から"素早さ"の遅いココドラからしてみれば、動けなくなる危険性は孕めど影響は薄い。ゼブライカを相手取るだけ(・・)ならこのまま闘ってもらいたいが─────

 

『うーん、その先まで考えるとね……交代しようか』

 

 ゼブライカが"ボルトチェンジ"を撃ってくる危険性、行動不能時の隙を利用される可能性、仮にゼブライカを倒したとしてその後のエモンガへの対応。全てを考慮し、突っ張り続けるのは下策であると結論付けた。

 "まひ"になったのは予定外だが、"ステルスロック"を設置してくれれば仕事としては十分だ。嫌がらせ(・・・・)としては百点をあげられる。

 

『それじゃ本命の……! いくよガントル!』

 

 大事をとったココドラに代わって、待ち侘びたと言わんばかりの唸り声をあげフィールドに出現したガントル。彼女が漂わすはかつてないほどの威圧感と闘気。ライモンジム攻略の根幹を担うという大役を承り、正に鬼岩と言うべき剛さでゼブライカと相対する。

 

『ヒウンから世話になりっぱなしだけど、ライモンでも頼むよ』

 

 ズシンと大地を踏み鳴らしガントルは応える。

 責任感が強い彼女にとって、大一番を任せるという行為は不退転の決意を新たにさせるブーストになる。負けられないのなら退かず、勝って欲しいと願われれば邁進する。大黒柱と言ってもいい芯の強さが彼女にはあるのだ。

 

『まずは"すなあらし"! "リゾートデザート"の勢いに負けず劣らずのね!』

 

『構えてゼブライカ! 仕掛けてくる!』

 

 オレンジ色の結晶が光り輝いた次の瞬間、エネルギーをドーム状に展開しガントルを中心として砂塵吹き荒ぶフィールドを作り出した。

 もちろんこの"すなあらし"は永続的には続かない。いずれ風は止み元に戻る。が、時間的には事足りるとオレは判断したのだ。

 言い換えればこれは宣言である。この"すなあらし"が止む前に、ゼブライカを倒し後のポケモンを引きずり出すとオレは布告したのだ。

 

『"いわなだれ"!』

 

 "がんせきふうじ"より更に大きな岩を上空より降り注がせ、ゼブライカの周囲を囲む。"素早さ"が高まっているのならそれを発揮させないような場面展開を行うまでの事。サンヨウジムでココドラが行ったのと同じく、相手に自由を与えないような戦い方はスピードが遅い"いわ"タイプのパートナー達の十八番である。

 

『それくらい砕いてしまいなさい! "スパーク"!』

 

 限界がすぐそばまで来ているのだとしても、カミツレが攻め気を緩めることは無かった。より強くその姿は煌めき、臨界を迎える時まで絶頂を越え続ける。

 離れていても、視界が悪くても、体力が底を尽きそうでも。ゼブライカの電光は確かに輝き─────囲んだ岩の1つを、粉々に砕いてガントルへ猛進していく。

 慢心していたつもりは無いが、ゼブライカの底力は想定を超えてきていた。エースとしての矜恃、と言うのだろうか。"タダでは倒れてやらない"という気迫がビリビリと伝わってくる。

 

『まだこんな力が…! "ロックブラスト"で牽制! 頃合いを見て備えて!』

 

『"でんこうせっか"! そのくらい避けてみせなさい!』

 

 "すなあらし"での視界悪化もあると言うのに、ゼブライカは発射された"ロックブラスト"を尽く躱していく。その速度はまるで稲妻、駆ける電雷そのものだ。

 4発放ったところでガントルも身構え、ゼブライカの"スパーク"を受け止めに掛かる。"ロックブラスト"で仕留めきれなかったのは悔しいが予測通り。それ故に、受け止めたその先を考えなければならない。

 

 ズドンと両雄がぶつかり合い、突風を伴う衝撃がフィールド全体に響き渡る。押し切ろうとするゼブライカ、一歩たりとも退かないガントル。互いの力は拮抗し、ギャリギャリと耳を劈く音が鳴り響く。

 

 どちらも譲らない状況、先に打開策を閃いた方が勝つ。それは明白であり、だからこそオレは─────

 

『受け止めたのならオッケーだよガントル…! 威力は最大、"おんがえし"だ!』

 

 "天才"と呼ばれているからには、譲れないのだ。偽りの名声だとしても。

 

 有利なフィールドを作り出すというのは相手を自由にさせないだけではない。自分のやりたいことを出来るようにする意味もある。

 普段なら素のガントルがゼブライカの"素早さ"に追いつくのは不可能。が、ここまで距離が近ければ関係ない。"素早さ"という概念は意味を失い、純粋な力比べが全てを決めるのだ。

 

 故に、ガントルは全身全霊の力を込めてゼブライカへの攻撃を敢行する。培ってきた"キズナ"、その全てを証明するために。

 だがゼブライカ側も黙ってやられはしない。最光度の"スパーク"を閃かせ"おんがえし"を迎え撃つ。

 

『押し切れぇッ!!』

 

 無意識にオレも叫んでいた。パートナーの勝利、それだけを信じて。

 

 刹那、互いのエネルギーが反応し二匹を包み込む爆発が起こった。

 "光"と"耀"、最高潮の果てに立っていたのは─────

 

『……ッ!』

 

『……』

 

 当然、オレのパートナーだ(・・・・・・・・)

 大黒柱ガントルは激戦を制し、ジムリーダーのエース、ゼブライカを下し立っていたのだ。

 

『よし! 流石だよガントル!』

 

『お疲れ様ゼブライカ、休んでてね』

 

 カミツレがゼブライカをボールにしまい終えると同時に、フィールドを覆っていた"すなあらし"は消え去った。─────宣言失敗になる。

 

『はは、なんか恥ずかしいな。あれだけ自信満々にキメておいて……』

 

 と、一人で勝手に照れているとガントルが二回地面を踏み鳴らした。「まだ終わってない」、そう言いたいのだろう。

 カミツレは既にエモンガを場に出している。エースが倒れたとしても余裕ありげな振る舞いは崩さず、オレの準備を待っている。

 

『分かってるよガントル。あと二匹…頑張って打破しよう…!』

 

 オレにポケモン変更の意思はない。行けるところまでガントルで突き進む。

 三度頬を叩き浮かれ気分と達成感をリセットする。その感情を得るにはまだ早い。

 

『タイプは有利…! "いわなだれ"!』

 

『全部躱して!』

 

 空より落ち来たる岩石をヒョイヒョイと避け、エモンガは徐々にガントルとの距離を詰めてくる。

 落下ポイントを工夫しつつ当てる努力はしていても独特の軌道のせいで命中する気配がせず、ある意味翼を持つポケモンよりやりずらさを感じていた。

 

『なら速度重視で! "ロックブラスト"!』

 

『"ボルトチェンジ"!』

 

 "数打ちゃ当たる"が通じないのであれば、狙い済ました一撃でエモンガを撃ち抜くまでと、全部で3発の岩石弾を発射する。

 カミツレも"いわなだれ"とは段違いのスピードで迫る岩を見て、連続で避けるのは不可能と判断したのか"ボルトチェンジ"で破壊するプランを取ってきた。

 3発とも弾道が被らないように撃ったつもりだったが、それが仇となった。エモンガは1つ目の岩を破壊した後2つ目を避け、3つ目をまた破壊することで対応仕切ってみせたのだ。

 

『もう一度"ボルトチェンジ"!』

 

『くっ…! 引き付けてガントル!』

 

 距離的に直撃は免れないと判断し、なるべく射程距離に入れて切り返す方向でオレは指示を出した。

 岩を砕いてみせた電撃、当たれば大ダメージなのは分かりきっていた。しかしガントルの機動力では回避は不可能、ならばどうするのか。

 答えはシンプル、被害を最小限に抑えるだけのこと。

 

『今だ! "すなあらし"再展開!』

 

 "ボルトチェンジ"が到着する寸前、もう一度ガントルはオレンジ色の結晶を輝かせ"すなあらし"を発動する。届くはずだった"ボルトチェンジ"に突風と無数の砂粒を当て威力を殺し、"いわ"タイプであるガントルは心許ない"特防"を上昇させることが出来る。

 恩恵を最大限に受け自らの身を守り、空気の流れを乱すことで滑空が主な移動手段のエモンガは思うように動けなくなる。全て策の内─────とはいかないが、ぼんやり狙っていたことが上手くいった。

 

 それでも"ボルトチェンジ"はガントルに命中し、ある程度(・・・・)のダメージは負ってしまった。さらに追加効果で対峙していたエモンガはもう1匹のエモンガへと交代していく。今相手にしていたのはフタチマルの時の個体と同じ、仮称エモンガAだ。疲れ具合と"光"のカタチである程度は判別出来る。

 

『キミは逃がさないよ。"いわなだれ"!』

 

『エモンガ"ボルトチェンジ"!』

 

 何度も交代はさせまいと、先程よりも大量の岩石を降り注がせ一気にエモンガを倒しに掛かる。"すなあらし"の影響で上手いこと滑空が出来ないのはまたとない好機、逃せばしばらくエモンガ達に手玉に取られるのは目に見えている。

 エモンガも滑空が出来ない中地上のみの動きで岩石をなんとか避け、"ボルトチェンジ"の発動を試みるも絶え間ない岩石空襲がそれを許さない。

 

『まずは一匹…! "ロックブラスト"、放て!』

 

 完全に退路を断ち、風前の灯火となったエモンガ目掛け岩石の息吹が襲う。最大値である5発の弾丸は岩の檻の隙間を縫い、今度こそエモンガの胴体を捉えたのだった。

 

『……あれ?』

 

 喜びに包まれたのも束の間、猛烈な違和感が駆け巡る。

 エモンガに命中したはずなのに、手応えが皆無(・・)なのだ。もっと言えば当たった音すらせず、言うなれば─────すり抜けたような感じである。

 

 三秒、その間にエモンガのデータと謎の違和感を照らし合わせ状況の解明を行い、原因は割れた。同時にガントルに最高度の警戒をするよう指示を飛ばす。

 

『まだ終わってない! 多分"かげぶんしん(・・・・・・)"で避けられた! …ゴメン!』

 

 が、気付いた時には少し遅かった。

 "すなあらし"で視認性が悪いことを利用され、こちらが勝ちを確信した油断を突かれ、エモンガはガントルの眼前にまで迫っていたのだ。

 

『ッ!! 構えてガントル! この距離は…!』

 

『もう遅いわ! "ボルトチェンジ"!』

 

 防御の構えをとる暇すら与えられず、チャージを済ませていたエモンガからこのバトル何度目かの"ボルトチェンジ"が放たれる。

 いくら"すなあらし"の恩恵を受けているとはいえ、真正面から喰らえばタダでは済まない。

 

 頭をフル回転させ脱却の一手を構築するが、どれもこれも途中で折れていく。欠点、矛盾、確率、全てが完璧な一手が、この場に限っては存在しなかった。

 

 それで諦められるほど、オレもヘタレてはいないのだが。

 

いけるか(・・・・)……!?』

 

 苦虫を噛み潰したような顔で問うたオレに、ガントルは電撃の中確かに頷いた。苦肉の策だがやるしかない。ガントルの体力がまだ残っているうちに。

 完璧な一手がないのなら、打開する時間すら得られないのなら、今ある手札で勝負を仕掛ける他ないのだ。

 

『…よし、ならやるぞ…!』

 

 スッと手の平をガントルに翳し、目を閉じる。

 

 多分、相打ちが限界だ(・・・・・・・)

 

 ゼブライカとの戦闘で負ったキズも然ることながら、威力減衰したエモンガの"ボルトチェンジ"もダメージ量だけならほぼ同程度(・・・・・)であるとオレは見ている。

 あの時オレは"ある程度"とタカをくくっていたが、その予測は外れていたのだ。威力こそ落ちていたが、あの攻撃は奇跡的に─────こちらからしたら不運だが─────"急所(・・)"に当たってしまっていたのだと思われる。

 気付けなかったのはオレの落ち度、弁明の余地もない。

 それでも、それでも一つ言い訳をさせて貰えるのなら、ガントルが全く態度や行動に表出しなかった(・・・・・・・・・・・・・・・)のもある。

 "急所"に当たっても動じずにいたのは凄まじい胆力であり、オレはそれを誇りに思う。思いっきり自分を棚に上げて評しているが。

 

 と、回想に耽っている内に時は来たようだ。

 

『……"ロックブラスト"、 全部出し切れェ!』

 

 命と共に開眼し、ガントルに最後(・・)の指示を出す。

 もう耐えることを一切考えず、残っている体力を全て攻撃のために燃やし尽くす。

 共鳴するようにオレとガントルは吼え、"ボルトチェンジ"の最中のエモンガにありったけの岩石弾を撃ち込んだ。至近距離故に回避は出来ず、5発の"ロックブラスト"はエモンガを捉え地に落としたのだった。

 

 程なくして、静かに崩れ落ちる音がフィールドに響いた。

 完全燃焼し力尽きたオレ達の大黒柱は、確かに役目を果たしてバトンを繋いだのだ。戦果としてもジムリーダーのエースを倒し、さらにもう一匹相打ちにまで持ち込んだと、十分過ぎる勲功を挙げてくれた。

 伝えきれない感謝は後に回し、「お疲れ様」と一言労いボールに戻す。心做しかボールにズッシリとした重みを感じたのは、気のせいではないのだろう。

 

『さ、フィナーレは近いよ! 楽しんでこいイーブイ!』

 

『ふふ、意外と詩的なこと言うのね。アララギ博士の息子さんだからかしら? …エモンガ!』

 

 義父とポエミーさの関連性はともかく、カミツレもオレがアララギ博士の息子であることを知っていてのかと少し驚いた。アーティがアロエからオレのことを聞いていたように、ジムリーダー間での連絡網でもあるのだろうか。

 

『……あの人ロマンチストと言えばロマンチストだからかな………"リュウラセンの塔"とかよく行ってたっぽいし……』

 

 於いておいた義父についてぶつぶつと呟きながらも、目線はしっかりと場面を見据えている。フタチマルと対峙していたエモンガが相手なら事前に情報がある分手の内が多少分かる。イーブイなら持ち前の"素早さ"で対応も容易だろう。

 

 そして肝心のイーブイだが─────

 

『……?』

 

 やはり変だ。なんと言うか、イーブイらしくない(・・・・・)

 いつも─────もとい、これまでのイーブイなら強敵相手にギラついていたものだが、今のイーブイはどうだろう。そんな素振りは微塵も無く、冷静沈着にエモンガを見詰めているのだ。冬の冷気に充てられたのだろうか。

 しかし"光"が変わった訳でも無く、闘志だけは揺るがずに滾っている。そこが同じならばとりあえずジム戦はこなせるか。

 

『……いくよイーブイ、"でんこうせっか"!』

 

 今さら迷っていても仕方がない。目の前の高壁を乗り越えるべく、イーブイを指揮するのみだ。

 指示を言い終えてコンマ数秒、涼やかにイーブイは疾駆する。

 

『"アクロバット"!』

 

 エモンガも負けず劣らずの身軽さを発揮し、"でんこうせっか"をひらりひらりと躱してみせる。

 スピードのレベルはほぼ同等。だが立体的な機動力の差でエモンガが優勢にも見える。イーブイもエモンガからの攻撃は難なく対応出来るが、肝心の攻撃が当たっていない。一進一退どころか互いにスタミナを消費しているだけの消耗戦となってしまい、進展が全くないのだ。

 

『"ひこう"タイプ相手じゃ自慢のスピードも活かしきれないか……なら…!』

 

『来る! エモンガ距離をとって!』

 

 "でんこうせっか"での猛攻から新たな行動に転じようとしたのを察知し、エモンガが空を舞いイーブイから遠ざかる。

 

 距離を取られるのは織り込み済み。逆にチャージの時間を貰えたと思えば悪くない。

 

『燃えろ! "めざめるパワー"! 』

 

 もはや得意技のひとつと言っていいほど練度が上がった"めざめるパワー"をエモンガへと放つ。

 回避を試みるエモンガだが、近距離戦から中距離戦へと突然シフトした影響か体勢が整わず直撃を許してしまう。

 

「よし」と声に出し、次の手を伝えようと口を開きかけ、気づいた。

 秘められた可能性をそのまま威力へと変換したそれ(・・)は、予想外(・・・)の結果をオレに知らせていたのだということに。

 

『んん?』

 

 自分のパートナーに対して失礼かもしれないが、イーブイの"めざめるパワー"の威力は然程高くない。弱点を上手く突いているからダメージを期待できるのであって、突けなければそこそこの威力で済んでしまう。

 何が言いたいのかと言うと、目の前のエモンガが有り得ないほどダメージを負っている(・・・・・・・・・・)のだ。抜群でもなんでもない、"ほのお"タイプの"めざめるパワー"で。

 

『どういう……いや、考えるのは後! 今のうちに"すなかけ"!』

 

 頭にハテナマークが浮かびっぱなしでも、理由が不明でも、今優先すべきは目の前の試合だ。困惑している自分を封じ込め、作戦を続行する。

 "めざめるパワー"を受け隙が出来たところに目潰しの"すなかけ"で視界を奪う。ダメージによる疲労も合わさり、準備は整った。

 

『バッチリだよイーブイ! "バトンタッチ"だ!』

 

 "すなかけ"を終えた直後、すかさずイーブイはボールへと帰還する。

 イーブイが戻ったのを確認し、流れるようにオレはモンスターボールを放った。

 

役目(・・)が来たぞフタチマル! "アクアジェット"!』

 

 ボールから飛び出し、その勢いでエモンガへと攻撃を仕掛けていくのは、先発で切込隊長を務めたフタチマルだ。

 

 オレが見出したフタチマルの役目、それは"フィニッシャー"である。全員でエモンガを削り、最後の最後で"げきりゅう"状態のパワーで押し込む。これがオレが想定していたライモンジム攻略のルートだ。いくつか想定外こそあったが、結果その通りに策は遂行された。

 

 "バトンタッチ"で流れを受け継いだフタチマルが止まることは無く、荒れ狂う水の奔流となってエモンガを穿いた。

 謎に高かった"めざめるパワー"のダメージ、そして超威力となった"アクアジェット"のダメージ、この2つがもらたしたもの、それはエモンガの体力を喰らい尽くしたという結果であった。

 

 審判がエモンガの戦闘不能を宣言し、長かったジムバトルに幕が降りる。

 

『あ…勝った……のか』

 

 ジム戦に勝ったと言うのに、オレの心には喜びよりも別の感情─────困惑が巣食うばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポケモンセンターに帰り、ひとまずパートナー達を受付に預け部屋に戻ったはいいが、さて何から考えていけばいいのか。

 昨日ライモンジム対策用に使ったノートとペンを用意し、ついでに温かいコーヒーを入れ1人っきりの考察会が開かれた。

 

『そもそも"めざめるパワー"なのかなあれは……? うぅん、威力的には"めざめるパワー"だよな……だとしたらあのダメージは……?』

 

 イーブイが使えるのは"ほのお"タイプの"めざめるパワー"、それは確かだ。オレもそれをあてにしてヒウンジムに挑んだ訳であり、誤解しているということはないだろう。

 

『急所では無い……かな。線としては固いけど当たってないのを眼で見てるしなぁ……』

 

 エモンガの急所は頬の電気袋、そこには当たっていなかったのをオレ自身しかと見ていた。当たったのは普通に胴体、特別強くも弱くもない箇所である。

 偶々そこが弱い個体だった、ということもあるかもしれないが、それなら事前の情報収集の段階で知っていたはずである。ジムリーダーの手持ちの弱点ともなれば広まるのも早いだろうし、可能性は低い。

 

『威力のブレ……にしては差があり過ぎる。ジム内の環境的にも異常は無かったし……』

 

 どれもこれもが答えにはならず、時間だけが過ぎていく。

 一応"転生者"の特典や能力という面からも考えたが、転生に関してはイーブイは全くの無関係であり、仮にオレが影響を与えているにしても出会って長いイーブイに対して気付くタイミングはあったはずである。知人から引き取った際にも「言うこと聞かない」以外には何も変なところは無かった。

 

『そうするとやっぱり……性格の変化と関係あるんだろうなぁ』

 

 まだ口を付けてなかったコーヒーを啜り、カップを置く。

 昨日から落ち着いた雰囲気を漂わせているイーブイ、性格こそ変化しているが"光"が不変の為「冬の冷気に充てられた」くらいにしか考えていなかったが、同時期に変な事が重なれば関連性を疑わずにはいられない。

 ただ、性格の変化で技の威力が上がるという話は聞いたことが無い。好調不調こそあれど目に見えて差異が出るほど、それこそ通常と抜群の差が出てくるなんて─────

 

『……抜群(・・)? 』

 

 その仮説は、天啓のように舞い降りてきた。

 もしかすると─────オレは、前提から間違えていたのかもしれない。けれど、そんな事(・・・・)が有り得るのだろうか。

 確かに筋は通る。この考えが正しいのであればエモンガへのダメージもイーブイの性格の変化も説明は出来る。─────これまでの常識を投げ捨てるのであれば。

 

『直接確かめた方が早そうだな……』

 

 ぐびりとコーヒーを一気に飲み干し、そろそろ回復が終わったであろうパートナー達を迎えに受付へと向かう。答えは、そこで分かるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジム戦を終えた時にはまだオレンジ色に輝いていた太陽も既に没し、辺りには夜闇が蔓延していた。

 ライモンシティを出て、"16番道路"の外れにある鬱蒼と繁る大きな森─────通称、"迷いの森"にオレとイーブイは足を運んでいた。大して広くもないのに"迷いの森"と呼ばれているのは疑問だが、きっとそれなりの理由があるのだろう。尤も、今の目的は森ではなく連れているパートナーにあるのだが。

 

『…大丈夫? 昨日から少し変だけど』

 

 ストンと草むらに腰を下ろし、同じ目線でオレはイーブイに問う。

 こくりとイーブイは頷き、何事も無いことをオレに伝えてくる。一点の曇りもない、透き通った眼でオレを見つめ返してくるのだから本当にイーブイからしたら何も無いのだろう。

 

『そっか、なら良かった。……じゃ、オレの話を少し聞いてくれる?』

 

 一つ咳払いをして、オレは語り始めた。

 イーブイを回復に預けている間にオレが何を考えたのか、ジム戦の時に何を感じたのか、そしてどういう結論に至ったのかを丁寧に伝えていく。

 

 先に答えだけ言うと、恐らくイーブイは"めざめるパワー"のタイプの切り替え(・・・・・・・・)が出来るのだと思われる。

 

 ヒウンジムでは"ほのお"タイプの"めざめるパワー"、ライモンジムでは"こおり"タイプの"めざめるパワー"を使っていたのだとオレは考えている。─────自分で語っておいて、中々にぶっ飛んだ説だとは思うが。

 性格の変化もタイプの切り替えに伴う、いわゆる副作用(・・・)的なものだろう。"ほのお"タイプなら熱血に、"こおり"タイプならクールに、と言った感じで"めざめるパワー"のタイプに引っ張られていると推測出来る。

 

 しかし、この飛躍しすぎた論理には穴もある。それは"原因"が全く分からないということ。簡単に言うと中身がスカスカなのだ。

 そもそも"めざめるパワー"のタイプを切り替えられるイーブイなんて歴史上確認されておらず、如何にポケモンが不思議な生き物だとしてもそんな事が可能なのだろうかと思えてしまう。それこそ─────神話のポケモンでもない限りは。

 

『……ともかく、オレはこんな風に思ったんだけどどう思う?』

 

 こう聞かれてもイーブイからしてみたら「そうですか」としか思えないだろうし、事実キョトンとオレを見つめるだけでよく分かっていない様だ。

 くしゃくしゃと頭を撫で、「そうだよな」と穏やかに笑う。

 このイーブイが少し特殊な個体だとしても、オレの大切なパートナーであることに変わりはない。逆にこれまで知らなかった姿を知れたというのだ。トレーナー冥利に尽きると言う他ない。

 

『なんかゴメン、急にこんな場所に連れ出して』

 

 ふるふると首を横に振り、イーブイは「気にしてない」と伝えてくる。やはり何も変わっていない、オレのパートナーだ。

 

『明日はここ探索するかなぁ……"迷いの森"ってのも気になるし』

 

 立ち上がり、大きく伸びをしてから来た道を戻る。

 イーブイへの困惑も消え、今のオレが感じるのは新たに手に入れた"ボルトバッジ"の重さ、それだけだった。

 

 

 

 




こんにちは、お読み頂きありがとうございます。

はい、少しだけ独自要素としてイーブイが複数タイプの"めざめるパワー"を使えます。話の構想的にも重要なポイントになる予定ですので、ご理解いただけると幸いです。

最後になりますが、UA7000件ありがとうございます。徐々に投稿が遅れておりますが、見守ってくれると嬉しいです。
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