転生者は創造神の光を見るか?   作:おんのじ

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誤字・脱字ありましたら教えてください。


実はまだ書いています。
スローペースどころでは無いですが、ご容赦頂けると幸いです。


16話 たった一人、たった一匹

 

 黎明、まだ太陽すら顔を出さない時刻。

 普段であれば賑わいを見せているライモンシティも、この時間では誰も出歩いていない。ただ1人、オレを除いては。

 "迷いの森"から帰った後どうも目が冴えてしまい眠れずの夜を過ごしていたのだが、空が薄紫色に染まっていくのを見て散歩に繰り出すことにした。早朝にパートナーを起こすのも悪いので、本当にオレ1人である。

 

 自販機からガコンと落ちてきたココアを拾い、あの時(・・・)と同じベンチに腰掛ける。

 

『はー……っ』

 

 吐いた息が白くなっているのを見て、ますます冷え込む冬を感じながら想いを馳せるは、やはりイーブイの事だった。

 

 悩みも戸惑いも無いけれど、そうすると次に気になるのは"どこまでやれるのか"という点になる。

 現時点で"ほのお"と"こおり"の"めざめるパワー"をイーブイは使えるが、それならば他のタイプはどうなのだろうか。また、使えるのであれば何がトリガーとなって切り替えることが出来るのか。デメリットはあるのか、イーブイに負荷が掛かり過ぎないのか─────等々。

 問題が解決したら即座にバトルにどう活かせるのかを考えてしまうあたり、日に日にポケモントレーナーに染まってきているのがよく分かる。

 

 口角が自然と上がるのを感じながら、手を温めていたココアを飲む。朝から甘い飲み物を飲んでいるという背徳感が、より一層美味しさを引き立てている。

 

『姉ちゃんにも何か分からないか聞かなきゃなぁ……オレよりも知ってること多そうだし』

 

 もっと言うなら義父にも頼りたいが、身内のオレですら呆れるほどの放蕩者なので今どこにいるのか分からないのだ。

 義理の息子としての勘はフキヨセからセッカの辺りにいると告げているが、果たしてどうだか。

 

 オレにしては大きめの溜め息を吐いて、日が昇ったら義姉に連絡しようと決め残りのココアを一気に飲み干す。

 集中して考え事をしたからか、それとも凍える寒さのせいか。訪れなかった眠気がやっと襲来してきたので、もう一眠りするべくポケモンセンターへと小走りで踵を返すのだった。

 

『ふぁ…色々考えなきゃなぁ……色々(・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間は流れ、同日の昼前。

 しっかりと睡眠をとり万全の状態で向かった先は、昨日散策してみようと決めていた"迷いの森"─────ではなく。

 

『おぉ…ナイスデザイン……けど入れないのか…』

 

 "迷いの森"がある"16番道路"を道なりに進んだ先にある近代的な大橋、"ワンダーブリッジ"に来ていた。

 張り出されていたお知らせ曰く、少し前から長めの点検が入っているらしく暫くは渡れないそうだ。イッシュ地方にある五つの橋を全て渡れたら、とも思っていたので残念である。既に渡った"スカイアローブリッジ"とこれから渡らなければならない"ホドモエの跳ね橋"は除いて、残りの2つは渡れると良いのだが。

 

『仕方ないか、予定通り"迷いの森"に行こっと』

 

 来た道を戻る途中、サイクリングの方々と手合わせという名のワンサイドゲームを繰り広げ、オレもポケモン達も温まってきたところで思い出す────ここしばらく、自転車に乗っていなかったことを。

 乗る乗らないの選択はオレの自由であるが、貰い物且つ手入れ必須である自転車を放って置くのは良くない。さらに、シッポウで貰ってから録に点検もしていないとなれば破損やパンクの危惧も生まれてくる。

 

『帰ったら空気くらいは入れておこう…』

 

 ポケモンセンターの部屋の隅に放置された自転車を思い浮かべながら、淡く心に留めておく。多分、思い出したその日にやらないとずっとやらないと思われる。

 自転車を使った方が楽に旅を進められるのは重々承知だが、それでもオレは自分の足で歩くのが好きなのだ。未知の世界を切り拓いて進んでいるような、そんな感覚が堪らなく心を昂らせる。

 

 ライモンのゲートまであと半分というところを脇に逸れ、草むらを抜けた先に"迷いの森"はある。片やイッシュ最大の娯楽都市、片や近代的デザインの大橋と、言うなれば「未来的」な人工物に挟まれたこの場所に緑豊かな森が在るのは、秘匿された領域感があり冒険心を掻き立てられる。

 森の中に入る前に、まずは外周部分の草むらで未捕獲のポケモンがいないか探すことにし、結果としてゴチム、ユニラン、チラーミィ、ヤブクロン、そしてレパルダスを約1時間半掛けて捕まえた。追加で怪しげな草むらに飛び込んでは捕獲済みのタブンネとご対面という流れを繰り返し、ようやくチラーミィの進化系であるチラチーノとライモンジムで苦しめられたエモンガを見つけ、これを捕獲。トータルで2時間半近く迷いの森の外周を走り回ってしまった。

 

『疲れた……お疲れ様、ココドラ』

 

 捕獲のためバトルに出ずっぱりだったココドラも疲労は隠せないようで、大きい溜め息を吐きながら自主的にボールに戻って行った。中を見ればもう寝ており、本日のココドラの業務は終了してしまったようだ。

 しかしまだ探索は終わらない。むしろ始まったばかりなのだ。

 

 森の中へは少しだけ踏み入ったが、別件で手一杯だったので様子を見る余裕は無かった。いざ見渡してみると、中々どうして良い雰囲気である。

 

『へー…滝があったのか……』

 

 昨夜、水が流れているのは音で分かっていたが暗さもあって滝があることまでは認知し得なかった。規模としては小さいけれど"たきのぼり"が出来るくらいの川幅はある。ひでんマシンさえあれば滝の上まで行けたのだろうが、"たきのぼり"は疎か"なみのり"のひでんマシンも手元にないのでそもそも水を渡る手段がないのだ。

 この際、一度ひでんマシンや諸々の道具を取りに帰郷するのもアリかもしれない。本音としては義姉の姿と声が恋しくなってきた、と子供っぽい理由ではあるが。

 

『よし、この辺で昼ごはん食べようか』

 

 適当な段差に腰掛け、カバンから買っておいたサンドイッチを取り出す。昼食の時刻としては少し遅くなってしまったが、これからまた探索していくのなら日が暮れる頃にはまたお腹も空いていることだろう。

 ポンポンと4つのボールを放りパートナー達にも昼食を取らせる。ココドラだけはすっかり夢の中なので、起こすのも悪いと思い外に出さないでおくことにした。

 

『……ウォーグルも一緒に食べるか?』

 

 念の為聞いてみたものの、器用にフーズだけぶんどられてしまった。共に食事をすることも絆を築くには大切なのだが、彼がその気でないのなら無理強いはしたくない。目の届く範囲にはいてくれるのが救いではある。

 これでもウォーグルの態度は僅かながら柔和になってはいるのだ。ほんの、極々僅かではあるが。問答したあの夜の"光"と比べれば、くっきりと"光"が見える。信頼には程遠くともマイナスにはなっていない。今はそれでいいと、ウォーグルの方を見つめ微笑(わら)ってみせた。

 

 オレの方もサンドイッチを早急に食べ、みんなをボールに戻して探索を再開する。

 食後の運動も兼ねて出会った野生のポケモン相手にトレーニングを行いつつ、外周では見られなかったポケモンの捕獲をするべく草むらをガサガサと踏破して行く。"ヤグルマの森"に規模こそ劣るが、生息しているポケモンには被りが多く見られる。フシデやモンメンといったポケモンは言わずもがな、バオップ、ヒヤップ、ヤナップら"さるポケモン"達の姿も確認出来た。

 図鑑上ではマメパトの進化であるハトーボーも"ヤグルマの森"にいたらしいが、偶々遭遇しなかったのでここで捕獲。一段階進化しているだけあってその他の未進化ポケモンよりかは歯応えがあった。

 

 そして今は────

 

『イーブイ! "めざめるパワー"!』

 

 そのハトーボーがさらに進化した、マメパト系の最終進化であるケンホロウとのバトルが始まっていた。雄々しい頭の飾りがあるので♂である。

 

 "こおり"タイプのエネルギーを秘めた光弾がケンホロウの翼を撃ち、まずは空への退路を断たせてもらう。有翼の相手には定石の手である。

 思うように翼を動かせなくなったケンホロウが取ったのは"ちょうはつ"によるこちらの"変化技"の封印。搦手で動きに制限をかけてきたのは賢い動きに見えるかもだが、残念なことに今のオレのイーブイは"変化技"を一つも覚えていない。

 

『"めざめるパワー"!』

 

 晒した膨大な隙に"めざめるパワー"が命中し、ドサリとケンホロウが倒れ込む。"効果抜群"を二回与えたとなれば体力もいい頃合になっただろう。

 腰に付けた空のスーパーボールを外し、放った。

 

『…………よし、ケンホロウ捕獲完了っと』

 

 三回しっかりと揺れ、開閉スイッチがカチリと音を立てたのを合図に捕獲完了を口にした。これでマメパト系の進化ラインは揃った訳だ。ケンホロウの♀は置いておくとして。

 このまま手持ちに加えてもいいくらいには即戦力と言えるポケモンなのだが、オレには既に長く付き合うつもりの"ひこう"タイプがいる。タイプ被りは対応力の低下にも繋がるので避けたいところだ。

 

『姉ちゃんの為にもボックスに送るかな。……そういえば姉ちゃんにイーブイのこと聞いてなかったな…』

 

 足下で戦闘後のストレッチをしているイーブイを見ながら、次にボックスを触る時にでも聞いてみようと決め、たった今ポケモンが収まったボールを拾い上げる。

 図鑑の検索機能ではこのケンホロウで一帯のポケモンはコンプリートの様で、この後どうしようかと考えようとして、

 

『……なんだ?』

 

 森の奥から漂う、異様(・・)な気配がそれを遮ってきた。

 

 この気配はポケモン─────いや、本当にポケモンなのだろうか─────? 

 

 敵意は感じられずとも、今までに感じたことの無い気配にオレの肌が粟立つ。

 さて、この気配の主を追及するべきか。このまま立ち去れば穏便に事が済むのは敵意が無いことからも明白、しかし奥に足を踏み入れれば未知の相手と戦闘になる危険性もある。猪突猛進に進むには相応の覚悟がいるかもしれない。

 

『うーん…気になる……気になるけどなぁ……』

 

 好奇心は足を動かそうと拍動しているが、それを自制心が抑えている。いつものオレなら調べに行っただろう。それでも踏みとどまるのには理由がある。

 すごく直感的だが、奥には立ち入らない方が良い気がするのだ。この先に進むのは許可なく他者の家に入るのと同義─────そんな風に感じてしまう。そして、オレの直感は意外とよく当たるのだ。

 

 オレはこの直感を信じ、"迷いの森"の探索は切り上げると決断する。奥に行きたがっていたイーブイとフタチマルを宥めつつ、入り口方向へと戻る。

 

 ─────"ありがとう"─────そんな言葉が、風に乗って聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 諸々の荷物をバッグにしまい、軽くシャワーを浴びてポケモンセンターを出る。もうそろそろ日も落ち始める頃だ。日没までには多分間に合わないだろうが、なるべく早くホドモエシティに着いておきたい。

 と言うのも、気になる話を耳にしたのだ。

 

 つい先日までホドモエシティにはプラズマ団が居たらしく、お陰で街から逃がさない為に"ホドモエの跳ね橋"が上がりっぱなしだったらしい。いい迷惑である。

 それを捕まえたのがジムリーダーのヤーコンと旅のトレーナーだと聞いた、もとい聞こえた。気になるのはやはり旅のトレーナーとやらで、この旅のトレーナー、シッポウ博物館事件を解決したトレーナーと同一人物だと思われる。ベルから聞いた名前が─────確かトウコとチェレンだったか。

 時系列を鑑みても、恐らくどちらか、或いは両名が関わっていたと考えて間違いない。経緯も最近ジムリーダー間で有名だったからヤーコンに戦力として巻き込まれた─────そんなところだろう。あの人ならやりかねないし、やらざるを得ない状況にされたのは察せる。トウコの方はベルからの性格批評的に乗り気で解決に動いたのだろうが。

 あちらもあちらでプラズマ団と争う機会が多くて大変そうだ。逆にまだ一度も会っていないオレが特異なだけなのだろうか。こちらは早くガントルやウォーグルの借りを返したいのだが。

 そもそもプラズマ団がホドモエシティに居たのも解せない。あの街にあるのは精々"冷凍コンテナ"位で、目立ったモノは無かったはずだ。強いて言うなら世界各地の品があるらしいマーケットがあるくらいか。

 ともかく、こんな話を聞いてしまったからにはこの目でホドモエシティの現状を確認しておきたい。

 

 足速にライモンシティ西側のゲートを抜け、"5番道路"に入る。

 ここはこの間までフェスティバルが行われていた様で、冬の気候に相反する熱気がまだ一帯を包んでいる。

 幸いなことにこの辺りに棲んでいるポケモンは先の"16番道路"と全く一緒。図鑑のデータ集めに時間を割くことなく通り過ぎることが出来る。途中、何度かバトルを挑まれるも全員返り討ちにして先を急ぐ。

 

 そして"ホドモエの跳ね橋"、別名リザードンブリッジと呼ばれている。何故リザードンなのかと言うと、橋が上がった時の様子がリザードンに見えるかららしい。イッシュ地方なのに生息していないリザードンが使われているのはこれ如何に、と思わなくもない。

 

 

『あ、羽だ』

 

 橋を渡っていると、キラリと上空から舞い落ちてきた物体に目が向く。

 イッシュの橋では良くある事象なのだが、上空から羽が落ちてくることがある。そして、それを拾おうとすると結構な確率でコアルヒーやスワンナと激突する。落ちた羽を追い掛けて来たのか、縄張りに入られたから怒っているのかは不明だが。

 

 当然オレも羽に手を伸ばした矢先にコアルヒーに激突され、そのまま襲いかかってきたので捕獲することにした。

 

『じゃ、クイックボール…っと!』

 

 オレも毎回毎回律儀にバトルをする訳では無い。楽を出来る場面なら楽をさせてもらう。

 今投げたクイックボールはバトルの始まりと同時に投げることで真価を発揮するボールで、瞬間的な捕獲のしやすさなら一般トレーナー向けで最高品質であるハイパーボールを優に上回る。そのハイパーボールもジムバッジを5つ持っていないと売って貰えないのだが。

 

『売って貰えても買う気は無いんだけどね……よし、行こっと』

 

 チラつくハイパーボールの値段を思考から除き、橋の残り半分を行く。途中、何処からかリザードンの鳴き声が聞こえた気がしたのだが─────まあ、気の所為だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒウンシティを大都会、ライモンシティを娯楽都市とするならば、ホドモエシティは交易港と呼ぶのが正しいだろう。

 港から入ってきた品はホドモエマーケットで取引され、また港から出ていきイッシュの各地へと運ばれていく。正にイッシュ地方の海の玄関と言える。

 

『変わった様子は……なさそう?』

 

 街の空気も至って穏やか、怪しい人影や不審な物体等も見受けられない。とりあえずはいつも通りのホドモエシティと見ていいだろう。

 何も無い事を安堵すると同時にまた接敵出来なかったと歯痒い思いが心に滲む。いい加減下っ端の1人くらい見かけてもいいと思うのだが、見事にオレの前には現れてくれない。

 

『うーん、ヤーコンさんに色々聞いてみるかな……』

 

 ここは当事者に尋ねるのが1番手っ取り早いだろう。騒動の後プラズマ団がどうなったのかも気になるし、何故ホドモエシティに居たのかも聞いておきたい。内容次第ではプラズマ団を見つける良い手掛かりになる。

 ただし、ヤーコンが素直に教えてくれるかどうかは明日会ってみないと分からない。いい人ではあるのだが頑固な部分もあり、人によっては滅茶苦茶に恐いと思うかもしれない。

 オレも最後に会ったのはもう5年以上前で、義父と"ネジ山"の調査に赴いた時に所有者であるヤーコンに話を聞きに行った記憶がある。その時は"ちょっと口の悪い人だな"くらいの印象で、特に恐いとも思わなかったが。変に弄れた態度で望まなければ大丈夫だろう、恐らく。

 

『んー、歩き疲れたし早めに休もうかな』

 

 昼から森を駆け回りバトルしてはゲットを繰り返してと、正直もうクタクタだ。今すぐポケモンセンターで休みたいが、義姉への報告だけは済ませておかねばならない。

 

 街の中央にあるポケモンセンターまで歩き、部屋を取りポケモンを預け終えて一息つく。

 受付から呼ばれるまでボーッと天井を眺めていると、

 

『……ライブキャスター?』

 

 滅多に起動しないライブキャスターから着信音が鳴っている。番号を登録しているのは義姉とベルの2人だけだが、どっちからの連絡だろうか。

 

『はい、アララギです』

 

『ハーイ! 元気にしてるショウ?』

 

『…義姉ちゃん? 元気だけど、どうしたの?』

 

 発信主はオレの義姉、アララギ博士だった。オレから図鑑の評価で掛けることはあっても、義姉の方から連絡してくるのは珍しい。

 

『ちょっとショウにお願いがあってね。今どこにいるの?』

 

『ホドモエのポケモンセンターだけど……』

 

 そう言った瞬間、義姉の顔が明るくなる。釣られてオレの顔も明るくなる。

 

『ナイスタイミングね! じゃあまた明日!』

 

『え? ちょ、義姉ちゃん?』

 

 一方的に納得されて通話は切れた。オレはもう慣れたが、義姉のあるあるなのだ。自分の中で物事が解決してしまうと用件を言わずに連絡を終えてしまう。こういう時は、

 

『……もしもし、用件聞いてないんだけど』

 

 即刻掛け直すに限る。

 そうだ、忘れていたが義姉はこういう人だった。大雑把でガサツなところもある立派なポケモン博士だった。

 

『あっ、ゴメンね! 実はね、ショウにボディガードを頼みたいの!』

 

『ボディガード……? 誰かに狙われてるの?』

 

『フフッ、違う違う。調査のボディガード! "電気石の洞穴"の調査をしたいんだけど、わたし一人だと不安だからお願いしたいなーって!』

 

 そういう事かと納得する。

 義姉の研究内容は"ポケモンの起源"。"電気石の洞穴"にしか生息していないポケモンは多く、イッシュ地方に棲む"でんき"タイプや鉱物系のポケモンのルーツを探ると大体ここに行き当たる。

 それに、他でもない義姉の頼みだ。二つ返事で了承しようかと口を開き掛けるも、ある約束(・・・・)が待ったをかける。

 

 思い返すのはライモンシティ。成り行きで観覧車に乗り、告げられた言葉。

 

 ────オレの"素質"────

 

 あの緑髪の青年は、"電気石の洞穴"でその答えを教えてくれると言った。

 何故か分からないが、オレはそこにある気がするのだ。"アララギ・ショウ"が何者なのかを知る大事なピースが。故に、誰にも割って入らせたくない。例え家族であろうとも。

 

『……ゴメン義姉ちゃん、オレやる事あるんだ』

 

『あらら、そう? それならしょうがないか。ショウにもショウの旅があるもんね』

 

 そう言いつつも、義姉の顔には残念そうな表情が浮かんでいた。

 心苦しいのは当然の事、姉弟水入らずの時間を逃した喪失感もオレを苛む。

 

『そうねー……じゃあベルにでもお願いしようかしら…』

 

『ホントごめん。埋め合わせは絶対するから』

 

『あらら、気を使わせちゃった? 大丈夫よ、それよりも旅頑張ってね! 後図鑑もよろしく!』

 

『もちろん。あ、折角だしボックスからデータとポケモン送るね』

 

 喋りながらポケモンセンターの端にあるボックスで今日までの成果と捕まえたポケモンを次々に送る。

 矢張り驚かれたのはケンホロウ。二段階進化の最終進化形態は野生だと中々珍しい様で、義姉も興味を示していた。他には今日捕まえたチラチーノも野生だと余り見かけないらしい。本来"光の石"を使うことで進化するはずのチラチーノが野生で暮らしているのは非常に稀。偶発的に"光の石"に触れたか、あるいは未解明の方法で進化したのか。どちらにせよ、研究者からしてみれば貴重なサンプルデータになっただろう。

 

『それでさ、義姉ちゃんに聞きたいことがあるんだけど』

 

『うんうん何なに?』

 

『笑わないで欲しいんだけど………"めざめるパワー"のタイプって、1匹につき1個だけ(・・・・・・・・・)……だよね?』

 

 自分でも何を言っているのだろうかと思える。

 常識、当然、摂理を、仮にも"ポケモン博士"に大真面目に問うているのだ。

 仮にも"天才"と呼ばれてしまった(・・・・)オレがこんな事を聞くのだから、義姉も困惑気味だ。

 

『…そうだけど……ショウならそれくらい知ってるわよね?』

 

『うん。……一応聞くけどさ、過去に色んなタイプで"めざめるパワー"を使えるポケモンがいたデータとか無いよね?』

 

『うーん、聞いた事無いわね…』

 

 ポケモン博士の義姉でも知らないとなれば、今まで(・・・)そんなポケモンは存在しなかったのだろう。

 世界中で初の事例を目の当たりにした喜ばしい気持ちを感じつつ、イーブイの謎を解く可能性が消えたことへの落胆も滲む。

 

『お父さんにも聞いてみたら?』

 

『それが出来たら苦労しないよ…今どこにいるのか分かんないし』

 

『あらら、ショウにも何処に行くか伝えてないのね。まったくもう、何処をほっつき歩いてるんだか……』

 

 義父の行動はとにかく読めない。

 フィールドワークをしに行ったかと思えばいつの間にか遺跡調査に切り替わったり、"ソウリュウシティ"のシャガに会いにいくと言ったかと思えば"フキヨセシティ"から飛行機をチャートしている時もあった。義父にも考えがあるのは分かるが、せめて一報入れるくらいはして欲しかったものだ。

 

『"ライブキャスター"は…置いていってるわね』

 

『だよね』

 

 そもそも一報入れる手段すら無い時もある、今の様に。

 邪魔だから持っていかないのか普通に忘れて行ったのか。年齢もあるので後者も捨てきれないが、果たして。

 

『………まあ、会った時にでも聞いてみるよ。旅続けてたらその内会えると思うし』

 

『苦労するわね、お互い』

 

 姉弟で笑い合い、少しだけたわいもない話をして通信を切った。電源を切って真っ暗になったライブキャスターの画面を見てほんのり名残惜しさを覚えながらも、とっくに回復を終えているであろうパートナー達を迎えに行く。

 

 受付の呼び出し板を見れば10分前には回復が済んでいたようで、一言謝罪を添えながら5つのボールを受け取った。一つ一つのボールに目を通しながら、最後のゴージャスボールの中にいるイーブイと目が合う。

 ジッとオレを見つめてくるその視線には熱を感じられる。多分、今のイーブイは"ほのお"タイプのエネルギーに引っ張られているのだろう。

 

『ちょっと話そうか、イーブイ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜食とシャワー、及びコンディションチェックを終え、イーブイ以外のポケモン達を部屋に残して外に出る。

 時刻は既に深夜0時を過ぎた。明日の事も考えて手短に用件を済まさねばならない。

 

『義姉ちゃんに聞いたんだけどさ、"めざめるパワー"を色んなタイプで使えるポケモン、キミが初めてっぽいよ』

 

 そう告げられたイーブイの顔は正に花火。徐々に目を輝かせ初め、笑顔が弾けた。跳ねては踊り、回っては鳴く。狂喜乱舞とはこの事だ。

 

『はは…そんなに嬉しかったのか』

 

 釣られて微笑む。オレにはよく分からないが(・・・・・・・・・・・・)、微笑むくらいしか応えようが無かった。

 

 オンリーワン、唯一無二────転じて、孤独(・・)

 この広い世界で、どこを探しても一人っきり。オレにはそれが、あまりにも────寂しく、思えてしまう。転生者(オレ)自身を、重ねてしまう。

 

 願わくば、イーブイがそう感じていないと思いたい。こうやってマイナス面を意識してしまうのは、オレだけでいい。

 

『何でキミにそんな特異性があるのか、いずれ分かると良いんだけど』

 

 くしゃくしゃとイーブイを撫でながら語りかける。気持ち良さそうに鳴く姿を見て、湧き出た不安は杞憂だったと知れた。

 

『ごめんごめん、話したいことはそれだけ。戻ろうイーブイ、明日はジムに挑むよ』

 

 凍てつくような寒さから逃れるべく、ポケモンセンターへと足早に戻る。

 

 一瞬、イーブイが切なげ(・・・)な眼差しでこちらを見ていた────気がした。

 

 

 




こんにちは、お読み頂きありがとうございます

遅れながら、UA8000件感謝致します。まだ読んで下さっている方がいることに感激しております

今後ともよろしくお願いします
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