転生者は創造神の光を見るか?   作:おんのじ

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誤字・脱字等ありましたら教えて下さい。

まだ書いてました。やっと書けるような時間が取れたので、ぼちぼち再開できたらなと考えております。

2年半振りくらいになりますかね。こうやって投稿できたの


17話 予測不可能打破可能

 

 明くる日の午前8時頃、潮の香りを仄かに感じながら目を覚ました。

 まだ少し疲れは残っている気もするが、心身共に休めたと言っていいだろう。これなら十分ジム戦に望めるコンディションだ。

 残る眠気を払いながら歯を磨き朝食の用意を済ませる。ジムの日は量を少し多めに、尚且つ糖分をしっかりと摂るよう心掛けている。

 

『さてみんな、どうやって攻略しようか』

 

 ご飯を口に運びつつ策を練る。

 ホドモエジムは"じめん"タイプのポケモンを扱うトレーナーが多く、ジムリーダーのヤーコンもまた"じめん"タイプのエキスパートである。対してオレ達は相性では(・・・・)有利のフタチマル、有効打の"めざめるパワー"を持つイーブイ、"じめん"タイプ無効のウォーグルと一見強く出られそうな雰囲気はある。

 実際のところそうは上手くいかないのがジムであり、チャレンジャーを悩ませてくれる。フタチマルは"みず"タイプ、"じめん"タイプには効果抜群────なのだが、ガマガルだけは話が別だ。特性"ちょすい"により"みず"タイプは効かない上に体力まで回復されてしまう。イーブイも"めざめるパワー"があると言えど、タイプをコントロール出来ているのか怪しいところもある。ウォーグルはそもそもバトルに出せる状態なのか、出せたとしてもオレに御しきれるのかと懸念材料が残る。

 

『……後、ココドラが出しづらいのもなぁ』

 

 これまで幾度となくジムリーダー戦を突破する要になってくれたココドラがホドモエジムでは相性最悪なのも不安を駆り立てる。今までは控えにココドラがいる、それだけで多少の安心感を得られたものだが、今回はいないものとして考えなくてはならない。

 致命的なのがヤーコンの切り札であるドリュウズに対し、タイプ相性は絶望的、有効打もほとんど無しと天と地がひっくり返っても勝ち目が無いマッチになってしまう。おまけにそっくりそのままガントルにもこれが当てはまってしまい、重量級のパートナー2匹はホドモエだと休んでもらうことになりそうだ。

 

 難易度はこれまでよりも高い。ライモンの時のように不測の事態に助けられる期待は出来ず、ヒウンの時のようにこれといった秘策も思い付かない。純粋に持ち得る手札全てを切り、勝利する以外に道は無い様だ。

 

『よし、じゃ行こうか。5つ目のバッジを貰いに』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……空いてない(・・・・・)?』

 

『申し訳ありませんが……』

 

 意気揚々とジムに乗り込んだオレに受付嬢が放った一言は、気力を削ぐのに十分過ぎる威力だった。動揺が表面化するより先に開いた口を閉じもう一度、確かに事実確認を脳内で行う。

 

 ──ヤーコンのスケジュールが、空いていない。

 

 まさかそのパターンがあるとは、全く予測出来なかった───いや、出来たか。ヤーコンの素性を知っていれば、彼の時間的余裕が無い事くらい脳の隅に可能性として留めておけたはずだ。

 ヤーコンはジムリーダーとは別に副業として鉱山企業の社長を務めている人物でもある。規模的にどちらが副業なのかはさておき、その多忙さはイッシュ地方の全ジムリーダートップと言えるだろう。特に最近はホドモエシティに隣接する大規模施設建設計画のウワサもあり、計画の主導を"鉱山王"とも呼ばれるヤーコンが握っていても何もおかしくはない。

 

『一番早くていつ頃挑めますか?』

 

『少々お待ちを………そうですね…どれだけ早くても4日後の夕方頃になるかと…』

 

 パソコンを叩きながら申し訳なさそうに告げる受付嬢の言葉に呆然としながらも礼を言う。

 

 果たして、どうしたものか。

 今挑めないと分かった以上出直す他ないのだが、4日も待つことになると先に"電気石の洞穴"に向かうのもアリか。オレもあの青年から"素質"の答えを聞きたいし、洞穴内には珍しいポケモンも多く生息している。捕獲に勤しめば頼みを聞けなかった義姉の為にもなり、図鑑完成にも近づける。

 

 取り敢えずはポケモンセンターに戻って空いた日数をどうするか考えるかと、歩き出した時───

 

『おっと客か。悪いな』

 

『あ』

 

 自動ドアのセンサーはオレより先にその男を認識し扉を開いた。

 恰幅の良さ、印象的なテンガロンハット、どこか威圧感を感じる佇まい。過去の記憶や雑誌で見た風貌と全て合致する。この人こそが、ホドモエシティジムリーダー、ヤーコンだ。

 

『ん…? お前、もしかしてアララギ博士の所の倅か?』

 

『お久しぶりです……になるのかな。そうです、カノコタウンから来ましたアララギ・ショウと言います。でも良く分かりましたね、以前ちょっとお会いしただけなのに』

 

『少し前にライモンのカミツレから連絡が来たんでな。"近いうちにアララギ博士の息子がバッジを獲りにくるかも"…ってな。……全く、次から次に若い挑戦者が来やがる』

 

 それでオレを認識してくれたのかと内心で合点がいく。やはりジムリーダー間で印象に残ったトレーナーは、事前に連絡されていると推測出来る。ポケモン博士の息子、なんて特にインパクトのある挑戦者だ。話題位にはなっているのかと少しの嬉しさが湧いてくる。

 最後のぼやきも恐らくトウコとチェレンの事を言っているのだろう。プラズマ団の騒動に巻き込んだのは当のヤーコンだろうが、トレーナーとしての腕前は巻き込んだ事を正解だったと思わせる領域だったと考えられる。その証拠に、ぼやいてこそいたが口角は確かに上を向いていた。

 

『ここに来たって事はオレ様に挑みに来たんだろうが…生憎と多忙の身でな』

 

『さっき受付のお姉さんから聞きました。なので4日後にまた来ます。…じゃあ失礼しますね』

 

 ぺこりと礼をしてヤーコンの脇を通り抜け、今度こそオレに反応した自動ドアが空いた瞬間、後ろから肩を掴まれた。

 

『おっと待ちな』

 

『え? 何かありましたか?』

 

 振り向きざまにキョトンと見つめるオレに対し、ヤーコンはニヤリと笑う。

 

『何も挑戦を受けねぇとは言ってないぞ。 …フン!お前が4日後でいいなら構いやしねぇが…… どうする?ワシの出す条件を呑むならその挑戦、今受けてやっても良いぞ』

 

 その言葉を聞き、意気消沈していたオレの心がドクンと再び熱を得た。

 ツイていると言う他ない。だが、条件とは一体──

 

『えっ…と、その条件を聞いても?』

 

『簡単な事よ。さっきも言った通りワシはしばらく忙しい。だからな、一対一(サシ)で勝負しようじゃねぇか。これなら午後の仕事にも大して支障は出ねぇよ』

 

 それはポケモン協会が定めるルール的に良いのだろうかと考えたが、オレの記憶が確かなら何の問題も無い(・・・・・・・)。ジムリーダーがチャレンジャーにバッジを渡す条件とは、"その実力を認めたかどうか"の一点のみ。極端な話、バトルで無くとも良いのだ(・・・・・・・・・・・・)。それに、他地方ではダブルバトルでチャレンジャーを迎え撃つジムリーダーもいるくらいだ。一対一(サシ)でのバトルでも公式戦として認められるだろう。

 

『……分かりました。その条件、呑みます』

 

『決まりだな。30分後にまた来い。準備して待ってるからよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は午後12時27分。ヤーコンの指定した30分後まで、後10分。

 カチ、コチ、と、時を刻む時計の針がオレの脳を急かす。思いがけない一対一でのジムリーダーとのバトル、今朝纏った策は全て水泡と帰しまた新たに作戦を立ててはいるが、これに意味はあるのだろうか。どこまでいっても結局は、試合開始の合図で現れたポケモンとポケモンの出たとこ勝負。

 ここでアレやコレや考えても仕方ないかと悟り、少し目を閉じてグチャグチャになった思考をリセットしようと試みる。が、

 

『……ダメだ。ああ、ワクワクしちゃうなぁ(・・・・・・・・・・)…!』

 

 待ち受けるのはこれまでと違うシチュエーション、必要となるのはこれまでと違う戦法、不変なのは勝利しバッジを手に入れるという決意のみ。

 思考は止め処なく溢れ、絡まり続ける。しかし不快では無く、逆にこの不自由さが心地よく感じるのだ。つくづくポケモントレーナーという性がこの身に馴染んでいっているのが分かってしまう。

 

 残り8分、ペットボトルの"おいしいみず"をグイと飲み干し、手に一つのモンスターボールを握りしめる。内から伝わるのは全てを懸けたパートナーからの熱と緊張。外から伝えたのはパートナーとしての激励と同じく緊張。混ざって交ざって、互いの心はより強く昂る。

 

『5個目のバッジを獲りに行こう! 勝つぞ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホドモエジムのギミックはリフトによる移動、1階受付からどんどん降り、最下層にいるヤーコンの下を目指すというものだ。当然ジムトレーナーもいるので行く手を阻んでくるし、降るのが目的でも時には昇って道を探したり、別のリフトに乗り換える必要もある。

 

 ただ、今回に関してはその全ての仕掛けもジムトレーナーとのバトルもスキップされる様で、受付嬢曰くヤーコンの指示だそうだ。とにかく時間が押しているらしく、リフトを非常用モードにしてあるので一気に最下層まで行けるようになってるいるとのこと。ジムのギミックはいわば力不足を弾く篩の役割であり、オレはその必要が無いと判断されたのだろう。

 

 そして何事も無くパートナーとボール越しに語らいながらゆっくりとリフトで降り、今こうして30と数分ぶりにヤーコンと相対している訳なのだが。

 

『だけど良かったんですかヤーコンさん。他にもジムに挑みたい人とかいたんじゃ…』

 

『いねぇよ。立て続けに来るチャレンジャーはお前で最後だ。そもそもこうやって時間を空けられたのも偶然よ。ワシがジムに忘れ物をしてなけりゃしっかり4日待って貰ったからな』

 

『…ありがとうございます。このバトル、大事にします』

 

 深く頭を下げて、定位置へと歩き出す。こうやってスタンバイするのも5回目になるが、毎回違うタイプの緊張感がオレを覆ってくる。今回は───例えるなら、どこまでも広がる荒野にポツンと立たされているような、そんな緊張感だ。

 

『ところでアララギ博士の倅よ、お前バッジは今何個持ってるんだ?』

 

『え? 今は4個持ってますけど…』

 

 フィールドの反対からの問いに答え──少し、警戒色を強める。もうこの状況がイレギュラーだと言うのに、多分、まだ重なる(・・・)。

 

 若干悪辣な笑みを浮かべるヤーコンが審判に目線をやると、呼応して旗が上がり試合開始の宣言が為された。

 

『……行くぞ!フタチマル!』

 

 投げ出されたボールから現れたのはフタチマル。このジムチャレンジを共に戦い切ると決めたパートナーは彼だ。

 タイプ相性の良さは勿論、選んだ最大の理由はオレのチームでは最もバランスの取れたポケモンであるという事。バトル中に起こりうるいかなる事態でも、フタチマルならば対応出来るとオレは考えたのだ。いざとなれば"げきりゅう"による爆発力で押し切る強硬策も奥の手として控えており、順当な選出だろう。

 

『お手並み拝見と行こうか、なあワルビアル(・・・・・)!』

 

 ズシンとフィールドに現れたのはメグロコの最終進化であるワルビアル。進化前とは違い身体は赤くなり、ワルビルの時よりも段違いの咬合力と凶暴性を持つ通称"砂のギャング"。

 

 いやそんな事は置いておいて────

 

『ワルビアル……!? ドリュウズでもガマガルでも無いのか…!?』

 

『コイツは本来バッジを5個持ってるトレーナーに出す切り札のポケモンよ! 無い時間作ってチャレンジ受けてんだからこれくらいの壁、乗り越えて見せな!!』

 

 オレの適正レベルに合わせるならエースのドリュウズかタイプ相性のセオリーの裏を掻くガマガルだと思ったが、意地悪な大人だ。

 いきなり想定外の事態に狼狽えたのも束の間、バトルは既に始まっている。切り替えて先手を取ろうとし、

 

『やれいワルビアル!"すなじごく"!』

 

 敢え無くヤーコンにファーストアタックは取られてしまった。

 フタチマルの足元が渦状に歪むのを見て直ぐ様回避の指示を出す。跳躍した5秒ほど後、フタチマルが元いた場所は流砂となって"すなじごく"を形成した。問題なのはこの"すなじごく"、しばらく残り続けるという事。動きに制限が掛かる上に万が一嵌ってしまえば持続的なダメージと制限どころか身動き一つ取れない文字通りの"地獄"を味わう羽目になる。

 

『アレの近くで戦うのはマズいか。フタチマル"アクアジェット"で突っ込め!』

 

 力を込め己が身を水流と成し、フタチマルは最高速度でワルビアルとの距離を詰める。いかに視力の良いワルビアルでも、加速しきったフタチマルのスピードを捕捉するのは至難の業。加えてライモンジムで立体的機動方法を完全にモノにしたフタチマルは自らの意思で、縦横無尽に駆け巡る予測不可能な軌道を描きワルビアルへと迫る。

 

『ほう! 接近戦でくるか! なら"かみくだいて"やれワルビアル!』

 

 そんな動きに付き合ってられるかと、ワルビアルが取った姿勢は"待機"。元々獲物を捕らえるためなら砂漠で耐えるのも苦にもしない忍耐力を持っており、しかし眼球だけは身体と反してフタチマルの残影と"アクアジェット"の流れを確かに追い続けていた。 

 ここが機とワルビアルの斜め後ろに回り込んだフタチマルが仕掛け、ワルビアルもそれに反応して巨大な顎をガバりと開く。

 

『ここだ!"みずのはどう"!』

 

 推進力はそのまま"アクアジェット"の水流を転換して手の内に集め、"みずのはどう"として撃ち出す。加えて"みずのはどう"がもつ技の威力により"アクアジェット"の推進力を相殺し、上手い具合に"かみくだく"の射程距離よりも遠くからの攻撃となった。

 迎撃態勢のワルビアルがこれを感知したのは直撃のコンマ数秒前。避けきれるはずもなく、奇襲の一撃は確かに相手の体力を奪ったのだ。

 

『やるじゃねぇか! だがその程度でワルビアルを倒せると思うなよ!』

 

 ブルブルと身体を震わせ仕切り直すワルビアル。"効果バツグン"の技を受けたのにその程度のリアクションで済んでいるのは流石ジムリーダーの切り札と言うべきか。最終進化のスペックの高さとそこらのトレーナーとは別格の鍛えられ方が相まって、本当に倒せるのかと不安が過りそうになる。

 

『格上相手にそんな事思ってませんよ…! "おんがえし"で切り込め!』

 

『"じならし"だワルビアル!』

 

 フタチマルが再び駆け出すと同時に、大地を踏み鳴らし咆哮するワルビアル。地を伝わる振動は勢いを殺し、初速を大きく鈍らせフタチマルの"すばやさ"を奪い去る。

 ガクリと膝を付きながらももう一度技の決行を試みるフタチマルだが、

 

『マズッ…!? ガードするんだ!』

 

『悪いが容赦はしねぇぞ。 "かみくだく"!』

 

 紅い巨顎はそれを阻む。

 一度逃がした獲物を安々と諦めるほど、"砂のギャング"は優しくなかった。大きな隙を見せたフタチマルを正面から堂々と"かみくだき"、ガードすら貫き"ぼうぎょ"を下げる。

 

 ダメージに呻きながらもフタチマルはワルビアルを振り払い、なんとか距離をとるも今の一撃は相当重かった。次同じ攻撃を貰えば待っているのは敗北、その二文字だ。

 

『"すなじごく"に気を取られ過ぎたか… ごめんフタチマル、少し焦った』

 

 こちらを見ることはなく、フタチマルは静かに頷いた。

 反省も謝罪も今は不要。バトルに全集中力を注ぎ込まねば、あのワルビアルを超えてジムバッジは手に出来ない。

 

『よし…"みずのはどう"連射! とにかくワルビアルにもフィールドにも撃ちまくれ!』

 

『何考えてんだか知らねぇが小賢しいな! "ドラゴンクロー"で引き裂け!』

 

 水のエネルギーを集めるまでの速度を大幅に上げ、無我夢中で"みずのはどう"を放つ。いくつかはワルビアルを掠め"ドラゴンクロー"での対処を要求させたが、ほとんどは地面へと着弾し消えていく。

 

 弾幕の中を"ドラゴンクロー"で切り開きながら向かってくるワルビアル。応えるように"アクアジェット"の姿勢で身構え、

 

『何!? どうしたワルビアル!』

 

 突然ワルビアル体勢を崩した(・・・・・・)のを見て、フタチマルは即座に"アクアジェット"を発動する。

 

『チッ…地面が泥濘んでやがる! これが狙いか?!』

 

『上手く行ったか! フタチマル畳み掛けるよ!』

 

 先程の"みずのはどう"はワルビアルを狙ったのではなく、足下の地面を狙ったもの。牽制も兼ねた一瞬の隙を作り出すための布石だ。

 やはりフタチマルの本分は接近戦にこそある。例えパワーでは劣ろうとも、持ち前の体術と反射神経、そして作り出した好機さえ掴めばワルビアルを打倒出来るとオレは踏んだのだ。

 

『"おんがえし"! いけぇッ!!』

 

『ぬぅぅ!! 立てワルビアル! "ドラゴンクロー"!』

 

 竜爪と貝太刀がぶつかり合い、耳を劈く異音が最下層全体に反響する。

 鬼気迫る表情のヤーコンがワルビアルの底力を奮い立たせ、嘘のようなパワーで乾坤一擲の"おんがえし"をガードしてみせたのだ。

 まさかここまで準備して、それでも攻撃が防がれてしまうとは。いよいよ敗北がすぐ背後から手を引いて来ているのが、嫌でも分かってきてしまう。それでもここで引くわけにはいかない。今掴みかけた勝機を、届かないからと諦めはしない。

 

『くっ…負けるなフタチマル!』

 

『フン! パワーでワルビアルに勝てるもんかよ! このまま押し切っちまえ!』

 

 ヤーコンの言う通り、フタチマルとワルビアルが純粋にパワーを比べたところでフタチマルの勝ち目は無い。最終進化と一段階進化のポケモンではそれほどまでに差があるのだ。特にまだ成長の余地を残しているフタチマルはそれが顕著。まだ先があるとしても、今足りなければ意味が無い。それを嫌という程実感してしまっているのが現在のフタチマルだろう。歯痒い想いが技のキレや振り方からも伝わってきてしまう。

 

 薙いだ爪を掌底で捌き、返しの太刀を爪が弾く。互いに致命傷は避けつつ、しかしどの攻撃も有効打になり得ない。が、それで優勢なのはワルビアル。一見互角の競り合いに見えても、着実にフタチマルが押されてきており、少しずつ、ほんの少しずつ後退してしまっていた。

 

『気付いてるかアララギ博士の倅よ! そっちに何(・)があるか!』

 

『…分かってますよ…! もう退けない事は!』

 

 揺れる砂塵、渦巻く大地。

 そう、フタチマルがあと約5メートル後退してしまえば、そこに待ち受けているのは────

 

『後ろは"すなじごく"だフタチマル! 絶対負けるな!』

 

 正真正銘、この"すなじごく"までの距離こそが生命線。これを越えることは即ち、ジムチャレンジの終了を意味する。

 しかし状況は悪化する一方。フタチマルから青色のオーラが立ち昇るのを見て、遂に"げきりゅう"の発動ラインまで体力が減ってしまったのを察する。が、"みずのはどう"は動作を完了する時間が足りず、"アクアジェット"は今一つ決め手に欠ける。

 逆転の一手こそ手札にあるが、そもそも今使える"みず"タイプの技を使えば即座にワルビアルの"ドラゴンクロー"が当たって、それで終わりだ。

 

『くっ…! フタチマル、やっぱりやらざるを得ない(・・・・・・・・)みたいだ。ゴメン…!』

 

 ────賭けるしかない。

 

 実は、もう一つだけとっておき───と言っても余りにもフタチマル任せだが───の技がある。ジム戦が始まる前、リフトで降りてくる時にフタチマルと話していた作戦。本当に後が無くなって、オレが打開する策を閃けなかった時は頼むと伝えた無茶振りだ。

 

 コクリと、覚悟を決めたフタチマルが力強く頷く。

 自分の不甲斐なさやまだまだ経験が足りない不足を悔やむのは後にして、オレに出来ることをするしかない。

 

 "すなじごく"まで残り2メートル、時は来た。

 

『今だフタチマル! いけぇッ!』

 

『もう遅い! "かみくだく"だワルビアル!』

 

 指示を出したその時、拳を振りかざしたフタチマルは攻撃に転じることなく倒れ込んだ。否、倒れ込んでしまった。

 完全にスタミナ切れだ。持てる全ての力を一進一退の攻防に費やしたフタチマルには、もうここから巻き返す力は残っていなかった。

 

『……ッ!』

 

 そして無慈悲にもワルビアルの巨顎はフタチマルの胴体を喰らい、ダラリと力無くされるがままなのを確認してフィールドに離した。

 倒れ伏したフタチマルは全く動かず、弱々しくなっていく"げきりゅう"のオーラをオレは見ているしか出来ない。

 

 惜しむようなヤーコンの視線はフタチマルから審判の方へと向き、ジャッジの合図を伝えようとしたその時────

 

 

 

 ────なにか、鈍い音がした(・・・・・・・・・・・・)。

 

 

 

 衝撃の光景にヤーコンは目を丸くし、オレは複雑な思いで笑みを浮かべる。

 

『……な、にぃ…!?』

 

『………』

 

 確かに、もう立てるはずの気力も体力も残ってはいなかった。勝負は決着し、ジムチャレンジは終わりを迎えたはずだった。

 けれど、最後の一絞りだけ───限界を超えたその先があるのなら。パートナー(フタチマル)はパートナー(オレ)を"悲しませまいと持ち堪えた"のだ。

 

 倒れていたのはフタチマル。立っていたのはワルビアル。"かみくだく"が決まってからの数秒間の間に、この事実は逆転した。

 

 "リベンジ"。これがオレとフタチマルが最終手段として伏せていたカードだ。

 本来なら仮想敵のドリュウズ相手に遠距離主体で立ち回って、やむなく接近戦に持ち込まれ、尚且つ押し切られると判断した時に使う予定だった反撃の一手。結果としてドリュウズにもワルビアルにも"効果バツグン"の有効打に成り得たが。ガマガルだった場合はそもそもパワー負けしないと踏んでいたので、"おんがえし"の接近戦主体で十分通用すると判断していた。

 

 そのままだったワルビアルを地面に落とし、完全に体力を奪い切り目を回しているのをボロボロのフタチマルと審判が確認し、判定は下った。

 

『ありがとうフタチマル。いつも無理させちゃってるね』

 

 "気にするな"、そう笑ってみせた気がするフタチマルをボールに戻してフィールドの中央へと駆け寄る。

 

『フン! オレ様とした事が油断しちまったかね。ここまで高い壁用意しといて、負けてちゃ恥ずかしいったらありゃしねぇ』

 

『いえ、良い教訓になりました。不測の事態を予測する事、これから先のジム戦でも心掛けます』

 

『ハッハッハ! 危なっかしい作戦で来やがった癖に、随分とお利口さんなこと言いやがる! ほらよ、"クエイクバッジ"だ持ってけ!』

 

 放られたバッジを受け止めケースへとしまう。これで5個目、後半戦のスタートは辛勝と言ったところか。残りの3つも苦戦は強いられるだろうが、今日ほどのイレギュラーは起こらないと信じたい。

 

『そういや名前聞いて無かったな』

 

『ショウです。アララギ・ショウ。昔少しだけあった事あるんですけど、覚えてないですか?』

 

『……ふむ、何年か前にアララギ博士が子供連れて"ネジ山"に来たな…おお、あの時の子供か!』

 

 やはり忘れられていたかと肩を落とす。ジム戦前に"お久しぶりです"と言っても応える返答が無かった時点で薄々察してはいたが。

 1回会っただけ、それも義父のおまけで居たオレを覚えているはずもないのは当然か。

 

『ところでショウよ、お前明日時間あるか?』

 

『15時までには"電気石の洞穴"に向かうつもりです。それまでで良ければ』

 

『なら明日の朝10時にまたジムに来な。詳細はそん時に話す……なぁに、昼頃には解放してやるよ』

 

 そういうことならと二つ返事で承諾し、帰りのリフトへ乗り込む。

 ヤーコン程の人物がオレに用があるとは、義父や義姉絡みの事柄だろうか。何にせよ、それもまた貴重な体験になることだろう。緑髪の青年との約束こそ遅れてしまうが、厳密な時刻を約した訳でも無し。問題無いと考えよう。

 

 まずフタチマルの回復と他のパートナー達のメディカルチェックも兼ねて、ポケモンセンターに行かねばとホドモエジムを後にする。手に入れた"クエイクバッジ"を眺めれば今日のバトルを鮮明に思い出せるだろう。こんなにも手に汗握ったバトルは、初めてだったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふぅ、良い風だなー…』

 

 大変お疲れの一匹と元気が有り余っている四匹をポケモンセンターに預け、オレは一人"ホドモエの跳ね橋"まで戻って来ていた。ここは景色が良い。鳥ポケモンが優雅に飛んでいる姿や海面が陽光を反射して煌めいているのをみるとワクワクしてしまう。いつか"なみのり"や"ダイビング"の技マシンを自宅に取りに帰って、海も探検してみたいものだ。

 

『どうやって取りに帰るかだけど……"そらをとぶ"しかないよな…』

 

 その"そらをとぶ"の技マシンも自宅の部屋で眠っているのだが。そろそろ各種秘伝技を使えるようにしておかないと、行きたいところにも行けなくなってしまう。

 問題はどうやって家まで帰るかになる。ここから自転車で帰ろうにも中々の距離がある上、またここまで戻って来るのは精神的にも肉体的にもしんどい。何か一発で解決する方法でもあれば良いのだが、そんなものはどこにも無い。

 

『ま、自転車漕ぐのは覚悟しておこう』

 

 そろそろポケモン達の回復も終わった頃かと、ホドモエシティ側に戻ろうとして、

 

『おや、アナタはもしや…アララギ博士の息子では?』

 

 後ろから掛けられた声に驚いて────いや、それだけじゃない。オレの中の何かが、一瞬で警戒反応(・・・・)を示したのだ。

 思わず距離を取って振り向くと、そこにいたのは不気味な模様のローブを纏った男だった。空いた距離を一歩詰めて、男は続ける。

 

『失礼、ワタクシ──ゲーチス(・・・・)と申します』

 

 

 

 





こんにちは、お読み頂きありがとうございます。

UA9000件感謝致します。こんな調子ですが、読んでくれている人がいることを忘れずに努めて参ります


まだお付き合い頂けるようでしたら、今後ともよろしくお願いします
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