そのうち出てくるゲーム主人公の性別をどっちにしようか迷う。どっちでもいいんだけど。
デントに「ちかすいみゃくのあな」の問題は解決したと伝えたオレは、次のジムがあるシッポウシティを目指して3番道路を歩いていた。
挑んでくるトレーナーは返り討ちにし、強いポケモンが出てきやすい濃い色の草むらでは図鑑に登録されていないポケモンを捕獲していく。と言ってもここで見つけたのはシママとマメパトの2匹だけなのだが。
日はまだ暮れそうになく、思う存分オレとパートナー達は特訓に精を出していったのだった。
☆
シッポウシティ、ポケモンセンターの一室。
ヘトヘトになるまで3番道路と「ちかすいみゃくのあな」を往復して特訓したオレ達はコロモリが飛び始めたのを見てシッポウシティまで走り、なんとか空いていた部屋で休んでいる今に至る。
それにしても、とオレの顔はニヤけが止まらなかった。
ミジュマルはフタチマルに進化して、イーブイは"スピードスター"という遠距離技も覚え、新しい仲間も増えた。幸せだと心の底から思う。そしてトレーナーになって良かったとも。
いつもより奮発して高くついた夕飯を食べ終え、ベッドに横たわる。いつもの事だがポケモン達も一緒に。ココドラとダンゴロは少し体重がアレなので床だが。
そろそろ寝るかと、明かりを消し毛布を被ろうとすると─────
ズドン、と遠くで異音がした。
微かにオレと聴覚には自信アリなイーブイには聞こえたようだが、他のポケモンは余程疲れていたのか驚くべき速さで夢の中だ。
異音の正体は気になるが眠気には勝てそうもなく、オレもまた眠りに落ちていった。
☆
翌日、本当ならジム戦に挑もうと思っていたのだが、昨日の爆発音にも似た何かが気になってしょうがないオレはその好奇心を優先させることにした。
場所の見当は大方ついており、ヤグルマの森・外部のどこかだと思われる。内部で何か起こっても木々や葉が音を吸収してしまうから、音がした方角と予測から
『アレはドッコラーと……ナゲキとダゲキ?』
巨大な岩の前で睨みを効かせ合うきんこつポケモンドッコラーに、じゅうどうポケモンナゲキとからてポケモンダゲキ。
『昨日のはアイツらが岩殴ってた音か……夜にやるなよな……』
一応物陰に隠れながら様子を窺う。
どうしようかとボールから出ていたイーブイにアイコンタクトするも、「知らね」と興味なさげにそっぽを向かれた。
『関わる気ナシですかイーブイ君。……ん?なんだ?』
何か言い争っているのか、ギャンギャン騒いでいるのが聞こえた─────かと思えばこちらに接近してくる。
どうやら隠れているのはお見通しだったらしい。"かくとう"タイプは武人気質な事が多いから気配には敏感なのだろうか。
取り込み中の邪魔をしてしまった報いでも受けさせられるのかと思いきや、サッと臨戦態勢を取る3匹。ご所望なのはバトルのようだ。
『3匹同時……ってことは"トリプルバトル"か。…ふーん……よし、やってやるよ!』
イッシュでは近年普及してきたリーグ公認ルールの1つ、"トリプルバトル"。"ダブルバトル"と感覚は似ており、出すポケモンが2匹から3匹に変わっただけだが、1匹増えるだけで考える事は増大し、より奥深いバトルが楽しめる─────らしい。
「らしい」と"トリプルバトル"について言いきれないのは、オレ自身"トリプルバトル"を
『3匹……3匹か…うーん……』
相手は全員"かくとう"タイプ。フタチマルは確定選出として、問題は後2匹だ。なんと残りは全員"かくとう"タイプが
腹を括り、フタチマルとダンゴロを繰り出しイーブイを前に出す。
作戦は2匹でフタチマルの全力援護、これしかなかった。数的有利を取られたらマズイと考えたからだが、オレにはこれが良策なのか判別出来ないのが煩わしい。
『先ずは先手をとる!フタチマル"シェルブレード"!イーブイとダンゴロは"スピードスター"と"うちおとす"で援護に回って!』
指示が出るや否や切り込みにかかるフタチマル。その後ろからは星型のエネルギー弾と速度が乗った岩石弾が後を追う。
が、"シェルブレード"はドッコラーの角材が受け止め、"スピードスター"はダゲキの"にどげり"ラッシュ、"うちおとす"はナゲキが体を張った"がまん"で受け止める見事な防御連携で完璧に防がれてしまった。
さらに3匹の射程距離にフタチマルはいる。これが意味するのは、"かくとう"タイプの強烈な武技の嵐だ。
『マズ……ッ! イーブイ"すなかけ"!ダンゴロは"どろかけ"で離脱の隙を!』
攻撃の構えをとったダゲキとドッコラーの目を砂と泥が潰し、フタチマルは間一髪射程外へ逃げる。
────難しい。"トリプルバトル"、今の攻防だけでも難易度の高さが分かる。さらに相手がトレーナーでないため、考えを読んだり攻撃のパターン化がしにくいのも拍車をかける。
そしてもう1つの発見。それは、フタチマルが倒れた時点でこちらの
ポケモンバトルにおいてタイプ相性は最も重要な要素であり、これをひっくり返すのは至難の業だ。それを理解した上で厳しい言葉を言うのなら、フタチマル抜きでイーブイ達があの3匹に勝てる見込みは
近距離は不利と見て遠距離技で攻め立てたいが、間違いなく"がまん"を続けその力を解き放つ瞬間を待ちわびるナゲキの糧になる。
『ならナゲキ以外を狙うだけだ!フタチマル"おんがえし"!2匹はサポート!』
再びフタチマルが攻撃を仕掛け、イーブイとダンゴロが支援する形に入る。フタチマルのターゲットはダゲキ。ドッコラーのように獲物を持っていないなら、と考えたからである。
サポートの"スピードスター"と"ロックブラスト"はドッコラーの"いわおとし"による岩でガードされたが、フタチマルの道は作れた。
"おんがえし"の一撃とダゲキの"ローキック"が激突し、お互いに弾かれる。間髪入れず"シェルブレード"で追い討ちをかけるが、
『何ぃ……!?フタチマルストップ!』
そこに立ち塞がったのは"がまん"状態のナゲキ。
"シェルブレード"を地面に叩きつけ威力を殺し、すんでのところで攻撃を不発に終わらせた。
もし攻撃していればと考えると恐ろしい。敗北へのルートがあまりにも多すぎる、と笑いすらどこからか出てくる。
1粒の汗が額を流れ、悟る。策を練らなければ勝てないと。なら練るのみ。"
──────スーッと思考が澄み渡る。冬の空気は頭を落ち着かせるのに持ってこいだ。
『やれる、な。』
野生のポケモンだからといって、どこか侮っていた節があるのは否定できない。しかしたった今、そんな甘い考えは捨てた。ジムリーダーと対峙した時同様、本気でバトルにオレは臨む。
『イーブイ……"ふるいたてる"!』
自らを奮い立たせ、攻撃と特攻をあげる技"ふるいたてる"。サンヨウジムで見た技だ。
ジムリーダーに勝利した証に渡されるのはジムバッジともう1つ、技マシンがある。サンヨウジムの技マシンに記録されていたのは、今イーブイが使った"ふるいたてる"だったのだ。
『まだだ!もっと"ふるいたたせろ"!』
不穏な空気を察知したのか、今度はダゲキとドッコラーがイーブイを倒すべく動く。片や"ローキック"で足を狙い、片や"けたぐり"で胴を狙う。
そこに現れるのは、オレが信頼する青いモノノフ─────
『悪いなフタチマル、だけどお前しかいないんだ。』
オレの詫びに、フタチマルは頼もしく笑って応える。
ホタチを両手に構え、反応出来る攻撃を"シェルブレード"二刀流で捌き受け流す。
『ダンゴロ、お前にもやってもらうぞ。
一瞬固まったダンゴロだが、指示を信じて"うちおとす"を放つ。
避ける気もないナゲキにはしっかり命中し、完全に"がまん"しきった巨漢が動き出す。貰った攻撃を何倍もの力に変え、ダンゴロに向けて拳が振り下ろされる。
それでも、ダンゴロは
直撃。
確かにナゲキの拳はダンゴロを捉えた。
────が、驚愕の表情を見せたのはナゲキの方だった。
『硬いだろ?ウチのダンゴロは"がんじょう"だからな。硬くて当然だとも。』
してやったり、とダンゴロとオレはニヤッとする。
特性"がんじょう"。どんなに強力な攻撃でも、体力が満タンなら踏みとどまり耐える特性。これを持ってダンゴロはナゲキの重撃を耐えて見せたのだ。
『まだ終わらないよ! さぁ行ってこい!』
"ふるいたてる"を終え、十二分に攻撃と特攻を高めたオレのパートナー、イーブイ──────
『
ではなく、相性が悪いと控えていたココドラだった。
────"バトンタッチ"。これが入れ替わりの秘密だ。
"ふるいたてた"後、イーブイは3匹の目を盗み"バトンタッチ"でココドラに能力変化を引き継がせ、ボールへと戻ったのだ。
まともに戦えば相性は最悪、しかし一瞬攻撃するだけなら話は変わる。単に攻撃して終了なのだから、戦う必要がない。ダンゴロは1番厄介なナゲキの隙を作ってもらうための囮だ。そして綺麗にかかってくれた。
蓄積されたダメージもあり、攻撃が数段上がったココドラのメタルクローを受けナゲキは倒れた。
一方ダゲキとドッコラーの双方を相手取り、限界が近いフタチマル。そう、
フツフツとフタチマルから湧き上がる水のオーラ。特性"げきりゅう"、その発動の合図だった。
『"みずでっぽう"!』
より太く、より圧が増した水流は"ハイドロポンプ"と見間違う程の威力となり、ドッコラーの体力を文字通り洗い流した。
残すはダゲキ1匹のみ。どうするかオレが問うも、あちらに引く気は更々ないようだった。
『やっぱ武人か、カッコイイな……でも勝たせてもらうけどね!トドメの"シェルブレード"だ!』
二刀のホタチが青白く発光し、水の力と切れ味の増した二振りでダゲキに切り掛る。
一刀はダゲキの"ローキック"が防ぐも、すぐさま迫る二刀目をまともにくらい、ダゲキも倒れたのだった。
初めての"トリプルバトル"はどうにか勝つことが出来たが、まだまだ経験不足だと痛感する。
『……ふー……勝てたかー……』
☆
パートナー達と戦った3匹に"げんきのかけら"と"すごいキズぐすり"を与え、簡易的な治療を施す。
全員が活気を取り戻したところで、本題に入る。
『で、勝ったから言わせてもらうけど、夜に岩殴んの止めてね!結構うるさいから!』
その割には速攻で眠りに就いたのだが、それは言わない事にした。
3匹も頷き、夜にはやらないと誓ってくれた。これで夜に変な音が鳴ることは無くなると思われる。
なんで岩なんか殴ってたのか、と問うと「試しの岩」は殴ることで「ほしのかけら」が入手出来るらしく、誰が1番大きい「ほしのかけら」をゲットできるのかを競っていたらしい。ちなみに昨日はダゲキが1番だと自慢された。
気が付けばもう空はオレンジに染まっており、とても今からジム戦とは言えずまた明日に延期することを決定し戦友の3匹に別れを告げ、その場を去った。
──────後ろに在った影には気付かぬまま。
☆
『へー、じゃあの3匹有名だったんですか。』
『あぁ、少し前から「試しの岩」で修行するようになったみたいでね。悪いことではないんだけど、やっぱりうるさいからね。収まったのなら良かったよ。』
昔義父に連れられて訪れた、シッポウシティの名店カフェ・ソーコ。ミルクと砂糖がたっぷり入ったアイスコーヒーをストローでグルグル混ぜながら、マスターとの談笑に花を咲かせる。
あの3匹は
どうしてそんなことを、と聞く前に何となく予想がついてしまうのがなんとも腹立たしい。
『プラズマ団関連ですかね、それって。』
『多分ね。数日前に博物館の「ドラゴンのホネ」を強奪しにいって、隠れ場所としてヤグルマの森に潜んでたらしいからね。結局ヒウンシティのジムリーダーとアロエさんに勝ったトレーナーが解決したらしいんだけど、何がしたかったんだろうね。』
さぁ、とアイスコーヒーを飲みながら首を傾げる。
プラズマ団による「ドラゴンのホネ」強奪事件はかなり大きなニュースになっていた。いよいよプラズマ団がろくでもない組織なのが決まってきたが、どこか解せない。
「ドラゴンのホネ」なんて奪って何をするつもりだったのだろうか。他にも貴重な品が山ほどある博物館の中から、なぜ「ドラゴンのホネ」なのだろうか。
『(ドラゴン……"ドラゴン"タイプのポケモンが何か関係してるのか……?)』
そこまで考え、推理を止めた。
判断材料が少な過ぎる。答えを導き出すのは不可能だ。
『……あ、そういえばマスター、そのアーティさんと一緒に解決したトレーナーって誰なの?』
『ん?……あぁ、確かカノコタウン出身のトレーナーだってアロエさんが言ってたよ。名前は……なんだっけな……? あれ、カノコタウンと言えば君と同郷じゃないのかい?』
『同郷って言っても知り合いとは限らないでしょう?』
とは言ったがあの小さい田舎町なら多分知っている人は知っている。義姉なんかは全員知り合いと言ってのけそうだし、オレが異端なだけだ。
それにしてもカノコタウンのトレーナーとは、なんだか無関係のオレまで誇らしくなる。それがシッポウシティジムリーダーのアロエを下せる程となると、尊敬の域にも届くかもしれない。
アロエはイッシュジムリーダーの中でも特に会う機会が多く、あちらもオレをよく可愛がってくれた。これまでは"学者"と"天才"として関わってきたが、次はジムリーダーとジムチャレンジャーとして対するのだ。新鮮な気分である。
ニヤニヤと楽しみに明日のジム戦を想像していると、
『隣りいいかな。』
隣りに誰かが腰掛ける。
見た目はただの青年に見えるが────
逃げるように店を出ようと、立ち上がり─────
『見てたよさっきのバトル。』
『えっ……』
潰される。
「さっきの」と言われると、3匹との"トリプルバトル"ことだろうか。しかし人の気配なんてしなかったのに「見ていた」とは。より警戒心は強まるばかりだ。
『キミは────』
次に続いた言葉の意味が、オレにはさっぱりと分からなかった。
『────
気が付いたらお気に入り件数が二桁になってました、ありがとうございます。飽きるまでよろしくお願いします。
ゲームでもカフェ・ソーコの雰囲気すごい好きだった。