日常(?)回です、バトル無いです。よろしくお願いします。
ジム戦のことで頭がいっぱいで満足にシッポウ博物館を見学出来ていなかったのを思い出し、午前はせっかくなのでゆっくり見て回ろうとオレは博物館を再び訪れていた。
ここには過去の世界に思いを馳せる人、珍しい骨董品や遺物を見て「へー、ほー」とひたすら唸っている人、どこで見つけたのかポケモンの化石を復元にしに来ている人、と3通りのタイプがいる。
オレは多分1番目の人種なのだろうが、過去を思い描くくらいなら"前世"を知りたいと思ってしまう。"転生者"というこの世界での"異物"なら尚更だ。
それはさておき、ぼんやりと目的もなく博物館を彷徨っていると、一際目を引く巨大な化石の前に立っていた。
『……あーこれが例の「ドラゴンのホネ」か……ってかこれはカイリュー……なのか? こんなでっかいドラゴンポケモンが昔にはいたんだな…』
オレの知るカイリューより数倍大きいその化石に、"ドラゴン"ポケモン特有の威圧感が肌をピリピリと刺す。死してなおこれなのだから、生きている時の姿は伝説のポケモンにも匹敵する恐ろしさなのだろう。
これを盗み出すとはプラズマ団とやらも大胆過ぎないかと苦笑いし、次の展示品に歩き出す。
『へぇ、隕石かこれ。……懐かしいなぁ……』
独特の凹凸がある石を見て、思い浮かぶはホウエン地方のトクサネシティ。
カナズミに留学中、休日にトクサネシティの宇宙センターまで遊びに行き、そこで見たのもまた似たような隕石だった。
神秘のエネルギー、と言えば良いのだろうか。ただならぬ力をこの隕石からは感じ取れた。
『えーと次は……』
何気なくその展示品の目の前に立ち───────異変が起こった。
『…………ぁぐッ!?』
ドクン、と心臓が痛いほどに鼓動する。
胸を抑え、フラフラと危うい足取りで近くの椅子に腰掛ける。
息切れが激しく、目眩すら起こってきた。
『ハァ…ハァ……うぐ……ッ……!』
あの展示品は
なんと表現すれば良いのか、オレには分からない。分からないが、強いて言うのであれば────
『(声が……出な……)』
怖い―――あの小さな球体が堪らなく怖いのだ。
異常とも言える不安定な状態で見学の続行は不可能と判断し、博物館を出ようとするが、叶わずその場に倒れ込んでしまう。
『────!────!?』
朦朧とする意識の中、必死に呼びかける見知った影。しかしオレの耳にはその言葉が届かない。
視界が黒に染まって行く────その間際。
『(…
どこかで聞いた単語がふと浮かび上がり、視界は黒に侵食された。
☆
雷は苦手だ、と彼は言う。
心に刻み込まれた恐怖は、そう簡単に消えやしないから。
光は好きだ、と彼は言う。
心に刻み込まれた安息は、そう簡単に消えやしないから。
見果てぬ理想を追い求めた
世界の真実を見ると言った
我らの物語はおわったのだ。しかし我らは共に在る。
我らの物語ははじまったのだ。しかし我らは共に在らず。
願ってしまった愚かな夢。
叶えてしまった愚かな夢。
あの日見た
☆
『……今のは。』
不思議な夢から目を覚まし、何がどうなったのか確認する。
博物館で倒れた事は覚えているが、そこから先の事が何も分からない。
何故か横たわっていたベッドから起き、ボール越しにオレを不安げに見つめていたパートナーに「大丈夫」と一言告げる。
周りを見渡すと、大量の本や資料がギッシリ詰め込まれている棚がいくつもある。
多分ここは、
『ああ!気が付いたかい!』
『……アロエさん。』
アロエの私室だ。
そういえば、倒れる直前声をかけてくれたのはアロエの声だった気がしないでもない。
差し出された「おいしいみず」を貰い、ゆっくりと飲む。
『様子のおかしい客がいるって連絡があったから来てみれば……まさかショウだとはね。大丈夫かい?もう起きて平気なのかい?』
『何とか、ですけどね。』
オレをここまで心配してくれるのは館長としての責務なのか、それとも「ママ」の愛情なのか。どちらにせよ、その気持ちが嬉しいのは照れくさいが認める。
アロエは「旅の疲れが出た」と話を進めているが、それは違うとオレは言いきれる。
黒い球体、あれを見た瞬間オレの身に異変が起こったのだ。プレートの説明には"ただの石"だと書かれていた気がするが、"ただの石"如きでこんな異常事態になるわけが無い。
ここまでオレの心を乱されたのは初めてのことだった。
"驚き"や"恐怖"には滅法強いのがオレの自慢の1つだったが、それを崩す程の黒い球体は一体どんな秘密があるのだろうか。
『アロエさん、博物館に展示してあった黒い球体……アレ何なんですか?』
『アレかい?アレは「リゾートデザート」の奥地、「こだいのしろ」で見つかったシロモノでねえ、なんか綺麗だから飾ってるのさ。』
意外と適当な理由だな、と内心ツッコミを入れる。
ヒウンシティを抜け、4番道路から逸れると「リゾートデザート」の入り口に行けるが、物好きな観光客か修行目的のトレーナーでもなければ基本的に立ち入らない。
何を隠そう、オレが初めて義父とフィールドワークに出掛けたのが「リゾートデザート」であり、「こだいのしろ」も調査しようとしていた。その時は義父に危険だからと諭され終ぞオレが入る事は出来なかったが、そんな秘匿されてきた場所だからこそ、あの石は今まで見つからずに眠っていたのだろうか。
『(でもあそこで
そう、オレ以外の人は普通に博物館を見学していたのだ。たった1人、オレだけがあの石の影響を受けていた。
"転生者"、この世界のイレギュラー。この隠している素性が関係しているのは確実と見ていいだろう。
まずはたかが石。この認識から改めなければならない。ならないのだが、どこまで行ってもたかが石なのだ。
『(いや……だって石だよ? ……うーん、こういう時
こと、「石」に関しては頼れる知人がいる。
語りだしたらマルマインもかくやのスピードで、延々と喋っていられる変わった人なのだが、意外にもトレーナーとしての腕も相当なものであった。今のオレが彼に挑んでも、
オレのココドラも、その人に捕まえ方をレクチャーしてもらって捕まえたのだ。"はがね"タイプにはかなりの拘りがあるらしく、ココドラ1匹捕まえるだけなのに3~4時間ホウエンのムロタウン辺りを連れ回された記憶がある。
いつの間にか出されていたお茶菓子を手に取り、一口頂く。しっとりとした口当たりと甘すぎない菓子に舌づつみを打ちつつ、これまたいつの間にか出されていた紅茶を啜る。完全にお客様扱いなのだが良いのだろうか。
『ああそういえば、ショウに渡したいモノがあったんだよ。ジム戦の後に渡そうと思ってたんだけど、すっかり忘れてたよ。』
『渡したいモノ……ですか? 』
そう言ってアロエは私室の奥の方へスタスタ歩いて行った。
わざマシンなら既に受け取っているが、何を貰えるのだろうか。
────数分後、丁度紅茶を飲み終えたところにアロエとその夫で副館長のキダチが、夫婦愛を見せ付けながら戻ってきた。白と黒の見るからに高そうな自転車を引きながら、だ。
『ほい!自転車だよ!遠慮せずに貰っていきな!』
『ええ……いや……えぇえ……?』
オレが吃るのも仕方ないのだ。
突然、見たところ新品のカッコイイ自転車を「貰っていきな!」、とニッコニコの笑顔で譲られては何か裏があるのではと、失礼ながら勘繰ってしまう。
レジャーグッズには疎いオレでも、この自転車の価値くらいは分かる。たまたま見たカタログが大々的に宣伝してあったのを覚えている。
この自転車はシンオウ地方の"サイクルショップじんりき"が手掛けた最新モデルで、折りたたみ式自転車なのに圧倒的な走行力と、極めつけにパンクしないという技術の粋が集められた1品だ。その値段は十数万とオレが軽々と手を出せる金額では無い。
『ウチの旦那が運動不足解消のために気合い入れて高い自転車を買ったんだけどさ、全ッ然乗らなくてねえ。ま、博物館の運営も忙しくなってきたからしょうがないんだけどね。』
『はは…そういうワケなんだよショウ君。君さえ良かったら、使ってやってくれないかい?このまま乗らずに倉庫に放置される、なんてのも自転車が可哀想だしね。』
『はぁ……分かりました、受け取らせて頂きます……』
恐る恐る手渡された自転車に跨り、ハンドルをしっかり握る。
自転車に乗るのはかなり久しぶりだ。義父と幼い頃練習した思い出が甦る。あまりにも自転車に乗るのが下手くそ過ぎて、いっそポケモンに乗った方が楽なんじゃないかと思いながら励んでいた。
『サマになってるじゃないか!そのままヒウンシティまで突っ走って行きな!』
『……はい! ありがとうございました、アロエさんにキダチさん!』
☆
そして午後、ヤグルマの森・内部。
ルーティーンワークと言わんばかりの要領で、図鑑に登録していないポケモンを片っ端から捕獲していく。
クルミル、フシデ、モンメン、チュリネを約30分で捕まえ、揺れる草むらに飛び込んではタブンネの肩透かしをくらうこと2時間、エルフーンとドレディアをやっと捕獲し、ヤナップ、ヒヤップ、バオップとサンヨウで見た"さるポケモン"達をさらに1時間掛け捕まえたのだった。
ここまでは一見順調に進んでいたのだが─────
『……いやーどうしよっかな。』
自転車をカラカラと押しながら言葉を漏らす。
真っ直ぐ進めばヒウンまでの一本道、脇にそれれば天然の迷路と呼ばれるヤグルマの森。ポケモン捕獲のため意気揚々と迷路に入ったは良いが、案の定オレは迷子になっていた。
薄暗い森は見透しが悪く、日も落ちてきたのかより一層闇は濃くなっていく。
ここから無闇に動き回ればさらに迷いかねないと、オレはある決断をする。
『野宿、しますか。』
旅が始まってから初の野宿である。
フィールドワークで野宿をする機会は何度かあり、野宿には割と慣れている。一つフィールドワークの時との違いを上げるとすると、義父はおらず全て自分で支度をしなければならないということだ。
悪戦苦闘しながらテントを組み立て、ポケモンに手伝って貰いながらカレーを作り始める。
『えーと、野菜は大体……ってコライーブイ君、つまみ食いしない。』
食材に忍び寄っていた前足を制しすんでのところで守りきる。油断も隙もない。
料理なんてこの世界に来てから片手で数えられる程度しかやったことがなく、そんなオレの危なっかしい包丁さばきを見兼ねたのか、
『……おお、ありがとうフタチマル。』
今日も良好な切れ味のホタチを奮い、フタチマルが手馴れた手つきで野菜をカットしていく。料理なんて教えた覚えはないのだが、一体どこで覚えたのやら。
やることを失ったオレはポケモン達と焚き火の下準備に取り掛かる。
と言っても、オレが出来る事は落ち葉と枯れ木を集めていい具合に組むだけなのだが。火自体は先刻捕まえたバオップが起こしてくれる。
『うぅ……寒いな……』
季節は冬、しかも夜となると日によっては気温はマイナスの域にまで達してしまう。暑いのも寒いのも両方苦手なオレにとって、夏と冬は地獄の期間である。少なくともセッカシティにだけは未来永劫住むことは無いと思われる。
ココドラやイーブイと手分けして着火元をかき集め、さっさとテントまで戻ろうと足早に歩いていると、
『あ、これって……』
見事なまでに「苔むした岩」が月光に照らされており、オレの視線を釘付けにした。
その自然が織り成す美しさに惹かれたのもあるが、本命は枝を頭に乗っけて運んでいるオレのパートナー、イーブイについてだ。
イーブイの進化条件の一つに、「苔むした岩」の近くでレベルアップというモノがある。これを満たすと"ノーマル"タイプのイーブイから、"くさ"タイプのリーフィアに成るのだ。
リーフィアは攻撃と防御がよく伸び、次点で素早さがまずまずの伸びを見せる。イーブイが好む接近戦主体の戦い方とリーフィアの特徴は相性が良く、オレも第一候補としてリーフィアを考えていた。
『どうするイーブイ、進化しようと思えば今すぐにでも進化出来るけど。』
しかしイーブイは微妙な表情でこちらをじっと見るだけと、肯定とは受け取れない反応をくれた。
イーブイ自身まだ迷っているのだろう。
進化についてイーブイと相談する機会はあったが、何時もどの進化先を提示しても反応は良くなかった。決してイーブイは進化したくない訳ではなく、進化して自分がどう変わるのかという不安がまだ勝っているのだ。
『そっか、急かしたように聞こえたならゴメンな。焦らなくてもゆっくり決めて行けばいいさ。』
また訪れるかもしれない進化への鍵を尻目にその場を立ち去る。
あまりの暗さにオレの視力は役に立たないが、イーブイの嗅覚を頼りにテントを張った場所へとオレ達は帰還したのだった。
☆
パチパチと音を立て、焚き火は勢いよく燃え盛る。
その上にはカレーが入った鍋が置かれ、スパイスのいい匂いが辺り一帯に広がる。
カレーなんていつ以来だろうか。基本的に携帯食で食事を済ませてきたオレに、大げさな表現だが旅は味覚の大切さも教えてくれた。
料理本を見ながら手順通りに作ったので味に問題はないはずだ。
『後は煮込めば……ん?どうしたフタチマル?』
クイクイと袖を引っ張り、フタチマルが奥の方を指差す。
その先で草むらが蠢いているが敵意は感じられない。多分カレーの匂いに釣られて野生のポケモンがやって来たのだろう。
『よっと……お、フシデか。キミもカレー食べる?量はあるからさ。』
草むらの中から出てきたのはムカデポケモンのフシデ。
やはりカレーの匂いに寄せられてきたらしく、オレの提案に大喜びで乗ってきた。
それを境に、森中のポケモンがコチラの様子を伺いに来たのだ。もれなく全員カレーに釣られて。
「カレー足りるかな」と頭を掻きながら呟き、ここにいるポケモン全てをカレーパーティーにご案内する。
『ははっ、宴だなこれは。』
まるで祭りのようで気分もアガる。
ただ森のポケモン達にカレーを分けていたら自動的に給仕係に就任してしまい、自分のカレーを食べる暇もなくなってしまったのだが。
問題のカレーの味は、良くも悪くも普通の味だった。特別美味しい訳でもないが、みんなで食べるとなぜだか何時もより美味に感じた。
今度カノコに帰ったら、義父と義姉にカレーを振る舞おうかと考えながら次のポケモンにカレーを装う。
『終わり良ければ全て良し、かな。』
そう締めたオレの顔は、間違いなく笑っていたのだろう。
☆
夜も更け、辺りには静寂が満ちる。
数十分に及ぶ宴もお開きになりポケモン達が森に帰っていく中、オレは夜の散歩と洒落こんでいた。珍しくパートナー達はテントに置いてきて、一人きりでの散歩だ。
森の空気は清浄で呼吸しているだけで癒される気がする。事実ヒーリング効果はあるのだが。
小さな池の前まで歩いたところで、近くの切り株に腰掛けて小休止をとる。
水に映る自分の姿を見て、少し気になったことがある。
───"前世"のオレはどんな見た目だったのだろうか、と考えたのだ。
今のオレの容姿に不満は無いし、かと言って超絶美男子でもないが。あえてレベルを表すならば中の上くらいだと思いたい。
話を戻して、"前世"のオレがどんな容姿で、どんな服装で、どんな生活していたのかを想像するのも一興だ。服装は時代にもよるが、容姿や生活は絶対に現世のオレと変わらないと言いきれるのがオレらしい。
また、どんな人間だったのかも知りたい。
例えば─────
正義を謳う先導者、似合わないが逆にありだ。
世紀に名を残した大悪党、これは想像がつかない。
名も無き凡人、十分有り得る―――というかどんな択よりも確率的には1番高い。
万物を灰燼に帰す魔王、最も考えられない。
世界を変える力を持つ英雄、妙にしっくりくるが英雄なんてガラじゃない。
─────などなど。
未知に想像を膨らませるのは楽しい。未知を既知にするのはもっと楽しい。「楽しい」に勝る動機をオレは知らず、だからこそ知りたいのだ、オレはオレが何者なのかを。
そしてオレの未知を解き明かしたなら、オレはその果てにどうなっているのだろうか。
元の世界に戻れるのか、この世界に残るのか、最悪存在ごと消滅する可能性だって0ではない。
けれど、どんな結末を迎えようとも最期に楽しければそれでいいのだ。何せ"転生者"なのだから。
『ま、知れるのはだいぶ先になりそうだけどね。』
切り株から立ち上がり、テントに戻ろうかと来た道を戻り始める。
一歩一歩落ち葉の感触を踏みしめながら歩いていると、一陣の風が吹き抜けた。
良い風だった。胸の内をスっと抜けていくような、爽やかな緑風だ。爽やかさの裏に
『……いずれまた、だね。』
ヤグルマの森に伝わる伝説を記憶から引っ張り出し、オレはまた歩き出す。
初めて感想貰ったんですけど嬉しいですねやっぱり。
結構励みになります。
誤字脱字報告も初めて貰って、細かいミスは直さなきゃなと思いましたね。ミスするんですけど。多分この話も誤字脱字あるんだろうな……
それでは。